環境別溜池泥土の研究
Ⅳ 国下地,奥の蛍池コアの鉄含量
玉置 鷹彦,梅田 裕
Studies on reservoir desposits
IVIron contents of core samplesin Kunishitaand Okunodo reservoirs
Takahiko TAMAKIand Yutaka UMEDA
前報(9)(10)で国下地,奥の蛍池のCOre Sample による泥土の滞積状況忙関して報告したが,本報ではこれらの試 料を用い既報(10)の区分温こ従い各コアを泥土の滞積層位別に上層より浮泥(Organic deposit),沈降泥(Sedi・ mentary mud),池底泥(Bottom soil)に.区分し,これら各部分の細土について全窒素,炭素,闘植,炭素率 のほか微細土粒中の鉄含畳を測定し,泥土滞積考究の辛がかりとしたので以下乾これを報質する,′ この研究は本学 前Jtl忠夫農学部長を主任研究者とする1959年皮文部省科学研究費による研究の−瀞で,終始お力添をいただいた同 教授に.深謝する.また名古屋大学理学部教授小山忠四郎博士よりこの研究に.関連深い御教示をいただいたこと,淡 水区水産研究所上田支所小山一哉官には鼠重な文献を貸与して下さったこと,にたいし厚くお礼申上げる次第であ る.. 1ノ,試料の調製 前報(9)(10)で得た国下地9点,奥の蛍池14点討23点のコアを用い押出し式の方法でガラス管より泥土をぬきとり, これを浮泥,沈降泥,地底泥の3部に区分したい 試料NoんE3,1,8,10では浮泥層の微細な滞積物がけん濁浮遊 状態をなしており押出し式の方法でこれが沈降層へ密着混入し両者を分離すること.ができなくなり,従ってこれら の浮泥は供試不可能となった‖ また試料Noい11,12,13では既報(10)のように浮泥層を欠いているh 以上の方法で 得られた試料ほ風乾後径2mmの円孔ふるいでふるい分けT−N,C,隅櫓の測定に供試した。.またこの風乾細土 より沈降法に.より粒径5/ん以下の土粒を分別採取し,これを乾燥後粉砕して熱硝酸可膵鉄定量の試料とした… なお これらの試料について国下地コアは1958年10月,奥の蛍池コアほ1959年8月に採取したものである… 2… 爽験方法および実験徳果 実験方法は前章艮(9)(11)の場合と同様である。ただしFe‘+◆の比色定量に.ほ既報のDuBOSCQ 比色計を用いず光電 比色計により波長480mJ‘で比色定盈した。、得られた結果を第1,2表に示す.. 3‖ 考 察 第1衷より T−・Nについて国下地コアの場合試料NoいE3を除く他のコアでは浮泥の T−N:転が沈降泥,地 底泥のそれよりいずれも多く,奥の堂池コアでは試料No.2,4のように.浮泥と沈降泥の T−N:畠が大差のない コアとその他の試料にみるように.その差異が国下地コアと類似の傾向をもっコアが認められる小 そしてこれら両地 間では国下地コアのほうが奥の堂池コアより T−N監が一般に多く,この傾向は浮泥に.おいて特に著しいい また 水深との関係は地底がほぼたいらな野地である国下地の場合は南岸寄りの水の流入口および取水樋管に近い水深 2m以浅の試料NoC3,W3 で浮泥のT−N鼠がやや少い値を示しているが水深2‖0∼2.5m間の試料では一・定 の傾向を認め稚く,琴の堂他の場合には水深5m以深部の試料No・1∼6コアがこれより以残部のコアよりT−N 鼠が若干多い傾向が認められるつぎに.Cおよび瞬植の鼠について国下地コアの浮泥ほ沈降泥,池底泥よりその騒 が多く,奥の蛍池コアでは試料No.2,4 のように浮泥と沈降泥でその舎監に大差のないものと国下地コア同様浮 泥が沈降泥,池底泥にまさるものとがあるそしてこの両地コア間の差異についてはT−Nの場合同様国下地コア のCおよび隣植の最が奥の蛍池のそれより∴般に多い傾向を示している.また水深との関係もT−N壷の傾向と同 様で国下地コアは試料 No.C3 がやや少いほかその他の各コア間には一足の差異を認め難く,奥の蛍池コアでは
