• 検索結果がありません。

日本スポーツマネジメント学会発足記念セミナー講演録:スポーツビジネスを科学する

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "日本スポーツマネジメント学会発足記念セミナー講演録:スポーツビジネスを科学する"

Copied!
25
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1.日 時: 2007 年 12 月 1 日(土)13:00 ∼ 17:00 2.会 場: サピアタワー 9 階(関西大学東京センター)東京都千代田区丸の内 1 − 7 − 12 3.セミナープログラム 13:00 ∼ 13:10 【開会の挨拶】  原田宗彦氏(JASM 発起人・早稲田大学教授) 13:20 ∼ 14:10 【特別講演①】 「プロスポーツにおける集客ビジネス」  藤井純一氏(株式会社北海道日本ハムファイターズ代表取締役社長)  モデレーター:藤本淳也氏(大阪体育大学准教授) 14:10 ∼ 15:00 【特別講演②】 「J リーグのファイナンス・マネジメント」    武藤泰明氏(早稲田大学教授、J リーグ経営諮問委員長)    モデレーター:久保田剛氏(株式会社エヌ・ティ・ティ・アド) 15:20 ∼ 16:00 【実践報告①】 「アスリートマネジメント・ビジネス」  山本雅一氏(株式会社スポーツビズ代表取締役)  モデレーター:澤井和彦氏(江戸川大学准教授) 16:00 ∼ 16:40 【実践報告②】 「スポーツにおける権利ビジネス」  濱口博行氏(株式会社電通サッカー事業局長)  モデレーター:松岡宏高氏(びわこ成蹊スポーツ大学准教授) 16:40 ∼ 16:50 【セミナー総括】  小笠原悦子氏(びわこ成蹊スポーツ大学准教授) 16:50 ∼ 17:00 【学会のこれからについて】  原田宗彦氏(JASM 発起人・早稲田大学教授)

講 演 録

日本スポーツマネジメント学会 

発足記念セミナー

スポーツビジネスを科学する

(2)

いまなぜ日本スポーツマネジメント学会が必要とされるのか。理由は、「スポーツマネジメント の国際化」と「スポーツの事業化・産業化による解決すべき課題の多様化」の 2 点にある。 1990 年代を順調に成長した欧米では、今やプロスポーツ産業は有数の産業に育っているが、日 本では「失われた 10 年間」に、他のすべての産業と同様にスポーツ産業も停滞した。そして現在、 他の産業は徐々に世界に追い付いてきているが、スポーツ産業だけが後塵を拝しており、スポーツ ビジネスだけではそれ程大きな市場に育っていない。その背景にはスポーツマネジメントのアカデ ミックな知識の蓄積がなかったと非常に反省するところである。

たとえば、北米には North American Society for Sport Management(NASSM)があり、会員は 700 名を越える非常に大きな学会に育っている。あるいは、ヨーロッパには European Association for Sport Management(EASM)があり、こちらも NASSM と同様の規模で全ヨーロッパを網羅する学 会に育っている。オーストラリアとニュージーランドにも Sport Management Association of Australia and New Zealand(SMAANZ)という組織があり、この 3 つがアングロサクソン系の学会として 世界を網羅している。では、アジアはどうなっているのか。2002 年に Asian Association for Sport Management(AASM)が誕生したが、まだ非常に若い学会である。国別でみると、台湾(TASSM)、 中国、そして韓国にもスポーツマネジメントの学会(KSSM)が存在し、特に韓国では、スポーツ 産業が国家認定資格になってスポーツ産業従事者の資格試験まで行い、学会が中心となって資格 の整備に取り掛かった。この 3 つの主要な国でアジアのスポーツマネジメントは発展しているが、 日本には受け皿学会がなかった。そのため、このたび日本スポーツマネジメント学会を立ち上げる こととなった。アジアのスポーツマネジメントは、北京オリンピックを控え大きな盛り上がりを見 せており、特に中国では、全中国に広がる体育館をマネジメントするために、40 万人のスポーツ マネージャーを育てなければいけないというベンチマークが設定されている。 歴史を振り返ると、戦後すぐの日本は、社会体育の時代が長く続き、行政が施設を作り、指導者 を育成し、企業がトップアスリートを育てた。つまり、行政・企業がスポーツの主要な担い手であ った。その後、高度経済成長時には、住民不在のエコノミックアニマル的な社会を改善するために コミュニティを重視しようと、それまでの行政・企業に加えて住民がスポーツの担い手となって参 画した。そして現在は生涯スポーツの時代であり、老若男女、ハンディキャップスポーツまですべ てを含み、スポーツをする権利というのが主張され始めた。行政・企業はもちろん、住民は住民単 位ではなく個人としての意思決定で、フィットネスクラブに入り、あるいはスポーツを観戦してい る。そして、この次の時代は何か。おそらく「スポーツをマネジメントする時代」ではないだろう か。行政・企業、そしてスポーツ消費者としての住民である。これは、スポーツするには様々な費 用が発生し、受益者負担の原則が定着している。その費用とスポーツ側が提供するものがバランス シートの中でうまく機能していないという時代である。このようなスポーツ消費者という概念を使 うことで、様々な学問的アプローチが可能になってくる。 研究パラダイムの変化では、例えば施設というのは管理するだけで、公共体育施設も、できれば 使って欲しくない、汚して欲しくないといった時代が長く続いた。そこにマネジメントの思想が入 り、イギリスの強制競争入札制度(CCT: Compulsory Competitive Tender)や、指定管理者制度、PFI

原田宗彦氏

(JASM 発起人・早稲田大学)

(3)

(Private Finance Initiative)、命名権が導入され、施設経営においても施設マネジメントから街づく りへ、地域産業論や地域経営論に移行している。そして、その先にはソーシャルキャピタルやコミ ュニティ・ビジネス、パブリックマネジメントといった地域イノベーションのパラダイムに移行す ると考えられる。スポーツが軸足をスポーツに置きながら、様々な領域と連携していく可能性があ る。あるいは、スポーツ参加、フィットネス参加研究は昔から行なわれていたが、そこに新しい概 念としてのスポーツ消費者が入ってくると、「する」「みる」「支える」といった多様なスポーツと 個人の関わり、あるいは精神的活動に研究分野が広がる。となると、認知的課題から感情的課題、 サービスマーケティングから経験価値マーケティングという大きな動きの中にも、スポーツマネジ メントは関与してくる。特に経験価値という視点から見ると、スポーツは遊びが中心となっており、 そこにどういった価値を付着させていくのか、ということが大きな課題である。 本日のセミナーは、4 名の講師の講演からスポーツビジネスの実際を知ること、そして、各講演 においてモデレーターが学会が取り組むべき課題の抽出を行なうことを目的として講演を進めてい く。

1.はじめに

日本におけるスポーツビジネスとはどのようなものか。私たちは、スポーツをビジネスとして捉 えようとしている。現実にはまだビジネスになっていないが、いかにビジネス化するか、地域との 関係をどのように作っていくか、が課題であると考えている。

2.北海道日本ハムファイターズについて

東京に本拠地を置いていた時代の日本ハムファイターズ(以下「ファイターズ」)は、親会社で ある株式会社日本ハム(以下「日本ハム」)の首都圏におけるシェアアップ、知名度アップ、会社 のロイヤリティアップのためのものであった。要するに日本ハムの広告塔であればよかった。親会 社がタニマチであり、日本ハムファイターズには予算もなく数字もないに等しく、運営した赤字分 は広告宣伝費で補てんすればよいとの考え方であった。当時、日本ハムは合併会社であり首都圏で は名前が浸透していなかったが、ファイターズを持つことによって知名度を上げ、現在ではハム会 社の中で 1 番の地位を築いている。チームは、勝負が大切で選手は特別な存在、選手も「自分は 野球選手。選ばれた特別な存在」という意識が強かったのではないか。ファイターズを所有するこ との当初の目的は達成され、日本ハムにとってはファイターズを今後どう活かしていくのかが重要 な課題である。 チームを持つ意義について、パ・リーグでは、近畿日本鉄道株式会社の撤退、オリックスの合併、 東北楽天ゴールデンイーグルスの新規参入など激動の時代を過ごしたが、ファイターズは北海道に

