• 検索結果がありません。

心臓ペースメーカー植込み300症例の遠隔成績

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "心臓ペースメーカー植込み300症例の遠隔成績"

Copied!
14
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

(東女医大誌 第49巻 第10・11号頁 1028〜1041  昭和54年11月)

〔牛寺別掲載〕

心臓ペースメーカー植込み300症例の遠隔成績

東京女子医科大学第一外科学教室

      (主任:和田寿郎教授)

       日本心臓血圧研究所外科       柳 沢  正

       敏       .ヤナギ  サワ    マサ   トシ

(受付 昭和54年8月28日)

      Long.term Prognosis of 300 Patients with Card五ac Pacemaker lmplants        Masatoshi YANAGISAWA, M.D,

      The Heart Institute ofJapan(Director l Pro£Juro wADA)      

       Tokyo Women,s Medical College

   Three hundred patients h翫d been tre馬ted with permahent pacemaker implants.in the Heart Institute of Japan. The fbllow−up was carried out in Febrary,1978. Indicat量on fbr permanellt pacemaker implants has been expanded。 The number of patients with cgmplete A−V blQpk were almost constant, but patients with sick sinus syndrome have increased year by year. Mortality of patients with complete A−V block a仕er implant was 19%and that of sick s量nus syndrome was 3%. In other words,

survival rate of sick si耳us symdrome a仕er implant w3s beter than that of complete A−V biock. Surv三val rate of one year fbllowing implant was 80%, the rate of 2 years 76%and the rate of 3 years 64%..

   The longevity of two hundred fi負y one endo cardial pacing electrodes were studied, resulting iI198%

of 5 year−surVival and in 86% of g year−survival・ Present co皿坦ercialy avai正able endocardia正1eads are satis魚ctory enough to be used in long term basis. CTR in 24%of the pat三ellts with画cemaker implants became smaller signific昂ntly. CTR in 6%of the patients with pacemaker implants量ncreased to some extent. Various merits and demerits of bipolar and unipolar electrodes were discussed.

       目. 次      4.小児(10歳以下)植込み症例の検討  心臓ペースメーカー植込み300症例の遠隔成績       5・心内膜電極の寿命

第璋緒言 .  .  .. 6・ペース・一力髄込み儲における心胸郭比の

      変化

第2章 対象および方法

      7.単極電極と双極電極の比較

第3章結果

      8.患者の就業状態

 1.心電図所見よりの分類とその推移

      9・患者の精神状態

 2.植込み患者の生存率曲線

      第4章 考按

 3.完全房室ブロック患者と洞不金症候群患者の比    第5章 結語    較      .      文献

(2)

       第1章 緒  言

 近年のエレクトロニクスの急速な進歩に伴い.

人工ペースメーカーの発達は目覚ましく,特に,

水銀電池に代り,リチューム電池1)の臨床使用に より,耐久年数が著るしく延び,又,ペースメー カーの性能が安定しているに従って,治療として のペースメーカの有効性は画期的なものとなっ

た.以前に問題にされた種々の合併症も2) 13),最 近ではほとんど見られなくなり,その植込み適応 も拡大される14)醐21)様になったが,一方,それら の患者の長期遠隔成績が問題となり始めている.

本論文では,長期遠隔成績について,検討を行な

った.

     第2章 対象および方法

 われわれの施設で昭和42年より昭和53年2月までの.ペ ースメーカー植込み300症例を対象とした.その年齢分 布は(図1)の如く,60歳台にピークが見られ,男性は 164例で,女性は136例で,最少年齢は5ヵ月,最高年齢 は90歳である.植込み時の平均年齢は53歳でありた.

Cases 80 70 60 50 40 30 20 10

0 11 21 31 41 51 61 71 81 1 1 1 1 1 1 1 1 1 10 20 30 40 50 60 70 80 90

        Years

図1 Age D圭stribution

       第3章 結  果

 1.心電図所見よりの分類とその推移

 300症例を主に心電図所見より分類すると,完 全房室ブロック191例,洞不全症候群64例,外科 手術後の完全房室ブロック19例,先天性房室ブロ ック16例,弁膜症に伴う心房細動兼徐脈10例であ った(表1).過去10年間のペースメーカー植込 み症例数の変化を見ると,図2の如くである.症 例数は初回植込みのもので,ペースメーカー交換 症例は含まれていない.1968年には,完全房室ブ

表1 Causes

3QA−VB亙ock 191cases Sick Sinus Synd. 64cases

Surgica1 19cases

Congenita1 16cases

B毎dy−arrhythmia 10Cases 300cases

Cases 50 40 30 20 10

68697071727374757677         Years 訓点Others 匪]Sick Sinus Synd.

囮3。A−V BIock

図2 Amua11mplant

ロックは7例,洞不全症候群はなく,その他のも のは1例.また1969年には,完全房室ブロックは 10例,洞不全症候群は4例,その他のもの4例.

1970年は,完全房室ブロックは21例,洞不全症候 群は2例,その他のもの3例,1971年は,完全房 室ブρックは23例し洞不全症候群は2例,その他 のもの2例.1972年は,完全房室ブロック18例,

洞不全症候群2例,その他のもの1例.1973年 は,完全房室ブロック24例,洞不全症候群1例,

その他のもの7例.1974年は,完全房室ブロック 16例,洞不全症候群5例,その他のもの5例.

1975年は,完全房室ブロック19例,洞不全症候群 10例,その他のもの9例,1976年は完全房室ブ ロック23例,洞不全症候群20例,その他のもの6 例.1977年は,完全房室ブロック23例,洞不全症 候群17例,その他のもの9例であった.これから 分るように,完全房室ブロックの症例数は過去8 年間毎年20例前後で一定している.一方,洞不全 症候群の症例数は年々増加しており,ペースメー 一1029一

(3)

カー植込み症例数の増加は主にこのためである.

 2.植込み患者の生存率曲線

 300症例の手術後の生存率曲線は(図3)に示 した.3年』目が85%,5年目が76%,7年目が72

%である(図3).の上の実線は今回の調査300例 のもので,下の点線は4年前に調査した時の曲線 である22).4年前こ比し現在の方が生存率曲線が 良好な理由は,ペースメーカー植込み適応の拡 大,特に洞不全症候群患者にもペースメーカー植

Percentage ユ00

90

80

70

\き

     b

亡例がない.したがって当(図4)に見るよう に,洞不全症候群の生存率曲線は,完全房室ブ

Percentage 100

90

80

70

h一㌔q

、てコ㌧

Slck Slnus Synd

\⊂天 3σA−VBlock

  ひ一一q       o

01234567

      Years  図3 Survival Curve

01234567

      Years  図4  Survival Curve

表2 Mortality 3。A−VBbck 19%

Sick Sinus Synd. 3%

Surgica1 26%

Coねgenita1 19%

B「ady−a「rhythmi・1 20%

込みを始めたためである.300症例中,完全房室 ブロック191例の死亡率は19%であるが,洞不全 症候群64例の死亡率は3%である。外科後房室ブ

ロック19例の死亡率は26%,先天性ブ揖ック16例 の死亡率は19%,心房細動兼徐脈患者10例の死亡 率は20%である(表2).洞不全症候群患者にお いて,著明な死亡率の低下を認める23).このよう な患者にペースメーカーを植込むようになったの で,生存率曲線は必然的に良好となる.

