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不動産の証券化について

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(1)

3部 不動産投資におけるリアルオプション理論の応用

∼一般賃貸住宅投資のインプライドボラティリティーの計測∼

足立基浩 和歌山大学経済学部

1.はじめに

本稿では不動産投資信託市場活性化促進のため、新しい不動産のリスクの計量手法の 紹介を行う。JREIT などの新型市場が発展していくためには不動産投資家への正確な情 報の提供が急務である。リスクの正確な把握が行えれば他の資産とのポートフォリオも 容易になるであろう。従来、不動産投資リスクの計量には過去5 年間の標準偏差の移動 平均(ヒストリカルボラティリティーと呼ぶ)が用いられてきた。しかし、「この情報に は過去の情報によるタイムラグが発生しているため、現実の情報をタイムリーには反映 していない」との批判がある(Sing and Patel,1998)。今後JREIT などの不動産投資 にかかわる市場環境を整えるためには情報の整備が急務であるが、そのひとつとして最 新の投資情報を含むインプライドボラティリティーの計測(=モデル依存型のボラティ リティーとも呼ばれている、後述)を試みたい。そして、ヒストリカルボラティリティ ーとモデル依存型ボラティリティーとの比較を行い、それらの相関関係などについて分 析を行う。本研究においてはDixit and Pyndics(1994)と Quigg(1993)のリアルオプショ ンモデルを援用し、ボラティリティー計測を行う。

2.ボラティリティーの種類

ヒストリカルボラティリティー 過去の取引データを使用して求めた資産の変動性(標準偏差)がヒストリカルボラティリティ ーである。4 半期データを用いた場合、それを年率に換算するときには以下の式を用いる。 y q q 2 2

2

σ

σ

×

=

年次データ

半期データ

=

=

y q q 2 2

4

σ

σ

ヒストリカルボラティリティーが不動産取引では用いられているが、①取引データに上昇・下 落のトレンドがある場合、②過去の取引データから事業の変動性をとらえられない場合、等に問 題があるとされている(刈谷、2001)。1 近年の不動産取引の場合、価格は下落傾向にあり、 また過去のデータが十分に存在しない場合が多い。ヒストリカルボラティリティーの精度はデー タ数に依存するので、データ数の面でヒストリカル・ボラティリティー計測手法には限界がある。 そこで、インプライド・ボラティリティー(モデル依存型)の導出の必要性が叫ばれてきた(Sing

(2)

and Patel(1998))。 インプライドボラティリティー インプライドボラティリティーとは金融市場で取引されているオプションの価格(オプション プレミアム)からボラティリティーを逆算して求めたものである。通常、オプション取引とは株 などの資産をあらかじめ指定された(予測された)価格で指定された期日に取引する「権利」を 購入することをいう。未来の株などの予想価格でもあるためにオプションの価格には価格の「未 来の変動」も含まれている。 オプションプレミアムとはこのオプション価値を株価全体に占める割合であるが、これは人々 の「将来価格」に関する情報を得て価格形成がなされる。そのため、即時性の観点から同指標の 精度も高いとされている。金融商品の場合、原資産価格、権利行使価格、満期等は契約で決めら れており、価格が成立している。そこで、このオプション価格をもとにボラティリティーを計算 することができるのである。 不動産市場の場合、金融市場とは異なりオプション市場は存在しない。しかし、不動産投資の 不可逆性の性質から投資の際に不確実性を考慮した価格で投資が行われるものと考えられる。つ まり、リスクをヘッジする上で取引価格そのものがすでにオプションを含んだ価格付けがなされ ているものと仮定する。つまり、実際に期待される収益の期待値よりも多少高めの金額で取引さ れている可能性が高い。この点に注目してインプライドボラティリティーの計測を行ったのが Sing and Patel (1998)である。

本節では、取引価格はオプションを含んだ価格としてとらえ、インプライドボラティリティー を逆算する。金融所品のオプションの場合は流動性が高いために価格の上下にあわせて売却・購 入が行われるが、不動産市場の場合は一旦投資してしまうと埋没費用の存在から資金回収に数年 かかる。つまり、投資の時点そのものがオプション取引(権利を行使するか否かは投資を行うか 否かという意味と同値)をしている点に注目している。 例えば、ある企業がある土地を開発するかしないかを迷っている場合、「開発する権利を有して いる」という点においてこの企業はオプション(開発する権利)を所有している。仮に土地がう まく動かない場合には、開発しないオプション(つまりエクササイズ(=権利行使)しない)オ プションを選べる。逆に開発した場合には「オプションの権利を行使した」ことになる。つまり、 開発(=投資)=権利行使としてとらえてモデルを作成する。開発前にはオプション価値が存在 し、開発後にはオプションが消滅する代わりに新規の住宅投資などからの家賃収入が期待できる。 逆に撤退するケースも考えられるこの場合撤退のコストを払って撤退することになる。仮に1000 億円の投資がなされた場合、その価格が権利行使価格である。

=

δ

β

β

β

/

)

(

)

/(

)

1

(

)

(

1 2 2

A

X

X

V

(Sing(1998))モデルの場合)。 V(X)=不動産理論価格 X=不動産からの収益額 A=不動産管理コスト(維持費など) 2 1

,

β

β

=係数(ボラティリティーと市場利子率によって求められる。)

Sing and Patel(1998) は同モデルを元に実証分析を行っているが、データなどの扱いにいつくか の問題点が指摘されている。

(3)

3.本研究のポイント

本研究においては、日本におけるマンション型の賃貸住宅投資を行うケースを考える。近年、 ワンルーム型のマンション経営が人気を集めているが、投資家にとって関心があるのはマンショ ン投資の収益とその変動性(ボラティリティー)と購入価格の変動である。また、将来的な売却 なども興味があるはずである。ここでは、これらマンションの収益の変動性について、またボラ ティリティーの種類別に議論を行う。また、「税の控除」などもモデルに組み込む。

4.先行研究

金融におけるオプション理論を実物資産投資の意思決定行動に応用したのがリアルオプション 理論である。DCF手法(理論)では不動産投資価値が投資コストを上回った場合に投資の意思決 定がなされると説明されてきた。リアルオプション理論では投資は「権利」として把握されてお り、将来的に経済状況が悪くなる場合にはこの「権利」を放棄することによって不利な投資を回 避することが可能となる。現在、日本では多くのテーマパークが経営難に陥っているが、リアル オプション理論にもとづいた戦略的投資行動を行っていればリスクは最小化されていたかもしれ ない2。不確実性が高い経済環境では経営のフレキシビリティーと戦略性が重要と思われる (Trigeorgis. L(1996))。 リアルオプション理論では、①不可逆性、②不確実性、そして③最適投資タイミング、等の3 要素が理論上の重要な構成要素となっている。不可逆性(Irreversibility)とは、不動産投資が多 額のコスト(埋没費用)を伴うため、一度投資をしたら土地利用が固定化される状態を示す。こ れは株式投資等と異なり不動産市場に特有の状況である。この結果、投資のタイミングが決定的 に重要な要素となる。不動産投資が可逆的であるならばタイミングは問題ではなく、マーケット の状況によって、その都度投資計画を変更すれば良いからである。不確実性の存在もオプション 理論では重要な要素となる。仮に投資に関して2通りのプロジェクトが存在する場合、不確実性 が存在することによって追加情報を得るために投資時期を一時期遅らすことも考えられる。リア ルオプション理論では不確実性の存在によって、価値が変動する3

