九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
生態系管理と合意形成の数理的研究 : 違法伐採の強 いリスクがあるインドネシアの植林地に於けるアグ ロフォレストリーと利益分配制度の効果について
久保, 裕貴
https://doi.org/10.15017/1931738
出版情報:Kyushu University, 2017, 博士(理学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
(様式6-2)
氏 名 久保 裕貴
論 文 名 Mathematical study of ecosystem management for tropical plantation in Indonesia under a high risk of illegal logging:
agroforestry and profit-sharing, and consensus formation(生態系 管理と合意形成の数理的研究:違法伐採の強いリスクがあるインドネ シアの植林地に於けるアグロフォレストリーと利益分配制度の効果 について)
論文調査委員 主 査 九州大学 教授 巌佐 庸 副 査 九州大学 教授 舘田 英典 副 査 九州大学 准教授 村上 貴弘
(持続可能な社会のための決断科学センター)
副 査 九州大学 助教 Joung-Hun Lee
(持続可能な社会のための決断科学センター)
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
生態学や環境問題の現場における意思決定は、複数のステークホルダーの関心が競合することや、
非常に大きな不確実性が存在することによって、しばしば複雑なものになる。意思決定の過程では、
異なる組織やステークホルダーが状況に応じた合意を導き出し、適切な施策が履行されることが必 要である。
2000年代以前にアジアの熱帯林で盛んに取り入れられたコミュニティ参加型の森林管理は、その 多くが失敗に終わっている。その理由として、旧来のものにはコミュニティの要求やステークホル ダー間のコンフリクトを考慮したインセンティブを提供する視点が欠けていたということが大きい。
現在の参加型森林管理は、アグロフォレストリーや木材利益の分配制度を中心に、コミュニティの 収入を増やすことで貧困緩和を促している。同時にコミュニティへ管理責任や違法伐採のリスクも 共有させ、森林管理へのモチベーションや主体性を持たせることで違法伐採の抑制を試みている。
本論文では、違法伐採が蔓延する熱帯林の生態系管理の現場を例に、最適な意思決定についての 数理モデルを導いた。植林地においてある時点で木を伐採し収穫したときと、次の年まで収穫を遅 らせたときの収益をダイナミックプログラミングによって比較し最適な収穫時期を計算した。また、
土地所有者である国営企業と労働者であるコミュニティのそれぞれの収益をモデルに表し、アグロ フォレストリーや利益分配制度の効果を解析した。
結果として、樹木の生存率が低く将来収益の見込みが小さい場合においては、木を長く育てるよ りも、アグロフォレストリーの適用可能な比較的短い期間のみ木を育て農業生産を続けたほうが高 い利益を得られる場合があることが示された。また、第三者による違法伐採が起こることで再植林 の必要が生じ賃金が得られるため、とくに植林初期の段階において労働者が違法伐採を見過ごすよ うな期間が生じ得ることを示唆した。加えて、コミュニティが森林監視のレベルを選ぶことで違法 伐採のリスクが変動するゲームモデルを解析し、木への物理的撹乱が大きいときには、利益分配率 を上げ違法伐採を抑制することがより有益であることを示した。
利害の異なるステークホルダー間での合意形成の過程では、それぞれの要求やコンフリクトを相
互に満たしながら最終的には向かう先を合致させることが必要である。動物の群れが自己組織化的 に調和のとれた集団行動を作り出すように、異なるステークホルダーが共同することで、よりよい 合意を構築し、効果的な生態系管理を行うことができるはずだ。
以上の研究は、数理生物学と生態学・環境科学について重要な貢献である。よって、本論文は博 士(理学)の学位論文に値するものと認める。