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Cancer 26 (2017)
書評 Book Review
本書は,主著者の星野氏が撮影したフィールド写
真とそれに関する解説を中心としたものであり,表
紙においてクマノミ口腔内のウオノエ類が主役を務
めていることから分かるように,特に寄生生物に焦
点が当てられている.寄生生物というと,一般には
良い印象を持たれていないかもしれないが,伊豆大
島で水中ガイドをしている主著者によって撮影され
た写真はいずれも美しく,見れば見るほど生命の形
や暮らしぶりの不思議に引き込まれる.また,寄生
性等脚類などの分類学に取り組まれている齋藤氏と
水族寄生虫を幅広く研究されている長澤氏がそれぞ
れ共著者,編著者として加わっているほか,巻末に
記されているように11名の専門家に協力を求める
ことによって,その内容の学術的な正確性について
も配慮されている.したがって,単なる写真集とい
うわけではない.
本書の内容は,巻末の齋藤氏による文章を除くと,
各ページが個別のタイトルを持って独立しており,
4つのコラムのほかはそれぞれのページに配された
写真と解説が主体となっている.そのため,どの
ページからでも楽しんで読み進めることができるだ
ろう.ただし,概ね分類群や話題毎にページがまと
まって配列されており,ところどころにコラムを挿
入することによって話題の転換が図られているよう
である.目次をめくって最初に登場するのは,主著
者に献名された寄生性カイアシ類のホシノノカンザ
シであり,後続のページでホシノノカンザシの幼生
の孵化や重複寄生などに触れつつ,
19ページまで寄
生性カイアシ類が紹介されている.全体の中でもっ
とも多くのページが割かれていることから,主著者
が特に興味を抱いているグループであろうことが伺
える.続く
3ページで自由生活性のカイアシ類を取
り扱った後は,「共生か寄生か」というコラムを挟
んで掃除共生に関わるクリーナー,ウオノエ類をは
じめとする寄生性の等脚類,ウオビル類,寄生性の
巻き貝類が44ページまで紹介されている.48ペー
ジ以降で取り上げられている生物は必ずしも寄生性
のものとは限らず,むしろ自由生活種が中心であ
る.ヨコエビ類をはじめとしたフクロエビ類に関す
る話題が多いが,その他にも多毛類や刺胞動物,イ
ソヤムシ類やリザリア類までが含まれており,やや
雑多な印象を受けた.
掲載されている生物の多くは1 cm以下と小型で,
そのために全編が鮮明なクローズアップ写真で彩ら
れている.宿主にとっては迷惑なのだろうが,寄生
性カイアシ類は宝石のように美しく,アミヤドリム
シ類に寄生されたアミ類は帽子をかぶっているよう
でユーモラスだ.また,オニナナフシ類やワレカラ
類の保育行動,イソヤムシ類の配偶行動などの興味
深い現象も紹介されている.微小な生物を水中で撮
影するためには,道具立てや観察方法にも多くの試
行錯誤があっただろうし,フィールドで一つ一つの
生物を見いだし,その生態をはっきりと捉えるため
には,絶えざる観察に裏打ちされた経験と根気が必
要であったに違いない.
40ページには「寄生生物
の撮影テクニック」と題されたコラムがあるが,技
術以上に,強い好奇心・探求心と,その場面を写真
に収めることへの欲求があってこそのものだろう.
美しい写真に加えて,それぞれの写真に付された
解説も本書の魅力である.その筆致は観察者として
の主著者の視点に基づいたものであり,たとえば,
ウオジラミ類についての「撮影機材を近づけるとレ
ンズなどに付着したことがあった.宿主間を移動す
ることができるのかもしれない.」(p. 17)やオニナ
ナフシ類についての「…幼体を砂地に降ろし,まる
で遊ばせているようであったが,観察者が近くにい
たためか,親は触角を用いて幼体を再び触角上に移
書評「海の寄生・共生生物図鑑―海を支える
小さなモンスター―」
星野 修・齋藤暢宏著,長澤和也編著
築地書館
2016年7月刊,四六判,112 pp
ISBN978-4-8067-1517-7 1,600円(+税)
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書評
して,子守行動を開始した.」(
p. 59)といった記述
は実際に現場で観察したからこそである.そのた
め,それぞれの解説は非常に臨場感に富んでおり,
掲載された生物のみならず,その観察者の存在を強
く感じさせる本であるように思われた.
「はじめに」で「普段,気づくことのない小さな
生物たちの存在を知ってもらうことで,生物の多様
性を伝えることができれば幸いである.」とあるが,
本書で紹介されている生物は一般に馴染みのない
ものである上,多彩で見飽きることがない.また,
「あとがき」で「なんと美しい世界だろう.この美
しい世界を多くの人に知ってもらいたい.」と述べ
られているように,写真に収められた生物はいずれ
も美しく,その形や色彩に目を奪われる.こうした
点で,著者らの目論見は成功していると言え,海の
生物に関心をもつものの好奇心を大いに刺激するだ
ろう.ただし,タイトルと内容が一致していないよ
うに思われる部分があり,そこがどうしても気に
なってしまうことが難点と言えるかもしれない.
本書は「海の寄生・共生生物図鑑」と銘打たれて
いるが,実際に扱われている寄生生物は一部の外部
寄生性のものに限られている上,共生についてはあ
まり強調されておらず,後半部分では自由生活性の
種が中心である.さらに,浮遊性のリザリア類や付
着性の花虫類などまでが取り上げられている一方
で,掲載されていない海洋生物の主要な分類群も多
数ある.本書は主著者の観察記録そのものであり,
その興味の方向性が内容に反映されていると思えば
納得できるが,「図鑑」と思ってしまうと,その言
葉から想像されるほど網羅的ではなく,脈絡がない
印象を受けてしまうのだと思う.
タイトルが内容や魅力を表現するのに最適だった
かという部分には疑問が残るが,顧みられることが
少ない寄生生物を中心に取り上げた本書は,共著者
による巻末の文章にあるように,類書がなく,その
美しい写真と臨場感ある記述とが合わさって,読者
の好奇心を大いに刺激するだろう.私自身,本書を
読んですぐにでもフィールドに行きたい気持ちにさ
せられた.主な購買層としてはレジャー目的のダイ
バーなどが想定されるのかもしれないが,本書が
きっかけになって,寄生性カイアシ類やウオノエ類
をはじめとした「普段,気づくことの内小さな生物
たち」に目を向ける人が増えたら素晴らしい.ま
た,それによってまた新たな種や現象がみつかるの
ではないか?そんな期待を抱かせる一冊である.
(田中克彦 東海大学海洋学部)