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国語科の読みにおける話し合い活動に,アクションラーニングの手法を取り入れる有効性に関する検証-香川大学学術情報リポジトリ

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香川大学教育実践総合研究(Bull. Educ. Res. Teach. Develop. Kagawa Univ.),23:73−86,2011

国語科の読みにおける話し合い活動に,アクション

ラーニングの手法を取り入れる有効性に関する検証

川田 英之・山本 茂喜

* (附属坂出中学校)(国語教育講座) 762−0037 坂出市青葉町1−7 香川大学教育学部附属坂出中学校 *760−8522 高松市幸町1−1 香川大学教育学部        

The Study on Effectiveness of Action Learning through

Communicative Activities in Reading of Japanese Classes

Hideyuki Kawata and Shigeki Yamamoto

Sakaide Junior High School Attached to the Faculty of Education, Kagawa University, 1-7 Aoba-cho, Sakaide 762-0037

Faculty of Education, Kagawa University, 1-1 Saiwai-cho, Takamatsu 760-8522

要 旨 アクションラーニングは,近年,企業等で行われている「実務を通じたリーダー育 成,チーム・ビルディング,組織開発を効果的に行う問題解決手法」である。この手法を国 語科の読みの授業における話し合い活動に取り入れる。通常の意見を述べ合う話し合いと比 較し,よりメタ認知が強く働き,自分の読みを構築する過程において有効であることを検証 する。 キーワード  アクションラーニング 質問 メタ認知 思考の枠組みの変化 読みの構築

はじめに

 国語科の学習における読みの過程で,話し合 い活動を行うことは,学習者の読みを構築する 上で有効であり,授業場面でも自明のこととし て行われている。  本小論では,この話し合い活動にアクション ラーニングの手法を取り入れる新たな試みを行 う。その有効性について考察するとともに,新 しい話し合い活動の手法として提案したい。

1 アクションラーニングを国語科の話

し合い活動に取り入れる意義

(1)アクションラーニングの特徴  アクションラーニング(以下AL)は,1940 年代にイギリスの物理学者レグ・レヴァンスが 紹介したもので,その基本理念は,現実という 時間軸の中で実際に抱えている問題を解決する ために行動し,その中で学習していくことであ る。グローバル化した現代において,組織や個 人には行動と学習を同時に行うことが求められ ており,その要請に応えるものとして,ALは

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 ②質問   ALでは質問を特に重視している。質問す ることの効果として,清宮は「問題を明確 にする」「関係性の改善」「変化に対する受容 と自己変革を生み出す」「自分への問い」の 四つを挙げている3。以下はその内容である。 (下線―筆者)   問題を明確にする   質問をいろいろな人が行う中で,グループ のメンバーが問題を共有し多角的に確認する ことができる。その結果,より本質に近い部 分に関しての理解が深まる。   関係性の改善   質問によって相手の話をよく聴くようにな り,お互いの傾聴を促す。そしてグループの 話し合いは聴き合うというコミュニケーショ ンスタイルになる。結果,共感が生まれるな どお互いの関係性がよくなる。   変化に対する受容と自己変革を生み出す   質問には自分の思考の枠組みを変化させて いく働きがある。初めは自己の価値観の中か らの質問が多いが,質問に対する答えを聞い ていくことが考え方をシフトさせるきっかけ になる。自分とは違う視点からものを見るこ とができるようになり,相手の考えを受容す る態度が生まれる。   自分への問い   同意できない相手に気づかせる質問(意識 的な質問)では,ほとんどの場合気づきは生 まれない。自分の思考の前提となっている部 分について質問することで気づきが生まれ, みんなで考えるという雰囲気が生まれる。  ③リフレクション   リフレクション(振り返り)は,ALでは 質問とセットでとらえられる。というより, 質問なしにリフレクションはあり得ないと考 える。問題の本質に迫るために質問が重視さ れ,リフレクションと組み合わされることに よって質問は対話と結束を生み出し,システ ム思考を促し,学習成果を向上させる。そし て問題や解決策に対して熟考し,見極めるこ とにつながる。リフレクションには,「回想 世界中の企業や公的組織で取り入れられ,広 まってきている。その中心的存在は,マーコー ドモデルを開発したマイケル・J・マーコード である。  アクションラーニングには,次の六つの構成 要素と二つの基本ルールがある。 〔六つの構成要素〕  ○ 真の「問題」を見つけ出す  ○ 「グループ」には多様性を求める  ○ 「質問とリフレクション」を重視する  ○ 問題解決のための「行動」を起こす  ○ 問題解決と「個人・チーム・組織学習」 に等しく価値を置く  ○ アクションラーニング・コーチ(以下 ALコーチ)は学習だけに関与する 〔二つの基本ルール〕  ○ 意見は質問に対する回答のみ  ○ ALコーチはいつでも介入できる  また,規範として「意見を述べる前に,まず 質問する」ことと,「行動から学ぶ」ことを重 視している。  ALは企業や組織を適用対象としているため, 学校教育にそのまま用いることにはもちろん無 理がある。国語科教育においても同じである。 しかし,ALの中には,国語科教育,特に話し 合い活動に関わる興味深い内容がいくつもあ る。以下,『アクションラーニング入門』1,『質 問会議』2より,それらについて考察を試みる。 (2)国語科における話し合い活動に関連性が 強い内容  ①グループの多様性   ALでは,多様性を重視しており,それが 良い効果を上げるために,適切人数を4∼8 人としている。多様性は複雑な問題を解決す るために必要なだけでなく,戦略立案に際し て広い視野を提供する。そして,省察的な質 問プロセスを加えることで,メンバーの多様 性の影響力はさらに拡大し,グループの創造 性が高まり,システム思考の能力を高めてい く。

