糖尿病・健康寿命延伸における運動の意義と理学療法士への期待
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(2) 200. 理学療法学 第 47 巻第 2 号. 図 1 我が国における要介護になるおもな原因. ことが,非喫煙状態と似ていることがいえる。つまり,. ことがすでに明らかとなっている。たとえば,血糖値や. 疾患の改善に捉われると,運動不足を見落とし,新たな. 血圧,脂質代謝異常,心血管イベントだけでなく,骨粗. リスクをつくりだしてしまう可能性がある。食事療法を. 鬆症,うつ病,ガンについても予防効果が期待されてい. 一生懸命やっていれば,血糖コントロールはある程度改. る 。現在,我が国における糖尿病患者の死因はガンが. 善されるであろう。それは三大合併症を予防する意味で. 増えてきており,今後注目されるべきエビデンスである. は,重要な要素であるが,様々な予後を改善する,健康. と考える。これ以外にもフィットネスレベルが低いとそ. 寿命を延伸するという知見からは不十分である。. の後の医療費が高くなることも示されている. 運動が寿命に関連するかどうかを検証するには,疫学 的な方法でないと難しいが,疫学的な研究では交絡があ. 6). 7). 。. 脂肪筋・脂肪肝と食事・運動療法. るため,常にその解釈に注意が必要である。実際に,肥. このように,運動には体重の変化とは独立してなんら. 満が様々な疾患のリスクとなっていることが知られてい. かの健康効果をもたらす可能性が示唆されたが,そのメ. るが,肥満者では運動不足の人が多く含まれているた. カニズムは十分解明されていない。しかし,近年,異所. め,運動をしていないことが悪いのか,運動しない結果. 性脂肪の測定が可能となり,その重要性が指摘されてき. として生じた肥満が悪いのか,どちらが直接的な病気の. ている。異所性脂肪とは,脂肪組織以外の異所,特に肝臓,. 4). 発症リスクであるかが長年議論されている 。この点に. 骨格筋の細胞内に溜まる脂肪とここでは定義する。近年,. 関して,近年の疫学研究は「フィットネスレベル」が直. proton magnetic resonance spectroscopy(以下, H-MRS). 接的な疾患発症や予後規定因子ではないかということを. 法で細胞内脂質量(異所性脂肪)の測定が可能になった. 示唆している。そのひとつの研究として,14,345 名の男. ことがブレークスルーとなり,一般的に肥満に伴って発. 5). 1. 。この研究で. 生すると考えられていたインスリン抵抗性が,痩せてい. は,トレッドミルによる最大酸素摂取量とともに BMI. ても骨格筋細胞内脂質(以下,脂肪筋)や脂肪肝の蓄積. を平均 6.3 年のインターバルで 2 回測定し,被験者を. がある場合でもそれぞれの臓器にそれが生じることが明. BMI が増加,減少,安定,フィットネスレベルも増加,. らかとなってきた。脂肪筋はおもに中性脂肪として存在. 減少,安定の 3 × 3 の 9 グループに分けて,その後平均. するが,その中間代謝産物である,diacylglycerol(DAG). 11.4 年の観察期間を設けて,各グループの総死亡率など. はインスリンシグナル伝達を阻害し,インスリン抵抗性. を観察した。その結果,総死亡率は BMI の増加とは関. 8) が発生すると仮説が立てられている 。. 連せず,フィットネスレベルの低下していた 3 群で有意. 我々はこの点に関して,2 型糖尿病における食事,運. に増加したことが示された。同様の調査結果は複数報告. 動療法の脂肪筋,脂肪肝に対する意義について検討した。. 性の総死亡率を調査した観察研究がある. されているが. 4). ,これらの研究は観察研究であるため,. 2 週間の糖尿病教育入院となった 2 型糖尿病患者 14 名. 因果関係までは明らかにされていない。つまり,体重が. を食事療法単独または,食事+運動療法により加療を行. 増えていったとしても体力が維持または増加していれば. 1 う 2 群に分け,入院前後に H-MRS により脂肪筋,脂肪. 安心であるとはいえないものの,私達がよりフィットネ. 肝を定量評価し,同時に高インスリン正常血糖クランプ. スレベルの維持,増加に気を配る必要があることを考え. に経口糖負荷を組み合わせて,末梢インスリン感受性,. るべきであろう。. 9) 肝糖取り込み率を測定した 。介入による体重の変化は. これ以外にも,運動は多面的に健康効果が期待できる. 有意ではあるが,2% 程度と両群とも軽度であった。し.
