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全球熱塩循環において南大洋の果たす役割

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Academic year: 2021

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

全球熱塩循環において南大洋の果たす役割

平原, 幹俊

九州大学大学院総合理工学府大気海洋環境システム学専攻

https://doi.org/10.15017/26638

出版情報:Kyushu University, 2012, 博士(理学), 論文博士 バージョン:

権利関係:

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氏 名: 平原 幹俊

論文題名: 全球熱塩循環において南大洋の果たす役割

区 分:乙

論 文 内 容 の 要 旨

海洋の熱塩循環は全球規模の鉛直循環である。北大西洋高緯度と南極大陸周辺高緯度でのみ海 水が冷えて深く沈降し、重い深・底層水 (北大西洋深層水 NADWと南極底層水 AABW)ができ る。ごく狭い海域で形成されたこの二つの深・底層水が南大洋を介して世界中の海の深層を浸す。

遙か北太平洋まで深層水がじわじわ広がり上層に向かって湧昇するという。全球規模である以上、

熱塩循環で地球の片側の変動が反対側に大きな変動を及ぼすことは自然な帰結である。

このような熱塩循環には高緯度に熱を運ぶ働きがあり、その南北熱輸送は大気による南北熱輸 送に匹敵する。実際、NADW の形成に伴う海面からの放熱が北大西洋高緯度の大気を暖めてい る。そのため、熱塩循環とくに北大西洋における NADW の大量形成が現在の温暖な間氷期気候 を維持する上で重要な役割を果たしていると考えられている。しかしながらNADW 形成と、こ れに伴う子午面循環(NA-MOC と呼ぶ)が今後衰弱する可能性が指摘されている。産業革命以 降の人為起源温室効果気体の大気中濃度増加に伴う北半球高緯度の気温上昇とグリーンランド氷 床の融解量増加によって、NADW 形成域が昇温・低塩分化し軽い水になって沈降しにくくなる と考えられるためである。一方 NA-MOCが強くなるのではという逆の推測もある。南大洋上を 吹く偏西風が次第に強まりつつあることが示唆されており、その風の強化がまわりまわって北半 球のNA-MOC を強めるとする考え(後述)があるからである。

現在気候を維持するこのような熱塩循環の成り立ちと特性を理解し、更には将来予測に役立て ていく上で、南大洋の役割の解明が極めて重要である。南大洋は三大洋をそれらの南端で結合す る。全球熱塩循環において文字通り要の位置を占める海域であり、南極底層水の起点でもある。

南大洋の役割を理解する上では、南大洋の特徴的な地形、すなわち海底地形に遮られることな く東西に一周できる緯度-水深領域(以下回廊域と呼ぶ)の存在が重要であると考えられる。回廊 域においては、東西圧力傾度の東西積分がゼロになることから南北地衡流量の東西積分もゼロに なる(以下回廊効果という)。ドレイク海峡の緯度帯(南緯55~65度)に回廊域が存在すること によって回廊効果が働き、東西積分した南北地衡流は回廊域よりも深いところに制限される。回 廊域がない場合に比べると南向き熱輸送がきわめて小さいものになる。回廊域の成立が新生代後 半の寒冷な気候をもたらした一因とも考えられている。

本研究では、海洋大循環模型を用いた数値実験により、回廊域をもつ南大洋が全球熱塩循環に

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おいて果たす役割を調べる。回廊効果に焦点を当てるため、現在の回廊状況だけでなく、回廊の 有無や変形回廊・海峡を含め系統的に調べていく。まず、海洋大循環が現在のような基本構造を 成すうえで回廊域の存在がいかなる意味を持っているのかを確認する。次に南大洋上の西風応力 の変化が全球の深層循環に変化をもたらす過程を理解する。その上で近い将来、NADW 形成域 が昇温・低塩化する中でNA-MOCが弱まりあるいは強まる可能性について考察する。

第1章では、研究の背景と目的を述べ、論文の構成を示す。

第2章では、本研究で用いる数値模型と実験手法・設定およびその意味を概説する。長時間積 分の必要な気候模型であるため粗い格子模型を採用する、海水密度は温度・塩分で決まるが簡単 のため独立な要素は温度のみとする、温度に対する海面条件は指定した海面温度への緩和に限定 する、などなどの単純化を施す。その代わり広い範囲の地形設定や風分布を調べる事を述べる。

第3章では、南大洋に回廊域が存在することによって全球熱塩循環の構造がどのように変わる かを調べる。赤道に関して南北対称な地形・海面境界条件の下での熱塩循環は南北対称となる。

これに対して南半球にのみ回廊を設けた場合の熱塩循環には南北非対称性が現れる。回廊のある 南大洋の高緯度で沈み込むAABWは北半球高緯度で沈み込むNADWよりも重くなる。 AABW の形成に伴う子午面循環(AA-MOCと呼ぶ)は弱まって底層の循環となる。回廊の存在により NA-MOCは強くなりAA-MOCの上に重なる形となる。現実に近づけた地形・海面境界条件の下 でも、回廊域があることによってAA-MOCが相対的に弱く、NA-MOCが強くなる。現在気候の 特徴であるこのような南北非対称性の成因のひとつは、南大洋に回廊域が出現したことであると いえる。回廊域の有無や変形回廊が熱塩循環にどのような変化をもたらすかを系統的に考察する。

第4章では、南大洋の西風が強くなると北の対極にあるNA-MOCが大きくなる理由を調べる。

回廊域における平均海上風は西風であり表層エクマン輸送は北向きである。これを補償する南向 きの地衡流は回廊効果により海底地形(2000~3000m)よりも下層に制限される。海面西風応力 が北向きエクマン輸送を通じて駆動する子午面循環では、回廊域の北側で表層水が沈降し回廊域 で深層水が湧昇する。西風応力を加え始めると、回廊域の北側の水温が高くなり、この温度偏差 がケルビン波として北半球東岸にまで伝播する。ただし北半球高緯度の弱成層域には進入できな い。北半球の昇温は指定した緩和型海面境界条件の下で海面からの放熱を増やし水平温度勾配が 増大する。温度風の関係から東西温度勾配の増大は南北流速の鉛直シアの強化すなわち子午面循 環の強化を意味する。NA-MOCの強化は北半球での放熱を増やす。最終的な定常状態では、無 風の場合に比べて冷たくなった南大洋以南で海面からの放熱が減り、その分暖かくなった北半球 高緯度で海面からの放熱が増えて釣り合う。南大洋の西風応力が強まるとNA-MOCも強まる過 程を概略以上のように理解することができる。

最終第5章では研究成果を総括する。系統的な地形・風設定に応じて南大洋および全球の熱塩 循環、とくに NA-MOC がどう変わるかをまとめる。NADW 形成域が昇温・低塩化する中で南 大洋を吹く偏西風の強化で NA-MOC が強まる可能性についても考察する。最後に本研究で扱わ なかった課題を整理し今後取り組むべき研究の方向性を示す。

参照

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