九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
シングルセルメタボロミクスに資する液体クロマト グラフィー質量分析基盤技術の開発
中谷, 航太
https://doi.org/10.15017/4060015
出版情報:九州大学, 2019, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
(様式6-2)
氏 名 中谷 航太
論 文 名 シングルセルメタボロミクスに資する液体クロマトグラフィイー質 量分析基盤技術の開発
論文調査委員 主 査 九州大学 教授 久保田 浩行 副 査 九州大学 教授 須山 幹太
副 査 九州大学 教授 山田 健一(薬学府)
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
近年の次世代シーケンサー技術の急速な発展により、シングルセルレベルでのゲノム、トランス クリプトーム解析が可能になった。そして、特定の細胞が持つ個性が生命現象に重要な役割を果た していることが明らかになりつつある。生命システムに内在するヘテロな細胞集団をシングルセル の解像度で解析することにより、アンチエイジングやがん治療などの医療戦略に有意義な洞察が得 られることが期待される。また、近年、分子階層を跨いだ生命システムの制御機構が報告されてき たことで、各階層オミクスの重要性が高まりつつある。生命システムのより良い理解のためには各 階層の情報を1細胞レベルで取得する技術の開発が急務である。しかしながら、シングルセルメタ ボロミクスの解析法については、他のシングルセルオミクス解析と比べ、測定技術は未だ開発途中 の段階にある。特に、細胞サイズの小さな典型的な動物細胞 (細胞径10−20 µm程度) のメタボロー ム計測技術は報告されていない。典型的な動物細胞の1細胞メタボロミクスでは、超微量試料の分 析が要求されるため、感度が課題となる。また、1 細胞試料は一度しか分析することができないた め、単一分析における網羅性も課題となる。本研究は、これらの課題を解決する液体クロマトグラ フィー質量分析 (LC/MS) の基盤技術を開発に取り組んだものである。
感度不足という問題を解決するために、カラム内径の小さなnano-LCカラムを作製し、これを用 いた分離系のダウンサイジングによって高感度nano-LC/MS分析系の開発を行った。そして、HeLa 細胞 (細胞径10−20 µm程度) の1細胞メタボローム分析を行うために、単一HeLa細胞の単離方法 と分析システムへの注入方法を新しく考案した。これら一連の単一 HeLa 細胞の単離方法・分析シ ステムへの注入方法・高感度nano-LC/MS分析によって、合計22個の単一HeLa細胞の1細胞メタ ボローム解析を実施した結果、18種の代謝物を同定することに成功した。さらに、取得した代謝物 データを用いて分析した22個のHeLa細胞の階層クラスター解析を行ったところ、培養HeLa細胞 の間に代謝レベルで一定の類似度を示すサブクラスが存在することが示された。したがって、高感
度nano-LC/MS が典型的な動物細胞の1 細胞メタボロミクスに利用できることを実証した。すなわ
ち、1 細胞メタボロミクスにおける感度という問題に対して、分離系のダウンサイジングによる高 感度nano-LC/MS法という解決策を提示した。
また、単一分析における網羅性という問題を解決するために、網羅的な親水性メタボローム分析 手法の開発に取り組んだ。利用可能な LC カラムのスクリーニングにより、アミノ基混合ポリマー カラムの可能性を見出し、詳細に LC 条件の最適化を行った。その結果、固定相・移動相添加剤・
溶離液のpHといった各LC条件が協調的に作用し、親水性相互作用クロマトグラフィー (HILIC) と 陰イオン交換クロマトグラフィー (AEX) が連続段階的に作用する新しいクロマトグラフィー分離 手法を見出すことに成功した。当該手法をunified HILIC/AEX/MS法と命名し、その分析性能を従来
法と比較した。その結果、当該手法は単一分析において最も網羅性の高い親水性メタボローム分析 法であることを実証した。すなわち、シングルセルメタボロミクスが抱える網羅性という課題に対 して、unified HILIC/AEX/MS法という解決策を提案した。
本研究で開発した基盤技術は、高深度の1細胞メタボローム情報を取得するためには必要不可欠な ものである。今後、これらの基盤技術を組み合わせることで、より高深度のシングルセルメタボロ ーム情報の取得が可能になることが期待される。さらに、nano-LC/MS法 (高感度分析系) 及び、uni
fied HILIC/AEX/MS法 (高網羅性分析系) は、シングルセルに適用範囲を限定しなければ、それ自体
でもメタボロミクス研究を推し進める強力な基盤技術である。希少サンプルや超微量サンプルの分 析、あるいは、コホート研究やメタボロミクスのルーチン分析として今後活用されることが期待さ れる。また、本研究内容は、申請者を筆頭著者とする論文として、国際学術誌に発表している。よ って、本論文は博士(工学)の学位論文に値するものと認める。