Cappzza and Lie (1994)4 は農地のオプション価値と開発のタイミングについて分析を行い、不 可逆性の価値(Irreversibility Premium)の存在を理論的に明らかにしている。リアルオプション理 論を初めて実証分析を行ったのはQuigg (1993)である。彼女は未開発地の開発価値をヘドニック手 法によって求め、開発延期のオプション価値(Wait to Develop)が未開発の土地の価値の6%程度 であると指摘している(これをオプションプレミアムと呼ぶ)。Sing and Patelは(1999) 土地開発 のパターンをいくつかに類型化し(オフィスビル、賃貸住宅など)、イギリスのデータを用いてオ プションプレミアムを計測している。その結果、オプション価値は開発価値の約25%から30% 程度と結論している。これらの実証研究結果は、開発延期オプションのみに限定されているが、 オプションには開発延期オプション以外に多数の種類が存在する。開発延期オプションに関して は実証研究が可能であるが、その他のオプションに関しては実証研究が容易ではない。本論分で

2 Dixit and Pyndic (1994) によれば、「不動産を取得する権利」のことをリアルオプションと定

義している。Dixit,A.,and R.S.Pyndic、1994, ‘Investment under Uncertainty’ Princeton University Press, 7 ページ参照。

3 Sing, T.F.,1998, ’Real Options in Real Estate: Irreversibility, Volatility and Option Premia in U.K

Commercial Property Market’, Ph.D dissertation at Cambridge Universityを参照

(4)

は、開発後の物件に対してリアルオプション理論を用いてインプライドボラティリティーの計測 を行う。先行研究として先述したSing and Patel(1998)があるものの、彼らの手法はいくつ かの点で課題があり、本論文ではその点の克服を試みた。 表1 リアルオプションの先行研究 著者 年度 応用主体 確立推移関数 手法 McDonalds and Siegel 1985 Waiting to invest Option 不動産価格 Black-Sholes Model Titman 1985 Timing and

Density of Development Options 不動産価格 Binomial Model Capozza and Helseley 1989 1990 Urban Land Option Model

都市農地地代t First Hitting time Williams 1991 Optimal Scale and

Timing of Development 開発コストとキャッ シュフロー GBM Quigg 1993 Waiting to Development Option 開発価値と開発コ スト GBM

Patel and Paxon 1996 Timing and Quality Options

不動産価格 GBM Patel and Paxon 1997 Real Quadric

Property Options

開発価値と開発コ スト

Binomial Model Adachi 2001 Tax Effects on the

Option Premium 開発価値 GBM

5.モデル

ここでは、Williams(1991)5 とQuigg (1993)6 のモデルを応用して租税を考慮したオプションモデル の定式化を行う。日本では固定資産税、相続税などの税金は土地開発の意思決定に重要な役割を 果たしている。ここではマンション所有者(投資家)の資産最大化を仮定する。最適な時期にコ ストを払って(購入価格)、マンションを購入するケースを想定する。

仮定

マンションからの期待収益(=賃料)、そしてマンション価格は完全予見のケースとは異なり、 以下の確率過程 (Stochastic Process) に従うものとする。

5 Williams., J.T. (1991)‘Real Estate Development as an Option’,Journal of Real Estate Finance and

Economics, 4,pp191-pp208 参照。

(5)

p p p

g

dt

Pdz

dP

=

(

α

)

+

σ

...(1)

=

p

α

マンションの賃料の期待成長率 g =マンションの運営コスト

Xdz

Xdt

dX

=

α

x

+

σ

x ...(2)

マンション価格の変化

=

P

σ

率のボラティリティー

マンション価格の変化

=

x

σ

ここで、住宅投資家はリスク中立的であり、また dz は幾何的ブラウン運動をするものとする。 一般にはそれぞれブラウン運動をする場合、それぞれの定式化を行わなければならないが、Quigg (1993)は賃料を価格で割った新たな変数 z を用いて単純化を試みている。なお、この dz もブラウン運動をすることは確認されている。(1)式と(2)式はそれぞれブラウン運動を 行うが、ここで以下の仮定を置いて式の単純化を試みよう。 z という代用変数を導入する。

X

P

X

P

Z

(

,

)

=

とする。(これは収益率である)。……….(3) dzを全微分して、

dX

dX

dz

dP

dP

dz

dz

=

+

………..(4) これに(3)式を代入してまとめると以下(5-1)式が求まる。

z

dz

dz

zdt

p p x x x p

)

(

)

(

α

α

+

σ

σ

=

……….(5-1) マンション価値の導出 ここでは、いったんマンション投資を始めたら基本的には投資継続を行うことを仮定し、マン ション価格を求めよう。マンション価格は新しい変数 z を用いて W(z)で表現されることとな る。以下、W(z)がどのような形をしているのか調べてみよう。W(z)は以下の伊藤の命題を満た していることが知られている。

dt

z

W

z

dz

z

zW

z

dW

(

)'

'

2

1

)

(

'

)

(

=

+

σ

2 2 ...(5-2)

(6)

ここで、無裁定条件から、マンションの期待収益率は無リスク資産の収益率に等しいので以下 (6)式が成立する。

(

(

)

)

)

(

z

dt

E

dW

z

rW

=

...(6) (5−2) 式の両辺の期待値に (6) 式、(1)式を代入すると, 以下の2階の偏微分方程式が導出さ れる。

(

rW

z

)

dt

zW

z

z

W

z

dt

+

=

(

)'

'

2

1

)

(

'

)

(

α

σ

2 2 ....t<T...(7) ここで、 W (z)=マンションの価値 W’は W のzに対する一階の偏微分値 W’’は W のzに対する二階の偏微分値 である。 (7)式右辺はマンションからのキャピタルゲインを示しており、マンション投資からの要求収 益を表している。この方程式は 2 階の偏微分方程式の形をとっている。ただし、このzのブラウ ン運動が特殊な形をしているために、若干計算は複雑になる。

⎥⎦

⎢⎣

+

+

=

⎥⎦

⎢⎣

+

+

+

=

2 2 2 2 2

)

)(

(

''

2

1

)

)((

(

'

)

)

(

)

)((

(

''

2

1

)

(

)

)((

(

'

z

z

W

zdt

z

W

z

dz

dz

zdt

z

W

z

dz

dz

zdt

z

W

E

x x p p x p x x p p x p x x p p x p

σ

σ

ρσ

σ

α

α

σ

σ

α

α

σ

σ

α

α

ここで、

ρ

=

P,

X

の相関係数

相関係数などが出てくるが、これを解いて W(z)は 2 2 1 1

)

(

z

K

z

β

K

z

β

W

=

+

...(8) で与えられる。ただし K1 と K2 は定数であり、β1 と β2 は以下の特性方程式の解である。

(7)

0

)

1

(

2

1

2

+

=

r

αξ

ξ

ξ

σ

...(9) したがって、(9)式を解くことにより

)

10

...(

...