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する」「熟考する」「引き離す」「意味づけを する」「理解しようとする」といった意味が あるが,リフレクションは簡単に,自然にで きることではない。その環境を準備するため に,ALではALコーチが介入する。  ④意見は質問に対する回答のみ   マーコードは質問を重視するものの,意見 を述べることを禁止してはいない。実際の場 面では,質問に対して,他のメンバーから一 つ以上の反応があるケースが多いからであ る。マーコードが強調しているのは,対話を 生み出すために質問と意見のバランスを取る ことである。清宮はそこをさらに明確に区別 して,質問だけの話し合い(会議)を提案し, 「質問会議」と呼んでいる。(通常の会議は「意 見会議」と呼んでいる。)どちらも,意見の やりとりに生産性を見出していない点は同じ である。  下線部は,ALの中でも,国語科教育におけ る話し合い活動に関連する内容であるが,キー ワードとして次の言葉を取り上げる。 「多様性と視野の広がり」「質問」「振り返り」 「傾聴」「思考の枠組みの変化」「気づき」 「省察」「本質・核心」「熟考」「意味づけ」 「教師のかかわり」「対話」

2 国語科の読みの学習における話し合

い活動

(1)自分の読みを構築するために必要なこと  一口に読みの学習といっても,その目的は学 習内容によって変わる。今回対象としたいの は,「自分の読みを構築する」という場合であ る。その場合の読みの過程は,およそ次の5段 階と考えることができる。 ①対テクストとの対話によってつくられる読 み ②自己の読みの検討(対象化1) ③読みの視野の広がり(相対化) ④自己の読みの再検討(対象化2) ⑤自己の学びの意味づけ・価値づけ(意味化)  話し合い活動が組まれるのは,「③読みの視 野の広がり」の段階である。そこでは,次の点 が求められる。 ●話し合いでの多様性・異質性と視野の広 がり。 ●異質な見方を理解するため、自分の思考 の枠にとらわれず、できるだけ他者の思 考の枠に寄り添うこと。 ●他者の思考の枠を理解するため、他者に 質問したり、他者の話を傾聴したりする こと。 ●他者との交流の中での気づき、思考の枠 組みを変化させること。 ●他者との交流の中で、読みの違いを生み 出している核心部分に目を向け、読みを 深めること。  また,「④自己の読みの再検討」「⑤自己の学 びの意味づけ・価値づけ」は他者との交流を受 けてなされるので,他者との交流を含めた振り 返りが省察的であることが,熟考を促し,自己 の学びの意味づけ・価値づけに深みを与える。 さらに,全過程を通して,テクストとの対話, 自己との対話,他者との対話とその中での気づ きが「自分の読みの再構築」を促進する。当然, 様々な場面で教師のかかわりが必要である。 (2)ALの特にどこに着目するか  このように,ALには,国語科における「自 分の読みを構築する」ための必要なことが多 く含まれている。その中でも特に注目したのは 「質問」である。  話し合いにおいての質問(=訊く)の重要性 は,よりよい対話というものを考えると明らか である。しかし,よい質問をするということは 簡単なことではない。なかなか自分の思考の枠 から抜け出せなかったり,他者の思考の枠に寄 り添えなかったりする。ところが,ALではそ れが可能だというのである。

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 ALの大きな特徴として,質問とそれに対す る回答で進んでいくということがある。意見は 質問に対する回答だけである。  質問と回答だけで進んでいくものとしては, 例えばインタビューなどの取材活動があるが, だいたい1対1である。課題解決に向けた4人 程度の話し合いにおいて質問と回答だけで話 し合いが進んでいくというのは普通考えない。 具体的な話し合いの姿もイメージしにくいが, ALではそれによって,意見の交換では難しい 思考の枠組みの変化が起きやすいという。これ は,メタ認知が強く働いているということでは ないかと推測する。  自分の読みを構築する学習においてはメタ認 知をいかに働かせるかが重要なかぎとなる。そ れがなければ他者との交流も十分な成果として 反映されない。ALの手法である「質問―回答」 によってメタ認知が強く働いているのならば, 自分の読みを構築する学習においてメタ認知を 働かせることにも効果的なのではないか。この 点に着目し,実践研究を試みた。

3 ALの手法を取り入れた読みの授業実践

(1)研究の目的  従来の読みの授業は,教師主導であれ,生徒 主体であれ,互いに意見を述べ合う中で,読み の異質性に気付き,解釈を深めるものがほとん どであった。討論の授業は,その典型である。 清宮の言うところの「意見会議」である。一 方,前述したように,AL会議では,会議の参 加者は議題に対する自分の意見を述べることは なく,質疑応答と振り返りによって議題者の内 省を促すことを目的としている。この手法を文 章解釈の授業に援用することを試みる。その中 で,学習者論的立場から,個々の学習者がどの ように作品を読み,他者とどうかかわり,解釈 が生まれていったのかを分析する。生徒同士に よる質疑応答の中で,内省が行われ,解釈が深 まるのではないか,また共同学習の中で,「専 有」4がどのように行われるのか,さらにはAL の手法が新しい教授法として有効なのか,の点 ついて検証したい。 (2)研究の方法  ①研究の対象学級   研究の対象は,香川大学教育学部附属坂出 中学校平成22年度1年3組(40名:男子20名, 女子20名)である。実施時期は平成22年11月 10日(水)の6校時である。対象学級におい ては,4月入学当初より,国語科において協 同学習における解釈や討論,意見文の授業を 日常的に行ってきた。ALの手法で授業を行 うのは,今回が初めてとなる。   なお,平成22年11月9日(火)の4校時, 同1年1組(40名:男子20名,女子20名)の クラスにおいて討論の授業を行い,比較検証 した。  ②研究の対象授業   教材として,「虫」(八木重吉)を用いた。 虫 八木重吉     虫がないてる   いま ないておかなければ   もう駄目だというふうにないてる   しぜんと   涙をさそわれる   武田常夫は,ある授業者の「虫」の授業で, 子どもたちが「虫」イコオル「蝉」という前 理解のまま授業が進行されたことを評し「『こ この虫は蝉ではない』と共通理解をさせてお くべきだった」と指摘している5。また,長谷 川博之は向山型分析批評の立場から,「季節は いつか」を問い,討論の授業を試みている6   今回は,教材を全3時間扱いとした。 第1時 教材を繰り返し音読,暗唱する。     詩から感じた「気付き」を書く。 第2時 「季節はいつか」についてAL会議を 行う。 第3時 「季節はいつか」についての最終意 見文を書く。

