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レジャー産業と顧客満足の課題

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Academic year: 2021

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家族を集める食卓

∼食卓に描かれる人間関係と食卓の意味から∼

兼近朋子 生活文化学科 はじめに... 1 第1章 食卓:家族の人間関係のモデル分析... 1 <望ましい人間関係を持つ食卓> ... 2 <望ましくない人間関係を持つ食卓>... 8 空間によるモデル分析...13 食卓状況によるモデル分析...14 人間関係と食卓状況によるモデル分析...15 細かい食卓状況...16 同じものを食べるということ...20 空間と人間関係...20 第 2 章 共食:起源と意味...20 1.共食の起源と家族...20 2.現代における共食と個人の心の健康 ...23 第二章注釈...25 第3章 家族:食卓の設計者を中心とした...27 人間関係の考察...27 1.変化する家族の形...27 2.家族を集める食卓 ...28 3.食卓という人間関係...29 終わりに...30 参考文献...31

はじめに

人は誰でも、家族の中にひとつの小さな成員として 生まれる。その個人がどのように成長していったとし ても、やがて多くの場合は自ら家族という単位を形成 していくのである。今日、家族のかたちは多様である。 そこには、結婚や就業に関する考え方の変化が影響し ていると考えられる。今日の社会では、家族は必ずし も婚姻関係・血縁関係に基づく集団とは限らず、その 人間関係にも定まりはないと私は考える。同じ構成の 家族でも、関わり方や親密度が異なれば、家族として の意味合いも変わってくる。改めて、家族とは何かに ついて考える必要があるだろう。 本研究は、家族が食事を共にする場という意味での 「食卓」から家族の関係に注目し、映像作品等で描か れている食卓場面の分析と共食の概念から、それを考 察したものである。食事の時間は家族の内面的な部分 が表れやすいと考えられる。個人を尊重する時代にあ って、家族が共に過ごす時間が削減されている今日で も、常時家族を最も集められるのは食卓である。我々 は、食事の多くを家族と共にし、その多くを家族や自 らが調理し口にしてきた。それは、家族が守られる存 在から守るべき存在に変わっても、続けられていく行 為である。また、家族が共に食を分かち合うことに深 い意味があると思われる。そこにあるのは、ただ身体 的に必要とされる栄養補給や生理的欲求、味覚満足を 満たす機能だけではないだろう。食卓は、同じ時間と 同じ食物、同じ気持ちを共有し、その場の人間関係と 個人の人格を形成していくものである。 現在、社会の変動は、家庭の中にまで影響を及ぼして いる。家族内に起きるズレは、個人とそれを取り巻く 社会に反映される。こうした悪循環を阻止するには、 家族全員の内面的部分に目を向ける必要がある。本研 究では、食卓という場から家族を見つめることで、家 族における心理構造や望ましい在り方について考えた ものである。そして、これにより、家族の人間関係的 な問題に対して、ひとつの切り口を切り開いていける のではないかと期待している。

第1章 食卓:家族の人間関係のモデル分析

映画やドラマの中でも、家族に焦点を当てて描かれ ている作品には、食卓の場面がよく使われている。そ れは、家族のメンバーが登場し、関わり合うシーンと して最も自然だからだろう。食卓は、その家族の人間 関係の本質的な部分を浮き上がらせる風景であるのだ。 食卓の場面により、家族構成やその人間関係がどうい

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うものか知ることができるのである。 本研究では、映像作品や小説に描かれている食卓の 場面をモデルとして扱い、その食卓がなぜ望ましいと 思えるのか、なぜ望ましくないと思われるのか、食卓 とその家族関係について要因分析を行う。まずは、作 品に描かれている人間関係の良い家族の食卓と人間関 係の悪い家族の食卓を分析し、モデルの抽出を図る。 そして、食卓の中でその人間関係がどのように表れて いるのか、食卓によってその人間関係が深まるのか、 あるいは変化するのかというところに注目して整理す る。 そこで以下の三つの観点から見ていくことにする。 ① 作品中の登場人物の人間関係 ② 食卓の場面において表現されている人間関係 ③ 人間関係に対して食卓が果たしている役割 <望ましい人間関係を持つ食卓> 「アントニアの食卓」(1995 オランダ=ベルギー= 英 マルレーン・ゴリス監督/アミックスエース) ① 母娘4代を中心とした大家族:血縁の有無による 家族内での差別は全くないが、母娘4代の繋がり が一番強い。パワーに上下関係は伺えないが、や はりアントニアの存在感は大きく、みんなを引き 付けるオーラがある。本人の意志が重要とされる ので、社会的に非難されるような考えであっても、 誰も否定せず受け入れられる。 ② 家族愛:食卓では笑い声が絶えない。常に愛を育 んでいく家族の関係は大皿盛りの料理を近くに座 っている人に取分けてあげるなど、さりげない行 為や暖かい話し声としてこの食卓に表現されてい る。 ③ 愛情関係の深まり:食卓により、その平和で微笑 ましい関係はますます深まっている。大人数や外 という明るく開放感のある場所、さりげなく相手 を気遣うしぐさや楽しい話し声が食卓そのものと 信頼関係の深まりを伝える要因となっている。 「活きる」(1994 中国 チャン・イーモウ監督/角 川書店) ① 男性家長型核家族:家族のために懸命に働く父親 は家族の中で最もパワーを強く感じる。しかし、 貧乏な生活を強いられたのは父親のせいであると いう過去から、父親は母親の前ではその寛大さに 小さくも見える。人間関係においては、そうした 生活とは裏腹に妻を愛し、夫を愛し、子どもを愛 し、子どもが親を信頼しているという関係を読み 取ることが出来る。 ② 親子関係:誤解から家族の関係がピリピリしてい る時に口の聞けない娘が全員にうどんを運んで手 渡していく。娘の無言の訴えを契機に笑顔が戻る。 大きな声も無駄な言葉もいらない。この食卓から は両親の笑顔が確かに子どもの心に届いていると 分かることで、その静かな暖かさが感じられる。 ③ 娘を主体に危機状態の解決:娘が用意した食卓に より、家族の関係は緊張感が取り払われ、その愛 を更に深めている。娘が手渡す器には、言葉では なくて、「喧嘩はやめて食事をやり直そう」という 気持ちが込められている。その気持ちを素直に受 け止め冷静と愛情を取り戻す家族の姿が元々の繋 がりの強さを伝えている。

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「お早よう」(1959 日本 小津安二郎監督/松竹) ① 親子間の力関係が明確な家族:子供たちは自分の わがままが聞かないので全く口を聞かないことで 反抗するが、家族はその反抗を優しく包み込んで しまうほど、親と子のパワー関係がはっきりして いる。子供たちにとっても親たちは大きな壁のよ うな存在で、どんな力でも負けてしまうので、気 を引くための行為をすることでその壁を崩そうと している。親たちは子どもと対等に向き合うので はなく見守る形で強さの優位を図っている。 ② 反抗も包み込む愛:食卓で母親や叔母さんが話し 掛けても子供たちは口を聞こうとしない。大人た ちはそんな子供たちの様子を笑って見守っている。 子供たちもまた口は聞かないが、全く無視をして いるわけではない。母親の優しい笑い声と安堵を 感じている子供たちの様子が微笑ましい関係を表 している。 ③ 子どもの素直さ:子供たちが全ての事柄に反抗し ているのではなく、食卓も素直に受け入れている ところから元々の親子愛の深さを感じる。食卓に よってその関係が促進されたり変化を起こすこと は無いが、食卓に暗さを感じさせないのは、親子 の平和な関係が保たれているからである。 「学校Ⅲ」(1998 日本 山田洋次監督/松竹配給) ① 愛の深い母子家庭:母親は息子のためならどんな ことでも頑張れる。息子の失敗は母親がかばい、 息子にはいいところだけを褒めてあげている。し かし、脳に障害があるからといって決して赤ちゃ ん扱いはしない。母親は一人の人間として息子を 対等に見ようとしているが、そのパワーは遥かに 強い。息子が頼れるのは母親だけであるし、母親 は大きな力と愛で息子を包む。 ② 親子愛:食事をしながら、母親は息子に今日の出 来事やこれからの予定を伝えている。息子は明日 からの自分のスケジュールを伝えられるとそれを 繰り返し言う。言葉を発しながら一生懸命食べて いる息子を母親は微笑みながら見つめ、口をふい てやる。息子は表現することは出来ないが、真っ 直ぐに母親の愛情を受けている。 ③ 愛情関係の深まり:食卓を通して親子関係の繋が りは強まっている。空間や料理よりも息子を見守 る母親とそれを受け止め信頼を抱いている息子の 気持ちがその一番の要因となっている。 「恋人たちの食卓」最後のシーン(1994 台湾 ア ン・リー監督/ヘラルド・エース=日本エラルド映画)