プロスポーツにおける集客ビジネス

―ファイターズの集客ビジネス―

特別講演①

藤井純一氏

(株式会社北海道日本ハムファイターズ代表取締役社長)

(4)

本拠地を移していたために残ることができたのだと思っている。そうでなければ、他の球団に吸収 されていた可能性も大いにあった。東京時代は親会社の広告塔であり、スタジアムは空席だらけ、 放映権も期待できなかった。広告収入もスタジアムに入れる必要があり、マーチャンダイズ収入も 応援グッズのみをとりあえず作成という状態だった。地域密着に関しても、首都圏における地域は どこか定義することができなかった。 このような状況の中で、札幌ドームという素晴らしい施設があった北海道に移転することになっ た。そして移転と同時に、親会社からの自立、地域のお客様にどれだけ来てもらうかという集客を 考えた。観客動員が増えるとチーム・ロイヤルティが上昇し、その他の収入が増加する。加えて非 常にわかりやすい地域密着活動を行うことにより、道民球団になりやすいという環境になってきて いる。東京時代には日本ハムが 100% 出資していたが、現在では北海道の企業に株を所有しても らっている。球団の赤字に関しては日本ハムが責任を持つことになっているので、他の出資会社に は地域との関係について支援をしてもらっている。

3.ファイターズのビジネスモデル

株式会社北海道日本ハムファイターズの企業理念は「Sports Community」であり、「スポーツと 生活が近くにある、心と身体の健康をはぐくむコミュニティを実現するために、地域社会の一員と して地域社会との共生をはかる」ことを企業理念として掲げている。経営理念は「Challenge with Dream」とし、「既成概念に縛られない、夢を持った挑戦を実践する」ことである。そして、活動 指針を「Fan Service 1st」とし、「すべての活動にファンサービスを優先する」ことを、選手を含め 徹底している。ファイターズに係わる人は、まず自分がファイターズのファンになろうというのが 基本的な考え方である。チームは「勝利を目指し全力でプレーする」「地域社会の皆様に夢や感動 を与えるプレーを提供する」「積極的にファンの皆様とかかわりを持ち地域社会の一員としての自 覚ある行動をする」ことを、フロントは「ファンの皆様や地域社会の皆様に夢や感動を与えるチー ム作りを実現する」「スポーツエンターテイメントを提供するための積極的行動を実践する」「試合 に留まらず、スポーツコミュニティ実現のため地域社会との接点を積極的に創造する」ことを、活 動方針を実現するために行っている。 ファイターズの基本ビジネスモデルは、まず「社会に根を張った 育成型 チーム」である。こ れは、ファイターズのスタイルに合った選手を発掘し育てること、野球振興を図ること、選手のセ カンドキャリアをサポートすることである。ファイターズスタイルとは、FA(フリーエージェン ト)ではなくスカウトした若い選手を育てるということである。2 番目は「長期継続的に安定した 経営ができる自立した企業」となるため、スタジアム集客を最大限の企業基盤とした経営を行なう。 集客上の企業ロイヤルティのアップをはかることでスポンサー・放映権・マーチャンダイズ収入等 が連動するため、集客をメインと考えている。3 番目は「ファンサービス・ファーストの更なる努 力」であり、観客に満足から感動を提供できるスポーツエンターテイメントの提供、つまり、満足 だけでなく、いかに感動してもらえる空間をつくるかを考えている。また、地域社会から支持を得 る道民の公共財となるよう考えている。北海道に移転させてもらったのに経営がうまくいかないか らといって撤退することがあってはならず、いかに地域の皆様と発展していくかを考えなければな らない。最後に「北海道を全国に発信する企業になる」ために、ファイターズブランドを地域の誇 りとしてのブランドに、また北海道のトップブランドとなるよう努力している。 事業の方向性は、会社・チームの価値を高めるために、集客を第一の基本として取り組んでいる。 安定的な集客システムを確立し、チームの成績やスター選手に頼らない集客を目指している。北海

(5)

道移転当初は、新庄や小笠原、監督のヒルマンのおかげで地域との関係がうまくいった。2007 年 シーズン、新庄と小笠原がいなくなって集客面にどのような影響が出るか危惧していたが、既にお 客様が他の選手のファンになっており、影響は少なかった。 集客は他のすべての収入にリンクしており、集客増により、スポンサー収入、グッズなどマーチ ャンダイジング収入、放映権収入、ファンクラブ会員の増加が見込める。放映権も、テレビ放送に ついては、東京では全国放送となってしまうため難しいが、現在では全試合とはいかないものの北 海道のいずれかの放送局に中継してもらうことができ、昔に比べると数は非常に多くなっている。 北海道には AM ラジオの放送局が 3 局しかないが、クライマックスシリーズではその 3 局ともラ ジオ中継を行なった。また、集客は地域社会から支持を得ているか、というバロメーターでもある。 北海道全体の人口は約 540 万人、札幌だけで約 188 万人である。強い弱いではなく、どれぐらい の人が観戦に来てくれるかによって地域に根差しているかどうかを感じることができるため、集客 に重点を置いている。その集客に向けたファンサービスの実施には、例えばファイターズの試合 に来るお客様のうち約 55%が女性であり、さらに女性の中でも 30 代、40 代、50 代の方が多い、 といった来場ファンのお客様層に合ったファンサービスの細分化を行わなければならない。 さらに、社員のスキルアップも非常に重要である。待遇の改善、能力に見合った給与の支給、教 育の実施を今後行っていくつもりである。既に行った施策としては、チーム強化部と事業部は相容 れないといったセクト主義を取り除くため、部を廃止して組織をフラットにするため 23 のグルー プに分けた。机も特定の場所に座るのではなく好きな場所に座れるフリーアドレスにし、意思疎通 の円滑化を図り、社員が自分たちで考え行動できるようにしている。また、つい選手寄りになって しまうチーム強化部にもお客様の方に目を向けてもらうため、一緒になって考えてもらっている。 今後取り組みが必要な課題について、まずは「ファンに支持されるチームカラー・スタイルの確 立」である。道民が求めるチームカラー、スタイルを確立することが重要である。2 つ目は「新規 ファンの積極開拓とファンの組織化」である。ファンの母数、まずはファンクラブの会員数を多く したい。ヨーロッパのサッカークラブでもそうだが、地域の人に応援してもらう、支持してもらう、 後援してもらうという意味でファンクラブの組織化には非常に力を入れている。3 番目は、やはり ビジネスゆえに「事業ごとに原価、経費を削減し利益率を向上し、あわせて収益多様化に着手」と いうことが課題になってくる。4 番目には「地域社会との連携を進め、コミュニティ内でのポジシ ョンを確立する」という課題である。経営の自立のためにも北海道民の中にしっかり根を張ること が絶対条件である。請われて北海道に移転したわけではないので、道民にファイターズファンにな ってもらう策を考えること、根の張ったファンの皆様から支持されるチームになるために何を行な っていくかが重要である。