261 第12巻第2号(1960) 第1表 紙 士 分 析 結 果 水深5m以深部の試料No..1∼6がこれより以残部の試料No、8∼14をこ比較してやや多いりKoYA叩A(3〉は淋底泥 中のC,N,分布に閲し申網湖,木崎湖の場合表層0∼35cmにおいては下層へ向うに従いC,Nの舎監が増大 することを報質し,畑等(1〉は長野県下の標高を異にする大池,新地,浅間池についてその生産増進に関する研究で これら3他の泥土を調査したところ湖盆が洗面器型の大池においてはこれがゆるい摺鉢形をなしている新地や池底 に高低の多い浅間池より底泥中に含まれる有機物騒が多く,また各池では表層,中層,下層の順匿有扱物舎監が減 少していることを認めているが,本報に.おける上記のT−N,C,隅植の盈に関しては国下地コアの浮泥は沈降泥, 池底泥に比較して明かに多いが,奥の堂池コアでは水深5m以深部のコアでややこの傾向が認められるにすぎな い.、したがって池底において有機物を主体とする泥土の滞積,発達の様相は池底が皿形の国下池でほ池底全面にわ たりほぼ一様に行われるが,池底龍傾斜をもつ奥の堂池では水深5m以深部でやや国下地の場合に頬似している ことが知られる‖ すなわち奥の堂池コアでは浮泥と沈降泥間に T−N,C,闘植の盈に大差のないことは浮泥中の 有機物がその絶対監の少いこととともに池底における分解変化が国下地とは異り不十分に進行しつつこれが沈降泥 に移行するものであろう‖つぎに炭素率については両地コア間に・一定の傾向を見出し難いが,奥の蛍池コアで埠そ の値が異常にせまいものがある.特に池底泥においてこの傾向が著しいことは浮泥,沈降泥に比較して池底泥での 有機物の分解変化が地底が南より北に傾斜している奥の蛍池では前記のように地底全面にわたり−・様に進行しない ことによるものと考えられる..したがって奥の堂池では泥土の滞積,発達が行われるに.あたって微細有放物の沈降 滞積を主体としこれに鉱物質物を宕i:混えるところの化学的変化を主要因とする滞泥作用(Organicdepositform− ing pr・OCeSS)より流入水流や地内水流による土砂を主体としこれに若干の有機物を混えるところの物理的要因を 主とする滞砂作用(Mineraldeposit forming process)がより優勢に進行していることを示している.そしてこ
第2表 徴細泥土粗(粒径5〝以下)のFe(mg/100g微細乾土) のことは吉辰(2)が内場貯水池流入点付近で減水期の洪水時に.は低水位付近まで掃流形式による土砂輸送が活発化す ることをのべていることからも類推されるところである.. つぎに第2表より粒径5/‘以下の微細土粗中に.含まれる鉄に閲し国下地コアでは沈降泥のFe監が,浮泥,池麿 泥に比較して最少の値をもつコアが多く(試料NoいCl,El,Wl,E2,E3,C3),奥の蛍池コアでは沈降泥のFe 急が最少のコア(試料Noい3,6,7)と最多のコア(試料No.2,4),浮泥より池底泥にむかい減少しているコア (試料No.1,5,9,11,12,13,14)およびこれらの泥土眉間に・大差の認められぬコア(試料No.8,10)の4群 に.大別される.そして国下地の場合沈降泥のFe盈が最少値を示す試料は取水樋管に近い地点より得たコアに多く 池底匿傾斜をもつ奥の蛍池コアでは上記4群間にコア採取イ立置に.閲し特定の傾向が認められない.、このことほ前述 のように野池に属する国下地では滞砂作用に比較して滞泥作用が優勢であり,ふもと他に属する奥の蛍池では滞砂 作用が主として行われ,水深の増加に伴い滞泥作用が加わることによるものと考えられるり すなわち溜他における 泥土の滞積,発達に関してはWASMUND(12)がのべている湖底におけるGyttja生成に関する物質交換様相,あるい kSuGAWARA等(8)が湖,川,海の泥土中におけるイオウの分布に関して認めている硫酸塩,硫化物,遊離Sおよ び黄鉄鉱等の相互的関係やKoY瓜IA等(4)が愛知県油ケ淵湖底質に関して発衷しているS代謝の問題等に叛似の変 化が考えられる..したがって満水時の水深が浅く池底が皿形で豊栄養型泥土の滞積層が比較的厚い国下地の場合に は夏季の高湿時地底において有機物の急激な分解とともにH2Sの発生,硫化鉄の生成等も行われるであろう.そして これは盛夏の候この溜他の取水が開放有機物を主体とする黒色微細浮遊粗を多急に含み硫化水素具に近い防臭をも つようになることからも推定されるところである.また前川等(卵は香川県下の溜他についてかんがい期間中の水位 変化は6月頃満水の後取水開始とともに急降下しその後多少の昇降ほみられるが,かんがい終末期の9月中旬にか けて漸減することを報賃しているが,国下地においても同様に.取水樋管付近では樋管の開閉や降水等による水位の 変化に伴う水圧の増減により地泥内部で上下方向に,すなわち垂直的水の動きを生ずるであろうことが考えられ, 陸地土壌におけるポドノル生成作用,あるいは湛水下の水田土壌における硫化鉄の溶脱に(6)頬似する水底風化作用
