はじめに
放射線,抗がん薬,さらには分子標的療法の 開発により,リンパ腫の治療成績は着実に進歩 してきた.改訂WHO分類(2016)において, さらに細分化され,60以上の疾患単位となった リンパ腫の多くは,日本臨床腫瘍研究グループ (JCOG:Japan Clinical Oncology Group)等が, 国内外の多施設共同研究を通じて研究成果を上 げ,標準治療の確立を目指した臨床試験の継続 と病理中央診断の実施により,現在では治癒ま たは長期寛解が可能となっている1).しかしな がら,日本に多いHTLV-1 による成人T細胞白血 病・リンパ腫(ATL:adult T-cell leukemia-lym-phoma)をはじめとする末梢性T細胞リンパ腫 は難治性である.強力な化学療法に続いての同種造血幹細胞移 植(allogeneic hematopoietic stem cell transplan-tation:Allo-HSCT) が 標 準 治 療 と さ れ る ア グ レッシブATLに対しては,ヒト化抗CCR4 抗体 (モガムリズマブ),レナリドミドの有用性が明 らかとなり,さらには抗PD-1(programmed cell death 1)抗体等の開発も行われている.一方, イ ン ド レ ン トATLに は 急 性 転 化 す る ま で は watchful waiting療法(WW)が標準とされてき たが,その長期予後は慢性リンパ性白血病等と 比べて不良であったので,毒性は高いが,少数 例ながら,皮膚病変と長期予後に有望との欧米 からの報告のあるインターフェロンα/ジドブ ジン療法(IFN/AZT療法)による第III相比較試 験(JCOG1111)が進行中である.同様に,WW が標準治療とされる低腫瘍量の濾胞性リンパ腫 (follicular lymphoma:FL)には,抗CD20 抗体 リツキシマブ(R)単独療法の有用性も示され ているので,両治療法の比較試験(JCOG1411) が開始された.Hodgkinリンパ腫(Hodgkin lym-phoma:HL)はその大多数が治癒可能となった が,2 割前後は難治である.初回治療の中間 18 fluorodeoxyglucose positron emission tomogra-phy(FDG-PET)で予後が大きく異なるので,陽
埼玉医科大学国際医療センター造血器腫瘍科
114th Scientific Meeting of the Japanese Society of Internal Medicine:Panel Discussion:Challenge of internal medicine for conquering
intrac-table cancers;2. Recent advances in lymphoma treatment.
Kunihiro Tsukasaki:Department of Hematology, International Medical Center, Saitama Medical University, Japan. 本講演は,平成29年4月15日(土)東京都・東京国際フォーラムにて行われた.
難治がん克服への内科学の挑戦
リンパ腫治療の最前線
塚崎 邦弘 Key words 悪性リンパ腫,新薬開発,中間PET,Watchful waiting
性の場合に治療強度を上げることで,難治例の 治療成績を向上できるかを検証するPET中央診 断を組み入れた臨床試験(JCOG1305)が進行 中である.最多のリンパ腫であるびまん性大細 胞型B細胞性リンパ腫(diffuse large B-cell lym-phoma:DLBCL)は標準治療のR-CHOP(リツキ シマブ,シクロホスファミド,ヒドロキシドキ ソルビシン,ビンクリスチン,プレドニゾロン) 療法で過半数が治癒可能だが,その予後が不良 な臨床的国際予後インデックス高値群,あるい は腫瘍細胞起源が胚中心細胞由来ではなく,活 性化B細胞由来の場合を対象として新規治療法 の有用性を検証する臨床試験が多く行われてい る.前述のような後期治療開発と並行し,分子 標的療法等含め,多くの新薬開発が進行してお り,難治性リンパ腫への臨床導入が期待されて いる. 本稿では,PETのなかでもHLにおける中間 PET,WWのなかでも低腫瘍量FLにおける中腫 瘍量の設定と低悪性度ATL,新薬開発のなかで もT細胞腫瘍について,日本での開発状況を紹 介する.
