破 産 者 の 支 払 不 能 を 知 っ た 後 の 破 産 債 権 者 に よ る
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(2) 早法七二巻一号︵一九九六︶. での間に︑Aの火災保険の解約返戻金二八万円余が︑Aの普通預金口座に振込入金された︒. 二一三. Aは︑平成三年五月二〇日に自己破産の申立をし︑同年七月二日破産宣告を受け︑Xが管財人に選任された︒ちなみ に︑B社についてもほぽ同時期に破産宣告があった︒. 一方︑YはAに対し︑平成三年六月二六日付内容証明郵便により︑YのAに対する破産債権︵貸金債権︶を自働債権と. し︑AのYに対する右預金払戻請求権を受働債権として対等額にて相殺する旨の意思表示︵以下本件相殺とする︶をし. 以上のような事実関係において︑Xは︑YはAの支払停止ないし支払不能を知った後これに対して債務を負担したもの. た︒. であるから︑一〇四条二号本文の適用ないし類推適用により本件相殺は許されない︑などと主張し︑前記預金の払い戻し を求めYに対し本件訴えを提起した︒. 本判決は以下のように述べてXの請求を認容した︒. ︻判旨︼. コ〇四条二号本文は︑破産債権者が支払の停止又は破産の申立があったことを知って破産者に対し負担した債務につ. いてのみ︑相殺を禁止しており︑支払不能になっていることを知って負担した債務については︑言及していない︒しか. し︑支払不能は︑債務者の客観的な財産状態を示すものであり︑債務者の弁済能力の継続的な欠訣により一般債務を順調. に弁済できない客観的状況であって︑必ずしも外部から探知できるものではないが︑たまたま債権者が何らかの事情でこ. れを知ることができた場合には︑支払停止を知っていた場合よりも︑債務者が破産に至ることを確実に把握できる︵一二. 六条二項参照︶のであるから︑支払停止の場合以上に債権者の抜け駆け的な利得行為を禁止する必要がある︒従って︑破. 産債権者が支払不能となっていることを知って破産者に対し負担した債務についても︑一〇四条二号本文の類推適用を認. ﹁これを本件について見るに︑Yの担当者は︑昭和六二年九月一日B社と銀行取引を開始するに当たり︑B社とA双方. め︑相殺が禁止されると解するのが相当である︒﹂. の信用調査を行い︑その後四年八か月にわたりB社の主取引銀行として銀行取引を継続し︑その間常にAと接触してB社.
(3) 帯保証しているのに︑Aには他に収入がなく︑これといった個人資産もない実情を認識していたのであるから︑Yの担当. 及びA双方の信用状態の把握に努め︑B社はAが経営している零細な個人会社であり︑AがB社の多くの債務に対して連. ず︑支払不能に陥った事実を認識したことが認められる︒﹂. 者は︑平成三年五月一六日の早朝︑B社の営業所でB社倒産の貼り紙を見た時点で︑AもB社の連帯保証債務を履行でき. ﹁そうだとすると︑YがAの支払不能の事実を知った後に︑本件預金口座に保険解約返戻金が振り込まれ︑YがAに対. しその払戻債務を負担するに至ったのであり︑本件相殺は︑破産債権者であるYが︑破産者Aの支払不能の事実を知って. 破産者に対し負担した債務を反対債権とするものであるから︑一〇四条二号本文の類推適用により禁止されているもので. なお︑本判決に対しては控訴が提起されたが︑平成五年三月二五日大阪高裁で控訴棄却の判決がなされ︑そのまま確定. ある︒﹂. している︒. ︻研究︼. 一 問題の所在. 本件は︑破産者が支払不能に陥った後︑その普通預金口座に振込入金があったために破産債権者たる銀行に預金. 返還債務が発生したが︑その債務負担当時︑銀行は破産者の支払不能を知っていたという事例である︒もし︑同様. の債務負担が破産者の支払停止後になされ︑かつ破産債権者が破産者の支払停止を知っていたとすれば︑かかる債 ︵1︶. 二⁝二. 務を受働債権とする相殺は︑破産法一〇四条二号本文︵以下︑破産法についてはその条文のみで表示する︶の禁止す る相殺にあたり︑許されない︒ 破産者の支払不能を知った後の破産債権者による債務負担と破産法一〇四条二号.
(4) 早法七二巻一号︵一九九六︶. 一三四. ところが本件においては︑債務負担のなされた時点で破産者の支払停止が未だなく︑また破産債権者の悪意も支. 払不能についてであったため︑一〇四条二号本文を直接適用することができない︒そこで︑かかる債務を受働債権 とする相殺の可否が問題となる︒. 破産債権者が破産者の支払不能を知って負担した債務を受働債権とする相殺が禁止されるかどうかの間題につい. て︑学説はみな同様に︑支払不能を知ることができた場合には︑支払停止や破産申立を知っていた場合以上に債務. 者の破産宣告に至るべき予測を持っていたといえることになるから︑特定債権者の抜け駆け的な利得行為を禁止す ︵2︶ る必要があり︑一〇四条二号本文の適用︵類推適用︶を認めて︑相殺は禁止されると解している︒このような状況. にあって︑本判決は︑破産債権者が支払不能を知って債務を負担した場合に一〇四条二号本文が類推適用されるこ ︵3︶ とを判示した︑最初の判例である︒. なお︑一〇四条二号とパラレルな関係にある同条四号︵旧三号︶については︑既に大判昭和一〇・一〇・二六民. 集一四巻二〇号一七六九頁が︑破産者の債務者が破産者の支払不能を知って取得した破産債権を自働債権とする相 ︵4︶ 殺についても当然その類推適用がある︑と判示している︒. 本研究では︑本判決の判旨及び結論に賛成する立場から︑判旨の内容及び関連するいくつかの問題について︑若. 干の検討を加えていきたい︒以下︑二で︑破産法の相殺禁止における支払停止概念について検討し︑三で︑一〇四. 条二号本文の類推適用と同号但書末段及び相殺濫用論・相殺否認論について検討する︒そして四で︑否認と支払不 能について検討することとしたい︒.
