青年期広汎性発達障害者に対する発達援助法としてのロールプレイングに関する研究 −自己、他者の感情理解の視点から− [ PDF
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(2) 思い描いていない」 (#2)など、他者との関係がほとんど. 自分と異なる役割をとることによって、A 男が山田くん. ふれられなかった。これは PDD の人々が有する、想像性の. の役と自分を混同する(#13)といった、役割と自分を. 障害と大きく関係するものと思われる。つまり、イメージ. 混同する場面が生じた。これは、PDD の人々の中核的な問. の難しさや偏りといったことが、ロールプレイングのもつ. 題である、他者の信念を自分のものと区別することの困難. 架空性を受け入れたり、他者とイメージを共有することを. (辻井ら、1991)によるものと言える。このような状況に. 困難にし、関わりが生じにくかったと考えられる。さらに、. 対して援助者は、場面を区切り、設定の確認や役割と自己. 現実的で限定された場面を援助者側から提供する場合、場. をしっかり区別して整理することによって対応した。さら. 面への理解は促されたが、逆に現実から離れることが難し. に、メンバーが演じている役割を意識できるように、援助. く、目の前に起こっていることに対して反応した(#6: 「本. 者が役割関係を明確に設定したり、相手役の補助自我が強. がやぶれたらいけないと思った」 ) 。麻生(1997)は、現実. 調して演じながら引き込む(#20:<(投げられた雪玉. と架空の二重性を意識し、自覚的にふりをするというよう. に対し)いった∼い!>と大声)ことによって、情緒的な. な象徴(表象)能力は、PDD の人々が苦手とすることと述. やりとりを促した。このような援助者側の工夫によって、. べている。ゆえに、日常のパターン化した対応が見られや. メンバーが役割を少しずつとれるようになった。さらに、. すいのではないかと考える。#7から、メンバーからさら. メンバー間で役割を通して関わりが生じるように促した。C. にエピソードを引き出していくように心がけた。彼らのも. 子や F 男が役割をとりながら、積極的に A 男に関わり、A. つイメージや体験をそのまま取り上げることによって、援. 男もそれに応える(#21)といった関わりが生じた。以. 助者に自ら関わる場面もあらわれ(#7、#8:父親役の. 上のことが、彼らの他者の視点への気づき、理解につなが. 監督が疲れているところを手で支える、#10) 、援助者と. るのではないかと思われる。さらに、シェアリングにおい. の関係で徐々にではあるが、やりとりができるようになり、. ても、ひとりのメンバーの味わった不快な感情を他のメン. 彼らの感情が表されるようになった。メンバーにとってイ. バーも一緒に共有しようとしたり(#18) 、 「 (みんなの声. メージしやすかったり、体験したことのあるものであれば、. をきいて)がんばらなきゃいけないと思った」 (#21)と. 他者とのイメージの共有や、役割を演じることが少しずつ. 相手を意識した上での自分の感情が言及された。日常とは. 可能になると考えられる。また、彼らのイメージに援助者. 異なる、新たな役割を演じることによる他者の視点への気. がそうことによって、他者と関わる上での安心感が得られ. づきが、自己、他者への理解を促すことにつながり、共感. たのではないだろうか。そういった安心感が、メンバー同. 性を高めていくことが可能になるのではないだろうか。. 士のやりとりに拡がり(#11、#12) 、援助者との関係 を中心として自己、他者に目が向き始めたと言える。また. Ⅲ.第二研究. メンバーが場面の入れなさや自分のニーズを表しはじめた. 1.目的 対象者の一人を取り上げ、自己、他者の感情理. (#12)ことも、グループが安心できる場として意識さ. 解のあり方と援助者のねらいと対応について検討する。. れつつあると言える。. 2.事例の概要. しかし、起きている事象に目を奪われたり、イメージが. A 男、15歳。アスペルガー症候群。友達としての意. 難しくなると、やはり役割をとれなくなったり、架空性が. 識の乏しさが母親から訴えられる。緊張が強い。自ら関わ. 受け入れられず現実にひきもどされてしまうことがあった。. ることは少なく、淡々とした応答が多い。. 