クサカリツボダイの干物から出てきた異物

Carcinological Society of Japan

クサ力リツボダイの干物から出てきた異物

Foreign body found in dried fish of pelagic armorhead (Pseudopentaceros wheelerz)

柳本 卓

l

・鈴木重則

2・小谷幸敏3

Takashi Yanagimoto

，

Shigenori Suzuki

，

and Yukitoshi Kodani

AOSTRACT: Tbe mitocbondrial COI gene of foreignbody foundin dried自sbofpelagicarmorbead (Pseudopentaceros wheeleri)was estimatedby DNA analysis. This sequence was similarto出oseofCopepoda合.om the resultofblast analysis. And出issequence resembled that of Pennella sp. collected合omJapanesepuffer自sh(Takifugu rubripes).Jt is repo此.edthat P hawaiiansishas been parasiticonpelagicar -morhead in 1970's.From theseresults

，

itwas considered thatforeignbody in dried自shofpelagicarmorhead was P. hawaiiansis. Key Words:Foreignbody

，

Pennellahawaiiansis， pelagic armorhead， COI， dried自sh . は じ め に ク サ カ リツボダイ (Pseudopentaceroswheeleri) は 北太平洋に散在する水深 300~500mの海山の頂上 から斜面域に分布しており，北方トロール船で漁獲 されている(柳本， 2010).これらは漁獲後，船上 にて頭と内蔵を取り出して冷凍される.塩竃や石巻 1 (独)水産総合研究センター中央水産研究所水産遺伝 子解析センター 干236-8648神奈川県横浜市金沢区福浦2ー12-4 Research Center of Aquatic genomics

，

NationalResearch Institute of Fisheries Science， 2-12-4 Fukuura， Kanaza -wa， Yokohama， Kanagawa 236-8648， Japan

E-mail: yanagimo@a飴c.go.JP

2 (独)水産総合研究センター増養殖研究所南伊豆栽培

漁業センター

干415-{)156静岡県賀茂郡南伊豆町石廊崎183-2 Minami-Jzu Laboratory， National Research Center of Aquaculture， 183-2 MinamトJzu，Kamo， Shizuoka415 -0156， Japan 3 (地独)鳥取県産業技術センター食品開発研究所 干684-{)041 鳥取県境港市中野町2032-3 Food Researcb

&

DevelopmentLaboratory， TottoriInsti -知teofIndustrialTechnology， 2023-3Nakano， Sakaimi -nato， Tottori684-{)041， Japan で水揚げされ，それらは加工業者で腹聞きやフィ レーにした後， 一夜干し，みりん干し，粕漬けなど に加工される.小骨が少なく，脂が多くて美味しい 魚である. 2013年 6月に，この製品を取り扱っている業者に 消費者から，

I

クサカリツボダイの一夜干しを食べ たところ，可食部から異物が発見されたが，これは いったい何なのかJ，という問い合わせがあった CFig.1).また，

i

楕円の袋状のものから触手のよう なものが3本出ていて，それらには穴がある.また， 楕円の袋状のものにはイカの肝臓のように脂質が多 く，独特の異臭を発した

J

，ということであった. ここでは，この異物についてDNA分析を行い，ど のような生物種であるのかを調べたので報告する. . 材 料 と 方 法 20日年

6

月に業者から送られてきた異物の

3

か所 から組織を摘出し， QucikGeneσuji Co.，)を用いて DNAを抽出した CFig.2). クサカリツボダイの表 面にはPennellahawaiiansisが寄生していると報告が あり CKazatchenko& Kurochkin， 1974)，これが異物 の正体である可能性がある.この寄生虫はサンマに 寄 生 す る サ ン マヒジキムPenne//asp.(Nagasawa et al.