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① 父親と次女:父親が料理人としてではなく、家族 として素直に食卓に向き合ったことで、味覚の蘇 りと共に娘と分かり合う。それは家族としての愛 もお互いに蘇った瞬間である。動揺する中、二人 の関係は親子として家族として感動と安堵に満ち ている。 ② 親子愛:父親が娘の料理に文句を言いながらも、 自分の味覚を取り戻したので、二人の表情が一気 に快晴のような明るさになる。父親が娘の手を取 り、二人はお互いの顔を見つめながらその感動を 共有する。嬉しさと感動の余り、言葉を失うが、 その気持ちが二人とも同じであることは確かであ る。 ③ 家族愛の甦り:その食卓によって親子として、家 族としての絆が強く出来上がる。父親の味覚が戻 ったことが大きな要因となっているが、その契機 として二人が家族を思い心配する気持ちに素直に なったことがある。今まで忘れかけていた家族愛 をそこで取り戻したのである。 「サザエさん」(1994 長谷川町子作/朝日新聞社) ① 男性家長型大家族:家族はみんな平和で安心でき る関係である。父親波平のパワーは子どもに対し て強いが、フネがいないと何も出来ないといった 典型的な父親像。長女と長男は喧嘩をよくするが、 結局は姉のパワーによって弟は抑えられる。母親 は厳しさではなく優しさの力で子供たちよりも上 位に立っている。全体的には父親が一番強く、後 は年齢順にそのパワーの関係があるように思われ るが、そこまで厳密な関係を思わせない平和感が 一番強い。 ② 平和な家族関係:サザエさんの食卓にはいつも他 愛の無い会話や笑い声がある。静まり返るという ことはなく、誰かの言葉にみんなが反応し、会話 に家族全員が参加している。 ③ 安堵感:家族の愛情が食卓によって深まるという よりは、平和や安堵感を常に保っているという方 が強い。人数が多く、部屋が明るいだけでなく、 家族の言葉がその関係を保つ要因となっている。 「ショコラ」(2000 アメリカ ラッセ・ハルストレ ム監督/アスミックエース,松竹) ① 母娘とそれを慕う人々:世間には非難されている ヴィアンヌだが、彼女を慕う人たちは、彼女の内 面的な不思議なパワーに魅力を覚えているようだ。 彼女と娘の結びつきは強く、娘に対しては絶対的 な力の強さを持っているが、娘を守る力はそれよ りも大きい。娘は母親の考え方を全て受け継いで おり、母親はもちろん、他人さえ拒絶しない。周 りに非難されている分、彼女たちは秘密的で何か に優しく守られているような関係である。 ② 味覚満足と喜びの共有:食卓にいる人たちはみん な笑顔でヴィアンヌの料理を堪能している。美味 しい料理を口にしながら参加者同士の気持ちは喜 びに満ちている。一瞬たりとも途切れることのな い楽しさがみんなの顔の表情一杯に広がっている。 ③ 信頼関係の深まり:料理の余りの美味しさにヴィ アンヌとの関係もそして参加者同士の関係も深ま っている。彼女の料理に込められた思いは美味し さに、そして楽しさに繋がり、それがみんなの心 に親密さや全てを受け入れる気持ちへと影響して いる。

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「ソウルフード」(1997 アメリカ ジョージ・ティ ルマンジュニア監督/20 世紀フォックス映画配給) ① 女系の大家族:最後には仲直りをするのだが、長 女と次女の仲は最悪で、お互いのパワーに差がな いほど自分を主張し、相手をけなした。しかし、 その二人も含めて、家族はみんなビッグママが大 好きであった。ビッグママの大きな愛がみんなを 包み込むので、誰もビッグママには勝てなかった。 長女は兄弟の中でも少し浮いていたが、彼女自身 は自分が一番の権力を持っていると思っている。 その他の姉妹とその夫たちに関しては、対等でい い関係があった。最終的にはみんなその関係に溶 け込む。ビッグママのように愛で包む人はいない が、みんながその関係を築いていったのである。 ② 復活する家族愛:食事が始まって、最初はみんな 静かに食べていたが、ビッグママが亡くなってバ ラバラになってしまった家族はまた口論が始まっ てしまう。アマッドがそんな皆に日曜ディナーを 続けて欲しいということがビッグママの遺言だ、 と涙ながらに訴えることで、皆のビッグママへの 愛と家族の団結の気持ちが甦る。今まで複雑な思 いや嫌悪を抱いてしまっていた家族に素直でひと つの気持ちを掴んだ瞬間である。この食卓で愛の ある人間関係を取り戻したのである。 ③ 愛情関係の誕生:それまで食卓ではいつも口論が 始まり、皆で食べる食事もビッグママへの愛だけ の為に揃っていたようなものであったが、この食 卓を契機に皆で食べる食事の意味を悟り、家族に 改めて愛が誕生したのである。この先の家族同士 の付き合いも食卓も一層関係が深まっていく。 「父の詫び状」(向田邦子原作/NHK ソフトウェア) ① 男性家長型家族:父親は家長として強いパワーを 持っている。子供たちは父親に逆らうことはなく、 不満に思っても、父親には勝てないので全てを受 け入れている。母親は優しく話しやすい存在では あるが、子供たちは母親にもあまりわがままを言 わない。父の母ももう年なので、息子に従う。兄 弟たちには力の上下があまりなく、気兼ねなくふ ざけ合ったりしている。父母の関係でも父親は絶 対だが、母は父の態度が余りにも過ぎれば言いた いことは言うので、父と子の関係よりも差はない。 ② 平和な家族愛:夕食は魚だったので、家族は魚に ついて話している。子どもの素朴な疑問に母親と 祖母は優しく答えてくれる。父親はうんと頷いて いるだけだが、その表情は穏やかである。笑うほ ど楽しいわけではないが、平和という空気が流れ ている。 ③ 親近感ある穏やかさ:食卓により関係が深まった り、変化することはないが、家族の穏やかで優し い表情が平和で親近感のある人間関係を示してい る。 「寺内貫太郎一家」(1974 放送 向田邦子脚本/文藝 春秋) ① 男性家長型家族:頑固な父親は家長として一番強 いパワーを持っているが、家族は言いたいことは 全て口にするので、力とは別に多少なりとも対等 な関係を築こうとする姿が伺える。母親は子供た ちと同等な関係にあるように思われる。また、祖 母は家族で力を一番失っているように思えるが、 内面的にはこの家で最も強いものを持っていると 考えられる。