 3.完全房室ブロック患者と肝不全症候群患者 の比較

 この両群の生存率曲線をかくと(図4)のよう になる.64例の洞不全症候群では,満2年を経過

した後,2例が心不全で死亡したが,その他に死

ロック患者の生存率曲線より,はるかに良好であ る.この両開の中で生存している患者の自覚症を 検討した.New York Heart Associati・nの機能分 類を使用すると,完全房室ブロック群では,1度 は68器,∬度は26%,皿度は6%であった.一 方,洞不全症候群では,1度は73%,E度は27%

で皿度の患者はいなかった.自覚症からでは,こ のように,干物間に大きな差はなかった.多少,

洞不全症候群が良好という結果であった.

 4.小児(10歳以下)植込み症例の検討  ペースメーカー植込みは一般には,成人又は,

老人18)が対象であるが,近年ペースメーカー本体 の小型化と,合併症の激減などにより,乳幼児,

新生児二9) 21)24)幻28)にも広く使用されるようになっ

た.300症例中,10歳以下の小児例は26例あり,

男10例,女16例で,初回植込み時の最:低年齢は5 ヵ月で平均4歳4ヵ月である.年齢分布は0〜3 歳11例,4〜6歳7例,7〜10歳8例であった.

ペースメーカー植込み理由は,外科手術後の房室 プロヅク10例,先天性完全房室ブロック16例であ った.後者のの16例中,解剖学的心奇形を合併し ているもの4例,合併していないもの12例であ る.26例中24例は心筋電極,2例は心内膜電極で ある.心筋電極では,原則として,左第5肋間に 小切開を加え左室側壁に心筋電極を縫着した.ペ ースメーカー本体は,26例中23例は腹壁前面の皮 下に埋没した.初期の頃の3例では,誘導型ペー スメーカーだつたため,胸壁皮下に埋没した.26

(4)

例中単極は16例,双極は10例であった.初回植込 み後の観察期間は3年以内のもの工4例,4年以上 のもの12例であり,最長は10年7ヵ月である.26 例中8例の死亡を認め,死亡率は30%である.

 植込み理由別に死亡率を比較すると,外科ブロ ック群は10例中5例で50%,先天性房室ブロック 群は16例中死亡3例で19%であった.後者のうち 心奇形を合併しない12例のうち3例が死亡してい るが,心奇形を合併している4例中には,死亡例 がなかった.

 死因としては,心不全4例,急死(不整脈又は ペーシソグ不全)3例,』 フ炎1例であった.8丁 目死亡のうち,5例は植込み後1年以内に死亡 し,1例は1〜2年の間に死亡し,他の2例は2

〜3年の間に死亡した.一方,生存例は1年以内

1例,1〜2年1例,2〜3年5例,3年以上11

例である.これよりG職kemei6f29》らの簡易方 式で生存率を求めると,植込み後満1年目の生存 率は80%,2年目76%,3年目64%で以後生存率 は一定となる.8例の死亡症例中3年以上を経過 したものはない.小児のペースメーカー植込み症 例では,早期に死亡する例が多く,3年を越える と,死亡例が少ない (図5).心筋電極24野中4 例(17%)に断線を認めた.4例の断線症例中,

ペーシング不全を生じたのは1例で他の3例のペ ーシングは持続していた10}.2例に心内膜電極を 使用したが,患者の生長に従って,電極のたわみ カミ消失し,電極交換を必要とした.生存18例の NYH:A機能分類をみると,1度8例で44%, R 度8例で44%,皿山2例で12%であり,一般の房 室ブロック患者の症例に比し重篤であった.

Percentage ユ00

90

80

70

窩e勤」

』01234567

       Years 図5Survival C遭ve

 5.心内膜電極の寿命

 300症例中心内膜電極を使用した患者は251例で あり(表3),心筋電極を使用した患者は49例で ある.心内膜電極は全て,心室刺激用であり心房 用のものはない.電極は経静脈性に挿入され,先

表 3 Endocardial Lead Myocardial Lead

251cases 49cases

Cases  50  30

20

10

        300cases

65

33 31

23 17

14 15

2 1

01234567

図6 251エeads 8 9

Years

端は右心室内膜に接している.251例中双極電極 は174例,単極電極は77例であり,また,男は工35 例で女は116例であつた.初回植込み時の平均年 齢は59.4歳であつた.図6は251例の心内膜電極 使用期間である.0年とは植込み時より1年未満 の事であり,例えば5年とは5年を経過し6年未 満の事である.満1年を経過した症例は251例中 186例,満2年を経過したものは136例,満3年を 経過したもの103例,満4年を経過したもの72例,

満5年を経過したもの49例,満6年を経過したも の32例,満7年を経過したもの18例,満8年を経 過したもの3例,満9年を経過したもの1例であ

る.電極の合併症としては,① 電極の断線,

②被覆磨耗,③閾値上昇がある.電極の離脱

(dislocation)は合併症から除いた.また,植込 み後1ヵ月以内の閾値上昇は除外し,遠隔期の閾 値上昇のみを取り上げた.251例中断線は3例に 見られ,1年目2例,6年目1例であつた.電極 の被覆磨耗は2例あり,それぞれ5年目と6年目 であり,いずれも単極電極であつた.閾値上昇は 一1031一

(5)

100

畳go

l・・

£70

Fracture only

Fracmre, Leakage, and  Elev−Threshold

断線部 図 7

3例に認められ1年目2例,5年目1例であっ た.断線の部位は3例中2例は双極の2本の線が 1本になる部に一致していた(図7).他の1例 では,静脈管入部の結紮とほぼ一致していた.心 内腔における電極の断線は1例も認められなかっ た.死亡した症例は251例中37例ある。数年前ま では,電極自体を接続する技術が悪く,電極交換 時に前の電極が抜けないため,そのまま留置し新 しい電極を追加挿入していた.そのため同一患者 の右心室内に2本の電極が入る事になった.かか る症例が251例中,12例ある.2本の電極に帰因 する心内膜炎,血栓,肺塞栓などを配慮し,これ らの症例を経過観察中であるが,いずれも無症状 で良好である.251例における以上の合併症より Gmmkemeier29)らの方法に従って,電極の経時 的な寿命を算定した(図8).電極の断線のみで

は,5年寿命が98%,9年寿命が92%である.断 線のほか,電流の漏れ,閾値上昇なども含める と,5年寿命が97%,9年寿命が86%となる.以 上により現在,市販されている心内膜電極は,こ れ以上の改良を加えなくとも,約90%の確率で10 年間は安全に使用し得る.

