青少年のための社会教育施設に関する総合的研究
−居場所づくりと社会教育の視点から−
小林(新保) 敦子・川原健太郎・栗山 究・関本 仁 孫 佳茹・高橋 平徳・松山 鮎子
キーワード:居場所、社会教育施設、青少年教育、子育ち事業、子ども条例、児童館、青少年支援、
香港の青少年施設
【要 旨】近年、子どもの居場所への関心から、社会教育施設が整備されつつある。ただし、こうした施設 は未就学児童や小学生を対象とするものが多く、中高生を中心とする青少年の居場所の欠落はいまだに解決 が待たれている。本研究では、青少年のための社会教育施設の現状をフィールドワークによってあきらかに するとともに、どのようにすれば中高校生や青年層の利用促進をはかることができるか、また青少年がいか にして自主的な形で運営に参画できるのか、その可能性を検討する。
本稿は、上記の研究成果の一端として、第一に、東京都内の子ども・青少年関連行政を担当組織と条例の 現状について、第二に、都内の青少年事業の事例分析、第三に、児童館における近年の動向と課題について、
第四に、板橋区の青少年教育の政策分析、最後に、香港における青少年施策の事例紹介について、これら各 方面から、執筆者らによる調査結果とその考察を報告するものである。
はじめに
日本においては、児童及び子ども・若者のための社会教育施設が極めて少ないことが、かねて からの課題であった。しかしながら、近年、子どもの居場所への関心から、施設が整備されつつ ある。
ただし、こうした施設は、未就学児童や小学生を対象とするものが多く、中高生を中心とする 青少年の居場所の欠落は現在大きな社会問題として指摘されているものの、いまだに解決が待た れている。また、児童及び青少年向けの施設は、一般的に大人が考えた企画によって子どもを遊 ばせること、つまり子どもが主体ではなく客体として位置づけられていることも課題であり、青 少年が中心となる施設運営の在り方が模索されてきた。
教育総合研究所プロジェクト研究課題「青少年のための社会教育施設に関する総合的研究―青 少年の居場所づくりと社会教育」においては、青少年のための社会教育施設の現状をフィールド ワークによって明らかにするとともに、どのようにすれば中高校生や青年層の利用促進をはかる ことができるか、また青少年がいかにして自主的な形で運営に参画できるのか、その可能性を検 討することを課題として設定した。
この分野の先行研究としては、主に中高生対象の施設である「ゆう杉並」に関する新谷周平の 研究や、子ども・若者の居場所について論じた萩原健次郎の著作がある。本研究は、こうした先 行研究の上に、進めるものとする。
昨年度は、主な研究活動として、青少年施設に関わる文献の収集及び講読、青少年施設での フィールドワーク(四街道市、町田市、調布市、小金井市、荒川区等)の他、公開講演会(相 川良子氏、高田忠則氏、ウルリッヒ・フリック氏)の開催、東京都市区町村の子ども政策の一 覧表の作成などを行い、中間報告書「青少年教育に関する施設―中間報告書―」(2011年)を発 行した。中間報告書の各章のテーマは以下の通りである。「東京都荒川区における社会教育・生 涯学習関連施設の取り組みの現状」(川原健太郎)、「事例紹介「くにたち発☆こどもホームペー ジ」の活動―ホームページづくりを通した子どもの育ちを支える東京都国立市の事業―」(高橋 平徳)、「「遊び」を通じた子どもの主体形成―プレーパーク/冒険遊び場・子どものまち―」(関 本仁)、「青少年教育施設における「居場所」の日常的支援のあり方について―調布市「青少年ス テーション
CAPS
」を事例として―」(松山鮎子)。今年度は、引き続き当該分野の基本文献の収集と青少年施設における調査、さらに新たに民間 組織による独自の支援活動にも着目して分析を進めている。
本報告の構成は以下の通りである。第1章では、東京都内の子ども・青少年関連行政を担当組 織と条例の側面から考察する。次いで第2章は、都内の青少年事業に関して、事例を検討しなが ら説明する。第3章は、青少年教育施設の一つである児童館の近年の動向と課題について詳述す る。さらに第4章は、具体的に板橋区の青少年事業に焦点を当て分析を行った。最後に第5章で は、香港における青少年施策の事例を日本と比較しながら紹介する。
(小林(新保)敦子・川原健太郎)
第1章 東京都内の市区における子ども・青少年関連行政と条例
1.東京都内の市区における子ども・青少年関連行政担当組織
(1) 国の方針との関連
ここでは、東京都内の各市区が子ども・青少年関連業務をどのように位置づけているかを見て いきたい。
まず国においては、子どもや家庭について包括的に取り組む省庁の構想が生まれている。2004 年ころから民主党は、子どもと家庭に関する政策を一元的におこなうべきだとし、2009年のマニ フェストでも「子ども家庭省」の創設を検討すると掲げている。自民党でも乳幼児施策を一元的 に担う「子ども庁」の創設が検討されたようだ1)。
こうした背景には、従来から指摘されてきた縦割り行政の弊害(幼稚園は文部科学省、保育所 は厚生労働省という象徴的な二重行政や予算の振り分けの硬直化)の解消だけでなく、今日にお いては、子どもにかかわる問題の大きな位置を占める家庭についても含め、一元的に政策を立 案・遂行する省庁を設置し包括的に取り組み、対応していこうとする姿勢が伺われる。しかし、
現段階では、内閣府に設置されている「子ども・子育て新システム」検討会議は、各方面への調 整が困難であると判断し、子ども家庭省創設を当面見送る検討に入っているという2)。
世界には、ノルウェーの「子ども平等省」(1991年、2005年に「子ども家庭省」から改称)や、
イギリスの「子ども・学校・家庭省」(2007年)、といった先例があるが、日本においても、自己
形成上非常に重要である子ども・青少年の時期の政策を包括的に取り組む組織が必要であろう。
(2)東京都市区の状況
こうした国の改革での難航とは別に、東京都内の市区においては、子ども・青少年に関する行 政を一元化する、いわゆる「子ども部」や「子ども課」を設置している自治体はどのような状況 になっているだろうか。
われわれ研究グループが、東京都内49の市区についてホームページ上で調査したところによる と、「子ども」の名を関した部を設置しているのは42の市区であった(小平市は次世代育成部、
練馬区、狛江市は児童青少年部であり、これも含んでいる)3)。
含まれていない7つの自治体の名称は、区民部(台東区)、保健福祉部(杉並区)、健康福祉部
(武蔵村山市)などであるが、その下には子育て支援課がすべて設置されている。これには福祉 的な部局の統合の意図が見て取れる。
最も多い名称は「子ども家庭部」・「こども家庭部」で、21市区である。これは、子どもと家庭 を関連させ、市民のニーズに応えていこうということの表れであろう。