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② 家族愛:食卓ではいつも家族が楽しそうに会話を する。全員が会話に参加し、全員が声をあげて笑 う。食事中に何か問題が起きても、家族はみんな 感情を表に出して解決を急ごうとする。みんなが 誰かのことに必死になるのは、それだけ家族の繋 がりが強いからである。 ③ 愛情関係の深まり:食卓の後、家族の繋がりは更 に強まる。家族が声をあげて笑い、泣き、そして 怒り、感情を出して関わり合うことで嘘も陰も誤 解も生まれない。こうした関わり方が繋がりの強 い人間関係を作っているのである。 「となりの山田くん」(1999 日本 高畑勲/松竹= スタジオジプリ) ① 二世代家族:この家で一番のパワーを持っている のは祖母。父親は家長として振舞おうとしている が、他の家族は対等な間柄として接している。全 体的にのんびりしていて、父親だけが浮いてしま う時もあるのだが、家族が団結すれば強い力にな る。子供たちは親を尊敬し、絶対の信頼感を覚え る相手だとは思っていなく、むしろ自分自身を信 じているようだが、家族がいつも同じ場所に集ま るのは、安堵感があるからだろう。 ② 飾らない平和な関係:食卓で長男が迷い箸をして いるのを見て、父親が注意をする。男ならぱっと 決めてぱっと取るんだと手本を見せるが、父親は 祖母の皿からおかずを取る。祖母にそれを指摘さ れ、父親は気まずくなるが、その後誰も何も言わ ずのんびり食事をする。その雰囲気に冷たさはな く、ただ穏やかで平和な状態が続く。 ③ 安堵感:食卓で関係が変わることはないが、何が あっても平然としており、その家族の安心感も失 われることはない。特に何をするでもなく家族が 共にいる時間が長いので、そののんびりした空気 に家族が慣れ親しんでいる。家族が作り出したそ の空気に食卓は包まれ、そして家族はそれにまた 浸っているのである。 「フルハウス」(1987∼1995 アメリカ ロリマーテ レビジョン制作) ① 血縁混合型大家族:子供たちの父親としてダニー がこの家では中心とされているようにも感じるが、 ほとんど全ての関係が平等である。子供たちは叔 父たちも信頼しているし、叔父たちも子供たちを 他人の子でも、また自分の子供と差別なく愛して いる。ぶつかるときは徹底的にぶつかるが、みん ながみんなを支え、みんながみんなを同じように 信じ、愛し合っている。 ② 家族愛:食卓のセッティングは料理を作った人を 中心に皆でする。大食漢のジョーイは落ち込んで 食欲を失っていたが、いつものジョーイになるま で家族みんなが彼を励ます。ジョーイに食欲が戻 ったところでみんなの顔にも明るい表情と声が戻 る。 ③ 愛情と信頼の深まり:この食卓で以前より関係は 深まっている。ジョーイは元気な心を取り戻し、 家族もまたそれに喜びを感じている。普段の食卓

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では家族は皆笑顔で、その人らしく楽しい時間を 過ごしている。何か問題が起きた時、このように 普段の状態に戻ることが解決したということにな り、それが愛情関係の深まりを表現できるものと なる。 「レオン」∼マチルダとレオン∼(1994 アメリカ リュック・ベッソン監督/日本ヘラルド映画) ① 他人,男女:マチルダはレオンを父親というより は、恋人を見るような感覚で憧れ信頼している。 何事にもつっぱって来た少女にとって一人で生き ているレオンがクールに感じた。レオンはマチル ダの存在を最初は迷惑だと思っていたが、少女の 小さな魅力に娘のような愛を抱き、守ってやりた いと思うようになった。レオンの方が圧倒的にパ ワーは大きいが、二人の関係には親と子といった 関係ではなく、一人の人間としてお互いを対等に 信じ合う関係があった。 ② 他者の生活様式の適合過程:レオンが牛乳を注ぎ、 それを二人で飲む。牛乳の食卓には、レオンの生 活そのものをマチルダが受け入れるという、マチ ルダにとって本当の家族ではあり得なかった、素 直になるという気持ちが表現されている。 ③ 他者を受け入れる、認め合う:その食卓は二人に とってお互いにお互いを認め受け入れるという場 になっている。牛乳の食卓があってこそ、二人の 繋がりは強いものになっていったのである。 「わが谷は緑なりき」(1941 アメリカ ジョン・フ ォード監督/セントラル) ① 男性家長型核家族:父親は絶対でそのパワーは一 家の中で最も強いものである。子供たちは色んな 事を教える父親を尊敬し、世話をやいてくれる母 親を愛している。父親が一家の頭なら、母親は心 臓である。親と子の間には強い信頼関係が成り立 っている。子供たちでは姉の存在は母親に近い関 係がある。 ② 喜びの共有:食卓では話してはいけないので、人 の声はしないが、静かではない。家族みんなの豊 かな表情があふれ、美味しいと言う代わりに満足 した顔をするのである。顔を見て、その気持ちと 気持ちで会話は成立するのである。 ③ 家族愛を示す:その食卓で家族の関係に変化は起 きないが、彼らの穏やかで豊かな表情が、無言の 静寂を打ち破り、にぎやかにしていることから、 家族同士の愛情が伝わってくる。

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<望ましくない人間関係を持つ食卓> 「アイス・ストーム」(1997 アメリカ アン・リー 監督/ギャガコミュニケーションズ) ① 崩れかけた核家族:この家族には信頼関係もパワ ー関係の存在がないのではないかと思うほど薄い 関係しかない。それぞれの生活をそれぞれ送り、 他の家族には興味を示していない。父親は家族み んなを心配しているようで、それは偽善的で形だ けのように思われる。子供たちもあまり両親を頼 っておらず、特に娘の方は信頼していない。夫婦 の関係も父親の浮気により薄く、母親は怒りでは なく悲しみや無気力に浸っている。 ② 心の別離:父親は話をするが、それに対して誰も 反応をしない。顔に表情もなければ、料理がおい しいのかまずいのかさえわからないくらいである。 全く知らない他人同士が席を共にしている状態で ある。 ③ 愛情の喪失:その無表情の食卓で、関係が悪化す ることも改善されることもない。それぞれの気持 ちが別の方向を向き、同じ場所にいても全くコミ ュニケーションを取ろうとしない姿勢がその愛情 のなさを表現している。 「愛を乞う人」(1998 日本 平山秀幸監督/東宝・ 角川書店) ① 愛のない核家族:母親が一番のパワーを持ってい る。ヒモである父親は何も言わずに生活している。 娘は母親の酷い暴力で押さえつけられている。娘 は反抗することはなく、母親の逆鱗に触れないよ うにしているが、心の中では信頼したい、愛され たいと思っている。母親と息子には信頼関係はな いが、暗黙のうちに息子は母親の力には抵抗しな い。 ② おぞましい母娘関係:食卓に母親の姿はないが、 娘は物音がするだけでビクビクしている。娘の腫 れ上がった顔と他の家族の沈んだ表情が暗さを象 徴する。父親が娘に静かに話し掛けるが、無表情 で愛情を感じることは出来ない。 ③ 落ち込みと暗さ:食卓によってその関係が更に悪 化することはないが、そこに母親がいなくても全 員の暗い表情と愛情のなさが、暗い人間関係を作 っている。 「アメリカン・ビューティー」(1999 アメリカ サ ム・メンデス監督/UIP 配給) ① 愛のない核家族:家族全員が、誰かのパワーに抑 えられることほど屈辱的なことはないと感じてい る。外から見れば、父親の立場が一番低く感じる が、全員が嫌なことがあれば抵抗し、食卓以外で 全てを受け入れるということはない。母親には娘 に対する信頼が多少見られるが、父親は娘にあか らさまに嫌われているので、干渉せず機嫌を伺っ ている。その他は家族を憎んでさえいる関係であ る。 ② 家族に対する嫌悪:食卓では誰も笑わない。楽し い会話をしようともしない。父親が珍しく自分の

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ことを話したものならば、非難されてしまうほど である。相手に関わろうとするものならば、口か らは嫌味しか出てこない。黙って食事をした方が まだ平和に感じる。 ③ 愛情関係の喪失:この食卓により関係は悪化して いる。嫌悪の表情と冷たさが漂う会話、そしてシ ンプル過ぎる空間と古い音楽にキャンドルが、オ シャレというより冷たい人間関係を表現し促進さ せている。 「家族ゲーム」(1983 日本 森田芳光監督/ATG) ① 男性家長型核家族:父親のパワーは強いが、子供 たちは父親よりも母親に信頼関係を築いている。 父親も子供たちよりは母親との関係が強く、母親 を介して父子の意思が交わされている状態である。 兄弟はライバル的な関係を持っている。 ② 心の別離:家族は細長いテーブルに一列に並んで 食べている。ある程度の会話もあるが、テーブル を囲っていないので人の顔や行動を見ることもな く料理と顔を合わせて食べている。食べることに 集中し、表情も作らなければ、相手の様子も分か らない状態である。 ③ 家族に対する無関心さ:食卓では誰も顔を合わせ ないのでその関係に何の変化もないが、人を見る という習慣がないので、家族の行動や好みをお互 いに知らない。そうした無関心さが異様な空気を 作っている。 「家族シネマ」(1999 韓国 パク・チョルス監督/ 日活配給) ① 崩壊している核家族:家族全員の繋がりが薄く、 信頼関係は成立していない。父親と母親はお互い を憎み合っており、パワー関係は対等である。両 親に比べて子供たちのパワーは多少弱いが、子供 たちは両親の喧嘩から逃げ、明確な関係や繋がり を強めることを避けている。兄弟同士においても お互いの繋がりは薄い。 ② 家族に対する嫌悪:生活費を入れない父親に対し て母親が激怒し、取っ組み合いの喧嘩が食事中に 起きる。また始まったとばかりに2 人の子供たち は家から飛び出し、1人は部屋の隅で耳をふさい でいる。食事をするという状態になっていない。 ③ 信頼関係の喪失:この食卓の後、家族の関係は更 に悪化している。すぐに言い合いになり、誰かが 折れることも止めることもないという状態からあ からさまに愛情や信頼が欠けていることが伝わる。 「ギルバート・グレープ」(1993 アメリカ ラッセ・ ハルストレム監督/シネセゾン) ① 寂しい母子家庭:子供たちは母親を愛しており、 母親も子供たちを愛しているが、彼女は夫の死か ら立ち直っていないので無気力状態である。兄弟 の繋がりは非常に強い。兄の方がパワーは上だが、 弟は兄が大好きなので言うことをよく聞き、強い 信頼関係が存在する。姉と兄は対等で信頼関係も あるが、兄と妹では兄の方がパワーは上だが、妹 は抵抗することが多い。無気力な母はいつも弱い

