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Thyrotropin releasing hormone (TRH) により四肢筋力の改善をみた球脊髄性筋萎縮症(Kennedy-Alter-Sung type) の1症例

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Academic year: 2021

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臨床報告

〔東女医大誌 第59巻 第6号頁769∼772平成元年6月〕

Thyrotropin releasing hormone(TRH:)により

四肢筋力の改善をみた球脊髄堺筋萎縮症

(Kennedy−Alter−Sung type)の1症例

熱海総合病院 脳神経センター 神経内科 サトウマナミ ヤマネ キヨミ ヒラカタ ヨウコ

佐藤真奈美・山根 清美・平方 庸子

コモリ タカシ ナガヤマ タカシ シバガキ ヤスロウ

小森 隆司・長山 隆・柴垣 泰郎

東京女子医科大学 脳神経センター 神経内科 コ バヤシ イツ ロウ マル ヤマ ショウ イチ

小林逸郎・丸山勝一

(受付 平成元年2月3日)

Clinical Improvement of Muscle Wea㎞ess in a Case of Bulbar Spinal Muscular

Atrophy(Kennedy・Alter・Sung Type)by Thyrotropin

Releasing Hormone(TRH)

Manami SATO, Kiyomi YAMANE, Yoko HIRAKATA, Takashi KOMORI,

Takashi NAGAYAMA and Yasuro SHIBAGAKI

Department of Neurology, Neuro董ogical Institute, Atami General Hospital

Itsuro KOBAYASHI and Shoichi MARUYAMA

Department of Neurology, Neurological Institute, Tokyo Women’s Medical College

Bulbar spinal muscular atrophy(Kennedy・Alter−Sung type, KAS)is one of the motor neuron disease. It usually shows X−linked ressive mode of inheritance, adult onset, mainly proximal muscle atrophy, bulbar palsy, gynecomastia, testicular atrophy, diabetes millitus, elevation of serum CK. Muscle atrophy and bulbar palsy in KAS is very slowly progressive, so that almost cases showed a

normal life span. It has been reported that TRH was effective for ALS. So we tried the therapeutic trial

of TRH for KAS. Low dose(2 mg/day)of TRH was given to the patient intravenously for 2 weeks。 It resulted that clinical improvement of muscle weakness was recognized objectly. Thus it was thought that TRH was useful to the treatment of KAS.

はじめに Kennedy−Alter・Sung型球脊髄性筋萎縮症(以 下KAS)は,四肢の筋萎縮および球症状が緩徐に 進行し,ほぼ寿命を全うすることができる運動 ニューロン疾患である.これに対し,筋萎縮性側 索硬化症(以下ALS)は,四肢の筋萎縮,球症状, 呼吸筋麻痺が急速に進行し,発症1∼2年で重篤 な呼吸不全を呈する予後不良の運動ニューロン疾 患である.現在まで,運動ニューロン疾患に対す る様々な研究が試みられてきているが,いまだ決 定的治療法は見出されてはいない.しかし,1983 年Engelら1),1984年山根ら2>によりALSに対す