他には、日野市の「子ども部」といった、中心となる対象の「子ども」をとらえた名称、調布市、
町田市、東大和市の「子ども生活部」といった、「生活」に焦点を当てた名称、さらには、江東 区の「こども未来部」、品川区の「子ども未来事業部」といった、「未来」という、子どもが秘め た可能性についての願いが現れた名称も見ることができる。各市区の住民のニーズに応える上で の様々な名称があり、命名上の検討経過など非常に興味深い。
この子ども担当部の下に、「子育て支援課」、「子ども家庭課」(港区、新宿区)、といった子育 てを支援する(親を主に対象にする)課がすべての市区に設置されている。また「青少年課」(江 東区、他3市区)、「青少年育成課」(品川区)、「児童青少年課」(杉並区、他10市区)といったよ うに、子ども・青少年自体を対象にする課が設置されている。
さて、こうした「子ども・青少年関連行政担当組織」4)は、千代田区を除いて、首長部局に設 置されている。首長部局に設置され、子どもと家庭について、換言すれば福祉分野について一元 化されている。それらは教育委員会と併設されている。このことから明らかになるのは、子ども・
青少年に関する行政すべてが一元化されているということではない、ということである。一元化 といっても教育分野を包括せず福祉分野に限定され一元化されている。ちょうど、民主党が「子 ども家庭省」で対象とする、子どもと家庭に限定されている。イギリスの「子ども・学校・家庭 省」のように、学校は内包されない。
このように、東京都の各市区においては、教育分野は教育委員会で、子ども・家庭にかかわる 福祉な分野は首長部局、というように、併置され、権限を分散させていることがわかる。
(3)千代田区の子ども・青少年関連行政担当組織
東京都の市区では併置されていることが一般的でありながら、「教育委員会事務局子ども・教 育部」というように、教育委員会のもとに、まさしく一元化している千代田区の取組みの内実に せまる必要があろう5)。
千代田区の「教育委員会事務局子ども・教育部」は、「区立小中学校・幼稚園・こども園の運 営、保育園・児童館・学童クラブ、手当・医療助成など0〜 18歳までの次世代育成政策を、教 育・福祉といった枠組みを超えて、総合的・一体的に推進するため、子ども・教育部を設置して います。子どもの視点に立ち、一人ひとりの成長過程に沿った支援を継続的に行っていく組織で す。」とあり、まさしく一元化している6)。
教育長のもとに「子ども・教育部」が設置され、そのもとに「子ども総務課」、「子ども施設課」、
「子ども支援課」、「児童・家庭支援センター」、「学務課」、「指導課」が設置されている。
このように、「児童・家庭支援センター」という福祉分野と「学務課」、「指導課」といった教 育分野が共存し、なかでも「子ども支援課」では、「保育園・保育所・こども園に関すること、
幼稚園の就園事務、学級編制、…こども園及び幼稚園のあり方の検討」といったように、幼保・
こども園について国の管轄を超え、一元化した業務をおこなっている。今後はさらにヒアリング などをふまえ、その「一元化」の内実に迫っていく必要があるだろう。
(4)まとめ
以上見てきたように、東京都の市区では、子ども・青少年関連行政担当組織のほとんどが、教 育委員会と併存の「一元化」であり、きわめて福祉分野よりの「一元化」であることが明らかに なった。
さらに、その福祉分野のなかに、「青少年課」(江東区、練馬区、府中市、東大和市)、「青少年 育成課」(品川区)、「児童青少年課」(杉並区、荒川区、八王子市、武蔵野市、三鷹市、調布市、
町田市、小金井市、狛江市、多摩市、西東京市)というように、子ども・青少年を対象にする課 を設置している市区があった。
このような市区では、いっそう、子ども・青少年が育っていくことを保障し支援する取組が意 識的に行われているに違いない。つまり、こういった市区では、「青少年のための」、「子育ち」
の支援に意識的に取り組んでいると考えることができよう。また、福祉分野に「一元化」された 中に位置づけられている点からも、自治体の子ども・青少年関連行政に対する姿勢を伺うことが できよう。
2.東京都の市区における「子ども条例」
(1)「次世代育成支援対策行動計画」と「子ども条例」
前節では東京都の市区における子ども・青少年関連行政担当組織に触れてきた。本節では「子 ども条例」を扱う。
2011年現在、「次世代育成支援対策行動計画(後期計画)」によって、すべての自治体が子ども・
青少年についての計画を策定し、その計画に沿って行動している。これは、「次世代育成支援対 策推進法推進法」7)をうけた行動計画(2005年から前期5年、後期5年)であり、自治体に策定 と運用の義務がある8)。したがって、すべての東京都の市区は、「○○市次世代育成支援行動計 画」、「△△区子どもプラン(通称)」などをもっている。こうした計画を各市区の実情に合わせ 制定し運用している。
(表1)
施行年 前 文(一部) 備 考
①世田谷区子ども条例 2002年 子どもは未来への「希望」です。将来へ向け て社会を築いていく役割を持っています。
5章23条。小学生向け と、中学生向けパンフ レット。
②国立市子ども総合計画
−自分らしく輝いて− 2003年
子どもたちのキラキラと輝く瞳と明るく元気 な笑顔がいつも広がるまち、わたしの可能性 を豊かに育てるまち、子どももおとなもわた しらしく伸び伸びと暮らせるまち、国立を創 造します。
6章。
③調布市子ども条例 2005年 子どもは、個性が認められ、自分らしく生き る権利をはじめ、個人の尊厳を持ったかけが えのない存在である。
6章22条。
④目黒区子ども条例 2005年
子どもは、一人ひとりがかけがえのない存在 です。一人の人間として尊重され、自らの意 思でいきいきと成長していくことが大切にさ れなければなりません。
4章22条。小学1〜3 年生向け、4〜6年生 向け、中学生から大人 向けパンフレット。啓 発絵本『すごいよねず みくん』制作、発行。
⑤豊島区子どもの権利に 関する条例 2006年
子どものみなさん
あなたの人生の主人公は、あなたです あなたのことは、あなたが選んで決めること ができます
7章32条。一般向けと 中学生向けリーフレッ ト。
⑥日野市子ども条例 2008年 いつの時代にも子どもは社会の宝であり、日
本の尊い「財産」であり、未来への希望です。6章23条。
⑦小金井市子どもの権利
に関する条例 2009年 子どもは、愛情をもって自分のことを考え、
接してほしいと願っています。 6章17条。
しかしここでは、そのような計画とは別に、各自治体独自に制定している「子ども条例」や「子 ども総合計画」に触れていく9)。それにより、国の指示以前から、また国の指示とは別に独自に おこなう自治体の子ども・青少年行政への姿勢がみられると考えるためである。