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立場にあるが、興奮するとものすごいパワーを発 揮するので、パワー関係の起伏は激しい。 ② 皮肉と関係のこじれ:弟の誕生会に何を作るか、 という非常に平和な会話がされているが、口にも のが入ったまま話し続ける妹を兄が注意し、妹が 兄に「はいパパ」と言ったことから食卓の空気が 一変する。兄が「パパは死んだ」と言い、弟がそ のフレーズを繰り返し言うので、母親はヒステリ ーを起こした。食卓には深い悲しみが襲う。 ③ 心の弱さ:その食卓を通して、傷つきやすい母親 を中心に家族の悲しみは深くなった。本来の家族 の関係は良好なものと思われるが、悲しみや苦し みが家族の関係に悪い影響を及ぼしている。 「恋人たちの食卓」最初のシーン ① 自己中心的な父子家庭:娘たちにとって、歳をと った父親は腫れ物のような存在である。父親は娘 たちを懸命に育てて来たものの、自分の味覚の衰 えや娘たちの態度に気を張れないでいる。父親の 食卓に参加はしても、娘たちはそれぞれ自分の力 を主張し、父親はそのパワーに押し伏されている。 その力関係は平等とも上下とも言い難いものであ る。 ② 心の別離:食卓には笑顔や楽しい会話が全くない。 父親は自分の話をまともに出来ず、そこには娘の 家を出たいという主張と他の娘たちの嫉妬に似た 冷たい思いだけが充満する。娘たちは口をとんが らせたまま食事をするので、目の前のご馳走さえ も娘たちには美味しいと感じていないように思わ れる。 ③ 愛情関係の喪失:父親は日曜日の夕飯は全員揃っ て食事をしたいと良い意味で考えているのだが、 娘たちにとってはそれは迷惑な話であり、この食 卓が娘たちの父親に対する思いを更に悪化させて いる。義務的に行われている食卓で娘たちにも父 親にも表情が失われている。 「最後の家族」(2001 村上龍著/幻冬舎) ① 引きこもりの兄を持つ核家族:引きこもりの兄を 抜いて、パワー関係は父、母、妹の順に成ってい る。しかし、以前のような信頼関係は確実に失わ れている。兄のパワーは母親よりも上であり、興 奮するとひどい暴力を使って母を押さえつける。 暴力的になっている時は、父親も負けるくらいで ある。母親は心配と恐怖を兄のパワーの中に持っ てしまっている。兄の気分次第でパワー関係が変 化する。 ② ぎこちない家族関係:明るい話題の会話はないの で、おそらく家族の表情は曇っている。娘は毎朝 父が入れるコーヒーを気を遣って一口だけ飲む。 兄の部屋から聞こえてくる音楽について娘と父親 が話をする。母親は心配と恐怖を抱きながら兄の 部屋へ様子を見に行く。 ③ 零落する心持:食卓からは独特の息苦しさが伝わ る。家族が嫌いなわけではないが、その重い空気 に耐え切れなくなっているのは事実である。そう した家族の気持ちが関係を薄いものにしている。 「聖家族のランチ」(2002 林真理子著/角川書店) ① 女性家長型核家族:母親はこの家の中で最も大き なパワーを持っている。母親は息子を一番愛し、 信頼を抱いているが、息子はそのパワーに従って もそこまで大きな信頼を母親に抱いていない。娘 は家族みんなを冷静に均等な関係として見ている。 父親は母親を良くは思っていないが疲れているの で対等にパワーを発揮することはない。母親は父 親を軽視しており、自立出来ているので父親がど うなっても構わないと思っている。全体的に信頼 関係は薄い。 ② エゴ確立の為の忍耐:家族が珍しく全員揃って食 事をするのは、殺人を隠す為の晩餐会である。料 理の食材が人なだけに誰も明るい会話をすること さえ出来ずに、絶望に似た表情をしていると思わ れる。母親だけが一人明るく振舞い、みんなに話 をさせようとするが、そのぎこちなさは初対面の

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人に話をするようである。 ③ 息苦しい束縛感:気持ちがバラバラになっていた 家族はこの食卓を通して団結力を増す。しかし、 これは決して良い意味ではない。全員が集まる時 間は嫌な時間であるので、まとまりが出来ても家 族に対する気持ちは益々離れていっている。非常 に複雑であるが、信頼関係が欠如していくことは 否めないのである。 「パーフェクト・ワールド」(1993 アメリカ クリ ント・イーストウッド監督/ワーナーブラザーズ映画 配給) ① 父親不在の核家族:父親はほとんど家におらず、 登場もしないので、この家では母親が強いパワー を持っている。子供たちはそのパワーに従うが、 まだ幼いので信仰による自分たちの楽しみの削除 を納得出来ないでいる。母親と子どもたちの間に は信頼関係が成立しているが、その生活に反抗し たくても出来ない子供たちの複雑な思いもそこに 含まれている。 ② 本心の別離:食卓では子供たちがハロウィンで変 装できるなら何になるかを話している。子供たち は想像を膨らませて盛り上がっているが、息子が 「どうしてうちは出来ないの?」と聞くと母親は 「信仰が違うの。我慢して。」と言う。分かってい たことでも子供たちは暗い表情を浮かべるしかな い。 ③ 信頼の希薄:信仰により世間の普遍的な行事に背 を向けなくてはならないことは母親にとってもど うしようもないことである。しかし、それに対し て母親が冷ややかな態度を取ることで子供たちは 納得ではなく上からの力に抑えられる形で我慢し なくてはならない。社会から外れることで、すぐ 隣の家と自分の家との違いやそれに対する不安を、 子供たちが家族の関係に持ち込むことは致し方な いことである。 「マイガール」(1991 アメリカ ハワード・ジーフ 監督/コロンビア映画=コロンビア・トライスター映 画配給) ① すれ違う親子:父親のパワーが一番強い。父親と その兄は対等な関係である。父親は娘を愛してい るが、娘の行動がおかしいのは年頃だからだと思 い込んでいる。娘は父のパワーにも勝てず、自分 の訴えを聞いてくれないと思っている。祖母はボ ケてしまっているが、娘は祖母を信頼している。 ② 本心の別離:食卓では父親とその兄が仕事の話を している。娘は床に倒れている。アシスタントの 女性がやって来て娘を見て心配するが、父親は「芝 居だよ。ベーダ、起きてブロッコリーを食べなさ い。」と言う。娘は女性に「私もうじき死ぬわ。」 と言ってまた倒れるが、父親は全く気にとめない。 ③ 向き合わない姿勢:この食卓によってその関係が 変化することなく良くも悪くも平行線を辿るだけ である。父親は娘の心の奥底にある苦しみと真剣 に向き合っていない。すれ違う親子の気持ちがも どかしい関係を作ってしまっている。 「マイフレンド・フォーエバー」(1995 アメリカ ピ ーター・ホートン監督/松竹富士=KUZUI エンター プライズ) ① 崩壊している母子家庭:母親は母親として息子を 育てているが、息子に対する多少の信頼はあって も愛情は感じられない。息子は母親を嫌っており、 それは家を出て恋人もいる父親に会いたがってい るくらいである。息子は普段家にいない母親がた

