多職種連携教育(IPE)コース
2年次科目「保健医療とチームワーク演習」の立ち上げ
馬場健
1),富田美加
2),加納尚美
2) 1) 茨城県立医療大学保健医療学部医科学センター 2) 茨城県立医療大学保健医療学部看護学科 要旨 保健医療とチームワーク演習は, 第 4 次カリキュラムにおいて 2013 年に始まった多職種連携教育 (Interprofessional Education:IPE)コースの 2 年次配当科目である。この科目の目的は医療従事者の卵とし て,一般の患者・家族の目線から専門職連携について学ぶことである。科目の特色は 4 学科混成でチーム基 盤型学習(TBL)を用いたグループワークを行い,さらに筑波大学の医学生との合同授業を行うことである。 今回,科目の立ち上げと 2 年間に実施してきた授業の概要を報告する。 キーワード:多職種連携教育,チームワーク,チーム基盤型学習(TBL),大学間合同授業 1.はじめに 2013 年度に始まった第 4 次カリキュラムは,専 門職連携教育(Interprofessional Education,以降略 してIPE)を本学の 4 学科(看護学科,理学療法学 科,作業療法学科,放射線技術科学科)合同で行う IPE コースが柱となっている。IPE コースは 4 年間 継続する科目群で,1 年次は 4 学科合同の「チーム ワーク入門実習」,2 年次は 4 学科合同の本科目「保 健医療とチームワーク演習」,3 年次は学科ごとの 臨床・臨地実習,4 年次は 4 学科合同の「医療総括 演習」から構成されている。1 年次科目は医療に関 する知識を全く持たない一般人として,ひととひと のつながりを学ぶIPE入門編として位置づけられる。 IPE 初級編となる本科目では,1 年次科目で形成さ れたひととひとのつながり・チームワークを,より 医療に近い場面で,医療従事者としてではなく患 者・家族の目線を持って深めていくことが目的であ る。3 年次科目では実際の現場での多職種連携を体 験し,4 年次科目では医療従事者として,さまざま な医療ケースを介して多職種連携について理解を深 めていく構成となっている。 今回,保健医療とチームワーク演習の開講に向け ての準備と 2 年間の実施状況を報告する。 2.保健医療とチームワーク演習の特色 保健医療とチームワーク演習の特色は 4 学科合同 でチーム基盤型学習(TBL)形式1)の授業を行うこ とである。TBL 形式の授業では,あらかじめ予習 課題を与え,授業開始時に個人およびグループでの 予習確認テストを行い,その後にグループワークを 茨城県立医療大学紀要 第 22 巻 A S V P I Volume 22報 告
連 絡 先: 馬場 健 茨城県立医療大学保健医療学部医科学センター 〒300–0394 茨城県稲敷郡阿見町阿見4669–2 電 話: 029–840–2165 FAX:029–840–2314 E–mail:[email protected]行う。これによりグループ全員の予備知識のレベル が揃い,効率的なグループワークができるようにな る。もうひとつの特色は,筑波大学の医学生(2 年 次生)と合同で医療に関する TBL 形式の授業を行 うことである。これにより医師を含めたより実際の 医療現場に近い構成で専門職連携を体験できる。 3.開講に向けての準備(2013 年度) 本科目で導入する TBL 形式の授業および筑波大 学との合同授業はいずれも本学教員が経験していな いことだったので,2 年次開講の 4 学科共通選択科 目「自由課題演習」(第 3 次カリキュラム)で,3 回 の TBL 形式の授業(テーマ:食のバランス,上肢 の運動と骨,家族と介護)を行った。いずれも計画 通りの授業進行ができることが確認された。 筑波大学では 2 年次開講科目「医療概論Ⅱ」の 時間を用いて合同授業を行った。この科目は在宅ケ ア,行動科学,プロフェッショナリズムなどを学ぶ 科目で,合同授業実施前には多職種連携に関するオ リエンテーションを実施した。 合同授業のプレ実施を行うため筑波大学の担当者 (医学教育企画評価室所属の教職員)と本学の自由 課題演習担当教員が筑波大学で打ち合わせを月に 1 回程度の頻度で 3 回行った。その際,最も重要な議 題はすべての学科の学生が参加できる症例シナリオ 教材の作成であり,原案を筑波大学の担当教員(医 師)が作成し,医療大学の教員(看護学科,理学療 法学科,作業療法学科,放射線技術科学科)がそれ ぞれの職種の視点から修正・加筆を行った。 2013 年 10 月 31 日 13 時 45 分から 18 時に,筑波 大学の講義室 2 か所において,筑波大学の医学生と の合同授業を実施した。参加学生は医療大生 18 名 (看護学科 4 名,理学療法学科 8 名,作業療法学科 5 名,放射線技術科学科 1 名),筑波大学医学生(2 年次生)123 名,合計 141 名で,医療大生,筑波大 生混成グループ 9 グループ,筑波大生のみグループ 12 グループ,合計 21 グループでTBL形式の合同授 業を行った。 