4.集客への取り組み

北海道移転後は、様々な事業に取り組んできた。 まずはチケットについて、平日のナイター対策として「730 チケット」と題し、午後7時半以降、 だいたい4回表くらいからは各席が半額で入場できるというチケットを導入した。これは非常に人 気があり、多い時には 1,500 人から 2,000 人近いお客様が列に並ぶこともある。さらに、女性の お客様の来場促進のための「レディースデイ」や 65 歳以上のお客様の来場促進として「シルバー デイ」、また、まだ雪の残った 4、5 月の集客アップ促進を目的として、各区と連動して「区民デー」 と題し、1 試合につき 2,000 名の招待をしている。これはアルビレックス新潟の成功事例をもとに 行っている企画である。他にも、ビジター側つまり1塁側チケット対策として昨年は「なまらチケ

(6)

ット」(※なまらとは北海道の方言ですごいという意)を設け、全席 4,500 円のチケットを 2,000 円で販売した。また、昨年の企画ではあるが、今まで一度もなかった満員の札幌ドームを年間3試 合だけでも作ろうという意図で「43,000 人プロジェクト」を立ち上げた。このプロジェクトには、 道民は前売り券を買う習慣がないという事の解消と、満員にすることでファンの皆様に「チケット が無いかもしれない」という危機感と、「ファイターズは人気がある」という認識をもってもらい チケットを前売りで購入してもらおうという意図も含まれていた。その結果、最終的には 12 試合 で満員にすることができた。 次に札幌市とのタイアップとして、札幌市の中心街にファイターズの旗などが全くないという点 を解消するため、ファイターズの球団ロゴなどの使用によるロイヤリティ料を商店街や市役所には 多少開放し、商店街や道路に旗を掲出してプロモーションを行なっている。 その他、球場でハーレーに乗っての登場やゴンドラから降りてくるといった、新庄をはじめとす る各選手によるサプライズプロモーションを行い、球場を満員にすることができた。 それ以外にも地域との関係を密接にするために、選手は 2 ∼ 3 人 1 組で約 10 校ずつシーズン 中に札幌市内の小学校を訪問している。他にも、少年野球ジュニア王座決定戦やファイターズ OB が指導者として教えるベースボールアカデミー、少年野球教室といった活動を行っている。少年野 球教室については、北海道の北から南まで休みなしに 2 チームが動いており、プロ選手がレギュ ラーシーズン中では不可能な地域との関係を作ってくれている。さらに、夏には 2 泊 3 日でキッ ズサマーキャンプも行っている。 他の活動として、北海道では選手よりも有名とも言われるマスコットの B・B が幼稚園訪問を行 ったり、市町村を訪問した様子を札幌ドームのビジョンで放映したり、スタジアムの中で子どもた ちが「僕たちのボールパーク」と題し、カメラマンやアナウンサーになるスタジアムスタッフ体験 活動を実施したり、そして、「北海道デー」と題し特別なユニフォームを作って実施した。「北海道 デー」に関しては、最初はどうなるか分からなかったが、企画した3試合ともおかげさまで満員と なった。やるからには徹底してやると、室蘭の焼き鳥、帯広の豚丼といった名産の販売や、ばんえ い競馬の馬まで連れてきて、これらは子どもたちに大いに好評であった。 その他にも、大阪の球団であるオリックスバファローズが対戦相手の時には「なにわうまいもん 大会」を開催した。これは我々スタッフが運営し、役員や部署関係無く全員で行った。これを運営 した理由は、新庄という個性あるスター選手がいない今シーズン、サプライズ企画ができなかった。 だから、やれることは全員でなんでもやろうという意識を持ち実施した。 地方試合の開催も行なった。北海道は大変広く、札幌から釧路まで電車で 5 時間、旭川でも 2 時間かかる。せっかく「北海道」という冠をつけさせてもらっているので、地域の皆様に理解して もらおうと、帯広、釧路、旭川、函館の 4 会場で試合を行い、結果として地域のお客様が増えて きたと実感している。2 軍は 1 軍が行けない地域で試合を行い、北海道の様々な場所の中でファイ ターズを見て愛してもらおうとしている。 大がかりな企画だけではなく、地道な集客活動として、「森本デー」でのチケット代わりとなる グリーンの T シャツや、開幕戦でのマウンドの砂入りチケット、田中幸雄の 2,000 本安打記念チ ケットや応援ボードなど、ファンの方にファイターズの物を持って帰ってもらおうという企画を行 っている。 ファンクラブに関する取り組みについて、2005 年の会員は 38,000 人で、その有効期限は1年 間であった。つまり、年をまたぐと会員数が一度ゼロになる、という状況を解消するため、銀行口 座の自動引き落としによる会費徴収制を採用、継続会員には入会年数によるカードのデザインや継

(7)

続年数の入ったピンバッジをプレゼントし、ファンクラブのロイヤリティを上げるシステムを作っ た。ちなみに今年のファンクラブ会員は 60,000 人であった。来年の目標は 100,000 人に設定し ているが、これは目標を高く掲げることによってあらゆる方法を駆使して達成できるようにという 意図がある。 マーチャンダイジング事業については見直しを行ない、代理店への一括委託をやめ、2007 年か ら球団事業として直営化した。在庫管理から通販の発送、ファンクラブ関係の発送など、一括で物 流センターを活用している。また、お客様サービス向上の一環としてお問い合わせ窓口の充実をは かり、コールセンターを独自に設置して、今まで社員がバラバラにとっていたクレームのなどの電 話を一つにまとめ、集約できるようにした。 さらに「心ふれあうスタジアム」として、コンサドーレ札幌を見習いボランティアスタッフを導 入した。現在 250 人程度登録しており、1試合につき 60 ∼ 70 人が配布物の配布・体の不自由な 方のお手伝い・ごみの分別などの活動をしている。 また、洞爺湖サミットに対する意識も含め、「地球にやさしく レジ袋削減キャンペーン」を行い、 「地球にやさしいアースデイ」を設定し、地域に影響を与えられるものをプレゼントしようという 意識からマイお買い物バッグを配布した。さらには配送用トラックに日本ハム惣菜の北海道工場の 使用済み植物油を再利用し、バイオディーゼル車の導入も行っている。 このような企画により札幌ドームを満員にすることができ、2 年連続パ・リーグ優勝に導くこと ができた。2007 年のレギュラーシーズンには 183 万人のお客様に来場いただいた。これにクラ イマックスシリーズ、日本シリーズを入れるとプラス 30 万人の 213 万人の来場である。しかし、 これだけのお客様に来ていただいても入場料収入だけでは運営は成り立たず、まだまだ厳しい状況 が続いている。支出については、昨年より選手経費を削減することにより支出を減らすことができ た。来年以降も引き続き頑張っていきたいと思う。

■モデレーターとのディスカッション

モデレーター:

藤本淳也

氏(大阪体育大学) 藤本:「地域密着」という言葉がたくさん出てきたが、地域密着がどの程度進んでいると思われて いるのか? また、今後、その進むべき道はどのようにお考えか? 藤井:今シーズン開始前、地域に支持されつつあるというがそれは本当か、と社内で議論した。結 果、原点に戻って社員がもう一度汗をかくことを再確認し、選手会の協力も仰ぎながら、稚内な ど今まで行ったことのない場所も含め道内全てを巻き込んだ活動を行っている。選手達は、今ま でたくさんのお客さんが入っている所で試合をしたことがなかった者も多いので、本当に幸せだ と言って協力してくれる。今後進むべき道にどう答えを出していくかは大きな課題であるが、引 き続き、地方試合の開催や、B ・ B(マスコット)や社員が出て行くことで地域との関係を創っ ていこうと考えている。 藤本:プロスポーツビジネスの面白さ、特徴、難しさとは? 藤井:一番難しいのは目に見えないものを売るということである。今後は感動とか試合とか、そう いうところが一番苦労すると思う。しかし、それを乗り越えるためには何でもやるというのが一 番の考え方である。個人的には、プロスポーツは今後非常に厳しくなるのではないかという印象 を持っている。