石渡(1998)は、ロールプレイングにおける他者理解を、. 3.セッションの経過と考察. 他者と自己を分化させていくこころの働きが求められると. 事例の参加した全9セッション(表1)を 4 期に分け、. 述べている。PDD 者の役割のとれなさは、自己の内に他者. 自己、他者の感情理解、援助者のねらいと対応を以下の表. の視点を取り入れることが難しいことを表している。ゆえ. 2に整理した。. に、役割を拡げていくことによって、他者の視点に立つこ とが少しずつ可能になり、より自己、他者への理解が促さ れるのではないだろうか。 第Ⅱ期(#13∼#21). 表1 A 男の参加セッション 全体のセッション. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12. A男のセッション. 1. 2. 3. 【グループ内での役割を通して、自己、他者への気づき、 理解を促す】 この時期は、様々な役割を通して自己、他者への気づき、 理解を促すことをねらった。. 13 14 15 16 17 18 19 20 21 6. 7. 8 9. 4 5.
(3) 表2 A 男のセッションにおける変容 A男のセッション経過. 自己、他者の感情理解. 第Ⅰ期 #1: ( 体育祭) 走る行為はするが、クラスメート役の補助自我 決められた役割はとるが、感情は 先生は先生」 ( 現実から離れられない) シェア ・ #1,2 の言動に対して「 リングでは、「 何も思い描いていない」. 表されない。 ・状況を手がかりに他者感情を推. #2: ( 体育祭2) 落ち込んでいる選手役の気持ちに対し「 くやし測 い」 と言及。「 負けたから」 と状況を手がかり。クラスメートとして 声をかけるが、その時の気持ち「 さあ」 と淡々。. →他者の視点に立つことの難しさ. 援助者のねらいと対応 【 自己、他者それぞれの立場、感情を意識さ せる】. ・ 援助者が役割を強調して演じ、状況をナレ ーションで演出する。 ・ 援助者の感情を伝える ・ A男のダブル的存在( 観客役としての発言). 第Ⅱ期 #3: ( 人に助けられたこと) 再現場面で、相手役の言っている 現実の自分にこだわる ( 現実と) 違う」 と役割がとれなくなる。シェアリングで「 変・ #3∼5ことが「 な感じ」. ・ 自分の体験やまわりの動きにそ って、何とか演じようとする. 他者の反応を意識した発言 #5: ( 誕生日の人へのお祝い) まわりにあわせながら、動く。・ 「 空気がおいしい」 と言う。シェアリングでは「 ( 主役の) B 夫くん はよかったんちゃうん」 と言う。. →自己と他者の違いへの気づき 他者の視点に立つことの難しさ. 【 関わりを意識させる】. ・ エピソードによる場面設定 ・ 場面を区切りながら、状況の明確化 ・ 補助自我による状況手がかり ・ A男との関わりの中から生じる感情を伝える. 第Ⅲ期 #6: ( 友達との関係で困ったこと) 山田くん( 架空の人物) がトイ #6,7 レに戻ってくるとイスがないという設定。実際隠されたイスをも ・ 自分と役割が分けられない ってこようとしたり、「 ( トイレに) 行ってない」 と言う。 ・ 強い感情の喚起 ( 混同の整理後) シェアリングで役割上の発言に言及。. #7: ( “ もの” になってみる) イス役で、相手役の八つ当たりの 演技を「 謝って」 と言い、その後「 くそーって思った」 と不機嫌に. 【 他者の視点に立つことを促す】. ・ 架空の( 他者) 役割設定. →感情、信念において自己と他者 ・ A男と役割との混同を区別して整理する の視点が混同. ・ A男の感情の受けとめ. なる。 第Ⅳ期 #8: ( 冬といえば?) 雪合戦をして「 べちゃべちゃしとお」 と楽し ・ 役割上での発言、感情を言及しよ 【他者の視点に立った上での自己の感情表 #8,9 そう。シェアリングで、自分の思い出を話して笑う。 うとする 出】 ・ 演じた後、自己の体験の振り返り ・ 役割を強調しながらの語りかけ #9: ( 花の一生) 花役をとり、風役におされてイライラしながら ・ 演じた役割への言及 ・ A 男の演技に対する補助自我のアクティブ も「 楽しい」 と言う。シェアリングで、「 花役は難しい」 「 足がガク ガクした」 と話す。. →自己と他者の視点を分け、それ ぞれ言及. な反応 ・ A男の感情と表す言葉のズレを把握、代弁.