(5) 一〇四条二号の立法当時︵一〇四条二号は︑昭和四二年法律八八号によって新設された︶︑その念頭に置かれていた最判昭和. 四一・四・八民集二〇巻四号五二九頁は︑まさにこのような事例である︒即ち︑被告Y銀行は︑A破産会社の支払停止を知った. ︵1︶. 後︑破産宣告のなされるまでの間に第三者からA社の当座預金口座に振り込まれた自己の預金債務と︑従来あったA社に対する自. 己の貸付金等の債権とを︑その対等額において相殺した︒A社の破産管財人原告Xは︑Yのなした右相殺は一〇四条により無効で. あり︑仮に相殺が有効であるとしてもこれを否認すると主張して︑A社のYに対する預金債権の支払を請求した︒原審は︑﹁破産. り︑その債権債務を以て相殺することはできないものと解するのが相当である﹂と判示した︒これに対して最高裁は︑﹁破産債権. 債権者が同条三号︵現四号︶本文所定の時期︑状態で破産者に対する債務を負担するに至った場合は︑同号但書に該当しない限. を有する者が支払停止または破産申立のあったことを知りながら破産者に対する債務を負担する場合に対処して︸〇四条三号同旨. の規定が設けられていないことについて︑法の不用意をいうのはあたらないし︑右一〇四条三号の拡張類推を考えるのは︑法の趣. また︑一〇四条二号但書中段の﹁前に生じたる原因﹂との関係について︑判例は︑当座勘定取引契約はこの﹁原因﹂にあたらな. 旨とするところに合致しないものといわねばならない﹂と判示した︒. いと判示し︵最判昭和五二二二・六民集三一巻七号九六一頁︶︑また普通預金契約についても︑その﹁原因﹂にはあたらないと. このように一〇四条二号の債務負担には︑破産者の支払停止を知った破産債権者がわざわざ他人の破産者に対する債務を引受け. 判示している︵最判昭和六〇・二二一六金法一〇九四号三八頁︶︒この点につき学説上も異論はない︒. るといった自らの意思による債務負担行為だけでなく︑振込入金という︑破産者及び破産債権者の意思と無関係の︑偶然の事実に. 麻上正信編﹃注解破産法. て悪意になる以前に相殺の担保的機能を信頼していた︑もしくはその他積極的に相殺を認める合理的理由があるという事情のいず. よる債務負担行為もまた含まれる︒振込入金によりたまたま債務を負担したことを奇貨として相殺をする者には︑支払停止につい. 納谷廣美﹁相殺権の制限﹂斎藤秀夫H伊藤乾編﹃演習破産法﹄三六五頁︵昭和四八年︶︑斎藤秀夫. れも認められないからである︒. ︹改訂第二版︺﹄五八五頁︹斎藤秀夫執筆︺︵平成六年︶︑谷口安平﹃倒産処理法﹄二三七頁︵昭和五一年︶︑同﹃演習破産法﹄二二. ︵2︶. 本判決を紹介・解説するものとして︑西尾信一﹁実務のための金融紺決紹介﹂手形研究三七巻四号七二頁︵平成五年︶︑井上. 二頁︵昭和五九年︶等︒. ︵3︶. 一三五. 哲男﹁判批﹂判タ八五二号二六二頁︵平成六年︶︑加藤哲夫﹁演習破産法﹂法教一六入号一六九頁︵平成六年︶がある︒. 破産者の支払不能を知った後の破産債権者による債務負担と破産法一〇四条二号.
(6) 二. 早法七二巻一号︵一九九六︶. 二二六. その理由を判旨は︑コ〇四条三号︵現四号︶ハ破産者ノ債務者ガ支払ノ停止又ハ破産ノ申立アリタルコトヲ知リテ破産債権. ヲ取得シタルトキト規定スルトモ破産法ハ支払不能ヲ破産原因トシ支払停止ヲ以テ支払不能ノ状態ヲ推定スヘキモノト為スカ故二. ︵4︶. 支払不能ヲ知リタル場合二当然其ノ類推適用アルモノト解セサルヘカラス﹂と述べる︒. 相殺禁止における支払停止概念. ω はじめに︑本判決は︑支払不能を知って破産債権者が債務を負担した場合に一〇四条二号本文の類推適用を. 認めたが︑このことは破産法の相殺禁止制度の中では︑具体的に次の二つの意味を持つものと考えられる︒. 第一は︑判旨が﹁︵支払不能を知っていた場合は︶支払停止を知っていた場合よりも︑債務者が破産に至ることを. 確実に把握できるのであるから︑支払停止の場合以上に債権者の抜け駆け的な利得行為を禁止する必要がある﹂と. して類推適用を認めたこととの関係で︑一〇四条二号で支払停止が相殺禁止の基準とされていることの意味が︑改 めて問われることである︒. 破産法が支払停止を相殺禁止の基準時とした理由は︑一般に︑破産者の経済的危機状況を外部に表示する行為で ︵5︶. ︵6︶. ある支払停止を基準とすることで︑相手方に予測可能性を与えて取引の安全を確保すること︑及び立証の困難を緩. 和することの二点であるとされる︒また︑これと同じ理由のもとで︑危機否認についても︑支払停止がその基準時 とされている︒. しかし他方で︑このように支払停止が相殺禁止及び危機否認の基準時とされていることに関しては︑今日の取引. 社会においては︑債務者の経済的破綻の表現を債務者の一定の行為に象徴的に見出すことが必ずしもできなくなっ.