...

...

...

...

...

2

8

)

10

...(

...

...

...

...

...

...

2

8

2 2 2 2 2 2 2 1

b

r

m

m

a

r

m

m

σ

σ

β

σ

σ

β

+

=

+

+

=

が得られる。 ただし、 m=

2

r

− −

α σ

2とする。 x p

α

α

α

=

2 2

2

p x x p

ρσ

σ

σ

σ

σ

=

+

このモデルでは、賃料と不動産価格(つまり不動産を購入するコスト)との相関係数が入ってい るところが特徴的である。 ここで、(8)式を満たす特性根のうち、ひとつは1より大、もう一つは負値である。次に、(8) 式が満たすべく境界条件を特定化することにより、K1 と K2を求めよう。ここで、W()は以下の 初期条件を満たしている。 W(0) =0 ...(11a) W() =V(z) – ...(11b)i W’ (z) =V’ (z) ...(11c) まず、zが極めて小さいとき、限られた時間内に転換が行われる確率は極めて低い。よって、転 換の価値はゼロになる。これが(11a)式で示されている。このとき、

β

2

<

0

より、K2はゼロとな り、その結果オプション価値は 1と表現される。なお、購入後の価値は、z 1

)

(

z

K

z

β

W

=

(ただ し、kは不動産の購入価格)として表現される。以上をまとめると開発前と後でオプション価値 は以下の式によって示される。

+

=

)

12

...(

...

...

...

...

...

...

...

)

12

...(

...

...

...

...

...

...

)

(

1 1

b

z

a

k

z

K

z

W

β ここで注目すべきは、マンション購入者が最適なタイミングで投資を行う条件は状態変数であ るの値z, に依存しているという点である。この最適な開発タイミングTでは以下の条件が成立 している。 現時点でのマンション購入を考えている投資家にとって、今すぐに開発せず、一期 後になされればその意味でオプション価値は存在している。しかし、現在開発を行えばW(z) のオプション価値は消滅する。現在開発を行う場合、この価値の増加分がマンション価値に期待

(8)

r

z

k

z

K

1

*

+

=

*

...(13)

この(13)の条件式は、価値一致条件(Value Matching Condition)と呼ばれ、購入時点において 不動産の活用状態に関係なく、価値が一致していることを示している。また、この値はこれが最 適値になっていなければならない。この条件は円滑接着条件(Smooth Pasting Condition)と呼ばれ、 この条件を用いれば、若干の計算の後、最適開発時期での賃料水準 *は以下のように求められる。

z

k

z

⎟⎟

⎜⎜

=

1

1 1 *

β

β

...(14) なお、t<Tでオプション価値は以下のように求められる。

(14)式をもとに賃貸住宅売買のケースを想定して Capozza and Lie(1994)と Sing and Patel(1998)を援用し、さらに固定資産税など税金の効果(足立、2001)も考慮して、以下のモデ ルを利用しボラティリティーを求める。

k

r

m

m

r

m

m

z

⎟⎟

⎜⎜

+

+

=

1

)

2

8

(

)

2

8

(

2 2 2 2 2 2 *

σ

σ

σ

σ

………..(15) z*=当該不動産の価格(データでは収益/価格) r= 無リスク資産の利子率収益 2 2

2

p x x p

ρσ

σ

σ

σ

σ

=

+

モデルの解 このモデルでは重要なのがオプション理論で示すところの「プロジェクト価値」と「権利行使 価格」とのとらえ方である。ここでは行使価格を「購入価格」として、「プロジェクト価格」を理 論価格として把握する。Sing and Patel(1998) では、実際の不動産収益データをもとに理論価値 の計算を行っている。また、この場合、「権利行使価格」は取引価格そのものであるとしている。 しかし、売買価格も収益から逆算される理論価値もどちらもオプション価値を含んでいるはずで あり、どちらが「権利行使価格」なのかが同論文ではあいまいとなっている。 この点に鑑み、本論分では以下2種類のアプローチを提案したい。 まず第1の手法は、プロジェクト価格は1期、2期先の理論価格を時系列分析から予測して求 めこの価格と現在の不動産購入価格(=権利行使価格)との差をオプションプレミアムとする手 法である。例えば、現在の価格が6000万円のプロジェクト価値を持つマンションを購入し、 仮に同じマンションが次期には6200万円になるものと予測されたとする。この場合、この差 額200万円分がオプション価値である現在投資を行った投資家はこの200万円分の上昇をあ きらめて権利を行使したことになる。この場合、プロジェクト価値は時間に応じて何種類も計算 される。 厳密にはこの200万円はオプションプレミアムではないが、オプションプレミアムの情報を

(9)

多分に持っているものと推測される。しかし、この手法では時期の価格をなんらかの手法で予測 しなければならないが、そのような手法は存在しない。 第2の手法は、マンションの理論価値価値(=プロジェクト価値)と行使価格(=不動産販売 価格)を回帰させてその誤差を除いた理論価値を「オプション価値」とする手法である。例えば、 回帰分析を用いた結果、次期のプロジェクト価格の予測が6100万円と予測されたとする(実 際は6010万円であったと仮定する)。この時90万円分が誤差を取り除いて、オプション価を 求める7。Sing and Patel(1999)では、この誤差項を除いていなかったために結果が過小評価もし

くは過大に評価されていた可能性がある。本モデルはクローズドソリューション型8ではない為に、 独自のアルゴリズムによる数値解析によってインプライド・ボラティリティーを求める。

アルゴリズムの図解

ここでは単純に、 不動産の理論価格 (プロジェクト価格) 権利行使価格(実際に観測され た不動産価格) リアルオプションモデルで計測

インプライド・ボラティリティーの計測

プロジェクト価値(=V(P,X))は

)

*

(

)

,

(

P

X

X

Az

k

V

=

j

+

と表現され、その時のz*の値は

k

j

j

z

1

*

=

で求める(これは、データから得られるが、0.01から0.05の間の値をとるはずである)。 kは以下述べるように回帰分析を用いて求める。jの値は、Quigg(1993)では次のよ うに計算されている。 2 2 2

2

8

w

r

w

m

m

j

=

+

+

7 ArchやGarchなどのモデルを用いて不確実性を定式化することも可能である。

(10)

ここで、 2

)

(

2

r

V

V

w

m

=

x

+

p

ここで、Vx,Vpは機会費用と呼ばれ、マンションを空き家として利用したときにかかる機会費 用のことである。この分のデータ入手は困難であるから、これらを一定と仮定する(=0.02) Quigg(1993)でもVx,Vpは一定と仮定されている。 また、計算の簡単化のために片方の変数のボラティリティーはヒストリカルボラティリティー を用いる。この結果、mはかなり単純化され、以下のようになる。 2 2

2

x p p x

w

=

σ

ρσ

σ

+

σ

ρ

は一度だけ計算するものの、一定値と仮定する。そして、wの値を計算する。 この結果、例えば、 のようになり、この値をjに代入する。 そして、理論値と対応させて数値解析シミュレーションを用いてボラティリティーを求める。 2 2

)

12

.