(4) Ⅳ.総合考察. 設定の確認や役割と自己をしっかり区別して整理し対応す ること、②彼らの喚起された感情はしっかり受けとめ、共. 1.自己、他者の感情理解について ロールプレイング導入時の PDD 者の自己・他者の感情理. 感すること、が重要になる。これらによって、他者への気 づき、理解が促されると考える。. 解の特徴として、他者の感情について言及する際、自己の 感情や信念、あるいは状況による推測を行う傾向から、他. 3.今後の課題. 者の視点に立つことの困難が考えられる。しかしながら、. 今回は、グループ全体の経過と対象者一名の経過を検討. 役割を演じる中で、他者の視点に気づき、他者の視点に自. した。自己、他者の感情理解に関する検討は、対象者の認. 己の感情を合わせようとする様子が現れはじめた。けれど. 知的な能力を考慮する必要があり、不明確な部分も多い。. も、他者の視点に立とうとする場合においても、こういう. 今後は、量的な分析も含めて、さらに多くの事例の検討を. 場合ではこのように感じるだろうという自分なりの予測に. 行うことが課題である。. もとづく表現を行う傾向が見られ、自己が感じているであ ろう感情と表れる言葉に差があることが考えられる。ゆえ に、他者の視点に立った(役割をとった)上で、自己の今 の感情に目がむけられるように援助し、表出を促すことは 重要である。ロールプレイングを通して、自己と他者(援 助者、メンバー)との関係、日常とは異なる他者役割を演 じている自己を感じるという二つの側面から、自己と他者 の感情理解が促され、共感性が高まる可能性が考えられる。 2.青年期PDD者へのロールプレイング適用における援 助の工夫 場面の設定の仕方であるが、現実的な要素が含まれた場 面であったり、援助者から提供された場面において、現実 から離れられないことが見受けられた。このことから、彼 らが現実と架空の区別がつかなくなる危険性が考えられる。 PDDにおける、現実と架空、自己と役割が区別されにく いという特徴をよくふまえて、場面を設定する必要がある。 まずは、彼らの内にあるイメージに援助者がそうように心 がけ、エピソードをひきだしながら場面を設定することが 重要であると考える。しかしながら、自分の過去の再現で あっても、断片的にしか想起されにくかったり、その過去 の事実にこだわってしまったり、杉山(1991)が指摘して いるように、自閉症児の Time Slip 現象(特異な記憶想起 現象)が生じることもあり、注意深くテーマを検討してお くべきであろう。さらに、彼らが容易にイメージしやすい ものを考えることが重要である。特にメンバー同士でイメ ージの共有をねらう場合は、明確な役割関係をつけたり、 自分が何をすればよいかという見通しをもてる内容や誰も が体験したことのある内容がよいと思われる。視覚的な情 報を提供することも工夫点としてあげられる。補助自我は 役割上の態度を強調するとともに、状況の手がかりを与え ながらロールプレイングに導入する上で重要な役割を果た す。また、彼らの特徴として、自己と役割を混同してしま う場合がある。それに対して援助者は、①場面を区切り、.
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