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まに家にいても一緒には過ごしたくない。母親を 慕うことも信用することも息子にとっては難しい ことである。 ① 放任的な家族関係:マチルダは素直な弟を愛して 可愛がるが、その他の家族には嫌悪を感じている。 父親は実の父だが気に入らないことがあればすぐ に娘を叩く。父親のパワーは強く、マチルダはそ れに諦めを感じている。母親は放任的でマチルダ との関係は薄く成立していない。姉はマチルダよ りパワーは強いが、マチルダは内面的に大きく反 抗し、対等な関係で姉を見ようとしている。家族 はそれぞれの生活が忙しくてマチルダにかまって いる場合ではない。何かあれば、怒りやストレス の矛先をマチルダへの暴力に向けている。 ② 心の別離:一人で食べることが多いが、母親と二 人で食べる時も笑顔のない食卓である。母親は言 葉にも言い方にもとげがあり、息子はそんな母親 の本心を試すようなことを聞いたり、「自分の部屋 で食べてもいい?」と母親といることを拒んだり する。 ③ 信頼関係の喪失:この食卓で母親への非難の感を 息子は益々強める。同じテーブルに座っていても 顔を合わせず、冷たい話し方でただ一緒に食事を とるのが家族だと言う母親の態度と、それにやる せなさを増していく息子の気持ちが二人の関係を より薄く離していく。 ② 場が共有されない疎外感:家族が食事を共にする ことはない。同じ家に全員いても食事をするのは バラバラである。自分の生活を大切にし、人のペ ースや時間に合わせるということはないのである。 「レオン」∼マチルダと家族∼ ③ 関係の消失:この家では食卓の意味が失われてい る。テーブルに家族全員が座れるスペースが無い ことからもそれは伺える。彼らにとって食卓の役 割というものは存在しないのである。 ↓ 表1:以上を表にまとめたもの 作品名 作品中の人間関係 食卓場面の人間関係 食卓が果たす役割 アントニアの食卓 母娘4 代を中心とした大家族 家族愛 愛情関係の深まり 活きる 男性家長型核家族 親子関係 娘を主体に危機状態の解決 お早よう 親子間の力関係が明確な家族 反抗も包み込む愛 子どもの素直さ 学校Ⅲ 愛の深い母子家庭 親子愛 愛情関係の深まり 恋人たちの食卓 最後 父親と次女 親子愛 家族愛の甦り サザエさん 男性家長型大家族 平和な家族関係 安堵感 ショコラ 母娘とそれを慕う人々 味覚満足と喜びの共有 信頼関係の深まり ソウルフード 女系の大家族 復活する家族愛 愛情関係の誕生 父の詫び状 男性家長型家族 平和な家族愛 親近感のある穏やかさ 寺内貫太郎一家 男性家長型家族 家族愛 愛情関係の深まり

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となりの山田くん 二世代家族 飾らない平和な関係 安堵感 フルハウス 血縁混合型大家族 家族愛 愛情と信頼の深まり レオン レオン 他人、男女 他者の生活様式への適合過程 他者を受け入れる、認め合う わが谷は緑なりき 男性家長型核家族 喜びの共有 家族愛を示す アイス・ストーム 崩れかけた核家族 心の別離 愛情の喪失 愛を乞う人 愛のない核家族 おぞましい母娘関係 落ち込みと暗さ アメリカン・ビューティー 愛のない家族 家族に対する嫌悪 愛情関係の喪失 家族ゲーム 男性家長型核家族 心の別離 家族に対する無関心さ 家族シネマ 崩壊している家族 家族に対する嫌悪 信頼関係の喪失 ギルバート・グレープ 寂しい母子家庭 皮肉と関係のこじれ 心の弱さ 恋人たちの食卓 最初 自己中心的な父子家庭 心の別離 愛情関係の喪失 最後の家族 引きこもりの兄を持つ核家族 ぎこちない家族関係 零落する心持 聖家族のランチ 女性家長型核家族 エゴの確立の為の忍耐 息苦しい束縛感 パーフェクト・ワールド 父親不在の核家族 本心の別離 信頼関係の希薄 マイガール すれ違う親子 本心の別離 向き合わない姿勢 マイフレンド・フォーエバー 崩壊している母子家庭 心の別離 信頼関係の喪失 レオン 家族 放任的な親子関係 場が共有されない疎外感 関係の消失 このように食卓の場面を分析していくと、食卓には 色濃くその人間関係が浮かび上がり、同じ食べものを 口にしても家族の心の状態によって食卓の雰囲気が大 きく変化していることが改めて分かる。望ましい人間 関係の食卓では食べものと共に心も共有している。心 が離れてしまっている人間関係の食卓では、同じ場を 共有しても、そこに誰も存在しないような感覚を起こ す。食卓の場を通してその人間関係に良い意味でも悪 い意味でも深まりが生じるのは、食卓以外の場におけ る人間関係の背景にその要因があると考えられる。そ の背景を知らなかったとしても、食卓の場面から人間 関係の状態を読み取ることが出来るのは、食卓という 場が人間関係を凝縮した場であるからだろう。表1を 見て分かるように、食卓の場面において表現されてい る人間関係の状態は食卓が果たしている役割に比例し ている。家族の信頼関係・愛情関係の有無により、食 卓にも違いが発生し、その人間関係を凝縮した場によ り一人一人の人格や関係の形成が確立していくのであ る。 では、食卓が果たす役割として、その人間関係に影 響されないものはないのだろうか。そこで、人間関係 から離れた食卓の「空間」、「食卓状況」そして、「人間 関係と食卓状況」という側面のそれぞれの細かい要素 からモデル分析を行う。そして、最後にまとめとして 「細かい食卓状況」を表にする。 空間によるモデル分析 1. テーブルの形 2. 人数に対してテーブルの大きさが広い 3. 食事をする部屋の広さに余裕がある 4. 食卓に料理以外のものがテーブルに飾られてい る(テーブルクロスも含む) 5. 自然光か人工光か。人工光の場合は何色系か 6. 部屋が全体的に明るい 7. 調理場と食卓が近く、同じ部屋にある 8. 床に座っているか、椅子に座っているか。 表2 作品名 1 2 3 4 5 6 7 8

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アントニアの食卓 長方形 △ 外 ○ 自然 ○ × 椅子 活きる 四角 × ○ ○ 自然 ○ × 椅子 お早よう 四角 △ ○ × 白 ○ × 床 学校Ⅲ 四角 △ △ ○ 白 ○ ○ 椅子 恋人たちの食卓 円 ○ ○ × 白 ○ × 椅子 サザエさん 円 △ ○ × 白 ○ × 床 ショコラ 長方形 △ 外 ○ 自然 ○ × 椅子 ソウルフード 長方形 △ ○ ○ 白 ○ × 椅子 父の詫び状 四角 △ △ × 白 ○ × 床 寺内貫太郎一家 四角 △ ○ × 白 ○ × 床 となりの山田くん 円 × ○ × 白 ○ × 床 フルハウス 楕円 △ ○ ○ 白 ○ ○ 椅子 レオン レオン 四角 △ △ × 白 ○ × 椅子 わが谷は緑なりき 長方形 △ ○ ○ 不明 ○ × 椅子 アイス・ストーム 四角 ○ ○ ○ 白 ○ × 椅子 愛を乞う人 円 △ △ × 橙 △ × 床 アメリカン・ビューティー 四角 ○ ○ ○ 橙 △ × 椅子 家族ゲーム 長方形 × △ × 白 ○ × 椅子 家族シネマ 四角 △ ○ × 橙 △ × 床 ギルバート・ブレープ 長方形 △ ○ × 白 ○ × 椅子 最後の家族 不明 △ △ × なし なし ○ 椅子 聖家族のランチ 不明 ○ ○ ○ なし なし × 椅子 パーフェクト・ワールド 四角 △ ○ ○ 橙 △ ○ 椅子 マイガール 四角 △ ○ ○ 白 ○ × 椅子 マイフレンド・フォーエバ ー 楕円 ○ ○ ○ 橙 △ × 椅子 レオン 家族 四角 × × × 白 ○ × 椅子 食卓状況によるモデル分析 1. 品数は 3 品以上である 2. 全て大皿盛りの料理である 3. 栄養や見た目にバランスがある 4. 誰が作っているか 5. 調理場で手料理が作られる 6. 食卓を用意・手伝う人が 2 人以上いる 7. 人の座る位置が必ず決まっている 8. 食卓が設計通りに行われているか 以上の項目は、1から3番までが料理の状態、4から 8番は人と食卓の関係となっている。8番の食卓が設 計通りに行われているか、というのは作った人の料理 をみんなが同じように食べているかということである。 同じ食卓についていても個人の好みで食べ物や食べ方 が異なればバラバラな感覚を引き起こす。家族が食卓 をともにすることの意味を問うものである。