(2)東京都市区の「子ども条例」
われわれ研究グループが、東京都内49の市区についてホームページ上で調査すると、以下の7 つであった。(表1)
この数は都内49市区の数から考えてみれば、決して多いとは言えない数であろう。
しかし、これら7つは、すべて、『子どもの権利条約』をふまえた内容となっている(条例の 中で『子どもの権利条約』を紹介もしている。したがってここでの「子ども」は18歳未満の子ど も・青少年となる)。
一部抜粋した前文を見てみても、個人の尊厳を大切にし、それを守るためにも行政が子ども・
青少年自身の育ちを支えていく、という条例となっている。また、年齢別のリーフレットを作成
したり、絵本による紹介など、子ども・青少年自身のための条例にしていくための工夫が随所に みられる。
(3)まとめ
以上見てきたように、東京都の市区において次世代育成支援対策行動計画とは別に制定された
「子ども条例」は7つあり、その内容は、子ども・青少年個人の尊厳を第一にした、『子どもの権 利条約』の精神を反映していた。また制定するのみでなく、啓発し実効性をもたせ、子ども・青 少年のための行政を進めていこうという強い姿勢がみてとれる。こうした市区では、とくに他の 市区と比べ、「青少年のための」、「子育ち」に意識的に取り組まれていると考えることができる だろう。
(高橋平徳)
第2章 青少年を主眼とした子どもの「子育ち」に関する事業
東京都の市区各自治体における「子どもに関する事業」については、関係する部署が大きく分 けて二つに分けられる。一つは自治体首長等の影響からある程度独立性を有した機関である、教 育委員会がある。もう一つは、自治体首長の直接影響下にある、いわゆる首長部局である。後者 は教育というよりはむしろ、福祉としての意味合い・側面が強い。基本的には、教育と福祉のど ちらに重きを置いた事業であるか、というのがその二つを分けている要素といえる。
しかしながら現在の流れとしては、これまで組織としては独立性を有してきた教育委員会が改 編され、教育委員会に存在してきたセクションが首長部局の子育て支援課などに移っている。そ うした組織改編の是非についてはともかく、現在の東京都における特別区や各市における事業が どのような数で、またどのような種類のものがあるのか、ということについてみていく。なお、
今回はこれまで取り組んできた「東京都市区町村子ども・青少年政策一覧表」を参照しつつ、分 析・考察を行っていく。各自治体が市民に向けた広報活動としては、紙媒体を用いた従来の方法 はもちろんのことではあるが、それに加えてインターネット上のホームページにおける公開の持 つ意味は、現在において大きなものとなっている。だが、ホームページ上で公開された事業がす べてではない可能性がある。また、自治体により告知・広報活動に熱心な自治体と、そうとはい えないところの違いも見えてきた。そのため、ここで示したデータについては残念ながら各自治 体のすべての事業をカバーしきれていない可能性がある。それについては追って調査を進めるこ ととして、現時点で判明している各自治体の事業を分析していく。なお、子育て支援課で行われ ている乳幼児を対象とした育児に関する事業等については、青少年を主眼としたものではないた め、今回の調査・分析においては省く。
概観すると、「子育ち」という観点に依る青少年子ども関連事業は総数で119となった。その内 訳は教育委員会管轄の事業が35、「子ども家庭部」などの首長部局管轄のものが84にのぼった。
さらにこの首長部局で行われている事業は、区部では48、市部においては36の事業が行われてい ることが確認できる。また、教育委員会管轄として行われている事業は確認できる範囲ではある
が、すべて区部のものであり、市部では現在確認ができない。だからといって、市部の教育委員 会では青少年に対する取り組みがなおざりにされてきているのか、というわけではないだろう。
これは一つには行政の再編による影響が大きいと思われる。筆者が現在、嘱託員として勤務して いる国立市を例に挙げると、青少年担当の事業は元々教育委員会の生涯学習課で行われていたも のであった。これが平成二十二年度における組織改編によって、首長部局である子ども家庭部子 育て支援課に移ることとなった。他の市部の自治体も同様の組織改編が行われた可能性が高い。
「子育ち」に関する青少年・子ども関連事業がこのように組織改編によって管轄の部局が移って いった背景には、一つには、これまでのような単純に「育てる」といった教育的視点で取り組む のでは不十分である、という発想が根底にあるのではないだろうか。むしろ自らが育っていく、
つまり「育ち」ということを考えていく際には、その「育ち」を支える、つまり「支援」してい くという意味にいて福祉の果たす役割が非常に大きくなっているといえるだろう。であるからこ そ、福祉的側面の強い「子ども家庭部」といった首長部局に青少年子ども関連事業が移行したと 考えられるのである。しかも、その傾向は現時点では、特別区部より市部で顕著に見られるとい うことである。
さて、「放課後児童育成事業」など健全育成に関する事業について触れておく。この事業につ いては、9つ、うち中学生を対象にした世田谷区の「中学生の放課後活動支援事業(
STEP
)」の 1つを除くと、これらは小学生を対象とした健全育成を主眼とした事業である。また、青少年健 全育成についての事業が少なくとも6つみられ、他にも武蔵野市における「青少年善行表彰」な どもこの範疇の入るものであるといえる。主に首長部局の管轄となっている「健全育成」に関す る事業は、大人が積極的に関与していく「子育て」という側面が強いといえる。この点において、青少年の主体的な「育ち」という今回の調査の観点からはいささか離れた性質を持つと思われる。
子どもの主体的な「育ち」を支える、という側面から見ていくと、子ども関連施設における「青 少年員会」や、「子ども議会」などがそうした役割を担う事業であると思われる。子ども関連施 設における「青少年委員会」については設置されている施設と密接な関係にあるものであり、詳 細については別項に任せるが、筆者が見学した町田市の「子どもセンターぱお」における「こど も委員」の企画会議においても、施設職員の的確な環境作りによって、小学生を中心とした委員 たちの主体的な取り組みを垣間見ることができた。また、練馬区や福生市、狛江市などで行われ ている「子ども議会」についても、こどもたちの貴重な意見表明の場として機能していると思わ れるが、一部の子どもたちにとどまることなく、いかに多くの子どもたちに意見表明の場を提供 することができるか、といった課題は常に問われていく問題であろう。
