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日本人英語学習者による英語文評定 : 理解容易性と親密度の分析 (小椋康宏教授 退任記念号) 利用統計を見る

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と親密度の分析 (小椋康宏教授 退任記念号)

著者

粟津 俊二, 鈴木 明夫

雑誌名

経営論集

85

ページ

89-99

発行年

2015-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00007110/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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日本人英語学習者による英語文評定

―理解容易性と親密度の分析―

Evaluation of English Sentences by Japanese EFL Learners

: Analysis of Easiness and Familiarity-

粟 津 俊 二・鈴 木 明 夫 1. 目的 あらゆる教育場面において、教材の特性を知ることは必須項目である。例えば外国 語教育では、授業の教材として単語や文を使い、学習成果の測定も何らかの文や単語 を用いたテストで行うことが多い。このとき、難単語や難文を用いた授業やテストと、 簡単な単語や文を用いたものとでは、テスト平均点や学習者の理解度が異なることは 当然であろう。教育効果の測定など言語が関わる様々な場面において、何らかの効果 を厳密に検討するには、使用する単語や文などの言語刺激を統制することが欠かせな い。そのため古くから、言語を用いた心理学的実験や教育方法開発に資するため、言 葉の様々な特性を体系的に調べた調査が行われてきた。wiki サイト「心理学ポータル」 には、過去に日本人を対象として行われた、言語材料の特性調査が一覧として紹介さ れている。 単語や文のもつ様々な特性が、読み手の理解や記憶に影響することはよく知られて いる。例えば日本語名詞の持つ様々な客観的、主観的な特性は、日本人の学習成績に 影響することが知られている(小川・稲村,1974)。また、英語を母語とする読者にと っては、英語で書かれた文(以降、英語文と記す)の特性がわかりやすさや記憶成績 に影響することも知られている(Sadosiki, Goetz, & Fritz, 1993)。学術論文を執筆す る際にも、文字数、モーラ数など客観的指標だけでなく、新聞等を利用したコーパス やweb 上での出現頻度、さらには主観的な親密度(見聞きした程度)などを統制し、 記載することが求められる。 母語において単語や文の諸特性が影響する以上、外国語学習者にとっても、外国語 の単語や文の特性が、言葉の理解や学習成績に影響するのは、当然である。文や単語 の難易度や、使用される語句表現に対する馴染みの程度が、英語学習の困難さや容易 さに影響することは、英語教育に携わるものにとっては、体験的に自明なことであろ う。実際、外国語習得に外国語単語の特性が影響することは、実証的にも確認されて

いる(Ellis & Beaton, 1993 など)。したがって、外国語学習者にとって、学習する外

国語の単語や文の特性がどのように影響するのか、また特定の文や単語がどのような 特性を持つのかを把握することは、外国語教育や外国語理解を研究する上で必須とも 言える。 しかし、外国語学習者を対象に、外国語の単語や文の主観的特性を調査し、その影 響を調べた研究は、それほど多くない。母語話者による評定は、様々な言語において 研究、公表されているが、それらを外国語学習者にも適用して良いとも限らない。例