第12巻第2号(1960) 263 が行われるであろうことも思推される.そしてこれが還元状態下の水底で行われるためポドソル土や老朽化水田士 に現れる漂白層,集積層など土壌断面的に明かな特長は沈降泥,池底泥のコアに.おいて識別し難いい しかし風乾し た池底泥は赤褐色を帯びているものが多いのに.たいして風乾した沈降泥は著しく淡色で灰色に富むことよりこれら のコアの沈降泥,池底泥は第2表に示するように.国下地コアの場合Feの溶脱,集積を思わせるものがある..すな わち溜他用水中の鉄には水生植物の同化生成物である酸素により酸化されて沈でんするもの,また一部は微生物体 内に同化され,その死後これが池底へ沈でんするもの,さらに岩石風化細片のような土粒自体のもつ鉄に由来する ものなどが考えられるが,これらの鉄が地底において有機物の隅櫓化を伴う邁元系内で還元されて可溶化し,湖の 場合(7)と同様にその一部は水中に選元され,又他の−・部はFe+十あるいは硫化鉄ゾルとして前記のように.水位の増 減に僻う水圧の変化による池泥内部の水の上下方向への流動によりこれが地泥のより深層へ漸移する結果湊障泥は 国下地コアに・みるように.野他の場合次第に鉄に乏しくなるものであろう.すなわちコアによる泥土中の鉄の消長は 国下地のような野池における水底風化作用を判定する上に.T−N,C,膵植等とともに風化の進行状態を示す有力 な−循標となるものと考える.つぎにこの両地コアについてその鉄盈を比較すると浮泥,沈降泥,地底泥ともに国 下地コアより奥の堂池コアに多い傾向が認やられるが,奥の堂池コアは有機物に乏しいことよりこの鉄は主として 鉱質土粒濫由来するものであろう.また奥の堂池試料 Noい11∼14 の鉄盈は試料 恥.1∼10のそれに比較して著 しく少いことは前者が南岸山ろくの流入水ロに.近い場所より得られたものであることから考えて豪雨の際の急激な 流入水がもたらす滞砂作用のため鉄に乏しい比較的粗大な砂質土粒を多く含むことによるものであろう. 4.摘 要 国下池(野池)コア9点上奥の蛍池(ふもと池)コア14点を用い,各コア別に浮泥,沈降泥,池底泥に区分し, その風乾紳士につきT−N,C,腐植,炭素率を測定するとともに,粗径5/‘以下の微細土粒申の鉄を定愛しつぎ の結果を得た. (1)国下地コアの T−N,C,腐植の畳は沈降泥,池底泥忙比較して浮泥に著しく多く,奥の蛍池コアでは浮泥 と沈降泥間に大差のないコアと,浮泥が沈降泥,地底泥より,より多く含むコアとがある. (2)国下地コアと奥の蛍池コアの T−N,C,病根の監を比較すると前者は後者より−・般に.多く,殊に.浮泥にお いてこの傾向が著しい, (3)奥の堂池コアは水深5m以深ではこれより以浅のコアよりT−N,C,腐植の最がやや多い傾向があるが, 国下地コアでほ水深に大差がないため奥の堂池コアのような差異を認め難い.. (4)炭素率に.関しては国下地コア,奥の蛍池コア間で浮泥,沈降泥,池底泥ともに−・定の傾向を見出し輝い.. 侍)微細土粒の鉄舎監は国下地コアの場合沈降泥に最少侭を示すものが多く,奥り蛍池コアでは一億の傾向を認 め難い− (6)国下地コアと奥の堂池コアの鉄舎監を比較すると前者は後者より少い傾向がある. (7)以上(1)∼(6)より国下池における泥土の滞積,発達は主として滞泥作用(Organicdepositforming process) によって行われ,また奥の堂池のそれは滞砂作用(Mineraldeposit for・ming process)を主体とし,水深5m
以深部ではそれの増大とともに.滞泥作用が加わって進行することが認められる. 引 用 文 献 (1)畑 久三,中村一雄,宮坂英次,伊奈‘繁:農林 省淡水区水産研究所上田支所畑分室業績(1947) (2)吉良八郎:本誌,12,52(1960). (3)KoYAMA,T小:.√βαrfゐ5√よ∴∧砥g∂プβ仇よれ2, 5(1954).
