緒 言 子宮内膜症は性成熟期女性の約10%が罹患す る良性の慢性疾患であり,月経痛,慢性骨盤痛, 性交痛などの疼痛および不妊をもたらすことに よって女性の quality of life(QOL)を著しく 損ねる.発生原因としては,①月経血の逆流説, ②上皮化生説,③子宮内膜移植説,④良性転移 説,⑤胎生上皮由来説などがあるが,未だ結論 は出ていない〔1,2〕.中でも腸管子宮内膜症は 子宮内膜症患者の ∼10%に合併するとされる 比較的稀な疾患であり,腸管壁の狭窄をきたし て排便痛,月経時の血便および腸閉塞をきたす. 今回私どもは,月経時に腸閉塞を繰り返し原因 不明として保存的に管理されていた腸管子宮内 膜症の 例を経験したので報告する. 症 例 43歳の 回経妊 回経産婦.主訴は下腹痛. 月経歴:初経は12歳.月経周期は30∼50日型で 不順.33歳頃より月経困難症が存在した. 既往歴:36,37,43歳時に腸閉塞と診断され, いずれも内科的精査を施行されたが原因不明で あり,保存的療法で改善していた. 家族歴:特記すべきことはない. 現病歴: 週間前より下腹痛で当院内科を受診 し管理していたが,徐々に症状が増悪し,また 高度貧血,性器出血が出現したために当科を紹 介され受診した. 入院時現症 血圧は100/70mmHg,脈拍は65回/分と正常 であったが,顔面は蒼白で中等量の月経様の性 器出血が持続していた.子宮は手拳大で可動性 は良好,両側付属器は触知しなかった.子宮頸 部細胞診および内膜細胞診ともに異常はなく, 経腟超音波検査で腫大した子宮を認めた.血液 検査では,高度貧血(Hb 値:4.9g/dl)と CA125 値(57.1U/ml)の上昇を認めたが,その他は 異常なかった.重症貧血のため入院管理とし輸 血療法を施行した.同日夜間に腹痛,嘔気,嘔 吐を呈し,腹部単純レントゲンで小腸ガス像を 伴う Niveau 所見を認め,腸閉塞と診断した. 臨床経過 月経に伴い Hb 値が徐々に低下し,入院時の Hb 値は4.9g/dl であり輸血(RCC4単位)を行 った.造影 CT 検査で小腸の壁肥厚,腸液貯留, および広範囲に鏡面像があり,また冠状断面で 回腸末端部に狭窄を疑わせる部位を認めた(図 ).MRI は T2強調矢状断面で,子宮は腫大 し後傾後屈で後壁が肥厚し,点状に高信号領域 を認めた(図 ).横断面では右卵巣は鏡面像 を伴う高信号領域を認め,それぞれ子宮腺筋症, 右卵巣チョコレート囊胞と診断した.内科的精 査(血液検査,上部消化管内視鏡検査および小 腸造影検査)を施行したが腸閉塞の原因となる 所見は確認できず,保存的加療を行った.この 間に詳細な問診を行ったところ,以前より月経 吉田 至幸1),河野 通晴1),伊藤 裕司2),川上 悠介3) 北島 正親3),橋本 敏章3),古井純一郎3),増﨑 英明4)
周期に一致して腸閉塞症状を繰り返していたこ とが判明し,腸管子宮内膜症の可能性があるも のと判断した.当院外科へ相談後,腸閉塞の発 症後20日目に開腹手術を施行した(図 ). 手術および摘材所見 子宮は手拳大に腫大しており,Douglas 窩は 一部閉塞していた.右卵巣はチョコレート囊胞 であり, 左卵巣には表面に red spot を認めた. 上腹部や S 状結腸などに病変はみられなかっ たが,回腸末端は数ヵ所に癒着による狭窄をき たしており, ヵ所に結節性病変を認め腸管粘 膜も引きつれている状態であった.これらが原 因で腸閉塞症状を繰り返していたと考えられ た.また,虫垂も癒着していた(図 , ). 手術は単純子宮全摘術,右付属器摘出術,左卵 管切除術および回盲部切除術を施行した.手術 時間は248分,出血量650ml で輸血 RCC―4単位 を施行した. 組織所見 肥厚した子宮壁に小型の平滑筋腫があり,ま た筋層内には間質を伴う内膜腺上皮がびまん性 に多数認められ子宮腺筋症と診断した.腸管は 狭窄部を含め粘膜下の結節形成があり,筋層内, 粘膜下層に子宮内膜症組織を認め,腸管子宮内 膜症と診断した.上皮および間質ともに異型性 は認められなかった(図 ). 術後経過 術後経過は良好で第 日目より食事を開始し 図 造影 CT A:広範囲に鏡面像を伴う腸液貯留(矢印) B:回腸末端に狭窄を疑わせる部位(矢印) 図 MRI A : T2矢状断面 子宮は後壁が肥厚しており点状の高信号領域を認めた. B : T2水平断面 右卵巣は鏡面像を伴う高信号を認めチョコレート囊胞と診断した.
図 臨床経過
図 開腹所見
図 回盲部の肉眼所見
A:回腸末端に数ヵ所の癒着,結節性病変を呈している. B:粘膜下の腫瘤形成により潰瘍をきたしていた.
