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落ち込み体験の認知的評価が自己効力感と

抑うつ傾向に与える影響

寺 口  大

本研究の目的は、大学生の過去の落ち込み体験についての認知的評価が、現在の自 己効力感と抑うつ傾向にどう影響を与えるかを検討することであった。落ち込み体験 をどのようにとらえるかを測定するための認知的評価尺度を作成し、調査を行った結 果、認知的評価尺度は衝撃性、コントロール可能性の2因子構造を持つことが確かめ られた。また、この2因子と自己効力感、抑うつ傾向との関連を共分散構造分析によ り検討した結果、衝撃性を低め、コントロール可能性を高めることが、自己効力感を 高め、抑うつ傾向を低めることが示唆された。男性では衝撃性を低めること、女性で はコントロール可能性を高めることが、より効果的であることが示唆された。この結 果を踏まえ、性差による認知的評価の違いや自己効力感と抑うつ傾向の高低の検討、 そして対処行動の測定の必要性についての考察を行った。 キーワード 落ち込み体験、認知的評価、自己効力感、抑うつ

1.問題と目的

1.1.問題 抑うつ状態は、日常的に多くの人が経験する心理状態である。突然の喪失体験などにより、 気持ちがふさぎこみ悲しくなるといったことは、心の変化としては当然のことであり、心が正 常に機能している証と見ることもできる。しかし、この状態が強くなり、経過が長くなり、社 会生活に支障をきたすようになれば、周囲からなんらかの援助が必要になる。この状態に、精 神医学では「うつ病」という病名をつけ、「治療が必要な状態」として見るのである。 近年増えている精神科クリニック等を受診するクライエントの過半数の訴えは、抑うつ気分 やその他の抑うつ関連症状であり、その背景には「うつ病」という言葉の一般用語としての浸 透、疾患の持つイメージの変化、また価値基準の多様化や、押し付けられる自己責任にともな う人々の不安の増大などがあると考えられる(1)。特に、うつ病性障害は若い年代においての有 病率が上昇しており(2)、青年期の抑うつ症状は現在の不適応と関連しているだけでなく、後の 〔抄 録〕

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うつ病性障害の発生確率を上昇させることが示されている(3)。以上のことから、青年期の抑う つに対して早期対応が必要であると言えるだろう。 1.2.抑うつの発生機序 抑うつがどのように発生するかについては、様々な理論が提唱されている。遺伝的脆弱性や 他の障害・病気などの個人的要因、社会的スキルおよびサポートなどの社会的要因、親の養育 や夫婦関係などの家族の要因、ネガティブなライフイベントなどの外的な出来事の要因など、 様々な観点から研究がなされているが、中でも心理臨床の場において重視されるのが、ネガテ ィブな帰属スタイルや認知の誤りなどの認知的要因である。Beck(4)は抑うつの背後に、独特の 「認知の歪み」があることを指摘し、抑うつ症状を生み出すものは外界の出来事ではなく、その 出来事をどう解釈するかという認知であると述べている。この認知理論に基づいて、認知を変 えれば抑うつを軽減できるとし、それを技法化したのが認知療法である。うつ病の認知療法の 効果について、単極性・非精神病性の抑うつ治療については、認知療法は薬物療法と同等の効 果があり、また治療期間が同じならば、他の心理療法よりもすぐれているとされている(5)。こ のように、抑うつについては認知面でのアプローチが有効であることが示されている。 1.3.抑うつの抑制要因としての自己効力感 抑うつを認知的要因の観点から見る上で、関連が深いと考えられるのが自己効力感(Self-Efficacy)の概念である。自己効力感とは、外界の事柄に対し、自分が何らかの働きかけをす ることが可能であるという感覚や信念のことである(6)。自己効力感と抑うつとの関連について は数多くの研究があり、高い自己効力感を持つことで、抑うつや不安を低減することができる とされている(7)。このことから、抑うつを治療・予防しようとする際に、自己効力感を高める ことが有効であると考えられる。 祐宗ら(8)は、自己効力感を生み出すためには①達成体験、②代理経験、③言語的説得、④生 理的情緒的高揚の4つが必要であり、特に①達成体験が重要で、この体験による自己効力感が 最も安定したものになるとしている。逆に、失敗体験は自己効力感を低める傾向があると述べ ている。戸梶(9)は思春期から青年期前期にかけての成功体験が、自己効力感を高めると指摘し ており、佐伯ら(10)も、小学校高学年を対象とした研究で同様の結果を報告している。これらの ことから、自己効力感を形成するには、失敗体験を減らし、達成体験を増やすことが最も有効 であることがわかる。 しかし、こうした従来の体験についての研究では「どのような体験であったか」という体験 の内容が重視されており、その体験を「どのようにとらえているか」という認知的側面につい ての研究はあまりなされていない。自己効力感とは内的な認知であるので、体験の内容だけで はなく、それをどのようにとらえたかに着目することが必要であろう。自己効力感が、どのよ

