I
研究論文】KABC‑II を活用した児童生徒の認知機能の実態把握と教育への還元
‑PDCA
サ イ ク ル の 評 価 ・ 改 善 へ の 適 用 と 効 呆 ー吉田ゆりキ 1・ 今 里 順 一 日 ・ 久 固 有 里 *2 .高橋甲介*1・石川衣紀*' キ1(長崎大学教育学部)*2 ( 長 崎 大 学 教 育 学 部 附 属 特 別 支 援 学 校 )
研 究 の 背 景 ( 問 題 提 起 )
知 的 障 害 及 び 発 達 障 害 の ア セ ス メ ン ト の 意 麓
平 成19年4月 か ら 新 た な 制 度 と し て ス タ ー ト し た 特 別 支 援 教 育 は 、 そ の 基 本 方 針 を 示 し た 平 成 17年 12月の中央教育審議会答申(r特別支援教育を推進する た め の 制 度 の 在 り 方 に つ い てJ)(文部科学省 HP)により、「障害のある幼児児童 生 徒 の 自 立 や 社 会 参 加 に 向 け た 主 体 的 な 取 組 を 支 援 す る と い う 視 点 に 立 ち 、 幼 児 児 童 生 徒 一 人 一 人 の 教 育 的 ニ ー ズ を 把 握 し 、 そ れ に 対 応 し た 適 切 な 指 導 及 び 支 援 を 行 う 」 と の 理 念 に 基 づ き 、 平 成 18年6月 の 学 校 教 育 法 改 正 に 至 っ て い る 。 さ らに知的障害を対象とした特別支援学校では、「一人一人の言語面、運動面、知識 面 な ど の 発 達 の 状 態 や 杜 会 性 な ど を 十 分 把 握 し た 上 でJ(文部科学省 HP. 2014) の 指 導 が 原 則 と さ れ て い る 。 す な わ ち 、 児 童 一 人 一 人 の 教 育 的 ニ ー ズ の 把 握 で あ る 実 態 把 握 に 基 づ き 適 切 な 指 導 及 び 支 援 を 計 画 す る こ と は 、 特 別 支 援 教 育 の 基 本 理念である。
し か し な が ら 実 態 と し て は 、 特 別 支 援 教 育 の 推 進 に 応 じ て 様 々 な 指 導 方 法 や 方 略 が 紹 介 さ れ る 反 面 、 支 援 者 個 々 が 習 得 し た 指 導 法 の 適 用 が 優 先 す る 場 面 も 見 受 けられ、特別支援教育の
PDCA
サ イ ク ル の 見 直 し と 、 一 人 一 人 の 実 態 把 握 の 重 視 が指摘されている (e.g.文部科学省. 2010)。特 別 支 援 教 育 に お け る ア セ ス メ ン ト は 、 総 合 的 で 包 括 的 な 児 童 生 徒 の 教 育 評 価 で あ る 。 ま ず 支 援 及 び 指 導 を 開 始 す る 際 の 状 態 像 の 理 解 、 必 要 な 支 援 を 考 え 、 将 来 の 発 達 や 行 動 を 予 測 す る た め に 行 わ れ る (P: Plan(計画))。また、行われた教 育 的 支 援 や 指 導
( D : D o (
実行)の成果を検註するというモニタリングとしての側面( C : C h e c k
(実行))もある。現在の指導方法、具体的な環境の調整の方法や教材、指 導 方 略 が そ の 児 童 生 徒 に 適 し て い る の か を 検 証 し 、 よ り 適 し た も の へ と 修 正 す る (A: Action(改善)ために行われる。
ア セ ス メ ン ト は 、 保 護 者 や 関 係 者 か ら の 聞 き 取 り に よ る 方 法 、 支 援 者 の 行 動 観 察による他、標準化された知能検査・発達検査等を利用したアセスメントがある。
標準化された検査を用いることで行動観察よりもよりフォーマルなかたちである。
学 校 に お い て 個 別 の 指 導 計 画 を 作 成 す る 場 合 、 よ り 客 観 的 な 指 標 で あ る 検 査 の 活 用が有効である。