1. ホジキンリンパ腫(HL)における
interim PET
ホジキンリンパ腫(HL)に対する標準治療 は,限局期I~II期の場合はABVD療法 2 ないし 4 コース後の放射線療法(病変照射),進行期III~ IV期の場合はABVD療法 6 ないし 8 コースであ る2).HLの治療成績は向上してきたが,その晩 期毒性として,アルキル化剤や放射線照射等に よる 2 次発癌,放射線照射やアンスラサイクリ ン系薬剤による心毒性等の臓器障害の低減は今 後の重要課題とされている.進行期III~IV期HL に対してABVD療法よりも無増悪生存期間(pro-gression-free survival:PFS)が長いが,毒性も 高いBEACOPP療法は,ABVDで再発・難治の場 合であっても,自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/ ASCT)により救済され,全生存期間(overall survival:OS)が両群で変わらないことから, 標準治療とはみなされていない. PETは腫瘍のなかでも悪性リンパ腫,さらに, そのなかでもHLで病期診断と治療効果判定に 有用であることが報告されてきた.進行期III~ IV期HLの予後予測因子として知られている治 療前の国際予後予測スコアリング(IPS)は層別 化治療法には不適とされてきた.ABVD2コース 後の中間PETが陽性の場合には,IPSの高低にか かわらず予後不良であり,陰性の場合は予後良 好であることが報告された.ABVDで治療開始 し,中間PET陽性の場合に,BEACOPPに変更す ることにより,難治例のPFSを向上できるか(す なわち,より毒性の強いHDC/ASCTを回避でき るか)を検証する,Web画像コンサルテーショ ンシステムでの送信後の速やかなPET中央診断 による撮像の標準化と品質保証を病理中央診断 に合わせて組み入れた臨床試験(JCOG1305)が 進行期HLを対象に進行中である(図1).本試験 では,一領域の残存病変があれば,これまでの 病変領域(involved field radiation therapy)では なく,より狭く病変部位を照射(involved site radiation therapy)することにより,毒性軽減も 図っている.
2. 低腫瘍量FLと低悪性度ATLの
標準治療であるWatchful Waitingに
ついての第III相比較試験
無治療経過観察(WW)とは,比較的緩徐な 経過をたどる悪性腫瘍において,有害反応が少 ない標準治療がない場合に,診断後も抗悪性腫 瘍療法を開始せず経過観察を続け,病勢が進行 してから治療を開始するという治療戦略であ る.「造血器腫瘍診療ガイドライン 2013 年版」 (日本血液学会)では,本療法は表に示す5つのリンパ系及び 2 つの骨髄系腫瘍の低悪性度腫瘍 において,低腫瘍量かつ有害事象の少ない特効 薬がない場合に選択されている2).一方,低悪 性度かつ低腫瘍量であっても,H. pylori陽性の 胃MALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リ ン パ 腫 とBCR-ABL陽 性 の 慢 性 骨 髄 性 白 血 病 (chronic myeloid leukemia:CML)の場合は,そ れぞれH. pylori菌の除菌療法とABLチロシンキ ナーゼ阻害薬が標準治療である.本項では,WW について臨床試験が進行中の2疾患を紹介する. FLは,欧米に続いて,ここ数十年は日本でも 増加しつつある低悪性度のB細胞性リンパ腫で あり,初診時から全身リンパ節や骨髄に病変を 認め,病期が進行していることが多い.進行期 FLは病変の大きさ,病変による臓器障害によっ て低腫瘍量と高腫瘍量に分けられ,前者には WWが,後者にはCHOP療法,COP療法(シクロ ホスファミド,ビンクリスチン,プレドニゾロ ン)等の化学療法が用いられてきた2).高腫瘍 量としては,7.5 cm以上のBulky病変,3 cm以上 が3個以上,骨髄浸潤による血球減少等がある. 低腫瘍量FLに対するWWと種々の化学療法を比 較した第III相試験では,いずれもPFSでは化学療 法が勝ったが,OSに差はなかった.注目される ことに,いずれの試験でもWW群の 20%前後 は,10年以上に亘って無治療,すなわち,自然 寛解または病状安定を保っていた.進行期FLに 表 Watchfulwaiting療法の,造血器腫瘍に対する 標準治療の1つとしての位置付け: 「造血器腫瘍診療ガイドライン2013年版」に WWが標準治療の1つとして記載されている7疾患 ・非進行期の慢性リンパ性白血病 ・低腫瘍量の濾胞性リンパ腫ほかの低悪性度B細胞リンパ腫 ・低腫瘍量のマントル細胞リンパ腫 ・無症候性(CRABOのない)多発性骨髄腫 ・低悪性度ATL ・低リスクの骨髄異形成症候群 ・低リスクの骨髄増殖性腫瘍 CRABO:高カルシウム血症,腎不全,貧血,骨病変,その他 図1 interim PETに基づく初発進行期ホジキンリンパ腫に対するABVD療法 もしくはABVD/増量BEACOPP療法の第Ⅱ相試験(JCOG1305) 初発進行期ホジキンリンパ腫患者 年齢20歳以上60歳以下 Ann Arbor病期分類にてⅢ/Ⅳ期,または バルキー縦隔病変もしくは節性病変に接する節外臓器への 連続性浸潤を有する病変のいずれかを有するⅡB期 導入ABVD療法2コース Interim PET