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うな体験をどのように認知したかによって、どう形成されていくのかが判明すれば、達成体験 だけではなく失敗体験についても、自己効力感に繋げていくことができるのではないだろうか。 このことは、心理臨床において抑うつ・自己効力感を取り扱う上でも有効な方略となると考え られる。 1.4.体験についての認知 体 験 を ど の よ う に と ら え る か と い う 点 を 検 証 す る 上 で 、 有 用 と な る の が 認 知 的 評 価 (cognitive appraisal)の概念である。Lazarus et al.(11)は、ストレス状況におけるストレス反応 について、どのようなストレスイベントが起こったかよりも、その出来事をどのように主観的 に認知し、評価するかが精神的健康にとって重要であることを指摘している。認知的評価は、 外部から与えられる刺激に対して、その刺激が個人にとってどの程度有害で脅威的であるかと いう一次的評価と、その認知された有害性や脅威性に対処できるかどうかという二次的評価に 大別されている。Lazarus et al.は「統制力の状況的評価(二次的評価)はBanduraの自己効力感 の概念と類似している」と述べており、認知的評価と自己効力感の関連が示唆されている。 認知的評価に関する研究(12)では、調査対象者に架空のストレス状況を想定してもらい、それ についての認知的評価を測定するという手続きがとられることが多いが、これを実際の体験に 適用することもできるのではないだろうか。すなわち、調査対象者に実際の失敗体験を想起し てもらい、それについての認知的評価を測定することで、よりその個人の体験に根差した認知 の過程を見ることができると考えられる。こうした手続きによって測定した認知的評価と、調 査対象者の現在の自己効力感、抑うつ傾向との関連を調べることで、過去の失敗体験について の認知的評価が、現在の自己効力感と抑うつ傾向とに与える影響を検証することができると考 えられる。 過去の体験についての認知が現在の認知傾向に影響するのであれば、失敗体験を現在でも脅 威的であるととらえることは、「今ならなんとかできる」という感覚を持てないことになり、自 己効力感を低め、抑うつ傾向を高めることに繋がるであろう。逆に、現在では対処が可能であ るととらえることは、自己効力感を高め、抑うつ傾向を低めることに繋がると考えられる。こ のことから、脅威的であるという評価と対処可能であるという評価は、負の関連があると考え られる。 1.5.目的 本研究では、過去の失敗体験についての認知的評価が、自己効力感および抑うつ傾向に与え る影響を調べることを目的とする。失敗体験に関して、調査対象者の認知に強く影響を与えて いる体験に焦点を当てるため、「過去にとても落ち込んだ体験の中で、今の自分に強く影響を与 えている体験」を想起してもらい、その体験についての認知的評価を分析することとする。ま

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た、青年期ではストレスフル・イベントの中で、人間関係が大きな割合を占めている(13)ことか ら、対人関係の失敗体験に限定して調査を行う。一次的評価と二次的評価に負の関連があるこ と、一次的評価の高さが抑うつの高さと自己効力感の低さに影響すること、二次的評価の高さ が自己効力感の高さと抑うつの低さに影響すること、自己効力感の高さが抑うつの低さに影響 することが予想される。

2.方 法

2.1.調査時期 予備調査は2007年7月、本調査は同年7月∼10月にかけて行った。 2.2.調査対象 近畿圏の大学生369名を対象とし、質問紙による調査を行った。予備調査の対象は119名(男 性33名、女性86名)、平均年齢は19.47歳、標準偏差は1.30であった。本調査の対象は250名(男 性88名、女性162名)、平均年齢は20.26歳、標準偏差は3.29であった。 2.3.質問紙の内容 (1)予備調査 フェイスシートに教示と注意事項、年齢と性別の質問を記載し、その次のページに落ち込み 体験についての質問を設けた。調査対象者のこれまでの対人関係において、とても落ち込んだ 体験の中で、今も強く印象に残っている、あるいは今の自分にとても影響を与えていると感じ る体験を想起してもらい、体験時の年齢と内容を記述するよう求めた。またその当時の調査対 象者にとって、その体験がどのくらい深刻なものであったかを、「とても深刻だった」から「ほ とんど深刻ではなかった」の4段階で評定するよう求めた。 その次のページに、岡安(14)の認知的評価尺度を参考に作成した「落ち込み体験についての認 知的評価尺度」を設けた。岡安は新名ら(15)のストレスフル・イベントに関する認知的評価尺度 を測定する質問紙のうち、影響性、妨害性、脅威性、コントロール可能性の4つの評価カテゴ リーに含まれる項目を各5項目選択し、合計20項目による尺度を作成している。この尺度を用 いた調査の結果、対人関係でのストレス状況において影響性、妨害性、脅威性で性別について 有意差が見られ、女性より男性の方がこれらの評価の得点が高くなることを報告している。 本研究では、想起される体験を「自分にとても影響を与えている」ものとして統制している ため、作成する尺度では影響性のカテゴリーを除き、妨害性・脅威性・コントロール可能性の 3つの評価カテゴリーを採り上げることとした。全ての項目を過去の体験の評価となるよう書 き換え、さらに各カテゴリーに新たに作成した2項目ずつを追加し、それぞれ7項目、合計21

