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バイオバンクと次世代医療

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Academic year: 2021

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 病気の本質を明らかにすると期待されたヒトゲノム計画 は 2001 年に終了し,ヒトゲノム配列が明らかとなった。そ して,次世代シークエンサー(NGS)の急激な性能の向上も あり,ゲノムと病気の関係が次々と明らかになってきた。 現在,わが国を含め世界中で,「ゲノム情報を用いた医療」 の実現を目指した大型プロジェクトが行われている。例え ば,米国ではオバマ元大統領より,Precision Medicine Initia-tiveが宣言され,個別化予防や個別化医療への潮流は確実 に加速している。現在,その中核研究として「All of us」研究 が米国で開始されている。 これは,100 万人規模の米国人 のコホートを立ち上げ,ゲノム配列,環境,ライフスタイ ルの関係と疾患の関連性を明らかにすることで,疾患の治 療や予防につなげようというものである。本研究に代表さ れるように,現在,「ヒトのゲノム情報に基づいた予防,医 療が次世代の医療となる」と注目され,わが国を含めた世 界中でゲノム研究とその応用による個別化医療の開発が進 んでいる(図 1)。わが国においても 2015 年 2 月に,ゲノム 医療を「質と信頼性の担保されたゲノム検査結果などをは じめとした種々の医療情報を用いて診断を行い,最も有効 な治療,予防及び発症予測を国民に提供すること」と定義 ゲノム医療の発展と個別化医療への期待 日腎会誌 2018;60(8):1194‒1196.

第 4 回腎臓セミナー・Nexus Japan プロシーディング

特別講演

バイオバンクと次世代医療

The development of personalized medicine utilizing biobanks

清 元 秀 泰

Hideyasu KIYOMOTO 東北大学 東北メディカル・メガバンク機構客員教授 2003 期待と失望(missing heritability) Undiagnosed diseaseの 原因遺伝子POC同定 (MCW小児病院) 薬剤代謝酵素多様性Preemptive PGx (Vanderbilt Univ.病院) ゲノムオミックス情報のビッグデータの出現

Cancer Driver Geneの 同定と抗癌剤治験 (Mayo Clinic) 2007 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 ヒト全ゲノム解読 NIH“BD2K”計画・各種ゲノムコンソーシアム開始

オバマ大統領年頭教書/Precision Medicine Initiative シークエンス革命

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して,その実用化に向けた取り組みが活発化している。  ゲノムを用いた個別化医療とは,個々の体質や疾患感受 性をゲノム解析から評価し,治療薬の効果や副作用,病状 進行への影響などを事前に査定し,それぞれに最適な治療 法を選択する医療である。例えば,糖尿病の患者群で同程 度の血糖管理や降圧を行っても,糖尿病性腎臓病への進展 期間は個々の症例ごとに異なり,腎機能低下の遅いタイプ (slow decliner)と急速進行で早期に腎不全に至る患者(rapid decliner)が存在している。この個人間の経過の違いには, 少なからず個々のゲノムの差異が影響していると想定され る。糖尿病性腎臓病の進展リスクとしては,各民族集団の ゲノムワイド関連解析(GWAS)をメタ解析したトランス・ エスニック・メタ解析からは MYH9 や APOL1 など他の腎 臓病に関連することが知られている既知の遺伝子の一塩基 多型(SNP)が,糖尿病性腎臓病の進展リスクにもなること が報告されている1)。また,日本人を含む 7 万人以上の東 アジア人集団を対象とした GWAS から,新たな 7 個の遺伝 子(MECOM,MHC region,UNCX,WDR72,UMOD,MAF, GNAS)が慢性腎臓病リスクを増大させることも報告されて いる2)。そして,腎予後が悪くなる可能性の高い患者のゲ ノム情報を用いて,疾患の層別化と個別化医療を行うこと ができれば,予後の向上のみならず,わが国の医療費の適 正配分化も期待できる。  この個別化医療の実現には,病態進展や治療反応に関す る遺伝子を同定し,病態進展予測や治療薬選択のためのゲ ノム情報やバイオマーカーの確立が必要となる。つまり, 各疾患群の患者に対する臨床情報とゲノム情報を統合させ たゲノムプラットフォームの構築が必要である。また,当 然ながら人種ごとに基本的なゲノム情報は異なるため,わ が国におけるゲノム医療実現には日本人独自のゲノムプ ラットフォームが必要である。現在,その目的でわが国に は,東北メディカル・メガバンク事業で解析された健常者 全ゲノムデータ(アレル頻度情報)が日本人標準ゲノムとし て公開されている。  東北大学東北メディカル・メガバンク機構は東日本大震 災直後に開始された国内最大の複合バイオバンクである。 被災者の健康支援に加えて,長期にわたる健康調査情報と ゲノム情報との統合解析によるゲノムコホート研究によ り,次世代医療の実現を目指して文部科学省直轄事業とし て 2012 年度より開始された。さらに 2015 年度より,文部 科学省から,内閣官房健康医療戦略室管轄の日本医療研究 開発機構(AMED)の所管事業である「疾病克服に向けたゲ ノム医療実現化プロジェクト」へ移管され,わが国のゲノ ム医療実現のための基盤整備事業と位置づけられた3)  バイオバンクのリソースは,宮城・岩手県の成人 8 万人 で構成される「地域住民コホート調査」と宮城県の妊婦 (母),産まれてくる児,兄弟,父,祖父母の三世代を対象 とした家族 7 万人に対する「三世代コホート調査」である。 両コホート合わせて計15万人規模の前向きコホートと,そ の生体試料を補完するバイオバンクが構築され,2016 年度 にその登録が完了した。  コホート参加者には,ベースライン健康調査として,生 化学的検査やアンケート調査,さらに希望者にサテライト センターにおいて詳細な生理学的検査を実施した。健康調 査結果は,速やかに参加者や自治体に還元し,被災地の地 域住民の健康向上に大きく貢献している。さらに,健康調 査や解析の結果得られた試料・情報を統合し,複合バイオ バンクとして健康調査・解析情報を統合する統合データ ベースを開発し,多くの研究者や企業群に公開され,2017 年より試料や情報の分譲も可能となった。  ゲノム医療実現推進協議会の中間とりまとめで示された ように,「貯めるだけでなく利用されるバンク」として,複 合バイオバンク内の試料・情報が全国の研究者に利活用で きる体制が望まれていた(図 2)4)。東北メディカル・メガバ ンク機構の複合バイオバンクデータの公開は,国内の多く のゲノム研究者や創薬・診断薬開発企業の悲願でもあっ た。現在,多くのゲノム研究に欠くことのできない SNPs (Single Nucleotide Polymorphisms)のアレル頻度や代謝物量 の年齢分布などの統計処理情報が公開されており,診断精 度の向上とゲノム変異に基づく疾患群の早期診断実用化の 扉を開けることにつながった。  一方,個人ごとの SNP や健康調査情報,また,DNA,血 清などの試料については,外部の研究者らで構成される試 料・情報分譲審査委員会による審査を経て,分譲を実施し ている。現在,3,554 人分の全ゲノム情報,また 1,070 人分 の全ゲノム解析対象者と 2.3 万人分の SNP アレイ解析対象 者の試料(DNA,血漿,血清,尿)および情報(年齢・性別 の基本情報,検体検査や調査票情報などを含む健康調査情 報,ゲノム情報)を合わせて,分譲している。今後も,ゲノ ム・オミックス解析やデータクリーニングが終了した情報 がそれぞれ紐づけられ,匿名性が担保された状態で順次, 公開・分譲が行われる。このようなわが国のバイオバンク の充実により,今後は遺伝子多型と各種疾患の関連性など バイオバンクの利活用によるゲノム医療の実現 1195 清元秀泰

