第3回
下馬栄養倶楽部
点滴の中身がわかる!
静脈栄養の話
伊在井
2014年7月15日 NST委員会
NST専門療法士への道 薬局 小倉細胞内外の水・電解質の移動
細胞内液
組織間液
イオンチャンネル
電解質 ブドウ糖 アミノ酸 その他 水毛細血管
毛細血管壁 晶質 水 静水圧 膠質浸透圧 自由に通過 水 アルブミン 細胞膜K
Na
炎症で 血管外へ 漏れる細胞外液
細胞
血漿
電解質 ブドウ糖 アミノ酸 その他細胞内はK↑、細胞外はNa↑
細胞内液
組織間液
イオンチャンネル
細胞膜K
Na
細胞外液
細胞
血漿
細胞内 細胞外Na
14 140K
160 4Cl
3 110 (単位:mEq/L)体液と浸透圧
体液の浸透圧 285±5 mOsm/L
=2×血清Na(mEq/L)+血清Glu(mg/dL)/18+BUN(mg/dL)/2.8
晶質浸透圧
膠質浸透圧
低分子物質:
電解質、ブドウ糖、アミノ酸高分子物質
:
主にアルブミン *細胞膜を介し 浸透圧差で 水分が移動する。 *毛細血管壁を介し 血漿タンパクの 浸透圧差で生じる。 (血漿浸透圧の0.5%)*等張液=血漿浸透圧に等しい。
輸液製剤の基本は等張液
生理食塩水
(0.9%NaCl)
5%ブドウ糖液
*5%ブドウ糖液は本来等張液だが、ブドウ糖はインスリンの作用ですみやか に血中から取り除かれ、ただの水になる。 この結果、細胞外液の浸透圧が下がり、水が細胞外から細胞内へ移動し、 事実上,低張液と同様となる。細胞外へ!
細胞内外へ!
輸液の目的 大きくは2つ
目的 例 製剤体液管理
循環血漿量の維持出血等の各種ショック、 手術、消化液喪失 補充輸液 生食、ハルトマン栄養補給
カロリー・ビタミン・微量元素の補給 維持輸液 ソリタT3、 KNMG3号、 ピーエヌツイン、 etc その他 薬剤投与ルート確保 補充輸液、 5%Glu、etc目的から見た輸液の種類
大きくは2つ
補充
輸液
維持
輸液
栄養成分や水分
を補給
細胞外液の喪失
を補充
ヘスパンダー(アルブミネート)4.4%アルブミン
兄弟
いとこ
補充輸液
グループ
ハルトマン
生理食塩水
(生食)
補充輸液の種類
種類 Na K Cl 乳酸 酢酸 当院 採用品生理食塩水
154 0 154 0 0 生理食塩水リンゲル液
147 4 109 0 0 -乳酸加
リンゲル液
130 4 109 *28 0 ハルトマン酢酸加
リンゲル液
130 4 109 0 *28 (ヴィーンF) *肝・筋で代謝され,HCO3-を産生しアシドーシスを防ぐ。消化液は細胞外液です。
消化液 分泌量 (ml/日) 濃度(mEq/L) Na K ClHCO3-唾液
1500 10 25 10 15胃液
2500 70 10 100 0胆汁
500 140 5 100 30膵液
700 140 5 100 70腸液
3000 140 10 100 25Cf.血漿
2500 140 5 100 27補充輸液の使用例
★ショックの輸液
心原性ショック以外はまず補充輸液1-2L急速投与!! *出血性ショック: 2Lを15分で、反応見る。 (小児は20ml/kgを1-2回繰り返す、輸血は輸液3Lを超えな いうちに…) *敗血症性ショック: 血管内水分が血管外に漏出。 昇圧剤よりまず輸液が大事!!★イレウス