知 能 検 査 ・ 発 達 は 、 知 能 発 達 の 程 度 を 測 定 す る こ と の み を 目 的 と す る も の で は
‑9ー
な い 。 生 育 歴 上 や 日 常 生 活 場 面 で の 様 子 と し て 聞 き 取 り さ れ た 情 報 と 関 連 づ け 、 解 釈 す る こ と が で き る 。 こ れ ら の 行 動 が 認 知 機 能 の 発 達 の 状 況 に 由 来 す る と 仮 説 づ け る こ と に よ り 指 導 の 方 法 を 工 夫 し 、 さ ら に 指 導 経 過 や 結 果 の 検 証 が 可 能
となる。
こ う し た 背 景 に よ り 、 近 年 で は 知 能 検 査 等 の 活 用 と そ の 有 効 性 が 強 調 さ れ て い る が 、 特 に WISC‑Nと KABC‑IIは 、 注 目 度 も 高 く 、 そ の 活 用 へ の 期 待 が 高 ま っ ている検査である。
KABC‑IIの 特 徴 と 教 育 的 支 援 へ の 活 用
KABC‑II K‑ABCとは、 Kauf:皿an• Kaufman (1983) により作成された、
Kaufman Assessment Ba抗eryfor Children (K‑ABC,以下 K‑ABCと 表 記 ) で あ る 。 我 が 国 で は , 松 原 ・ 藤 田 ・ 前 川 │ ・ 石 隈 (1993) により標準化され、 K‑ABC 心 理 ・ 教 育 ア セ ス メ ン ト バ ッ テ リ ー と し て 利 用 さ れ て き た 。
K‑ABCの 特 徴 は , 子 ど も の 知 的 能 力 を , 認 知 処 理 過 程 と 知 識 ・ 技 能 の 習 得 度 の 両 面 か ら 評 価 し , 得 意 な 認 知 処 理 様 式 を 見 つ け , そ れ を 子 ど も の 指 導 ・ 教 育 に 活 か す こ と を 目 的 と し て い る こ と に あ る 。 現 在 で は 2004年 に 改 訂 版 と し て KABC‑
Eが刊行され、 2013年 に 日 本 版 KABC‑llが刊行されている。
KABC‑llの基盤となるのは、 2つの知能に関わる理論である。 K‑ABCで 用 い た ル リ ア の 神 経 心 理 学 理 論 に 基 づ く 神 経 心 理 学 理 論 の 解 釈 を 継 承 し つ つ 、 キ ャ ッ テ / レ ホ ー ン キ ャ ロ ル 理 論 (CHC理論・ Cattell‑Horn‑Carroll(CHC)Theory, 以 下 CHC理 論 と 表 記 ) に 基 づ い た 尺 度 の 解 釈 を 追 加 し た と こ ろ が 大 き な 改 訂 で ある。 (Kauf:皿an・Lichtenberger• Fletcher‑Janzen • Kaufman, 2005)。
Table 1 KABC‑II (日本版)の概要 対象年齢 日本版では 2:6~18:11
検査構成 年齢レベルの分類 :3 歳、 4~6 歳、 7 ~18 歳の 3 つ。
日本版では基本検査のみ。
実施時間 日本版では基本検査のみ。
検査測定の内容 認知処理尺度(4尺度)・学習・継次処理・同時処理・計画能力 (尺度) 習得尺度 (4尺度):語葉・読み・書き・算数
非言語性尺度(5つ):顔探し、物語の完成、模様の構成、パターン推理、手 の動作
CHC尺度目短期記憶、視覚処理、長期記憶と検索、流動性推理、結晶性能力、
読み書き、量的知識
検査者資格 心理学的アセスメントについて大学院または専門家レベルの訓練を受けたも の注1)
下位検査 2 0 (認知検査 11、習得検査9)
(日本版KABC‑IIマニュアノレ及びマニュアノレに基づき、活用について学ぶ参考図書の位置づ け で あ る WKABC‑II による心理アセスメントの要点~ Kaufman・Lichtenberger‑