 6.ペースメーカー植込み患者における心胸郭 比の変化

 一般にはペースメーカー植込み後,患者の心胸 郭比Cardio Thoracic Ratio(以下CTRと略す)

は減少すると言われている.しかし,どの程度 CTRが減少するかについての詳細な報告は極め

0123456789

      Years  図8 Longevity of Lead

て少ない30)31).植込み前のCTR,植込み後3 カ

月のCTR,植込み後12ヵ月のCTRを追跡でき

た106例を対象とした.男55例,女51例である.

年齢は12歳より90歳までで,19歳以下7例,20〜

39歳,16例,40〜59歳,36例,60〜79歳,44例,

80歳以上3例であった.平均年齢は54.5歳となっ た.106例のうち,完全房室ブロック73例,洞不 全症候群30例,手術後の完全房室ブロック3例で あった.急性心筋梗塞発症後の完全房室ブロック など,急性期のものは除外し,106例はいずれも 慢性期の徐脈性疾患である.重症連合弁膜症,高 度な心筋症,著明な高血圧性心不全など重篤心疾 患を合併していないものとした.NYHAの機能 分類では1度〜∬度のもので皿度以上のものは含 まれていない.106例の症例につき,各々,植込 み前,植込み3ヵ月後,12ヵ月後のCTRを測定 した.マイナスはCTRの減少を,プラスはCTR の増加を示す.植込み3ケ月目,12ケ月目のいず れに於ても,CTR−2〜一4,一1〜十1の部 の症例数が最も多い(図9).これは,CTRが変 らないか,わずか減少した症例が多い事を示す.

5%のCTR変化をもつて,有意差と判定する と,3ヵ月後にCTRが植込み前に比し,5%以

一1032一

ases

30 国3m。nth

1=コ12rnonth 20

10

0

}1c一1」一?一1−1一}+1+1+1%

 一13−10 −7 −4 十1 十4 十7 十10      CTR c卜an8e

     図 9

(6)

上減少した症例は26例(24%),5%以上増加し た症例は6例(6%)であった.一方,植込み12 ヵ月後にCTRが植込み前に比べて,5%以上減 少した症例は32例(30%),5%以上増加した症 例は4例(4%)であった.3ヵ月目と,12ヵ月 目におけるCTR変化は,症例全体として,有意 差を認めなかった.3期目CTR変化をもつて,

減少傾向,増加傾向を判定すると,3ヵ月後で CTRが3%以上減少したものは,43例(40%),

3%以上増加し準ものは16例(15%)であった.

植込み後,3ヵ月目,12ヵ月目共にCTRが変 らない群が,26例(24%)あった.3ヵ月目に CTRが縮小し,ユ2ヵ月目には,更に縮小した例 は,26例(24%)あった.そのままにとどまる

.嚢

7cases

15cases 26cases 32cases

26cases before 3       12month

図10CTR change

40

30

20

工0

0

[コIII。AV biock

スヨSSS

一14 −11−8  1  1  1   −13−10

十10

十5

聾 o

託一5

 一10

一15

図11

一5 −2 −1 十2 一ト5%

 l  l  l  l  l

−7 −4 十1 一{一4 一ト7

CTR changes after 12 month

  ●●     o   ■     ・   ●●       ●●●●

●●●9●●  ●●    ●    ●

●     ●     ●●    ●●

●●    ●●   ●■●        ●●    ●

一●一一一●●一一一一一一一一一一一一一一一 T  ●●●●   ●●   ●●   ・

  ●●●    ●     o

言 シ=・:

  尋・・7

      :   ●

か,又は,増加するものが32例(30%)あった.

一方,植込み後3ヵ月目,12ヵ月目と徐々にCTR が増加する例が7例(7%)あり,3ヵ月目に増 大し12ヵ月目に縮小を示した例は15例(15%)あ った.植込み3ヵ月後までにCTRが変化せず,

その後,CTRが増大または縮小する例は認めら れなかった(図10).CTR変化の程度と野老の性 別との間に相関はなかった.またCTR変化と患 者の年齢との間にも相関はなかった.106例のう ち,皿度房室ブロック患者が73例,洞不全症候群 患者が30例であったが,植込み後のCTR変化に ついて,この両者間に有意差は見られなかった

(図11).ペースメーカー植込み後のCTR変化 と相関するものとして,植込み前のCTRがあげ られる.図12に示すように,植込み前CTRが大 きい群で,植込み後のCTRが,縮小する事が分

 〜49      55〜59    65〜69 70〜

   50〜54     60〜64         %

図12CTR change after 12 month

る.植込み後12ヵ月のCTRの増減平均値は,植 込み前のCTRが49%以下の群では一〇.65%,植 込み前のCTRが50〜54%の群では一〇.52%とな る.以下同様に,55〜59%では一2.65%,60〜64

%では一2.91%,65〜69%では一4.50%,70%以 上では一4.57%であった.植込み前のCTRの大

きさは,CTRの減少に影響を,およぼし, CTR の大なる群にCTRの減少傾向が強かった.

 7.単極電極と双極電極の比較

 単極電極,双極電極の得失について検討した.

300症例中,単極電極は101例,双極電極は199例 である.一方,心内膜電極は251例,心筋電極は 49例である.

一1033一

(7)

 (1)筋肉の変縮

 単極電極の場合,筋肉の牽縮を101例中10例

(10%)に認めた。初回植込みの場合,多少なり とも筋肉の摩縮を認めるが,1週間以内に9割は 完全に消失する.しかし1割の症例で李縮が持続

した.一方,双極電極を使用した199例では,筋 李縮は全く認められない.横隔膜変縮について は,単極,双極では差はない6

 (2)筋電位による偽抑制

 最近のペースメーカーのほとんどがデマンド型 であり,本体を胸壁に植込むため,筋肉の活動に よる筋電位を心電図R波と間違えて偽抑制される 事がある32)33)34).101例の単極ペースメーカー患 者の上肢を動かして,デマンドが作動するか否か を調べたところ,2例に偽抑制が確認された.一 方,199例の双極患者では,筋電位による偽抑制 はなかった.電極のプラスもマイナスも心臓内に あるため筋電位の影響を受けないものと考えられ

る.