0

(

)

12

.

0

(

)

3

.

0

(

2

+

=

x x

w

σ

σ

理論値との対応 先述のようにSing&Patel(1998)では、観測データと理論データとを回帰させているが、これは 誤りである。なぜなら、理論データは2変数モデルからなるバイアスを含んでいるからである。 さらに、収益のボラティリティーと投資価値のボラティリティーを考慮していない。そこで、本 論論文では、このバイアスを取り除くために回帰計算を行い、まず、理論値とプロジェクト価値 を回帰させる。ここでXは投資金額である(もしくはコスト)。

ε

α

+

= Xt

Yt

Xt

Y

Yt

ε

=

t

=

α

)

そして、今期の値(理論値を計測し)、

Y

)

を求める。そして、この

Y

)

(変換した後の投資金額) を理論値(つまり、プロジェクト価格)、実際の投資額を権利行使価格して組み合わせ、ボラティ リティーを求める。この時に利用するモデルが、(15)式である。 データについて: データ 賃貸住宅のボラティリティーについて求める。 ステップ①)データの収集 (2(半期)×20(地点)×2(種類)×20 年+2(半期)×20(地 点)×1(種類)×20 年)=2000地点 1981年 1 月から1997年現在まで半期ごと の50地点(東京圏、大阪圏、中京圏)の①ワンルーム賃貸住宅と②マンション(ワンルー ム)のそれぞれ家賃と販売価格を調べる。 ステップ②)そして、収益データなどを用いてマンションの仮想的な価格を求め、これと実際の売 却価格とを連立させてインプライドボラティリティーを求める。 1. 必要なデータ (以下の表2を参照されたい) 賃貸住宅の場合のデータ(2(半期)×20(地点)×2(種類)×20 年+2(半期)×

(11)

20(地点)×1(種類)×20 年)=2000地点のデータの選出(作業1)。次に分譲マ ンションデータを入手する(2(半期)×20(地点)×2(種類)×20 年+2(半期)× 20(地点)×1(種類)×20 年)=2000地点(作業2)。選出に当たっては都心部か ら20分、40分、60分、80分、100分と5箇所くらいに分けてそこに該当する最寄 り駅(どの駅でも結構です)から徒歩10分程度の立地のデータ・家賃・を各10箇所ほど 抽出する。分譲マンションデータと賃料データはほぼ同じ地点でなければならない。

表2 使用データ

変数 データ 不動産賃料 新報社の「アパートマンション家賃調査(1980−1997)」年を使用 不動産価格 新報社の「アパートマンション家賃調査(1980−1997)」年を使用。 成長率 家賃の平均収益成長率(平均値(5年)を用いた)(1980−1999年) 市場利子率 長期プライムレート (1980−1997) 固定資産税率 0.03−0.13% Vx,Vp機会費用 0.02 注意)固定資産税のデータに関しては岩田(1993)を参照。また、最近の固定資産税率に関しては足立(20 00)参照ii

6. 計測結果

賃貸住宅に対する投資(1991年∼2002年) 6−1 3大都市圏でのマンション投資の収益率9 図1は分譲されたマンションを貸し出した場合の収益率のボラティリティーを示している。運 営コストなどを考慮に入れない場合の平均利回りは約1%∼4%と地域によって大きく異なって いる(図1参照)。ボラティリティーは4%から10%程度となっている。東京圏の場合はリター ン・リスクの関係からローリスク・ローリターンの性質が見て取れる。都市銀行の普通預金金利 がほぼゼロである現在、また、他の金融商品の場合と比較して約1%∼4%の収益はかなり高い 値といえる(特にバブル期を経てこの値であり、地価が下落している現在、収益率はさらに高い ものとなるであろう)。将来的には空室リスクなども考えられるが、立地が良い場合には空室リス クも当然低くおさえることができる。アメリカでは賃貸契約期間は10年、またシンガポールで は3年であった。日本の場合、基本的な契約更新は1年もしくは2年ごとに行われる。2年を目 処に賃貸住宅の契約更新の促進を図ればリスクは低下するであろう。また、それぞれの地域ごと の収益率の相関係数が示されている(表1−2参照)。表1−2より、中京圏と東京圏、中京圏と 大阪圏の相関係数が低く、これらをまぜた分散投資を行えばリスクは大きく下がるであろう。 1. 9調査対象地点は以下である。(東京地区20地点)国分寺、立川、国分寺、吉祥寺、荻窪、 中野、菊菜、武蔵小杉、自由が丘、笹塚、渋谷、勝田台、西千葉、津田沼、市川、亀戸、川 越、成増、上板橋、大山、池袋、(大阪地区20地点)長居、堺、三国ヶ丘、和泉府中、泉 大津、平野八尾、柏原、高安、奈良、吹田、茨城、高槻、長岡天神、大津、庄内、西宮、宝 塚、箕面、明石、(名古屋地区)四日市、桑名、柴田、須ヶ口、名古屋駅東、西暮、尾張一 宮、大曽根、藤が丘、豊田

(12)

図1東京・大阪・中京圏20地点の賃料の時系列データ (1981-1997) 0 0.005 0.01 0.015 0.02 0.025 0.03 0.035 0.04 0.045

81

.1

83

.1

84

.1

85

.1

86

.1

87

.1

88

.1

89

.1

90

.1

91

.1

92

.1

93

.1

94

.1

95

.1

96

.1

97

.1

大阪 中京 東京 出所:住宅新報社の「アパートマンション家賃調査(1980−1998)」年 表3. 3大都市圏でのマンション投資の相関係数 大阪圏 中京圏 東京圏 大阪圏 1 中京圏 0.360 1 東京圏 0.800 0.166 1

(13)

2. ヒストリカル・ボラティシティー 図2 東京・大阪・中京圏20地点のリスクの時系列データ (1981−1997)

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

1981

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1984

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1997

東京圏

大阪圏

中京圏

出所:住宅新報社の「アパートマンション家賃調査(1980−1998)」年 6−2. インプライド・ボラティリティー 前述の式(15)を用いてインプライド・ボラティリティー値を求めた結果と、ヒストリカル・ボラ ティリティー値との比較の結果を以下に示した。従来型のヒストリカル・ボラティリティーに比 べて、インプライドボラティリティーの方が動き幅は大きい(表4、表5参照)。しかし、両者の 相関関係は約3割程度であり、相関関係が存在すると見てよい。ただし、インプライドボラティ リティーの値そのものが過大であり、(5倍から10倍)に評価されており、データの信頼性の面 からはこれからも開発の余地はあろう。今後はインプライドボラティリティーの「情報性」は最 大限に汲み取る努力を続けるとともに、モデルの精度を高める必要がある。

