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第二言語習熟度と日中漢字言語間ストループ効果の関係 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)第二言語習熟度と日中漢字言語間ストループ効果の関係 キーワード:日中漢字,第二言語,ストループ効果,言語習熟度. 行動システム専攻 武 濰揚. 問題と目的 我々は,生来自然に身につける第一言語を別とし. 率が大きくなる現象が確認された。その原理として, Potter et al.(1984)の第一・第二言語の処理過程モデルで. て,学習や経験などの手段を用いて第二言語を習得す. は単語連結仮説と概念媒介仮説 2 つの仮説を提唱した。. ることができる。自在に二言語を切り替えて運用する. 単語連結仮説とは,新しく習得した第二言語の単語は. 二言語併用者は,ある物体や場面に対して連想する内. 直接に第一言語で対応する単語に結びつけるという。. 容は,共通部分がある程度存在するが,共通しない部. 一方,概念媒介仮説とは,第一・第二言語の単語は別々. 分もあると考えられている。ただし,どの部分がどの. に分離し,独立しているが,深層的な概念は共有され. ように共通するか一般化な結果が得られなかったため,. ていると考えられている。また,第二言語の習熟度が. 様々な研究が行われていた。. 上がるにつれて,単語連結段階から概念媒介段階に変. この問題を検証するために言語間ストループ課題 が現れた。本来,ストループ課題(Stroop,1935)は実験参. 化すると考えられる。 齋藤(1997)は,概念表象は初期の言語経験を通して. 加者の第一言語を基に設計されたものである。ストル. 形成され,その核のが形成された後も何らかの言語環. ープ課題とは,参加者にインク色がつく文字が呈示さ. 境の影響を受けつつ修正と調整をしていくという考え. れインクの色を回答するように教示し,インク色と文. 方を示した。新しい経験を積むたびに言語知識と概念. 字の意味が不一致の場合では,一致の場合より反応時. との相互作用によって変化を遂げると想定される。. 間が遅くなる現象である。例えば, 「あお」の色名文字 が「あか」のインクで書かれ,インクの色を回答する. 日中言語間ストループ課題の先行研究 松見&蔡(2007)は,初級日本語学習者を対象に日本. とき,インクの色とは不一致の「あお」の色名文字か. 語-中国語の言語間ストループ課題を実施した。実験. らの干渉を受けるため,単純な「あか」の色パッチを. 参加者は中国語を第一言語とする者であり,結果とし. 答えるより反応時間がかかる。. て,日本語で回答する場合では,中国語刺激より日本. 言語間ストループ課題の先行研究. 語刺激のほうが干渉率が大きいという。第二言語の初. ストループ課題で刺激材料として使われる色文字 も,回答する時に使われる反応語も同一言語の場合, 言語内ストループ課題と呼ばれている。これに対して,. 級習得の段階においても単語と概念を直接に結びつけ ることができるという。 ただし,日本語の中では表音文字の「かな」だけ. 刺激語と反応語が異なる場合では,言語間ストループ. ではなく,中国語と同様に表意文字の「漢字」が存在. 課題である。刺激の言語と反応語が異なる言語にもか. している。苧阪(1990)の研究では,日本語を第一言語と. かわらず,色文字に影響を受け反応時間が遅延するこ. する大学生を対象にストループ課題を行った。実験参. となどがある。つまり,言語間ストループ課題におい. 加者内では第一言語である日本語はもちろん,第一外. てもストループ干渉が生じるという。. 国語の英語は全員習得済み,その以外に英語より習得. Dyer(1971)の研究では,2 言語間の文字・形態の類. 歴が短い第二外国語を持っている。結果としては,日. 似性が高ければ高いほど,ストループ干渉率が大きく. 本語で回答する場合,日本語刺激からの干渉が最も大. なることが明らかになった。また,Mägiste (1984)の研. きい。日本語で回答するとき,他の第二外国語と比べ. 究によると,言語の習熟度が上がれば上がるほど干渉. ると中国語の刺激文字からの干渉率が非常に大きい。.

