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ADHD傾向者における動機づけシステムが抑うつ・不安に及ぼす促進/緩和的影響の検討

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Academic year: 2021

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-46 388

-ADHD傾向者における動機づけシステムが

抑うつ・不安に及ぼす促進/緩和的影響の検討

○小口 真奈1)、高橋 史2)、高橋 徹1,3)、熊野 宏昭4) 1 )早稲田大学大学院人間科学研究科、 2 )信州大学学術研究院教育学系、 3 )日本学術振興会特別研究員、 4 )早稲田大 学人間科学学術院 【目的】 注 意 欠 如・ 多 動 性 障 害 (Attention-Deficit/ Hyperactivity Disorder; 以下, ADHD) とは, 発達水 準に不相応で不適切な不注意・多動性/衝動性を主な 特徴とする精神疾患である。それらの症状は成人期に も持続し, 抑うつや不安障害を併発しやすいことが知 られている。また, 診断基準は満たさないがADHD症状 を 多 く 示 す 者 ( 以 下, ADHD傾 向 者 ) に お い て も, 24.8%に気分障害, 38.1%に不安障害が併存しており, 強い抑うつ感や不安感にさらされている。このよう に, ADHD症状とそれに伴う 2 次障害の併発しやすさの 背景要因を検討することは, 成人期ADHDの理解と支援 において必須である。 ADHDとうつ病や不安障害に関する病態理解では, 報 酬・罰への反応性に関するGrayの生物心理モデルが活 用されている。気質的で生物学的な特性である動機づ けシステムとして, 行動抑制システム(Behavioral Inhibition System; BIS) と 行 動 賦 活 シ ス テ ム (Behavioral Activation System; BAS) が提唱されて

いる。BISは罰や無報酬, 新奇性の信号を受けて活性 化する動機づけシステムであり, BISが活性化するこ とで潜在的な脅威に対して注意が喚起され, 進行中の 行動が抑制される。また, BISの活性化はADHDの症状 である不注意及び衝動性/多動性の増加と関連する。 さらに, うつ病患者は健常者よりもBISの得点が高い ことや, 抑うつと不安の双方に対して因果的影響を与 えているなど, BISはうつ病や不安症の素因になると 考えられている。以上のことから, 不注意の増加にと もなうBISの活性化は抑うつ・不安を促進する危険因 子である可能性が考えられる。 一方でBASは, 報酬の呈示によって活性化する脳内 システムであり, このシステムの活性化により目標を 達成するための接近行動やポジティブ情動が引き起こ される。BASの活性化はADHDの衝動性・多動性と関係 があることが指摘されている。しかしながら, BASは ネガティブ気分の抑制や, ネガティブ気分からの回復 を促進するとされており, 健常者はうつ病患者よりも BASの得点が高い。さらに, BASの報酬反応性は内在化 問題を減少させる適応的要因であることが報告されて いる。そのため, 多動/衝動性と正の相関を示すBASは 抑うつ・不安を緩和する防御因子である可能性があ る。 そこで, 本研究では, ADHD傾向者における行動抑制 システムと行動活性化システムが 2 次障害である抑う つ・不安に及ぼす影響について検討することを目的と した。仮説は以下の通りである。 仮説 1 . 多動性/衝動性と正の相関を示すBASは抑う つ・不安を減少させる防御因子となる。 仮説 2 . 不注意と正の相関を示すBISは抑うつ・不 安を増加させる危険因子となる。 【方法】 研究参加者: 4年制大学に在籍する大学生503名を対象 に質問紙調査を実施した。その中から欠損値を含む回 答を除外し, 計419名 (男性172名, 女性247名, 有効 回答率 = 83.3%) を分析対象者とした。対象者の平均 年齢は20.01歳 (SD = 1.19歳, 年齢範囲18-28歳) で あった。なお, 使用したデータは, 小口他(2018)を 再分析したものである。 測定内容: ( a ) デモグラフィックデータ (年齢, 性 別), ( b ) ADHD症状: Adult ADHD Self Report Scale 日本語版 (ASRS-v1.1) Aパート, ( c ) 動機づけシス テム: Behavioral Inhibition System/Behavioral Activation System 日本語版 (高橋ら, 2007), ( d ) 抑うつ: Patient Health Questionnaire日本語版 (PHQ-9; 村松, 2014), ( f ) Generalized Anxiety disorder-7 日本語版 (GAD-7; 村松, 2014) を使用し た。 解析計画: ASRSパート A の該当項目について, 4項目 を不注意, 残りの 2 項目を多動性/衝動性とする (Das et al., 2012)。一次的分析として, Pearsonの積率相 関係数関係を算出する。次に, ADHDのそれぞれの症状 が動機づけシステムを介して抑うつおよび不安をもた らす仮説モデルの検討を行う。共分散構造分析を用い て有意でないパスを削除し, 最終的に得られた全モデ ルの適合度指標を比較し, 最も良好な値を示したモデ ルを採択する。適合度指標としては, Χ2 値,GFI, Adjusted GFI (AGFI), Comparative Fit Index (CFI), Root-Mean-Square Error of Approximation (RMSEA) を使用する。モデルを採用するには, データ