Fletcher‑Janzen' Kauf:皿an,2005(藤田・石隈・青山・服部・熊谷・小野 監修, 2014)の情
KABC‑nの 特 徴 KABCは 、 認 知 処 理 過 程 及 び 処 理 能 力 を 計 測 す る こ と を 目 的 とした検査である。 KABC‑nの 概 要 を 表1に示す。また、青山 (2013)は そ の 特 色 を 以 下 の 3点としている。
‑指導に生かせる点;
r
何 を 教 え る べ き か 」 の み な ら ず 「 何 を 、 ど の よ う に 教 え るべきか」に重点を置く。‑ 課 題 の 分 か り や す さ ; 例 題 や 練 習 問 題 を 設 け る こ と に よ っ て 、 課 題 を 理 解 し てもらうチャンスを作り、より妥当性の高い検査実施が可能。
・検査用具の工夫, 3冊 の イ ー ゼ ル に よ る 検 査 。 イ ー ゼ ル の 表 に 子 ど も 用 の 提 示刺激、裏に教示内容が明示されている。
尺 度 構 成 カ ウ フ マ ン モ デ ル の 基 盤 に 、 認 知 尺 度 と 習 得 尺 度 で 構 成 さ れ て い る 。 認 知 尺 度 は さ ら に 、 継 次 尺 度 ・ 同 時 尺 度 ・ 計 画 尺 度 ・ 学 習 尺 度 の4つ が あ る 。 習 熟 尺 度 は 、 語 葉 尺 度 ・ 読 み 尺 度 ・ 書 き 尺 度 ・ 算 数 尺 度 で 構 成 さ れ て い る 。
継 次 処 理 様 式 と 同 時 処 理 様 式 認 知 能 力 を 、 ル リ ア の 神 経 心 理 学 モ デ ル を も と に 継 次 処 理 様 式 と 同 時 処 理 様 式 の ふ た つ で 説 明 す る の は K‑ABCの 特 徴 で あ る (Kaufman' Kaufman,1983)o KABC‑nで も こ の 継 次 尺 度 ・ 同 時 処 理 尺 度 が 引 き継がれ、活用することでの支援効果が期待される。
継次処理様式とは、「部分から全体にまとめる過程であり、部分を全体に組み立 て る 際 に は 、 部 分 同 土 の 順 序 や 系 列 的 な 関 係 が 重 要 な 手 が か り と な る 。 何 か 作 業 を 行 う と き に は 、 は じ め か ら 組 み 立 て て 機 密 に 処 理 す る こ と の で き る タ イ プ で あ る。J(藤田,1998,p16)。 同 時 処 理 様 式 と は 、 「 全 体 の 中 の 部 分 を 認 識 し 、 そ れ ら の 関 係 性 が 重 要 な 手 が か り と な る 。 お お ざ っ ぱ で も ポ イ ン ト を 押 さ え て 物 事 を 大 ま か に 処 理 す る タ イ プJ(藤田,2013,p16) と さ れ て い る 。 ま た 、 こ の 2つ の 処 理 様 式 は 、 二 つ が 共 存 し 効 率 的 に お こ な わ れ る こ と は ほ と ん ど な く 、 い ず れ か が 強
く(弱く)機能すると考えられている。
個 別 式 習 熟 尺 度 習 得 総 合 尺 度 は 、 語 葉 、 読 み 、 書 き 、 算 数 の4領 域 の 総 合 的 な 力 を 示 し て い る 。 こ の 尺 度 は 必 ず し も 学 力 と 一 致 す る も の で は な い が 、 基 礎 的 学 力 の 一 部 を 示 し て い る と さ れ て い る (K‑ABCアセスメント学会,2014)。
特 別 支 援 学 校 に お け る 活 用 の 可 能 性