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項目を設け、「落ち込み体験についての認知的評価尺度」とした。回答は5件法で、「とてもあ てはまる」(5点)から「ほとんどあてはまらない」(1点)までとした。 質問紙を配布した119名のうち、欠損値のない有効回答が得られた116名(男性33名、女性83 名)を分析の対象とした。尺度の因子構造を確認するため、21項目について最尤法による因子 分析を行った。固有値の減衰状況および因子の解釈可能性を考慮して2因子を抽出し、プロマ ックス回転を行った。結果、因子負荷量が全ての項目において.35を満たすことが確認できた。 第1因子は、妨害性・脅威性のカテゴリーに関する項目に高い因子負荷を示していた。友野ら (16)は認知的評価尺度について、影響性・妨害性・脅威性の3つを1つのカテゴリーにまとめて 「衝撃性」因子として解釈しているので、それに倣って「衝撃性」因子とした。第2因子は、岡 安によるコントロール可能性のカテゴリーに関する項目に高い因子負荷を示していたので、「コ ントロール可能性」の因子と解釈した。各因子のCronbachのa係数は、第1因子では.94、第2 因子では.72であった。また、因子ごとに各項目についてG-P分析による項目分析を行ったとこ ろ、全ての項目において有意な差が見られた。以上のことから、信頼性が確認できたと判断し、 21項目を「落ち込み体験についての認知的評価尺度」として採用することとした。 (2)本調査 フェイスシート、落ち込み体験の記述、落ち込み体験についての認知的評価尺度は予備調査 と同様のものを使用した。それらに加え、以下の2つの尺度を用いた。 (¡)特性的自己効力感尺度(17) 自己効力感を測定する尺度として、成田らが作成した特性的自己効力感尺度を使用した。特 性的自己効力感(Generalized Self-Efficacy)とは、個々の課題や状況に依存せず、より長期的 に、より一般化した日常場面における行動に影響するもので、人格特性的な認知傾向のことを 指す。この尺度は、Sherer et al.(18)が作成した自己効力感尺度を、日本のコミュニティサンプ ルに適用し、性別や年齢に依存することなく、十分に使用可能で有用な尺度であることを示す ために作成されたものである。成田らは、この尺度が1因子構造を持ち、それが性や年齢によ らず安定した構造であることを示している。また、構成概念妥当性に関して、他のパーソナリ ティ尺度との相関関係から検討し、自尊心、性役割、および健康に関する主観的評価との間に 正の相関があること、抑うつ傾向との間に負の相関があることを確認している。 尺度は23項目、回答は5件法で「とてもあてはまる」(5点)から「ほとんどあてはまらない」 (1点)までとした。各項目の粗点の合計得点が高いほど、自己効力感が高いことを示す。 (™)抑うつ性尺度CES-D(19)

抑 う つ 傾 向 を 測 定 す る 尺 度 と し て 、 島 ら が 作 成 し た 抑 う つ 性 尺 度 CES-D (Center for Epidemiological Studies Depression Scale) を参考に、翻訳を多少改変して使用した。この尺度

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および正常対照者に適用し、その臨床的有用性を検討するために作成された。抑うつ気分、不 眠、食欲低下などのうつ病の主要症状が含まれた質問項目から成り立っている。調査の結果、 正常対照群においては女性より男性の方が尺度得点が高くなること、患者群のうち感情障害群 は他の群に比べ得点が高くなることが示されている。また、他の抑うつ状態の評価尺度との間 に高い相関があることから、併存的妥当性が確認されたことが示されている。 尺度は20項目、回答は4件法で「よくあてはまる」(3点)から「あてはまらない」(0点) までとした。各項目の粗点の合計得点が高いほど、抑うつ傾向が高いことを示す。 2.4.手続き 予備調査、本調査共に、近畿圏の大学に通っている学生に対して、フェイスシート、落ち込 み体験についての質問、各尺度、アンケートに対する感想の順に構成した質問紙を、大学の授 業時間を利用して配布、回収した。回答時間はおよそ15分であった。

3.結 果

3.1.落ち込み体験について 予備調査および本調査で、落ち込み体験の内容について回答のあった対象者273名(男性86 名、女性187名)について、その体験がどのような対象、あるいは環境におけるものであったか を、①家族、②友人、③教師、④クラス・学校、⑤部活、⑥恋愛・恋人、⑦その他の7種類に 分類した。その結果をTable1に示す。落ち込み体験の対象について性差を検討するため、2 (性別)×7(対象)分割でc2検定を行ったところ、有意な差が認められた(c2=27.19,df= 6,p<.01)。残差分析の結果、男性は②友人が有意に低く、③教師、⑥恋愛・恋人が共に有意に 高いことが示された。女性は②友人が有意に高く、③教師、⑥恋愛・恋人が共に有意に低いこ とが示された。このことから、落ち込み体験の対象は男性では③教師と⑥恋愛・恋人が女性よ り多くなり、④友人が少なくなることが明らかとなった。 次に、落ち込み体験の年齢について回答のあった対象者361名(男性115名、女性246名)に ついて、①12歳以前、②13∼15歳、③16∼18歳、④19歳以降の4種類に分類した。その結果を Table2に示す。落ち込み体験の年齢について性差を検討するため、2(性別)×4(年齢)分 Table1 性別ごとの落ち込み体験の対象 家族 友人 教師 クラス・学校 部活 恋人・恋愛 その他 計 男性 9 15 8 10 11 20 13 86 女性 12 66 3 35 29 17 25 187 全体 21 81 11 45 40 37 38 273