合同授業の前後では専門職連携に関するアンケー トを行い,知識,意識の違いを検討した。その結果 は筑波大学の前野らがまとめた。筑波大生のみグ ループでは多職種連携を知識レベルで学んだのみで あったが,職種混成チームでは同じ物事に対して新 しい視点からの意見が得られたという体験報告が多 く見られ,アンケート結果からも多職種連携に関す る意識の高さが認められた2)。 4.開講初年度(2014 年度) 2014 年度のシラバスは図 1 のとおりである。後 期後半の本開講に向けて,筑波大学担当者とメール 連絡に加えて月 1 回程度の打ち合わせ会議を計 4 回 行った。合同講義の目的は,医療が必要になった患 者・家族の気持ちに寄り添い,患者・家族が医療従 事者に何を求めているかを考え,何ができるかを考 えていくことである。悪性腫瘍,循環障害などのい くつかの症例が案としてあげられた。医師,看護師 はどの症例にも関わってくるが,理学療法士,作業 療法士が主体となるリハビリテーションの場面,さ らには診療放射線技師の関わる場面をシナリオに入 れ込むことは困難な作業であった。最終的には脳卒 中の症例を採用し,リハビリテーション・在宅ケア の場面では理学療法士・作業療法士が,画像診断で は診療放射線技師が活躍する場面を入れることがで 回 時 間 授業内容 授業の 到達目標 担当 教員 教授・ 学習法 1 2 多職種協働・医療現場で必要な法知識の講義【多職種協 働】 9 非常勤 講師 講義 2 2 授業オリエンテーション イントロダクション アイスブレーキング 【TBL】【チームワーク】【課題学習】 1 全員 講義・ 演習 3-4 4 TBL の予行演習1(ディベート) 【課題学習】【ディベート】【多職種協働】【連携】【論理的思 考】【プレゼンテーション】 2,6 全員 講義・ 演習 5-6 4 TBL の予行演習2(医療大について知る) 【課題学習】【TBL】【多職種協働】【連携】【論理的思考】【プ レゼンテーション】 合同TBLのオリエンテーション 1,3,4,7 全員 講義・ 演習 7-9 6 筑波大学医学生との合同 TBL の実施 【課題学習】【TBL】【チームワーク】【多職種協働】【連携】 【論理的思考】【プレゼンテーション】 1,3,4,7 全員 講義・ 演習 10-11 6 合同 TBL の振り返り(教員による解説と展開・グループワ ーク) ポートフォリオによるリフレクション 【課題学習】【TBL】【チームワーク】【多職種協働】【連携】 【論理的思考】【プレゼンテーション】 1,3,4,7 全員 講義・ 演習 12-13 4 TBL(プレゼンテーション) 【課題学習】【TBL】【チームワーク】【多職種協働】【連携】 【論理的思考】【プレゼンテーション】 1-8 全員 講義・ 演習 14-15 4 全体発表会及び総括 【課題学習】【TBL】【チームワーク】【多職種協働】【連携】 【論理的思考】【プレゼンテーション】 1-8 全員 講義・ 演習 図 1 2014 年度シラバス
きた。 合同授業では多人数の学生が一堂に会する必要が あるため,会場の設定,移動手段の検討も十分に行 われた。2014 年度はつくば国際会議場で行い,本 学からはバスで会場に向かうこととなった。 授業実施で工夫した点は,「クリッカー」を使用 して個人予習確認テスト(Individual Readiness-Assurance Test,以降略して I-RAT)を実施した ことである。これによりリアルタイムに個人の解答 が回収できるとともに確実な出席確認が可能となっ た。また,今回は使用しなかったが回答に要する時 間を計測する機能を持っているため,理解の深さを 推測できる可能性がある。個人テストと同じ問題を グループで相談して解答するグループ予習確認テ ス ト(Group Readiness-Assurance Test, 以 降 略 して G-RAT)ではスクラッチシートを用いて軽い ゲーム性を持たせ学生の興味をひきつけるようにし た。授業実施後に毎回「振り返りシート」を提出さ せ,授業内容の定着をはかった。TBL 授業の課題 はディベート(1 回目),自校史(IPU学)(2 回目), 医療に即した症例課題の検討(筑波大学との合同授 業),プレゼンテーション(3 回目)であった。 筑波大学との合同授業は 2015 年 1 月 13 日,13 時 45 分から 18 時につくば国際会議場(多目的ホー ル・102 会議室)にて行われた。参加学生は医療大 169 名(看護学科 51 名,理学療法学科 40 名,作業 療法学科 38 名,放射線技術科学科 40 名),筑波大 学医学群医学科 2 年次生 115 名,合計 284 名。参加 教員は医療大学 16 名,筑波大学 8 名,合計 24 名で ある。医療大学・筑波大学混成で 6 名のグループを 48 グループ作成し,多目的ホール(28 グループ), 102 会議室(20 グループ)に配置した。