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えば、英語母語話者が幼児期に家庭生活でよく見聞きした単語を、児童期以降に学校 教育で英語を学習する日本人が同じようによく見聞きするとは考えにくい。したがっ て、外国語学習者を対象に、外国語の単語や文の表現がどのような特性を持つのかは、 各国における各外国語学習者を対象に、調べ直すしかない。 ところが我が国において、このような研究が盛んに行われているとは、言いがたい 状況である。日本人が学ぶ外国語の中で、学習者数ならびに普及程度から見ても最大 規模の外国語は英語である。その英語でさえも、日本人英語学習者を対象に、英単語 や文の特性を研究したものは多くなく、横川(2006;2009)が単語の親密度(見聞き する程度)を調べた程度である。 では、単語ではなく、文になればどうなるのであろうか。日本人英語学習者にとっ て、英語文のわかりやすさ(以降、容易性と記す)は、英語文の長さや、英語文とし て見聞きする程度(親密度)、あるいは意味内容によって影響されるのだろうか。また、 単語と異なり、英語文は主語、時制、あるいは単数複数の別などによって変化する。 したがって、「見聞きしたことのある文」だと思っても、細部は異なっている可能性も ある。では、文に対する親密度は、どのような要因によって変化するのだろうか。 粟津・鈴木(印刷中)は、外国語教育ならびに外国語理解研究の場面において、こ のような疑問に応えられるように、日本人英語学習者を対象に、外国語である英語文 の親密度と理解容易性を評定させた。対象としたのは一人称、現在形の行為文のみで あるが、意味の対応する英語文と日本語文それぞれについて、質問紙形式で親密度を 測定している。具体的には、ある行為を意味する日本語文と英語文を作成し、日本語 文では表現自体への親密度、具体的行為のイメージしやすさ(心像性)、行為経験の程 度という3 項目を調査した。英語文では、理解容易性(意味がわかるかどうか)と英 語文表現自体への親密度の2 項目を調査した。文の客観的特性として、日本語文の文 字数とモーラ数、英語文の文字数と単語数も整理した。 大きな特徴は、日本語で書かれた行為文(以降、日本語文と記す)を用いて、心像 性と経験性という意味内容への評定を行わせていることである。心像性とはimagery の訳であり、非言語的な感覚イメージを喚起させる程度のことをいう。Paivio らの研 究によって、単語の心像性は記憶や学習などに広範な影響を与えることが確認されて おり(Paivio, 1971 など参照)、単語を刺激に用いた研究では統制すべき変数として論

文に記載される(例えばWillems, Hagoort, & Casasanto, 2010)。一方、経験性は、 近年、行為文の理解に影響することが確認されたものである。母語での行為文理解時 に、読者の経験の有無によって脳活動(Beilock, Lyons, Mattarella-Micke, Nusbaum, & Small, 2008)や有意性判断の反応時間(Holt & Beilock, 2006)に変化が見られ、

英語句において、学習に影響することも確認されている(粟津・鈴木, 2011)。したが って粟津・鈴木(印刷中)は、日本語文表記への評定、英語文表記への評定、意味内 容の評定を別々に検討し、関連づけることが可能である。 そこで本稿では、粟津・鈴木(印刷中)で公開された資料について、以下の2 つを 行うことを目的とする。第1 の目的は、日本人英語学習者による英語文の容易性の評 定に影響する要因を特定し、どのような文がわかりやすいのかを検討することである。 第2 の目的は、英語文の親密度と他の特性との関係を調べ、日本人の英語学習者にと