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  分析の中心とした第2時(AL会議)は, 次のような流れで行った。 ①二人組ペアで,相互に質疑応答を行う。 (3分×2) ②四人組になり,相互に質疑応答を行う。 (4分×2) ③パネラーを教師が指定し,質疑応答形式 のパネルディスカッションを行う。 (8分×2+フロアとの質疑応答8分) ④二人組ペアで質疑応答を行う。 (3分×2)   ①∼④いずれにおいても,「基本的に自分 の意見の主張は行わず,相手への質問とそれ に対する応答によって進めること」をルール として設定した。また,②四人組と③パネル ディスカッションでは,第1時における立場 の異なる者が必ず含まれるように,授業者が 組み合わせた。   なお,比較クラス(1年1組)では,流れ, 設定時間,組み合わせは同じで,「質疑応答」 のみを「討論」に置き換え,「基本的に自分 の意見を主張すること」として実施した。  ③分析の方法   本研究では,自己内対話を捉える手だてと して,抽出生徒数名の第1時におけるノー ト,第2時における会話分析,第3時におけ る最終意見文,をあわせて検討した。また, 第2時直後にアンケートを実施し,その結果 から抽出生徒のみならず,授業全体の傾向に ついても分析した。アンケート項目は,①自 分の考えは深まったか②自分の意見は相手に 十分伝えられたか,③相手の意見は十分に聞 くことができたか,④自分の考えが深まった のは,いつ,誰の,どんな考えに最も影響を 受けたか,⑤討論と比べてどうだったか(比 較クラスでは削除)で,①∼④は4段階評価, ④⑤については自由記述で行った。 (3)授業分析  ①二人組ペアによる質疑応答   以下は,対象クラス第2時における,二人 組ペアによる質疑応答の会話記録の一部であ る。第1時において,生徒Aは「秋」,生徒 Bは「季節はない,全ての季節」の立場をとっ  ている。 A 僕はえーと秋だと思います。例えば夏 だとセミが鳴くけど,涙をさそうほどで はないし,春や冬にはあまり虫がいなく て,特に鳴くような虫はいないから秋だ と思いました。 B どんな虫ですか? A コオロギとか鈴虫とか・・そういう涼 しい時によく鳴くような虫を。 B じゃあこの虫はどんな鳴き方をしてい るのですか? A 涙をさそわれるから,必死に鳴いてい るけど,静かに・・えー集団で鳴いてい て・・心にくるような音だと思います B 一匹じゃなくって集団だと考えたのは なぜですか? A 一匹だとあんまり音は,他の音に雑音 とかにかき消されて聞こえないけど,涙 を誘われるくらいの音だから,何匹も集 団でいて鳴いていると思います。 B なぜか・・話者がいるのはどんなとこ ろですか? A 虫が・・虫が鳴いていてそれに心を打 たれて・・。 B 外とか中とか? A 家から。家の。   Bの質問に誘発されて,Aの解釈がより具 体的に深まっていっている様子が伺える。B はAとは立場を異にしているが,自分の主張 を行わず,Aに質問することで,Bの解釈を 引き出している。   次は,比較クラスにおける二人組ペアによ る討論の会話記録の一部である。第1時にお いて,生徒aは「夏」,生徒bは「秋」の立 場をとっている。

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a じゃあ,あの・・僕は夏やと思います。 理由は,この詩で鳴くのは,自分はセミ やと思います。もうダメだと・・・「いま 鳴いておかなければもうだめだ」というの は,セミは1週間しか生きれんから,そ れで,はよ,交尾したいっていうセミの 気持ちとぴったり合ったから夏じゃない のかな,と思いました。 b 「いま鳴いておかなければだめ」って, セミって決めつける必要はないと思いま す。 a だからセミなのではないかと。でもセ ミだったら1週間しか命ないから・・・。 何か他に? b 秋やったら・・・。 a 言い訳やん。 a なんで泣いたのかっていうたら,セ ミ・・まあセミと決めつけて,それでちょ うど感動したから泣いたのではないかと 思う。いいですか?いいですか?自分の 意見は? b ・・・・。 a いいですか? b はい。   自分の意見(立場)を押し通して,相手を 打ち負かそうとする発言が多い。a,bとも に会話の途中に割って入っている。特にa は,相手の意見を聞こうとしておらず,自分 の意見を押し通そうとする傾向が強い。相手 の立場に寄り添って質問をした対象クラス生 徒Bとの大きな違いが伺える。  ②四人組による質疑応答   次に,対象クラスの四人組における質疑応 答の会話記録を示す。尚,質疑応答に入る前 に,教師から「秋である」「秋ではない」の いずれかの立場に立って話すことを指示して いる。以下の会話記録は,第一次の立場にお いて,生徒A(秋)D(秋∼冬)が「秋であ る」,生徒B(季節はない,全ての季節)C (夏)が「秋ではない」立場で質疑応答して いる。なお,生徒A,Bは,①の二人組の生 徒と同一である。 B 私は秋ではないと思います。理由は,例 えば,「虫が鳴いてる」だったら,いつの 季節でも虫は鳴いていると思うし,虫は鳴 いてるんで,例えば,秋だったら鈴虫とか だけど,夏だったらセミもあるじゃないで すか。うるさいかもしれないけど,涙を誘 われるので,いろんな虫かもしれないの で,秋ではないと思います。 C 僕も秋ではなくて,セミは土の中で何年 もいるけど,地上に出ると1,2週間で命 が終わるから,この詩の虫はセミを表して いると思います。で,鳴く必要がある。「い ま ないておかなければ」というのは,秋 では死んでもう鳴けないことを言っている と思うからです。 D Cさんに質問です。セミも死ねば鳴けな いのは分かるんですけど,他の季節で鳴い ている虫たちも死ねば鳴かないと思います がどうですか。 C セミは特に短いから・・・わかりました。 D Cさん。何匹ぐらいで鳴いているのです か? C えーと5∼10匹くらいです。 D 時間は? C 時間は,昼の暑い時です。 D 私はセミが10匹くらい鳴いているのをあ まり見たことないんですけど,・・私が見 たのは2,3匹がとまっていて,そいつら がミンミン言ってただけなんですけど,ど こから10匹いたりするんですか? C その周りの木にみつがたくさんあったん です。 D それは仮定の話ですか。 C そうですね。 D 何ゼミですか? C えっ・・・ミンミンゼミ。 D あっそうめずらしいなあ。 A ミンミンゼミが10匹木に集まっていて, それを見た作者が泣いたのですか?

