九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
肝特異的転写因子の過剰発現による肝機能誘導型遺 伝子組換えヘパトーマ細胞の開発
ジェーン, トネロ
https://doi.org/10.15017/1866257
出版情報:Kyushu University, 2017, 博士(システム生命科学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
(様式6-2)
氏 名 Jane Tonello
論 文 名 Development of genetically engineered hepatoma cell lines with inducible liver functions by overexpression of liver-enriched
transcription factors (肝特異的転写因子の過剰発現による肝機能誘 導型遺伝子組換えヘパトーマ細胞の開発)
論文調査委員 主 査 九州大学 教授 上平 正道 副 査 九州大学 教授 片山 佳樹
副 査 九州大学 教授 井嶋 博之(工学府)
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
肝臓は体内最大の臓器であり、その機能は代謝、消化、解毒、ホルモン・タンパク質生産および 栄養分の貯蔵など多岐にわたっており人体の生命維持に不可欠である。現代医療において重篤な肝 傷害に対する効果的な唯一の治療法は肝移植である。しかし、移植臓器ドナー不足が慢性的な問題 となっている。移植臓器が現れるまでの橋渡しとして、患者の肝臓の機能をサポートするために、
肝機能を有する細胞をバイオリアクターに充填して血流を介して血液浄化を行うバイオ人工肝臓シ ステム(BAL)が使われうる。BAL の効果はバイオリアクターに充填する細胞に大きく依存しており、
生体から取得した初代肝細胞や肝がん由来のヘパトーマ細胞が用いられている。Yamamoto らは、マ ウス由来のヘパトーマ細胞である Hepa1-6 細胞に、肝細胞において機能発現に重要な役割を果たし ている8種類の肝特異的転写因子(HNF1α、HNF1β、HNF3β、HNF4α、HNF6、C/EBPα、C/EBPβ、
C/EBPγ)遺伝子を誘導可能な発現ユニットとして導入し、それらの過剰発現によって、初代肝細胞 に匹敵する肝機能発現を誘導できる細胞(Hepa/8F5)の樹立に成功している。本論文では、Hepa/8F5 の機能特性解析を行い BAL に使用するために基礎的な知見の蓄積を目的としている。まず、機能発 現を詳細に解析するために、DNA マイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子発現解析を行い、親細胞 である Hepa1-6、誘導薬剤添加・非添加時の Hepa/8F5 の遺伝子発現の比較解析から、Hepa/8F5 では 誘導薬剤添加時に多くの肝特異的な代謝経路が活性化していることを明らかにしている。Hepa/8F5 では、初代肝細胞と同様にスフェロイドといった3次元的な組織として培養すると肝機能発現がさ らに向上するが、その際の網羅的な遺伝子発現変動についても解析を行っている。3次元的に組織 化した Hepa/8F5 を大量調製するために、多孔質ゼラチン担体への Hepa/8F5 細胞の固定化について 検討を行い、最適な固定化条件によってスフェロイド培養に匹敵する機能を発揮できることを見出 している。さらに、Hepa/8F5 の機能誘導においてエピジェネティック薬剤添加の効果について調べ、
トリコスタチンAとアスコルビン酸誘導体の共添加が有効であることを明らかにしている。また、
ヒトヘパトーマに対して同様のアプローチによる機能誘導についても検討を行っている。
以上の結果は、肝特異的転写因子の過剰発現を誘導することによって増殖と高肝機能発現を制御 可能な遺伝子改変ヘパトーマ細胞を、バイオ人工肝臓システムへ適用する際に重要な基礎的知見を 与えるもので、これまでにない新しいバイオ人工肝臓システムの開発に寄与するものであり、 生命 工学の分野において価値ある業績と認められる。
よって、本研究者は博士(システム生命科学)の学位を得る資格を有するものと認める。