(3) 糖尿病・健康寿命延伸における運動の意義と理学療法士への期待. 201. 図 2 食事・運動療法による IMCL とインスリン感受性の変化. かし,脂肪肝は,両群ともにほぼ同等に約 30% 減少し,. のインスリン抵抗性を認め,これとは逆に内臓脂肪蓄積. それに伴って肝糖取り込みは増加した。骨格筋に関して. があっても脂肪肝がなければインスリン感受性は良好で. は,食事療法単独では脂肪筋とインスリン感受性は有意. あること,内臓脂肪蓄積と脂肪肝が両方あっても,脂肪. に変化しなかったが,食事+運動療法群では脂肪筋が. 肝単独とインスリン抵抗性は同程度であることが明らか. 19% 減少し,インスリン感受性は 57% 増加した(図 2) 。. となった(図 4) 。つまり,非肥満者では内臓脂肪蓄積よ. これらのことは,食事療法はおもに肝臓の,運動療法は. りも脂肪肝の方がより強く骨格筋インスリン抵抗性と関. おもに骨格筋における異所性脂肪を減少させ,それぞれ. 連することが明らかとなった。このように肝機能や脂肪. の臓器の代謝(インスリン抵抗性)を改善することを示. 肝などをマーカーに骨格筋インスリン抵抗性となってい. 唆している。本事象は,食事,運動療法は作用する臓器. る患者を拾い上げ,運動療法を積極的に勧めることが効. が異なり,それゆえ両方の加療を並行して行うことに意. 果的な介入になることが期待される。. 義がある,という病態生理学的な裏づけにもなりうる。. 骨格筋インスリン抵抗性のマーカー. 骨格筋量の低下(サルコペニア) 高齢者で身体活動が低下する原因のひとつは,自分の. このように,運動療法(有酸素運動)は骨格筋インス. 体重を自分の脚で支えられなくなることである。これは. リン抵抗性の改善に有用であるが,どのような人がイン. おもに老化により骨格筋量が低下することにより生じ,. スリン抵抗性をもつか事前に知ることができれば,効率. 加齢による骨格筋量の低下をサルコペニアと呼ぶ。高齢. のよい運動療法の導入が可能になるかもしれない。この. 者で骨格筋が減少する原因として,タンパク質合成刺激. 点から,最近になって肝機能や脂肪肝が運動不足や骨格. の減少(低栄養や運動不足)やタンパク質合成刺激に対. 筋インスリン抵抗性のマーカーになっていることが,糖. する感受性の低下が要因として考えられている。特に女. 尿病を合併している. 10). ,またはしていない非肥満者にお. いても明らかとなってきており. 11). ,さらに内臓脂肪より. も脂肪肝の方がインスリン抵抗性を予知するマーカーと して適していることも明らかとなってきた. 12). 。たとえば,. 性の糖尿病患者では骨格筋量が減少しやすいことが示さ れており,よりそれを防ぐ取り組みが求められている。 我々の研究により,骨格筋量が少ないと糖負荷後の高血 糖が増加しやすいことも明らかとなった. 13). 。また,骨. 非肥満者の内臓脂肪量と肝脂肪量の関連を見ると,全体. 格筋量の低下,特に膝関節伸展力の低下は変形性膝関節. 的に正相関するものの,様々なパターンがあることが明. 症のリスクとなる。このような疾患は,患者の身体活動. 2. らかとなった(図 3) 。そこで,内臓脂肪面積 100 cm 以. 量をさらに低下させ,二次的に他の疾患を増やす要因に. 上,肝内脂質量 5%以上をそれぞれ内臓脂肪蓄積,脂肪. なるであろう。. 肝と定義し,対象者を両者とも基準値以下のコントロー ル群(54 名) ,内臓脂肪蓄積単独群(18 名) ,脂肪肝単独. 運動の個別化をめざして. 群(7 名) ,内臓脂肪蓄積+脂肪肝群(8 名)の 4 群に分. このように,骨格筋インスリン抵抗性や骨格筋量の低. けて,インスリン感受性や臨床背景因子を比較した。す. 下は,様々な疾患発症のリスクを増加させ,健康寿命を. ると,内臓脂肪蓄積がなくても,脂肪肝があると骨格筋. 短縮することになると考えられる。しかし,その程度に.