(2) 苧阪(1990)はこの結果について,中国語は日本語との類. 照群の導入が必要だと考えられている。. 似性が極めて高いため,学習の初級段階でも強い干渉. 本論文では音韻処理過程の影響を排除してマッチ. を起こすと推測した。. ング法のストループ課題を採用した。また,表意文字. 日中言語における色漢字. と表音文字の問題を考慮した上,刺激材料として日中. 日本語のストループ課題を行う際に,使用される. 言語の両方とも漢字を使用した。習熟度の程度を独立. 刺激の色文字は「かな」ではなく,中国語と同様に「漢. 変数として第二言語習得歴なし、初級習得と高級習得 3. 字」を使うことが可能である。しかしながら,同じ色. つの群に分けた。第二言語を習得していない者も実験. に対応する日中漢字は違うところが存在する。その漢. に入れ,反応言語として第二言語を使うと不慣れで戸. 字の違いを表 1 に示している。. 惑いを感じて反応時間に影響を与えるおそれがあるた. 表 1. 差異の種類 同義異字語. 同義異形語. 同義同形語. 対応する日中言語の色漢字. め,本研究では反応言語として第一言語の色漢字だけ 採用した。. 日本語の色漢字. 中国語の色漢字. 赤. 紅. 青. 藍. 本研究では,言語間ストループ課題においても文. 黒. 黑. 化的要因が影響を与えるかどうか対照群の比較を通し. 黄(色). 黃. て検討する。また,日本語(中国語)を第一言語とする中. 緑. 綠. 国語(日本語)の学習者にとって,音韻や意味などの習熟. 白. 白. 度を測定するには比較的に簡単だが,元々第一言語に. 紫. 紫. 存在する漢字の習熟度を測定するのは困難である。仮. 目的. に漢字のストループ干渉率が第二言語(日本語もしくは また,同義異形語とは,同じ色概念に両言語にお. 中国語)の習熟度によって変化する結果が出たら,第二. いて使用される漢字が同じにも関わらず,言語によっ. 言語の漢字習熟度がストループ課題によって測定でき. て字体構造が異なる。一方,同義異字語の場合では,. ることが証明できる。最後の目的は,この研究を通し. 両言語において同じ色概念を表現する時に異なる 2 つ. て日中言語間では第二言語の習得は第一言語の媒介を. の漢字がそれぞれに使用されているが,その 2 つの漢. 要らず,直接に概念表象と連結できると証明すること. 字は意味上にかなり近く,重なる部分が多いという特. である。 方法. 徴がある。ただし, 「赤」と「紅」のような同義異形語 が近い色概念を持つにかかわらず,大きい相違点があ る。それは,各言語における使われている使用度であ. 実験参加者 実験 1 では,全員中国語を第一言語とする者で,. る。例えば,日本語における色漢字の使用度について. 日本語の習熟度によって 3 つの群(習得なし,初級,高. は, 「青」の漢字は「藍」の漢字より「BLUE」という色. 級)に分けられた。実験 2 では,実験参加者は全員日本. を指す際に使用度が高いという。. 語を第一言語とする者で,中国語の習熟度によって 3. 問題. つの群(習得なし,初級,高級)に分けられた。 松見ら(2007)及び苧阪(1990)の研究では,第二言語. 実験材料. の初級習得者のみ実験の対象として扱ったが,異なる. 5 種類の日本語色漢字(赤,青,緑,黄,黒)とそれ. 習得度の学習者は研究の対象に取り入れなかった。異. に対応する 5 種類の中国語色漢字(紅,藍,綠,黃,黑). なる習得度の学習者を同じ実験で検討する必要性があ. と対応する 5 色の色パッチが用いられており,次の 3. ると考えられている。また,すべての言語間・言語内. つの課題で構成されたマッチング方式の課題である。. のストループ研究においては文化的要因がさほど検討. 各課題条件の内容と実施方法は次の通りである。課題. されていない。文化的要因が言語間ストループ課題に. 1(統制条件):色パッチのインク色に対応する右側の 5 種. 影響を与えるかどうか検討するために,同一実験で対. 類の色名語に印をつける。課題 2(日本語漢字ストルー.