 (3) 心筋刺激閾値上昇に対する対策

 初回ペースメーカー植込み直後の閾値上昇のた めペーシング不全が生じることは希ではないが,

植込み後1年以上を経過して,閾値上昇のためペ ーシング不全が生じる事は希である35).われわれ は300症例のうち,慢性期の閾値上昇を3例に経 験したが,そのうちの1例では,双極電極のプラ スとマイナスとの交換でペーシングが再開され た.遠位電極より近位電極が,心内膜面により密 着している場合は,プラス極とマイナス極の交換 のみで,閾値上昇の治療が可能となる.しかしこ の方法は,双極電極のみ可能で,単極電極では不 可能である.双極ペースメーカーの電池交換時に 閾値を測定するが,少数例では,遠位電極を刺激 電極とするより,近位電極を刺激電極とした方 が閾値が低い.このような場合,プラスとマイナ スを逆にして,新しいペースメーカー本体に接続 しているが,かかる例を199例の双極電極中4例 に認めている.単極電極では,心内膜に接する電 極が1本なので,その部がうまく行かなければ,

やり直すしか方法がない賞

 (4)初回植込み時に電極固定が困難な場合 ペースメーカーの電極固定は一般には容易であ る.しかし希には,電極先端がなかなか理想的部 位に達しない事があり,心内腔にブラブラする状 態があり,反面,近位電極は,心内膜に密着して いる場合がある.当然,近位電極を刺激電極とし た方が閾値は低い(図13).初回植込み時から,

プラス,マイナスを逆にした症例が251例の心内 膜電極症例中2例ある.このような工夫も双極の み可能である.

馬繋擁

図13 Electrode近位電極は心内膜に接している  が,遠位極は心内膜に接していない.

 (5)電磁波による細論

 ペースメーカーは外界の電磁波によって干渉を 受ける.しかしペースメーカー本体は金属で2重

3重にシールドされるようになり,外界の千渉を 受ける可能性は少なくなった.干渉を受けるのは 電極である.干渉を受ける程度は,電極間距離 に関係する(図14).電極間距離の短い双極の方

?ace謎e℃

RV

図14 1nterference干渉を受ける程度は電極間距  離による.

一1034一

(8)

が,電極間距離の長い単極より千渉を受けにく い.この意味で,双極の方が,単極より安全で ある.しかしわれわれの300症例の中に,明らか に,外界の電磁波による干渉を受ける異常をきた

したという症例は確認されていない.

 (6)心筋電極断線の場合

 心筋電極49例中5例に断線を認めたが,どの断 線も心筋への挿入部に認められた1Q).そのう ちの

1例では,双極電極であったので,断線していな い電極をマイナスとし,単極のペースメーカーを これに接続した.心筋に2本の電極が縫着されて いる利点である.

 (7)心筋刺激閾値

 一般には刺激閾値は単極の方が双極より低いと 言われているが36)37),逆に高いと言う意見もあ る38).われわれの測定では,その両者間に差を認 めなかった.ペースメーカー植込み例のみならず 心臓手術後患者に,同一の電極39)を多数縫着し,

定電流型ペースメーカーで刺激閾値を測定してみ ると(図15),刺激電極が一定ならぽ,不関電極

 (8) R波波高と心内膜心電図

 デマンドペースメーカーは患者心電図R波によ り作動する.心電図R波が著明であれば,それだ けデマンド機能が容易となる.双極と単極とで は,後者の方がデマンドされやすいと一般に考え られて来た4。).この両者を比較検討した(図16).

その結果,R波波高は単極心内膜心電図で平均

Dista1

−1

     ノ

    7

図16

図15

Lv

がどこにあっても閾値に差は認められない.刺激 電極が右心室壁に縫着されている場合,不関電極 がその近辺にあっても,右房にあっても,左室に あっても皮下にあっても閾値は同じである.不関 電極の表面積を10mm2,30mm2,40m阻2,80mm2 としても,刺激閾値は同じであった.不関電極の 表面積が10mm2以上あれば,単極と双極の間に,

閾値の差はない.双極の方の閾値が高いという場 合は,不関電極が非常に小さい時と考えられる.

6・2mV,双極心内膜心電図で平均7・3mVであっ た.40症例中,双極のR波が単極のR波より高 いものが18例,両者がほぼ同じ例が12症例,単極 のR波の方が高いものが10例であった.QRSや ST・T波の波形に関しては,双極の方が,上昇

したST部が基線にもどりやすい傾向を示した.

単極では40症例中20例でSTが著明に上昇し,心 電図は矩形波を示した.このように,双極と単極 では,デマンド機能に関し,平均としては差はな

かった.

  (9)  ・〔〉筋穿1子L

 心筋穿孔は回れな合併症である.心内膜電極 251例中,明らかな心筋穿孔は1・例のみである.

この症例では電極にスタイレットを挿入したまま 植込んだため,約1週間後に心筋穿孔を起こし た.心内膜電極が固いと穿孔を生じやすいが,現 在市販の植込み型の電極は十分に軟かく,心筋穿

孔の心配はほとんどない.双極電極では,穿孔を

一1P035一

(9)

        b

亀も  qつ  く麺=⊃ 

Myocardium・

;:彫

く2

図17 Pericardium心筋穿孔 双極電極の場合は  近位電極を刺激電極とする事ができる.

起こした場合,不関電極が心筋に接する事にな り,ペーシング不全が起こりにくい.プラス電極

(不関電極)で刺激すると,マイナス電極刺激に 比し,心筋刺激域値は約4倍であるが,ペースメ ーカー出力に十分余裕がある場合や,域値が低い 場面こは心筋に接している不関電極よりのプラス 刺激でも,ペーシングの持続が可能となる (図 呈7),単極では不関電極は,皮膚に接しているの で,電極先端が心筋穿孔を生じれば,直ちにペー シング不全となる.

 (10)電極の太さ.

 単極は1本の線のみなので細く,双極は太い.

単極は細い静脈より挿入可能であるが,双極で は,ある程度の太さの静脈でないと挿入ができな い.小児(10歳以下)では,心筋電極としている ので静脈の太さの問題はない.以上の点からみる と,われわれの経験からは,双極の方が優れてい るように思われる.

 8.患者の就業状態

 300症例の中で,男で20〜60歳の患者が47臨い た,これらの患老は,健康ならぼ当然就業してい る年齢層である.47例中39例(83%)は,全く普 通に仕事をしていた.3例は軽度,5例は無職で あった.無職の5例は,徐脈の他に合併症があ

り,ペースメーカーのみでは,なおらない症例で あった.

