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小値賀の民泊 中国の農家楽

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〈海外短信〉

小値賀の民泊

中国の農家楽

彭年

長崎県広報課が編集・発行している広報誌 『にこり』2011年10月号は「おもてなしの島小 値賀へ」という特集だった。『にこり』は長崎 各地の自然と歴史と現状を知る上での格好の写 真入り情報提供誌であるため、毎号紐解くのが 楽しみとなり、興味深く読ませてもらってい る。しいて欠陥といえば、写真の注釈の文字が 小さすぎて読むのに目が疲れることだ。それは それとして、いつものように10月号を興味深く 読んでいる と、「小 値 賀 に 来 た な ら ぜ ひ 民 泊 を」、「民泊民家きよすみ」、「ヨシ子さんは民泊 を受け入れる魅力について教えてくれた。それ は『小値賀に居ながらにして、世界中の人たち と知り合えること』。」、「民泊では郷土料理体験 で、島のお母さんと一緒に料理を楽しむ。」、「ま さに地産地消の島ごはんに感激!島の恵と家族 の温かさにじんとした。」、「民泊民家の私たち も親戚が遊びに来たと思って受け入れておりま す。」、「今から5年前、観光客が小値賀に宿泊 するといえば、それは野崎島でのキャンプを意 味した。しかし、キャンプだけでは団体客の受 け入れは難しい。こうした理由から誕生したの が『民泊』だった。5年前にわずか7軒でスター トした民泊民家も現在は33軒。今では島の大き な魅力になっている。昨年、小値賀はまた新た な取り組みに着手した。それが1棟貸切の『古 民家ステイ』である。趣ある古い民家を新たに 甦らせた贅沢な空間は、これまでとは異なる客 を取り込むことに見事に成功。今や年間の観光 客は人口の約3倍である。」、などの文字が脳裏 に焼きついた。この小値賀の「民泊」は中国で いま流行っている「農家に泊まり、農家のごは んを食べ、農家での楽しさを味わう」という「農 家楽」とよく似ている、或いは同じかもしれな いと思った。そして、できれば自分も小値賀へ 行って「民泊」を体験してみたいと思った。 中国の農家楽は1980年代ごろに四川省の成都 市の郊外から興ったといわれる。その後人気が 出て、四川盆地全体に広がり、そして今では全 国に広がっている。農家楽はふつう次のように 定義付けられている。ゆったりとした気分でく つろぐ憩い式の新たな旅行方式であり、都会の 現代人が農家の提供する自然回帰の機会を利用 して、たまったストレスを解消し、心身の癒し を図る、と。観光名所を巡る旅行ではなく、都 会の喧噪を離れて農家に泊まりこんでゆたっり とくつろぐのが旅行の狙いだ。農家に泊まるの で、ホテルのような高級な施設やサービスはな いが、その分だけ費用節減のメリットがある。 観光名所を巡るのではないため、移動費や入場 料などの費用がかからず、それだけ費用の節減 ができる。食事は地産地消の食材を使った「農 *県立シーボルト大学名誉教授、長崎県立大学リエゾンオフィサー 長崎県立大学東アジア研究所『東アジア評論』第5号(2013.3) −201−