(7) ︵7︶ てきており︑そのため支払停止の時期を確定することが困難である︑との指摘がなされている︒また︑わが破産法 ︵8︶. の母法である現行ドイツ破産法︵内・爵ξωo巳昌琶ひq︶の相殺禁止及び特別否認に関する規定が︑新ドイツ倒産法. ︵目ωo一話目〇三壼轟︶において︑大きく改正されている︒即ち︑まず特別否認について︑現行ドイツ破産法三〇条一. 号後段及び同二号が︑わが破産法と同じく︑特別否認の基準時として支払停止を規定してい呑のに代えて︑新ドイ. ツ倒産法一三〇条及び一三一条は︑専ら倒産手続の開始申立をその基準時とし︑更にその他の要件として︑行為の. 時点で破産者が支払不能であったこと︑あるいは支払不能または開始申立について倒産債権者が悪意であったこ ︵9︶. と︑を規定するのである︒また︑相殺禁止についても︑現行ドイツ破産法五五条三号では︑破産者の債務者が手続. 開始前に取得した債権に基づく相殺は︑支払停止または開始申立についての取得者の悪意を要件として相殺禁止の. 対象とされうるが︑新ドイツ倒産法九六条三号においては︑倒産債権者が否認しうる法律的行為によって相殺の可 能性を取得した場合に相殺が禁止される︑と規定されている︒. 以上に述べた指摘あるいは新ドイツ倒産法の規定は︑危機時期の徴表としての支払停止を相殺禁止及び危機否認. の基準時に設定することが妥当であるか否かを検討する際に︑一つの示唆を与えるものといえよう︒私見として. は︑相殺禁止及び危機否認の基準時として支払停止が現在十分に機能しているのか︑再検討の余地があると考え. る︒この点について︑本稿では紙幅の関係上これ以上立ち入ることはできないが︑今後より一層検討を深めたいと 考えている︒. 一三七. 第二は︑一〇四条二号本文の類推適用が認められることにより︑相殺禁止の対象範囲が実質的に広げられること になることである︒類推適用が問題となるケースを以下の二つに類型化して考えてみる︒ 破産者の支払不能を知った後の破産債権者による債務負担と破産法一〇四条二号.
(8) 一三八. 本件の事案のように︑破産者が支払不能の状態に陥った後︑支払停止がないまま破産申立から破産. 早法七二巻一号︵一九九六︶. ケース①. 支払停止前に破産者が既に支払不能の状態となっていた︵破産者は破産に至る過程においてこのよう. 宣告まで至った場合に︑破産債権者が破産者の支払不能を知って債務を負担したというケース︒ ケース②. な状態を経験するのが通常と考えられる︶場合に︑破産債権者が支払停止前に破産者の支払不能を知って債務を負担 したというケース︒. ケ;ス①は︑破産者の支払停止がない以上︑破産申立後はともかくそれ以前は︑一〇四条二号本文をそのまま適. 用することが不可能な場面である︒ところが右規定の類推適用が認められるならば︑このようなケースにおいて も︑相殺を禁止することが可能になる︒. ケース②は︑もし一〇四条二号本文の類推適用が可能であるならば︑一〇四条二号の相殺禁止を︑時間的に支払. 停止前の支払不能時まで遡らせることになる場面である︒即ち︑支払停止前の実質的危機時期︵支払不能時︶に負 担された債務を受働債権とする相殺まで︑相殺禁止の対象とすることが可能となる︒. ただ︑ここで一つ注意しなければならないのは︑ケース①︑ケ!ス②のいずれの場合においても︑一〇四条二号. 但書末段が︑破産宣告より一年前に生じた原因に基づく債務負担の場合を相殺禁止の対象から除外していることと. の関係で︑次のような問題が残ることである︒即ち︑破産者が支払不能の状態にあるときにその支払不能を知って. 破産債権者のした債務負担が︑破産宣告より一年前に生じた原因に基づく場合に︑かかる債務を受働債権とする相 殺は許されるかどうかという問題である︒この点については︑次の三で検討する︒. ③ 次に︑支払停止概念と一〇四条二号本文の類推適用の関係について考えてみる︒本件で一〇四条二号本文を.
(9) 類推適用することが必要であったのは︑本件では︑Y銀行が破産者Aに対し預金返還債務を負担する以前のいずれ. かの時点に支払停止を認定することができなかったためである︒このように︑具体的な事例において︑相殺禁止の. 対象としようとする債務負担の時点で︑既に支払停止がなされているか否かは重要な意味を持つ︒つまり︑その債. 務負担の時点が支払停止後であれば︑破産債権者の支払停止についての悪意を要件として一〇四条二号本文を直接. 適用し︑他方︑その債務負担の時点で破産者は支払不能の状態にあるが未だ支払停止をしていなければ︑破産債権. 者の支払不能についての悪意を要件として一〇四条二号本文を類推適用し︑相殺を禁止することになる︒しかし︑. 支払停止概念について︑後述のような近時有力に主張される見解をとり︑その結果支払停止の認定される時期が異. ︵10︶. ︵11︶. なってくるとすると︑同一の事例について︑一〇四条二号本文が直接適用できるケース︑あるいは類推適用の必要 なケース︑とその処理が分かれる場合が生じうるのである︒. そこでまず︑破産法上の支払停止概念をめぐる現在の三つの見解を以下に整理しておく︒. 第一は︑支払停止とは︑支払不能である旨を外部に表示する債務者の行為であると解するもので︑通説・判例の. とる見解である︒後述する見解の論者によれば︑通説・判例は︑破産原因たる支払不能を推定する前提事実として ︵11a︶ の支払停止と︑相殺禁止及び危機否認の基準としての支払停止とを同一に解しているとされる︒そして︑後述の見. 解はこの点をとらえて︑破産者の主観的行為である支払停止を相殺禁止及び危機否認の基準とすると︑例えば破産 ︵nb︶. 者の弱気や誤信に基づく支払停止行為がその基準とされうることになり︑これにより取引の安全及び債権者間の公. 平の害される恐れがある︑と批判する︒だが実際の判例は︑ある行為が相殺禁止及び危機否認の基準としての支払. 二二九. 停止行為にあたるか否かを判断する際には︑破産者が客観的に支払不能の状態にあることを基礎として︑その行為 破産者の支払不能を知った後の破産債権者による債務負担と破産法一〇四条二号.
(10) 早法七二巻一号︵一九九六︶ ︵12︶. 一四〇. が支払不能を外部に表示する行為と評価される場合に︑そこに支払停止を認定している︒このことからみて︑前記 の後述の見解からの批判は︑現実性を欠いていると考える︒. 第二は︑破産原因たる支払不能を推定する前提事実としての支払停止は︑支払不能を表明する債務者の主観的行. 為で足りるが︑相殺禁止及び危機否認の基準としての支払停止は︑債務者の支払不能を表明する主観的行為︵破産 ︵13︶ 原因を推定する支払停止における債務者の行為よりも軽微なもので足りるとされる︶に加えて︑債務者が現実に支払不 ︵14︶ 能であり︑この状態が破産宣告まで継続していたことを要するとするもので︑二義性説とよばれる︒. 第三は︑二義的にとらえる点では前説と同様であるが︑相殺禁止及び危機否認の基準としての支払停止について. ︵15︶. は︑その趣旨を︑実質的危機時期において債権の実価の下落したときに︑破産財団を減少させ︑債権者間の公平を. 害することを防止することととらえた上で︑客観的な支払不能であるとするもので︑客観的状態説とよばれる︒先. の二つの見解が︑支払停止の要素として︑あくまで支払不能の外部的表明行為があることを重視する︵軽微な行為 ︵16︶ でよいかどうかは別として︶のに対して︑支払停止に債務者の外部的表明行為を要しないとするところに︑本説の特 徴があるといえよう ︒. では︑右に述べた第二説あるいは第三説の︑通説・判例と異なる支払停止概念をとることで︑現実に支払停止の. 認定時期にどの程度の差異が生じるのか︒またその結果として︑どのような場合に一〇四条二号本文の類推適用が なされることになるのか︒. まず︑二義性説によれば以下のようになるものと考えられる︒即ち︑二義性説は︑相殺禁止の基準としての支払. 停止については︑破産者が客観的に支払不能状態にあれば︑その表明行為は破産原因を推定する事実としての支払.