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C はい。そうです。 A 話者が泣いた理由は何ですか。 C えーと命が短いのに一生懸命鳴いている から。 A それだけ? C そうそれだけ。 (下線―筆者)  A,Dの質問に対して,主に答えているのは Cである。二人組の時と同様,質問に答え ていく中で,「ミンミンゼミが10匹,木にと まって泣いているのを話者が見て泣いてい る」とCの解釈が具体化している。ただ,下 線部の答えからは,予想外の質問により,C の答えがぐらついていることが伺える。自分 の根拠の中に,矛盾を感じ取っているからと 考えられる。Bは,最初に立場を表明しただ けでほとんど発言していない。8分間の中で も,発言機会は3回だけであった。   次に,比較クラスの四人組における質疑応 答の会話記録は以下の通りである。第一次の 立場において,生徒a(夏)が「秋ではない」, 生徒b(秋)c(秋)d(秋)が「秋である」 の立場で討論をしている。なお,a bは, ①の比較クラスの生徒a bと同一である。 c 私は,「虫がないてる」っていったら秋 かなって思ったからです。季節は秋で,一 番虫の鳴き声がよく聞こえるので,詩のイ メージからして,夏の明るい感じじゃなく て,秋の夜の静かな情景が浮かんだからで す。 d 季節は秋で,理由は,「虫がないてる」 で,一番虫が多い秋を想像して,その次に 「ないておかなければ」とあるので,今の うちに鳴かなければ冬が来て,死んでしま うから,と僕は思いました。 a それやったらさっきのセミの説明と ちょっと同じやんか。 d 違うよ。 a 冬やけんって。 d 夏は,季節で言うたらセミだけじゃない やん。でも秋は,冬が来たら死んでしまう  やん。だから秋のほうが・・わけわから ん・・・でも秋の方が死ぬのが多い。 b なんか虫の種類が多くて,なんか周りが 静かやと,鳴き声がよく聞こえる。 a セミは? b セミは,なんか・・。 a よく聞こえるよ。 b だから聞こえるけど,種類はそんなに多 くないし,だからイメージって言ったや ん。 a なんでそんなイメージになるんですか。 b だから・・わかったからもう。うるさい。 (下線―筆者)   討論でも,相手の発言に答えたり反論した りしていく中で,解釈が深まっていく場面も 見られた。しかし,下線部を見ても,あくま で討論形式は,自分の意見を主張し,相手を 打ち負かそうという意識が見られる。   8分間の発言総数を比較すると,質問形式 が27回,討論形式が41回で討論形式が多い。 これは,討論形式が相手の発言にすぐ反応し て答えているのに対し,質問形式にそれは少 ないこと,また,質問を考えたり答えを考え たりしている間(発言のない時間)が,質問 形式に圧倒的に多いことに起因している。  ③パネルディスカッションによる質疑応答   四人組による質疑応答の後,「秋ではない」 「秋である」からそれぞれ2名ずつを教師が 指定し,パネルディスカッションを行った。 以下はその会話記録である。なお,生徒E (夏)は「秋ではない」F(秋)G(冬目前) は「秋である」の立場である。「フ」は4人 の質疑応答の様子を見ていたフロアからの質 問者である。 フ 夏の人はセミっていう具体例をだしてい たんですけど,秋の人たちは,何虫なんで すか? F えっと・・鈴虫とかコオロギとか。 フ 秋の人に質問なんですけど,鈴虫とかは

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 鳴き声で感動しているのかそれとも鳴いて いる様子で感動しているのか? G それは鳴いている様子だと思います。鳴 く自体は,全然ただ単にですけど,鳴き方 の様子とか,そういうので自分と重ね合わ せて,「涙を誘われる」比喩になったので はないかと思います。 フ なんで病室にいて,鳴いているのが分か るんですか? G えっと・・鈴虫とか虫がいるところで, 窓を開けてて,聞こえる虫の声が聞こえ る・・虫の声が聞こえる・・ギリギリ聞こ える。見ている訳じゃなくて。 フ 夏に質問なんですけど,夏はなんでその 夜とかのほうが泣いてる・・・昼間だった ら泣いてる所を見られて恥ずかしいなーみ たいな感じがあるんですけど,夜とかの方 が僕的にはいいと思うんですけど・・なん で昼なんですか? E 虫の様子がよく分かる・・だから音もわ かるんですよ。   次に,比較クラスのパネル討論の会話記録 である。生徒a(夏)e(夏の終わり)が「秋 ではない」f(秋)g(秋)が「秋である」 の立場である。 f では,aさんとeさんの意見に反対で, 別に鈴虫も残り1日の命だったら必死で鳴 くと思います。 a えっとコオロギとかは短命って感じがし ないけど,セミは1週間で死ぬんだな,か わいそうだなって意識があると思うからで す。 f でもセミの鳴き声だったら,そんなに涙 を誘われるような鳴き声ではないので,違 うと思います。 a でもうるさかったセミの鳴き声が急に聞 こえなくなったらさみしいと思います。 g セミはどこにいて,時間はいつだと思う のですか? a えっと場所は公園で,時間は朝と昼。 e わたしはヒグラシという意見で固めてい たので,夏の終わりの夕方に木で鳴いてい るのかなと思いました。 f 「いま」と「ないておかなければ」の間 の空白は何ですか? a この瞬間も「今」で,次の瞬間も「今」 やから広い「今」を表している。どうです か?だからそこがセミにつながる。 f 「いま」と「ないておかなければ」の間は, 「いま」を強調している。 e 今の主張と秋のコオロギとかとはどうつ ながるんですか? f 今のうちに鳴いておかなければ死んでし まうので・・・あれ???今のうちに鳴か なければ死んでしまうので・・あれ?ちょっ と待ってください。 e 私の意見は,「いま」というのはこの瞬 間のことを表していて,私は夕方だと考え ているので,この瞬間の虫が鳴いているの が,後ろの夕日みたいなのと重なってもか わいそうだなって。   パネルディスカッションの形において,質 問形式,討論形式ともに,「質疑応答」と「言 い合い」という違いはあったものの,授業場 面全体において,解釈の深まりの内容に大き な差異は見られなかった。   この後,再び二人組で自分の考えを述べ あって,第2時は終了した。