 10.患者の精神状況

 心蘇生のような経過を経て行なわれたペーシン グは,患者の複雑な精神・心理面がつきまとうと

言われる41)が,ペースメーカー植込み患者79名の 精神状態を調べると,ペースメーカーの事が心配 でないと答えた者は全体の約9割にあたる70例で あった.しかし79例のうちの6例は心配や不安を 感じていた.また3例ではかなりの精神症状があ り,精神科を受診している.この精神科を受診し ている3例では,ペースメーカー植込み術そのも のよりも病気から生ずる家庭的,経済的要因が,

その精神症状に大きく関与していた.

      第4章 考  按

 これまでのペースメーカーの電池は水銀電池で あり,その寿命は平均30カ月と短かく,内部放電 が著明で,しかも電池機能が突然中止する欠点が あった.しかし,Grea亡batch1)によって考案され たリチューム電池は,その耐久年数を著るしく延 ばし,その性能も非常に安定させたため,植込み 適応も拡大されるようになった14) 21).完全房室 ブロックの自然歴は明白ではないが,Johansson42)

43)は完全房室ブロックの自然歴は1年で50%とな り,5年で約25%となると述べている.Fried bergら44)も100例のAdames−Stokesのある患者を 内科的に治療すると,1年後には50例に減少する という,われわれの300症例中の完全房室ブロッ クの死亡率は19%であるから,内科的治療を受け た例よりはるかに良好であった.ペースメーカー を移植して,3年聞で約15%の患者が死亡すると いうわれわれの統計は,文献上の統計45)岬47)より も良好であった.また1年目に特に多くの患者が 死亡し,2年目と3年目には死亡する患者が少な いというのはZionら48)の報告と類似である.洞 不全症候群の死亡率は少なく3%であり,年々洞 不全症候群の占める割合が多くなってきているの で,全体の死亡率は下っている.また,リチューム 電池の小型化により,小児に対する植込みも多く なり,幼児および新生児に対する植込みも行われ

るようになった19) 21)24)〜28)49).本邦でのペースメ ーカー植込み患者の最少年齢は中田ら49)の報告し た生後7日目の症例である.乳幼児の完全房室ブ

ロック患者に対するペーズメーカー植込みの適応 一1036一

(10)

は,脈拍数50/分以下,Adames−Stokes症候,心不 全,重症不整脈などにより決定される.ヒス束心 電図でヒス束下ブロックの:方がヒス束:上ブロック より,予後が悪いと言われている50)51).QRS幅 の広い完全房室ブロック症例も予後が悪く,ペー シングの適応である51)52).乳幼児のペーシソグに は心内膜電極より心筋電極の方がよい.乳幼児に 心内膜電極を使用すると,患者の成長につれ,2

〜3年以内に心内膜電極の離脱を生じやすいが,

Furmann53)らは,小児に対しても心内膜電極を使 用している.ペースメーカー本体の重さが2009丁 以上だつた頃は,小型軽量のため誘導型ペース

メごカー52)54)等を使用したが,現在のペーズメー カー本体は数10g以下なので誘導型の必要性はな く,各種のリチューム電池ペースメーカーが良い と思う.Pinsky51)は62例の先天性完全房室ブロッ クを報告しているが,このうち12例は出生前よリ ブロックの存在が分っていたと言う.乳幼児のペ ースメーカー植込み症例の予後は不良と云われる が,原疾患によるところが大きい.心筋症患者で は,ペーシソグ後も心不全,重症不整脈の合併が 多い.われわれの小児26例中死亡した症例はいず れも植込み後3年以内で,これを越えた症例は比 較的元気である.重症な例は3年以内に死亡し,

予後の良い例だけが残るものと考えられる55).複 雑心奇形のある症例で,ペーシング開始により,

心不全を生じ,ペーシング部位変更で心不全が消 失した症例もあった56).ペースメーカー植込みが 行われた初期の頃(1960〜1965年)では,電極の 断線は最も多い合併症であったが,現在の電極は 改良が加えられ,長期臨床使用が可能となった.

Edwards57)らは577本の心内膜電極のうち断線は2 例のみで,ペースメーカー本体の近くで起こって いたと報告している.現在では,電極の断線より も遠隔期の閾値上昇が問題となっている.Edwards らも不明な理由で,植込み後15〜18ヵ月ぐらいに 閾値上昇のためペーシング不全となる症例が2.4

%あったと報告している.われわれも同様な例 を3例(1.5%)経験しているが,その理由とし て,電極先端部の線維性増殖などを考えている.

この3例ではペーシング不全時,レ線透視下で心 内膜電極を体外に取り出そうと牽引しても電極先 端が心内膜面に強固に癒着していた.この3例は 全て,双極電極であったが,その中の1例ではプラ ス極とマイナス極を交換する事で閾値が著明に低 下し,ペーシングが良好となった35).これは双極

の利点である.電極被覆の磨耗の原因として,ペ ースメーカー交換時,メ.スやハサミで被覆に傷を つける事も充分に考えられるので,交換時に注意 が必要である.また,単極電極の利点は電極が細 い事であるが,この利点を強調するあまり,シリ

コン,又はポリウレタンの電極被覆を非常にうす くする傾向にあるので,磨耗の問題が出て来る.

最近電池寿命が長くなった事を考えると,われわ れは電極被覆は充分厚い方が安全と考える.われ われの電極寿命はEdwardsらの報告と類似であ る.Groverら45)はカテーテル電極のための合併症 が約15%みられたという.しかし,Kantrowitz58)

らは近年になり,電極の合併症が全症例の2〜

5%に著減したと報告している.現在市販の心内 膜電極の寿命は,断線のみを考慮すると,9割は 10年以上使用可能である.閾値上昇等を含めても 8割以上が10年以上使用可能である.このように 心内膜電極は長期間臨床使用されうる事を考える

と,電池交換時に電極を交換する必要はほとんど ないものと考える.しかし,心内腔の拡大してい る症例,電極の離脱,移動が繰り返しみられる症 例,刺激閾値の高い症例,40歳以下の症例等で は,.カテーテル電極よりも心筋電極が良いものと 思う.CTRは患者の年齢,呼吸,体位,体格な

どによって大きく変動し,それのみでの臨床的意 義は少ない.運動選手のCTRは一般に大きく,

他方冠動脈疾患々者や大動脈弁狭窄症患者のよう に,明らかに心疾患があっても,CTRが小さい 場合もある.しかし,同一患者で同一条件で撮影 すると,その誤差は2%以内であり59),CTRは 経時的変化としての良い指標となる6。).従来,徐 脈肝疾患に対し,ペーシングを施行すれぽ一律に CTRは小さくなるものと考えられていた31)が,

われわれの今回の研究では,ペーシング後,CTR 一1037一

(11)