(11) 停止行為よりも軽微なものでよいとする︒つまり︑支払不能に陥った債務者が︑その後何らかのそれを表明する軽. 微な行為をすれば︑その行為を相殺禁止の基準としての支払停止ととらえることになる︒したがって︑ある事例に ︵17︶. おいて︑かかる軽微な行為の存在が︑債務者が支払不能に陥った後のかなり早い時点で認められるとすれば︑その. 限りで︑通説・判例の認定するよりも早い時点に支払停止が認定される可能性があるものともいえる︒そして︑こ. の可能性の限りにおいて︑通説・判例の見解に比べて一〇四条二号本文を直接適用できる場面が増し︑反対に類推 適用が必要な場合は少なくなるともいえようか︒. ただ︑二義性説のいう﹁より軽微な行為﹂が具体的にいかなる行為を指すのか不明なため︑現実の事例におい. て︑通説・判例の見解をとるか二義性説をとるかによって︑支払停止行為の認定が異なってくる場合が果たしてど. れ程生じうるのかは疑問である︒先にも述べたように︑判例が︑相殺禁止及び危機否認の基準としての支払停止に. ついて︑行為の時点で支払不能という客観的状態が存在し︑かつその行為がそれを外部に表示する行為と評価され. る場合に︑かかる行為は支払停止にあたると解していることを考え併せると︑二つの見解の結論が異なる可能性 は︑より一層少なくなるように思われる︒. 次に︑客観的状態説による場合はどうであろうか︒客観的状態説は︑支払停止を客観的な支払不能ととらえ︑ま. た支払停止に債務者の外部的表明行為を必要としない︒そのため︑相殺禁止の対象とすべきと考えられる債務負担. 行為の直前に破産者が支払不能であったと確定され︑かつ破産債権者がその支払不能を知って債務を負担したとす. れば︑その場合には︑かかる債務負担行為は支払停止後のそれであり︑かつ破産債権者は支払停止を知っていたこ. 一四一. とになり︑したがって︑一〇四条二号本文の直接適用により相殺が禁止されることになるものと考えられる︒この 破産者の支払不能を知った後の破産債権者による債務負担と破産法一〇四条二号.
(12) 早法七二巻一号︵一九九六︶. 一四二. ように︑客観的状態説では︑通説・判例の見解または二義性説によると一〇四条二号本文の類推適用が必要な事例. であっても︑常に一〇四条二号本文が直接適用され︑類推適用の必要性は何ら問題とならなくなろう︒ ︵18︶. では︑以上のことを踏まえて︑本件事案にこれらの見解を当てはめてみる︒当該事実関係を見る限り︑破産者A. は︑支払不能状態であることを外部に表明するいかなる行為も為していないので︑通説・判例の見解によればもち. ろん︑二義性説によっても︑本件は支払停止のないまま破産宣告に至った事例︑即ち前述のケース①にあたる︒し. たがって︑そこでは︑仮にY銀行による本件の相殺の効果を排除しようとすれば︑一〇四条二号本文を類推適用す. ることが必要になる︒これに対して︑客観的状態説によれば︑Yの債務負担の直前にAが支払不能の状態にあった. 以上︑かかる債務負担行為は支払停止後のそれとなり︑そして債務負担の時点でYはAの支払停止を知っていたこ. とになるので︑Yによる本件の相殺は︑一〇四条二号本文が直接適用され︑無効となろう︒もっとも︑私見として. は︑このように支払停止と支払不能とを全く同一視する客観的状態説は︑破産法が︑破産原因である支払不能とそ. れを推定する事実である支払停止という二つの異なる概念を設定し︑そして相殺禁止及び危機否認の基準はあくま. で支払停止と規定する︵その立法論上の当否は別として︶ことの意義を没却させるものであり︑したがってかかる見. ただし︑支払停止概念を二義性説または客観的状態説︵二③参照︶のように捉えると︑支払停止の主張・立証にあたって︑客. 解にはなお問題があると考える︒. ︵5︶. ︵昭和五六年︶︑荒木隆男﹁偏頗行為の否認に関する試論﹂民訴雑誌三八号二一七頁︵平成四年︶参照︶ため︑この場合には︑支払. 観的な支払不能状態の継続も主張・立証しなければならない︵青山善充﹁支払停止の意義および機能﹂新実務民訴講座13六八頁.