(8)

藤本:会社として活き活きとしていると感じたのだが、藤井社長の仕事の流儀とは? 藤井:基本的には、名前は社長だが小間使いである。何でもやるし、どこでも顔を出す。本当の会 社としては良くないと思うが、マネジメントのできる人材がなかなか出てこない。今は過渡期な ので、一緒に動かないとできない。ファイターズは事業本部長を置いていないので、私が社長兼 事業本部長ということでやっている。

モデレーターのまとめ

スポーツマネジメントに関して網羅的にご講演いただいた中から、今後のスポーツマネジメント 研究におけて課題となるキーワードを挙げると、「観戦者、チーム・ファン」「地域・コミュニティ」 「ファンサービス、サービスクオリティ」「経験価値マネジメント」「チーム・ブランディング」「メ ディアリレーション」「ファイナンス」「スポンサーシップ(スポンサー、親会社)」「人材マネジメ ント(選手、スタッフ、ボランティア)」「組織マネジメント(組織構造、ファンクラブ)」「権利マ ネジメント」「ビジネスモデル(企業・経営理念、指針)」と考えられる。 集客ビジネスという観点からみると、特にスポーツ観戦者やファンに関する研究は、スポーツマ ネジメント研究の非常に大きな割合を占めている。観戦者やファンなど、ターゲットマーケットの 特性の分析視点をはっきりすると、その分析結果からそのマーケットへのアプローチ方法が見えて くる。スタジアムにはファンである子どもを連れてきた親・親が連れてきた子どもなど、いわゆる 一般観戦者というカテゴリーにいる人も存在しており、多様化している動機を解明することも求め られている。 次に、「スタジアムに行く・行かない」といった実際の行動や「行きたいと思う・思わない」と いう意図・欲求について考えると、これらに何が影響を及ぼしているのかを明らかにする必要があ る。また、どんな人がユニフォームを買うのか、応援グッズを買うのか、ユニフォームを着て縦乗 りで応援するのか?といった視点も大切である。これらに影響を及ぼしている重要な要因として近 年研究が進んでいるのが、チームに対するロイヤルティや愛着心などの「態度」である。愛着心や ロイヤルティが高い人ほどスタジアムに観戦に行くという研究成果は多く報告されているが、これ らの態度をどうやって高めてコントロールしていくのか、態度を行動に導くきっかけ(要因)は何 か?これらの基礎的な研究が進むと、集客のためのプロモーション戦略等に活かすことができる。 地域密着を目指した活動の効果測定も重要な視点である。プロチームが地域で活発に活動するこ とがチームへのロイヤルティや愛着心にどのように結び付くのか、それらの態度と地域への愛着と の関係も解明が求められる。また、ROI の視点から、プロチームが多額の資金を使って地域で活動 を展開する効果があるのか、などの経済学的アプローチも重要といえよう。 そのほかにも、この分野のスポーツマネジメント研究のキーワードとして「経験価値」 「チーム ブランド」「サービスクオリティ」「組織論」などがあげられる。藤井氏の講演の中で、本学会が取 り組んでいかなければならない課題が多く指摘されたと考える。

(9)

1.組織の外形

J リーグは社団法人であり、社団としての社員 ( 会員 ) はチェアマンを別にすると、J1 が 18 クラブ、 J2 が 13 クラブ、合わせて 31 クラブである。31 クラブの内、モンテディオ山形だけが社団法人 であり、それ以外は全て株式会社の形態を取っている。法人が会員になっているということが一つ の特徴である。 一番大きな事業は、言うまでも無くサッカーの興行である。事業規模については、J リーグと 各クラブとの間に内部取引があるため、それを消去して企業の連結と同じように考えると、まだ 1,000 億円未満、おそらく 600 億円から 800 億円の間くらいではないかと思っている。その規模 の事業を 31 のクラブと J リーグ、合計して 32 の主体で実施しているということである。

2.J リーグと J クラブの資金面の関係

リーグとクラブの間には、資金の受け払い(やりとり)がある。スポンサーについては、チーム のスポンサーとリーグのスポンサーがあり、J リーグというブランドに対してスポンサードしてい る企業はオフィシャル・スポンサーが 6、7 社程度、加えて百年構想パートナー、ネットワークパ ートナー、オフィシャルサプライヤーがある。放送権については、現在スカイパーフェク TV がメ イン(この他 NHK、TBS とも J リーグは契約している)である。他に商品化権料などがある。そ れらの資金がJリーグに入るが、各クラブにはこれが全額配分されるのではなく、リーグの経費を 除いた分が配分される。Jクラブ側は社団法人の会員として、Jリーグに対して年会費を支払う。 配分金と年会費を相殺すればよいと思うかもしれないが、社団法人であるため、会費を集めて、集 めた会費を公益的な事業に供するという本来的な事業課題があるので、手続きとしてこのような形 態をとっている。 リーグの構造をみると、J リーグは中央集権方式、セントラルコントロールの色彩がかなり強い。 ヨーロッパのサッカーリーグやアメリカの 4 大プロスポーツのリーグについてご存知の方も多い と思うが、このセントラルコントロール方式が今のところ一般的である。例えば、NFL がそうで あり、極めてリーグ機構の権限が強い。 放送権について、ヨーロッパのサッカーでは、スペインとイタリアは各チームが放送権料収入を 直接得るが、ブンデスリーガの場合は一度ブンデスリーガに入った後、配分する。イングランド・ プレミアリーグも同様で、チームによってどういった傾斜配分をするのかといった細かいルールが ブンデスリーガと違うが、プロスポーツではこのセントラルコントロール方式が一般的になってい る。 Jクラブが直接得る収入の中では、スポンサー料と入場料収入が大きい。アマチュアでは入場料 収入がすべてリーグに入るところも多いと思うが、Jリーグはホームタウン制度を採用し、ホーム &アウェーでリーグ戦を行い、ホームチームが入場料収入を得る。そうでなければ、クラブは入場 者増加のための努力、マーケティングをおこなわないだろう。

Jリーグのファイナンス・マネジメント

特別講演②

武藤泰明氏

(早稲田大学・Jリーグ経営諮問委員長)

(10)