:嘔吐・イレウス管排液分 (腸管内貯留予測分)を補充。 *0.5ml/kg/hrの尿量確保目標。 1ml/kg/hrの尿が得られれば欠乏なし。( )糖濃度 ソリタT1 (2.6%) ソリタT3(4.3%) ビーフリード (7.5%) KNMG3号 (10%) PNツイン TPN
維持輸液
グループ
維持輸液の作り方
生食の割合↑
=Na補給効果
(細胞外液)
ブドウ糖の割合↑
=水分補給効果
(細胞内外)
維持輸液の組成
混合 生理 食塩水 5% ブドウ 糖液 Na 77mEq/L Na 51mEq/L Na 38mEq/L 1/2生食(1:1) 1/3生食(1:2) 1/4生食(1:3) Na 154mEq/L 1号液 2号液 3号液 4号液 Na補給効果 水補給効果3号液の考え方
健常人の水分・電解質の平均1日維持量を目安。 (絶食の50kgの成人に4本2000ml投与。)Na
:日本人の平均食塩摂取量8-12gより少なめ、 70mEq/日程度。K
:最小必要量の40mEq/日程度。糖質
:1日約400kcal(ブドウ糖100g) =肝臓のグリコーゲンを切り崩さない最低量。 1週間程度まで許容。更に継続すれば筋肉が異化。水
:30-40ml×体重/日。50kgで2000ml。維持輸液の種類
種類 糖濃度 (%) (mEq/L) Na K Cl アミノ酸 用途 ソリタT1 2.6 90 - 70 - 小児の開始液 ソリタT3 4.3 35 20 35 - 4本で健常人の 1日維持量 ビーフリード 7.5 35 20 35 + アミノ酸入りPPN KNMG3号 10 50 20 50 - 高濃度糖加維持液 (TPNへのつなぎ) PNツイン1号 12 50 30 50 + TPN PNツイン2号 16.4 45 27 45 + TPN Cf.ハルトマン - 130 4 109 - 補充輸液覚えておきたい数字
•
Na 1日必要量 1mEg/kg•
K 1日必要量 0.5mEq/kg•
1日に最低必要な糖 100g•
塩化ナトリウム 1A 2.9g•
塩化カリウム 1A 20mEq浸透圧による輸液製剤の分類
アルブミン製剤
等張電解質液
低張電解質液
膠質液
Colloid晶質液
Crystaloid 晶質浸透圧 電解質 ブドウ糖 アミノ酸人工膠質液
膠質浸透圧 血漿タンパク質 (アルブミン) 高分子物質 ・生食 ・乳酸加リンゲル ・1~4号液 ・4.4%アルブミン(アルブミネート) ・25%アルブミン ・デキストラン40(低分子デキストラン) ・ヒドロキシエチルデンプン (ヘスパンダー)体内の水分量は
体重の60%
40
60
100
0
細胞内液
(40%)
細胞外液
(20%)
組織間液 (15%)循環血漿量
に相当する
血漿 (5%)補充輸液の分布
40 60 100 0 細胞内液 (40%) 細胞外液 (20%) 組織間液 (15%) 血漿 (5%)補充輸液(4分の1が血管内)
3:1
維持輸液の分布
40 60 100 0 細胞内液 (40%) 細胞外液 (20%) 組織間液 (15%) 血漿 (5%)維持輸液(12分の1が血管内)
膠質液の分布
40 60 100 0 細胞内液 (40%) 細胞外液 (20%) 組織間液 (15%) 血漿 (5%)アルブミネート、ヘスパンダーは100%血管内
★今、腸が使用不可でも、 使用の可能性は 常に考えていきましょう! ★静脈栄養中でも、 腸が使用可能になったら、 少しずつ経腸栄養を併用!
YES
期間は?