(13) 梅謙次郎﹁支払停止ヲ論ズ︵承前︶﹂法協二二巻五号六七七頁︵明治三七年︶︑松下淳一﹁商事判例研究﹂ジュリ九五〇号一三. 停止を基準とすることで立証の困難が緩和されるとの理由はそもそも妥当しないことになろう︒ ︵6︶. 六頁︵平成二年︶︑谷口・前掲注2倒産処理法七四頁︑伊藤眞﹃破産法︹新版︺﹄四八頁︵平成三年︶参照︒また︑危機否認の基準. が支払停止とされた理由をドイツ破産法理由書から明らかにする︑中西正﹁危機否認の根拠と限界︵一︶︵二・完︶﹂民商九三巻三. 兼子一監修﹃条解会社更生法︵中︶﹄五九︑六〇頁︵昭和四八年︶︵なお︑同四九頁も参照︶︒ここでは︑実質的に否認に値す. 号三五七頁以下︑同四号五一六頁以下︵昭和六〇年︶も参照︒ ︵7︶. の故意否認︶をもたらしていると思われる諸事情の一つとして︑この点が挙げられている︒また︑荒木・前掲注5二一五ー二一七. る行為を会社更生法七入条二号または三号によって否認することを困難にし︑故意否認の拡大的適用による処理︵例えば本旨弁済. 頁も︑﹁現代の経済社会においては︑支払停止行為は︑債務者の経済的危機の徴表︑情報としてそれほど大きな意義を有していな い﹂と指摘する︒. 現行ドイツ破産法は︑破産債権者が手続開始前に破産者の支払停止または開始申立を知って負担した債務に基づく相殺につい. ︵8︶ ωOω=淺8ユ九九九年一月一日より施行されることになっている︒. ては規定していない︒その理由は︑おそらく︑一〇四条二号が設けられる以前のわが国における議論と同様に︑かかる債務負担に. ︵9︶. 梅謙次郎﹁支払停止ヲ論ズ﹂法協二二巻三号三一四頁以下︵明治三七年︶︑加藤正治﹁支払停止ノ意義﹂法協三〇巻三号三二. は否認をもって対処することが可能であると考えられているためではないかと思われる︒. 六頁以下︵明治四五年︶︑同﹃破産法要論︹初版︺﹄二五八頁以下︵昭和九年︶︑斎藤常三郎﹃日本破産法﹄六二頁︵昭和八年︶︑中. ︵10︶. 田淳一﹃破産法・和議法﹄四〇頁︵昭和三四年︶︑山木戸克巳﹃破産法﹄四七頁︵昭和四九年︶︑谷口・前掲注2倒産処理法七五頁. 大判昭和七・三・二五民集一一巻六号四九九頁︵一〇四条について︑﹁支払停止トハ毫末モ支払ヲ為シ得サル状態ヲ指スモノ. 破産者の支払不能を知った後の破産債権者による債務負担と破産法一〇四条二号. 一四三. 債務者が資力欠乏のため債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為﹂とした︶︑. 又ハ黙示的二表示スル行為﹂とした︶︑最判昭和六〇・二二四判時一一四九号一五九頁︵七四条一項について︑﹁支払停止とは︑. 七頁︵七二条二号について︑﹁支払停止トハ債務者力資力欠乏ノ為債務ノ支払ヲ為スコト能ハサルコトヲ思惟シテ其ノ旨ヲ明示的. ニ非ス一般的二支払ヲ為スコト能ハサル旨ヲ表示スル債務者ノ行為﹂とした︶︑大判昭和一五・九・二八民集一九巻二一号一入九. ︵11︶. 等。.
(14) 早法七二巻一号︵一九九六︶. 一四四. に弁済すべき債務を一般的かつ継続的に弁済することができない旨を明示的又は黙示的に外部に表明する債務者の行為﹂とした︶. 大阪高判平成元・五・三一金法ご一三二号三〇頁︵一〇四条四号について︑﹁支払停止とは︑債務者が弁済能力を欠くため︑即時. ︵11a︶. 最近の判例として︑第一回目の手形不渡りが支払停止にあたるとした最判平成六・二・一〇裁判集民事一七一号四四五頁︵一. 青山・前掲注5五八︑五九頁︒. 青山・前掲注5五六頁︒. 等︒. ︵11b︶. 〇四条こ号の事例︶及び東京地判平成三・八・二七判タ七七八号二五五百ハ︵会社更生法八O条の事例︶︑第一回目の手形不渡り後. ︵12︶. 具体的にどのような行為が﹁軽微な行為﹂とされるのかについて︑論者による明確な説示はなされていない︵青山・前掲注5. の和議開始の申立が支払停止にあたるとした静岡地判平成四こ二・四判タ八〇九号一ご一〇頁︵七二条二号の事例︶等参照︒ ︵13︶. 15 16. 荒木・前掲注拓一五三頁︒. 青山・前掲注5論文が念頭に置いていたのは︑債務者の弱気や誤信に基づく支払停止行為が︑支払不能に先行する事例である. 現実には債務者は支払停止をする以前に既に支払不能に陥っている場合が多いと思われるので︑相殺禁止及び危機否認の基準 ジュリ一〇六八号一三五頁︵平成七年︶参照︒. Aは︑B社の営業所の玄関に﹁B社が倒産した﹂旨の貼紙を掲示したが︑この貼紙行為は︑あくまでB社の支払不能を表明す. 破産管財人Xは︑法人格否認の法理を適用してB社の支払停止とAの支払停止を同視できる︑との主張をなしたが︑裁判所は. この主張を問題としなかった︒ 本件が法人格否認の法理を適用することのできる場合でないことは︑おそらく異論はなかろう︒. き︑. るB社の行為であり︑ AとB社が別人格である以上︑B社の表明行為をしてAの表明行為とすることは無理であろう︒この点につ. ︵18︶. 批﹂. 時を通説・ 判例の見解による支払停止行為の前に擬制する点に︑二義性説の意味があると一般には考えられよう︒加藤哲夫﹁判. 17. 荒木・前掲注5二一二頁以下︑同﹁時の判例︵破産法︶﹂法教一六八号一五二頁︵平成六年︶︒. 青山・前掲注5五五頁以下︒. 六九頁参照︶︒ 14. カご)___.
(15) 三 一〇四条二号本文の類推適用と同号但書末段及び相殺濫用論・相殺否認論. ω ここでは︑破産債権者が破産者の支払不能を知って債務を負担した時点が破産宣告より一年前であるとき︑. その場合にも一〇四条二号本文の類推適用が認められて相殺は禁止されるのか︑それとも本条但書末段が適用され. て相殺は許されるのか︑の問題について検討する︒この問題は︑本件の事実関係においては︑Yによる債務負担が. 破産宣告前一年以内になされているので問題とならなかったが︑一〇四条二号本文の類推適用との関係で問題とな る場合が生じうるので︑取り上げておく︒. 一〇四条二号但書末段は︑支払停止を知って債務を負担した場合でも︑それが破産宣告より一年前に生じた原因 ︵19︶ に基づくときは相殺は禁止されない︑と規定する︒本文を類推適用する結果但書の適用がなくなる︑というのは論. 理的に整合しないから︑支払不能を知って債務を負担した場合も当然︑但書末段の時的制限に服することになるも. のとも考えうる︒即ち︑先に二①で︑一〇四条二号本文の類推適用が認められることにより︑相殺禁止の対象範囲. は実質的に広がることになると述べたこととの関係でいえば︑かかる相殺禁止の対象範囲の拡張は︑あくまで破産. 宣告前一年以内という時的制限を前提とするのであり︑破産宣告の一年前までそれを広げることはできないことに. なる︒ただ︑以下に述べる三つの点を考慮に入れると︑単純にこのように結論づけることには︑いささかの疑問が 生じる︒. 第一に︑但書末段で破産宣告の時より一年前に生じた原因に基づく債務負担の場合が相殺禁止から除外されてい ︵20︶. るのは︑この場合には支払停止と破産宣告との関連性が稀薄になるので︑むしろ取引の安全を重視するべきであ. 一四五. る︑との理由からであるとされる︒だが︑それ自体破産原因である支払不能を知っていた場合も︑支払停止の場合 破産者の支払不能を知った後の破産債権者による債務負担と破産法一〇四条二号.