特 別 支 援 教 育 に お い て K‑ABCが ひ ろ く 活 用 さ れ て き た の は 、 検 査 結 呆 か ら こ の 処 理 様 式 の 違 い を 明 ら か に し 、 優 位 な 処 理 様 式 を 利 用 す る こ と で 個 別 の 教 育 支 援 計 画 や 個 別 の 指 導 計 画 の 作 成 と 直 結 で き る 点 が 有 効 と さ れ た こ と に よ る ( 三 浦,2006)。こうした方法は長所活用型指導方略として定着している。 KABC‑nに お い て も 、 検 査 尺 度 と し て 継 次 処 理 と 同 時 処 理 が 引 き 継 が れ て い る 。 継 次 処 理 様 式 、 同 時 処 理 様 式 優 位 の 場 合 の モ デ ル と 指 導 方 略 に つ い て 表 2にまとめた。
さらに KABC‑nで は 、 習 熟 尺 度 が 加 わ っ た こ と に よ り 、 学 習 障 害 や ADHD(特 に 不 注 意 症 状 ) を 想 定 し た 場 合 の 習 熟 度 を 検 証 す る こ と が 可 能 で あ る 。
よって、 KABc‑nは 、 特 別 支 援 学 校 の み な ら ず 、 特 別 支 援 学 校 や 通 常 学 級 に お け る 知 的 発 達 に 遅 れ の な い 児 童 生 徒 へ の 適 応 及 び 、 個 の 認 知 特 性 に 応 じ た 指 導 へ の活用の可能性が高いといえる。
‑11ー
Table2 K.ABCの 処 理 モ デ ル と 指 導 方 略
継次処理尺度〉同時処理尺度 同時処理尺度〉継次処理尺度
処理モデル {前川ら,1995)
①段階的な教え方 ①全体を踏まえた教え方
有効な ②部分から全体へ ②全体から部分へ
指導方略の五原 ③順序性の重視 ③関連性の重視
国i ④聴覚的・言語的手がかり ④視覚的・運動的な手がかり
⑤時間的・分析的 ⑤空間的・統合的
指 導 方 略 の 例
主 と し て 継 次 的 な 指 導 方 略 主 と し て 同 時 的 な 指 導 方 略 (熊谷、 2013)
かな文字 一つ一つの音を表す文字を音の系列の 単語全体の読みからその部分である一つー を読む 手がかりにして、 1文字を意識させる。 つの文字の読みへと移行させる。
助調の使 謝った分の発話における音韻的な違和 簡単な動作を示す絵を見せて、内容を理解 国 い方を理 感に気づかせ、助詞の使い方を段階的に させ、それを実際に動作化させることによ
語 解する 学習させる。 って、助調の使い方を学習させる。
p28 かな単語
(特殊な 文字カードを話した位置から段階的に
I
視覚的な手がかりを使 て鋤音をまとまり 音節を含 近づけて、それを読ませたり、「しや」 つむ)を読 「しゃ Jの音の違いなどに気づかせる。 としてとらえさせる。
む
10ま で 一つの線を丸いシートで部分に分割し、 さいころを工夫して、すごろくという具体 の数 連続量を分離量としてとらえさせる。 的な活動から数を理解させる。
算 足し算、
算数の手続きを言語火、文章化した計算 計算操作のやり方を意図や矢印という視覚 数 引き算の
手続き表を用いて、筆算させる。 的な手がかりを用いて、筆算させる。
P67 筆算
分数の意 言語化したり、それを段階的に表をまと 丸いケーキのように一つの固まりを何人か 味 めることによって、分数を感覚的に理解 で分けることから出発して、分けることの
させる。 体験から、分数を感覚的に理解させる。
日 整理整頓 各教科の学習用具を時間割の順に数字 各教科の学習道具を色分けして、同じ学習 常 が苦手な ごとに分けて、数字を強調して準備や片 で使うものをまとめることを視覚的に理解 生 この指導 付けの順序を理解できるようにする。 できるようにする。
活
の 決まりを 一日の生活の流れを想起させ、 1時間ご 授業の前に、視覚的に理解しやすいサイン 指 守ること とのがんばりたいきまりを言語化させ カードを自分の机や黒板に貼り、きまりを 導 が苦手な たり、がんばりカードに記入させるなど 守るように意識化を図り、決まりを破った p この指導 して、終わったら評価させる。 ときにはサインカードを提示して気づかせ