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って、英語文の親密度とは何を意味するのかを検討することである。 2. 分析対象 粟津・鈴木(印刷中)で調査した、日本語文233 と各日本語文に意味が対応する英 語文233 の計 466 文に対する評定値を利用した。この調査での質問項目は以下の通り である。日本語文に対しては、「よく見聞きする表現ですか?(親密度)」(1:全く見 聞きしない-7:頻繁に見聞きする)、「動作はイメージできますか?(心像性)」(1: 非常にしにくい-7:非常にしやすい)、「したことのある動作ですか?(経験性)」(1: 一度もない-5:非常によくする)で答えさせた。一方、英語文に対しては、「よく見 聞きする表現ですか?(親密度)」(1:全く見聞きしない-7:頻繁に見聞きする)と、 「この文の意味はわかりますか?(容易性)」(1: 全くわからない-5:よくわかる) という2つの質問項目に回答させた。また、文の客観的特性として、日本語文の文字 数とモーラ数、英語文の文字数と単語数も数えている。なお、計466 文に対する質問 紙調査となるため、80 文程度ずつの質問紙 6 種として、各 20 名の大学生に配布した。 回収数は12-20 名である。詳細は、粟津・鈴木(印刷中)を参照されたい。 各指標の平均値と標準偏差を表1 に示す。親密度と心像性は 7 段階評定、経験性と 容易性は5 段階評定で、数値が大きいほどポジティブな評価である。 表1 各項目の基本統計量 日文 文字数 日文モ ーラ数 日文 親密度 心像性 経験性 英文 文字数 英文 単語数 英文 容易性 英文 親密度 度数 233 233 233 233 233 233 233 233 233 平均 7.9 9.7 5.1 5.9 3.9 23.2 5.2 3.6 3.7 SD 2.5 2.9 1.1 0.9 1.4 6.9 1.4 0.8 1.0 3. 分析結果 各指標間の相関係数を表2 に示す。表注の記号*あるいは**は、各相関係数が統計 的に有意であることを示している。まず、日本語文の文字数、日本語文のモーラ数、 英語文の文字数、英語文の単語数の間に、それぞれ有意な正の相関が見られた。これ らは全て文の長さを示す指標であるため、日本語文で長い意味内容は、英語文でも文 が長くなるということであり、自明である。 日本語文親密度は文の長さに関する4 項目と低い負の相関があり、心像性、経験性 と中程度から高い正の相関があった。したがって親密度は、文が長いほどやや高く、 心像性や経験性が高いほど高いと言える。一方英語文親密度も、日本語文モーラ数、 英語文の文字数、英語文単語数という長さに関する項目と低い負の相関があり、日本 語文親密度、心像性、経験性と中程度の正の相関があった。英語文親密度は、英語文 容易性とも極めて高い正の相関を示した。英語文容易性は、日本語文モーラ数、英語 文の文字数と低い負の相関があり、日本語文親密度、心像性、経験性とは低い正の相 関が見られた。また、英語文親密度と極めて高い正の相関があった。

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2 各 項目間の相 関係数 日文 文字数 日文 モーラ数 日文 親密度 心像性 経験性 英文 文字数 英文 単語数 英文 容易性 英文 親密度 日文 文字数 1.000 .876 ( ** ) -.273 ( ** ) -0 .024 -0 .029 .600 ( ** ) .602 ( ** ) -0 .022 -0 .120 日文 モーラ数 .876 ( ** ) 1.000 -.321 ( ** ) -.139 ( *) -0 .091 .697 ( ** ) .655 ( ** ) -.151 ( *) -.239 ( ** ) 日文 親密度 -.273 ( ** ) -.321 ( ** ) 1.000 .502 ( ** ) .705 ( ** ) -.210 ( ** ) -.167 ( *) .240 ( ** ) .303 ( ** ) 心像性 -0 .024 -.139 (*) .502 (** ) 1.000 .413 (** ) -0 .038 0.054 .258 (** ) .220 (** ) 経験性 -0 .029 -0 .091 .705 (** ) .413 (** ) 1.000 0.006 0. 01 1 .194 (** ) .223 (** ) 英文 文字数 .600 ( ** ) .697 ( ** ) -.210 ( ** ) -0 .038 0.006 1.000 .868 ( ** ) -.251 ( ** ) -.335 ( ** ) 英文 単語数 .602 ( ** ) .655 ( ** ) -.167 ( *) 0.054 0. 01 1 .868 ( ** ) 1.000 -0 .1 16 -.217 ( ** ) 英文 容易性 -0 .022 -.151 ( *) .240 ( ** ) .258 ( ** ) .194 ( ** ) -.251 ( ** ) -0 .1 16 1.000 .908 ( ** ) 英文 親密度 -0 .120 -.239 ( ** ) .303 ( ** ) .220 ( ** ) .223 ( ** ) -.335 ( ** ) -.217 ( ** ) .908 ( ** ) 1.000 ** p <. 01 * p <.05