4 授業分析

(1)最終意見文から∼全体傾向の分析∼  第3時において自分の最終意見文をまとめ た。最終的な立場の変容の結果は次のとおりで ある。 質問形式 夏 秋 その他 第1時の立場 18人 14人 8人 第3時の立場 14人 26人 0人

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討論形式 夏 秋 その他 第1時の立場 17人 21人 2人 第3時の立場 16人 23人 1人  今回は教師の解を一切示さず,生徒の解釈の やりとりによってのみ授業を行ったが,質問形 式で行った授業と,討論形式で行った授業と で,明らかな差が見られた。質問形式では,12 名もの生徒が,自分の立場を変えていた。内, 「夏→秋」へと変容したのは4名,「その他(春 や季節はないなど)→秋」へと変容したのは8 名である。一方,討論形式では,第1時の立場 を変えなかった生徒がほとんどであり,変えた のはわずかに2名(「夏→秋」1名「その他→ 秋1名」)である。  なお,「虫」における「季節はいつか」に対 する授業者の解は,「秋」である。夏であれ秋 であれ,虫の声を聞いて「もう駄目」だという ふうに感じる話者の心理状態は,虫と同じよう に「もう駄目」な状況にあり,自分と同一視し ていると考えられる。しかし,生徒も根拠とし てあげているように,夏のセミが昼間喧噪に鳴 いている様子よりは,秋の鈴虫やコオロギが夜 静かに鳴いている様子の方が「涙をさそわれる」 のにふさわしい。また,セミが鳴いているのを 「虫が鳴いてる」とは決して言わないのに対し, 鈴虫,コオロギの場合は「虫が鳴いてる」と言っ ても同じ意味として成り立つ。よって「秋」が 「夏」よりより妥当な解釈と言える。  以上のことから,質問形式の授業の方が,討 論形式の授業よりも,より生徒の読みを望まし く変容させたと言える。 (2)最終意見文から∼個の分析∼  最終意見文において,第1時の立場を変えた 生徒を見てみる。二人組,四人組の会話でいた 生徒Bは当初「季節はない,全ての季節」との 立場をとっていた。最終意見文では「秋」の立 場で意見を述べている。  (生徒B 第1時のノート)  季節は,全ての季節である。理由は,こ の詩はいつの時期にも当てはまる。よって 話者がこの詩のような虫の声をいつ聞いた かは分からない。ただ,筆者は感動したか ら,私達に身近なことに目を向けてほしい と思ったのではないか。  (生徒B 第3時最終意見文)  季節はいつかについて,私は秋だと考え る。理由は四つある。  まず第一に,表記についてである。この詩 で「虫」「駄目」「涙」以外は平仮名で書かれ ている。ではなぜこの三つが漢字なのかであ るが,私は強調するためであると考える。全 て大事な言葉であるし,平仮名の方が多いと いうことを考えても,やはり強調のためでは ないか。では,次になぜ平仮名表記なのか。 これは平仮名と漢字を比較すれば分かる。あ なたは平仮名と漢字でどのような印象を受け るだろうか。平仮名はやわらかく漢字は少し 固いといった様に感じたことはないだろう か。平仮名はやわらかい,そして秋もやわら かいイメージがある人もいるではないか。つ まり表記というところでは,秋のやわらかさ を平仮名で表したものだと私は考える。  第二に,詩の中の「もう駄目だというふう にないてる」というところに着目した。「も う駄目」な鳴き方とはどのようなものだろう か。私は「今にも死にそうなかすかな音」と 考える。それは「しぜんと涙をさそわれる」 から,涙をさそわれる鳴き方から考えた。う るさい雰囲気ではなく,かすかに鳴く虫の方 がよっぽど涙をさそわれるのではないだろう か。すると,秋というのは,コオロギやスズ ムシなど,比較的少ない音の虫が多く,そこ から私は秋であると考える。 (中略)  次に反論を述べる。  まず「夏」という意見に反対である。