(4) 202. 理学療法学 第 47 巻第 2 号. 図 3 各個人の内臓脂肪面積と肝内脂質の分布 内臓脂肪面積 100 cm2 以上,肝内脂質量 5%以上をそれぞれ内臓脂肪蓄積, 脂肪肝と定義し,両者とも基準値以下のコントロール群(左下:54 名), 内臓脂肪蓄積単独群(右下:18 名) ,脂肪肝単独群(左上:7 名) ,内臓脂 肪蓄積+脂肪肝群(右上:8 名)の 4 群に分けて,比較を行った.. くの研究が必要である。 我々は,これらのエビデンスの構築のために,このよ うな骨格筋の質(インスリン抵抗性)と骨格筋量の低下 が,要介護疾患にどのように結びついているか,文京区 の住民を対象とした前向き観察研究 Bunkyo Health Study を進めている. 14). (https://www.juntendo.ac.jp/graduate/. laboratory/labo/sportology/k2_bunkyo.html) 。具体的に は,文京区在住の 65 ∼ 84 歳の高齢者のうち,無作為に 住民台帳より抽出された地域住民 1,629 名を対象に骨格 筋量(DXA インピーダンス法) ,筋力(膝関節伸展筋力, 握力),筋インスリン感受性(75 g 経口糖負荷試験によ 図 4 各群での骨格筋インスリン感受性. る評価)を詳細に評価するのみならず,全例に対して, 脳小血管病変や全脳体積(頭部 MRI 検査) ,腰椎・大 骨頸部の骨密度(DXA 検査による骨量測定) ,認知. は個人差があり,その個人差に応じた合理的な運動指導. 機能(MMSE,MoCA-J などの質問紙調査),動脈硬化. が今後なされるべきかもしれない。たとえば,骨格筋イ. (CAVI 検査) ,運動能力(歩行テスト,開眼片足立ちテ. ンスリン抵抗性を有し,メタボリックシンドロームや脳. スト,ロコモ度チェック等) ,内臓脂肪量(腹部 MRI 検. 血管疾患のリスクが高い人に対しては有酸素運動がおも. 査),変形性膝関節症(膝関節 MRI 検査,レントゲン検. に勧められ,サルコペニアが中心の患者にはレジスタン. 査)などの評価を行うとともに,身体活動量(IPAQ) ,. ス運動が第一に勧められる。具体的には図 5 にある通り,. 食事摂取量(BDHQ) ,睡眠(PSQI-J)といった生活習. 現在診ている患者は,骨格筋量とインスリン抵抗性によ. 慣の評価を行っている。また,末梢血より DNA を抽出. り 9 つのカテゴリーに分けられ,それに応じた合理的な. し,遺伝子多型を同定し,疾患発症などとの関連を調査. 介入が提案できると考えられる。現在の身体活動のガイ. している。現在,1 年ごとに郵送アンケート調査ととも. ドラインでは,この両方の運動を行うことが勧められて. に,2020 年より行われる 5 年毎の MRI を含めた来所調. いるが,時間的な制約や効率を考えると,その人の体力. 査を行う予定となっている。これらのデータを基にし. レベルに合わせて,どちらかの運動を優先的に行うなど. て,患者を図 5 にあるようなカテゴリーに分け,それぞ. の個別化された運動の提案が必要であろう。しかしなが. れのカテゴリーの介護リスクについて明らかとし,今後. ら,それを支持するエビデンスは不足しており,今後多. の介入法の考案に役立てることをめざしている。.
