Nattokinase from Bacillus subtilis natto : Amidolysis and some Properties Hiyoruki Sumi. Tadanori OhSugi, Sawa NaitO, Chieko Yatagai
(Department of Physiological Science, Kurashiki University of Science and the Arts) 納豆菌は日本の伝統的発酵微生物であり,我が国は
世界に先駆けて Bacillus subtilis natto をスターター 株(納豆種菌)として確立した実績がある。事実, Bacillus subtilis natto は世界的に一般的安全性(gen-erally accepted as safe)が認められている菌株である。 大正時代(1911 ~ 1925 年),北海道帝国大学(現. 北海道大学)の半沢博士が,稲わらから分離した種菌 の純粋培養によって大豆を発酵させ「大学納豆」と称 して売り出した。これが近代納豆の始まりである。 「大学納豆」をいち早く取り入れてベンチャー企業を おこし,大正 10 年(1920 年)に半沢式納豆製造の産 業化を行ったのが宮城の納豆製造所(仙台市)の創設 者で,後の初代全国納豆協同組合連合会会長の三浦二 郎氏である。一方,Bacillus subtilis(枯草菌)は代表 的なグラム陽性細菌であり,胞子形成や形質転換能の 研究材料として古くから用いられてきた。多種多様な 分解酵素を分泌するので,産業用酵素の生産菌として も使われている。枯草菌実験室株(Bacillus subtilis 168)の全ゲノム配列が 1997 年に公開され,プロテオ ーム解析などのポストゲノム研究が進んでいる1)。納 豆菌と実験室株はゲノムの多くが共通しているが,一 部に納豆菌特有の領域もあると考えられている。いず れにせよ,分離的には,Bacillus subtilis natto(納豆 菌)は枯草菌の亜種という訳である。ところが,枯草 菌で大豆を発酵させても食べられない,あるいは食べ ても旨くない。さらに,納豆菌はナットウキナーゼを 産生するという大きな違いがある。 写真はオカラの納豆菌による発酵を試みたものであ る。古くから最もよく親しまれている宮城野(三浦) 菌(左)と,飼料用の目黒菌によるものである(右) (第 1 図)。どちらが旨いか,まずいかという以前に, 目黒菌の胞子の持つ色は濃いピンク色を呈し,全く違 うことが分かる。ビタミン K2はどちらの菌も産生す るが,ピンク色の方が 2 ~ 3 倍高い。ところが,後者 はナットウキナーゼ活性はほとんど無い。 第 2 図はナットウキナーゼの構造を示したものであ る。275 個のアミノ酸が一本鎖で結ばれたポリペプチ ド構造を持ち,分子内に S-S 結合は全くない。 これまで,ナットウキナーゼの活性を示す指標とし てフィブリンを基質とした FU 法が用いられてきたが, 他のプロテアーゼ(例;サブチリシンやトリプシンな ど)でもフィブリンの分解が起きるため,正確に活性 を求めることが困難であるという問題点があった。そ こで,FU 法に替わって正確な力価を表示するため, 合成基質を用いた新たな力価検定法を確立した。それ に よ り ナ ッ ト ウ キ ナ ー ゼ は Bz-Ile-Glu-(OR)-Gly-Arg-pNA(S-2222)を非常に強く分解することが分か った(第 3 図)。
納豆菌が持つ特殊酵素「ナットウキナーゼ」
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その力価と特長
納豆は日本人がこれまで慣れ親しんできた伝統的な発酵食品である。そのスターターである納豆菌の歴史 や酵素ナットウキナーゼの特性を同属の枯草菌と比較して分かりやすく解説していただいた。ナットウキナ ーゼ活性がきわめて高いことが納豆菌の最大の特徴であると述べておられ,Bacillus subtillis natto がこれ まで長く使用されてきたことが首肯できよう。なお,Codex 委員会に納豆やテンペなどアジアの大豆発酵 食品の国際統一規格化の動きがあることから,その動きをフォローする必要性も述べておられ,業界も是非 参考にしていただきたい。第 1 図 オカラ発酵物
宮城野(左),目黒菌(右)を用いて, 37℃,3 日間静置培養を行ったもの。 左は納豆に近い色であるが,右は濃いピンク色を呈している。
第 2 図 ナットウキナーゼの分子構造
この方法によると最も代表的な日本の納豆は 1g 当 り 0.99 国際単位であり,高ナットウキナーゼと表示 されている製品は約 2 倍の 1.78 国際単位であった(第 1表)3)。 ちなみに日本で使われている枯草菌由来の産業用酵 素 5 製品について,同様にナットウキナーゼ活性を調 べてみたところ,Bz-Ile-Glu-(OR)-Gly-Arg-pNA 分解 活性よりも Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNA 分解活性が高か った(第 4 図)。一方で,宮城野,高橋,成瀬菌など 日本の代表的な菌で作られた 5 種類の市販製品はいず れも Bz-Ile-Glu-(OR)-Gly-Arg-pNA 分解活性が強く, ナットウキナーゼを有していると言える2,3)(第 5 図)。