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表3 作品名 1 2 3 4 5 6 7 8 アントニアの食卓 ○ ○ ○ 母 ○ ○ △ ○ 活きる × × × 不明 なし × × ○ お早よう ○ × △ 母 ○ × ○ ○ 学校Ⅲ ○ × ○ 母 ○ × ○ ○ 恋人たち 最後 ○ ○ ○ 次女 ○ × × ○ サザエさん ○ × ○ 母姉 ○ × ○ ○ ショコラ ○ ○ ○ 母 ○ ○ × ○ ソウルフード ○ ○ ○ 母 ○ ○ ○ ○ 父の詫び状 ○ × △ 母 ○ ○ ○ ○ 寺内貫太郎一家 ○ × △ 母 ○ × ○ ○ となりの山田くん ○ × △ 母 ○ × ○ ○ フルハウス ○ ○ ○ 不決 ○ ○ × ○ レオン レオン × なし × なし なし × × ○ わが谷は緑なりき ○ △ △ 母娘 ○ × ○ ○ アイス・ストーム ○ ○ ○ 母 ○ × 不明 ○ 愛を乞う人 ○ × × 不明 ○ × ○ ○ アメリカン・ビューティー ○ ○ ○ 母 ○ × ○ ○ 家族ゲーム ○ △ ○ 母 ○ × ○ ○ 家族シネマ ○ × × 母 ○ × 不明 ○ ギルバート・グレープ △ ○ △ 姉 ○ ○ ○ ○ 恋人たち 最初 ○ ○ ○ 父 ○ × ○ ○ 最後の家族 ○ × ○ 母 ○ × 不明 ○ 聖家族のランチ ○ × ○ 母 ○ × 不明 ○ パーフェクト・ワールド ○ ○ ○ 母 ○ × ○ ○ マイガール ○ ○ ○ 父 ○ × ○ × マイフレンド・フォーエバー × × × 母 × × × ○ レオン 家族 × × × 自分 × × × × 人間関係と食卓状況によるモデル分析 1. 食卓を家族全員で囲う 2. 全員が同じものを食べている 3. 言葉に表情のある会話がある 4. 会話の数が5以上ある 5. 顔に表情がある 6. 笑顔・笑い声がある 7. 家族という安心感・平和感があり見ていて緊張し ない 8. 家族が食卓でリラックスしている 9. 料理や食卓を用意してくれた人をみんな好きで ある 10. 家族に食卓を作ることに嫌気が差している 11. その家族のあり方に共感でき、家族のあたたかい 背景がある 食卓を作る上で最も基本的なことは、家族が同じテ ーブルを囲っていること、自分の好みで好き勝手に食

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事をするのではなく、同じものを口にすることだろう。 この二つが揃って、初めて次の条件に進めるのである。 会話というのは、言葉を発し、言葉が返ってくること ではない。言葉の意味を理解して、言葉の裏にある思 いや感情・関心を読み取って心から言葉を返すことに 意味がある。また、その人の感情が顔に出ていない場 合、そこにいても自分を出すことが出来ないでいるよ うに感じられる。無表情であることは、どんな会話が あってもそこにいる人たちに悲しみも喜びも伝えたく ないという記号に取れるからだ。(ここでは、会話の数 を見るために、深く考えず単に、話し掛けて応えが返 ってきて1と数えることにする。) 表4 作品名 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 アントニアの食卓 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ × △ 活きる ○ ○ ○ × ○ ○ △ △ ○ × ○ おはよう ○ ○ ○ × ○ △ ○ △ ○ × ○ 学校Ⅲ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ × ○ 恋人たちの食卓 最後 × ○ ○ ○ ○ △ △ ○ ○ × ○ サザエさん ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ × ○ ショコラ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ × △ ソウルフード ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ × ○ 父の詫び状 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ △ ○ × ○ 寺内貫太郎一家 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ △ ○ × ○ となりの山田くん ○ ○ ○ × ○ △ ○ △ ○ × ○ フルハウス ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ × ○ レオン レオン ○ ○ ○ × ○ △ △ △ なし なし × わが谷は緑なりき ○ ○ × × ○ ○ ○ △ ○ × ○ アイス・ストーム ○ ○ △ × × × × × △ △ × 愛を乞う人 × ○ △ × × × × × × 不明 × アメリカン・ビューティー ○ ○ × ○ × × × × × ○ × 家族ゲーム × △ ○ ○ × × × △ ○ × × 家族シネマ ○ ○ × ○ × × × × × △ × ギルバート・グレープ ○ ○ ○ ○ △ × × △ ○ × △ 恋人たちの食卓 最初 ○ ○ ○ ○ ○ △ △ △ △ × △ 最後の家族 × × ○ × × × × × △ × × 聖家族のランチ △ ○ × ○ × × × × × × × パーフェクト・ワールド ○ ○ △ ○ × × × △ △ × × マイガール × ○ △ ○ ○ × × × ○ × × マイフレンド・フォーエバ ー × × × ○ × × × × × △ × レオン 家族 × × × × × × × × × なし × 細かい食卓状況

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表5 作品名 メニュー 卓上の装飾品 食器 会話の内容 アントニアの食 卓 パン・サラダ・チー ズ・ジュース・その 他大皿盛りの料理 白 い テ ー ブ ル ク ロス 洋食器・ナイフ・フ ォ ー ク ・ バ ス ケ ッ ト・グラス たわいない話声 ・孫の妊娠の報告 活きる うどんのようなも の 緑 チ ェ ッ ク の テ ーブルクロス どんぶり鉢・箸 弟 が 友 達 に 嫌 が ら せ を し た 理 由 について お早よう ご飯・味噌汁・魚 なし 茶碗・お椀・角皿 母 は 子 供 た ち に 何 時 ま で 意 地 を 張 っ て い る の か 尋ねる 学校Ⅲ ク リ ー ム シ チ ュ ー・サラダ・パン・ (もらった)かきあ げ・牛乳 緑 と 白 チ ェ ッ ク の テ ー ブ ル ク ロ ス 洋食器・スプーン・ 箸・フォーク・グラ ス 母 は 自 分 が 行 く こ と に な っ た 学 校について話す 恋人たちの食卓 最後 魚料理・肉料理・カ ニ団子・スープ・ 鍋・はるまき・ご飯 など なし 中華皿・茶碗・鉄鍋・ 土鍋・蒸篭・レンゲ・ 箸 次 女 の 料 理 に 父 は 文 句 を つ け る が、味覚が戻った と話す サザエさん ご飯・味噌汁・ハン バーグ・付け野菜・ お茶・お酒 こたつ 茶碗・お椀・洋食器・ 箸・湯のみ ク リ ス マ ス ケ ー キ を ど こ の 店 で 買うか ショコラ エビ・チキン・パ ン・野菜スティッ ク・カカオ・チョコ ソース 白 い テ ー ブ ル ク ロス・花や植物・ キャンドル 洋食器・大皿・ナイ フ・フォーク・グラ ス 孫 の プ レ ゼ ン ト・デザートはル ー の 船 に 用 意 し てある事 ソウルフード チキン・サラダ・パ ン・コーンブレッ ド・豆料理・ナマ ズ・肉団子・コー ン・マカロニチー ズ・ワイン 白 い テ ー ブ ル ク ロス 洋 食 器 ・ バ ス ケ ッ ト・ナイフ・フォー ク 姉 妹 の 口 論 を ビ ッ グ マ マ が 鎮 め る 父の詫び状 ご飯・味噌汁・魚・ 漬物 なし 茶碗・お椀・角皿 小鉢・箸 長女は魚が怖い。 メ ザ シ に つ い て の話 寺内貫太郎一家 周平の恋 ご飯・味噌汁・魚・ 漬物 なし 茶碗・お椀・角皿・ 小鉢・箸 長 男 が 突 然 結 婚 し た い と 言 い 出 す 寺内貫太郎一家 静江の嫁入り 赤飯・味噌汁・小鉢 なし 茶碗・お椀・小鉢 箸 祝儀について・父 の石屋辞職宣言