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家飯」(郷土料理)であるため、新鮮で美味し く、普段とは違った味が楽しめる。さらに「農 家飯」のコストが低いため、これもまた費用節 減となる。泊まる農家の周囲は美しい自然や田 園風景であるため、心が安らぎ、落ち着いてゆっ たりした気分でくつろぐことができて、都会で たまったストレスを解消できて、心身が癒され る。だから農家楽の魅力は消費が合理的で、無 駄や贅沢がなく、倹約的であることだ。 農家楽の雛形は国内外の農村旅行といわれ る。農家楽の特徴は農村とその周囲の景観、そ れに地方の民俗とが溶け合ってかもし出す鮮明 な郷土色にある。経済と社会の発展につれて都 会で暮らす人たちの変化は、休みが増え、生活 水準が高くなり、「文明病」や「都会病」など の進行が激しくなってきていることだ。そこ で、都会の人びとは従来の旅行形態には満足で きず、多様化した旅行を求めだしている。この 変化が地方を訪れて風景・風物・史跡などを見 て歩く観光型旅行からどこかに泊り込んでゆっ たりとくつろげる憩い型旅行への転換を促し、 それに応えて生まれてきたのが正に農家楽なの だ。需要が新形態を生み出す法則に合致する。 農家楽の誕生と発展は農村への旅行を充実さ せ、その進展を促している。そして、それによっ て農村の産業構造の転換が図られ、地域経済の 構築と農業の市場化に大きく寄与して、よき経 済効果をもたらしている。農家楽は農家に増収 をもたらすばかりでなく、製品や市場や流通な どのいろいろな情報をも得ることができて、農 村と都会との橋渡しの役割を果たしている。保 守がちな農村は新しい理念、新しい考えなどに よって新しい発展の契機をつかむことができる ようになった。したがって、農家楽は都会の人 びとに歓迎されるばかりでなく、農家の人びと にも歓迎されている。 中国の農家楽はだいたい次の四種類に分けら れている。 園芸型農家楽。農家が花卉、盆栽、苗木、接 ぎ台などの園芸を経営しているため、泊まる客 人はこれらの園芸をゆっくりと観賞できて、園 芸技術の学習や交流にもなる。いま中国では生 活にゆとりが出てきて、趣味としての園芸が流 行り、園芸愛好者の数は年々増えている。あの 気の狂った文化大革命時代では園芸趣味はブル ジョア的趣味と批判され、叩かれた。改革・開 放後は生活を美化するものだと高く評価され、 生け花(中国では「挿花」という)、鉢植え、 盆栽などがどこにでも目にするようになった。 果樹園型農家楽。農家が果樹園を経営してい るため、泊まる客人は開花期であればゆっくり と花の観賞ができて、収穫期であれば新鮮な果 実がたっぷり味わえる。いま中国では花の観賞 が流行りだして、わざわざ花見に家族そろって 出かけたり、友人を誘って出かけたりするのが たいへん多くなった。それであちらこちらのい つからいつまでの花祭りを催す情報が飛び交 う。梅の花祭り、チューリップ祭り、菜の花祭 り、桃の花祭り、桜の花祭り、水仙の花祭り、 牡丹の花祭り、蓮の花祭り、菊の花祭り、など など。それから、苺狩り、ぶどう狩り、みかん 狩りなども流行りだしている。 自然景観内旅館型農家楽。山の麓、山の中腹、 山の上、川のほとり、山中道路わきなどに位置 する農家が改修または拡張して簡易旅館にして 客人を泊める。自然に囲まれて山中にこもる気 分がかもし出される。空気も水もよく、夏であ れば、都会より涼しく、避暑ともなる。せせら ぎや鳥の鳴き声を聞いたり、閑寂な山道をゆっ くりと散策したりするなどは山中における悠 然、自然回帰そのものだ。 庭園客舎型農家楽。農地に広大な庭園を作 長崎県立大学東アジア研究所『東アジア評論』第5号(2013.3) −202−