末梢静脈栄養 (PPN) 中心静脈栄養 (TPN)NO
ASPENアルゴリズムを改変 胃瘻(PEG) 腸瘻 経鼻胃管 2週間未満 2週間以上消化管利用可能
静脈栄養
経腸栄養
6週間未満 6週間以上栄養投与経路の選択
経口摂取
NO
腸閉塞 腸管穿孔 腸管虚血 ★水飲みテスト、ST依頼し、 摂食嚥下機能評価して、 経口摂取の可能性を検討!!栄養処方設計の立てかた
*肥満・全身性浮腫は標準体重(身長2×22)で計算。1日エネルギー必要量
(kcal/day): 体重(kg)×301日水分投与量
(ml/day): 体重(kg)×30~40蛋白質(アミノ酸)
:1g/kg/day脂肪
:1g/kg/day、総カロリーの20%糖質
:総エネルギー-蛋白質-脂肪 (最低100g/day=400Kcal必要) *TPNの場合、ビタミン、ミネラルも忘れずに…各栄養素の投与量
オーダーの具体例
体重50kgの患者さん、イレウス管を挿入して入院。 【初期評価】•
イレウス管からの排液が1000ml。•
腸管に停滞した腸液が推定1000ml。 →補充輸液として、ハルトマン500ml×4本(側管) 2時間に1本投与し尿量を見て再評価。•
数日間絶食が続く予想で、維持輸液を行う。 →50kg×40ml/kg/day=2000ml/day 80ml/hrで持続。 ①ソリタT3 500ml+サブビタン1A、 ②ソリタT3 500ml、③ソリタT3 500ml、 ④ソリタT3 500ml★
ここでマル暗記コーナー
電解質のmEq/g換算
NaCl 1 g=
Na 17 mEq
KCl 1 g=
K 13 mEq
各栄養素のエネルギー
蛋白質(アミノ酸) 4 kcal/g
脂肪
9 kcal/g
糖質
4 kcal/g
★
ここでマル暗記コーナー
24時間で投与する場合の1時間量
(脊髄反射レベル)
2000ml/day は 80ml/hr
1500ml/day は 60ml/hr
1000ml/day は 40ml/hr
500ml/day は 20ml/hr
100ml/day は 4ml/hr
ブドウ糖の常識
•
体の飢餓を防ぐ最低1日必要投与量: 100g/日•
投与速度: 5mg/kg/min以下が原則。 →50kgのひとは、15g/hr以下に。 →ソリタT3 500ml(糖21.5g)の最大投与速度は90-120分。 ※糖尿病患者はブドウ糖処理速度が遅いので、 5-10gにつき、速効型インスリン1単位点混。•
ブドウ糖液の既製品 5%、10%、20%、50% →生食や塩化Naの組み合わせで、K freeの輸液を作成できる。•
末梢輸液は、高浸透圧で血管痛や静脈炎が起こる ため、糖濃度は10%が限界。アミノ酸製剤
•
当院採用アミノ酸製剤 末梢用(糖添加) プラスアミノ 500 ml (Kなし) ビーフリード 1000 ml (Vit.B1含) 中心静脈栄養用(200ml): アミパレン、プロテアミン、ネオアミュー(腎不全用)•
NPC/N(非蛋白熱量/窒素量) アミノ酸が高率よく蛋白合成に利用されるために、窒素1gあたり必要な 非蛋白熱量。PNツイン1号・2号は158。 一般 :150-200 重症感染症 :100 腎不全 :300-500脂肪製剤の常識
•
糖質の約2倍のエネルギーであり、効率が良い。 →NPC/Nを上昇させるのに良い。•
適正投与量:1g/kg/日、総カロリーの20%。•
当院採用:20% イントラリポス 100ml (200kcal)•
適正投与速度: 0.1-0.2g/体重/hr (脂肪の代謝速度を考慮してゆっくり入れる) →覚えにくいので、体重の半分ml/hrと覚えよう ! ★20%イントラリポス100ml の投与速度: →体重50kgのひとは25ml/hrで4時間。静脈栄養は、
シングル
ルーメンで十
分。
TPN
フィルター
フィルターは通さず、 最も患者さん側の側管から 単独で使用する。 使用後は生食でフラッシュし、 脂肪乳剤のラインは使い捨て。投与方法
脂肪乳剤は感染に弱いです!!