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割でc2検定を行ったところ、有意な差は認められなかった(c2=2.68,df=3,n.s.)。このことか ら、落ち込み体験の年齢と性別には、関連があるとはいえないことがわかった。 3.2.尺度の検討 落ち込み体験についての認知的評価尺度、自己効力感尺度および抑うつ性尺度のいずれかに 欠損値のあった対象者の回答を除外し、235名(男性79名、女性156名)を分析の対象とした。 (1)落ち込み体験についての認知的評価尺度の因子構造 認知的評価尺度の因子構造を確認するため、21項目について最尤法による因子分析を行った。 固有値の減衰状況および因子の解釈可能性を考慮して2因子を抽出し、プロマックス回転を行 った。その結果をTable3に示す。予備調査と同様、因子負荷量が全ての項目において.35を満 たすことが確認できた。 第1因子は、「1.今も私を困らせることである」、「7.私にとって重荷や負担になっていると 思う」などの妨害性のカテゴリーと、「9.思い出すたびに重い気分になってしまう」、「13.そ の時に受けた衝撃が今でも感じられる」などの脅威性のカテゴリーとが混在する因子となった。 これらは対象者の落ち込み体験について、現在でも自身の能力や存在を脅かし、苦痛を与えた り、行動を阻害するものとして認知する内容となっている。予備調査と同様の14項目から構成 されているため、「衝撃性」因子と命名した。 第2因子は、「8.今ならその状況を引き起こした原因を取り除いたり、変化させたりするこ とができると思う」、「15.その状況に対して、今ならどのように対処すればよいのかわかって いる」など、過去に落ち込んだ体験に対して、現在では自身に備えている能力・資源を用いて 統制することが可能であると認知する内容の7項目から構成されているため、「コントロール可 能性」と命名した。 次に、本尺度の信頼性の検討を行った。各因子についてCronbachのa係数を算出したところ、 第1因子「衝撃性」因子ではa=.94、第2因子「コントロール可能性」因子ではa=.80であっ た。このことから、両因子ともに高い信頼性が認められたと考えられる。 Table2 性別ごとの落ち込み体験の年齢 12歳以前 13∼15歳 16∼18歳 19歳以降 計 男性 32 27 40 16 115 女性 62 72 70 42 246 全体 94 99 110 58 361

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(2)特性的自己効力感尺度の因子構造 自己効力感尺度の因子構造を確認するため、23項目について最尤法による因子分析を行った。 固有値の減衰状況および因子の解釈可能性を考慮して、1因子構造が妥当であると判断した。 その結果をTable4に示す。因子負荷量が.35に満たない4項目を除外し、19項目を分析に使用 することとし、「自己効力感」因子と命名した。a係数は.86であり、高い信頼性が認められたと 考えられる。 Table3 抑うつ体験についての認知的評価尺度の因子分析結果 項 目 内 容       因子1  因子2 1.今も私を困らせることである .837 -.012 7.私にとって重荷や負担になっていると思う .831 -.073 19.その体験が障害になっていると感じる .818 -.038 9.思い出すたびに重い気分になってしまう .795 .067 10.今でも私自身や私の生活を脅かすことであると思う .793 -.104 16.今でもその体験に気をとられてしまうことがある -792 .019 3.今の私にとってもつらい、苦痛なことであると思う .772 -.029 2.その体験を思い起こすと、今でも傷つけられる感じがする .732 .019 20.今でも私を危機に陥れることであると思う .720 -.114 13.その時に受けた衝撃が今でも感じられる .645 .080 5.今思い出してもわずらわしいことであると感じる .640 .049 14.私にとって大切なものを奪われてしまったと思う .615 .195 12.私のやりたいことを妨げられると感じる .570 .020 17.また同じようなことが起こると落ち込んでしまうと思う .416 -.061 15.その状況に対して、今ならどのように対処すればよいのか .069 .794 わかっている 8.今ならその状況を引き起こした原因を取り除いたり、変化 .077 .767 させたりすることができると思う 11.その状況に対処するときに役立つもの(例えば、人間関係・ .071 .614 経済力・経験など)を持っている 4.その状況を今なら何とかできる(解消・解決・改善できる)と思う .033 .641 21.その体験で得たことを今の自分に活かすことができると思う -.012 .576 6.その問題について深刻にならないようにできると思う -.124 .417 18.現在、同じような状況に置かれても、平静な楽な気持ちを -.256 .365 すぐ取り戻すことができると思う 因子寄与 7.58 3.71