(図 2) 当日のスケジュールは以下の通りである。まず, 全体のオリエンテーションを行い,ついでグルー プごとのアイスブレークとして「ペーパータワー」 の作成を行った(図 3)。予習確認テスト(I-RAT, G-RAT)を行ったのち,課題症例を元にしたグ ループワークを 2 セット(急性期の患者・家族の思 いと対応,慢性期の患者・家族の思いと対応)を 行った(図 4)。会場ごとで各学科教員からの追加 コメントを加え,最後に全体での振り返りを行っ た。授業風景の撮影・使用について授業開始時に口 頭説明し,許可を得ている。 この合同授業では,前後で専門職の役割に対する 理解が高まっていることや態度面の変化も確認でき た3)。具体的には,「普段交流することのない医学 生と意見交換できる体験が新鮮で有意義だった」, 「職種ごとの物事の捉え方の違いが体感できた」な どの感想が得られた。 合同授業直後の授業では,合同授業の振り返りと 課題症例に関する各学科教員からの追加コメントを 行った。 チームワーク演習を通して得られた成果を効率的 図 2 合同授業テーブル配置図 図 3 アイスブレーク(ペーパータワー)の実施風景 図 4 合同授業の実施風景
にまとめ,発表するため,TBL 形式の授業「プレ ゼンテーション」を行った。実際のプレゼンテー ションは PC とパワーポイントを使ったものではな く,手描きでA4 用紙 7 枚にまとめる「かみせぶん」 プレゼンテーションを用いた。全体発表会は 111 大 講義室および 112 中講義室で行い,手描き用紙をビ デオプロジェクターで投影し,1 グループ 7 分で発 表した。全ての発表は評価票を用いて相互に評価し た。評価項目は①発表の明確さ・簡潔さ・明瞭さ, ②資料の完成度,③制限時間の遵守性,④総合評価 の 4 項目で,5(大変優れている)〜 1(よくない) の 5 段階で評価を行った。結果は集計して,上位 3 グループには「かみせぶん賞」を与えた。 最終的な成績評価は,授業レポート(振り返り シート),予習確認テスト(I-RAT,G-RAT),全 体発表会の評価点を用いて行った。 5.初年度の総括 2014 年度の科目別満足度調査(図 5)によると, すべての項目にわたって高い満足度が得られた4)。 6.開講 2 年目(2015 年度) 2014 年度の授業の検討を行い,シラバスを一部 変更した。合同授業の振り返り時間を減らし,そこ に専門職連携と在宅医療に関する平野国美医師の講 義を入れた。合同授業に向けての筑波大学との打ち 合わせも継続的に行った。 合同授業の主な問題点は,職種によっては検討症 例への関わりが薄く,興味を失いやすいことで,症 例をより現実の医療に近づけることも課題となっ た。また,関わる教員が十分準備するための授業マ ニュアルが整備された。2015 年度のシラバスは図 6 に示すとおりである。 筑波大学との合同授業は 2016 年 1 月 12 日,13 時 30 分から 18 時につくば国際会議場(多目的ホー ル,会議室 102)にて行われた。参加学生は医療大 171 名(看護学科 52 名,理学療法学科 40 名,作業 療法学科 39 名,放射線技術科学科 40 名),筑波大 学医学群医学科 2 年次生 121 名,合計 292 名。参加 教員は医療大学 11 名,筑波大学 8 名,合計 19 名で 図 5 2014 年度科目別満足度調査の結果
ある。医療大学・筑波大学混成で 5 〜6 名のグルー プを 49 グループ作成し,多目的ホール(29 グルー プ),会議室 102(20 グループ)に配置した。合同 講義のスケジュールは 2014 年度とほぼ同様である ので省略する。 7.2015 年度の総括 2015 年度の科目別満足度調査によると,2014 年 度と同様にすべての項目において高い満足度を示し た。(図 7) 授業を通した学習効果を検討するため,多職種連 携に関するアンケート調査を 2 年間実施しており, 現在その結果の解析を進めている。 8.2016 年度以降にむけての改善点 シラバスについては,やや詰め込みすぎの感があ るディベートの内容を工夫していくこと,合同授業 の検討症例をブラッシュアップし,より実際に即し 回 時 間 授業内容 授業の 到達目標 担当 教員 教授・ 学習法 1 2 多職種協働・医療現場で必要な法知識の講義【多職種協 働】 9 非常勤 講師 講義 2 2 授業オリエンテーション イントロダクション アイスブレーキング 【TBL】【チームワーク】【課題学習】 1 全員 講義・ 演習 3-4 4 TBL1回目(ディベート) 【課題学習】【ディベート】【多職種協働】【連携】【論理的思 考】【プレゼンテーション】 2,6 全員 講義・ 演習 5-6 4 TBL2回目(医療大について知る) 【課題学習】【TBL】【多職種協働】【連携】【論理的思考】【プ レゼンテーション】 合同TBLのオリエンテーション 1,3,4,7 全員 講義・ 演習 7-9 6 筑波大学医学生との合同 TBL の実施 