(3) プ条件):色・日本語色漢字不一致語のインクの色に対応. く,有意差が見られた(p<.001)。一方,日本語上級学習. する右側の 5 種類の色名語に印をつける。課題 3(中国. 者の群では習得歴なしの群と反対的に,中国語漢字よ. 語漢字ストループ条件):色・中国語色漢字不一致語のイ. り日本語漢字からのストループ干渉が大きく,有意差. ンクの色に対応する右側の 5 種類の色名語に印をつけ. が見られた(p<.05)。この実験の結果を図 1 に示した。 35. 色名語は実験 1 と実験 2 を別々として参加者の第一言. 30. 語に合わせ,その第一言語の色漢字を採用した。各課 題はそれぞれ,A4 用紙 1 枚に 40 試行ずつ 2 列に配置さ れた 80 試行から構成されている。本試行用とは別紙に 練習用問題が各課題 10 問ずつ印刷されていた。 手続き 実験 1 と実験 2 と同様に参加者はすべての課題(計. 平均ストループ干渉率. る。また,すべての課題における右側の 5 種類の反応. 25 20 15 10 5. なし. 初級. 上級. -5 *エラーバー=標準偏差. 素早く正確に試行を遂行するように教示した。各課題 を実施する前に練習問題 10 試行が用意され,10 秒間以. *. 0. 3 課題)を連続して行った。参加者には課題の左側のイ ンク色に対応する右側の色漢字を選択し,できるだけ. ****. 中国漢字干渉率 日本漢字干渉率. 日本語習得度. 図 1.中国語母語話者者の日中漢字ストループ課題実験. 内の回答を求めた。10 秒間の練習問題が終わったら回 答時間が 60 秒間の本試行課題に入り,課題 1(統制条件),. 実験 2. 課題 2(日本語漢字ストループ条件),課題 3(中国語漢. 実験 1 と同様に各条件のストループ干渉率(SI)を算. 字ストループ条件)の順に実験を実施した。カウンター. 出して,その結果を用いて,3(日本語の程度:なし,初. バランスを考慮した上で,半数の参加者は課題 1,課題. 級,上級)×2(色漢字:中国語漢字,日本語漢字)の 2 要. 3,課題 2 の流れで実験を行った。また,課題の中では. 因分散分析を行った。実験の結果では,3 つの群におい. 同じ色名,同じ色が連続に配列しないように工夫され. て日本語漢字課題でも中国語漢字課題でも統制課題の. た。. 正答数より少なかった。つまり,すべての群における 結果. 実験 1. 日中漢字課題は 2 つの課題ともストループ干渉が生じ た。分散分析の結果によると,日本語習熟度条件と日. 実施時間内に達成できた各課題の正答数を指標と. 中色漢字条件の主効果は両方とも有意ではなかった。. した。各課題において達成できた達成数から誤答数の. 相互作用にも有意差が見られなかった。この実験の結. 合計を引いたら正答数となった。そして,各条件のス. 果を図 2 に示した。. トループ干渉率(SI)を算出した。そして,干渉率の結果. 30. 字:中国語漢字,日本語漢字)の 2 要因分散分析を行っ た。実験の結果では,3 つの群において中国語漢字課題 でも日本語漢字課題でも統制課題の正答数より少なか った。つまり,すべての群における日中漢字課題は 2 つの課題ともストループ干渉が生じた。分散分析の結 果によると,日本語習熟度条件と日中色漢字条件の主 効果は両方とも有意ではなかった。ただし,相互作用 に有意差が見られた。日本語習得歴なしの群では,日 本語漢字より中国語漢字からのストループ干渉が大き. 平均ストループ干渉率. を用いて,3(日本語の程度:なし,初級,上級)×2(色漢. 中国漢字干渉率 日本漢字干渉率. 25 20 15 10 5 0 なし. ※エラーバー=標準偏差. 初級. 上級. 中国語習得度. 図 2.日本語母語話者者の日中漢字ストループ課題実験.