(14)

図3 インプライドボラティリティー値とヒストリカルボラティリティー値の計測結果の比較

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

19 81 19 82 19 83 19 84 19 85 19 86 19 87 19 88 19 89 19 90 19 91 19 92 19 93 19 94 19 95 19 96

0

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05

0.06

0.07

Implied Vol

Average

表4 ボラティリティーの平均値 種類 平均値(1981−1997) インプライド 0.371128 ヒストリカル 0.058376 表5 回帰結果(ヒストリカル VS インプライド) 回帰統計 重相関 R 0.76063 重決定 R2 0.57856 補正 R2 0.55849 標準誤差 47104.9 観測数 23 係数 標準誤差 t P-値 下限 95% 上限 95% 下限 95.0% 上限 95.0% 切片 138108. 22832.56 6.048747 5.29E-06 90625.47 185591.3 90625.47 185591.3 X 値 1 0.26294 0.048971 5.369311 2.52E-05 0.1611 0.364783 0.1611 0.364783 使用したモデル:

y

=

α

1

+

α

2

X

+

ε

X=インプライドボラティリティー Y=ヒストリカル・ボラティリティー

(15)

7.結びにかえて

本節では不動産投資(マンション投資)におけるインプライドボラティリティーの計測を行っ た。インプライドボラティリティーとは、一定期間後の株などの購入・売却価格を決めて、その 権利価格(=オプション価格)より逆算されるボラティリティーのことである。しかし、金融市 場と異なり、不動産投資市場についてはオプション市場が存在しない。よって、不動産理論価格 =投資意思決定価格(権利行使価格=エクササイズ・プライス)と考え、Sing and Patel (1998) の理論手法と日本のデータを用いて計測を行った。その結果、インプライドボラティリティーの 平均値は0.3711 であった。一方、ヒストリカル・ボラティリティーの値は 0.0540 となっており、 両者を比較すると明らかにインプライドボラティリティーの値のほうが過大(約7倍の値で評価 されている)に評価されている。しかし、両者の動きについては相関係数は高く有意に相関して いる点が確認できる。つまり、両者とも似たような情報を持ちながらインプライドボラティリテ ィーの方がより大きく変動している。これは、インプライドボラティリティーの性質(=即時性 の高い情報を反映している)を示唆している。つまり、インプライドボラティリティーが「投資 を意思決定したその瞬間の情報を反映している」という点において、ヒストリカルのそれと比較 してより多くの情報を有していることの現われである。ただし、やや過大に評価されている可能 性が高いため、今後は更なるモデルの精度向上・データ改良を行えば日本でも新しい指標として インプライドボラティリティーが利用されるであろう。

(16)

参考文献

『最適開発時期に対する固定資産税の効果』、前川俊一・足立基浩、明海大学不動山学部論集、 1996年 2. 『和歌山市の農業経営および農地利用に関する一考察』足立基浩、地域研究シリーズ第20 号2000年 3. 『土地税制の理論と実証』岩田規久男他編 東洋経済新報社、1993年

4. Adachi.M, Patel.K, ‘Agricultural Land Conversion and Inheritance Tax Effect’ Review

of Urban and Regional Development Studies 11-2, 1999

5. Anderson,J.E.,1993, “Land Development,Externalities, and Piguvian Taxes”, Journal of

Land Economics 33, pp.1-9

6. Arnott, R., 1998, “Neutral Property Taxation” Proceedings of AREUES

conference at Maui U.S.A

7. Bar-Ilan,A and W.Strange., 1996,”Urban Development with Lags”, Journal of Urban

Economics, Vol. 39, pp87-112

8. Bentick,B., “Improving allocation of land between speculator and users:taxation and

paper land”, The Economic Record, Vol.48,pp18-41,(1972)

9. Capozza, D.R., and Li,Y., 1994 “The intensity and timing of investment: The case of

land,” American Economic Review,Vol.84, No.4,pp889-904.

10. McDonald,R. and Siegel,D.,1986,”The Value of waiting to invest,” Quarterly Journal of

Economics , Vol. 101, No.4,pp 111-144

11. Quigg,L.,1993,”Empirical Testing of Real Option Pricing Models,” The Journal of

Finance, Vol.68,No.2,pp.621-639

12. Sing,T.F. and Patel,K. ,1999, “Empirical Evaluation of the value of waiting to invest”,

The AREUEA International conference proceeding, p1-p16

13. Skouras, A., 1978 “Non-neutrality of Land taxation”, Public Finance, No.1-2

Vol.XXX12/XXX12.pp113-134, (1978)

(17)

4部、不動産の証券化・REITについて

足立基浩 和歌山大学経済学部

1.はじめに

日本経済の長引く低迷の要因として不良債権問題が挙げられる。不良債権問題解決にむ けての施策がいくつか考えられるが、その中でも①経済の構造問題と②不動産価格の上昇 の2点が重要であると指摘されている。経済の構造問題の面では、規制改革や円安などで 外需・内需を拡大させており、一応の成果が見られるようになっている。一方、金融機関 による不良債権処理が遅々として進まない。これは、不動産価格の連鎖的な下落が不良債 権をさらい拡大させるという「スパイラル的下落」に起因しているからであろう。 不良債権問題を抜本的に解決するためには、経済ミクロレベルでは、①戦略的な不動産 投資の必要性(=リアルオプション等リスクヘッジのための不動産金融工学の応用)、②不 動産の証券化とポートフォリオの模索、そしてマクロレベルでは①REITの発展と②バ ルクセールの可能性、などがあげられる。本章では、特に今後の課題である①インデック スの探求(ミクロ・マクロ両方に関係)と②海外のREIT(Real Estate Investment Trust) と国際分散投資の可能性について分析を行う。 不動産の証券化 本節では不動産の証券化について議論を行う。不動産の証券化は不動産の流動化、また資金調 達などの面で優れているといわれているが、野口悠紀雄氏1は不動産証券化のメリットについて以 下の点を挙げている。 (1)資金調達手段としての側面 主として銀行や保険会社からの借り入れによって調達されてきたが、不動産の証券化によ って新しいルートが開発された。これにより銀行では応じられない巨額な資金が調達できる。 プロジェクトの収益性やニーズに応じて弾力的な条件で資金調達ができる。また長期的な資 金調達も可能となる。 (2)資産運用手段としての側面 投資化サイドから見ると不動産の所有は収益率の面では優れているが、他方で個別性が強 いために客観的価格付けが難しいことや取引費用が高いために流動性が低いという点が上げ られる。 「不動産の証券化はこれらの問題点を克服するものと思われる。土地経済の側面としては後者 の面が強調されてよい・・。日本の場合、土地所有の資産性が強調されており、利用の面で歪ん でいるから・・。」と野口氏は主張している。 さらに、不動産証券化のメリットとして、