Interim PET陰性 Interim PET陽性
Interim PET後ABVD療法4コース PRかつ単一リンパ節領域 /単一臓器のみに病変が限局: 局所放射線治療36 Gy PRかつ単一リンパ節領域 /単一臓器のみに病変が限局: 局所放射線治療36 Gy 完全奏効の場合,無治療経過観察 完全奏効に至らない場合,後治療自由 完全奏効の場合,無治療経過観察 完全奏効に至らない場合,後治療自由 増量BEACOPP療法6コース
対する化学療法は寛解をもたらすが,治癒困難 でOS曲線にプラトーはない.1990 年代に開発 された抗CD20 抗体のリツキシマブ(R)を化学 療法に併用すると,輸注反応などの有害反応は 許容でき,PFSのみならず,本疾患で初めてOS を延長した(しかし,やはり治癒は困難である) ことから,治癒可能なびまん性大細胞型B細胞 性リンパ腫,FL同様に治癒困難な慢性リンパ性 白血病等の他のCD20 陽性B細胞腫瘍と同様に, R併用化学療法が標準治療となった.引き続き, 低腫瘍量FLについては,R単独療法の優れた奏 効割合とPFSが報告されてきたが,WWとの優劣 を明らかにできた検証的試験はこれまでにな い.JCOG1411試験(図2)は,無治療の低腫瘍 量FL患者をR単独療法(週 1 回,×4 回)と現在 の標準治療であるWWとに割り付ける第III相試 験であり,初めて中腫瘍量(例:5 cm以上1個, 3 cm以上 2 個等)という規準を設定し,中腫瘍 量となれば両群でR単独療法を繰り返すことに より,高腫瘍量への進展等で抗癌薬または放射 線療法の開始を要するまでの期間を比較する. 西南日本沿岸部,中南米,中央アフリカ等に 多いHTLV-1ウイルスによるATLは,その予後因 子解析,臨床病態の特徴と自然史から病型分類 され,高悪性度の場合は極めて予後不良である ことから,強力な化学療法に続いてのAllo-HSCT 療法が標準治療とみなされているが,低悪性度 ATLにはWWが標準治療とされてきた2).低悪性 図2 未治療低腫瘍量進行期濾胞性リンパ腫に対する rituximab療法の早期介入の有用性を検証する 第Ⅲ相ランダム化比較試験(JCOG1411) 未治療進行期濾胞性リンパ腫Grade 1,2,3A 低腫瘍量 年齢20歳以上80歳以下,PS 0-1 ランダム割付 施設,年齢,診断からの期間 A群 Watchful waiting B群 リツキシマブ療法 (週1回,4回投与) リツキシマブ介入規準(中腫瘍量)を満たす場合に, リツキシマブ療法(週1回,4回投与) 治療中止規準を満たす場合の後治療は規定しない 図3 ATLに対するインターフェロンα/ジドブジン併用療法とWatchful waiting療法の ランダム化比較試験(JCOG1111C) 症候を有するくすぶり型未治療ATL あるいは 予後不良因子を有さない慢性型未治療ATL 20歳以上,75歳以下 ランダム化 割付調整因子:施設,病型(くすぶり型/慢性型),年齢(39歳以下/40歳以上) A群:Watchful Waiting(標準治療) B群:IFNα/AZT療法(試験治療)
プロトコール治療中止規準に 該当するまで,治療継続 プロトコール治療中止規準に 該当するまで,治療継続 無治療経過観察 導入療法①:IFNα 300万単位, 1日1回皮下注射 AZT 600 mg, 1日3回経口内服 導入療法②:IFNα 600万単位, 1日1回皮下注射 AZT 600 mg, 1日3回経口内服 維持療法: IFNα 300万単位, 1日1回皮下注射 AZT 400 mg, 1日2回経口内服
度ATL患者を対象として,欧米ではATLに対する 標準治療の 1 つとみなされているIFN/AZT療法 が,標準治療であるWWよりも有用であるか否 かを検証するため,PFSを主たる評価項目とし た ラ ン ダ ム 化 第III相 試 験 を 登 録 中 で あ る (JCOG1111)(図 3).本試験では,ATLにおい て,日本では保険適用のないIFNとAZTを先進医 療B評価制度による臨床試験で用いており,そ の有用性が検証されれば,両剤の保険適用の拡 大が期待される.