青少年子ども関連事業において、目を引くのは「ジュニアリーダー」育成に関する事業である。
「東京都市区町村子ども・青少年政策一覧表」をみると、18箇所で行われている。うち5箇所が 教育委員会の管轄であり、すべて区部のものである。ただし、ここで根拠にしている一覧表では 総数18箇所であったが、その他の自治体でもかなりの割合で行われている可能性が高い。国立市 を例にとれば、一覧表には記載されていなかったが、毎年春と夏の2回、小学校高学年から中学 生を対象とした青少年キャンプをおこなっており、そこでは社会人や大学生といった「スタッフ」
と、高校生による「準スタッフ」が関わっている。春に行われるものは「リーダー養成キャンプ」
となっている。平成23年3月に予定されていた春のキャンプは、東日本大震災の影響により中止 となってしまった。同年8月に行われた夏のキャンプでは、準スタッフたちに自らがプロデュー スするレクリエーション大会を開催してもらった。準スタッフ一人一人が出し物を決め、どう進 めるのかを話しあい、参加者である子どもたちに楽しんでもらえるよう工夫していく様子をみる ことができた。このキャンプでは、一見すると、参加者である子どもたちが楽しみながらも、自 分には何ができるか、といったことを学ぶことのできる場となっているが、同時に準スタッフで ある高校生たちにとっての学び・育ちの場にもなっているのである。
以上見てきたように、現在行われている「子どもに関する事業」については、区部と市部では その取り扱われ方に若干の違いが見られた。「育ち」に関する事業は教育的要素を持つのはもち ろんだが、福祉的要素も多分に持っている。教育に関する政治的介入については注意を払わなけ ればならないが、子育ち、つまり「自らで育っていける」事業というものは、従来の縦割り的な 行政のあり方を超えた取り組みがさらに必要となってくるのではないだろうか。
(関本 仁)
第3章 東京都の青少年教育施設の動向と課題
1.はじめに-児童館に求められる役割の変遷
児童館などの青少年教育施設では、本来、青少年が仲間との遊びを通して自主性や社会性を育 むことが目指されてきた。1960年代後半から建設が本格化し始めた児童館は、今日では誰もが一 度は訪れたことのある、地域の身近な遊び場の一つであろう。こうした児童館も、時代と共に少 しずつ求められる課題を変化させている。
具体的には、昨今、その「居場所」としての機能が論じられる1)。ここでの子どもの「居場所」
とは、共感的な他者との関係が安定してもたらされる空間を指す[住田:2003]。こうした場が 特有の意味を帯びて主張され始めたのは、1980年代後半からである。背景には、従来の社会教育 施設の集団的な学習のあり方が、自然の中で子供が自由に遊べるプレーパークなどの出現によ り、「個人」の遊びや余暇活動の条件を整える場へと変化したことがある2)。そのため、現在では、
一定の目標を定めそれに向けた教育をどのように行うかという点よりも、各々がその場所でどう 自己形成するのか、または、そのための支援をどうするのかという点が重視される。
児童館を始めとする児童健全育成事業は、本来、非行対策を主に展開しており、中高生の「居 場所」づくりという視点はなかった[太田:2000]。しかし、不登校や引きこもりへの対処が社 会問題となるにつれ、思春期の児童のための環境整備が学校と地域、家庭それぞれの領域で具体 的に提言され始めた。
具体的に、青少年教育施設の「居場所」の先駆的事例としてしばしば取り上げられるのが、杉 並区の児童青少年センター 「ゆう杉並」である[太田:2000、鈴木:2001、新谷:2001:2002]。
同施設は、利用者の事業への「参画」を目指し、「中高生委員会」を組織することで運営面に彼 らの意見を反映した点が特徴的である。行政課題として子どもや若者の参加・参画が強調され るようになったのは、70年代後半からである。90年代には、「子どもの権利条約」の施行に伴い、
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(表2) 東京都の市区別児童館・青少年施設数 (2012年9月現在)
児童館 青少年施設
子どもの「決定権への参加」を重視する「子どもの権利としての参加」が主張された。また、ロ ジャー・ハートは子どもの参加のレベルを8段階の「参画のはしご」として表し、同モデルは日 本でも参考にされることが多い
[
木下:2000]
。居場所に加え、こうした「参画」の場としての児 童館事業の展開も、今日重視される一つである。他にも児童館に求められる機能として、子供による新たな文化創造の「子育ち文化」の場と捉 えることがある
[
小木:2001]
。また、家族内の問題を〈家族−コミュニティ−行政〉の関係で解 決しようとするコミュニティケアの概念に基づき、福祉の観点からその新たな役割を論じるもの もある[岸川:2007]。ただし、これらの先行研究は個々の実践例を扱うものが多く、その全体像を把握できていない という点で一面的な考察にとどまると考えられる。そこで、本研究では東京都における今日の青 少年教育施設の取り組みの全体像をふまえた上で、個別の事例から具体的な課題を導き出し総合 的な考察を行っていくこととする。
2.東京都の青少年教育施設の現状
始めに、都内の市区別の児童館数と青少年教育施設数をみていく。グラフ(表2)から分かる ように、主に小学生以下を対象とした児童館に比べ青少年向けの施設数は全体からして圧倒的に 少ない。そもそも、そのような施設を運営する自治体自体が限られている。児童館数については、
上位が大田区、板橋区、北区などである。また、市の中で比較的数が多いのは、調布市、日野市、
八王子市等である。逆に、児童館数が他に比べて明らかに少ないのは、武蔵野市、昭島市、小平 市などである。このように、都内だけでも市区ごとに、子ども関連施設の量的格差がみられるこ とが分かる。こうした差の生じる要因は、地域在住の子どもの人数にも関わるだろうが、各自治 体の財政状況、中でも教育費の割り当ての度合いがそれら数値に反映していると考えられる3)。 ただし、個々の自治体の詳細をみてみると、例えば、武蔵野市のように、施設は少ないが既存の コミュニティセンター等を利用した子育て支援の場が充実している自治体もある。これと同様、
(表3) 中高生のための施設を有する市区一覧
(児童館数は参考まで)
市区名 児童館数 青少年施設数 市区名 児童館数 青少年施設数 江戸川区 7 6 杉 並 区 7 1 練 馬 区 17 2 豊 島 区 6 1 足 立 区 3 2 調 布 市 22 1 渋 谷 区 2 2 町 田 市 5 1 文 京 区 16 1 小 平 市 2 1 江 東 区 18 1 昭 島 市 1 1 目 黒 区 14 1