(16) 1︶. 早法七二巻﹃号︵︸九九六︶ ︸四六 ︵2 と同様に︑それが一年前であれば支払不能と破産宣告の関連性が稀薄になると果たしていえるのか︑疑問となる︒. 第二に︑第一の点とも関連するが︑そもそも但書末段によって︑破産宣告の一年前の原因に基づく債務負担によ. る相殺が︑一律に相殺禁止から除外されていることに疑問を呈する見解がある︒即ち︑破産宣告の一年前という理. 由だけで︑但書末段の規定によって︑全て相殺禁止の例外として相殺が許されることになると︑特定の債権者だけ ︵22︶. が他の債権者に優先して満足を受けることを実質的に許す結果になるような事例に対処できず︑かかる結果は債権. 者間の平等の見地からみて問題である︒このような︑破産宣告より一年前の原因に基づく債務負担の場合を一律に. 相殺禁止の例外とすることは不合理ではないか︑という疑念は︑本件判旨が﹁債権者が支払不能を知ることができ. た場合には︑支払停止の場合以上に債権者の抜け駆け的な利得行為を禁止する必要がある﹂と述べていることとも. 考え併せると︑破産宣告より一年前に支払不能を知って負担した債務に基づく相殺の場合には︑一層大きくなると いえる︒. 第三に︑一〇四条四号︵旧三号︶の債権取得の事例ではあるが︑破産者の債務者が破産宣告より一年前に破産債 ︵23︶. 権を取得したときでも︑その取得当時他の破産債権者を害することを知っていた場合には︑相殺は許されない︑と. する大審院判例がある︒これらの判例の考え方に従えば︑一〇四条二号についても︑支払不能を知っていた場合. →他の破産債権者を害することを知っていた場合︶には︑相殺は許されない︵目但書末段は適用されない︶︑と解する ︵24︶. 余地がある︒右大審院の判旨に対する学説の評価が︑賛否両論に分かれていることからも分かるように︑かかる解. 釈の是非については容易には論じ難いが︑債権者間の平等を害するような相殺は︑たとえそれが破産宣告の一年前. に為されたものであっても許されるべきではない︑という大審院の判断は︑一〇四条で破産宣告より一年前の原因.
(17) に基づく債務負担または債権取得が一律に相殺禁止の例外とされていることの妥当性に︑大いに疑問を呈するもの といえよう︒. ︵25︶. 以上の三つの点からみて︑支払不能を知って債務を負担した場合にも一〇四条二号但書末段の除外事由が当然に. あてはまると解することには︑疑問の多くあることが分かる︒だが一方︑もし仮に︑支払不能を知って債務を負担. した場合には但書末段の適用が排除され︑破産宣告の一年前の債務負担も相殺禁止の対象となるとすると︑その場. 合には︑支払不能について悪意であったというだけで相殺禁止の対象範囲を無制限に広げてよいのか︑あくまで但. 書末段の規定が存在する以上︑それとのバランスを失しないか︑との疑間が生じてくる︒この問題については︑注 及び注25にあげた立法論と併せて︑今後更に検討していきたい︒. 破産者の支払不能を知った後の破産債権者による債務負担と破産法一〇四条二号. 一四七. ころ存在しない︒ただ︑最判昭和五三・五・二判時入九二号五入頁が︑同行相殺の有効性を前提にしたと考えられ. といった批判または疑問が呈されよう︒この点につき︑判例には相殺濫用論を正面から扱ったものはこれまでのと. 当たるのか不明瞭である︑また︑権利濫用の禁止という一般条項を相殺権の制限に用いることが適切であるのか︑. る場合には︑相殺は無効になるとするものである︒しかし︑この見解に対しては︑いかなる場合が相殺権の濫用に. ︵26︶. まず︑相殺濫用論とは︑たとえ形式上は一〇四条の相殺禁止に該当しなくとも︑相殺が相殺権の濫用とみなされ. 受働債権とする相殺の効果を排除することができる点に︑これまで述べてきた類推適用論との大きな違いがある︒. のである︒これらの理論は︑破産宣告一年前の債務負担であっても︑然るべき要件が満たされれば︑かかる債務を. 号本文を類推適用する以外に︑次の二つの見解が提唱されている︒即ち︑相殺濫用論及び相殺否認論といわれるも. ω ところで︑一〇四条二号本文の直接適用の対象から外れてしまう相殺を規制する方法としては︑一〇四条二. 24.