119 る。
*先行研究(前川ら、 1995;熊谷、 2013など)を元に筆者が作成。
特別支援学校における個別の指導計画の見宜し :PDCAサイクル
特別支援教育においては、個別の指導計画を中心とした PDCAサイクルが重視される。
個別の指導計画とは、幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応して、指導目標や指 導内容・方法を盛り込んだ指導計画のことである。通常、単元や学期、学年等ごとに作 成される。これをP:Plan(計画)と位置づける。作成した個別の指導計画に基づいた指 導が行われる(D:Do(実行))。特別支援教育の本格実施以来、個別の指導計画は、その立 案と実施(活用)について様式や記入の方法等の研修などをすすめてきた。各都道府県あ るいは市町村の教育委員会、教育センターでは、それぞれ個別の指導計画作成の手引き をまとめ、配布している (e.g.長崎県教育委員会,2007)。特別支援学校のみならず、通 常の学級においても文部科学省による調査(文部科学省,2014)では、個別の指導計画 作成の実施率は、小学校・中学校では 90.8%まで高まっていることが示されている。す なわち個別の指導計画は P及び D を中心に実施され、定着してきたといえる。
しかしながら、作成した計画
( P )
による実施( D )
の次の段階である、成果を検証す る(C:Check(評価)、その後の、指導方略がその児童生徒に適しているのかを検証し、より適したものへと修正する (A:Action(改善)については、どうだろうか。様々な実践 報告等は見受けられるが、実証的な研究の蓄積が十分とはいえない。認知特性を活かし た指導に活用できるとされる KABC'llの利用についても、 K‑ABCアセスメント研究 (K'ABCアセスメント学会)を中心に研究成果が発表されているが、個別の指導計画作 成への活用(計画 (p))、あるいはKABC‑llの次での活用事例が多く、 C:Check(評価)、
(A : Action(改善))段階での適用研究は散見されるのみである (e.g.東原、2013)。
目的
特別支援学校に在籍する児童生徒の実在的なアセスメントとして、 KABC‑llの実施及 び活用が、個の認知特性を活かしたよりよい指導への可能性が高いことが示唆されてい るが、 PDCAサイクルの C:Check(評価)、 A : Action(改善)段階での適用研究は報告が すくない。しかし、特別支援学校においては、作成し、実施した個別の指導計画の評価 及び見直し、それによる指導の修正プロセスは必須である。
本研究では、特別支援教育において、認知機能の実態把握と教育への還元効果が期待 される KABC'llを、個別の指導計画の評価 (C) と修正 (A)の段階で活用し、適切な PDCAサイクルとなることをテーマとする。
具体的には、附属特別支援学校中学部に在籍する生徒 l名を対象に、学年前期終了時 にKABC‑llを実施した。その結果を分析し、既に作成している個別の指導計画の、目標 に対する指導法や指導上の留意点に関して、 KABC'llで明らかになった認知特性を考慮 して修正し、より効呆的な指導につなげることができた事例を報告することで、実証的 な評価と改善の重要性を示すことを目的とする。
‑13ー
方法(事例研究)
KABC‑1I実施の目的と手続き
附属特別支援学校の個別の指導計画における
PDCA
サイクルの、前期評価時期に合 わせて KABC‑IIを実施する。検査結果から得た認知特性と前期の指導方法の評価から、指導方法を修Eし後期の指導へとつなげることを目的とする。
前期の個別指導計画の作成時期は 6 月上旬であり、評価時期は 8~9 月、後期の、個別