は平均値としては,減少傾向を示すものの,一般 には不変の場合が多い事が判明し,従来の概念と 異なる結果であった.賀来ら30)は,心不全の有無 によって,ペーシングのCTR変化を検討した が,心不全の有無がCTR変化にほとんど影響を 及ぼさないと述べている.一方,心不全を伴った 完全房室ブロック患者にペーシングを施行して

も,心不全は必ずしも消失しない事を横山6エ)ら は,既に報告している.われわれの症例106例中 32例では,植込み3ヵ月後にCTR.が減少したも のの,1年後にはまた,CTRが大きくなってい た.賀来らも同様な傾向を認めているが,この理 由は現在のところ不明である.ペーシングによ

り,脈拍数が増加するため,一過性にCTRが小 さくなるが,経時的に適応現象が生じて,元にも どるのかも知れない.一方,ペーシング後,心拡 大が続くものがあり,5%のCTR増加を有意差 とすれぽ,3ヵ月後には6例においてCTR増大 をみた.これは心筋症など原疾患の進行のためと も理解できるし,また,ペーシソグが原因でCTR が増大しているためとも理解できる.他に合併症 がみられない患者にペーシングを行なっても,

NYHA機能分類がπ度にとどまる患者が多い事 も,心筋の疾患を強く示唆させるものである.単 極の特性については,従来あまり検討されていな いが,われわれの経験からでは双極の方が優れて いるように思われる.一単極の利点としては,電極 の太さが細い,接線部がLヵ所でよい,体外か らの刺激でデLマンドペースメーカーを抑制しやす い.線が1本なので断線の可能性が双極の半分で ある.等である.単極では,電極の太さが双極よ

り細いが,静脈内に挿入する難易にそれ程,差が あるとは思われない.双極の方が太いので,心尖 に導入固定され易く,電極の離脱,移動が少ない という意見もある.時に,心内膜電極を挿入した 静脈の閉塞が問題となる事があるが,現在のとこ ろ,双極と単極とで静脈閉塞に関し,有意の差が あるか否か不明である62).臨床的に上肢の静脈怒 張から判断すると,ペースメーカー植込み初期の 例で静脈怒張が多く,手術手技が関係しているよ

うである.われわれは10歳以下の小児では心筋電 極としているのが,可及的に双極の心筋電極とし

ている.しかし,1歳以下の乳児では,心表面の 面積も少なく,この場合には単極の方が良いと考

える.単極の方が体外からの電気刺激で容易にデ マンド機能を検査する事ができ,これが単極の一 つの利点と言われているが,これを裏から考えれ ば,体外からの電磁波のため,容易に干渉が起り うるという事である.ペースメーカーの検査を容 易にするよりも,患者の安全の方が大切と考えら れるので,この2者のうち,干渉の少ない方が優 先すると思う.電極の断線は,最近の報告では著 明に減少している.心内膜電極の断線は特に少な く,ほぼゼロに近い.したがって,双極は単極の 2倍の断線があり得るとしても,この問題は無視 しても支障ないように思われる.双極の電極に単 極のペースメーカー本体を接続するのも一つの方 法である.ペースメーカー交換時には,古いペー スメーカー本体を取り除き,新しいペースメーカ ー本体を従来の電極に接続する訳であるが,この 取り換えの何秒間はペーシソグされず,心停止の 状態となる.操作が10秒以上かかれぽAdames−

Stokes発作も起こり,危険な状態となる.このよ うな場合,双極電極に単極のペースメーカー本体 を接続すると安全である.単極のペースメーカー 本体を双極電極の刺激電極(遠位電極)に接続し ている間,近位電極を単極として使用し,体外か らのペースメーカーからペーシソグを持続できる からである.このような方法で行うと,ペースメ

ーカー交換時,もう1本の電極を一時的に挿入し なくても,ペーシングが断続する事はなく,患者 の安全は確保される.電極の製作技術が向上した 今目,双極電極のみならず,3極,又は,4極電 極等を植込み用として考慮しても良いと思う.心 内に多極があれば,そのうちのどれかが,ペーシ ング,Sensingに良好となるので,電極の離脱,

移動や,閾値上昇が減少し,また,それらに対す る対策も容易となろう.

       第5章 結  語

 われわれの施設での昭和42年より昭和53年2月 一1038一

(12)

までのペースメーカー植込み300症例の長期遠隔 成績について,検討を行なった.その結果は次の 如くであった.

 1.ペースメーカー植込み症例の適応は拡大さ れつつあり,完全房室ブロックの症例数は,ほぼ 一定しているが,洞不全症候群の症例数は年々増 加している.

 2.完全房室ブロック患者の植込み後の死亡率 は19%で,洞不全症候群のそれは3%である.

 3. 自覚症では,完全房室ブロック群と洞不全 症候群間で差は見られないが,生存率曲線では,

後者の方がはるかに良好であった.

 4.10歳以下の小児のペースメーカー植込み術 の生存率は,1年目80%,2年目76%,3年目64 タ6で,その後一定となる.心筋電極は左室側壁に 縫着し,ペースメーカー本体は腹壁皮下に埋没

し,合併症をみたい.

 5.現在市販の心内膜電極の寿命は,断線のみ を考慮すると,9割は10年以上使用可能である.

閾値上昇等を含めても8割以上がエ0年以上使用可 能である.

 6.ペースメーカー植込み3ヵ月後に,CTR が,植込み前に比し,5%以上減少した症例は24

%,あり,5%以上増加した症例は6%であっ た.植込み初期にCTRが減少しても,1年後に は元に戻る例も多い.完全房室ブロック群と洞 不全症候群間では,CTR変化に有意差を認めな い.植込み前の℃TRが大きい群において,植込 み後,CTRが減少する傾向が強い.

 7.双極の利点としては,筋骨縮がない.筋電 位を拾わない, プラスとマイナスを逆にして使用

しうるなどがある.単極の利点とししては,電:極 が細い,体外からデマンドペースメーカーを抑制 しやすい等がある.心筋刺激閾値,心内心電図R 波波高に関しては両者間に差がない.これらよ

り,双極の方が,単極より優れていると思う.双 極電極の改善点としては,不関電極を小さくし,

できうれぽ多極化にする事である.

稿を終えるにあたり,御指導,御校閲を賜った和田寿

郎教授に深謝し,また直接,本研究に御心行いただいた 横山正義助教授を始め,教室各員に,,心より謝意を表

します.

 なお,本研究の要旨は,第2回ペースメーカーに関す る公開研究会(京都)および,第16回日本人工臓器学 会(東京)にて発表した.