セントラル・コントロール方式にしていることの意味は何か。重要な点は 2 つある。1 点目は、 リーグが各Jクラブに対してサービスをすることである。サービスの具体的な中身は、スポーツビ シネスに関するナレッジを提供するということである。企業スポーツの時代にはオーナー会社があ り、ほとんどのオーナー会社はマネジメントスキルやマンパワーをチームに提供できた。JSL 時代 がそうであるが、企業スポーツを持っていたのはほとんどが大企業であり、その社員には経営管理 ができる人材が多かった。あるいは、現在は独立した株式会社になっていても、元の母体企業の人 間がマネジメントに携わっている、いわゆるオーナーシップを持っていれば、人も出して経営の知 識も提供することができる。しかし、どこかの地域で地元にJリーグのクラブを作りたいという場 合、問題が生じる。チームを持ったことがない企業、母体企業の経験がない企業や人がチームを作 って、それで運営できるのかどうかということである。行政能力は高いが、あるいは製造業におい て高い経営管理能力を持っているが、スポーツの知識を持っていないということも多い。リーグ機 構はその部分を補填あるいは支援する役割を持っている。 これは先進国では日本固有の問題であるかもしれない。スポーツマネジメントについての能力と 経験のある人材は、企業スポーツの母体企業には居る。しかし、このような企業以外の場所では育 成・供給されてこなかった。供給がないので労働市場からスポーツマネジメントに詳しい人材を調 達することができない。 一方、現在サッカーの S 級のコーチライセンスを持っている人、換言すれば J リーグでトップチ ームの監督になれる資格のある人が 300 人程度いる。これに対して J リーグのチームは 31、JFL を入れても合計 49 チームしかない。これに対して有資格者は 300 人なので供給過剰である。供 給過剰であればチームは人材を選ぶことが可能である。スポーツマネジメントについても、経験の ある人材を供給過剰状態にすることができれば市場原理が成立していくだろう。この学会を始める 意義の一つがここにある。 J リーグの話に戻ると、そういう能力や知識がクラブに必要だが、とくに新しいクラブにはこれ が不足している。この問題を解決するための手段として、経営論的に言えば、J クラブはノンフル セットで良い。つまり、事業遂行に際して、必要な知識や機能のすべてを持たなくても良い状態を 作っている。たとえば、J クラブが放送権料の契約交渉や肖像権の管理といったマネジメントを自 分たちだけで行わなければならないとすると、難易度が高く、新しいクラブの参入障壁になってし まう。これを回避するために、リーグに機能やビジネスを集約している。これは、コンビニや外食 チェーンのようなフランチャイズモデルと類似の形態である。 2 点目に、資金面に関して、セントラルコントロール方式の大きな利点は、一言で言えば「イニ シャルコストの負担力の提供」ということになるだろう。スポーツの興行の本質的な源泉であるプ ロダクトは①戦力。つまり能力、魅力のある選手がいる。そして勝てること②チームの魅力③競技 場を含めた興行全体の品質・魅力が主なものである。よいプロダクトができれば、チケットが売れ て観客が増え、サポーターやファンが拡大する。そして競技成績もよければ入場者数はさらに増え、 メディアに露出され、それを見てスポンサーが付く。その結果として、放送権料収入、スポンサー 収入を得る。それで次のシーズンのための投資が出来るようになり、好循環となっていく。好循環 の出発点はプロダクトであり、これはJリーグであれ企業であれ、基本的に変わるところはないと 考える。重要なのは、よいプロダクトを生み出すための投資である。 しかし、新しくリーグに入会する会社で、初期投資にお金をかけられる所は少ない。入会したば かりでチームの知名度も無ければ、よほど強力な母体企業が控えていない限り、初期投資の資金が ない。リーグから配分金は、このような初期投資の資金として有効なものになる。現在、J クラブ

(11)

間の売上の規模の格差はかなり広がっているが、J リーグから各チームに対して配分されている額 の格差は比較的小さい。つまり、新規参入するクラブは初期投資の原資をリーグから受け取るとい う仕組みがあることによって、「好循環」に、より早く到達することができる。これがセントラル コントロール方式の2点目の役割であると私は考えている。

3.J クラブの財務特性

Jクラブをファイナンシャルマネジメントの観点から捉えると、どのような存在であるといえる のだろう。 第1に、事業特性が財務特性を規定している。J クラブは一般の事業会社に比べて収入科目が多 いということが特徴である。スポンサー、入場料、ファンクラブ会費、地方メディアの放送権料な どである。一般的には、スポーツはモノカルチャーで事業も単純だという直感的な認識があるだろ うが、実態はむしろその逆で、収入の多様性が高く、カスタマーの類型も多く、それぞれマーケテ ィングの仕方が異なる。その観点からすると、ファイナンシャルマネジメントは難しい。また、実 質的な固定比率が極めて高いことも特徴として挙げられる。スポンサー料や選手年俸といった収入 や支出の大部分がシーズン開始以前に決まるので、販売不振になった場合に対策が打ちにくい。な ぜなら競技会の回数が決まっているため、たとえば 1 試合当たりの売上が少ないから試合を増や そうといったことができないのである。損益分岐点も高く、一回失敗した場合の回収が難しいので、 総じて言えば財務管理の難易度、ビジネスの難易度が高くなる。 第 2 に、百年構想が J クラブ全体としての特性を規定している。すべての都道府県に少なくと も1つは J クラブをつくることが目的の一つであるが、これがもたらす結果は、ニューカマーが必 ず小さいということである。10 チームでリーグが発足して以降、チーム数は増えていったが、突 然大きいものが来るという経験がまず無い。新しく入ってくるチームはそれまで存在しているクラ ブの平均に比べると小さく、経営の安定度が低い場合が多い。 第 3 に、JリーグからJクラブに対する制約がある。たとえば、J リーグは地域振興を目的とし ているので、主たる株主は日本人、日本所在の法人で無ければならない。また競技の公正性の観点 から、複数の J クラブの株式を同一の法人が持ってはいけないという制約もある。株主移動のコン トロール、具体的には 5%以上の株主の移動については理事会の承認を必要とするというルールも ある。

4.J クラブの安定経営への仕組みづくり

横浜フリューゲルスとベルマーレ平塚の経営破綻が 98 年にあり、J リーグは J クラブの破綻予 防を目的として経営諮問委員会を設置した。また、試合の安定開催のために、スポーツ振興くじ (toto)の資金をいただいている。ただし、toto 資金はルール上基金として積み上げることができな いため、J リーグは現在、独自の安定開催基金を積み立てている。例えば J1 で 2 チームが同時に 破綻してもシーズン中のリーグ戦を継続するだけの資金を持つことが目標である。プロ野球の場合 は新しくチームを持つ場合多額の保証金をチームが積むという方式になっているが、百年構想で仲 間を増やしていく事を前提とするとこのようなルールは適用できないので、Jリーグが基金を持つ 必要があると考えている。 次に、J2 から J1 への昇格には審査基準を設けおり、原則として成績が良くても債務超過であれ ば J1 に昇格できない。例えば J1 に上がるために多額のお金を使い、昇格後に破綻してしまうと 破綻金額が大きいので、昇格の際に予防的な対応をしているということである。

(12)

準加盟制度は昨年からでき、これから J2 に入会したいというチームに対して、情報提供、研修、 法人化や財務内容の開示の指示などを行い、経営が円滑にできる状態になったうえで、チーム成績 も満たせば入会できるようにしている。リーグ入会後に財務上の問題が出ないよう、この制度を創 設した。

5.情報開示

情報開示に関しては、J リーグは他に類をみないほど進んでおり、31 クラブは詳細な予算・決 算資料をリーグに提出している。ほとんどの協会はこれを実現できていないであろうから、これだ けでも画期的なことである。さらに、J クラブ合計や平均といった、Jクラブ全体の財務情報の開 示も早くから実施している。また、この開示を始めた時から個別 J クラブの決算内容の抄録を公開 するという方針を明言し、実現している。 情報開示の目的は、公益法人なので仲間を増やすこと、つまり入会希望チームを増やすことであ る。J リーグのチームを持つ・支援するということは、何をどれだけ負担すればいいのか、お金の 流れはどのようになるのか、について地元やスポンサーに理解してもらうためには各クラブ個別の 数字が必要である。もう一つ忘れてはならないのは、J リーガーを目指している選手や保護者の方 にも、情報開示をする事によって安心してもらうということである。仲間の種類にはいろいろある が、情報を開示し透明性を高めることによって、さらに仲間を増やしていきたいと考えている。