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となりの山田く ん ご飯・味噌汁・フラ イ・サラダ なし 茶碗・お椀・平皿 箸 父 は 長 男 の 迷 い 箸を注意する フルハウス 栄光のシュート パン・グラタン・サ ラダ・ミルク ラ ン チ ョ ン マ ッ ト 洋 食 器 ・ グ ラ タ ン 皿・バスケット・ボ ール・グラス・フォ ーク 昔 の ラ イ バ ル に 再 会 し 落 ち 込 ん だ 親 友 を 家 族 み ん な が 元 気 づ け る。 フルハウス ジェシー流子育 て ピザ・パスタ・パ ン・チョコレートソ ースのアイス 青 い テ ー ブ ル ク ロス 洋 食 器 ・ バ ス ケ ッ ト ・ プ ラ ス チ ッ ク 皿・グラス・フォー ク・スプーン ベ ッ キ ー の 料 理 について・騒ぐ子 ど も の 躾 を し よ うとする レオン マチルダとレオ ン 牛乳 なし グラス 毎 日 が 単 調 す ぎ る と マ チ ル ダ が 話す わが谷は緑なり き パン・スープ・牛肉 白 いテ ーブル ク ロス 洋食器・スープ皿 ナイフ・フォーク 会話なし アイス・ストーム チキン・マッシュポ テト・サラダ・パン レ ー ス の 白 い テ ーブルクロス・花 洋食器・大皿・バス ケット 父 が 話 す が 誰 も 聞いていない 愛を乞う人 ご飯・味噌汁・小鉢 なし 茶碗・お椀・小鉢 長 女 の 食 欲 に つ いて アメリカン ビューティー チキン・アスパラ・ サラダ・クスクス・ パン 白 い テ ー ブ ル ク ロス・ガラスの花 瓶 キャンドル 洋 食 器 ・ バ ス ケ ッ ト・ナイフ・フォー ク・グラス 父 親 が 暴 言 を は き、母親と口論に 家族ゲーム ご飯・スープ・サラ ダ・小鉢・ワイン なし 茶碗・洋食器・箸 スプーン・ゴブレッ ト 細々としていて、 1 つの話題に留ま らない 家族シネマ ご飯・味噌汁・魚・ お茶 なし 茶碗・お椀・平皿・ 湯のみ・端 家 計 に つ い て 両 親の口論 ギルバート グレープ ナポリタン・パン・ ジュース なし 洋 食 器 ・ 木 製 ボ ー ル・バスケット・グ ラス・フォーク 弟 の 誕 生 日 パ ー テ ィ の 食 べ 物 や 出し物について 恋人たちの食卓 最初 魚・豚・チキン・シ ュウマイ・カニ団 子・スープ・鍋・エ ビチリ等中華料理 のフルコース なし 中華皿・土鍋・蒸篭・ 箸・レンゲ・湯のみ 父 は 話 そ う と す るが機会を失い、 次 女 は 引 越 し す ることを発表 最後の家族 鶏のから揚げ・麻婆 豆腐・マカロニサラ ダ・他 不明 おそらく洋食器・箸 など ほ と ん ど 会 話 が ないまま、近所の 人が訪ねてくる 聖家族のランチ スモークサーモン 薄 緑色 のテー ブ 洋食器・ワイングラ 母 親 が みん な の

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サラダ・トルコ風シ チュー ルクロス・濃い緑 の テ ー ブ ル マ ッ ト・白い花 ス・クリストフルの ナイフとフォーク 話 を 聞 こ う と す る。父の会社や娘 の 彼 に つ い て な ど パーフェクト ワールド パン・サラダ・グラ タン ラ ン チ ョ ン マ ッ ト 洋 食 器 ・ バ ス ケ ッ ト・グラタン皿・グ ラス・フォーク も し ハ ロ ウ ィ ン が出来たら、何に 変装するか マイ・ガール パン・サラダ・チキ ン・ライス・ポテ ト・ブロッコリー ラ ン チ ョ ン マ ッ ト 洋 食 器 ・ バ ス ケ ッ ト・サラダボール 鍋・サーバー・ナイ フ・フォーク・グラ ス 仕事の葬儀の話。 ベ ー ダ が 床 に 倒 れている理由。 マイフレンド フォーエバー パン・冷凍食品とお もわれるもの 中 央 に テ ー ブ ル ウェア・ろうそく 洋 食 器 ・ バ ス ケ ッ ト・ワイングラス・ フォーク 隣 の 家 に 住 む 病 気 の 男 の 子 に つ いて レオン マチルダと家族 シリアル・ジュース なし ボ ー ル 皿 ・ ス プ ー ン・グラス 姉 に 文 句 を つ け る

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空間や食卓状況において、家族の信頼関係や愛情関係 の有無による大きな違いはないが、人間関係と食卓状 況においては、その差がはっきりと分かる。このよう な分析をしても、食卓の場において人間関係の状態が 目立ってしまうのは否めないが、食卓状況の全体的な 共通点や空間による人間関係への影響などをあげるこ とが出来る。 同じものを食べるということ まず、食卓状況の共通点は、ほとんどの食卓では、 同じテーブルを囲う人は同じものを食べているという ことである。こういう状態とは逆に、最近は家庭の中 でも外食化が浸透しているところがある。例えば朝食 で、父親は必ずご飯を食べるが、子供たちはトースト を食べるなど、同じ食卓の場にありながら食べるもの はバラバラで、食事を用意する人はテーブルを囲む人 の好みに応じて食事を用意しなければならないという 具合である。また、同じ食パンを食べたとしても、一 人はバター、一人はハニートースト、一人はハムチー ズ、というように調理法が違ったり、やたらテーブル の上に調味料を並べて好きなものを好きなだけ好きな ように食べるというのも、バラバラな食卓である。こ のような食卓は「家族ゲーム」で見ることが出来た。 大皿盛の料理は台車に乗せ、好きな時に台車を動かし て好きなものを自分に取分ける。もしもその料理が好 きでないなら取らなければ良い。それが許されるのは、 食べようが食べまいが、自由のきく食卓になっている からである。一列になって食事をとっているため、他 の人が自分の行動を知ることはなく、自分も他の家族 が何をどのようにして食べているか分からないのであ る。他の食卓とは異なり、食事の取り方が同じ席にい ながらバラバラである。テーブルを囲うだけでも、相 手の行動というものは目に入る。目に入るところから コミュニケーションが始まると言うことも出来るだろ う。 空間と人間関係 次に、空間による人間関係への影響とは、会話が出 来ない空間を主に指す。照明ではなく、主に部屋の装 飾による影響が大きいと考えられる。信頼関係が深い 人間関係の食卓では、テーブルやその部屋に装飾がな されていなくても、明るい雰囲気が伝わってくるのは、 そうした空間に会話という装飾が目立ってなされてい るからである。反対に、人間関係に亀裂があり緊張感 の耐えない食卓では、空間が美しく装飾されているほ ど、その冷たさは増している。それは、「アイス・スト ーム」や「アメリカン・ビューティー」で見ることが 出来た。装飾や料理がシックで高級レストランを思わ せる雰囲気では、大きな声で弾んだ会話を出来なくさ せている。丁度、普段落ち着きのない人も和装や正装 をすると、それに似合った態度や言葉遣いが出てくる ことに似ている。望ましくない人間関係の食卓の中で も、空間がリッチでオシャレに感じるものの方により 冷ややかな印象を与えられたのは、空間の静寂さが人 の心に浸透しているからだと言えるだろう。そうした 静寂が冷たさを増し、人間関係に対して食卓という場 が非常に暗いものと感じられるのである。静かでいた いという気持ちは、空間に、人間関係に響き届くもの であるのだ。 このように食卓における座り方や空間が、その人間 関係を促進させていくことに繋がることがある。多く の食卓では、設計通りに食事が行われているが、果た してそれは、本当の意味で設計通りだったのだろうか。 食卓の役割は、ただ生きていくためだけの栄養摂取と 身体的な健康維持、生理的欲求や味覚満足だけではな いだろう。人と人が同じものを同じように食べること に意味があるのである。