(18) 早法七二巻一号︵一九九六︶ ︵27︶. ることの論理的帰結として相殺濫用論を否定している︑と理解されている︒. 一四八. 次に︑相殺否認論とは︑一〇四条二号の適用範囲外である債務負担についても︑相殺権行使によって一般債権者 ︵28︶. を害することを知りながら破産債権者が債務を負担したような場合には︑かかる債務に基づく相殺自体を故意否認. ︵29︶. の対象としていこうとするものである︒相殺の否認を認める見解も有力ではあるものの︑通説・判例はこれを否定 する︒. ωで述べたように︑一〇四条二号但書末段の規定が存在する以上︑破産宣告の一年前に生じた原因に基づき負担. された債務を受働債権とする相殺を︑︼〇四条二号自体の解釈によって相殺禁止の対象とすることには少なからず. 難がある︒右の二つの見解は︑かかる相殺の効果も排除できる理論として確かに有用である︒しかし︑相殺濫用 ︵30︶. 論・相殺否認論自体に︑それぞれ実際上及び理論上の問題が残されており︑やはり最終的には一〇四条の規定自体 を改正していくことが望ましい方向であると思われる︒. 否認権の制限に関する八四条と同趣旨の規定である︒このコ年前﹂という期間は︑ドイツ破産法五五条一項三号末段︵わ. 加藤・前掲注10要論一七八︑一七九頁︑石原辰次郎﹃破産法和議法実務総覧﹄二五三頁︵昭和四一年︶︑中田・前掲注10ニニ. 条に当たるドイツ破産法三三条を準用する︶に倣ったとされる︵加藤正治﹃破産法研究第九巻﹄一二六︑一二七頁︵昭和一. ︵19︶. 一年︶︶︒. もっとも︑支払停止の場合であっても︑破産の申立から宣告まで相当の期間を要することが多く︑破産宣告と支払停止とは容. 易に一年以上の間があくことが多いというわが国の破産実務の現状に鑑みると︑破産宣告より一年前であれば支払停止と破産宣告. ︵21︶. 三頁︑納谷・前掲注2三六四頁︑斎藤闘麻上・前掲注2五八四頁︹斎藤秀夫執筆︺等︒. ︵20︶. が八四.
(19) の関連性が薄くなるといえるのかどうか︑問題ではある︒. ︵22︶ 同様の問題は否認権においても生ずる︒即ち︑破産宣告より一年前に為された本旨弁済の故意否認の問題である︒入四条の時. 一二事件評釈︑兼子一編﹃現代法律学演習講座破産法﹄九五頁︵昭和三﹃年︶︑斎藤秀夫編﹃破産法講義﹄一二四頁︹斎藤秀夫執. 的制限が存在するために︑本旨弁済の否認を危機否認のみに限るという見解が有力であった︵菊井維大・判例民事法昭和入年度二. 故意否認が認められてきている︵最判昭和四二・五二一民集一二巻四号八五九頁︑中田淳一﹁判批﹂民商五五巻五号八一二頁︑同. 筆︺︵昭和四五年︶︑加藤哲夫﹃破産法﹄二二八頁︵平成三年︶等参照︶にもかかわらず︑債権者平等の見地から︑結局本旨弁済の. 大判昭和九・丁二六民集一三巻一号七四頁︑大判昭和一四・六・二〇民集一八巻二号六八五頁︑大判昭和一一・三・二三. 産処理法二五〇頁等︶︒. 五七巻六号九〇八頁︑小山昇﹁本旨弁済と否認﹂斎藤口伊藤・前掲注2四一五頁︑山木戸・前掲注10一八一頁︑谷口・前掲注2倒. ︵23︶. 兼子一・判例民事法昭和九年度八事件評釈︑石原・前掲注20二五四頁︑中田・前掲注10一三三頁は︑かかる解釈は一〇四条三. 法学五巻一三七四頁︑大判昭和二・七・六法学五巻一六六五頁︑大判昭和一二・五・一四法学六巻二一二九頁参照︒. 号︵現四号︶の規定を不当に拡張し︑その但書末段の除外規定をほとんど無意味にするもので支持し難い︑と反対する︒. ︵24︶. これに対して加藤正治博士は︑大判昭和九二・二六︵前掲注23︶の評釈中で︑判旨に賛成される︒即ち︑立法論としては一〇. 四条三号︵現四号︶但書の一年前云々の文言は挿入しないのを可とするが︑もしこれを置くのであれば︑否認権に関する七二条﹃. 号に該当する規定を相殺権に関しても明規することが必要であり︑それがなされていない現状においては類推解釈をするほかな. このような疑問を反映して︑一〇四条に関しては既に有力な立法論が唱えられている︒加藤・前掲注19二=こ頁以下の他に︑. い︑といわれる︵加藤・前掲注19一二三頁以下︶︒また︑納谷・前掲2三六四頁︑山木戸・前掲注10一七〇頁も︑判例を是認する︒. 石原・前掲注20二五九頁︑補遺編五五頁以下が︑相殺禁止には七二条一号の故意否認に相当する部分の規定が欠如しているので︑. ︵25︶. この部分に関しては相殺禁止と否認権の規定とで均衡を失していると指摘し︑﹁︵相殺そのものの否認の余地を否定するならば︶相. 殺禁止の欠如部分を補充するため七二条一号に相当する害意ある相殺適状作出行為には︑債権の取得︑債務負担のいずれについて ﹂と述べる︒. も︑七二条一号との均衡上︑支払停止前の原因に基づく場合の除外をはずし︑また宣告前一年の制限をはずす必要があるであろ. 破産者の支払不能を知った後の破産債権者による債務負担と破産法一〇四条二号. 一四九. ︵26︶ 相殺濫用論は︑同行相殺の事例に対処するために発達した︵好見清光﹁破産と同行相殺﹂金商別冊2﹃新版破産法﹄二二九頁. う.
(20) 早法七二巻一号︵一九九六︶. 一五〇. 以下︵平成二年︶等︶︒そのため︑その対象とされるのは一〇四条四号の適用範囲外の自働債権の取得に限られるとする論者もあ. わけではな﹂い︑との反論もあるため︵中野貞一郎・道下徹編﹃基本法コンメンタール破産法﹄一四四頁︹山本克巳執筆︺︵平成. る︵伊藤・前掲注6二八二頁︶︒しかし﹁濫用論の適用範囲から濫用的な受働債権の負担がはずれることには理論的必然性がある 年︶︶︑ここでも取り上げることとする︒. 条解会更法・前掲注7二六−二九頁︑石原・前掲注20二六三頁︑伊藤眞﹃債務者更生手続の研究﹄四一〇頁以下︵昭和五九. 一〇四条の立法論に関しては前記注25参照︒. これまで述べてきたように︑一〇四条二号の相殺の禁止においては︑支払不能を知っていた場合に同条を類推適. 可能か︑という問題である︒. 認の相手方が支払不能を認識していることを要件として︑七二条二号を類推適用して危機否認の対象とすることは. 即していえば︑破産者が未だ支払を停止していないが実質的に支払不能に陥っている状況の下で為した行為を︑否. 号乃至四号︶についても同様の考え方が可能であるか︑という点について触れておく︒即ち︑七二条二号の規定に. 四条二号の類推適用が認められるとすると︑同じく支払停止がその行使の基準時となっている危機否認︵七二条二. 最後に︑一〇四条二号の相殺禁止において︑破産債権者が破産者の支払不能を知って債務を負担した場合に一〇. 四 否認と支払不能. ︵30︶. 民事七八巻七三九頁︑判時四一〇号二三頁︑最判昭和四一・四・八民集二〇巻四号五二九頁等︒. ︵29︶ 中田・前掲注10一三四頁︑山木戸・前掲注10一七〇頁︑谷口・前掲注2倒産処理法二四四頁︑最判昭和四〇・四・二二裁判集. 年︶︑同・前掲注6二八二頁︑斎藤H麻上・前掲注2三七三頁︹宗田親彦執筆︺等︒. 8︶. ︵2. ︵27︶ 伊藤・前掲注6二八二頁︑中野・道下・前掲注26一四四頁︹山本執筆︺︒. 元.