6.他の競技へのインプリケーション

J リーグの成功により、一時「J リーグに続け」と言われたものの、あまりプロ化が進んでいな いことはご存知の通りである。この理由にはいくつか考えられる。1 つ目は、世界との距離が挙げ られる。サッカーは世界との距離がかなり遠かったが、世界との距離が近い競技であれば、今の経 営体制で頑張れば何とかなるのではないかと考え、組織の外形まで変えていくという意思決定をし にくいのではないかと思われる。 2 つ目の理由は人件費である。プロ化するとほとんどの場合オーナー会社の負担が増える。この 問題を解決するには、母体企業とスポンサーを分けていく、あるいは入場料と放送権料で自立をし ていくという所までシナリオを書けていないと難しいだろう。 3 つ目は、ベンチマーキングの対象があるかどうか。J リーグのベンチマーキングの対象として 最も重要なのはブンデスリーガであるが、他の競技、例えば bj リーグが NBA をベンチマーキング できるかといえば、同じ競技でありながらあまり現実的ではないのではないか。J リーグが運が良 かったのは、1990 年ごろのヨーロッパのリーグが現在ほど盛んでなかったことであると思われる。 90 年から 2007 年までのサッカービジネスの成長速度は、ヨーロッパに比べると日本の方が遅い。 日本も成功したが、欧州は経済的にはもっと成功している。結果として差が開いているが、おかげ で目標にするモデルがあり続けるという点では良かった。そういう対象がないと難しく、また余り にも差が大きいと差が埋まりにくい。 最後に、J リーグのファイナンシャルマネジメントの何が参考にできるのか。最も重要なのは、 リーグとしての集金力、「スポンサー獲得力」である。この力を維持し高めるために、例えばスポ ンサーについて厳格なカテゴリーマネジメントを行っている。ロッソ熊本が入会する可能性が高い が、ユニフォーム・スポンサーとして酒造メーカーは認めなかった。健全な地場産業だから認めら れるべきであるという意見も地元ではあったように聞いているが、ルールはルールである。J リー グは、保護者が子どもに「見に行くな」と言えば存続できない。ルールを緩和してもすぐにブラン

(13)

ド力が落ちる訳ではないと思うが、理念にそぐわないと思われる一部のカテゴリーについては、チ ームにスポンサー獲得を自粛してもらうという原則を貫くことでブランド価値を維持しないと、リ ーグ全体としての「スポンサー獲得力」も維持出来ない。 重要なのは、ファイナンスで幾らお金が入ってきているのか、どういう活動でお金が入ってきて いるのか、ということではなく、ファイナンスのアクティビティと他のアクティビティが連動して いることである。J リーグはそれによってある程度の成功を収めているので、お金の集め方よりも、 ビジネスをどうデザインをするか、あるいはどうマネジメントをするかというところが参考にされ るべきなのだろうと考えている。

■モデレーターとのディスカッション

モデレーター:

久保田剛

氏(株式会社エヌ・ティ・ティ・アド) 久保田:今の J リーグは中央集権方式で良いと思うが、70 億から 3 億といったクラブ間での事業 規模格差が出てきている。このような状況をどうするのか? 武藤:例えば、NFL は格差を否定している。勢力均衡の大前提であらゆるルールを厳格に運用し ているため、一時の沈滞はあったが、それを脱して今はうまくいっている。 ヨーロッパのサッカーリーグ事情をみると、日本より格差ははるかに大きい。これを認めてい くかということであるが、簡単にいうと両方かなと思う。要するに、伸びるクラブは自分で伸び てもらっても構わない。ただ一方では、現在のセントラルコントロール方式を変えてしまうと、 新規参入ができにくくなる。セントラルコントロール方式を維持しながら、伸びるところは伸び る。それぞれで正しい面があるという事でご理解いただければと思う。 久保田:ファイナンシングの方法について、今あるマーチャンダイジングや入場料収入などに代わ って、IPO あるいはソシオ的な会員を作って資金調達をする方法の今後の可能性についてはどう か? 武藤:ブンデスリーガは、日本でいう社団法人形態のクラブが 51%の株式を持っている商業法人 の形態を採用しているクラブが多い。それに類似した形態として、株主ではないがファンが意思 決定に関与していることで有名なのは、スペインの FC バルセロナのソシオ制度である。ブンデ スリーガも FC バルセロナも、非営利組織の会員としてメンバーが年会費を払って議決権を持っ ているという形態である。 では、J リーグにおいて、ファンクラブや後援会が経営に関与するような役割を果たせるかと いうと違うだろうと考えている。日本とヨーロッパでは、ガバナンスがかなり異なる。日本の場 合は持ち株会方式を採用しているクラブもあるが、持株会は出資した時の一回しかお金を出さな い。これに対して、ブンデスリーガや FC バルセロナでは地域のスポーツクラブの会員が年会費 を払って、自分の議決権を保有している。どちらがチーム運営に経済的に貢献する方法かといえ ば、年会費を払ってくれているブンデスリーガや FC バルセロナの方法であると考える。また、 チームに対する興味や監視等の観点で考えると、一回の出資で終わってしまう持株会より、毎年 お金を払うことでクラブのメンバーになってもらう方が関心を持ち続け、良い意味でも悪い意味 でも口を出したがるということになると思うので、ガバナンスの面からも収入の面からもヨーロ ッパの方式はかなり参考になると思う。しかし、そのようなビジネスモデルを確立できていると ころが日本の場合まだ無い。ヨーロッパ型は良いとは思うが、それを中期的に選択できるかとい

(14)

うと難しいように思う。一方で、そうなって欲しいと思う気持ちもある。 久保田:IPO の場合は初めに資金調達を行い、その後は入ってこない。J リーグでは初期投資に関 する費用は配分されるとすると、どちらかといえばソシオ的な方式の参画の可能性が高いという ことで良いか? 武藤:IPO をすると株主移動規制というリーグの規約に抵触する。また、日本の新興市場で株式公 開して調達できるお金は平均すると 1 社あたり 20 億円位であり、これでスタジアムを作れるか といっても無理である。ゆえに、日本の市場において IPO で集められる資金は、かなり中途半 端であると認識している。

モデレーターのまとめ

スポーツビジネスは実業でもあるため、ビジネス側の視点と学会のアカデミックな側の視点を持 つことが大切である。また、欧米もしくはアジアなどの多くの事例が本の上ではフィードバックさ れているが、今後はさらに実際のビジネス・実業にうまくフィードバックできる機能を学会が持つ ことが期待される。

1.はじめに

2007 年には色々な会社の不祥事、あるいは不正等で「美しい国日本」と言われているが、今年 を振り返ると「お詫びの国日本」であると思う。朝青龍、亀田大毅の記者会見をマネジメント会社 の視点から見ると、お茶の間の人々が何に対してどう思い、どうしてもらいたいのかをもう少し近 くの人間が考えてあげられていたならば、記者会見を通じて自身の品格をさらに向上させる事がで きたように思う。 そういう意味では、スポーツマネジメントに携わる人間としては悔しく記者会見の映像を見てい た。この様な事こそマネジメントの必要性を感じる部分であり、スポーツ選手のマネジメントに必 要とされる領域ではないかと思っている。最初に結論を言うと、マネジメントは「自身が行ってい ることと社会とのマッチングをどういう風に考えるか」が重要である。

2.スポーツ選手の所得

選手個人に関わる所得の要素として、例えば球団・チームとの年俸や契約金、チーム間の移籍金、 トップ選手であればエンドースメント契約、著名な選手だと肖像権などが広告契約で考えられる。 また、ゴルフなどに代表される賞金も個人の所得の収入の一つである。

アスリートマネジメント・ビジネス

― Made in Japan のスポーツマネジメント

実践報告①

山本雅一氏

(株式会社スポーツビズ代表取締役)

(15)