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が明らかになってくると考えられる。  現在,ゲノム医療実現のための第一歩を踏み出したばか りの複合バイオバンクではあるが,そう遠くない将来に, 得られたゲノム・オミックス情報に基づいた早期診断,個 別化予防,個別化治療がヒトの健康寿命延伸に大きく貢献 する時代が到来すると考えられる。2018 年度の AMED の ゲノム医療実現推進プラットフォーム事業(先端ゲノム研 究開発)に,日本腎臓学会の柏原直樹理事長が中心となっ て発案された「精緻な疾患レジストリーと遺伝・環境要因 の包括的解析による糖尿病性腎臓病,慢性腎臓病の予後層 別化と最適化医療の確立」が採択されている。日本腎臓学 会が主体となって,これまでの実績のある腎疾患総合レジ ストリーと国家基盤である複合バイオバンクのデータシェ アリングによって,腎疾患が克服されることが国民の大い なる希望である。  結びに,ゲノム医療を用いた腎疾患に対する個別化医療 が,早期に実現できるよう,引き続き学会員の大いなるご 協力とご支援をお願いするものである。   利益相反自己申告:申告すべきものなし 文 献

1. Iyengar SK, et al. Genome-wide association and trans-ethnic meta-analysis for advanced diabetic kidney disease: family investigation of nephropathy and diabetes (FIND). PLoS Genet 2015;11:e1005352.

2. Okada Y, et al. Meta-analysis identifies multiple loci associated with kidney function-related traits in east Asian populations. Nat Genet 2012;44:904-909. 3. 櫻井美佳, 清元秀泰. 東北メディカル・メガバンク計画とゲ ノム研究の展望. 腎臓内科・泌尿器科 2017;5:87. 4. 東北メディカル・メガバンク計画. バイオバンク試料・情報 関連ウェブサイト. http://www.dist.megabank.tohoku.ac.jp/ ゲノム医療を用いた腎疾患克服への期待 1196 バイオバンクと次世代医療 図 2 複合バイオバンクを利活用したゲノム医療の実現 遺伝子と病気の 関係の解明 データ シェアリング データ シェアリング 遺伝子の解読 遺伝子と病気の関係に関するさまざまな研究 コンピュータで解明 AIの活用 複合バイオバンク 実際の医療 患者・健常者(住民) 患者・健常者(住民) スーパー コンピュータ データベース 生体試料 保管庫 患者 既存の疾患レジストリー 電子カルテ臨床データの登録・予後追跡 臨床病理診断データの登録

図 1 ゲノム医療の発展と Precision Medicine Initiative までの道程

参照

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