るTRH(thyrotropin releasing hormone)療法 の報告以来,この治療法に対する追試が行なわれ

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312 ている.今回我々は,TRH療法をKASに対して 施行し,四肢筋力の改善をみたので報告する. 症 例 患者:53歳,男性. 主訴:四肢近位部の筋力低下,呂律の回りにく さ,インポテンス. 家族歴:父に糖尿病があるが,患者と同様の症 候を呈した神経筋疾患はなかった. 既往歴:特記すべきことはなかった. 現病歴:昭和29年頃から安静時に両手の震えが 出現し,昭和50年(38歳)よりインポテンスに気 が付いた.また昭和52年頃から右下腿に有痛性の 筋痙李が出現し,昭和55年頃より両側大腿部,次 いで両側上腕部の筋力低下を自覚するようになっ た.その後,呂律の回りにくさも出現してきたた め,昭和62年6月23日精査目的で当科に入院した, 入院時鐘症:身長163cm,体重48kg,血圧118/ 60mmHg,脈拍72/分・整であり,女性化乳房およ び両側睾丸の中等度萎縮を認めた.神経学的には 軽度の構語障害が認められ,脳神経系において両 側の軽い眼険下垂が認められた.また,口輪筋の 筋力低下とと線維束細面が認められ,右側軟口蓋 の挙上は不良であった.舌の萎縮は著明であり, 線維束李縮も認められた.運動系では,四肢,体 幹に線維束李縮が見られ,四肢近位部優位に中等 度の筋萎縮と筋力低下が存在した.深部腱反射は 上下肢共に,著明に低下もしくは消失していた. 病的反射は認められず,感覚系および協調運動に も異常は認められなかった.起立時ににGower’s 徴候が認められたが,歩行はほぼ正常であり, Romberg徴候も陰性であった. 入院時検査所見:血液生化学において,血清 CK値は2401週目正常60∼120)と軽度上昇を認めた 以外,異常はなかった.胸腹部XPおよび心電図 にも異常は見られなかった.頭部CTscanでは異 常はなかったが,筋電図では神経原性変化を示し た.性腺機能検査では,血中LHの著明な高値と 血中estradiolの軽度上昇を示した.またHCG負

荷試験(表1)およびLHRH試験(図1)共に

反応低下が見られ,原発性睾:丸機能低下症が示唆 された.なお,睾丸の生検所見では,精細管の萎 表1 性腺機能検査 HCG負荷試験 負荷前i基礎値) 負荷後 テストステロン値 @(ng/m1) 8.0 12.0 (正常反応:負荷後は前値の2倍以上) HCG負荷試験:HCG 4,000∼5,0001Uを3∼4日間,毎 朝食前に筋注し,投与前と投与終了翌日に血中テストステ ロン値を測定する. 成人男子正常値:4.1∼11.Ong/m1. LH mluん1 200 100 ♂ ! LH 一一〇 一一●【一 ’ !!@ FSH FSH mlu/m/ 40 30 20 10 0 3σ 6σ 12σ ・LH基礎値 2∼321nlu/m1 ・FSH基礎値4∼42mlu/ml 図1 性腺機能検査 縮とsecomdary spermatocyteの減少がみられ, 精子形成能低下の所見が認められた. 本症のTRH療法による治療効果:病歴,臨床

症状および検査所見等によりKASと診断し,

ALSの一部で有効とされているTRH療法を施

行した.方法は,TRH 2mgを点滴静注により2 週間連日投与した.TRHの治療効果判定につい ては,TRH投与前,投与1週後,および投与2週 後に握力,手すり使用による両膝の屈伸運動の回 数,および踵上げ20回に要する時間等により行っ た。表2に示すごとく両膝屈伸運動は,TRH投与

前0回からTRH投与2週後6回に増加し,また

踵上げ20回に要する時間についても,30秒から TRH投与2週後には16秒へと著明に短縮した. なお,握力については,TRH投与前後で有意な変 化は認めなかった.このようにTRH療法は,筋力 の改善に対して有効であった. 考 察

Kennedy−Alter−Sung型球脊髄性筋萎縮症

一770一

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313 表2 TRH治療効果判定 前 投与1週後 投与2週後 右 左 右 左 右 左 握 力

@ (kg)

20 20 20 20 21 / 手すり使用による シ膝屈伸 (回) 0 6 6 踵上げ20回

@ (秒)

30 22 16 (KAS)は,1968年Kennedyら3)により2家系が報 告された.その臨床的特徴として,1)伴性劣性遺 伝,2)成人発症,3)近位筋優位で球領域を含む 筋萎縮と筋力低下,4)全身性の線維束李縮5)進 行緩徐で予後良好,6)女性化乳房・睾:丸萎縮,7) 糖代謝異常,8)血清CK値の上昇など挙げられて いる.本邦でも,1980年向井ら4)5)により中京地区 の症例がまとめて報告され,その後も症例が蓄積 されつつある.我々の症例は,1)構語障害・舌萎 縮などの球症状,2)近位筋優位の神経原性筋萎縮 症,3)女性化乳房・睾:丸萎縮,4)糖代謝異常, 5)血清CK値の上昇が見られたことなどにより, 家系内における伴性劣性遺伝は確認されてはいな いが,KASと診断して良いと思われる. 今回我々は,本症に対しTRH療法を試みた.運