すなわち,Bacilus subtilis natto(納豆菌)により 生産された納豆,ことに全国納豆鑑評会などへ出され て賞をとっているような旨い納豆は,ナットウキナー ゼを有し,その特異性は全てが非常によく似ていた。
つ ま り,Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNA 分 解 活 性 よ り も Bz-Ile-Glu-(OR)-Gly-Arg-pNA 分解活性が高いことが Bacillus subtilis natto の最大の特長であるといえよう*。
一方で,産業用(洗濯用洗剤,繊維,検査,飼料用) などに使われている食べられない Bacillus subtilis(枯 草菌)の多くはビタミン K2を産生し,また納豆菌と 同様のフィブリン分解活性を有するが,ナットウキナ ーゼは有していない。ものによっては食中毒を起こす 物すらある。食べて旨い納豆には長い歴史が必要だと いう訳である4,5)。 なお,FU 単位に替わって正確な力価を表示するた め,ナットウキナーゼ標準品が和光純薬より販売され ている。 * ナットウキナーゼと称して,国内外で合わせて数 十社が発売している。残念ながらその多くは食べら 第 3 図 標準品(ナットウキナーゼ)の基質特異性 商品名 力価(IU/g) 納豆市販品 A 1.78 B 0.99 ナットウキナーゼ 標準品 423.12 精製品 3440.46 市販品 ︲ 未処理物 力価検定法:酵素試料とホウ酸 - 生食緩衝液(pH7.8)0.9ml および 5 × 10-4M Bz︲Ile︲Glu︲ (OR)︲Gly︲Arg︲pNA 0.1ml を 1ml キュベット内で初速を測定。405nm で 1 分間に基質 1μmol の変化を触媒する酵素量を 1IU とする。 第 1 表 ナットウキナーゼの力価検定
第 4 図 Bacillus subtilis 製品 Ⅰ:Bz-Ile-Glu-(OR)-Gly-Arg-pNA,Ⅱ:Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNA 第 5 図 納豆製品 Ⅰ:Bz-Ile-Glu-(OR)-Gly-Arg-pNA,Ⅱ:Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNA れない枯草菌の仲間による酵素。中には納豆から得 たとするものも出ている。では,将来中毒やアレル ギーなどの害があった場合,納豆を愛する者はどう 対処すればよいかということである。 最近, Codex 検討委員会から食品の国際規格を統 一しようとする動きがあり,納豆やテンペ等も対象 になっている(2010 年はシンガポールで開催)。た だ,無塩大豆発酵食品のイニシアティブを掌握させ るのは,今後業界が国際展開をする運びの大きな障 害になりかねない。多くの納豆製造技術や日本の伝 統食が世界に誇る食品として地位を揺るがされる事 態に陥る可能性が存在するということである。 〈倉敷芸術科学大学生命科学部〉 参 考 文 献
complete genome sequence of the Gram-posi-tive bacterium Bacillus subtilis, Nature, 390:249-257, 1997
2) H.Sumi, C.Yatagai, S.Naito, T.Ohsugi, J.Saito, Substrate specificity of nattokinase and the application of these properties to the assay of its potency, XXII Congress of the Internation-al Society on Thrombosis and Haemostasis, USA, 2009 3) 須見洋行,ナットウキナーゼ,納豆の研究法, p.158-160,恒星社厚生閣,東京,2010 4) 須見洋行,第 4 章納豆の食品機能性に関する研 究 1.ナットウキナーゼ,第 11 章納豆を利用 した新商品開発 3.ナットウキナーゼ製剤,納 豆の科学,p.53-57,p.244-245,建帛社,木内幹, 永井利郎,木村啓太郎編,東京,2008
5) H. Sumi and C. Yatagai, Fermented soybean components and disease prevention, Soy in Health and Disease Prevention, p.251-278, ed. M. Sugano, Taylor&Francis, New York, 2005