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(3)抑うつ性尺度CES-Dの因子構造 抑うつ性尺度の因子構造を確認するため、20項目について最尤法による因子分析を行った。 固有値の減衰状況および因子の解釈可能性を考慮して、1因子構造が妥当であると判断した。 その結果をTable5に示す。因子負荷量が.35に満たない4項目を除外し、16項目を分析に使用 することとし、「抑うつ」因子と命名した。a係数は.89であり、高い信頼性が認められたと考え られる。 3.3.各尺度の記述統計および性別による差の検定 各尺度の記述統計量をTable6、男女別の各尺度の中央値をTable7に示す。落ち込み体験に ついての認知的評価尺度に関して、性別によって各下位尺度の得点に差異が認められるかどう かを検討するため、それぞれにMann-WhitneyのU検定を行った。その結果、「衝撃性」因子 (U=5049,p<.05)、「コントロール可能性」因子(U=5140,p<.05)ともに有意な差が認め Table4 特性的自己効力感尺度の因子分析結果 項 目 内 容 因子2 *13.新しいことを始めようと決めても、出だしでつまづくとすぐにあきらめて .669 しまう *6.何かを終える前にあきらめてしまう .652 *5.重要な目標を決めても、めったに成功しない .633 *22.すぐにあきらめてしまう .629 3.初めはうまくいかない仕事でも、できるまでやり続ける -.592 *15.思いがけない問題が起こった時、それをうまく処理できない .552 *8.困難に出会うのを避ける .534 17.失敗すると、一生懸命やろうと思う -.496 1.自分が立てた計画は、うまくできる自信がある -.490 *4.新しい友達を作るのが苦手だ. 490 *16.難しそうなことは、新たに学ぼうとは思わない .448 *9.非常にややこしく見えることには、手を出そうとは思わない .434 21.私は自分から友達を作るのがうまい -.423 *10.友達になりたい人でも、友達になるのが大変ならばすぐに止めてしまう .414 11.面白くないことをする時でも、それが終わるまでがんばる -.408 *2.しなければならないことがあっても、なかなか取りかからない .405 *18.人の集まりの中では、うまく振る舞えない .377 14.最初は友達になる気がしない人でも、すぐにあきらめないで友達になろう -.366 とする *23.人生で起きる問題の多くは処理できるとは思えない .358 因子寄与 4.81 *は逆転項目

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Table5 抑うつ性尺度の因子分析結果 項 目 内 容 因子1 18.悲しいと感じる .760 6.憂うつだと感じる .752 7.何をするのも面倒だ .668 17.急に泣き出したくなる .663 19.皆が自分を嫌っていると感じる .636 14.一人ぼっちで寂しい .607 1.普段は何でもないことがわずらわしいと思う .604 3.家族や友人から励ましてもらっても気分が晴れない .591 15.皆がよそよそしいと思う .588 20.仕事(勉強)が手につかない .562 10.何か恐ろしい気持ちがする .543 13.普段より口数が少ない .515 5.ものごとに集中できない .489 16.毎日が楽しい -.447 9.過去のことについてくよくよ考える .395 12.生活について不満なく過ごせる -.352 因子寄与 5.44 Table6 各尺度の記述統計量 N 最小値 最大値 平均値 標準偏差 衝撃性 235 14 70 37.15 13.96 コントロール可能性 235 7 35 22.24 6.33 自己効力感 235 27 88 55.79 11.16 抑うつ 235 0 47 16.89 9.98 Table7 男女別の各尺度の中央値 性別 N 中央値 25パーセンタイル値 75パーセンタイル値 有意差 衝撃性 男性 79 34 22 46 * 女性 156 39 29 49 コントロール可能性 男性 79 24 21 27 * 女性 156 22 17 26 自己効力感 男性 79 60 52 66 ** 女性 156 53 47 62 抑うつ 男性 79 12 8 20 * 女性 156 17 10 25 * p<.05 ** p<.01

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られた。このことから、「衝撃性」因子では男性よりも女性の方が得点が高く、「コントロール 可能性」因子では女性よりも男性の方が得点が高くなることが明らかになった。 特性的自己効力感尺度について、性別によって得点に差異が認められるかどうかを検討する ため、U検定を行ったところ、有意な差が認められた(U=4626,p<.01)。このことから、 「自己効力感」因子では女性よりも男性の方が得点が高くなることが明らかとなった。 抑うつ性尺度について、性別によって得点に差異が認められるかどうかを検討するため、U 検定を行ったところ、有意な差が認められた(U=4943,p<.05)。このことから、「抑うつ」 因子では男性よりも女性の方が得点が高くなることが明らかとなった。 3.4.各尺度得点の相関 対象者全体についての各尺度間の相関をTable8に示した。「衝撃性」因子では、「コントロー ル可能性」因子および「自己効力感」因子との間に負の相関が見られ、「抑うつ」因子との間に 正の相関が見られた。「コントロール可能性」因子では、「自己効力感」因子との間に正の相関 が見られ、「抑うつ」因子との間には負の相関が見られた。「自己効力感」因子では、「抑うつ」 因子との間に負の相関が見られた。これらは先行研究の通りの結果であり、「衝撃性」因子およ び「コントロール可能性」因子の因子的妥当性が認められたと考えられる。 男性についての各尺度間の相関をTable9に、女性についての各尺度間の相関をTable10に示 した。男性では「衝撃性」因子と「抑うつ」因子との間、および「自己効力感」因子と「抑う つ」因子との間にのみ有意な相関が見られ、それ以外では有意な相関は見られなかった。女性 では「衝撃性」因子と「自己効力感」因子との間の相関が有意ではなかったが、それ以外の因 子間では有意な相関が認められた。このことから、男性は全体のデータと比べ、有意な相関が 少ないことがわかった。 Table8 各因子間の相関 1. 2. 3. 4. 1.衝撃性 1.000 2.コントロール可能性 -.339** 1.000 3.自己効力感 -.154* .260** 1.000 4.抑うつ .434** -.327** -.406** 1.000 *p<.05 **p<.01 Table9 男性の各因子間の相関 1. 2. 3. 4. 1.衝撃性 1.000 2.コントロール可能性 -.069 1.000 3.自己効力感 -.176 .149 1.000 4.抑うつ .312** -.046 -.436** 1.000 *p<.05 **p<.01