(2012年9月現在)
現在の子ども関連の施設の施策は、子育てセンターなどにおける幼児とその親を対象とした支援 事業や、地区の学校などを使用した小学生の放課後の居場所対策事業などに力点が置かれる傾向 がある。つまり、そこには子育て環境の整備に一定の目処がついて初めて、中高生に向けた取り 組みへ目がむけられるという活動の優先度の差が生じており、それが全体の数値にも反映されて いると言えよう。
これに加え、青少年のための事業については、とりわけ自治体ごと力の入れ具合に明暗のでる 結果となった。市区内に独立した形で青少年教育施設を有する自治体は、表の示す通りである。
(表3)その他には、目黒区、八王子市、小金井市、東久留米市、西東京市、稲城市は、地域の 児童館に中高生向けの企画を用意する、あるいは特定の曜日に夜間の開設を行っている。
このように、青少年向けの事業は、自治体の方針によって市区の区別なく取り組まれているこ とが分かる。上記の自治体に共通する点として挙げられるのは、それぞれが「子ども条例」など の独自の子ども関連の計画を策定している場合が多いという点である。ここから、施設数そのも のは少ない市区でも、各地域の実情に応じ個性を生かした事業を実施していることが予想され る。ゆえに、青少年教育施策を調査するに当たっては、統計データなどによりその全体像を把 握すると同時に、個別の活動をフィールドワーク等により明らかにしていく必要があるだろう。
また、具体的な実施例をみると、
例えば後述の調布市と小金井市に おいては、両市の財政面の違いに よって施設内の設備や人材の充実 度に歴然とした差がみられ、それ が施設の利用者数にも影響してい た。したがって、職員の専門性や 活動の持続性といった質的な面の 格差についても、子どもたちの豊 かな育ちを考える際に踏まえねば ならない問題だろう。
3.おわりに-インタビュー調査からみえた課題
次いで、都内の自治体の中から、調布市の青少年教育施設「青少年ステーション
CAPS
」、小 金井市の夜の児童館「ぷれいすHIGAJI
」、町田市の児童館「子どもセンターぱお」の三つの施 設で行った参与観察とインタビュー調査から導き出した課題について触れ、全体の結びとした い4)。なお、紙幅の都合上、本稿では特に利用者の施設利用方法と職員との関係、参画の実態に ついてのみ取り上げる。まず、音楽などの機材などが比較的整った環境で、利用を中高生のみに限定する調布市の場合、
市内だけでなく近隣地域からも来館希望者が訪れることが多かった。同施設では、単発の利用者 をいかに継続した活動に取り込んでいけるか、コミュニケーションを深めていけるかということ が職員の特に重視する点である。一方、小金井市の児童館は、近隣の中高生が友達同士で示し合
わせて来ることが大半である。また、利用者のほとんどが小学生から継続して来館する子たちで、
その意味で、職員との長年の信頼関係が醸成されており、上級生が下級生の面倒をみるような異 年齢の交流も行われていた。ただし、付近の市区からも多くの中高生が訪れる調布市の事例に比 べると、利用者の絶対数は少なく、学年が上がるにつれ施設から離れていく子どもが多かった。
このように、居場所づくりの目的が同世代の交流や職員との関わりにあるのか、それとも幼児か ら高齢者までを含めた異世代間の結びつきを重視するのかにより、活動の方向性も直面する課題 も異なってくる。
さらに、青少年の事業への参画については、前述の多くの自治体で「中高生委員会」や「子ど も委員会」を組織し彼らの意見を施設内の設備やイベント内容において生かす取り組みが行われ ていた。本事例では、会議で子どもたちの多様な意見を引き出し、それを具体的に結実させるた めに、高校生など年長の参加者や職員の能力が重要であった。他方、問題点として、こうした会 議に参加する者は、学校とは違う場を必要として施設に足を運ぶ層とは異なるという点が挙げら れる。ゆえに、参画では、これらの施設を「居場所」とする子どもたちを、いかに積極的に関わ らせていけるかが課題となる。
以上のような活動の実際について、今後も様々な自治体における取り組みを参照しながら、青 少年教育施設のより良いあり方について引き続き検討していかねばならない。
(松山鮎子)
第4章 板橋区教育委員会が所管する社会教育施設における実際の若者向けの事業-社会教育主 事・社会教育指導員の取り組みから
1.はじめに
本稿では、筆者が社会教育指導員(非常勤)として勤務している板橋区教育委員会生涯学習課 で展開している実際の事例を紹介する。なかでも同課が、区内に所管する大原社会教育会館と成 増社会教育会館の二つの社会教育施設には、専門職発令を受けた社会教育主事が各1名常勤して おり、その下で5名の社会教育指導員が社会教育事業を展開している1)。この12名の社会教育職 員は毎月一度、一同に会しての研修を実施している2)が、2011年4月より当該研修前後の時間を 使って、生涯学習課の一般行政職員を交えた 若者支援プロジェクト と呼ばれる検討会が開催 されることになった。
この検討会では、社会教育職員自らが実践的に取り組む社会教育事業に引きつけながら、どの ようにしたら中高生をはじめとする若者世代とともに当該事業を実施していけるかについて議論 を深めている。本稿では、この検討会での議論から見えてくる板橋区の社会教育施設における若 者向けの事業の実際の展開の現在を報告したい。
2.板橋区青少年問題協議会答申
この検討会が設けられた制度的背景には、2010年に開かれた板橋区青少年問題協議会の答申 書3)が存在している。同協議会は、副会長に、有識者である太田政男大東文化大学学長(会長
は板橋区長)を置き、18名の委員ならびに6名の幹事によって構成されている。2010年度は、3 回の全体会と4回の小委員会が開催された。そこでの協議結果をまとめたものが、上記答申であ る。そこでは「中高生年代が地域と関わりながら成長していける場や機会」を「地域での居場所」
と定義し、板橋区内で実際に展開されている「中高生年代向け育成支援施策」の紹介(第2章)
と「中高生の居場所」に関するアンケート調査の結果等(第3章)が記載されている。この分析 を踏まえて、下記に示す「中高生年代の健全な育ちと自立」のための6つの課題と7つの提言が 示されている(第4章)。
【課題1】地域の中で中高生年代が安心して集える場の確保、【課題2】中高生年代が参加したく なる活動の場や機会の増加、【課題3】中高生年代が地域社会の担い手であるという意識の醸成、
【課題4】中高生年代と地域の結びつきの強化、【課題5】中高生年代の勤労観・職業観の育成、
【課題6】中高生年代特有の関わりの難しさに対応できる人材の確保、【提言1】青少年センター