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り、その中に客舎を点在させて客人を泊める。 あたかも庭園内に暮らすような雰囲気をかもし 出す。退屈防止としてマージャン室、カラオケ 室、中国将棋室、テニスコート、バスケットボー ルコートなどを整備し、魚釣りもできるように してある。レストランが整備されて、料理が注 文できるようになっている。このような農家楽 は都市の郊外に多く、週末を利用してくる客人 が大多数。家族で自家用車を乗り付けてくるの も少なくない。会議室なども整備してあるた め、会社などが会議召集兼休息に利用すること も多い。しかし、農家楽とは唱えるものの、本 来の農家楽とはややかけ離れたものであること は否めない。 農家楽の大発展によってもたらされている問 題も次第に深刻化してきている。まずはごみ処 理問題だ。大勢の人が何日も長く滞在するた め、出るごみが増える。そのごみを昔のように 自然浄化による処理では処理できなくなってき ている。有効な対策がまだ打ち出されず、問題 はますます深刻化し、環境破壊、生態破壊につ ながっていく。次は、商業意識が強くなって、 近代化を追い求めだし、宿泊施設の高級化・環 境の都市化などが目立ち、農家楽の本来の郷土 色を失いだしている。第三は厳格な検査制度と 許可制度の整備と貫徹がまだ不十分であること だ。衛生許可、安全許可、経営許可、それに従 業員養成などの制度を健全にして、厳格に管理 する必要に迫られている。 私は2009年、2010年、2011年と3年続けて夫 婦で浙江省にある農家楽に出かけている。上海 の7月はいちばん暑い時期で、初旬に梅雨が明 けると、とたんにぐっと蒸し暑くなる。そこで 避暑として行くようになった。3回とも自然景 観内旅館型農家楽で6泊7日間で、料金は2009 年と2010年は一人500元だったが、2011年はイ ンフレの関係か一人600元になった。上海の旅 行社がすべて手配してくれて、私たちはただ付 いていくだけでよかった。2009年と2010年は山 中の農家楽だったので、避暑ができて暑さを感 じなかった。2011年は平野の道路脇の農家楽 だったため、暑くてやりきれなかった。旅行団 の人数は30人で、そのうち私たちと同行した友 人が8人だった。食事はひとテーブル10人なの で、私たちはちょうどよくいつもひとテーブル を占めて、おしゃべりしながら楽しく食事がで きた。初日は朝7時に上海からバスで出発し て、昼ごろに目的地に着いて、昼食を農家楽で 取った。最後の日は昼食を少し早めに取って、 バスで上海に向かい、午後5時前に上海に着い た。行きと帰りの時間の按配は都合よかった。 農家楽に着いた翌日からは午前中は周囲の散策 や山登りや風景・風物・史跡巡りなどで過ご し、昼前に戻って昼食を取った。もちろん参加 は自由なので、選択できて、内容によって行か ない人もいた。昼食後は昼寝で、その時間は人 によって違うが、だいたい1時間から2時間 だった。昼寝の後は、読書やマージャンやトラ ンプや中国将棋などをしたりして過ごす人が多 かったが、私たちはよもやま話をして楽しん だ。夕食後は日が暮れるまで連れ立って周りを 散策したりした。夜は読書かテレビでニュース 番組やテレビドラマ番組を見て過ごした。だい たいみな早寝早起きだった。農家楽での日々は 何にも気を遣うことがなく、本当にのんびり と、ゆったりとくつろぐことができた。友人た ちと一緒なので心ゆくまで話ができて楽しい毎 日だった。このような過ごし方はまさに農家楽 での楽しさを味わうというものであった。それ なので、私たちは今後も毎年の夏に友人を誘っ て農家楽に出かけるつもりでいる。 『おもてなしの島小値賀へ』の特集には、小 小値賀の民泊 中国の農家楽 −203−

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値賀の風景や風物や史跡などが紹介されてい た。日本名松百選にも選ばれた島の名所「姫の 松原」、柳地区の名勝「五両だき」、「五両だき」 の前に広がる絵のような風景、真っ白なアーチ 型の斑大橋、玉石大明神、国の天然記念物「ポッ トホール」、小値賀を支える観光資源である野 崎島、小値賀港近くの朝市、小値賀町歴史民俗 資料館、幻の落花生と呼ばれる「納島の落花 生」、小値賀焼き、小値賀郷土料理、海の幸、 などなどだ。それに親切で純朴な島の人たちと の触れ合いがある。島のターミナルではレンタ サイクルが申し込めるという。小値賀はとても なだらかなので、サイクリングは快適だとい う。これだけのものがあれば、小値賀での民泊 は絶対退屈などはしないだろう。まして回りは 海だから、魚釣りもできて楽しみいっぱいだ。 これで小値賀の民泊が島の大きな魅力になった ことが充分うなずける。 長崎と上海を海路で結ぶ上海航路が復活し た。この航路が長崎旅行に出かける上海人観光 客増加にかける期待は大きいといわれている。 それもそのはず、距離的にいちばん近く、長崎 と長い交流の歴史を持つ上海は、現在の常住人 口が2300万人、そのうち定年退職者が350万人 といわれる。定年退職者だけを長崎旅行に取り 込んでも相当な数になる。実際、いま国内旅行 や海外旅行、それに農家楽に出かける定年退職 者はかなりいる。長崎への旅行形態を、観光型、 花見型、温泉型、民泊型、民泊兼観光型、民泊 兼湯治型などと多様化させれば、選択肢と魅力 が増えて、長崎旅行に出かける人たちはきっと 増加するに違いない。海外旅行を体験した上海 人が日本旅行に対する評価は次のとおり。社会 が成熟していていちばん安全、行く先々がいち ばん清潔で気持ちよい、買い物などは商品の品 質や価格においていちばん安心できる、旅先の サービスがいちばんよい、接する人びとのマ ナーがいちばんよい、公衆トイレなどの施設が いちばん整っていて心配しなくてよい、など だ。これはあちらこちらと海外旅行して比較し て出された定評といえよう。この定評を基盤に 工夫を重ねれば上海から長崎への旅行はますま す盛んになる。 長崎県立大学東アジア研究所『東アジア評論』第5号(2013.3) −204−

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