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本稿の目的は、日本人英語学習者による英語文の容易性評定に影響する要因を特定 し、どのような文がわかりやすいのかを検討することである。粟津・鈴木(印刷中) では、容易性を1(全くわからない)から 5(よくわかる)の 5 段階で評定させてい る。まず、調査した英語文に対する容易性の分布を調べるため、各文に対する容易性 の平均評定値を0.5 ずつに区分し、各区分に入る英語文数を数えた。図 1 に英語文の 理解容易性の分布を示す。図中の横軸ラベルは以上-未満であり、例えば2.0-2.5 と いう区分は、平均評定値が2.0 以上かつ 2.5 未満の区分に入る英語文の度数を示して いる。 表1 に示したように、調査した英語文における容易性は、平均評定値 3.6、標準偏 差0.8 である。しかし、平均値 3.6 が含まれる 3.5-4.0 の区分に当てはまる文数が最 多ではなかった。つまり、平均値をピークとした正規分布ではなかった。3.0-3.5 と いう「どちらでもない」付近の文数と、4.0-4.5 という「わかる」付近の文数に二峰 性のピークを持つ分布であった。評定値4.0「わかる」以上を容易な文と考えると 88 文であり、233 文中 38%が相当した。一方評定値 2.0「わからない」以下を難しい文 と考えると3 文であり、233 文中 1%程度が相当した。2.5-3.5 を評定値 3 付近「ど ちらでもない」と考えると88 文であり、233 文中の 38%が相当した。 図1 英語文の容易性評定の分布 英語文容易性の評定値に影響する要因を探索するため、英語文容易性を目的変数、 他の測定項目を説明変数として、強制投入法による重回帰分析を実施した。英語文容 易性以外の8 項目を投入した重回帰モデルの説明率はR2=0.84 と十分に高く、モデ ルの有意性は確認された[F(8,232)=147.2, p<01]。ただし、5%水準で有意な項目は 心像性と英語文親密度のみであった(表3)。したがって、英語文の容易性に大きな影 響を与える要因は、英語文の親密度と心像性と考えられる。

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また、表2 で示したように、多くの質問項目間で有意な相関が見られた。そこで、 8 つの項目を、主成分分析によって縮約した。プロマックス回転を伴う主成分分析に よって各項目を合成し、バートレット法によって合成得点を産出した。固有値1 以上 の主成分として、3 成分が抽出された。3 成分による累積説明率は 80.71%と十分に高 いため、3 成分構造を採用した(表 4)。 表3 重回帰分析 係数表 4 主成分分析における固有値と説明率 主成分 固有値 説明率 (%) 累積説明率 (%) 1 3.59 39.87 39.87 2 2.23 24.76 64.63 3 1.45 16.08 80.71 4 0.64 7.06 87.77 5 0.55 6.08 93.84 6 0.25 2.78 96.62 7 0.13 1.40 98.02 8 0.10 1.07 99.09 9 0.08 0.91 100.00 この3 主成分の構造行列(表 5)を見ると、第一主成分は「英語文の文字数」、「日 本語文モーラ数」、「英語文単語数」、「日本語文の文字数」から構成されており、「文長 さ」成分と名付けた。第二主成分は「日本語文親密度」、「経験性」、「心像性」から構 成されており、「日本語文わかりやすさ」成分と名付けた。第三主成分は「英語文親密 度」、「英語文理解容易性」から構成されており、「英語文わかりやすさ」成分と名付け 標準化β係数 t p (定数) 2.19 0.03 日文 文字数 0.08 1.31 0.19 日文 モーラ数 -0.02 -0.38 0.71 日文 親密度 -0.06 -1.43 0.15 心像性 0.08 2.41 0.02 経験性 0.00 0.06 0.95 英文 文字数 -0.07 -1.10 0.27 英文 単語数 0.10 1.68 0.10 英文 親密度 0.91 30.12 0.00