3. 新薬開発:特に日本を主とした
T細胞リンパ腫に対する開発
新薬開発のなかでも,特にT細胞腫瘍につい ては,世界的にみても日本は進んでいる. 日本で開発された,脱フコース処理により ADCC(antibody-dependent cellular cytotoxicity) 活 性 を 高 め た 抗CCR4 抗 体 モ ガ ム リ ズ マ ブ (Mogamulizumab) は, 高悪性度ATLに引き続 き,CCR4陽性の末梢性T細胞リンパ腫(periph-eral T-cell lymphoma:PTCL)にも再発難治の場 合に承認された3).モガムリズマブは,初発の 高悪性度ATLに対する強力な化学療法との併用 のランダム化第II相試験では完全寛解率の向上 を認めた.症例数が少なかったこと等もあり, OSに差はなかったが,この結果をもって初発に も承認された.高悪性度ATLでは,初回化学療 法に引き続き,Allo-HSCTで治癒を目指すが, Allo-HSCT前にモガムリズマブを用いた場合, ATLのみならず,正常の制御性T細胞も排除する ため,移植片対宿主病の頻度と重篤度が増すこ とが明らかとなった4). 多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM) と 5q-異常を有する骨髄異形成症候群(myelodys-plastic syndrome:MDS)に保険適用のある免疫 調整薬レナリドミドは,高用量 25 mgを連日経 口投与した臨床試験で,再発ATLに対して高い 奏効割合を示し,世界で初めてMM/MDS以外の 腫瘍で承認された5). 核 酸 代 謝 で 働 く 酵 素 の 1 つ で あ るpurine nucleoside phosphorylase(PNP)は先天欠損す ると,重症複合免疫不全症(severe combined immunodeficiency:SCID)を呈し,特にTリンパ 球が減少することから,皮膚T細胞性リンパ腫 (cutaneous T cell lymphoma:CTCL)/PTCLに対 する抗腫瘍効果が期待されていた.PNP阻害薬 のforodesineはフルダラビン等の核酸アナログ 抗癌薬と類似の構造を有するが,DNA(deoxyri-bonucleic acid)に組み込まれず酵素阻害薬とし て働くので,当初の第I相試験ががん患者ではな く,健常人で行われたユニークなクラスの薬剤 である.米国でのCTCLに対するpivotalな第II相 試験では毒性は許容されたが,奏効割合は11% と低かった.その後の健常人による薬物動態の 再検討で,CTCL試験で用いられた200 mg×1よ りも300 mg×2が良好な血中濃度を呈したこと から,日本で再発PTCLを対象に第II相試験が行 われた.41 名中完全奏効割合 10%,全奏効割 合22%とCTCL試験結果より良好な成績であり, リンパ球減少を主とした血液毒性は同等であっ た6).この結果により,本剤は世界で初めて日 本で再発難治のPTCLに薬事承認された.ただ, 4 名の患者がEBV(Epstein-Barr virus)関連のB 細胞性リンパ腫(EBV-B-LPD(lymphoprolifera-tive disorder))を続発した.PTCLは,特に血管 免疫芽球性T細胞リンパ腫等でEBV-B-LPDを続 発することが知られているが,forodesineでの正 常リンパ球の減少による免疫不全がその発症に 関わった可能性があり,注意を要する.おわりに
「WHO分類2016」でさらに細分化された悪性 リンパ腫の分子病態は明らかになりつつあり, 上述した以外にも,エピゲノムを制御するさま ざまな分子を標的とした治療薬が国内外で開発 されつつある.そのなかでも,有機亜ヒ酸やヒストンメチル化を制御するEZH1/2阻害薬は,日 本を中心にTリンパ腫等を対象として臨床開発 が進みつつある.多くの新薬開発が分子標的療 法, さ ら に 最 近 はchimeric antigen receptor T (CART)細胞療法等を含めて進行しており,難 治性リンパ腫への臨床導入が期待される. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:塚崎邦弘;研究 費・助成金(セルジーン,中外製薬) 文 献 1) 造血器腫瘍診療ガイドライン作成委員会:造血器腫瘍診療ガイドライン2013年版.日本血液学会編.2013,228― 238. 2) 日本臨床腫瘍研究グループ:リンパ腫グループ.http://www.jcog.jp/basic/org/group/lsg.html 3) 塚崎邦弘:抗体医薬mogamulizumab,抗がん薬の臨床薬理.相羽惠介編.南山堂,東京,2013,537―540. 4) Fuji S, et al : Pretransplantation Anti-CCR4 Antibody Mogamulizumab Against Adult T-Cell Leukemia/Lymphoma
Is Associated With Significantly Increased Risks of Severe and Corticosteroid-Refractory Graft-Versus-Host Dis-ease, Nonrelapse Mortality, and Overall Mortality. J Clin Oncol 34 : 3426―3433, 2016.
5) Ishida T, et al : Multicenter Phase II Study of Lenalidomide in Relapsed or Recurrent Adult T-Cell Leukemia/ Lymphoma : ATLL-002. J Clin Oncol 34 : 4086―4093, 2016
6) Tsukasaki K, et al : Phase 1/2 study of forodesine in patients with relapsed peripheral T-cell lymphoma(PTCL). 2016 ASCO Annual Meeting.