(4)→
SuGAWARA,K.:同上,1,24(1953). 伍)前川忠夫,脇谷 武:本誌,12,40(1960) (6)塩入松三郎:土壌学研究,121,東京,朝倉書店 (1952) (7)SuGAWARA,K.:Bull.C.SJり9,42(1934)〔日本 化学総覧10,5(1936)による〕巾 (8)SuGAWARA,K.,KoYAMA,T.,KozAWA,At: .√gα7・′ゐぶc・∠−..,Akg〃.γ〃ひ乃グ小,1,17(1953)い (9)玉置贋彦,梅田 裕:本誌,11,206(1959),、 ㈹ +,+ :本誌,12,97(1960).. ㈹ ∵−,→:本誌,12,103(1960). 02)WASMUND,E.;LakustrischeUnterwasserb6den〔BLANCK;Handbuch der Bodenlehre,5,120 (1930)による〕..
R‘sⅥ.m‘
Pur・Suing the董ormerstudies,the amount oftotalnitrogen,Carbon,humus,Carbon nitrIOgen ratioand ironin“Or・ganic deposit〃,“Sedimentary mud”and“Bottom soil”of Kumishita−,Okunod8・reSerVOir
deposits were determined and the following results were obtained:
(1)TheamountOftotalnitrIOgen,Carbonand humus of‘‘Or.ganic deposit”are much thanthoseof “Sedimentary mud”and“Bottom soilりin Kunishita・reSrVOir・COre Samples,While there arelittle differencesin those amountbetween“Orgamic deposit”and“Sedimentary mud”in some Okunod6・ reservoircore samplesandtheseamount of’“Or・ganic deposit”ar・e mOre than those of“Sedimentary mud〃and以Bottom soilりin other Okunod6・reSerVOir・COre Samples.
(2)The amount oftotalnitrogen,Carbon and humus of Kunishita・reSerVOir cor.e samples are more thanOkunod6二resevoir・OneSand this tendencyis remarkablein“Organic deposit’’ofOkunod6−reSerVOir
core samples
(31Theamount oftotalnitrogen,Carbon and humus of core samples which were obtained from below5mwaterdepthare more than thoseof upper5m waterdepthin Okunod6・reSerVOir
(4)No remakable differences were recognizedin carbon nitro苧en ratio between KumishitaJand
Okunod6・reSerVOir・COre Samples
β)Theiron contentoffinesoilparticles(below5p)of“Sedimentarymud”ofKmishita・re占ervoir aregeneral1ylessthan‘1・Organicdeposit=and‖Bottom soil〃onesandthistendencyisnotrecognizedin Okunod6−reSerVOir・COre SamPles
(6)Theiron contentofanesoilparticles(below5p)inKunishita・r・eSerVOircoresamplesaremore
than those of Okunod6・reSerVOir ones.
(7)FrIOm upper・reSults(1)∼(6),thereservoir deposit formationanditsdevelopmentin Kunishita− reservoir・Willbe carr・ied out mainly byりOrganic deposit forming processりand thosein Okunod6−
reser・VOir wi11be carried out mainly by“Mineraldeposit forming prIOCeSS”and thein負uence by “organicdepositformingproces亭”in Okunod6−reSerVOirwi11be enlarged graduallywithincreasing