(21) 用することは︑判例・学説によってかなり広範に認められているといってよかろう︒これに対して︑危機否認にお. いては︑類推適用が論じられることはこれまでほとんどなかった︒その理由としては︑否認には時的制約のない七 ︵31︶. 二条一号の故意否認が存在するので︑支払停止後の行為を対象とする危機否認の規定から漏れた場合には︑専ら故 意否認の問題として捉えられると考えられたことによる︒. しかし︑この問題に関して︑近時︑次のような興昧深い見解が示されている︒論者は︑七二条二号の危機否認に. ついて︑支払停止前でも実質的には支払不能である時点まで︑七二条二号の類推適用によって危機否認を拡張する. ことを検討する︒そして︑危機否認の根拠は︑本来︑債務者が支払不能であることと否認の相手方がその支払不能. を認識していることにあると解し︑﹁支払停止発生以前に支払不能を認めさせあるいはこれを推認させる事実が認 ︵32︶. められ否認の相手方がこの事実を認識していた場合には︑危機否認の類推適用を拒む理由は原則として認められな. い︑と言うべきであろう﹂と述べるのである︒この見解によると︑例えば︑従来故意否認の対象となりうるだけで ︵33︶. 危機否認の対象にはならないと一般に解されてきた支払停止前の本旨弁済行為を︑七二条二号の類推適用によって 危機否認することも可能となるという︒. 本件判旨の示した﹁債権者が何らかの事情でこれ︵支払不能︶を知ることができた場合には︑支払停止を知って. いた場合よりも︑債務者が破産に至ることを確実に把握できるのであるから︑支払停止の場合以上に債権者の抜け. 駆け的な利得行為を禁止する必要がある﹂という論理は︑危機否認の場合にもそのまま当てはまるものと思われ ︵34︶. る︒更に︑右見解の論者がいうように︑危機否認の規定を直接適用のできない場合全てに故意否認だけで対処する. 一五一. ことが困難であるとすれば︑危機否認の類推適用を考慮する必要性は少なくないと思われる︒ただ︑七二条二号の 破産者の支払不能を知った後の破産債権者による債務負担と破産法一〇四条一一号.
(22) 早法七二巻一号︵一九九六︶. 一五二. 類推適用によって︑支払停止後の行為であることを根拠に破産手続においてはじめて認められる否認類型である危. 機否認を支払停止前に拡張しうるとすると︑七二条一号の機能はどうなるのか︑その存在意義が問われることにな る点に注意する必要があろう︒. また︑危機否認において類推適用が可能とすると︑三ωで述べたのと同様の問題︑即ち︑八四条が︑破産宣告よ. り一年前に為された行為は支払停止の認識を要件とする否認には服さない旨を規定することとの関係上︑七二条二. 号等の限界を拡張してもその成果には一定の限界があるのではないか︑という問題が生じてくると考えられる︒こ. の問題に対して︑右見解の論者は︑入四条であげられているのは支払停止に基づく否認だけなので︑破産申立に基 ︵35︶. づく場合が本条の対象とならないのと同様︑類推適用が問題となる事例は全て本条には服さないという︑八四条を 制限的に解する解釈論の可能性を示唆している︒. 以上︑危機否認の類推適用に関する近時の一見解とその若干の問題点について述べた︒本稿の判例評釈としての. 性質及び紙幅の関係上︑この点に関して更に立ち入った検討をここで行うことはできない︒危機否認の類推適用の. 例えば︑支払停止前の本旨弁済の故意否認は典型的な問題である︵前記注22参照﹀︒また︑対抗要件の否認に関する七四条に. 可否︑及びその場合における八四条の適用の有無の問題については︑今後の検討の課題としたい︒. ︵綴︶. おいては︑この問題は創造説対制限説という形で現れてくる︒創造説が︑七四条は原因行為と区別して特別に対抗要件の否認を認. めたものであるとし︑対抗要件充足行為の故意否認の可能性を否定するのに対して︑制限説は︑対抗要件充足行為は本来七二条の. 否認の対象となるものであるが︑その特殊性から特に七四条を設けてその要件を厳格にし︑七二条を制限したものであるとし︑危.
(23) の具備行為であっても八四条が適用される場合︑については︑故意否認の対象となるか否かが問題とされるにすぎない︒. 機否認が成立しえない場合でも故意否認が考えられるとする︒いずれにせよ︑支払停止前の対抗要件具備行為︑または支払停止後 2︶ 中西・前掲注6﹁危機否認の根拠と限界︵二・完︶﹂五三九頁︒. ︵3. 中西・前掲注6﹁危機否認の根拠と限界︵一︶﹂三五八︑三六二頁︒. 中西・前掲注6﹁危機否認の根拠と限界︵二・完︶﹂五四〇頁︒ただ︑このような解釈に対しては︑一〇四条に関して為され. 中西・前掲注6﹁危機否認の根拠と限界︵一︶﹂三五八頁︒. ︵33︶. 4︶. ︵3. ︵早稲田大学助手. 澤. 一五三. 西. 繭. 美︶. たのと同様の批判︑即ち︑かかる解釈は七二条二号等の規定を不当に拡張し︑八四条の除外規定をほとんど無意味にするものであ. ︵35︶. る︑という批判がなされよう︒. 破産者の支払不能を知った後の破産債権者による債務負担と破産法一〇四条二号.
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