(18)

3)零細投資家に新しい資産運用手段を与え、将来の不動産購入に対する資産価値の維持を 可能にする。 4)土地保有者が証券に乗り換えることにより土地に対する利用と所有の分離を実現させ、 これにより土地の有効利用を図るという2 つの側面で重要な機能を果たすことが期待される。 などを指摘している。これらのメリットが果たして生かされているのかどうかは、不動産マーケ ット、土地法制、資金需要・供給などの点に依存する。日本の場合、不動産金融商品取引市場で あるJREIT が2001年9月21日よりスタートした。不動産の証券化、不動産金融、不動産間 接投資、投資家層の拡大などがこれにより促進されるとうたわれている。 今後の日本のJREIT の行方を見守るほかないが、不動産の税制、流動性、情報開示などの点で JREIT もいくつかの課題があろう。例えば、後述するシンガポール不動産市場の場合、土地のほ とんどが国からのリース(99年リース)であって、国民の多くは土地の所有権を持たない。こ の場合土地に対する執着はなく利用としての側面がおのずと強調される。日本と異なり開発権が より強く制限されている欧米諸国でもこのような現象がみられ、日本の目指すべきREIT もこの 点を考慮に入れて諸外国の経験に学ぶ必要がある。日本の場合、これら諸外国と異なり固定資産 税率は低く、土地に対する税制(相続税など)、法制など様々な面で不動産所有が有利となってい る。不動産保有そのものの是非についてはここでは論じないが、このような不動産を取り巻く各 国固有の事情を所与として不動産の証券化を評価する必要がある。 本章では次節以下、JREIT に先駆けて約40年の歴史を持つアメリカの REIT について解説を 行う。

2.アメリカの不動産証券化と REITsについて

不動産投資信託の現状 アメリカのREIT(不動産投資信託)は1960年の内国歳入法によって特殊なスキームと して誕生した。企業はオフバランス化を目的として不動産を REIT に売却し、売却した企業は、売 却資金を元に経営に専念できる。1960年代後半から70年代前半にかけて第1次REITブ ームが起こり、次第に銘柄数を増やしたが、72年の金融引き締めによって多くのREITが経 営破たんに陥った。当時は銀行系REITの経営破たんが相次いだ。チェース・マンハッタン銀 行のREITの破綻は特に有名である。 1986年の法改正 1986年以前はREIT株式の自家運用は認められていなかったが、これが緩和され、RE IT自身の運用や管理などを実際に行う自家運用ができるようになった。運用や管理を行う会社 はREITからフィーを得るがそれまではREITの収益性が上昇しても悪化しても額は一定で あった。さらに、大きな変化として1992年法のUPREITがあげられる。 1980年代に入ってREITは徐々に立ち上がり86年の税制改正で不動産を使った節税策 が完全に封じられてからは、もともと節税スキームではなく、収益スキームだったREITの人 気が相対的に上昇した。その後、80年代後半の過剰投資による不動産不況でREITは伸び悩 んだがアメリカの商業用不動産の底値といわれる1993年を栄えに再びREITに対する需要 が増大した。 1992年法改正

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REIT に不動産を現物出資した元の所有者が金ではなくOPユニットと呼ばれる「持分権」を取 得した場合、「持分権」をREITに転換し、換金するまで、負担すべきキャピタルゲイン課税を 将来に繰り延べることができる仕組みである。これは事実上の減税措置である。パートナーシッ プ(共同で事業を行うための組織形態)を使ってREITが直接不動産を保有しないようにし、 また、パートナーシップに所有権を出資した元の所有者にはパートナーシップの持分権(REI Tに転換可能)が渡される。 2000年時点でのREITの配当利回りは6.05%と、株式相場の指標となるS&P50 0の配当利回りが2%程度だったのと比べるとかなり良好であった。さらに配当収益にキャピタ ルゲインを加味した総合利回りは平均35%と高い値となっている2 アメリカでは、ほとんどのREITが個人の不動産事業者によって創設されているが、創設者 は自分でファンドを運用するか、外部のマネージャーを雇って日常業務に当たらせている。RE ITを創設し、その運用を決定する不動産事業家をアドバイザーと呼ぶ。かつては、アドバイザ ー業務に銀行や生保進出してきたが現在ではプロの不動産事業家のアドバイスによって運営され ている3 1999年末で203のREITが上場され、市場における時価総額は1242億ドル(約1 3兆円)となっている。1990年末は時価総額が87億ドル(約9兆円)で、この10年間に 市場が約14倍となっている。1990年代後半はいわゆるネットバブルでIT産業の成長株に 資金が流れたものの、IT不況に陥るとすぐさまREITに資金が還流している点が特徴的であ る4(図4参照)。 また、投資家の売買状況を見ると個人投資家が約50%、ミューチャルファンドが40%程度 を占めている。また日本のように様々な種類の不動産に投資するのではなく、オフィス、商業施 設、住宅投資で全体の約75%程度を占めている。なお、米国の不動産投資市場が拡大を遂げた 背景として、不動産投信に不動産を現物出資した場合の課税繰り延べという税制面での優遇措置 が講じられたことや、外部に資産運用や管理を委託するのではなく、インハウス(自家)運用が 認められたことなどがあげられる5 図4 1990年代のアメリカの不動産金融市場の特徴 0 20000 40000 60000 80000 100000 120000 140000 160000

1971

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1997

1999

年次 時価総額 出所:NAREIT資料 2 井出保夫、『不動産は金融ビジネスだ』、p153、1999 年 3 井出保夫、『不動産は金融ビジネスだ』、p151−153、1999 年 4 川口有一郎、『不動産金融工学』、P162−163参照、2000 年 5 東証公式ETF&不動産投信サポーター、東京証券取引所株式部株式総務グループ、p69、

(20)