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 それは「雰囲気」という視点で考えた。こ の詩から感じることといえば,まずさみし い,という感じがする。しかし,夏はにぎや かな感じがする上,セミなどの虫はとてもう るさく,実際にうるさいのである。  その「雰囲気」から考えると「春」「冬」 の二つの季節にも反論できる。  まず「春」は少しおだやかな感じがし,「冬」 は何もない,真っ白なイメージがある。ま た,この二つに関して,二つとも鳴くような 虫がこの季節にいないのだ。この理由からも 「春」「冬」ではないと考える。  では最後に「虫」「時間」「話者」「表記」 について,私のこの詩に対して感じていると ころを述べる。  まず「虫」である。私はこの虫を「コオロギ」 や「スズムシ」であると考える。それは,「も う駄目だというふうにないてる」からもう死 にそう,つまり非常に小さい音であると思っ たからだ。つまり虫は「コオロギ」や「スズ ムシ」である。  続いて「時間」という視点である。時間は 私は「夜」であると考える。昼だと,虫の独 特な雰囲気が消えてしまう。「涙をさそわれ る」ということを考えても,「昼」ではなく 「夜」であると考える。  次に話者である。話者は家の中にいて,虫 と同じくもう死にそう,晩年も迎えていると 思う。でないと「しぜんと涙をさそわれる」 の説明がつかなくなってしまう。そして死に そうだということで,家の中だと思う。 (以下略) (下線―筆者)  Bの最終意見文の中には,他者の意見を取り 入れている「専有」が多く見られる。下線部は, 話し合いの中で,話題として出たと確認できた 部分である。専有があると判断できる部分は, 「質問形式」「討論形式」の授業形態や,「夏」「秋」 の立場を問わず,ほぼ全員の生徒に見られた。  注目すべきは,Bがいつ専有の思考を持つに 至ったかである。Bは,事後アンケートの「自 分の考えが深まったのは,いつ,誰の,どんな 考えに最も影響を受けたか」の問いに対し「四 人組」「全体」の「自分以外の人」と答えてい る。Bは,二人組の場面では「秋」の立場であ るAと対話を行っている。また,四人組の中で は,ほとんど発言を行わなかった。パネルディ スカッションでは,フロアの立場で見守り,質 問に参加することもなかったのである。  一方,生徒Cは第一時に「夏」と判断した。 四人組やパネルディスカッションの対話分析の 中で,自分の立場がぐらついた様子が見て取れ るものの,最終意見文の立場は「夏」のままで あった。以下は,Cの最終意見文の一部,反論 の部分である。  僕は秋について反対します。秋だと,コ オロギとかスズムシとかいっぱい虫はいる けれど,涙をさそわれるような虫は一匹も いないと思います。それに話者は今にも死 にそうでベッドに横たわっていると言った けれど,そんな状態だったら普通の人は虫 の鳴き声も聞きたくないと思うし,一人に させてくれと思うと思います。死にそうな 人が虫の鳴き声を聞いて涙が出るのは絶対 におかしいし,ありえないと思います。ま た,十五匹∼二十匹ぐらいで鳴いていると 言いましたが,そんなに大勢で大合唱して いたら,涙をさそわれるよりも,もっと興 味をもってどうやって鳴いたり音を合わし たりするのだろうと感心すると思います。 それに虫の鳴いている様子を見て涙を誘わ れると言ったけど,夜(夕方近く)と言っ たのでベッドから直接虫を見ることはでき ないので,言っていることが矛盾している と思います。  以上の理由で,僕は夏だと考えました。  絵で表してみると(絵は筆者により省略) 周りが青空と木で囲まれていて,セミの鳴 き声がひびき渡っている。話者はこれを聞 いて涙を流し,共感したり新たなものを感 じ取っている。  Cの反論の根拠は,明らかに筋が通っていな

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い。Cは,事後アンケートの「自分の考えが深 まったのは,いつ,誰の,どんな考えに最も影 響を受けたか」の問いに対し「全体」と答えて いる。また,「意見に対し,思ったことをすぐ に伝えられたので気持ちが相手によく伝わっ た」とも答えている。しかし,実際の対話記録 からは,Cが明らかに「すぐに伝えられた」状 態ではなかったことが伺えている。  Cは話者についても「心の気持ちがすっきり せずもやもやしている状態」にあり,身近なセ ミの鳴き声に自分を重ね「共感し,新たな気持 ちを少しずつ感じ取っている」と答えている。  B,Cともに学力は高い生徒である。どちら も初発の立場では「秋ではない」と主張しなが ら最終的な解釈の違いを生み出したもの,それ は発言回数と言えるのではないか。Bは,最初 の二人組ではAと質疑応答を行ったが,その後 発言はほとんど行わなかった。一方Cはパネ ラーにも選ばれ,授業中における発言回数は多 かった。CよりBは発言回数は少なかったが, 自己の中で「自分の考え」「他者の考え」「教材」 との対話を繰り返していたのではないかと考え られる。つまり,自分が発言しない時間に,メ タ思考を行っていたと考えられる。一方,C は,その機会が少なかった分,メタ思考の場が 少なかったからといえるのではないか。  最終的に「秋」に変わった12名のアンケート を見ると,「自分の考えが深まったのは,いつ, 誰の,どんな考えに最も影響を受けたか」に対 し,「最初の二人組」が2名,「四人組」が6名, 「全体」が6名(複数回答2名)であった。  専有が生まれるには,生徒がその根拠に納得 することが第一である。自分の解釈と比較し, 納得した場合に,専有は行われる。「質問形式」 はメタ認知の場が多かったために,解釈の変容 が大きかったと言えるであろう。 (3)事後アンケート結果から  次に,第2時終了後のアンケート結果から分 析する(図1,図2参照)。  「質問形式」「討論形式」ともに,各項目高い 数値である。これは,題材と課題がおもしろ かったと言うことを示していると言える。た だ,質問1「授業前後で,自分の考えは深まっ たか」において,質問形式の授業の方が高い結 果を示している。メタ認知の機会の差であろ う。  また,質問2「自分の意見(主張)は,相手 に十分伝えられたか」においても,「質問形式」 の方が高い結果である。質問形式の方が,討論 形式よりも,発言回数は明らかに少ないにもか かわらず,このような結果になったのは,質の 高い発言ができたと生徒が実感したこと,反論 されずに意見を聞いてもらえたということによ るものだと考えられる。  質問5「質問形式は,討論と比べてどうです か」についても,質問形式の方が結果がよい。 質問項目が異なるので,単純に比較は行えない が,記述の内容から,討論では,自分の意見を 言えない,聞いてもらえない,反論されるとい うもどかしさも働いていると推測できる。  AL会議では,「質問は意見よりも常に強力」 であり「質問,とりわけ手ごわい質問は,考え させ,学習させる」としている7。こうした働 きが,読みの解釈の過程においても有効に働い たと言える。