脂肪
乳剤
ビタミンの常識
•
特に留意が必要なビタミンは、ビタミンB1! 欠乏で、ウェルニッケ脳症、乳酸アシドーシスが起こり得る。•
1日最低必要量 経静脈栄養では3mg/day。 *ビーフリード(1本1000ml)はビタミンB1 1.5mgを含有。 ビタミンB1の必要量は摂取炭水化物量に影響受けるので、 ビーフリード2本で足りるかどうか不明。•
ビタミンB1欠乏によるウェルニッケ脳症は、医原性とされ、 訴訟で負けている事例が複数ある。 →末梢では、サブビタン 1日1A TPNでは、ネオラミンマルチ 1日1A 入れよう!! *TPNでは、ついでにメドレニック(微量元素)も。中心静脈栄養の常識
•
用語:「IVH挿入、IVH施行」 →現在は『CVカテーテル挿入、TPN施行』が主流。•
一定の投与速度で持続投与を。•
開始時は2日あがりなど段階的に糖濃度上昇を。 安定するまで週2-3回、1日4回簡易血糖をチェックしましょう。•
当院採用製剤は、脂肪入ってません。別途補充しましょう。•
中止時の注意:半分の速度に慣らして数時間みてから、 または、カロリー下げた輸液内容に交換してから抜去。•
カテーテル敗血症:速やかに抜去し必要に応じ抗生剤投与。 真菌性眼内炎に注意!「最近カーテンに水玉模様が見えます!」投与方法の原則
•
維持輸液は、絶食時は1日必要輸液量を、24時間で 投与が基本。 *食事摂取がある場合、厳格な尿量測定がない場合、 QOL重視して間歇的輸液も許容。•
糖濃度は、日内で上げ下げしない。 ダメな例: 1本目 PNツイン1号(糖濃度12%) → 2本目 ソリタT3 (糖濃度4.3%) → 3本目 PNツイン…PPN→TPNまでの処方…具体例
体重50kg、水分量約2000ml/日、 総エネルギー約2000kcal/日を目標とした場合、•
1-2日目 ソリタT3 500ml×4本 80ml/hr (4本のうち1本にサブビタン1A点混)•
3-4日目 KNMG3号 500ml×4本 80ml/hr (4本のうち1本にサブビタン1A点混)•
5-6日目 PNツイン1号 1000ml×2本 80ml/hr (1本目にネオラミンマルチ1A,メドレニック1A点混) 20%イントラリポス100ml(4時間で投与)•
7-8日目 PNツイン2号 1100ml×2本 80ml/hr (残破棄,1本目にネオラミンマルチ1A,メドレニック1A点混) 20%イントラリポス100ml(4時間で投与)輸液ルートの選択
★急速輸液には太く短い留置針を
末梢静脈に!!
外傷、ショックでは、 18G以上の留置針を上肢に! →CVC以上の急速輸液が可能。•
末梢静脈確保困難。•
薬物多剤併用必要例。•
刺激性、腐食性、高浸透圧性の薬液の投与。•
血行動態のモニタリング。CVCが必要なのは…
末梢、こんなに 刺さないでぇ!!★
複数の薬剤投与が
必要なら
マルチルーメン。
(現在は最大で4つ)★
栄養目的だけなら
シングルルーメン。
(合併症少ないのはPICC。) マルチルーメンは潜在的に 感染の危険を増やす!!CVルートの選択
内頸静脈
鎖骨下静脈
尺側皮静脈
(PICC)
大腿静脈
穿刺部位と合併症
感染 血胸・気胸 動脈穿刺時の止血 内頸静脈 中 + 容易 鎖骨下静脈 低 ++ 困難 大腿静脈 高 - 容易 安全な中心静脈カテーテル挿入・管理のための手引き (社)日本麻酔科学会・安全委員会血管内留置カテーテル由来感染の
予防のためのCDCガイドライン 2011
患者の管理に
必要最小限
の
ポート数またはルーメン数を有する
CVCを使用する。
…
カテゴリーIB
日本静脈経腸栄養学会
静脈経腸栄養ガイドライン第3版(2013)
必要最小限
の内腔数の
カテーテルを選択する。
他部位と比較し、感染のリスクを上げることなく 30日以上留置できる。 気胸・血胸がない。 抗がん剤の試験的投与、 栄養ルートのみの使用に向く。 カテが長く細い。 →急速輸液に最も適さない。 静脈炎のリスク。 ●DVTのリスクあり。
Risk of venous thromboembolism
associated with peripherally inserted central catheters: a systematic review and meta-analysis The Lancet,Volume 382, Issue 9889, Pages 311 - 325, 27 July 2013