，

1988)

，

マンボウなどに寄生するPfilosa(Hogans， 1987)， トラフグに寄生するPenne/lasp.C

桃山

・

天

社， 2006) と近縁種である.クサカリツボダイに寄 生する寄生虫やサンマヒジキムシを入手できなかっ たので，2014年 l月に遠州灘で採集されたトラフグ に付着していたPennellasp.の組織を摘出して，異物 と問機にDNAを抽出した.これらのDNAに対して， Folmer et al. (1994)の LCOl490C5'-ggtcaacaaatcataaa

-柳本卓・鈴木重則・小谷幸敏

Fig. I. Photograph 1 of foreignbody什omdriedfish of pelagicarrnrohead

Fig. 2. Photograph2 offoreign body fromdried fishof pelagicarrnrohead Allows indicatesamplingpa目sof foreign body.

gatattgg-3')とHC02198

(

グ

ー

taaacttcagggtgaccaaaaaatca-3 ，)

T

a

q

Polymeraseに はTakaraEX

TaqTM

HS (Takara)を

のプライマーを用いて， mtDNAの

c

o

r

領域をPCR 用いた.PCRの 反 応 条 件 は940

C2分加熱した後，

法によって増幅した.サーマルサイクラーにはGene 940

C30秒， SSoC30秒，

n

O

_C2

分 を30サ イ ク ル 行つ

Amp PCR System 9700 (Applied Biosystems)を， た後，最後に

n

O

C

で7分加熱した.PCRの反応溶液

は， dNTPs 50 nmol，各プライマー 25pmol，付属の buffer2.5μ

1

，

T

a

q

polymerase2.5units，粗全DNA

溶液

を含む 25μ!とした.1.5%アガロースゲル (Takara， NuSieve3・1)電気泳動によって増幅産物の確認を 行った後，Exo-SapIT (GEヘルスケア)により精製 を行った.精製したPCR産物をテンプレートとし て， BigDyeTerminatorKitYer3.1 (AppliedBiosystems) を用いてシーケンス反応を行った. シーケンス反応 には， PCRで用いたのと同じプライマーを用いた. シーケンス反応物を蛍光シーケンサー ABI3130XL (AppliedBiosystems)にて電気泳動を行い，塩基配列 を決定した.インターネット上の遺伝子相向性検索 ソフトBlast(Altschuleta/.

，

1990)によって，塩基配 列がどのような種と近いかを検討した.また，近い 配列の生物種の塩基配列と併せて，MEGA5.05ソフ トウエア (Tamuraet a/.

，

2011)を用いて， Kimura two-parameter法 (Kimura，1980)により遺伝距離を 求め，近接接合法 CSaitou& Nei， 1987)により系統 樹を作成した.系統樹の信頼性を1000回のブース トラップ検定 (Felsenstein，1985)によって評価した.

園 詰 果

送られてきた異物は乾燥し，当初送られてきた異 物 の 写 真 に 比 べ る と ， 壊 れ た 状 態 に な っ て い た CFig. 2). 異 物 と Penne//a.sp.から DNAを抽出し， PCR法によって増幅産物を得ることができた.それ らの増幅産物を精製して塩基配列463bpを決定し た.異物の3か所の塩基配列には差がなく ，Penne/la sp.との塩基の違いは， 1塩基だけであった. この塩 基置換によるアミノ酸置換はなかった.これらの塩 基配列についてBlast分析を行った.その結果，異 物の塩基配列はシフォノストム目のKroyeriadecepta (FJ447365)，カラヌス目パラカラヌス科の Paraca/a -nus acu/eatus(KC287770)， P. pa川 s(EU856801)，カ ラヌス目ヘテロラブドウス科のHeterorhabdusnor -vegicus (FJ602500)の COIの塩基配列と類似性が高 かった.類似性の高かった4種とPenne//asp.の塩基 配列を用いて， NJ系統樹を作成したところ，異物 はブートストラップ値100%信頼イ直て、Penne/lasp.と クレードを形成した (Fig.3).このクレードに，シ フォノス卜ム目のK.deceptaが加わり，次いでカラ 100 r Foreign body L PS

KD

100

，

PA 'PP HN

l

n u n u a E

_・

0.05 Fig.3. NJ仕eeofforeign bodyand otherorganisms PS:Penne/la sp.， KD: Kroyeria decepla， PA・ Paracalanus aculeatus， PP:Paracalanus pa円 相s， HN:Helerorhabdusnorvegicus. Barindicategeneticdistance. ヌス目パラカラヌス科のP.acu/eatus， P.parvus， カ ラヌス目ヘテロラブドウス科のH.norvegicus)が加 わる系統樹になった (Fig.3).