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た。各主成分に対する各文の合成得点の相関係数を求めたところ、「日本語文分かりや すさ」成分と「英語文わかりやすさ」成分に低い正の相関が見られた。したがって、 日本語文でわかりやすいと評定された意味内容は、英語文で表現してもわかりやすい と評定される傾向がある。また、「文長さ」成分は、「日本語文わかりやすさ」成分、 「英語文わかりやすさ」成分の双方と、低い負の相関が見られた。したがって、英語 文においても日本語文においても、文が長いほど、わかりやすい傾向がある (表 6)。 なお、表6 中の記号*と**は、相関係数が統計的に有意であることを示す。 表5 構造行列 成分 文長さ 日本語文 わかりやすさ 英語文 わかりやすさ 日文 文字数 0.87 -0.17 -0.03 日文 モーラ数 0.91 -0.25 -0.17 日文 親密度 -0.30 0.89 0.25 心像性 -0.03 0.74 0.26 経験性 -0.03 0.86 0.18 英文 文字数 0.89 -0.06 -0.34 英文 単語数 0.88 -0.01 -0.20 英文 容易性 -0.15 0.26 0.97 英文 親密度 -0.26 0.28 0.97 表6 各成分間の相関係数 文長さ 日本語文 わかりやすさ 英語文 わかりやすさ 文長さ 1 -.145(*) -.207(**) 日本語文 わかりやすさ -.145(*) 1 .249(**) 英語文 わかりやすさ -.207(**) .249(**) 1 ** p<.01 *p<.05 4. 考察 4.1. 英語文の容易性に影響する要因 本研究の第1 の目的は、日本人英語学習者による英語文のわかりやすさ(以降、容 易性)の評定に影響する要因を特定し、どのような文がわかりやすいのかを検討する ことである。 まず、粟津・鈴木(印刷中)で調べられた英語文の分布を見ると、容易な英語文(平 均評定値4.0 以上)が 38%、難しい英語文(平均評定値 2.0 以下)が 1%程度であっ

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た。大学に通学する日本人英語学習者にとっては、やや容易な文が多いようである。 一方で、評定値3「どちらでもない」近辺である平均評定値 2.5-3.5 の区分には、38% が相当した。「わからないことはないが自信がない」、あるいは個人差が大きいという 文も多く含まれていると言える。この特徴を言い換えれば、少し学習すればわかると も言えるだろう。したがって、学習させる材料や、学習効果を測定する研究に使用す るには、適した素材であると考える。 調査の結果、英語文の容易性は、日本語文モーラ数、英語文の文字数と負の相関が あり、日本語文親密度、心像性、経験性、さらに英語文親密度と正の相関があった。 また英語文容易性の評定値に影響する要因を探索するため、英語文容易性を目的変数、 そして他の測定項目を説明変数として重回帰分析を実施したところ、英語文親密度と 心像性が有意な影響を与えていることが判明した。主成分分析の結果から、英語文の 容易性と英語文の表記に対する親密度は、同じ主成分とみなされた。 こうした結果から言えることは、第一に、文の意味内容が英語文の容易さに影響し うるということである。重回帰分析によって、心像性が容易性に与える影響が有意で あった。心像性とは、英語文と同意味の日本語文を見せた状態で、「イメージできるか」 を評定させたものである。心像性の評定時に、評定者は英語文を見ていない。したが って、日本語の文を見てイメージしやすい行為は、英語文で見ても理解しやすいとい うことになる。 また意味内容だけでなく、英語文の親密度が、英語文の容易性と非常に強い相関 (r= .91)があり、主成分分析では同じ主成分に分類された。また重回帰分析では、 英語文親密度が英語文容易性を説明する有意な項目であることが示された。本調査で 用いた英語文には、“rejoice”、“commemorate”など、馴染みがないであろう単語を用 いた文が含まれている。そのため、文の親密度評定が単語の親密度に強く影響され、 未知な単語ゆえに理解できないという影響を与えたとも考えられる。しかし、親密度 と容易性の間には、後述するような心像性や経験性も含んだ複雑な関係があり得る。 4.2. 英語文の親密度に影響する要因 本研究の第2 の目的は、親密度と他の特性との関係を調べ、日本人の英語学習者に とって、英語文の親密度とは何を意味するのかを検討することである。本研究で用い た客観的な特性は、日本語文の文字数とモーラ数、さらに英語文の文字数と単語数と いう、文の長さに関する指標のみである。文の意味内容に対する主観的な指標として は、心像性と経験性を用いた。文の表現に対する主観的な指標として、親密度以外に 測定したのは、英語文の理解容易性のみである。これら限られた指標のみであるが、 親密度との関係に幾つかの興味深い点が見つかった。 まず、日本語文の親密度は、意味内容の指標と想定する経験性(r= .71)および心 像性(r= .50)に対して中程度から高い相関を示し、主成分分析では同じ「日本語文 わかりやすさ」成分に縮約された。経験の多い行為ほどイメージしやすく、その意味 内容を表現する言語表現も、よく見聞きするように感じるということである。また心 像性は、日本語文モーラ数と低い負の相関(r= -.14)があった。日本語文は漢字仮名 交じり文で表記されるため、一文の長さに対しては、漢字の有無によって変化しうる