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3.5.共分散構造分析によるモデルの検討 落ち込み体験についての認知的評価が、自己効力感と抑うつ傾向に影響を及ぼしているとい う因果関係をモデル化し、その検討を共分散構造分析によって行った。各因子が影響を及ぼし ている観測変数は、それぞれの因子の負荷量の高いものから3変数ずつを抽出し、使用した。 なお、「自己効力感」因子については逆転項目ではない質問項目を分析の対象とした。使用した 項目と項目間の相関係数をTable11に示す。 本研究の仮説をモデル化したものをFig.1に示す。このモデルでは、「衝撃性」因子と「コン トロール可能性」因子との間に負の相関があること、「衝撃性」の高さが「自己効力感」の低さ、 「抑うつ」の高さに影響を与えること、「コントロール可能性」の高さが「自己効力感」の高さ、 「抑うつ」の低さに影響を与えること、「自己効力感」の高さが「抑うつ」の低さに影響を与え ることが表されている。このモデルを基に、男性、女性、全体それぞれのデータについて検討 Table10 女性の各因子間の相関 1. 2. 3. 4. 1.衝撃性 1.000 2.コントロール可能性 -.451** 1.000 3.自己効力感 -.104 .284** 1.000 4.抑うつ .472** -.428** -.367** 1.000 *p<.05 **p<.01 Table11 各因子の質問項目と相関係数 C01 C07 C19 C04 C08 C15 S01 S03 S17 D6 D7 D18 C01 今も私を困らせることである 1.000 C07 私にとって重荷や負担になって .757 1.000 いると思う C19 その体験が障害になっていると .737 .757 1.000 感じる C04 その状況を今なら何とかできる -.216- .227 -.211 1.000 (解消・解決・改善できる)と思う C08 今ならその状況を引き起こした -.184 -.242 -.189 .629 1.000 原因を取り除いたり変化させた りすることができる C15 その状況に対して、今ならどの -.201 -.269 -.220 .443 .555 1.000 ように対処すればよいのかわか っている S01 自分が立てた計画は、うまくで -.036 -.057 -.051 .222 .126 .184 1.000 きる自信がある S03 初めはうまくいかない仕事でも、-.067 -.124 -.129 .200 .150 .112 .263 1.000 できるまでやり続ける S17 失敗すると、一生懸命やろうと -.114 -.173 -.173 .219 .209 .172 .311 .502 1.000 思う D06 憂うつだと感じる .303 .306 .349 -.237 -.224 -.181 -.189 -.174 -.237 1.000 D07 何をするのも面倒だ .191 .149 .205 -.148 -.145 -.187 -.190 -.243 -.212 .581 1.000 D18 悲しいと感じる .238 .276 .252 -.139 -.052 -.132 -.172 -.050 -.102 .575 .421 1.000

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し、データとの適合が最も良いモデルへと修正していくこととした。 全体のデータにおいて最終的に支持されたモデルをFig.2に示した。Fig.1のモデルから、 「衝撃性」から「自己効力感」へのパスおよび「コントロール可能性」から「抑うつ」へのパス を、有意ではなかったため削除した。適合度はc2=54.19 (p=31.8%)、GFI=.965、AGFI=.946、 CFI=.996、RMSEA=.019であり、十分に当てはまりの良いモデルであるといえる。このモデ ルから、「衝撃性」と「コントロール可能性」との間に負の相関があること、「衝撃性」の高さ が「抑うつ」の高さに影響を及ぼすこと、「コントロール可能性」の高さが「自己効力感」の高 さに影響を及ぼすこと、「自己効力感」の高さが「抑うつ」の低さに影響を及ぼすことが示唆さ れた。 男性のデータにおいて最終的に支持されたモデルをFig.3に示した。Fig.1のモデルから、 「コントロール可能性」から「抑うつ」へのパスを、有意ではなかったため削除した。「衝撃性」 と「コントロール可能性」との相関、および「コントロール可能性」から「自己効力感」のパ スも有意ではないが、削除すると適合度が下がるため、モデルに残すこととした。適合度は c2=57.94 (p=17.9%)、GFI=.898、AGFI=.838、CFI=.976、RMSEA=.048であった。GFIおよ びAGFIはやや基準を満たしていないが、c2、CFI、RMSEAでは基準を満たしているため、モデ ルを採用するのに十分であると判断した。このモデルから、男性では「衝撃性」の高さが「抑 うつ」の高さに影響を及ぼすこと、そして「自己効力感」の低さに影響を与える傾向があるこ と、「自己効力感」の高さが「抑うつ」の低さに影響を与える傾向があることが示唆された。 衝撃性 コントロール 可能性 自己効力感 抑うつ