指導計画修正は 10月である。
対象生徒
附属特別支援学校に在籍する中学 X年生、男子生徒。パソコンなどで映画やアニメを 見ることが好き。電子辞書などで分からない言葉などを調べることができる。
学習時は、全体に対する話を最後まで集中して聞いたり、面倒なことを最後までやり 遂げたりすることに対して苦手さをもっている。相手の気持ちゃ表情を読み取って話を することが苦手で一方的に話すことがある。
手続き
・検査年月日・ 2014年9月 24目。
‑検査場所:附属特別支援学校内の学習室。通常、個別学習の場所として使用している0
・検査者:検査は学年主任(第二筆者)が実施した。同じ中学部の、担任でない教員(週 学部主事)である。対象生徒の実態把握に関する情報は担任(第三筆者)から得る ことができ、検査者は担任ではないが、検査に必要な本人とのラポートは形成され ている。
検査者の要件 検査者は、特別支援教育における専門的知識と経験、検査の実施 に必要な資格(臨床発達心理士等)を持ち、実施する検査に熟知している。また、
検査結果と解釈については、必要なスーパーピジョンを受けることが可能である。
今回の実施に当たっては、第一筆者(臨床心理士・臨床発達心理士)がスーパーピ ジョンを担当できる体制が用意されている。よって、当該検査マニュアル及びテス トスタンダード(日本テスト学会.2007)に示された検査者の要件は満たしていると 判断した。
検査結果及び指導経過の掲載については、本人及び保護者の了解を得た。
検査結果のまとめと解釈
検査の結呆は、『日本版KABC‑II マニュアル』に従って行った。本稿では結呆の記 載については検査問題等の流出を防ぐため、さらに 受検者の保護者など専門家以外の 人への説明及び所見の提示は、総合尺度および各尺度の報告、これら尺度聞の比較評価 までの内容を基本"とする日本K‑ABCアセスメント学会の方針に準拠し、当学会の報 告書のフォームを利用した(日本K‑ABCアセスメント学会HP)。
結果と考察 検査結果と解釈
本実践では、実際の生活年齢で検査結果を分析した場合、対象生徒の個人内差が見え にくいと判断し、検査結果の分析には、下位検査の結果からわかる相当年齢の中央値を 補正年齢として使用した。
個人内差では、同時尺度と計画尺度が継次尺度と学習尺度よりも有意に高いことが明 らかになった(同時尺度=計画尺度>継次尺度=学習尺度)。継次処理よりも同時処理の 力を活用した指導が効呆的である。つまり、同時型指導法略を用いて「全体から部分へ」
指導することを基本として指導することが有効であると考えられる。また、視覚的な作 業は比較的得意であるが、新しい物事を覚えるのは苦手である(学習尺度)。さらに、聴 覚からの記憶は苦手であるため、得意な視覚からの情報を与えたり、自分で考える場面 を設定したりすることが対象生徒にとってよりよい指導へつながるものと考えられる。
また、習得検査では語実は比較的得点が高く、話し言葉は流暢であるために表面的に は苦手な部分に気づかれにくい生徒である。特に言葉でのやり取りの際は、聴覚からの 情報の記憶が苦手なため、最後まで話しを聞いたり、言われたことを覚えて最後まで取 り組んだりすることに本人も気づいていない苦手さがあると思われる。友達との会話で 一方的に話すことも、聴覚的な記憶を苦手としていることに関係があると考えられる。
以上のことから、次の2点に絞って個別の指導計画の指導法を修正した。
0
聴覚記憶が弱いために、言語のみの指示は伝わりにくい。指示する際は、できるだ け区切って話しかけたり、文字や視覚情報にして伝えたりする。0注意をしたとき、どのようにすれば良かったのか本人に考えさせ、動作や言葉で正 しい方法を経験させる。
個別の指導計画について
対象生徒の個別の指導計画における後期目標は以下の3点である。
①話がはじまったら注目し、集中して話を聞く
②相手を意識して話を聞こうとし、相手を気遣った会話ができるようになる
