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地域内における自律・分散・協調型ネットワークモデルの構築

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Academic year: 2021

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地域内における自律・分散・協調型ネットワークモデルの構築

[研究代表者]羽田 裕(経営学部経営学科)

研究成果の概要 わが国において地域社会が抱える問題は多様であり,これまでに様々なアプローチによる解決が図られてきた。し かしながらこれらの取り組みが,全体的に成功しているとは言い難い。このような状況の中で,本研究は,地域社会 が抱える次の3 つの課題,①持続可能な水道事業の実現,②開発提案能力強化に向けた中小企業支援,③高齢者支援 に着目している。これらの課題に共通して必要となるものは,「持続可能なモデルの構築と実践」である。 そこで本研究は,経営学的視点からそれぞれの関係性,①地域社会と水道事業,②地域社会と中小企業,③地域社 会,社会的企業および高齢者,について再定義を行い,自律・分散・協調型ネットワークを軸としたモデルの検討, 構築を行い,実践へと移していくことを目的としている。 研究分野:経営戦略,マーケティング,地域経済,産学官連携 キーワード:自律・分散・協調,「場」の理論,ネットワーク,共通価値の創造(CSV),地域活性化 1.研究開始当初の背景 今後の人口減少化社会の到来に向けて,わが国において 重要となる視点が,「地方創生」である。地域社会が抱え る課題は多様であり,これまでに様々なアプローチによる 解決が図られてきた。しかしながら現状を見る限り,一部 の地域において成功事例は存在するものの,全体的に成功 しているとは言い難い。そこで本研究は,地域社会を取り 巻く環境の中で,下記の 3 つの側面に注目している。 第 1 は,地域社会と水道事業の関係性である。地域社会 において重要な存在である水道事業は,大変厳しい局面を 迎えている。施設・設備等の老朽化に伴う更新費用が年々 増加しており,水道事業の運営に重くのしかかっている。 一方では人口減少,ミネラルウォーターや省水型製品の普 及により水道水使用量が減少しており,唯一の収入源であ る水道料金に大きく影響を与え始めている。本研究で実施 した水道事業者に対するアンケート調査においても,約 75%の水道事業者が将来経営が厳しくなると予測する結 果が得られている。このような状況が続くと,水道事業の 衰退は免れることができず,地域経済に大打撃を与えるこ とになる。そこで持続可能な水道事業の実現に向けたモデ ル構築が急務な課題となっている。 第 2 は,地域社会と中小企業との関係性である。地域社 会の活性化において,地域と密接な関係にある中小企業に 大きな期待が寄せられている。しかしながら中小企業を取 り巻く環境は,年々厳しくなってきている。この状況を打 破するためには,中小企業は「稼ぐ力」を身につける必要 がある。この稼ぐ力を具現化するものが,開発提案能力の 強化である。中小企業が単独で開発提案能力の強化に取り 組んでいくことには限界があり,オープンイノベーション によって中小企業を支援していくモデル構築が必要とな る。 第 3 は,地域社会,社会的企業および高齢者との関係性 である。わが国において「少子高齢化」という大きな問題 が存在する。具体的には,①地域社会から断絶された高齢 者をどうするのか,②「高齢者が人間らしく生きる」とは 何か,である。これらの問題を同時に解決するために,高 齢者を地域資源として捉え,継続的に地域内で活用できる 仕組みを構築する必要がある。 129