固 有 事

クサカリツボダイの干物から出てきた異物の COI の塩基配列は，Penne/la sp.の塩基配列に類似して いることから，クサカリツボダイに寄生していたと 報告されているP.hawaiiansisである可能性が高いと 考 え ら れ る (Kazatche此0，& Kurochkin， 1974). P. hawaiiansisの頭部には3つの突起があり，本異物に も同様な 3つの突起がある (Fig.1). ただし，本異 物には肥大化した部分があるが (Fig.1)， P.hawai -iansisにはそのような部位は見られない (Kazatchenko， & Kurochkin， 1974).他のPenne//a種を見ても，すべ て細長い形態をしている(亀谷， 1963; Kazatchenko， & Kurochkin

，

1974; Hogans

，

1987). 他 のPenne//a種 の記載では，頭部から，頭部，そして生殖器部が続 く(亀谷， 1963).本異物がP.hav.仰iansisであると すると， 肥大化した部分は位置的に生殖器部に当た ると推測される.P. hawaiiansisは宿主であるクサカ リツボダイから栄養を取って，再生産のため生殖器 部を発達させていたのかもしれない.残念ながら異 物 を 入 手 し た 際 に は 乾 燥 し て破損していたこと (Fig.2)，また，現物は業者に返品してしまったの で，生殖細胞の有無などの確認は出来ていない.他 のPenne/la種についても，このような現象は報告さ れていないため，今後，調べていく必要があると考

えられた. 漁 業 者 か ら 2012年 に ク サ カ リ ツ ボ ダ イ に も 寄 生 虫 ら し き も の が 多 数 付 着 し て い る と 連 絡 が あ っ た . しかし，その寄生虫らしきものを入手することはで きなかった.その後， 本 報告で用いた異物が発見さ れた.クサカリツボダイの干物の詳細な履歴を知る ことはできなかったが， 20日 年 に 販 売 さ れ て い た ことから 2012年 に 漁 獲 さ れ た も の を 用 い て ， 干 物 に し た と 推 測 さ れ る . 1970年 代 前 後 に 採 集 さ れ た クサカリツボダイには多数のPh

σ

wallanSISが付着し て い た こ と が 知 ら れ て い た が CKazatchenko，& Ku-rochkin， 1974)， そ の 後 ， 本 寄 生 虫 が 付 着 し て い た と い う 報 告 は な い . 著 者 は 1992年 か ら 2010年 ま で クサカ リツボ夕、イ約5000尾 を 対 象 に 体 表 の 寄 生 虫 の有無について調べてきたが，寄生虫を発見するこ とはできなかった.一方，クサカリツボダイと同様 に，2012年 に サ ン マ ヒ ジ キ ム シPennellasp.が サ ン マに大量に寄生していたことが報告されている(巣 山 ら ， 平 成 25年 度 日 本 水 産 学 会 春 季 大 会 講 演 要 旨 集p.60). サ ン マ ヒ ジ キ ム シPennellasp.は 1980年 代前半に多数のサンマに寄生していたと報告されて い る が CNagasawaet a/.， 1988)，その後，サンマヒ ジキムシのサンマへの寄生はほとんどなかった.こ のように，サンマヒジキムシとクサカリツボダイの 寄生虫は同様な出現傾向を示しているので， 本 報告 の 寄 生 虫 が サ ン マ ヒ ジ キ ム シ で あ る 可 能 性 も あ る . Pennella属の種を網羅的に収集して， DNAや 外 部 形 態を調べた研究報告はない.今後，このような研究 を行い，近年の寄 生 虫 の 分 布 や 生 態 ， 寄 生 虫 の 大 量 発生メカニズムを明らかにする必要がある.更に， 寄生による宿主への影響を調べれば¥宿主の資源動 向予測に役立つ可能性もある. 最後に，クサカ リツボダイの一夜干しの可食部か ら出てきた異物はP hawaiiansisで あ る 可 能 性 が 高 くなったが，外部形態などの観察が十分でないこと か ら 確 定 は で き な い . た だ し，Penne//a類で、あるこ と は 間 違 い な い と 考 え ら れ る . ま た，Pennellaによ る食中毒はこれまで知られていないので，間違って 食べても問題はないと考えられる.ただし，見た目 の悪さと本異物のように異臭がするのであれば問題 がある.

国

語 辞

本研究で用いたクサカリツボダイの異物は株式会 社ダイマツに提供して頂いた.また，東京海洋大学 大 学 院 の 岡 崎 恵 美 子 教 授 に は ， 異 物 の DNA分 析 を させて頂く，機会をいただいた.この場を借りて各 位に厚くお礼申し上げる.

E

支

7

証

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ー

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，

40・59

-

6

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