③任された仕事を最後までやり遂げる
これらの目標に対する指導方法(意図留意点含む)に「声かけをするJ
r
教師がアドバ イスするJr
説明する」という対象生徒が苦手とする関わり方があった。検査結果から、視覚処理 の視覚情報を用いて伝えたり、生徒自身に考えさせる場を設定したりするな ど生徒の認知特性に合った指導に修正をして後期の取り組みにうつることができた。
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Fig. 2 KABC‑II検査結果(CHCモデル)
‑17ー
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Table3. 指導上の意図留意点の変化(一部分抜粋)
前期の指導上の意図留意点 後期の指導上の意図留意点
話を始める前に注目するように主主丘をしたり、 話を聞くように声をかけるだけでなく、主孟圭 話したことを再度質問したりすることで話に集中 項を掲示するなどし、常に意識できるような手 できるようにしたい。話を固かないと困るよ
2
な 一一歩 立てをとることで意識させたい。状況を経験させ、話を聞くことの大切さを身をも って感じさせたい。
人と関わるときの基本的なマナーや具体的にどの 相手に合わせた会話をしなければならない理由 ような話をすればよいのかなEをアドバイスする などを説明すると受け入れることができるよう などし、適切な関わり方ができるようにしたい。 一一歩 になってきているので、どうすれば良いのか主
主主主、白金の言葉で言わせたり行動させたり 主ゑ。
係の仕事を責任をもって終わらせることの大切さ 活動と活動の聞に集中力が切れることが多いの を話したり、途中で別の事をしようとしたときに で、次に何をするべきなのかを考えさせるよう は声をかけたりし、 1つの事を最後までやり遂げ 一一参 な働きかけをしていきたい。
る習慣をつけるようにしたい。
保彊者への説明
保護者への説明では、本生徒の姿として「言葉だけの情報は苦手なため、多くの情報 を得ることが難しい。一生懸命聞いても情報が処理能力を超えると、その後の情報が全 く伝わらない可能性がある。聞いていないように見えるときは、処理能力を超えている のかもしれない。」ということを伝えた。保護者は本生徒が「話を聞かされる=面倒なこ とをさせられる。」と思っていたから聞こうとしていないと認識していたようであった。
これまで長い間気になっていた部分が分かり、関わり方にも本生徒の特性を意識してい きたいとのことであった。
生徒の変容
最も指導の機会が多いのは目標の①話がはじまったら注目し、集中して話を聞く、で ある。朝の会や帰りの会など、毎日指導の場面があるにも関わらず、前期の取り組みで は唯一、目標を達成することができていなかった。
朝の会は約 10分程度であるが、その日の日課や目標を伝える時間である。前期では、
一日の目標の話が終わって「何の話だった ?J と尋ねても答えられない状況が何日も続 くことがあった。これでは失敗の積み重ねで、結果的に「ダメな自分」という認識につ ながり、自己肯定感を感じにくい生活を送っていた。
後期には少しの工夫であるが、話した内容のキーワードを板書するようにした。本生
分から注意を向けることができるようになった。また、文字として視覚的な情報が得ら れることでこれまで以上の理解につながり、質問をしたり友達に教えたりすることがで きるようになった。得意な視覚的情報の板書があることで、「わかるから聞く」ようにな り、聞く姿勢で注意を受けることが少なくなった。
総合的考察
本実践は、特別支援学校において、作成し (Plan)前期に実施した個別の指導計画に よる指導
( D O )
の評価として、対象生徒に実施したKABc‑n