(4) 考察. 図 3 が示しているように,第二言語の習熟度によって 実験 1 の結果では,第二言語の習熟度が向上する. その色と文字の概念ノードが変化すると考えられてい. につれて,第二言語からの干渉率が高くなることは,. る。すなわち,異なる第一言語(文化的要因)によって異. 先行研究(Mägiste,1984)と一致している。ただし,実験. なる概念の核が形成され,そして外在的な要因により. 2 では第二言語の習熟度が上がるにもかかわらず,日中. 変化して適応していくと考えられる。. 漢字課題間の干渉率には有意差が見られなかった。そ. 本研究では,今までの言語間ストループ課題の先. の原因の一つとして考えられるのは,文化的要因であ. 行研究では検討されなかった部分について実験を行っ. る。先行研究では,概念表象は言語の初級習得段階に. た。先行研究と違って一つの実験で第二言語の初級・. 核が形成され,その後経験などによって概念表象が適. 上級習得群だけではなく,習得なしの群も今回の実験. 応するために変わっていくという (齋藤,1997)。この. に取り入れた。さらに,第一言語の異なる対照群も実. 観点からすると,中国語を第一言語とする者にとって,. 験の検討対象となった。その結果として,第一言語か. 使用度などの原因で日本語色漢字より中国語色漢字の. ら構成した概念の核が他の言語とは異なり,その文化. ほうがその色の概念に近いと考えられている。しかし,. 的要因がストループ課題に影響を及ぼし干渉率に反映. 日本語の習熟度が上がり日本語を使う環境に適応する. した。すなわち,言語間ストループ課題において同じ. ために日本語色漢字が色概念により近づくこととなっ. 刺激文字を用いた実験でありながら,実験参加者の第. た。これに対して,日本語を第一言語とする者にとっ. 一言語の相違によって異なる結果が出る可能性を示唆. て日本語色漢字と中国語色漢字の概念が近いため,中. した。. 国語の習熟度が上がってもストループ干渉率が変わら ないと考えられている。. しかしながら,この結果を文化的要因で説明する にはさらなる検討が必要である。また,中国語を第一. 実験 2 の文字干渉のストループ課題も,実験 3 の. 言語とする者にとって,日本語の習熟度によって日本. 色干渉の逆ストループ課題も結果が同じということで,. 語漢字からの干渉率が変化するとしたら,情動ストル. この考えを支持した。また,苧阪(1990)の研究では,日. ープ課題にも同じ現象が見られるのではないかと考え. 本人の中国語習得者はすでに習得初級段階で中国語色. られる。文化的要因のさらなる検討と合わせ,本研究. 漢字からの干渉率が極めて高いという結果が出た。た. の発展課題となる。. だし,本研究の実験 3 の結果を見ると,中国語を習得 していない状態においても中国語色漢字が高いため, もともと日中色漢字の概念が近い可能性を示唆してい. 主要引用文献 Dyer, F. N. (1971). Color-naming interference in. る。この観点を概念ノードの関係で説明すると,以下. monolinguals and bilinguals. Journal of Verbal Learning. の図 3 のように示した。. and Verbal Behavior, 10, 297-302. Mägiste, E.(1984) Stroop tasks and dichotic translation: The development of interference patterns in bilinguals. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 10, 304-315. 齋藤洋典(1997).「心的辞書」 松本祐治 他編『岩波講座 言語の科学 3 単語と辞書』 ,93-153. 岩波書店 松見法男・蔡鳳香(2007) 中国語-日本語に生じる言語 内‧言語間ストループ効果の検討―中国語を母語 とする初級の日本語学習者を対象として― 広島 大学大学院教育学研究科紀要 181-186.. 第二部. 第 56 号,.

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