アメリカREITの投資先 アメリカREITの投資先は景気状況に応じてめまぐるしく変化している。例えば1997年 現在ではオフィスビル、22.39%、リテール、21.66%、レジデンシャル(居住用住宅) 21.04%、ヘルスケアー、9.88%、MBS(モーゲ−ジ)5.02%、倉庫、5.07%、 多目的4.58%、その他10.18%となっている。REITは基本的には不動産の長期投資 のことであるからショッピングセンターのように10年もしくは20年の安定したテナントリー ス契約に人気が集まる。ショッピングセンターの場合、定額賃料に加えて売上高の一定割合を加 算する賃料システムになっているので、こういったこともショッピングセンターのREIT人気 の理由として考えられる。逆に契約期間5年間程度のオフィスの場合、空室リスクが高いといわ れている。また、2000年現在ではサンフランシスコの住居系とニューヨークのオフィス系が 好調、といったように地域によるマーケットの違いも考慮されねばならない。なお、アメリカに は刑務所のREITも存在している。全米に59の刑務所と45000のベッド数をもつREI Tで、総合収益が50%から60%と、高利回りのリターンが実現されている。これは、米国で は連邦政府が州政府に刑務所を賃貸しており、管理しやすく内装もリフォームする必要がないこ とと今後も米国では犯罪率が上昇の一途をたどっているとの社会事情が背景にある。無論この場 合、「犯罪率減少リスク」がこのREITの最大のリスクとなる6 アメリカのREITの現状7 以下、アメリカの現在のREIT の仕組みについて概説を行う。 ① 課税所得の90%以上を配当すること ② 資産の75%以上が不動産、現預金、国債等であること ③ 同一会社の株式が総資産の5%を超えず、かつ同一会社の議決権付き株式の10% 超を保有しないこと ④ 総収入の75%が賃料収入など不動産からのものであること ⑤ 総収入の95%以上が上記④の収入と株式などからの配当や利息収入であること ⑥ 株主数が100人以上であること ⑦ 5人以下の株主が過半数の株式を保有していないこと これらアメリカの REIT の仕組みについてはマレーシアのそれやこれから導入が検討されてい るシンガポールの REIT にも制度上の類似点が多く見られる。特に資産構成の要件などは他の国々 とほぼ同一であるといっても良い。ただし、不動産の運用を内部で行うか外部委託するか、もし くは投資法人型か信託型かなどは各国の事情によって異なってくる。 さて、これまでアメリカの REIT について概要を説明してきたが、米国のREITと日本の JREIT との違いについて述べてみよう。まず、第1にアメリカの場合 UPREIT が導入されている点が日本 と大きく異なる。日本ではこの点が見送られている。次に、米国ではREITの自家運用が認め られているが、日本ではみとめられていない点である。アメリカの例を見習う限りにおいては REIT 市場の拡大にはこれらの2点は不可欠と思われる。特に日本の場合に限らず「税制」と投資行動 とは大きく相関しているので、UPREIT の導入は慎重に検討されているのかもしれない。しかし、 6 井出保夫、『不動産は金融ビジネスだ』、p155参照、1999年 7 川口有一郎、『不動産金融工学』、P162参照、2000 年

(21)

不動産市場が活気づけば、経済全体の刺激になり、場合によっては税収が増加するかもしれない。 後述するが、シンガポールではREITの活性化が経済活性化の起爆剤になると見る投資家もい る。税収に関してはマクロ経済的な視点からの検討が望まれる。

3.オーストラリアのREITについて(2002年5月現在)

オーストラリア経済とLPT(上場不動産投資信託) 次にオーストラリアの REIT 市場について概観してみよう。オーストラリアではLPT(Listed Property Trusts)と呼ばれる上場プロパティートラスト制度が存在している。LPTのトラストマネ ージャーはRE(Responsible Entity)と呼ばれ、法人組織である。これはマネージメントフィーか ら諸経費を差し引いたRE法人純利益に吹かされる所得税をRE法人が支払うことになっている。 LPTはトラスト形態を採用しているために法人税ではなく、「トラスト税制」と呼ばれるものが 適用される。不動産に対する所得をすべて配当にまわしてしまえばトラストレベルでの配当はな い。この点はアメリカの REIT や JREIT と似ている。ここでの特徴はLPTを購入するために銀行 から借金をした場合、その金利を損金として総合所得から減殺できる点である。アメリカのRE ITと異なり、オーストラリアでは配当されなかった不動産所得は48.5%で課税されてしま う。 JREITがそうである様に、アメリカのREITは新立法の元創出された不動産小口化商品 であった。それに比べオーストラリアのLPTユニット商品は新立法ではなく既存のトラスト 法・会社法、所得税法をもとに30年前にオーストラリア連度リース社が創出したものである。 会社法の一部を改正した1998年MIA法も投資家保護を目的としたものであり、それ以外に もオーストラリアの不動産小口化形態を根本から変える立法は過去30年間存在しない。 また、不動産小口化商品やLPTのみを規制する縦割り立法は存在せず、会社法、商法、税法 上場規則などすべてLPTをも包括する横断的規則である。 1986年のアメリカ連邦税制改正はREIT自身が直接マネージャーになる方向性を与えた が、それはオーストラリアにおけるステープルド・トラスト形態に似ている。オーストラリアの ステープルド・トラストは不動産マネージメントや開発を会社形態で行い、不動産のオーナーで あるトラストの株とマネジメント会社の株を同数合わせて購入する条件で上場発行したものであ る。この結果、外部のマネージャー経費を必要とせず、オーストラリア・ストックランド社やマ ーバック社がこの内部マネージメントシステムを確立して多くの投資家の支持を受けている。 オーストラリアがアメリカのアップリートの形態ではなく、ステープルド・トラスト形態を採用 しているのは開発や不動産販売形態機能をとるトラストの場合、トラスト所得に法人税が賦課さ れてしまうからである。節税分を投資家にそのまま流すトラスト税制を利用するために、ステー プルド・トラスト形態をとり、会社部分に不動産開発や不動産マネージメントを任せるのである8 制度の詳細については割愛するが、オーストラリアでは世界的に見てもLPTが堅調であり、市 場でも一定の評価を得ている(オーストラリアのLPTの平均収益率やリスク・リターン等につ いては参考資料1を参照されたい)。

4.マレーシアのREITについて(2002年5月現在)

マレーシアでは1989年よりクアラルンプール・株式市場にREITが上場され、2002 8 金城昭一、「オーストラリアLPTの分析」CRES所収 不動産シンジケーション協議会、N O.123号、pp29−35参照、2001

(22)

年3月現在では4商品が上場されている(Amanah Harta Tanah PNB(AHTP), Arab-Manaysian First Property Trust(AMFPT),First Manaysian Property Trust (FMPT), Mayban Property Trust Fund One (MPTF1)、表6参照)。現在までで、平均利回りは約5%、リスクは約10%と なっている(ただし、1993年の不動産バブル期を除く。この年、PTのうちAHTPの価格 が490.9%上昇し、他のトラストも急上昇した(203%(FMPT)、119.54%(A MFPT))。マレーシアではREITはローリスク・ローリターン商品として投資家から一定の 人気を集めている。 マレーシア REIT の特徴 ここで、マレーシアのREIT の上場要件について述べておこう。 75%は非上場の信託商品から構成され、80%以上が不動産、もしくは不動産を単体投資 している会社株でなければならない。 トラストの信託財産の中には「開発中」の物件が含まれていてはならない。しかし、開発物 件の開発後の購入を予約することはできる。 借入金は全資産価値の10%を上回ってはならない。ただし、SCによって許可を受けた場 合にはこの通りではない。 会社レベルでは法人税は賦課される。ただし、100%配当を行った場合にはこの通りでは ない。 以上がマレーシアREIT の設立要件であるが、マレーシアでは、UPREIT 制度などは存在せず、 また基本的にはオーストラリア型を採用している。基本的には米国型REIT方式を採用してい る。 マレーシア不動産市場の現状 マレーシアの不動産投資信託4種類の月次と 4 半期の推移が以下に示されている(図6.図7 参照)。収益率は10%以下であり、変動の幅もそれほど大きくはない。ここでもローリスク・ロ ーリターンの REIT の性質が見て取れる。 図6 マレーシアの不動産投資の収益の時系列変化(1990 年 1 月―2002 年 5 月)(月次データ) -60% -40% -20% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 120% J an-9 0 Ju l-9 0 J an-9 1 Ju l-9 1 J an-9 2 Ju l-9 2 J an-9 3 Ju l-9 3 J an-9 4 Ju l-9 4 J an-9 5 Ju l-9 5 J an-9 6 Ju l-9 6 J an-9 7 Ju l-9 7 J an-9 8 Ju l-9 8 J an-9 9 Ju l-9 9 J an-0 0 Ju l-0 0 J an-0 1 Ju l-0 1 J an-0 2 Ju l-0 2