の結果から、特別支援学 校における当該学年前期の指導を見直し、修正することで指導効果を得た結果となった。毘知総合尺度の分析と指導 継次処理よりも同時処理の力を活用した指導が効果的 であることがわかり、「全体から部分へ」を基本として指導する原則に則り、教員の声か け中心の指導を見直し、視覚的に、すべきことの作業や見通しを示した指導へ修正をし たことが生徒の変容を生み、さらに保護者の理解にもつながった点は、指導上大きな成 果である。
学習尺度の分析と指導聴覚的情報の弱さと、それに比して視覚的情報の強さが明確 となった点からは、障害特性からは、視覚的情報の強さが予見されるものの、実証的に 確認ができたこと、視覚的情報を活かして、 自分で考える"選択を中心とした指導へと つながった。また自己表出としての読み書きのちからの高さが実証的に確認できた反面、
聴覚情報の弱さは、日ごとの一見流暢に見える表出力による、一方的に「話」ちからと 他者の話を理解して「聞く」ちからのアンバランスさを明確にした。「話せているからわ かっているはず」という印象を改め、検査による実証的手段で必要な支援の組み立てに 活かすことができた点も、評価できる点である。
長所活用型指導による変容検査結果を活かした、特に長所活用型指導は、対象生徒 の心理的支援にもつながったことがうかがえた。朝の会での失敗の積み重ねが自己肯定 感を感じにくい生活につながっていたと指摘されていたが、優位な視覚的な情報を中心 とした指導に修正したことが、注意を受ける頻度を下げ、本人にとっても「できるJ
r
わ かる」につながったことは、まさしく心理的な支援であり、自己肯定感の低下や自信の 喪失など二次的な障害の予防になっていると考えられる。P D C A
サイクルのみなおし 本事例では、6
月に作成した個別の指導計画の評価と改善 を目的としてKABc‑n
を行った。結呆、個に適した指導を検討し、一定の成呆が得られ たことで、PDCA
サイクルの見直しの意味があったと考えられる。まとめと今後の標題 本研究では、特別支援教育において、認知機能の実態把握と教 育への還元効果が期待される
KABc‑n
を、個別の指導計画の評価( C )
と修lE( A )
の段 階で活用し、適切なPDCA
サイクルとなることをテーマとした。事例の対象生徒は、KABc‑n
を用いて、既に作成している個別の指導計画の、目標に対する指導法や指導上‑19ー
の留意点に関して、 KABc.nで明らかになった認知特性を考慮して修正し、より効果的 な指導につなげることができ、実証的な評価と改善の重要性を示すことができた。また、
教員としても、実証的な結果に基づき、より正確で適切な指導を行ったという実感を感 じることができたのではないかと考える。
しかしながら、検査結果を十分に生かせたとは言いがたい。より一層の検査解釈への 研鎖と、他の生徒への活用などは今後の課題である。
注1)日本K.ABCアセスメン学会では、 KABc.nの正確な実施及び正しい解釈の普及 啓蒙を目的とし、学会独自の基準を定め、検査者の資格認定を行っている。
謝 辞 事例掲載を了解頂きました中等部の対象生徒さん、保護者へお礼申し上げます。
研究の分担 本論文は、第二筆者が方法(対象児童の検査及び指導等実践を含む)、第 三筆者が実態把握等の情報提供、第四・五筆者が考察及びまとめを討議、第一筆者が研 究の背景、目的、総合的考察を執筆、さらに論文構成全体の統括を担当した。
文献
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日常生活のつまずきの指導.図書文化社.
熊谷裏子(2013)第 3章 認知処理様式を活かす算数の指導、藤田和弘・青山真二・熊谷 恵子編(1998)藤田和弘監修,熊谷恵子・青山真二編 (2000)長所活用型指導で子ど もが変わる (Part2):国語・算数・遊び・日常生活のつまずきの指導.図書文化社.
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