第 2 章 共食:起源と意味

1.共食の起源と家族 一人で食事をする時の味気なさ、虚しさというもの はどうして起こるのだろうか。高級な食べ物を口にす るだけでは、食べるという行為に快楽を十分感じるこ とはできない。その喜びや美味しさを共に共有し、体 験する相手の存在が必要であり、それは重要なことで ある。 食事とは、生きるため、そして成長していく為に必 要な栄養を身体に取り入れる行為である。そして、そ れと共に、それ自体が人間としての生活の一部であり、 社会的な行為であるので、同じ調理法で同じ栄養素を

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持つものを食べたとしても、いつ、どこで、誰と、ど のように、食べたかによって心身の健康に及ぼす影響 は違ってくるだろう。人にとって食事とは、空腹を満 たし、身体を健康に保つこと以上の価値を持っている ものである。そして、大抵、どこの国でも食事は一人 だけで食べるものではなく、他の人と一緒に食べるも のだということが共通している行為であるようだ。女 性が特定の男性に食事を供することが愛の証となる社 会も多く、また「同じ釜の飯を食った仲」と言うよう に、人は食を共にすることによって連帯を深め、強化 させていくのである。いわば、人は誰でも、 共食 す る集団と言えるような関係を結べる一定範囲の社会圏 を持っている。その、共食集団の一般的なかたちは家 族であろう。つまり、共食をする人間の最も基本的な 単位で、個人にとって常に食を分かち合う仲間が家族 と言えるのではないだろうか。では、共食や家族の単 位はどのようにして成立していったのであろうか。文 化や生活習慣という枠を越えて、人類史の始まりの段 階に遡ってこのテーマを問うことも出来る。 1.1 人類史の始まりと共食 人類史の始まりの段階についての研究は、およそ次 のように説明している。共食と家族成立の起源は、類 人猿が人類として進化していく過程に、その契機があ ると考えられている。単純な説明では、男性が特定の 女性と子どもに獲物を分配する関係が成立することに よって、群から家族が生まれてきた。食物に関する権 利とその分配関係をめぐって、特定の男性と女性の間 に持続的な性関係が成立し、その間に出来た子どもの 養育をめぐって、家族という単位が出来上がったと考 えられているのである。 1.1-1 家族の成立プロセス 類人猿には共食する習慣はなかった。食物は自分で 探してその場で食べるのが習性なのである。食物を居 住地へ持ち帰って仲間で共食するようになった人類は、 霊長類ではきわめて特殊な食生活を発達させたことに なる。それはおそらく、家族という社会単位の成立と 期をひとつにしていたに違いないのだが、家族成立に はあらゆるプロセスが考えられている。 直立二足歩行 まず、共食の最初の契機は直立二足歩行にある注1 これにより、骨盤の形が変形し産道が狭くなった。女 は狭い産道を通過できるような未熟な赤ん坊を産むよ うになる。それは、長期的な世話を必要とし、母親は 長い間赤ん坊を抱いていなくてはならないので、長距 離の遊動には、仲間について歩いていけなくなる。こ のため、安全なキャンプ地を見つけ、仲間が食物を集 めてこの母子の所へ運び、分配するという行為が芽生 えたのである。 家族の始まり この頃に、家族の基本的な性格が既に出来上がって いたと考える者もいる。類人猿のメスは発情している ときに交尾と引き換えに食物の分配にありつく傾向が あるが、発情には周期がある。そこで、初期人類の女 は、発情徴候を消して、排卵日をあいまい化させ、常 時発情してオスの関心を引いたのである。そして、特 定の男と性的な契約を結んでつがい関係を形成するよ うになる。男は女との性交渉を独占し、生まれた子ど もを認知して、保護者として食物を供給し、父親の役 割を果たすようになる。この母子と男の結合が家族の 原型というわけである。 しかし、霊長類学者の山極寿一氏は、この説明に疑 いを抱いている注2。それはまず、分配をしなければ生 き残れないほど、その食環境は悪くなかったはずであ るということである。豊かな環境で、分配を受けるよ うになったのは、お互いの絆を確認する、あるいは親 睦を深めるという意図をもっているからと彼は考えて いる。 1.1-2 思いやり:互いの絆 人類の祖先は、お互いの関係を確認しあい結束を強 めるために分配という行為を利用したのだろう。食料 を分配することが仲間同士の親睦を深め、より自由度 の高い社会交渉を発現させ、多様な協力体制を作り上 げる役割を果たした。分配は人々の感情の快の領域を 刺激したのである注3 ここから、相手の立場にたってものを考えたり、思 いやったりする感情が芽生えてくるのである。食事は

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社会的な場であり、親睦を深める交渉であり、互いの 絆を確認しあう手段である。それが優劣の関係に律せ られた交渉でないことは、食事が分配行動によって成 立することからもあきらかである。 共食集団の限定 しかし、分配行動が快の感情をもたらすようになる と、食の世界が性の世界を取り込むようになる注4。分 配行動が与えるものと与えられるものに快の感情を共 有させ、男女の親睦を深めることに貢献すればするほ ど、分配行動は性交渉を誘発する起因になりやすくな る。初期の人類が共食を習慣にすることによって、多 様な異性の組み合わせが生じ、それはあらゆる問題を 引き起こしただろう。そこで人類は、食の共有を性交 渉の独占が認められる関係、つまり夫婦関係と、性交 渉が起こりようの無い関係、つまり同性同士や親子関 係に限定せざるを得なくなったのである。 共食による人間関係の深まり チンパンジーとボノボでは、「物乞い行動」により 分配が行われるが、人類は「与える」ことで分配が行 われる。食物を与えることは愛情を捧げることである。 家族はその愛情を感情という意味に留め、食事の場か ら性の性格を払拭し、人は共食する文化を家族の形成 と共に育んできたのである。共に食べることは、共に 生き、互いの関係を深めていくことである。共に食べ ることで家族が生まれ、友情が生まれ、人間関係の歴 史が刻まれて来たのである。 1.2 文化における共食 人類の始まりと共食とは深い関係にあったと考えら れるが、共食は、人類の様々な文化の内では、どのよ うに考えられているのだろうか。 1.2-1 日本における共食の文化 家族という形が出来上がってから、家族単位の基本 的な行為が共に食べることとなったのだが、日本文化 の特徴として、生死を問わずどんな人とでも、またど んな存在とでも、共に食べるということをあげること が出来るのではないだろうか。 神との共食 古代の日本には祭りの本儀として神と共食する風 習があった。厳粛な祭典が終わり、神様にお供えした もの、またはお供えしたものと同じものを祭りに参加 した人が共に食するのである。この行為は「直会」と 呼ばれ、神様にお供えしたお酒や供え物を一堂に分配 し、それを飲食することによって、神の偉大な霊力を 自分の身に得ることが出来、新しい生命を与えられ、 更なる力を付加されるという意味を持っている。 一般には神祭りの最後に行われることから、これは 神祭りに仕えるために、斎戒して清浄なる状態になっ たのを、祭りが終わって平常に戻ること、すなわち解 斎(げさい)と説かれるが、もともとは祭りのなかで 斎食を頂くことであった。宮中の新嘗祭では、祭儀の 中心において、神々との共食を直会と称し、京都の賀 茂別雷神社の御阿礼(みあれ)神事では、祭場にて、 神迎えに先立ち、神酒と「掴みの御料」を頂くことを 直会と称しているなど、本来の直会の形式が今日もな お継承されている(「日本大百科全書」小学館)。 幅広いコミュニケーション この儀式は、神様と人々の間をより一層親しいもの とし、その場に集う者同士もお互いに親しみを増すも のとなっている。直会は同じ釜で煮炊きしたものを、 神も人も共に味わい楽しむものなのである。神に捧げ たものと同じものを口にし、また同じものを別の人と 共に口にする。その行為が神と人々の心を繋いでいく のである。神と人、人と人のコミュニケーションとな るものとして、このお供え物には重要な意味が含まれ ているのである。現在でも、我々は神棚や仏壇にお供 え物をする。神様や先祖と共食する姿は、身近な生活 の中でも残されている。人が生まれ、そして亡くなっ た後まで、喜ぶ時も悲しむ時も人は人と、そして神や 死者など目に見えない相手とも共に食べ物を口にして きたのである。 1.2-2 他の文化における共食 日本では、共食を家族や仲間内だけでなく、現実世 界と宗教世界、現在と過去を繋ぐ幅広いコミュニケー ションであると捉えたが、他の文化においても、共食

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