+

+

− − − − Fig.1 認知的評価から自己効力感と抑うつへ至るモデル Fig.2 全体のデータについてのモデル C01 C07 C19 C04 C08 C15 S01 S03 S17 D6 D7 D18 衝撃性 コントロール 可能性 自己効力感 抑うつ .37* .35* -.30* .86* .88* .86* .74* .84* .64* .43* .64* .75* .90* .65* .64* -.33* *p<.05

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女性のデータにおいて最終的に支持されたモデルをFig.4に示した。Fig.1のモデルから、 「衝撃性」から「自己効力感」へのパスを、有意ではなかったため削除した。適合度はc2= 52.61 (p=33.6%)、GFI=.948、AGFI=.918、CFI=.994、RMSEA=.022であり、十分に当ては まりの良いモデルであるといえる。このモデルから、女性では「衝撃性」と「コントロール可 能性」との間に負の相関があること、「衝撃性」の高さが「抑うつ」の高さに影響を及ぼすこと、 「コントロール可能性」の高さが「自己効力感」の高さおよび「抑うつ」の低さに影響を及ぼす こと、「自己効力感」の高さが「抑うつ」の低さに影響を及ぼすことが示唆された。

4.考 察

4.1.落ち込み体験の記述についての検討 体験の内容についてのc2検定の結果から、落ち込みの対象では性別によって差があり、教師、 恋愛・恋人では女性より男性の方が多く、友人では男性より女性の方が多いことがわかった。 教師のカテゴリーでは、厳しさに対する緊張や、自分に対する理不尽な要求に抗いたくても抗 えない、という記述が多く見られた。教師は親以外で初めて接する「権威」の対象であり、目 上からの圧力に対する認知の仕方が、男性はより重く受け止める傾向があると考えられる。 恋愛・恋人のカテゴリーでは、好きな相手に振られる、もしくは恋人と別れるという記述が C01 C07 C19 C04 C08 C15 S01 S03 S17 D6 D7 D18 衝撃性 コントロール 可能性 自己効力感 抑うつ .22 .40* -.27+ .89* .92* .88* .77* .88* .64* .41* .81* .66* .83* .66* .59* -.13 +p<.10 *p<.05 -.23+ C01 C07 C19 C04 C08 C15 S01 S03 S17 D6 D7 D18 衝撃性 コントロール 可能性 自己効力感 抑うつ .36* .24* -.21* .84* .86* .85* .70* .87* .63* .39* .58* .83* .93* .65* .64* -.39* *p<.05 -.21* Fig.3 男性のデータについてのモデル Fig.4 女性のデータについてのモデル

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多く見られた。松井ら(21)は、恋愛類型の男女差を調べ、女性の恋愛は自分の利益を中心に恋愛 関係を展開させるが、男性は相手中心に関係が形成されていくことを指摘している。このこと から、男性は恋愛の失敗体験を女性よりも重くとらえることを示していると考えられる。また、 このカテゴリーの記述の仕方は、女性ではその時の状況や発言などが詳細に記述されているも のが多いが、男性では「失恋」「フラれた」など、一言で終わっているものが多い。男性では恋 愛関係の失敗体験について、詳細に自己開示することが少ないという特徴があり、その失敗体 験について個人の中で整理し、脅威性をやわらげるということが出来にくいということに繋が るのかもしれない。 友人のカテゴリーの体験には、男性では親しい友人との仲違いという一対一の関係での記述 が多いが、女性では仲の良いグループの中での仲違い、無視、仲間外れなどの記述が多く見ら れた。水野(22)は、女性の同性同士の友人関係は、男性より凝集性の高い関係になること、そし て男性の友人関係と比べて強い情緒性を基盤とした、強い絆で構成されていることを指摘して おり、女性の同性親友は精神的支えと結びついていると述べている。これらのことから、女性 の友人関係における落ち込み体験は、男性よりも重く受け止められることになると考えられる。 4.2.各尺度についての検討 落ち込み体験の記述について性差が認められたことを受けて、各尺度についても性差を検討 した。その結果、すべての因子において性差が認められた。「衝撃性」因子、「抑うつ」因子で は男性より女性の方が得点が高くなり、「コントロール可能性」因子、「自己効力感」因子では 女性より男性の方が得点が高くなることがわかった。 以上のことから、女性は男性と比べて、衝撃性を高く、コントロール可能性を低く認知し、 そして自己効力感が低く、抑うつ傾向が強くなることがいえる。今津(23)は、思春期の女子の抑 うつ症状は男子の2倍に至ることを指摘し、青年期初期の女子の抑うつ研究の重要性を強調し ている。このことから、思春期および青年期の女性が落ち込み体験を深刻に感じる可能性が大 きいと考えられる。 4.3.各尺度間の相関および共分散構造分析によるモデルの検討 各尺度得点の相関分析、および共分散構造分析の結果から、全体としては衝撃性とコントロ ール可能性との間に負の関連があること、衝撃性の高さが抑うつの高さに影響を与えること、 コントロール可能性の高さが自己効力感の高さに影響を与えること、自己効力感の高さが抑う つの高さに影響を与えることが示唆された。以上のことから、抑うつを低減させるには衝撃性 を低くすること、そしてコントロール可能性を高めることによって自己効力感を高めることが 有効であると考えられる。衝撃性から自己効力感へのパス、およびコントロール可能性から抑 うつへのパスは有意とはならなかったが、相関分析の結果では共に負の相関が有意となってお