        文  献

1) GreatbatcL, W。3  Cardiac Pacing, ed by  Thalen, H.J., Van GorcumラAssen,1973,

 P.188

2)川田志明・相沢忠範・川井保男・木曽一誠・勝  本慶一郎・井上正・竹内慶治・西川邦・中  野 実・荻野孝徳・木村 満・片山一彦=ペー   スメーヵ一植込み術52例の臨床知見一術後合  併症の予防と対策一.胸部外科26(8)533  (1973)

3)横山正義・遠藤真弘・堀原一・林久恵:

  ペースメーカー植込み後の合併症一139症例の  検討一.胸部外科28(5)358(1975)

4)大石喜六・高木博巳・古賀道弘・池田秀夫」仮  屋純人・戸嶋裕徳・木村 登:Pacemaker植   込み術後合併症とその対策.胸部外科28(5)

 365 (1975)

5)宇賀四郎・中村昭光・佐々木義孝・大賀興一・

  白方秀二・宮田健・中本毅・原智次・橋  本 勇:心臓ペーシングの合併症一とくに  Chest Wall Stimulation法によるGenerator  Failureの検索を中心として一.胸部外科29

 (8) 548 (1976)

6)木曽一誠・森下幹人・伊藤豊彦・今村洋二・石  倉町弥:』ペースメーカー植込み術の合併症と   その対策.特に小児に於ける合併症に対する  胸○内植込み術を中心に.心臓9(10) 899  (1977)

7)黒島重郎・川上敏晃・片岡和夫・松倉裕美・高  橋順一郎・織田善彦・伊集 真・清野隆吉・杉  江三郎・沢口亮三:心臓ペースメ』キングー   合併症および遠隔成績について一。胸部外科

 31 (11) 84 (1978)

8)香川 謙・仁田新一・佐藤 尚・鈴木康之・羽  根田潔・佐治公明・柴生田豊・堀内藤吾:ペー   スメーヵ一植込み術の合併症と遠隔.人工臓  器  3 342 (1974)

9)Gm91er, FM・, G・Frank, D・Dragojevic,

 H.Oelert, K。 Leitz, H. D1量cllau, U. Frinke,

  D・ 正 ohlei1塞, D・ Rogge, R. Hetzer, G。

  Hemersdort and H.G。 Borst;Complica・

  dons of perrnanent transvenous cardiac pacing.

 JThorac C続rdiovas Surg 69895(1975)

10)横山正義・遠藤真弘・関口守衛・堀原 一。今   井健雄:ペースメーカー心筋電極の断線好発 一1039一

(13)

  部と断線後のペーシング持続について.心臓8   888 (1976)

11)横山正義・遠藤真弘・小原邦義・堀 原一:

  ペースメーカー植込み時(ρ感染予防について.

  胸部外科29(8)545(1976)

12)横山正義:ペースメーカー事故.内科40(4)

  618(1977)

唾13)島本光臣・秋山文弥・篠崎 拓・加藤弘文・田   村康一・上野陽一郎・泰江弘文・表信吾・滝   沢明憲・永尾正男:ペースメーカー植込み10   年の成績・合併症特に死亡例並びに心筋電極   断線について.心臓10(4)415 ワ曾㌃

14)伊藤昭男・外山淳治・沢田 健・棚橋三文・都   築実紀・安井昭二:洞不全症候群(Sick Sinus   Syndrome)に対するペースメーカー植え込み   術の適応.Overdrive Suppression存こよる判定   基準.心臓6(7)1035(1974)

15)和田寿郎・藤堂景茂:植込みペースメーカー   の適応疾患.胸部外科28(12)844(1975)

16)高木 誠:内科側からみた人工ペースメーカー   の適応.胸部外科29(8)533(1976)

17)木谷文博・深谷真彦・王文雄・早野元信・矢   野南介・持永俊一・橋場邦武=洞不全症候群   における人工ペースメーカ一植込み適応基準   と長期成績.心臓9(10)904(1977)

18)杉浦雄一郎・田村陸奥夫・山村秀機=80才智   上Pace maker植込み術例の検討.日胸外会

  誌 26 (8) 986 (1978)

19)竹田泰雄・瀬瀬 顕・田崎 考・福重淳一郎・

  小田禎一・佐藤元一:5ヵ月の乳児に於ける   ペースメーカー植込みの経験.心臓5(10)

  1421 (1973)

20)岩  喬・三崎拓郎・川筋道雄・河北公孝・

  上山武史:乳幼児のペースメーカー胸膜外植   込み.胸部外科29(4)264(1976)

21)浅井康文・藤堂面面・田申信行・和田寿郎:

  小児期ペースメーカーの植込み.胸部外科29

  (8) 535 (1976)

22)横山正義・遠藤真弘・関口守衛・堀 原一:

  房室ブロック患者に於ける心臓ペーシング4   年生存率について.内科37317(1976)

23)横山正義・柳沢正敏・和田寿郎・大西 哲・

  関口守衛・広沢弘七郎:完全房室ヅロック患   者と洞不全症候群曲目の比較.第2回ペース   メーカーに関する公開研究会,京都(1978)

24)Kangos,工J・, s・P・Gri−ths and s. Blu・

  mentha13 Congenital complete heart block.

  Aclassification and experiencc with 18   patients. Am J Cardiol 20632(1967)

25)土田嘉昭・三井利夫・古瀬 彰・堀 原一・

  三軍正裕・井上 毅・穂垣正暢・藤井 仁・

  枝口貞夫・坂元正一・阿波彰一・吉野和也:

  新生児ペースメーカー奏効例の経験.心臓2

   193 (1970)

26)Trusler, G。A., W.T. Mustard and J.D.

   Ke畳tb 3 Thc role of pacemaker therapy in    congenital complete heart block. J Thorac    Cardiovasc Surg 55105(1968)

27)Mart量馳, M.V., A.B. H血6, qS。 Almeida,

   P・Geretto, R・Nero, J・Monf6rt, R・・de q    santos and H.J』elipozz量31mplantation of    Chardack−Greatbotch a(灘ustable rate and    current pacemaker in a 4−month−old in丘mt.

   Pediatrics 37323(1966)

 28)Idτiss, F.S。, R.0就。, H. Nika蓋dob, E.

   Newfeld and M.H. Pa拙 Implantation of    pcrmanent pacemaker in the丑rst month of    王ifb fbr congenital complete heart block J    Thorc Cardiovasc Surg 65.851(1973)

29)Grunkeme…er, G.L and A。 Sta出Actuarial    analysis of surgical・result:Rationale and

⑳熱,遷羅談欝欝:

   持永俊一・橋場邦武:ペースメーカー植込み    の効果一心胸廓係数心房拍動数の経過を中心    に一,心臓ペーシング(第1回ペースメ〕

   ヵ一に関する公開研究会プロシーティングス)

   (1977) 11自営

 31)竹田泰雄・佐藤元一:心臓ペーシングの臨床.