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文字数よりも、音を表すモーラ数がより強い影響を与える。また、主成分分析におい ても、「文の長さ」成分が「日本語文わかりやすさ」や「英語文わかりやすさ」成分と 有意な低い相関を示している。したがって、文の長さと、日本語文の心像性とが関係 しており、短い文は長い文よりも心像性が低くなると考えて良いだろう。本調査で用 いた日本語文の多くは、「ボールを投げる」など「名詞+を+動詞」という形であった。 しかし一部の日本語文は、英語文表現と同じ意味の日本語文にするために文の長さを 増し、「ノートに名前を書く」や「バッグに携帯電話を突っ込む」など、より具体的な 行為や状況を意味していた。より長い、モーラ数の多い文ほど、より具体的な行為を イメージしやすく、心像性評定値が高くなったと考えられる。 まとめると、日本語文親密度は、心像性と経験性という意味内容の特性と正の相関 があり、日本語文の文字数及び日本語文モーラ数という文表現の特性と負の相関があ った。多くの文字数によって具体的な行為を記述した文は心像性が高くなり、心像性 が高い文は親密度が高くなるという構造を持つと考えられる。つまり、日本語文の場 合、意味内容のわかりやすさが、文表現の親密度に影響する可能性がある。 また、英語文親密度をめぐる特性間の相関関係も、日本語文に見られた構造と類似 している。英語文の親密度も、心像性(r= .22)と経験性(r= .22)に対して弱い正の 相関を示し、文の長さに関与する文字数(r= .-34)、単語数(r= .-23)と弱い負の相 関が見られた。日本語文と同様に、多くの文字数によって具体的な行為を記述した文 は心像性が高くなり、心像性が高い文は親密度が高くなるという構造を持つと考えら れる。つまり、英語文においても、意味内容のわかりやすさが、文表現の親密度に影 響する可能性がある。 さらに、先述したように英語文親密度は容易性とも高い相関を示した。本調査の場 合、英語文が示す意味内容も日本語文と同じであるから、英語文を見て行為がイメー ジできたり、そのような行為をした経験が想起されれば、意味を理解したことになる。 つまり、容易性が高い英語文とは、その英語文が意味する行為のイメージや経験が想 起しやすい文とも言えるだろう。このように容易性と親密度が極めて高い相関にある ということは、文が意味する行為がイメージできたり経験が想起しやすく、理解しや すいと感じる英語文は、親密に感じるという可能性がある。 言い換えれば、「文の親密度」は「見聞きした程度」の評定だけではない可能性があ る。親密度は文の表記に対する評価を求めたものであり、心像性と経験性は文の意味 内容に対する評価を求めたものである。ところが日本語文においても英語文において も、親密度は心像性や経験性と正の相関があった。特に日本語文においては、親密度 は心像性、経験性と同じ主成分となるほどである。文が長く、心像性が高く、経験性 が高い行為を意味する文であるほど、親密度が高いと評定された。したがって、文を 「見聞きした程度」を評定するはずの親密度に、その文の意味内容の特性が関係して いることを意味する。 行為文の意味内容が、行為文の親密度に影響しうる機序として、2 つの仮説が想定 できる。第1 の仮説は、経験することの多い行為は、イメージもしやすく、その意味 内容を表現する言語表現を見聞きする頻度も多い、というものである。つまり、日常 的によく体験する行為だから、その行為を意味する文もよく見聞きするという仮説で