(仮称)の整備による「地域での居場所」の提供(課題1との関連)、【提言2】地域におけるスポー ツ・文化活動・自然体験活動等の機会提供(課題2との関連)、【提言3】 中高生年代が参加し たくなる地域活動の提供(課題2との関連)、【提言4】大人と中高生年代の意識改革の推進(課 題3との関連)、【提言5】多様な手段による地域情報の発信と中高生年代への理解(課題4との 関連)、【提言6】地域資源を活用したキャリア教育の充実(課題5との関連)、【提言7】中高生 年代と関わる人材の養成及び連携(課題6との関連)
この答申では、議論の対象が「青少年」や「中高生年代」となっているが、2010年に施行され た「子ども・若者育成支援推進法」を背景に国が制定した「子ども・若者ビジョン」の存在も視 野に含まれており「若者が生き生きと活動する希望に満ち溢れた新たなイメージを発信していく こと」4)が念頭に置かれている。また、同答申では今後、そうした世代が活用することのできる 社会教育施設(青少年センター等)の在り方を提言する内容として締めくくられている。
3.若者支援プロジェクト
こうした制度的背景も後押しとなり、検討会では現在(2011年9月時点)、上記提言も踏まえ つつ、社会教育職員それぞれがどのような役割を担っていくことができるか、模索しているとこ ろである。
これまで大原社会教育会館では キッズタウンいたばし や みつけよう私の仕事 などが展 開されてきた5)。前者は、子どもたちが、大人たちの支援を得て設定された模擬的な まち の なかで、市民証を手にし、何らかの仕事に就き、働き、そこで稼いだ疑似資本を用いて生活やレ ジャーのための消費を行うものである。若者は、子どもと大人のコミュニケーションの媒介とな ることで、異年齢層のネットワーク形成の役割を果たしている。後者は、区内の商店・事業所・
施設等の協力のもと、若者が地域で働く大人たちとコミュニケーションを行ない、地域社会の具 体的な仕事を実際に体験していくことで、自らの 働き方 生き方 を学んでいく講座である。
成増社会教育会館では、2010年度より社会教育主事らが呼び掛けとなって、地域住民の有志と
ともに キャリア教育プロジェクト が模索されてきている6)。これは、地域住民が、区内の中 学・高等学校の教員と話し合いながら、キャリア教育プログラムの企画や実際の授業の支援に取 り組もうという事業である。現在は、地域住民有志でキャリア教育の学習を深めたのち、実験段 階ではあるが、区内中学校のキャリア教育の授業実践に取り組み始めている。そこでは、当該地 域住民有志たちが、単なる職業・就労教育にとどまらず、若者たちが「他者との関係性を豊かに しながら自らの人間性を深める」ことを目標に、職場体験や職場訪問の事前学習(自分自身の自 己分析、受入側の仕事内容の特徴について認識を深める等)や事後学習(職業体験等を通して学 習したことを関係した他者に発表する機会)あるいは職業体験・訪問先への挨拶等の連絡を主体 的に行うための支援に取り組んでいる。若者自らが、さまざまな地域住民との関わりを通して、
自らの職業・進路選択を考え学習していけるような授業となれるよう、担当教員の教育計画をと もに考えて行くのである。こうした地域住民の有志は、これまで社会教育会館が主催する区民創 作講座を通して、地域社会で展開される社会教育事業に自らが実際に企画運営する経験を積み重 ねてきた住民であり、そこでの相互学習を通した社会教育の在り方の追究を根本に据えていると ころに特徴がある。こうした知恵を、学校教員が編成する授業計画に活かしていけるように働き かけることを通して、若者本位に立った中高一貫するキャリア教育の体系を追究しているところ である。またそこでは、実際に大学の授業で社会教育を履修している学生たちの参画も視野に含 めたプログラムも模索されてきている。
この取り組みと関連して、大原社会教育会館の社会教育指導員も現在、小中学校におけるキャ リア教育支援の事業計画を模索しているところである。そこでは小中学生が、地域にくらすさま ざまな大人の生き方や働き方に触れることにより、自分自身の生き方や働き方を考えていくこと のできるきっかけづくりを提供する場として、社会教育会館を利用している有志の大人たちが、
小中学生たちに自らの生き方の語り部となっていくような相互学習の在り方を検討している7)。
4.「若者・平和」企画運営会議
筆者が現在、実際に担当している若者向けの事業の一つに「若者・平和」企画運営会議がある。
これは主として、20 〜 30代の若年層を対象にした事業である。「 若者 にとって 平和 とは 何だろう?」を合言葉に、
NPO
と協働しながら、地域にくらす大人たちとの対話を通して、自 分たちの力で話し合い、学びあっていく企画である。そして、そこで話し合われた学習内容を基 盤に、実際に地域生活講座という民対象向けの社会教育講座を創っていく。2010年度は、企画運営会議メンバーが、
NPT
を取り巻く国際的動向を実際にニューヨークに 行った企画運営会議メンバーから聞いてみることを通して、沖縄の基地問題を自分たちの地域の 問題として捉え返す学習が展開された。若者は、そこで学習した内容を ピース芸術祭 という 区民が企画運営している祭典に出展することで、地域社会で活動しているさまざまな住民・団体 と交流を深めていった。この企画運営会議全体を通して若者は、自分自身が抱え込んでいる問題 と社会で起こっている問題との間にある関係性を、自分自身の問題として自覚的に探究していく きっかけにしていった。この企画運営会議は、社会教育講座づくりに取り組む企画運営会議メン バー相互の学習を通して、実際の社会に対して自分なりの主体的な参画の眼を構築していく役割を果たしていると言えるだろう。現在この事業も、地域社会のなかで様々な展開をみせながら、
継続しているところである。
(栗山 究)
第5章 香港の青少年事業の取り組み―香港にある青少年センターを紹介して
はじめに
近年、日本の青少年教育施設でも、社会的に弱い立場にある青少年へのサービスの提供が課題 となりつつある。本論は香港における青少年センターの事例を取り上げ、香港における青少年セ ンターのあり方を紹介することによって、海外における福祉と教育の提携の仕方を見ていく。香 港の青少年事業にはイギリスの面影が比較的に残っているため、ソーシャルワーカーの手による 不利な環境に置かれた青少年へのサポートが手厚く行われている。本論はこのような海外の事例 を考察することを通じ、青少年教育施設における児童福祉関係職員による支援のあり方に示唆を 与えたい。
ここで香港を事例に取り上げた理由として、香港は日本と共通している点が多いからである。
まず、ともに少子高齢社会に向かう中で、香港の青少年(0−24歳統計の場合)は人口全体の 25
.
9%占めており(2008年)1)、日本は0−29歳統計で29.