5 成果と課題

 以上,授業分析の結果から,文学的文章の解 釈の過程で,ALの「質疑応答と振り返りによっ て議題者の内省を促す」手法が授業として有効 であるということを確認できた。それは,意見 を言い合う従来の授業と異なり,次の点にある と考えられる。 ① 自分の意見を主張せず,質問をすること で,相手の考えを引き出し,解釈を深め ている。 ② 反論されないので,自分の意見をまとめ ながら,相手に話すことができる。 ③ ①②により,メタ認知の機会が多く保障 されている。 ④ ③により,「専有」の機会を多く持つこ

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図2 アンケート結果(記述式) 質問形式 [人間関係、形式面などの理由] ・友達と心が深まった。 ・やりやすかった。気軽にできる。相手の意見も分かる。 [話す、聞くなどの理由] ・質問とかで自分の言いたいことが言えたとき、気持ち よかった。質疑応答が楽しかった。 ・詳しく話せることができたから。自分の意見をしっか りと伝えられたから。 ・相手の意見も聴けて、さらに質問して分かるから。 ・不思議とか、相手に思ったことを伝えて、質問できる ところが良いと思う。 ・質問を一方からするから整理がしやすいし、答えるだ けに集中できる。 [考え、視点の深まり] ・自分の意見や相手の意見がよく深まっていきました。 ・自分の考えていないことについて詳しく分かった。 ・2人から4人、4人から全体と、だんだん視野が広が り、良かったと思いました。 ・4人で言うと、その一人一人の細かい意見がよく分か り深まり、おもしろい意見も聞くことができる。その 後に全員で話し合うので、視点が広がる。 ・自分と同じ意見の人の意見も参考にできるし、どちら が発言しているかが分かるから。 ・他の人とも意見を交換できて、考えをさらに深めるこ とができたから。さらに質問を考える力もつくからで す。 ・質問することによって、自分の意見を見直せて良かっ た。でも質問を考えるところが難しかった。 図1 アンケート結果(選択式) 討論形式 [人間関係、形式面などの理由] ・たくさんの発表が飛び交っていたから。 ・自分は全然駄目だったが、他の人たちががんばってい たから。 ・討論を聴いておもしろかったから。 [話す、聞くなどの理由] ・両方の意見が聴けた。また、反論もなるほどと思うも のがあった。 ・まわりの人で、討論に参加できなかった人もいるかも しれないけれど、僕の質問やまわりの人の意見を聞く と、とても充実していてすごいものばかりだったか ら。 ・みんなが反論を続けていて、説明する力や聞く力がつ いたと思うから。 ・ほとんどうまくいけていたけど、途中かみ合わない時 もあったから。 ・少し聞き逃したことがあったから。 ・意見を言いたくても、なかなか言えなかったから。 [考え、視点の深まり] ・(フロアの人たちが)活発に意見が言えていたし、私も 新しい発見や、夏という人の考えも聞けたので良かっ た。 ・白熱の討論が行われて、とても意見が深まった。 ・皆の意見を聞いて、納得できる所が多かった。視点を 変えてみることも大事だと思った。 ・4人グループ以外の人の話が聞けて、討論もできたし、 同じ意見の人も聴けたから。でも、自分の反論がまあ まあだった。 質問1 授業前後で、自分の考えは深まりましたか。 質問2 自分の意見(主張)は、相手に十分伝えられたと思いますか。 質問3 相手の意見は十分に聴くことができましたか。 質問4 自分の考えに影響を受けたのはいつですか。 質問5 質問形式は、討論と比べてどうですか。 質問5 討論はどうだったですか。 70% 27.5, 27% 0% 3% 質問形式 かなり まあまあ あまり いいえ 64% 36% 0% 0% 討論形式 かなり まあまあ あまり いいえ 55% 40% 5% 0% 質問形式 かなり まあまあ あまり いいえ 37% 61% 2% 0% 討論形式 かなり まあまあ あまり いいえ 70% 30% 0% 0% 質問形式 かなり まあまあ あまり いいえ 67% 30% 3% 0% 討論形式 かなり まあまあ あまり いいえ 5% 15% 80% 0% 質問形式 最初の2人組 4人組 全体 最後の二人組 5% 25% 65% 2% 3% 討論形式 最初の2人組 4人組 全体 最後の二人組 無答 62% 30% 8% 0% とてもよ かった よかった まあまあ あまり 45% 47% 8% 0% とてもよ かった よかった まあまあ あまり