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ある。この仮説は、日本語母語話者による日本語文親密度評定に当てはめると妥当に 思えるが、日本語母語話者による英語文親密度の評定を説明するには、疑問が残る。 日本語での日常生活で頻繁に使用されるような行為表現を、学校教育を中心とした英 語学習経験の中で、同様に見聞きするとは考えにくい。今回調査した文と全く同じ文 において、見聞きした程度の多い文が意味する行為ほど、たまたま経験した回数が多 い、ということは考えにくい。また、文が長く、より細かい状況、行為に限定した文 ほど、たまたまよく見聞きするということも考えにくい。 第2 の仮説は、文表現の親密度と、文の意味内容の親密度が分離困難である、とい うものである。本研究の対象は全て行為文であるが、母語の場合、行為文の理解時に、 文が意味する行為が脳内でシミュレーションされ、実行為経験に関する神経回路が活 性化する(Awazu, 2011; Barsalou, 1999)。また、この活性化する神経回路は、行為 経験の有無(Beilock et al., 2008)によっても変化する。外国語文の理解については、 行為文読解時の実行為に関する神経活動は検討されていないが、母語文と同じように 実行為経験に関する神経回路が活性化する可能性が示唆される(粟津 ・鈴木,2011)。 したがって、行為シミュレーションの内容に馴染み(経験)があったり、具体性が高 くてシミュレーションが容易であれば、それを言語表現した内容にも「見聞きした程 度が高い」という評定がなされたことが考えられる。言い換えれば、行為を意味する 文表現への親密度と、その文が意味する行為自体への親密度が混同された、あるいは 分離不能という仮説である。本研究では、これら2 つの仮説のうち、どちらが正しい のか判断できない。今後、文の親密度がどのように決定されるのか、さらなる研究が 必要だろう。 本稿は、粟津・鈴木(印刷中)の調査結果のうち、英語文の容易性と親密度を中心 に分析したものである。元々の調査範囲が一人称現在形のみという極めて限定された 範囲でしかない。時制や人称、単数複数の変化によって、どのような影響が生じるの か不明である。また、行為文のみである。本稿で見られたような経験性、心像性、親 密度、ならびに容易性の関係が、他の意味内容を表す文でも適用できるかどうかも不 明である。また、評定尺度値として取得した容易性が、正答率や反応時間などの客観 的指標と比べて妥当であるのかどうかも、未検討である。したがって、日本人英語学 習者の英語理解や学習に、単語や文の特性が与える影響については、未解明の問題の 方がはるかに多いのが現状である。 しかし、外国語学習者を対象とした外国語文を評定させる、しかも母語文と外国語 文で意味内容を揃えたような研究は、始まったばかりである。外国語文を対象とした 研究や教育法開発を進めるには、実験刺激や教材となる文の特性を知ることが重要で ある。そのためには、外国語学習者に対して、外国語の文や単語の主観的な評定を体 系的に行わせ、データを蓄積していくしかない。先に挙げたような問題の克服だけで なく、学習者の一般的な語学力の影響、あるいは単語の親密度との関係など、外国語 文の評定研究を今後も進められていく必要がある。

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5. 引用文献

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参照

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