1%を占め2)、両者は比較的近い状況で ある。そして、香港では戦後初期の貧しさから70年代の経済急成長期を経て社会全体が豊かに なっていく中、80年代から物質的に満足した環境で育った青少年たちには却って生きがいが分か らないという現象が現れた3)。これは日本にも共通している課題とも言えよう。さらに、香港の 青少年センターは地域の福祉の拠点として学校と家庭と地域と提携する考え方があるため、日本 の社会教育の理念と似ているところが多く、参照しやすい対象と思われる。本論はまず香港政府がこれまで出した青少年政策について概観し、その中でNPO・NGOの 働きに注目する。次に、香港の青少年センターの事業内容を詳述し、地域の福祉拠点としてどの ように学校と地域とつながっていくのかを見みる。最後に、ある青少年センターの事例を紹介し つつ、プログラムの特徴を考察したい。
香港における青少年の年齢定義については、統一した言説が見られず、香港の青少年センター の利用者に限っては6歳から24歳までの若者が対象となっている4)。
1.香港の青少年政策
(1)政府の政策と資金投入
香港政府は70年代から住宅計画やニュータウン計画や社区建設(地域建設)など、一連の社会 政策に取り込み始め、その中には青少年計画もあった5)。きっかけとして、60年代に起こった若 者の暴動で彼らの破壊的な力を誘導する必要があると感じたことからである。70年代から90年代 にかけて発表した青少年政策の特徴は時期ごとに、青少年の人格育成・社会責任感の養成に重き を置いた発展型、青少年犯罪を予防するための予防型、社会的に不利な環境にいる青少年をサ ポートする救済型との特徴が見られている6)。そしてその後も、香港青年政策および支援につい
て、救済型に傾いており、発展型プログラムと合わせて提供することが課題だった7)。
香港政府は毎年社会福祉に大量の財力を投入し、社会保障と社会サービスの支出が香港政府の メインの財務支出となっている。香港政府が毎年青少年政策に使った資金は約350億香港ドル(約 3
,
500億円に当たる)に達している8)。(2)NPO・NGOの力量
戦後大量の難民が香港に流れ込み、彼らの社会的援助に自発的に当たったのが香港のNPO・
NGOだった。政府が60年代にようやく青少年に目を向けるようになったはるか前、香港のNP O・NGOは戦後直後からすでにさまざまな青少年救済事業を展開していた。今日、香港政府は 青少年事業のみならず、その他の福祉事業においても、政策制定と資金提供だけを行い、具体的 な実施はNPO・NGO団体に委託する形をとっている。2010年10月の時点で、香港で171のN PO・NGOが政府補助社会福祉事業の80%程度を展開している9)。常に政府の一歩先を歩いて いる香港のNPO・NGOの大半は宗教慈善団体の背景を持ち、政府の社会福祉政策と社会事業 の要求に応じつつ、自主的に目標設定とステップを決めることできる。
香港の専門ソーシャルワーカーは現在16
,
000人近くいる10)。これらの専門人材には登録番号が 与えられ、施設で専門職または管理職につくことが多い。彼らの力によって香港の社会福祉事業 が支えられている部分は非常に大きいと言えよう。専門のソーシャルワーカー以外、香港社会で はボランティアの精神が浸透しているため、社会事業機関で登録しておけば、社会事業機関に よって主催された社会奉仕活動に参加することができる。企業も社員の奉仕精神の育成を重視 し、ボランティア活動に積極的な姿勢を示している。また学校ではボランティア経験が生徒の評 価基準の一つにもなっているため、学生たちは小さい頃から社会活動に参加することを求められ ている11)。2.香港の青少年センターの現状
2011年の時点で、香港で青少年事業を提供している総合青少年服務センター(
Integrated Children and Youth Services Centres
)は137箇所となった12)。総合青少年服務センターとは既存の 児童及び青年センター(Children and Youth Centres
)を合併したもので、地域でより広い福祉事業 を提供する拠点となっている。ちなみに、従来の児童及び青年センターはわずか26箇所しか残っ ていない13)。総合青少年服務センターのメイン事業は三つある14)。一つ目は旧来の児童及び青年センターの 事業を引き継いだもので、センター内における青少年向けのプログラムの提供である。二つ目は 学校におけるソーシャルワークサービスである(
School Social Work Service
)。これは「one school social worker for each secondary school
」という各中学校に一人のスクールソーシャルワーカー(以 下SSWと略す)を置く香港政府の政策により、青少年センターから学校にSSWを派遣する 事業である。三つ目は地域若者訪問支援ソーシャルワークサービス(District Youth Outreaching
Social Work Service
)である。地区ごとに設立された地域若者訪問支援チームによって行われているもので、現在香港18地区に16の支援チームがある。チームメンバーたちは町に出て青少年の
よく集まる場所で、伝統の社会活動や青少年活動に参加しない、もしくは悪影響を与えられやす い青少年を見つけ、指導と援助を行う。
地域の福祉事業の拠点となる総合青少年服務センターでは、上記のようなメイン事業のほか、
日本の学童保育のような事業や深夜の若者訪問支援や地域の軽度発達障害の青少年のサポートな どを提供していることも少なくない。また、政府が14歳から25歳までの青少年を対象に推進して いる「香港青年奨励計画」(
The Hong Kong Award for Young People
15))のプログラムも提供したり、ボーイスカウト・ガールスカウトとの提携を行ったりしているところもある。幅広い事業を展開 している16)。
青少年センターから地域の学校へSSWを派遣することは70年代に一部の学校から始まったこ とで、SSWのない学校は担当教員がサポートの必要があると見なした児童を青少年センターに 連れてサポートを要請することが行われていた。2000年、香港政府の政策によりすべての中学校 に必ず一人のSSWを置く政策から、学校と青少年センターの提携がより緊密のものへなってい く。
そして、サポートが必要ではあるが、学校の中もしくは青少年センターの中でサポートをする という伝統的なやり方に対象化されにくい若者たちを掬い取る手段として、地域若者訪問支援 ソーシャルワークサービスがある。一人の青少年を徹底的にサポートするには、その子の所属し ている学校との提携、そして、その子がよく利用している青少年センターとの提携も不可欠のも のとなっている。2008年の統計では、SSWのサポート件数が15
,
096件、地域若者訪問支援チー ムによってのサポート件数が5,
765件と(前年度とほぼ横ばい状態)ある17)。ソーシャルワーカーは学校にも、町にも、青少年センターにもいて、必要に応じて、サポート する対象の家庭相談も行ったりして、ある意味で学校と地域と家庭の提携をつなぐ重要な存在で あり、恵まれていない青少年がそれ以上ドロップアウトしていくディフェンスラインとなってい ると言えよう。
3.事例紹介
次に青少年センター中の事業について詳しく紹介する。調査では2011年7月に香港銅羅湾にあ る大坑青年センター(名称は青年センターではあるが、事業内容は総合青少年センターとほぼ一 緒)を訪問し、担当の方にインタビューをした。ここは大きな施設ではない。夏休み期間は朝10 時から夜10時まで開放している。センターに入るとオープンスペースがあり、液晶テレビとソ ファーが置かれていて、そこで遊んでいる子供もいれば、レッスン中の子供を待っている親もい る。音楽室と活動室があって、すべての壁とドアがスライド式で、あっという間にフロア全体を 広いロビーにすることができる。今年度の2月から5月まで政府の補助金を得て内装が行われた ため非常に新しいという印象を受けた。
香港の青少年センターは会員制で、年間会費は30香港ドル(約300円)で、決して高い値段で はない。そして、会員となれば、プログラムの参加費で、会員割引を受けることができる。低収 入の家庭の子どもの場合、割引もしくは無料となる措置が行われているという。
ここでのプログラムは中学生向けのものもあれば、年齢を問わず小学生から青年まで参加でき
るものもある。大坑青年センターの7−8月のプログラム表によれば、青少年の関心に沿ったも のが多い。たとえば、センター内では中三から中六(高三)の生徒向けに美白の講座(2時間・
約200円)や12歳以上の青少年向けの韓国語の講座(10
.