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り、仮説はほぼ支持されたと考えられる。 各尺度について性差が認められたことを受けて、男女別にモデルを検討することとした。男 性のデータについてのモデルでは、5%水準で有意なパスは衝撃性から抑うつのみで、衝撃性 から自己効力感、自己効力感から抑うつへのパスは10%水準で有意傾向であることが示された。 衝撃性とコントロール可能性との関連は有意とならず、この2因子は比較的独立であること、 またコントロール可能性から自己効力感へのパスも有意ではないことから、コントロール可能 性が抑うつに与える影響はあるとはいえないことが示された。しかし、衝撃性から自己効力感 への負のパスが全体のモデルに追加されていることから、男性では衝撃性を低くすることが、 抑うつを低減させるのに有効であると考えられる。 女性のデータについてのモデルでは、全体のデータについてのモデルと類似しているが、こ れに加えてコントロール可能性から抑うつへの負のパスが有意であった。コントロール可能性 が抑うつを直接低める効果を持つということは、男性や全体のデータと比べてさらにコントロ ール可能性の影響が強くなることを示している。このことから、女性では衝撃性を低めること 以上に、コントロール可能性を高めることが抑うつを低減させるのに有効に働くと考えられる。 以上のことから、過去の落ち込み体験についての認知的評価に関して、衝撃性を低く、コント ロール可能性を高く認知することが、自己効力感を高め、抑うつ傾向を低減させるのに有効で あることが示唆された。認知的評価の性差について、岡安は衝撃性(影響性・妨害性・脅威性) では女性より男性の方が得点が高くなり、コントロール可能性では性差は見られなかったとし ているが、本研究では違う結果となっている。岡安は認知的評価の前提となるストレス状況を、 架空に想定するものとして設定しており、実際の体験についての認知的評価はそれとは別のも のとして表れてくるものと考えられる。また、男性のモデルに関してはコントロール可能性の 影響がほとんど見られなかったが、友野らは認知的評価と対処行動(コーピング)の関係を調 べる中で、衝撃性とコントロール可能性の関連は、女性では有意であるが男性では有意ではな いという本研究と類似する結果が出たこと、そして男性ではコントロール可能性がコーピング に有意に影響を与えていることを示している。本研究においても、認知面だけではなく行動面 での変数をモデルに導入することで、さらに認知的評価が抑うつに影響する際の媒介因子を発 見できる可能性がある。この先、発展的に研究を進める必要があると考えられる。 4.4.まとめと今後の課題 本研究の目的は、落ち込み体験についての認知的評価が、自己効力感と抑うつ傾向に与える 影響を検討することであった。分析の結果、衝撃性を低め、コントロール可能性を高めること が、自己効力感を高め、抑うつ傾向を低めることが示唆された。また、各尺度得点および各因 子間の関連には性差があることが確認された。 本研究の問題点として、落ち込み体験について対象のみ、性差のみに限定して検討を行った

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点があげられる。体験の対象は同じカテゴリーであっても、内容では相違のある記述も多く、 それぞれの内容を詳細に分析し、性差のみではなく自己効力感、抑うつ傾向にどのように関連 しているかを検討する必要があると考えられる。また、質問紙の構成上、まず落ち込み体験を 記述してもらい、それから質問項目に移るという手続きであったため、落ち込み体験を想起す ることで気分がネガティブになり、それが回答に影響した可能性がある。杉山(24)は気分一致効 果によって、コントロール可能性が抑うつに与える影響が変化することを示しており、質問紙 の構成についてカウンターバランスするなど、回答の信頼性を高める工夫をする必要があると 考えられる。 今後の課題として、抑うつに関連する変数としてコーピングを加え、認知と行動の両面から 検討することがあげられる。また、落ち込み体験の一つ一つについて検討できるようなスタイ ルによる研究を行うことも必要である。そして、具体的にどのように衝撃性を低め、コントロ ール可能性を高くするか、またそのことで自己効力感が高まり、抑うつ傾向が低減されるかど うかを検討することが必要であろう。 〔注〕 (1) 北村俊則編(2006).抑うつの現代的諸相―心理的・社会的側面から科学する―.ゆまに書房.

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