動ニューロンにおけるTRH療法については,

1983年Engelら1>,1984年山根ら21がALS患者に 施行し,有効であったと報告している.その後,

ALSに対するTRH療法は,無効であるとの報告

も多く6).本療法については,まだ疑問が残ってい る.一方,KAS患者に対するTRH療法に関して は,荒木ら7)の報告がみられるのみである.荒木ら

はTRH療法を5例のKAS患者に施行してお

り,5例中2例に3∼5kgの握力の増強を認め,特 に上肢筋における改善が認められ,有効であった と述べている.今回我々も,荒木ら7)と同一の方法 でTRH療法を試み,結果で述べたような筋力の 改善を認めた.我々の症例におけるTRH療法の 効果は,荒木ら7)の報告した症例よりも明らかで あると考えられた. さて運動ニューロン疾患に対するTRHの作用 機序ぱ,いまだ解明されてはいないが,山根ら2) は,病理学的に変性の及んでいない脊髄前角細胞, 錐体路,脳神経核などに対し,TRHがneurotran− smitterとして賦活作用を示す可能性を推測して いる.球脊髄性筋萎縮症においても,脊髄前角, 脳神経運動核等に変性が及んでいない神経細胞が 存在すると考えられる.そのためこのような神経 細胞に対し,TRHがneurotransmitterあるいは neuromodulatorの役割りを果たし,賦活作用を 示すのではないかと考えられた.ALSに対する TRH療法は,その効果に関して限界があるとさ れている.これはALSの四肢筋症状・球症状等の 臨床症状が,急速に進行することから,神経細胞 の変性・脱落も急速であると推定され,そのため TRH効果が持続し難いものと考えられる.しか し,KASにおいては寿命が全うできるほど,四肢 筋症状・球症状の進行が緩徐である.したがって ALSとは逆に,脳神経運動面,脊髄前角等におけ る神経細胞の変性がゆるやかであると推測され, そのためTRH効果が長期に持続すると考えられ る.以上によりKASに関しては, TRH療法は長 期にわたり,試みる価値のある治療法と考えられ た. 結 語 TRH療法により四肢筋力の改善を見た球脊髄 血筋萎縮症(Kennedy−Alter−Sung型)の1症例を 報告した.KASに対し, TRH療法は長期にわた り試みるべき治療であると考えられた. 文 献

1)Engel WK, Sidd量que T, Nicolo症JT l E廷ect on weakness and spasticity in amyotrophic lateral sclerosis of thyrotropin−releasing hor− mone. Lancet 8341:73−75,1983

2)山根清美,大澤美貴雄,小林逸郎ほか:

Thyrotropin releasing・hormone(TRH)による

筋萎縮性側索硬化症の治療.神経内科治療 1:

131−136, 1984

3)Kennedy WR, Alter M, Sung JH:Progres. sive proximal spinal and bulbar muscular atro・

phy of late onset. A sex−1inked ressive trait.

Neurology 18:671−680,1968 4)向井栄一郎:球脊髄性筋萎縮症一自験31症例の臨 床特徴.臨床神経 20:255−263,1980 5)向井栄一郎,祖父江逸郎:成人男子にみられる球 髄性筋萎縮症の随伴徴候と検査所見.臨床神経 771一

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314

20:623−630, 1980

6)Hawley RJ, Kmtz R, Goodman RR et al: Treatment of amyotrophic lateral sclerosis with the TRH analog DN−1417. Neurology 37: 715−717, 1987 7)荒木淑郎,守山英一郎,渡辺 進:球脊髄性筋萎 縮症(Kennedy−Alter−Sung型,孤発例)に対 するTRHの治療効果の検討.神経ペプチドによ る精神神経障害治療薬の開発研究班,昭和61年度 研究成果,202−205,1987 一772一

参照

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