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日本生物学的精神医学会誌 第27巻3号 「Physician Scientistの育成ー専門医制度改革の中で」(PDFファイル 505KB)

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Academic year: 2021

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105 日本生物学的精神医学会誌 27 巻 3 号

 1990 年,私が米国 National Institutes of Health(NIH)へ留学し,臨床研究上の医療行為 許可の申請をしたところ,日本での専門医取得証明書が要求された。当時我が国には,精神 科専門医制度はなく,NIH の上司から,「日本では,『今日から自分は精神科医だ』と言えば, それで認められるのか?」と問われ,答えに窮した。仕方なく精神保健福祉法指定医取得証 明書を提出して,何とか認められ,その後の講習と試験も無事終えることができた。  NIH での臨床研究参加資格を得,頻回の採血と静脈内薬物投与のため静脈留置針を挿入 する必要のある研究に参加したところ,米国の精神科医はこの手技に慣れておらず,私の出 番が増えた。冬期(冬型季節性うつ病が対象),早朝に留置針を挿入するため,頻回に NIH へ行く必要があったのには辟易した。当時,精神科専門医資格を持たなかったが,現在の初 期臨床研修に相当する 2 年間を経て精神科に入局したため,このような一般的な医療行為 に慣れていたので手技そのものは苦にならなかった。ところが,多くの米国の精神科医は精 神科研修しか経ていないとのことで,留置針挿入に四苦八苦していた。

 私は NIH 留学前,生化学教室で wet labo での実験を経験していたので,基礎研究者と共 同で,例えばゲノム解析を実施することも興味深く進めることができたが,NIH に在籍す る米国の精神科医は wet labo での解析に加わることに関心を示さないものがほとんどであっ た。その一方,彼らの臨床疫学的な知識や技能には圧倒され,これこそ優れた臨床研究論文 を生み出す基盤と思うと同時に,その必要性を痛感した。  精神疾患の克服には,分子病態を解明して,病態に即した診断法・治療法開発が不可欠で あり,病態解明には臨床と基礎の連携が必須である。この連携を円滑に進めるうえで,臨床 研究者が基礎研究の素養をある程度持つことも重要ではないだろうか。基礎研究の素養を有 する臨床研究者,即ち Physician Scientist は絶滅危惧種であるが,進歩の著しい分子生物学 の知見を臨床医学に活かすために,是非とも育てなくてはならない,との一文1が 1991 年 に発表されている。専門医制度の確立した欧米では,Physician たちは資格取得を優先し, 基礎的研究への参加が減った結果,Physician Scientist 存亡の危機は続き,育成の必要性は 国際一流誌で繰り返し論じられている。  我が国でも欧米と同様,若い臨床医(精神科医を含む)にとって専門医(或いは指定医) 取得が優先事項である。現在,さまざまな問題をはらみながらも専門医制度改革が進められ ているが,専門医機構が「リサーチマインドの涵養」を強調している点は,評価すべきでは ないだろうか。専門医制度改革を機に,大学院教育及び院卒後の研究継続体制を検討して2 欧米の借り物ではない Physician Scientist 育成システム構築に取り組むことが,精神疾患の 克服実現に重要と考える次第である。

1 ) Weatherall DJ(1991)The physician scientist: an endangered but far from extinct species. BMJ,

302:1002─1005. 2 ) 尾崎紀夫(2015)精神科臨床の課題解決をめざす人材の育成.精神経誌,117:730─736.

Physician Scientist の育成─専門医制度改革の中で

尾崎 紀夫 名古屋大学大学院医学系研究科精神医学・親と子どもの心療学分野

巻 頭 言

参照

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