(Outliers in Dec 1993 were removed) RAHPT RAMFPT RMPTF1 RFMPT

(23)

図7 マレーシアの不動産投資信託(1990−2002年 5 月)(4半期データ) -40% -30% -20% -10% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% Q 190 Q 390 Q 191 Q 391 Q 192 Q 392 Q 193 Q 393 Q 294 Q 494 Q 295 Q 495 Q 296 Q 496 Q 297 Q 497 Q 298 Q 498 Q 299 Q 499 Q 200 Q 400 Q 201 Q 401

Note:The outliers in December 1993,which saw the property returns of AHTP shooting up to 490.9% and other two trusts recording 203.57%(AMFPT) respectively,were removed. RAHPT RAMFPT RMPTF1 RFMPT 表6 マレーシアの不動産投資信託の種類(2002 年 5 月現在)

略名 AHTP AMFPT FMPT MPYF1

名称 Amanah Harta Tanah PNB Arab-Malaysian First Property Trust First Malaysian Property Trust Mayban Ptroperty Trust Fund One

誕生年月日 20-Mar-89 16-Mar-89 30-Sep-88 11-Jan-90

上場日 28-Dec-90 28-Sep-89 23-Nov-89 25-Mar-97

主要株主 Skim Amanah Saham Arab-Malaysian Development Commerce Asset-Holding Malaysia National Insurance

( % 株) Bumiputera(41.01%) Bhd(41.98%) Berhad(89.17%) Berhad(7.08%)

Malaysia Nasional Insurance Arab-Malaysian Merchant Bank Universiti Putra Malaysia Kumpulan Darul Ehsan

Berhad(5.35%) Berhad(1.5%) (0.80%) Berhad(4.72%)

アセット・マネージャー Perlaburan Hartanah Nasinoal Arab-Malaysian Property Trust Amanah Property Trust Mayban Property Trust

Berhad Management Berhad Managers Berhad Management Berhad

現在の資産額(FY2001) US$36,298,099.21 US$46,852,339.21 US$23,920,106.32 US$25,977,804.74

US$/(RM) (RM137,932,777.00) (RM178,038,889.00) (RM90,896,404.00) (RM98,715,658.00)

Number of units of RM1.00 100,000,000 138,400,225 105,855,853 106,037,000

each issued

資産額単価 US$0.36(RM1.38) US$0.34(RM1.29) US$0.23(RM0.86) US$0.24(RM0.93)

(FY2001) US$/(R$)

株価 (on 8 May 2002) US$0.20(RM0.77) US$0.21(RM0.79) US$0.16(RM0.60) US$0.24(RM0.40)

Discount to NTA 44.16% 38.76% 30.23% 56.99%

投資の構成比

ⅰ)不動産 83.43%/(13properties) 94.35%/(2properties) 58.66%/(6properties) 71.24%/(5properties)

ⅱ)株/国債 11.77% 2.35% 17.84% 26.34%

(24)

5.シンガポールREITについて(2002年5月現在)

5.1 はじめに

シンガポールでは2001年11月にSREITs(Singapore Real Estate Investment Trusts =シンガポール不動産投資信託)の株式上場を試みたが,当初予定していたほど資金が集まらず (予定額の20%程度不足)、上場を断念した。少し機会を見てから再度REITの上場を試みる 模様だが、それがいつになるのかは現在のところ未定である。現在のところキャピタルランド社 が自社ビルをREIT に上場するよう名乗り出ている。シンガポール政府はREITを経済活性化 の重要課題と位置づけ、その創設に向け2002年5月22日、23日、オーストラリアのNo well教授を招いて創設準備会議を開いた。著者はその会議に出席し、シンガポールREIT 創設に向けての現状と課題について聞き取り調査を行った。 シンガポール経済の現状 ここでは、シンガポール経済の現状を概観しよう。シンガポールの2000年時点でのGDP は約923億ドル(=2.8兆円)であり、日本のGDPの約25分の1である。対外依存度は 高く、150%となっていることからも分かるように外需に依存した経済となっている。IT輸 出は輸出全体の約半分を占め、輸出の趨勢が経済の鍵を握っている。2001年度に発生した米 国テロ事件の影響を受け、10月以降の輸出・生産の落ち込みから輸出関連業種を中心に企業業 績は急速に悪化している。この結果、製造業は建国以来最低水準となっている。こうした状況の 中、政府は財政主導による2度にわたる景気刺激策を実施した。とくに同時多発テロ発生により 影響を受けた9月期には通貨危機時(98年11月)、105億ドル(=約3000億円)を上回 る総額113億円(=約3300億円)の規模の経済刺激策を行っている。 具体的には法人・個人所得に対しての払戻し税を実施し、インフラ建設の前倒しのほか、低所 得者層および失業者支援を強く打ち出し、専門職の外国人に対して発行される就業許可証支給対 象者の最低賃金引き上げも決定されている。また、新たな試みとして経済成長率次第で配当が増 え、換金可能な証券「シンガポール株式」が支給された。こうした景気刺激策は経済の原則緩和 に寄与したものの、輸出依存型経済復興に向けては何よりも世界経済の復興が同国復興の鍵を握 っている。1 SREITの創設もこういったマクロ経済的な要因と無関係ではない。新市場創設によ って金融市場を刺激すれば、内需の活性化の好材料となる。以下、SREITの創設の経緯を振り返 ってみよう。 SREITの創設課程 先述のように昨年11月の上場はされなかったものの、SREIT創設に向けての計画は現在 も進行中である。これまでの経緯は以下表7を参照されたい。 表7 シンガポール REITsの創設の歴史(2002年6月現在)について 1983−1984年 不動産バブル崩壊 1985年 財務大臣が17人のメンバーからなる不動産問題審議会設置を要請 1985年 審議会メンバーが不動産関連業者にアクションプラン作成を要請。 1986年 不動産問題審議委員会の第一回目のレポート提出。REITの創設を要請 1 『アジア経済2002』、富士総合研究所調査研究部、p144、2002 年

参照

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