た.また,第 日目よりジェノゲスト( mg/ 日)を開始し,術後18日目に退院した.退院後, 腹部症状の再発は認めず,また術前に高値であ った CA125は術後 ヵ月後に18.1U/ml と正常 範囲内に低下した. 考 察 特異部位子宮内膜症の つである腸管内膜症 は,内膜症浸潤が腸管漿膜を越えて固有筋層以 上に存在するもの,または浸潤層が不明な場合, 内膜症のため臨床的に著明な消化器症状を呈す るものと定義されている〔3〕.全子宮内膜症の 約 ∼10%を占め,そのうち約90%が直腸ない し S 状結腸に発生し,小腸での発生は %程 度と比較的まれである〔4〕.結腸子宮内膜症は, 月経時に粘血便や血便,下痢,便秘を伴い,小 腸子宮内膜症はしばしば月経時に反復する腸閉 塞症状を呈する〔5〕といわれており,本症例 でも同様の症状であった. 本疾患について2003年 月から2012年12月の 文献を検索したところ40件( 件は 症例)の 報告がみられた.この41例に自験例を含めた42 例について検討した.平均年齢は39歳(21∼47 歳)で,過去に腸閉塞を認めていたのは 例 (21%)であった.また,術前に腸管子宮内膜 症が疑われたのは19例(45%)にすぎず,約半 数以上の症例が腸閉塞の原因が不明のまま手術 が行われていた(表 ).腸管子宮内膜症は粘 膜面より深層の漿膜側に存在するため,内視鏡 検査では粘膜面に異常はなく腸管の狭小化とし て認められ,また生検での陽性率も低く確定診 断は困難である.そのため術前診断として十分 な問診,内診,直腸診や画像検査などが必要で ある.直腸子宮内膜症は内診,直腸診および MRI ゼリー法が診断に有用とする報告もみら れるが〔6〕,小腸子宮内膜症は特異的な画像所 見を認める例は少なく,術前の確定診断は困難 とされている〔7〕.本例においても過去に腸閉 塞で 回の入院歴があり,いずれも内科的精査 を行われたものの原因不明であり保存的療法で 軽快していた.小腸子宮内膜症は,狭窄の程度 によっては保存的治療のみで軽快しその後の再 発もなかったとの報告もあるが〔8〕,腸閉塞を 発症した症例の場合は病巣部の腸管切除が基本 と考えられている.また,小腸子宮内膜症のう ち11%が肉眼的に骨盤内子宮内膜症を認めなか ったという報告もあることから,子宮内膜症の 表 臨床背景 症例数 42 年齢(歳) 39 (範囲21∼47歳) 腸閉塞の既往(%) (21%) 腸管内膜症の術前診断(%) 19 (45%) 図 A:子宮筋層 子宮筋層に間質を伴う内膜腺上皮を多数認め,子宮腺筋症と診断した. B:回腸 粘膜下に結節形成があり,筋層内,粘膜下層に子宮内膜症組織を認め,小腸子 宮内膜症と診断した.
手術を行う際に回腸末端部,回盲部に異常がな いことを確かめるのは重要と思われる〔9〕.今 回の42例の検討でも26例(62%)が回盲部(回 腸末端を含む)で病変を認めていた(表 ).40 例で腸管切除を施行され再発したのは 例のみ であり,腸管内膜症に対して腸管切除術は有用 であると思われた(表 ).術後の補助療法と してのホルモン療法に一定の基準はないが,再 発率の低下な ど の 有 効 性 も 報 告 さ れ て い る 〔10〕.本例は,ご本人の希望により左付属器を 温存したため再発予防としてホルモン療法(ジ ェノゲスト mg/日)を継続しているが現在の ところ再発所見は認めていない. 結 語 月経時に繰り返す腹痛,悪心・嘔吐を認め, 腸閉塞を発症した小腸子宮内膜症の 例を経験 した.本症例は約10年間において原因不明の腸 閉塞として管理されていた.生殖年齢の女性で 原因不明の腸閉塞を呈した場合は本疾患を念頭 におき対応することが必要であろう. 本論文の要旨は,第34回日本エンドメトリオー シス学会(2013年 月,栃木)において発表した. 文 献
〔1〕Sampson JA. Intestinal adenomas of endometrio-sis type. Arch Surg 1922; :217−280 〔2〕石丸忠之.子宮内膜症の病因.日臨 2001;59(増
刊号):13−20
〔3〕岡田隆雄ほか.腸管の endometriosis,その診断的 アプローチ.外科 1984;46:682−689
〔4〕Macafee CH et al. Intestinal endometriosis : A re-port of 29 cases and a survey of the literatures. J obstet Gynaecal Br 1960;67:539−555 〔5〕石川哲也ほか.腸管子宮内膜症.日本臨床 2009;
67:457−459
〔6〕Anaf V et al. Preferential infiltration of large bowel endometriosis along the nerves of the co-lon.Hum Reprod 2004;19:996−1002 〔7〕青柳信嘉ほか.腸閉塞をきたした回腸子宮内膜症 の一例.日臨外会誌 2004;65:1855−1859 〔8〕三浦卓也ほか.腸管切除を施行せず軽快した子宮 内 膜 症 回 腸 閉 塞 の 例.日 臨 外 会 誌 2009;70: 2372−2376
〔9〕Stahl C et al. Endometriosis of the small bowel. Case reports and review of the literature.Obstet Gynecol Surv 1987;42:131−136
〔10〕泉 信一ほか.ホルモン療法により経過観察した 腸管子宮内膜症の 例.胃と腸 1998;33:1369− 1373