近年、個人と球団との契約金や肖像権が高騰してきている。例えば、ヤンキースの松井の年俸は 約 15 億円、レッドソックスの松坂の年俸は約 10 億円である。国内でも、ホークスの松中が最高 年俸であり約 5 億円、サッカーでは一時期よりも抑えられていると思うが、小野が浦和レッズと の契約で約 1.6 億円であると言われている。 それ以外にも、肖像権として CM 契約があり、イチローや松井は 1.5 億円が相場と言われている。 他にもアマチュアスポーツ選手ではあるが、浅田真央は約 3,000 万から 5,000 万円ぐらいであろう。 さらに、その人間がメディアに出ることにより視聴率が上がるということになった場合、数百万円 の出演料も収入として手に入る。 これらは、あくまでもトップの選手の選手自身の力による部分が大きい。では、マネジメントが どう機能するかというと、この手の話に関しては、管理をする、いかにスムーズに進められるかが メインの職域である。

3.スポーツビズについて

私は 10 年間広告会社の営業マンを勤めたのち、スポーツビズを 12 年前に設立し現在に至って いる。きっかけは自分自身が食えないスキー選手だったこと、そして広告会社に勤めている間、仕 事を通じてこれからの時代、スポーツが行政や企業も含めて最高で最善のコミュニケーション手段 になると感じたことである。もう一つのタイミングとして、1992 年アルベールビルのオリンピッ クで金メダルを取り、現在、経済産業省の政務官と参議院議員の荻原健司氏の金メダルのパフォー マンスを見た時、日本のスポーツが変わるのではないか、これから新しいスポーツに対して様々な 需要が高まるのではないかと思ったことも大きな一つのきっかけであった。 スポーツビズのビジネス定義・基本軸は、アスリートマネジメントを基盤としたスポーツコンテ ンツメーカーということである。様々なスポーツイベント、テレビ番組を作る事も行っているが、 全てのムーブメントが最終的に選手に起因するということは、会社を設立した当時からの想いであ る。昨今、女子ゴルフにおける宮里藍、男子ゴルフのハニカミ王子こと石川遼選手、大学野球のハ ンカチ王子もさることながら、かつてプロ野球が 1960 年代に王、長嶋の出現が決定的な繁栄をも たらしたことにも通じる。そういう意味では、今後スポーツマネジメントを語る上でアスリートマ ネジメントという基盤が非常に重要になると考えている。アスリートマネジメントを基点としスポ ーツコンテンツを作り、様々な市場に対してマーケティング活動をするという流れである。 我々が考えるアスリートマネジメントとは、一つは選手が競技に集中できる環境を整えること、 もう一つはアスリートとしての名声と実績を生涯に渡り継続・発展させることである。選手は、球 団や協会、また団体スポーツや個人スポーツ、あるいはメジャースポーツやアマチュアスポーツか により、サポート体制や得られる賃金も様々である。そこで、選手のプラットフォームとなり、専 門家を交えてセカンドキャリアを含めた生涯に渡るサポートをしていくことが我々のモットーであ る。具体的には、中核にスポーツ選手を置き、それを担当するマネジャーが社内外の専門スタッフ を活用し、選手のライフプラン、あるいは集中したい環境を整えることが我々の仕事である。そう いう意味では、例えば海外に行きたい選手の場合、球団や連盟との交渉をしたり、アスリートとし てのデータ・動作解析のサポートをしたりする。また、著名な選手になると肖像権やスポンサーの 対応等を法務、財務の専門家を交えながらプランニングをしていく。これらが我々のマネジメント の基本的な概念である。 アスリートマネジメントはあくまでもスポーツマネジメントの全体の業務の一部として考えてい る。基本的には、ビジネスとしての完結を迎えるために、アスリートのマネジメントを中核にしな

(16)

がら、我々独自の発想でスポーツコンテンツ、スポーツイベント、マーチャンダイズ、テレビ番組 などに伴う権利関係を創造し、一般の生活者に対してメディアを活用する。そして、伝えたいこと を伝えながら付加価値を上げ、他企業との取り組みの中で事業を行っていくのが基本的なビジネス モデルとなる。また、最近はイベントやマーチャンダイズを活用し、興行収入や物販収入も得られ るビジネスモデルに展開している。

4.マネジメントの事例 ―海洋冒険家・白石康次郎のマネジメント

あえてメジャースポーツではなくマイナースポーツであり、プロの興行や競技中継もなく、広告 代理店も手を出さない様なスポーツであるが、我々の基本的な事業コンセプトに近い形で実施・展 開した事例として、白石康次郎という海洋冒険家が世界一周レースに参戦したケースを紹介する。 これは、120 日間かけて世界一周を一人乗りのヨットで行うレースである。 彼は非常に面白い人間であり、「夢を絶対かなえる方法が一つある、それは叶うまで諦めないこと」 と常日頃言って実践している。我々が彼のマネジメントをするにあたり、彼からマネジメントサイ ドとして求められたことは「世界一周レースに参戦したい」。これが彼からのマネジメントに対す る願いであった。そして、我々に課せられたことは、参戦するために必要な費用の確保と完走する ためのチーム体制作りであった。彼はお金もなければ運営するチームも持っておらず、これらを一 からどうするか、が我々スポーツビズのマネジメントチームに課せられた使命であった。 最終的には資金を集めチームを作らなければならないが、まず手がけたことは資金集めからでは なかった。まず我々が行ったことは、彼がチャレンジすることと社会問題を合わせて何を伝えられ るかというコンセプトの抽出を行った。チャレンジすることの社会性を深く掘り下げ、現代社会の 課題と共通点を見つけ出し、メッセージを事業化することが我々の最初に行った仕事であった。そ れを基とし、表現する事業として世界一周レースをコンテンツ化した。マーケティング活動として PR、マーチャンダイズ、スポンサーシップという様々なコンテンツを作り、事業の回収をしてい くことを計画した。選手のマネジメントを行う場合でも、どれか一つに頼った収益よりは、様々な コンテンツを作り、そこからしっかりと資金を集めるという形を作らなければならなかった。 社会に伝えるメッセージをコンテンツ化するということに関しては、引きこもりや不登校、無気 力などの問題に対する子供達に向けたメッセージとして、世界一周事業を通じて夢を叶える為に努 力することの大切さを伝える事業だと定義した。我々が行うことは、基本的にはメディアを PR と して活用し、彼がこういう想いの中でこういう事業を行うということを幅広く日本の人々に知って もらうこと、そして、それをベースとしたマーケティングやマーチャンダイズ、それらを実行する プロジェクトを運営するための体制作りを手がけた。 さらに、実際のレースを運営するための会社「オーシャンビズ」を立ち上げ、管理会計、あるい は船の購入、船籍の手配をした。それをベースに「スピリット・オブ・ユーコー」というチームを 作り、その中に二つのチームを作った。一つは、各国のプロフェッショナルを集めた、レースに参 戦するためのレースチームである。もう一つは PR チームを作った。世界一周中の映像は、撮影し ている人が世界一周に同行しないと映像は残らない、という記録に残すのが難しい事業である。そ こで、あえて専門のビデオクルーを持ち込み、実際にその映像を日本のテレビ会社に配信するよう な体制を作った。これらの体制を作るのに約 3 億円かかった。レースで世界一周ができるような 船は非常に高額である。その船の購入と実際に戦えるための体制、船の改造、滞在費、あるいはク ルーにかかる人件費、その他通信費をいれて 3 億円という形になった。

(17)

