[様式-学 5]
博士論文要旨
新規活性化法を用いるキノン誘導体への 選択的求核種導入反応の開発
立命館大学大学院生命科学研究科 生命科学専攻博士課程後期課程
ふりがな かみたなか とおる 氏 名 上田中 徹
キノン系化合物は天然に幅広く存在するだけでなく、医薬、農薬、化成品等の機能性化合 物の合成における中間体や成分として含まれており、その骨格構築は有機合成上非常に重 要である。反応性に関しては、共役エノン構造を有するため求電子性が高く、様々な求核種 との反応が報告されている。しかし、一分子内に二つのカルボニル基を有しており、環を形 成する全ての炭素が求電子的であるため、反応の際に位置選択性が問題となる。
このような背景下、筆者はキノン類への位置選択的な反応の実現に向けてキノンモノア セタール(QMA)の利用に着目した。QMAはキノンのカルボニル基の一方がアセタール化 された非対称な構造を有する化合物で、当研究室の北らが開発した phenyliodine(III) diacetate(PIDA)やphenyliodine(III) bis(trifluoroacetate)(PIFA)等の超原子価ヨウ素 反応剤を用いたフェノール類の酸化反応により効率的に得られる。QMAは一分子内に共役 エノン構造とアリルアセタール構造を有するため求電子性が高く、エノン構造に対する付 加反応がこれまで多く報告されてきた一方、アリルアセタールへの置換反応は一般性のあ る例がほとんど無かった。筆者は今回、QMAのアリルアセタールへの置換反応による新規 芳香族求核種導入反応の開発を目的として検討し、以下の成果を得た。
1) QMAと芳香族求核種の存在下、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)
とジクロロメタンの混合溶媒中で、天然に豊富に存在するモンモリロナイトK10を添加す ると置換反応が効果的に進行し、高度に酸素化されたビアリールが得られることを発見し た。
2) 本反応の応用として、フェノールの酸化によるQMA の生成、芳香族求核種の導入プ ロセスを繰り返し行い、高度に構造制御されたターフェニル化合物を効率的に得る手法を 確立した。また、得られたターフェニルを再度本法に利用することで、更に高次に芳香環が 連結したオリゴアレーン類を得ることにも成功した。
3)QMA の加水分解反応との速度比較実験を行い、本反応のメカニズムとしてアセター
ルの加水分解と同様のオキソニウム中間体を経由する SN1 型の機構だけでなく、適切な基 質、および酸の選択によって求核種の導入とアルコールの脱離が協奏的に起こる SN2’型の 機構で反応が進行することを明らかにした。