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  とができる。 ⑤ ①∼④より,納得して自分の解釈を決定 することができる。  もちろん,討論の授業においても,成熟した 教室においては,白熱の言い合いの中で①∼⑤ の思考が十分に働くことは予想できる。ただ, そこまでにはかなりの時間と訓練を要するであ ろう。協同的な学びを構築していく過程におい ては,質問形式の授業がより効果があるのであ る。  今後の課題として,ALコーチたる教師の関 わり方が挙げられる。今回の授業においては, 生徒の読みの過程を見る目的のため,教師はあ えてあまり介入を行わなかった。分析の視点と して,「ひらがな表記」「空白」などを示したの みである。しかし,「質問形式」の授業におい て14名の生徒が「夏」の立場を変えなかったと いうのは大きな問題である。しかし,教師の解 釈を押しつけたり,そちらに誘導したりするこ とは,本来の「読み」の指導に反する。  この課題を解決する方法として鶴田清司の次 のような指摘がある。   例えば,自分が置かれた特定の状況に基づいて <解釈>をしていた子どもに対して,それをより 普遍性・妥当性のある読みへと高めていくために どう働きかけるか,また,特定のコードに基づい て<分析>をしていた子どもに対して,それをよ り主体的かつリアルな読みへと引き戻していくた めに<前理解>の部分にどう働きかけるか,さら に,それぞれの異質な<解釈>や<分析>の内容 を他の子どもたちにどう出会わせていくか,学級 全体が<解釈>ないし<分析>のどちらかに偏っ ていたときにどのように対応するかといった問題 を教師に投げかけてくるのである。このことは, 先に述べた<解釈>と<分析>の統合にもつなが る重要な問題である8  「夏」とした生徒の解釈の根拠の中心は「セ ミは一週間の命」という前理解が大きく影響し ている。抽出生徒Bを見ても,最後までその前 理解に引きずられてしまったことが分かる。  一方,「夏」から「秋」へ意見を変えた生徒 の最終意見文の一部を見る。  初め考えた時,私は夏だと考えたけど, どんどん話し合いをしているうちに,秋と 考えるようになった。夏ではないと考える 理由は次の二つである。  まず虫について考える。  夏だという人の意見はセミであろう。こ の虫の詩の「いまないておかなければもうだ めだ」という部分はセミにぴったりだと思う が,次の部分の「しぜんと涙をさそわれる」 というところはセミにあてはまらないと考 える。理由は,もし,セミだとしたらうる さくて,涙をさそわれること,しかも自然 にとまではいかないと考えたから。そんな 声の大きいセミよりコオロギなどの小さい 方が感動すると考えたからである。  次に時間について考える。  夏だという人の虫はセミだったのでたぶ ん時間は昼であろう。やっぱりセミといえ ば真昼のあの青い空を思い浮かべる。しか し,このような景色のときにしぜんと涙が 出るほど感動しないと考える。理由は,青 い空を思い浮かべると,感動というより, 元気になれるという感じがするからである。 (下線部―筆者)  下線部にあるように,詩の「しぜんと涙をさ そわれる」の表現や時間との矛盾点に気付くこ とで,「秋」へと意見を変えたのである。また, 先に示した生徒Bは,平仮名表記や話者の状態 にも着目して「秋」の解釈を生み出している。 こうした気付きを誘発する役割こそが教師の役 割である。  先の鶴田の論に従えば,生徒それぞれが気付 いていない「読みの視点」に気付かせることが 教師の役割と言えるだろう。<解釈>に偏って いる生徒には<分析>の視点を与えるような, 逆に<分析>に偏っている生徒には<解釈>の 視点を与えるような,相互交流のしかけが教師 の授業構成,発問,支援と言えるのではない か。例えば「虫」という題名にこだわり「セミ が鳴いているのを虫が鳴いているというのか」

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という気付きがあれば,結果はまた違ったもの になったと考える。マーコードが強調している 「質問と意見のバランス」を考え,教師の関わ りがどうあるべきかについて,研究の必要があ る。  また,「質問の型」についても分析が必要で ある。今回は,質問の型ややり方については, 取り立てて指導や訓練を行なわずに授業実践 を行なったが,「内省を促すことが解釈を深め る」としたら,そのための効果的な質問が行な われることで,より解釈は深まると考えられ る。「なぜセミなのですか?」「夏のセミはしぜ んと涙をさそわれるのですか?」といった核心 を突くような質問がいいのか,あるいは,「セ ミは何ゼミですか?」「時間はいつですか?」 といった周辺の質問から迫っていく方がいい のか。ALでは,「『ばかげた』質問=『新鮮な』 質問こそ究極の問題解決策」9とされている。確 かに,いきなり核心を突かれた多くの場合,反 発の気持ちが生まれることの方が大きいであろ う。筆者の実感としては,「周辺の質問から入 り,相手の解釈を深めながら,かつ内省を促 し,解釈の誤りや矛盾に気付かせる」方法が, より有効であると実感している。  さらには,単なる質疑応答ではなく,グルー プ内で組織的に話し合いをすることの有効性も 考えられる。本来ALでは,問題提示者へ参加 者が質問を重ねていく中で,本当の問題を明確 にするところからスタートする。そして,途中 の振り返りも挟みながら,問題を再定義し,解 決への道を探っていく10。この方法を読みの話 し合いの過程に援用することは,十分に可能で ある。質問を重ねる中で,学習者の考えの本質 や課題点を明らかにしたり,途中で振り返った りすることは,学習者のメタ認知の機会をさら に増やすことになり,その有効性が予想でき る。本来のALのどの部分が,国語の授業に取 り入れられるのかについても,さらに研究して いく必要がある。  そうした課題の検証の結果等については,別 稿に譲ることとする。 注 1 マイケル・J・マーコード著,清宮普美代・堀 本麻由子訳 『実践アクションラーニング入門』ダ イヤモンド社,2004 2 清宮普美代『質問会議』PHP出版,2008 3 注2に同じ。53∼56頁 4 「専有」とは,「他者に属する文化的道具を取り 入れ,それを自分のものとする過程を示す概念」 である。田島元信『共同行為としての学習・発達 ∼社会文化的アプローチの視座』金子書房,2003 等参照。なお,濱田秀行は,国語科の小説の読み の対話的交流において,他者の意見を取り入れ自 分のものとする「専有」の過程を分析している。 濱田秀行「小説の読みの対話的な交流における『専 有』」『国語科教育第六十八集』全国大学国語教育 学会編集,2011,43∼50頁 5 武田常夫『詩の授業』明治図書,1971,64頁 6 長谷川博之「分析批評と討論で,読解力・批評 力を育てる」『教育科学国語教育』明治図書2009, 9月,88∼91頁 7 注1に同じ。86頁 8 鶴田清司『<解釈>と<分析>の統合を目指す 文学教育―新しい解釈学理論を中心に―』学文社, 2010,678頁 9 注1に同じ。87頁 10 注2に同じ。63頁 付記  この実践研究は,2012年度の香川大学教育学 部附属学校園共同研究機構が実施する「学部教 員と附属学校園教員による共同研究プロジェク ト」の一環として行われた,「アクションラー ニングの手法を国語科での話し合い活動に取り 入れた場合の問題点と可能性に関する検証」山 本茂喜(国語教育講座),川田英之(附属坂出 中学校),佐藤浩二(当時附属坂出中学校,現 香川県教育センター),小林理昭(附属坂出中 学校)の発表原稿をもとに,修正,加筆した物 である。尚,発表に際し,多くの方より,指 導,助言等をいただいた。深く感謝の意を申し 上げる。

参照

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