   医学出版社東京(1972)62頁

 32)横山正義・遠藤真弘・関ロ守衛・林 久恵・

   堀原一・斉藤義明:使用していない心筋電極    によるデマンドペースメーカー偽抑制.人工    臓器6(3)138頁1977

 33)山科秀機・松浦雄一郎:Demand型単極Pace−

   maker植込み患者に於ける筋電位干渉につい    て.心臓8(2)204(!976)

 34)W量rtzfeld, A., M. La㎜padまus and E。0。

   R叩recht 3 Unterdr茸ckung von Demand−

   Schrittmachern durch Muskelpotentiale. Dtoch    Med Wschr 9761(1972)

 35)横山正義・遠藤真弘・関口守衛・堀 原一:

   遠隔期に閾値上昇のためペーシング不全をき    たした2症例.日工外会誌251211(!977)

 36)Dekker, E・, J・Bueller and F・A・vam Erfen 3    Unipolar stimulation thresholds of the human    myocardium with chronically implanted pace−

   maker electrodes. Amer Heart J 7671(1966)

 37)藤森義蔵:心臓ペースメーカー電極と刺激閾    値に関する研究.医用電子と生体工学7(3)

   152 (1969)

 38)鈴木敏克;心臓ペースメーカーの電極間抵抗    値および刺激電流閾値に関する研究.日胸外    会誌251278(1977)

 39)横山正義・和田寿郎:新しい一時的ペースメー 一1040一

(14)

    ヵ一心筋電極.胸部外科31264(!978)

40)Preston, T.A.含Acomparizon of bipolar and     unipolar permanent stimulation clectrodes.

    Proceedings of the Pacemaker Colloquium.

    ed. by J. Norman&A. Richards, Vitatron     Medica1, Netherlands,1976, p.55

41)Bro㎜e,1.W. and T.T。 Hackett=Emotional     rcaction3 to threat of irpPβnd圭ng death=

    Study of patients on monitor cardiac pace−

    maker・Irish J Med sci 6177(1967)

42)Jψanssonβ・w・:Am J cardiol 876(1961)

43)Jobanss①n, B・w・=Ann NY Acad sci 167

    103 (1969)

44)Friedberg, C.K., E6 Do血oso and 〜.G.

    Ste畳蹴:Ann NY Acad Sci 111835(1964)

45)Gro▽er, F・L, L董e漉enant Commander     (MC)USNR,.o,Su皿量van, M.J., Commander     (MC)US珂and Fosburg, R.G., Capta董n     (MC)USNi Demand or罰.xcd−rate pacc一     卑akers* Eleven−ycar cxperience with 76     patients.JThorac cardiov surg 67142(1974)

46)Shepard,.R.B., E. Vaugb且and S. Redmond=

    Ann Surg 3769(1971)

47)Goldste董n, S・et a至・言Br Heart J 3235(1970>

48)Z五〇n,M.M., P.E。 Marc臨and and 1.W.P.

    Obe13 Brit Heart J 35359(1973)

叫9)中田 健・岸本英文・三田紀行・松本英世。

    小林芽夫:小児期完全房室ブロック4例の経     験.第31回日本胸部外科学会総会,長崎(昭     和53年10月目

50)Drisco11,1)., P. G遡1ette, D。 McNamara,

    and D. Coo夏夕3 The diagnosis and manage−

    ment of postoperative complete atrioventri−

    cular block in infant and children. VIII.

    World congress of cardiology. Abstracts O620,

    Sept.(1978)Tokyo

51)Pi聡sky, W .P. Gillette and D. McNama響a=

    Diagnosi鼻and management of congenital     .complete atrioventricular block VIIL World     congress of cardiology. Abstracts 1405, Sept.

     (1978)Tokyo

 52)前田 肇・須磨幸蔵・横山正義・今野草二3      先天性完全房室ブ.ロックに対するペースメー      カー治療経験.心臓7913(1975)

53)F man, S. and D. Yo㎜g言Cardiac pacing      in children adolescents. Amer J cardiol 39      550(1977)

 54).須磨幸蔵=刺激休止期に電力送信を行う誘導      型ペースメーカーの臨床経験.日胸外会誌24

     63 (1976)

 55)Gr二mtbs, s・P・, C・J・Hayes, F・o・Jr・80w・

     man and W.M。 Gerso血y=Long−term飴Ilow−

     up of two infants with an implanted cardiac      apcemaker・Amer J cardiol 36921(1975)

 56)横山正義・新堀 茂・遠藤真弘・富野哲夫・

     三森重和・森 克彦・高尾篤良:ペースメー      カー電極の.位置と心不全症状の関係.胸部外科      27 658 (1974)

57)Edward6, A.M. and J.G. Dav且es 3 Aanalysis      of the Iongevity of pacing electrodes, Cardiac      Pacing pages 539, edited by Watanabe, Y.

     Excerpta Medica, Amstcrdam(1977)

58)K:an伽witz, A., M. Rube血Bre and W.

     Wa5szczuk 3 Complications of perma聡ent      transvenous pacemakcr.therapy, Cardiac      Pacing}Pages 244, cdited by Thalen, HJ.

     Th. Van Gorcum, Assen(1973)

 59)江藤秀雄・吉村克俊・佐藤幸雄:X線写真の     ジ基礎知識.克誠堂 東京!965年106頁

 60)S 覗畳re, LF.3 Fundamentals

       of radiology,

     pages 144, Harvard University Press(正977)

     England

 61)横山正義・遠藤真弘・関口守衛・堀 原一.:

     房室ブロック患者における心臓ペーシング4

@、.、,年生存率について.内科37317(1976)

戦62)1川田志明・小出司郎策・山崎史朗・正津 晃=

     長期ペーシン.グと静脈路の運命.第1回目ース      メーカーに関する公開研究会プロシーディン.

     グス(1977) 110頁

P041一

参照

関連したドキュメント

などから, 従来から用いられてきた診断基準 (表 3) にて診断は容易である.一方,非典型例の臨 床像は多様である(表 2)

 幽幽には12例が含まれている.このうち,閉胸式 massage(CCCM)ないし前胸壁叩打を施行したも

(2) カタログ類に記載の利用事例、アプリケーション事例はご参考用で

(表2)。J-CAPRAポイントを合計したJ-CAPRA スコアについて,4以上の症例でPFSに有意差

にて優れることが報告された 5, 6) .しかし,同症例の中 でも巨脾症例になると PLS は HALS と比較して有意に

混合液について同様の凝固試験を行った.もし患者血

信心辮口無窄症一〇例・心筋磁性一〇例・血管疾患︵狡心症ノ有無二關セズ︶四例︒動脈瘤︵胸部動脈︶一例︒腎臓疾患

10例中2例(症例7,8)に内胸動脈のstringsignを 認めた.症例7は47歳男性,LMTの75%狭窄に対し