【課題学習】【TBL】【チームワーク】【多職種協働】【連携】 【論理的思考】【プレゼンテーション】 1,3,4,7 全員 講義・ 演習 10 2 合同 TBL まとめと振り返り 【課題学習】【TBL】【チームワーク】【多職種協働】【連携】 【論理的思考】【プレゼンテーション】 1,3,4,7 全員 講義・ 演習 11 2 在宅医療における多職種協働の実際 10 非常勤 講師 講義 12-13 4 TBL3回目(プレゼンテーション) 【課題学習】【TBL】【チームワーク】【多職種協働】【連携】 【論理的思考】【プレゼンテーション】 1-8 全員 講義・ 演習 14-15 4 全体発表会及び総括 【課題学習】【TBL】【チームワーク】【多職種協働】【連携】 【論理的思考】【プレゼンテーション】 1-8 全員 講義・ 演習 図 6 2015 年度シラバス 図 7 2015 年度科目別満足度調査の結果
た症例に整えていくこと,4 学科の職種がそれぞれ の場面で重要な役割を果たしていることを強調する 点を念頭に修正を行っている。 9.おわりに IPEコースの企画段階から全面的にバックアップ して頂いた故・工藤典雄前学長に感謝する。工藤前 学長のお力なしでは筑波大学との合同授業はなしえ なかった。また,新たな試みを多く含んだ授業設計 および実施に積極的にご参加頂いた授業担当教員, 筑波大学の担当教員の先生方に感謝する。 本科目の実施と授業アンケートの解析は茨城県立 医療大学プロジェクト研究(1451)の助成を受けて 行われた。 文献
1) Michaelsen LK, Parmelee DX, McMahon KK, Levine RE. Team-Based Learning for Health Professions Education: A Guide to Using Small Groups for Improving Learning. Stylus Publishing, Sterling VA, USA, 2008.
2) 前野貴美,前野哲博,鈴木英雄,高屋敷明由 美,稲田晴彦,内藤隆宏,富田美加,加納尚 美,馬場健.Team-based learning を用いた専 門職連携教育の教育効果:職種混成グループ と単職種グループとの比較.医学教育,2014, 45(Suppl.),146. 3) 富田美加,馬場健,前野貴美.【自己解決力を 高める Team-Based Learning】 実践事例① 大学合同のTBLによる多職種連携教育の実際. 看護展望,2016,41(3),273-279, 4) 富田美加,馬場健,加納尚美,吉良淳子,滝澤 恵美,齋藤さわ子,對間博之,庄司俊之,武 島玲子.保健医療学部における TBL(Team-based Learning)を用いたIPE(Interprofessional education)の実践.第 22 回大学教育研究フォー ラム,京都,2016 年 3 月.
Start-Up of Practicum for Healthcare and
Teamwork as an Interprofessional Education (IPE) Subject
Takeshi Baba
1),Mika Tomita
2),Naomi Kano
2)1) Center for Medical Sciences, School of Health Sciences, Ibaraki Prefectural University of Health Sciences 2) Department of Nursing, School of Health Sciences, Ibaraki Prefectural University of Health Sciences
Abstract
The Ibaraki Prefectural University of Health Sciences (IPU) offers interprofessional education (IPE) as a consecu-tive course throughout the four years of its undergraduate programs. Sophomore students are required to take a class of “Practicum for healthcare and teamwork” as an IPE subject. This class uses a team-based learning (TBL) system for multidisciplinary group work. In this paper, we report how we designed the educational syllabus for the IPE subject, especially the interuniversity joint class with Tsukuba University.