(5) 糖尿病・健康寿命延伸における運動の意義と理学療法士への期待. 203. 図 5 骨格筋における量と質によるカテゴライズ. このような視点から理学療法の糖尿病治療における役 割はどのようなものになるであろうか? 糖尿病患者に おいて,非糖尿病者と比べて高齢者になってからの筋萎 縮が進みやすい。その点から鑑みて,糖尿病患者におい ては,筋量維持・増強のニーズは今後ますます高まるこ とが予想される。現状の保険制度の点から,適応となる 病名は 2 型糖尿病にはならないと考えられるが,社会的 に最重要課題であり,そこにかかわる理学療法・理学 療法士の役割は大きい。現在の社会保障制度を考える と,体系的に筋量を増やす介入は介護保険によるところ が大きい。しかしながら,タイミングとしては遅く,そ の前の段階からなんらかの介入をすることが,本質的な 介護予防につながると考えられる。その場合,もはや理 学療法を含めた医療が解決する問題ではなく,自治体, 民間企業を含めた社会の解決する課題と考えられる。そ のような観点からも理学療法士の役割は医療の枠にとど まらず,広く活躍の場が期待される。また,その礎を構 築するための研究でも理学療法の視点から切り開く分 野があると考えられる。スポートロジーセンターでも, Bunkyo Health Study などにかかわる研究者や PD,大 学院生を募集しており,理学療法の視点からご助言い た だ け れ ば 幸 い で あ る(https://www.juntendo.ac.jp/ graduate/laboratory/labo/sportology/k7.html) 。 文 献 1)Sone H, Tanaka S, et al.: Leisure-time physical activity is a significant predictor of stroke and total mortality in Japanese patients with type 2 diabetes: analysis from the Japan Diabetes Complications Study (JDCS). Diabetologia. 2013; 56: 1021‒1030. 2)Shimoji K, Abe O, et al.: White matter alteration in metabolic syndrome: diffusion tensor analysis. Diabetes Care. 2013; 36: 696‒700.. 3)Rovio S, Kareholt I, et al.: Leisure-time physical activity at midlife and the risk of dementia and Alzheimer’s disease. Lancet Neurol. 2005; 4: 705‒711. 4)Hainer V, Toplak H, et al.: Fat or fit: what is more important? Diabetes Care. 2009; 32 Suppl 2: S392‒S397. 5)Lee DC, Sui X, et al.: Long-term effects of changes in cardiorespiratory fitness and body mass index on allcause and cardiovascular disease mortality in men: the Aerobics Center Longitudinal Study. Circulation. 2011; 124: 2483‒2490. 6)Kruk J: Physical activity in the prevention of the most frequent chronic diseases: an analysis of the recent evidence. Asian Pac J Cancer Prev. 2007; 8: 325‒338. 7)Bachmann JM, DeFina LF, et al.: Cardiorespiratory Fitness in Middle Age and Health Care Costs in Later Life. J Am Coll Cardiol. 2015; 66: 1876‒1885. 8)Petersen KF, Shulman GI: Pathogenesis of skeletal muscle insulin resistance in type 2 diabetes mellitus. Am J Cardiol. 2002; 90: 11G‒18G. 9)Tamura Y, Tanaka Y, et al.: Effects of diet and exercise on muscle and liver intracellular lipid contents and insulin sensitivity in type 2 diabetic patients. J Clin Endocrinol Metab. 2005; 90: 3191‒3196. 10)Furukawa Y, Tamura Y, et al.: Impaired peripheral insulin sensitivity in non-obese Japanese patients with type 2 diabetes mellitus and fatty liver. J Diabetes Investig. 2018; 9: 529‒535. 11)Takeno K, Tamura Y, et al.: Relation between insulin sensitivity and metabolic abnormalities in Japanese men 2 with BMI of 23-25 kg/m . J Clin Endocrinol Metab. 2016; ‒ 101: 3676 3684. 12)Kadowaki S, Tamura Y, et al.: Fatty Liver Has Stronger Association With Insulin Resistance Than Visceral Fat Accumulation in Nonobese Japanese Men. J Endocr Soc. 2019; 3: 1409‒1416. 13)Someya Y, Tamura Y, et al.: Characteristics of Glucose Metabolism in Underweight Japanese Women. J Endocr Soc. 2018; 2: 279‒289. 14)Someya Y, Tamura Y, et al.: Skeletal muscle function and need for long-term care of urban elderly people in Japan (the Bunkyo Health Study): a prospective cohort study. BMJ Open. 2019; 9: e031584..
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