解 析 に は , 統 計 解 析 ソ フ ト ウ ェ ア I B M S P S S Statistics22とAmos25を用いた。

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-46 389 -審査および承認を受けて実施された。 【結果】 最終モデルにおいて以下の結果が得られた。 多動性/衝動性: 多動性/衝動性はPHQ (β = .31, p <.001) とGAD (β = .23, p <.001) に対する直接促 進効果がみられた。一方, 多動性/衝動性の高さはBAS を経由する (β = .22, p <.001) とPHQ (β = -.20, p <.001) とGAD (β = -.10, p <.001) を減少させると いう間接緩和効果を示した。 不注意: 不注意においても, PHQに対する直接促進 効果 (β = .13, p <.001) がみられた。更に, 不注意 はBIS (β = .26, p <.001) を媒介し, GADに対して (β = .44, p <.001), PHQに 対 し て(β = .24, p <.001)という間接促進効果を示した。 また, 多動性/衝動性と不注意 (r = .36, p <.001) が関連を有していた。更にPHQとGADが関連性 (r = .62, p <.001) を有していた。 【考察】 本研究では, ADHD症状が抑うつや不安を引き起こす プロセスにおける動機づけシステムの役割を明らかに することを目的とした。分析の結果, ADHDの不注意症 状は行動抑制システムを介して抑うつ・不安を導くこ と, および, ADHDの多動性/衝動性による行動賦活シ ステムの活性化は抑うつの保護因子となり得ることが 示唆された。 ADHD症状のうち不注意が高い研究参加者は, BISが 強く, 結果的に抑うつや不安が高まる傾向があった。 ADHD症状とBISのつながり, BISと不安のつながりが あった点については, 過去の研究知見と一致する。本 研究の結果はこれらの変数間の関係性を追認したとい える。言い換えると, 失敗体験やADHDの問題点につい て罰を用いてなくそうとする方略は, BISを活性化し, ひいては抑うつや不安の増大につながる可能性があ る。 ADHD症状のうち多動性/衝動性は,BASを活性化させ ることで,結果的に抑うつと不安を弱める効果を示し た。ADHD症状とBASの正の相関を示した研究や, BASが 抑うつを緩和することを報告した知見をふまえると, 本研究の結果は妥当であるといえる。BASは心理的 ウェルビーイングやレジリエンスとも関係があり, ポ ジティブな出来事の経験を増やすことが知られてい る。ADHDに伴う二次障害を予防し, 生活の質を向上さ せるためには, BASが強いというADHDの特徴を生かす ことが重要であるだろう。実際, 成人期ADHDに対する 心理療法のRCTによると, 報酬の明確化や活動計画と いった行動活性化アプローチを含む介入プログラムに は, ADHD症状や抑うつを改善する効果がある。 しかしながら, 本研究の分析結果から, ADHD症状と 抑うつ・不安との間には動機づけシステムを媒介しな い関係性があることが示唆された。今後は, 本研究が 焦点を当てた動機づけ要因だけでなく, 負の抑うつ的 帰属スタイルや対人関係, 労働環境など, ADHD症状の 二次障害の背景要因となり得る認知的・社会的・環境 的要因を考慮した研究が必要である。 【主要引用文献】 小口真奈, 高橋史, 高橋徹, 熊野宏昭. (2018). ADHD 傾向者における能動的注意制御が反芻/省察に及ぼす 影響. 日本心理学会.

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