5時間・約1,
500円)、台湾の飲み物の作り 方の講座(3.
5時間・約500円)があったり、センター外ではボートの漕ぎ方やダイビングなどが 開設されたりして、ジャンルもさまざまである。これらの講座の多くは趣味程度のものもあれば、青少年のチームワークやチャレンジ精神を鍛えるものもある。そして中学生以上の青少年向けで 地域や低学年のためのボランティア活動も提供している。
大坑青年センターを訪問してもう一つ指摘できるのはセンターの発信の仕方である。これは香 港の青少年教育施設に総じて言えることだろう。香港の青少年はインターネットが好きだという 特徴を生かして、センターのスタッフが活動の写真を
プログラムが終わるたびに参加者にアンケートを配り、意見や要望を聞き入り、次回の企画に取 り組むように工夫を重ねている。
政府の基準では青少年センターは毎年必ず500人以上の会員を募集し、各セッションの出席率 は平均して40人以上を達成する必要がある。さらに、センターのメイン活動への参加は年間5千 人の参加数が求められている。センターの担当者によれば、毎日一つか二つのセッションを行わ ないと間に合わないという。つまり、センターには一日に平均して最低40人から80人までの利用 者を受け入れることになる。2010年の統計で香港全土の青少年センターの年間平均会員数が約 2
,
000人になっている18)。したがって、1万2千人ごとに一軒設置される総合青少年服務センター にとってはやさしい目標ではないと言えよう。その中で、やはり青少年の需要を良く考えたプログラムを提供することが利用者の増加につな がる手段であるという。たとえば、香港の教育制度は中学校と高校は合わせて7年制で中学校5 年から6年に進学するには統一試験がある。この試験で60−70%の学生が落とされるため、中5 卒の青年にとっていち早く就職することが緊急の課題となっている。それに応じて、政府は青少 年センターに学校を離れた少年たちに6−8ヶ月の就職サポート課程を開設している。この措置 によって、かなりの利用者を増やすことができたとのことである。
おわりに
本稿は香港の青少年センターのあり方を紹介することで、ソーシャルワーカーの存在が福祉と 教育を繋ぐ重要な存在であることを確認した。日本では文部省が2008年にSSW活用事業を展開 しており、「児童生徒の問題行動等の背景にある家庭や学校、友人、地域社会など、児童生徒を 取り巻く環境の問題(中略)学校だけでは解決困難なケースについては、積極的に関係機関等 と連携した対応」を求めている19)。その意味で、香港の青少年センターとSSWと若者訪問支援 チームの連携が良いモデルであると考えられる。
また、青少年センター内部の事業として、積極的にインターネットを利用し情報を発信したり、
プログラムの内容も多種多彩で青少年の目線から考えたり、青少年にアンケートを行い希望のプ ログラムの内容を聞いたりして、より多くの人に利用してもらうに工夫しているところが評価で きるだろう。
(孫 佳茹)
おわりに
本研究においては、青少年のための社会教育施設の現状をフィールドワークによって明らかに するとともに、どのようにすれば中高校生や青年層の利用促進を図ることができるのか、また青 少年がいかにして自主的な形で運営に参画できるのか、その可能性を検討することを課題として 設定してきた。
第1章においては、東京都内の子ども・青少年関連行政を担当組織と条例の側面から考察し た。東京都の市区では、子ども・青少年行政担当組織のほとんどが、福祉分野よりの「一元化」
が進められていることが明らかにされた。第2章では、都内の青少年事業に関して、子ども条例 を検討しながら紹介した。
第3章は、青少年教育施設の一つである児童館の近年の動向と課題について詳述した。第4章 では具体的に板橋区の青少年事業に焦点を当てて分析を行った。第5章では、香港における青少 年施策及び青少年センターを日本と比較しながら考察した。
子ども・若者の自己肯定感の欠如が言われる中で、次の時代を担う子ども・若者の参画を如何 に推進し、若い世代を育てていくのかは、日本社会にとって喫緊の課題である。今後、国際的な 比較検討も踏まえつつ、研究をさらに進展させていきたいと考えている。
(
小林(新保)敦子)
注 第1章
1)「「子ども庁」創設を検討へ…政府」『読売新聞』、2008年2月22日付。
2)「「子ども家庭省」見送り こども園、内閣府所管に」『日本経済新聞』、2011年1月28日付。
3)研究代表小林(新保)敦子『青少年のための社会教育施設に関する総合的研究−青少年の居場所 づくりと社会教育 平成20年度早稲田大学教育総合研究所企画研究中間報告書』、2011年3月。
4)元来、教育行政学の分野においては、「子ども行政」という用語について、「一般に就学前の段階 と義務教育段階を統合した領域である。つまり、小学校入学前の乳幼児から義務教育終了時まで の児童生徒を対象とする行政領域の名称である。近年の動向としては部局名に「子ども」あるい は「こども」を関した(ママ)組織が設置されていることがあげられる。」(青木栄一・島田桂吾
「地方政府の機構改革と教育委員会の機能全容−ネットワーク型ガバナンス論を参照した駒ヶ根市 と佐賀市の子ども行政分析−」『東北大学大学院教育学研究科研究年報(第59集・第1号)』2010年、
58頁。)とあるように、義務養育段階までの用語であるようだ。われわれが18歳までの育ちを支え る社会教育施設の在り方を検討するうえでこの用語ではふさわしくない。また「青少年行政」の 用語についても、いわゆる非行防止などの「健全育成」の文脈が強く、市民としての子ども・青