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2.研究の目的 上記の 3 つの側面に共通する点は,「持続可能なモデル の構築および実践」である。そこで本研究の目的は,経営 学的視点からそれぞれの関係性について再定義を行い,自 律・分散・協調型ネットワークを軸としたモデルの検討, 構築を行い,実践へと移していくことである。 3.研究の方法 (1) 「共通価値の創造(CSV)」の観点 本研究は,すべてのモデルにおいて,「共通価値の創造 (CSV)」の概念を導入している。CSV は,企業が事業と して社会的ニーズ・課題に取り組み,社会的価値を創出す るのと同時に,経済的価値を創出していくというものであ る。地域がひとつの単位となり,CSV に取り組むことによ って地域と企業の発展という好循環が生み出されていく ことになる。そこで,上記 3 つの側面に対して,CSV の概 念を用いて再定義することによって,これまでとは異なる 視点でのモデル構築を目指している。 (2) 事例分析 本研究は,座学による理論ベースにとどまるものではな く,「理論」と「実践」を両軸とした点に大きな特徴を持 っている。そのため,これまでに各地域で取り組まれてき た事例を理論という軸から分析を行い,体系化していく。 (3) 理論に基づいたモデル構築と実践 次に,体系化した事例分析の結果とこれまで学術的に構 築されてきた理論を軸に,新たなモデルの検討,構築を行 っていく。本研究において柱となる理論は,「場」の理論 である(Nonaka and Konno 1998)。場は,「対話と実践を通 じて知識を継続的に創造していくためのプラットフォー ムとしての空間」となる。本研究のモデルにおいて,この 場をいかに構築し,マネジメントしていくことができるの かが大きなポイントとなる。 4.研究成果 (1)水道事業におけるモデル構築 共同研究者は,堤行彦教授(福山市立大学)である。現 時点では本研究は,図1 で示した持続可能な水道事業の実 現に向けたモデルを検討し,提案した段階にある。モデル の検討にあたり,CSV の観点から再度,水道事業の定義を 行った点に大きな意義が存在する(図 2)。これまでの水 道事業では生産工程に力が注がれてきた。そこでCSV の 観点から捉え直すと,これまでとは異なる水道水の製品形 態の追究による差別化やリポジショニングを追求してい くことがひとつの方向性となる。つまりこれまで注目され てこなかった流通プロセスでの取り組み強化という視点 が見えてくるのである。 現在,本モデルに関連する「水道水の付加価値向上に向 けた取り組み」に関する水道事業者へのアンケート調査の 分析を行っており,今後,この結果を踏まて,どのような 形で実践へと移行させていくのかを検討している。 図 1 持続可能な水道事業の実現に向けたモデル 図 2 CSV から捉えた水道事業 (2)中小企業支援に向けたモデル構築 共同研究者は,後藤時政教授(愛知工業大学)と羽田野 泰彦氏(公益財団法人名古屋産業科学研究所中部TLO)で ある。現在,本研究は地域内において産学官連携支援機関 と大学を軸に中小企業を支援していくモデルを検討,構築 し,実践を行っている段階にある(図 2)。今回は,輸送用 産:民間事業者 (ハブ企業) 官:水道事業者 消費者 ①水道の持つ歴史=物語 ②「安心・安全」 ①地域に対する思い,経験 ②地域資源としての再認識 ③ブランド価値 水道水の供給・ 適正価格 販売 水道水の供給・ 適正価格 ①製品からの物語性の創出 ②水道水の付加価値化 ③地域経済への貢献 地域外への 発信・提供 ①地域ブランド ②観光客の増加 ③定住者の促進 民間事業者(複数) 「地域資源」 「地域ブランド」 地域圏 学:研究者および 産学官連携センター マネジメント 「共通価値の創造(CSV)」(社会的価値および経済的価値) 計画 設計・建設 維持・管理 水道水の 提供 深層の競争力 (生産性,生産リードタイム,適合品質,開発リードタイム) ・長年にわたり水道事業者・民間企業の技術・ノウハウが蓄積 ⇒高い品質での安定的供給を実現 ・現在,水道事業者が追求するモデル 表層の競争力 (価格,納期, 製品内容・広告内容の訴求力) 本研究が着目 ・今後,産学官連携を活用した 新たなモデルの構築 流通プロセス 生産プロセス 130

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機器関連産業という確固たる基盤は存在しているが,中長 期的な視点から地域経済を支える次世代産業の育成が求 められている東海地域を実践対象としている。そして次世 代産業として注目した分野が,ヘルスケアである。本研究 は,東海地域におけるヘルスケア分野で,中小企業による 事業化および市場の育成に向けた場をデザインしていく。 まず特許情報から東海地域において中小企業による事業 化の可能性のあるヘルスケア分野の絞り込みを行い,場の 方向性を示すところから着手している。 図 2 東海地域における中小企業支援モデル (3)地域社会,社会的企業および高齢者との関係性 本研究は,社会的企業が中心となって,シニア層を起点 とした世代を超えたつながりとなる「場」を構築し,そし てこれらの場を地域内でつないでいくことによって持続 可能な地域社会を実現していくモデルを想定している(図 3 を参照)。社会的企業が管理・調整という役割を担い,そ れぞれの場が自律・分散した形で部分最適を追求し,これ らの場が地域内で協調することにより,地域としての全体 図 3 社会的企業と高齢者を軸とした地域内モデル 最適が実現されていくという仕組みになる。本研究は,大 学コンソーシアムせと「新しい文化創造プロジェクト」の 一環として,「高齢者,大学生,子どもが協働で行う地域 資源の発掘・創出」という形で実証実験を行っていく予定 となっている。 参考文献 羽田裕,後藤時政,羽田野泰彦(2019)「中小企業の支援・ 育成に向けた産学官連携のあり方」『経営情報科学』 Vol.13, No.2, pp.33-44. 羽田裕,堤行彦,渡邊明(2016)「「共通価値の創造(CSV)」 を軸とした水道事業への転換に向けた産学官連携モデ ルの構築」『日本経営診断学会論集』Vol.16, pp.68-73. Nonaka, I., and Konno, N. , “The concept of “Ba”: Building a

foundation for knowledge creation,” California Management Review, 40(3), 40-54, 1998.

Porter, M. E., and Kramer, M. R., “Creating Shared Value”, Harvard Business Review, Vol.89, No.1/2, pp.62-77, 2011. 産学官連携支援機関 大学 大企業・大学・ 公的機関等 中小企業 東海地域 ヘルスケア産業 中小企業の事業化に向けた 産学官連携の「場」 (対話と実践) 市場参入 (事業化) 131

参照

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