4.1 プロモーション戦略 経費として 3 億円がかかるから資金集めとしてスポンサーから 3 億円もらうというのはマネジ メントとして現実的には難しい、というのがその時の判断であった。では何をしたかというと、先 のコンセプトに基づいたプロモーション戦略の立案であった。基本的にレースを通した付加価値の 増大ということで、そのフェーズを三つに分けて展開した。フェーズ 1 は「白石康次郎の認知の 拡大」、フェーズ 2 は「実際にリアルにレースを感じてもらえる体制を作ること」、そしてフェー ズ 3 は「彼の次なるチャレンジの体制を作っていくということ」であった。 フェーズ 1 は、一年前から動かし、スポンサーがこちらを向いてくれるように積極的にメディ アに彼のことを売り込みに行った。しかし、これが非常に難しく、知名度のない人間を簡単には取 り上げてもらうことはできず、非常に困難な状況だったことを記憶している。他にも本を出版した り、実際にホームページを立ち上げたりという活動を地道に行っていた。 フェーズ 2 に関しては、事前のテレビ局との取り組みが非常にうまくいき、フジテレビの「め ざましテレビ」の中で世界一周中の洋上から衛星を使いライブで映像を送るという取り組みを行な った。さらに、世界一周レース中にラジオに生出演をしたり、ブログに世界一周中の記事をアップ したりすることで、ライブな世界一周というものに興味を持つ人々に伝えていった。ここで初めて 付加価値がある程度上がっていき、スポンサー収入もこの時点から増えていくことになった。そし て、一般のファンからも収入を得られる仕組みを作ったのが「バーチャルクルー」である。 フェーズ 3 は、現在取り組んでいる活動であり、講演活動や冒険授業を行っている。 4.2 プロモーションのポイント プロモーション戦略を行うにあたり重要なことは、一つは過酷な挑戦をいかにリアルにお茶の間 に伝えていくかであった。前述の通り、地上波の朝の番組で 1 ∼ 2 週間に 1 回であったが、彼が 世界一周を行っているオンタイムの映像を日本の朝のお茶の間に届ける仕掛けをつくった。そして、 ライブで公式ブログという形として映像を配信した。 さらに、リアルな体験を共感させるために「バーチャルクルー」を作った。実際にインターネ ット上で彼を応援する人間が増えてきたところで「ドッグタグ」という首に下げるタグを購入して もらう。また帰国後、世界一周をしたヨットのセイルを応援してくれた方に差し上げるということ をマーチャンダイズ化し、一人 2 ∼ 3 万円で協力してもらうような体制を MD で組むこともした。 さらに、「冒険授業」という形で、洋上から電話で小学校の道徳の時間に子供達とやり取りをする ような授業も組み込んだ。ライブで世界一周をしている白石康次郎と小学生をうまく結び付け、子 供達の情操教育に役立つような事業を定点的に行った。 こういった活動を通じて、レース中はテレビやラジオ、レース後は様々なドキュメント番組に取 り上られるようになり、雑誌や新聞もそれなりに扱ってもらえるようになった。最初の時点でスポ ンサーシップを求めに行ったら企業に応援してもらえなかっただろうが、プロモーション戦略をし っかり作り、メディアを通じて付加価値を上げていくことによって、様々な企業から支援をしても らえるようになった。さらにプラスアルファとして、お茶の間の方々からも応援してもらえるよう な体制を作って、総額の事業費を捻出したという形になった。 レース後の活動は、無事にレースが終わり、彼がやってきた世界一周というものを子供達や親子 の関係に結びつける様なプログラムを開発した。一泊二日で帆船を借りて夏休みに子供たちを連れ て行く事業や、あるいは今回の世界一周を起点にしての講演活動、また現在は「ブロードキャスタ ー」でもレギュラーコメンテーターを勤め、次のレースの参戦準備をしている段階である。

(18)

5.今後のマネジメント

儲かるマネジメントのビジネスと、中長期的に見てやらなければいけないマネジメントビジネス との両建てが必要である。我々も当然儲かる仕事も持っているし、やらなければいけない仕事も持 っているため、このポートフォリオをどのように組織の中で考えてやっていくかが非常に重要にな る。例えば、白石のマネジメントにおける中長期的な視点は、彼のチャレンジを成功させ、そこに 付加価値を付け、さらに次なる大きなチャレンジに向けられる体制を作ることがマネジメントの基 本であった。今回は 3 億円の事業で済んだが、次は新艇を買い参戦しよう考えており、新艇の場 合 5 億円以上の資金が必要になる。彼の付加価値を増大させ、5 億円の事業ができるような人間に していかなければならないというのが、マネジメントに課せられた任務である。 今後、スポーツは教育、行政の観点からも日本を牽引する産業になると思っている。かつては ソニーやホンダが日本を代表する産業だったが、現在はピカチューやテレビゲーム、これからはス ポーツ選手やスポーツコンテンツが日本を代表する輸出品目になっていくのではないかと思ってい る。そういう意味では、日本のアスリート育成事情、日本のスポーツマーケティング事情を把握し、 さらに日本のメディア市場にも長けたきめ細やかな日本人ならではの選手へのサポートシステムを 持った made in Japan のスポーツマネジメントシステムを構築していかなければならない。今まで 多くは海外の法人がスポーツマネジメントを行っていたが、日本独自のスポーツマネジメントシス テムが今後作られていくのではないかと思う。

■モデレーターとのディスカッション

モデレーター:

澤井和彦

氏(江戸川大学) 澤井:マネジメントするアスリートをリクルートする基準というのはあるか? 山本:当然強い選手やスポーツ紙の一面に載る様な選手も一つの視点としてあるが、一番重要なの は発言に対して社会性を持っている選手である。そのため、どちらかというとスポーツ紙よりも 一般紙の中面で取り扱われる様な選手が非常に魅力的だと思っている。 澤井:アスリートの引退後のセカンドキャリアについてはどのように考えているか? 山本:非常に難しい問題である。我々が声をかける人達はその種目の中でトップに行きそうな人、 行けている人からの着手になるが、全体でみると 98%のアスリートがこの問題を抱えることに なる。我々も現在、アスリートがこういう状況であり、どういう形で次の仕事のセカンドキャリ アに繋げていけるかということを人材紹介会社と議論し、何かしら形を作っていこうと考えてい る。 澤井:亀田大毅の会見の話をしておられたが、あのビジネススキームをみていると、一種の芸能プ ロダクションのようにもみえる。たとえば山本さんなら、亀田兄弟をどのようにマネジメントす るか? 山本:その選手がどういった環境で育ってきたのかはすごく重要である。我々が抱えているマネジ メント選手のご両親には、必ずマネジメント契約をする時に会いに行くが、皆さん素晴しい方ば かりである。やはり「この親あっての子だな」ということを考えると、マネジメントは行わない だろうなと思う。 また、逆に我々は芸能より長けているのかと言うとそうではない。選手自身の力、あるいは両

参照

関連したドキュメント

老: 牧師もしていた。日曜日には牧師の仕事をした(bon ma ve) 。 私: その先生は毎日野良仕事をしていたのですか?. 老:

近年、日本のスキー・スノーボード人口は 1998 年の 1800 万人をピークに減少を続け、2020 年には 430 万人にまで減 少し、20 年余りで 4 分の

本事業における SFD システムの運転稼働は 2021 年 1 月 7 日(木)から開始された。しか し、翌週の 13 日(水)に、前年度末からの

■詳細については、『環境物品等 の調達に関する基本方針(平成 27年2月)』(P90~91)を参照する こと。

2012年11月、再審査期間(新有効成分では 8 年)を 終了した薬剤については、日本医学会加盟の学会の

継続企業の前提に関する注記に記載されているとおり、会社は、×年4月1日から×年3月 31

に本格的に始まります。そして一つの転機に なるのが 1989 年の天安門事件、ベルリンの

本部事業として「市民健康のつどい」を平成 25 年 12 月 14