JSL児童のためのイラスト付きリライト教材の開発とそれを用いた授業実践‐小学校国語の物語教材を中心にして‐
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(2) 目. 次. 1研究について 1.1研究の背景 ・・一……・・・…一・・…………………一・・…一・・…一・・…1. 1.2研究の目的 ………・・一・一・………………・・・……一・・一・一…1. 1,3研究の方法 ………一一…・……一・一……一・・……………一・・1 1,4イラスト付きリライト教材作成に関わる問題 ………・・・・・・… 2 1.5JSL児童生徒とは……一・・一…一・……一・・……・・・……・・一… 3 1.6筆者の経験とJSL児童生徒 …………・・・・・・………・・・・・…一… 3 1.7国際教室とは ・・一……・・・…一・・………………・・…一・・一……一・・5. 1.8JSL児童にとっての物語教材 ……・・・・・…一・一・一・・・・…一… 7. 2リライト・イラスト教材について 2.1先行研究について ・一・…・・・……・・’………………・・・・・・・・・・・・・・…一9. 2.2物語教材のリライト教材の必要性について…………一一・・・・…16 2.3イラスト教材設定の理由一・・……一・・・・・・・…一…・・一・・・……17 2.4筆者の教材作成.・授業の方針………・・・・・・・・・・・・…………一・・18. 2.5原作絵本の分析……一・・……・・・…一・・…・・・・・・…………一・・19. 3イラスト付きリライト教材を用いた授業実践 3.1 イラスト付きリライト教材を用いた授業の経過 ……一・・21 3.2 授業の実■施方法と工夫にっし、て …一・・……・一・………一・・21. 3.3 授業の実践記録(1). 3年生教材r三年とうげ」を用いての ボランティア日本語教室での授業 ・・・・・・……一・・・・・……・・一22. 3.4 授業の実践記録(2). 4年生教材「白いぼうし」を用いての 国際教室での取り出し授業…………一・・………………一・・30 3.5 授業の実践記録(3). 4年生教材「白いぼうし」を用いての 一般学級での一斉授業 ………・・…一・・・……………・…一一… 37. 3.6 授業の実践記録(4).
(3) 4年生教材「白いぼうし」を用いての 国際教室での個別授業と在籍学級での一斉授業 ………46 3.7 スキーマについて………………・」・・…・・・・・・・・・・・・・・・……・・・・・・…49. 4 指導経験によるリライト教材の開発の比較 4.1リライト教材開発の比較の目的… 一…………・・一…・・一… 51 4.2筆者が示した制作指針一・・……・・・・・…一……・・一…一・・……・一・52 4.3指導者Aの指導経験……………・・・・・・……………・・・・・・・・・・・・… 53. 4.4指導者Aの制作したリライト教材一・一…………………… 53 4.5指導者Bの指導経験…一・・……・・・…一・一……・・・……一・・54. 4.6指導者Bの制作したリライト教材……一・一…・一・………… 54. 4.7リライト文の分析一”…………・・…一………………一・・…55 4.8指導者Aと指導者Bのイラスト挿入案一・・………一・・……58 4.9指導者Aと指導者Bのイラスト案の分析と筆者の案・・一・・・… 60 4.10本節の結論…・・一・・・・・・・・・・・・………・・・・・・・・・……一・・・・・・・・・・・…64. 5 結論 5.1 問題点についての解決策 ・・一……・・一・・一…………・・・・・・… 66 5.2 成果……・・・・・・…一・・……・・・・・・・・…一一・・……………………………68. 6 課題…………・・一……一・一・・・・・・…一・・…一・一………・・・… 69. 注・・・………・・・・・・…………………・・・・・・・・・・・・……・・・…………………71. 引用文献 一・一一・・…………一・・…・・・…一・・…………・・・……一・・72 参考文献 ……………・・…一……………・・・・・・・・・……・・・・・・・・・………… 73. 付録. ひろこさんのたのしいにほんご 1 文法事項 ……一・一… 1 おむすぴころりん レベル1初級用 イラスト付きリライト文 ・・・・・・… 3. ちいちゃんのかげおくり レベル1初級用 イラスト付きリライト文……… 5.
(4) 1研究について 1.1研究の背景. 近年、日本の国際化が進み、外国にルーツを持つ児童生徒が急増して きている。平成20年9月の文部科学省の調査では、我が国の公立の小・ 中・高等学校、中等教育学校及び特別支援学校に在籍する日本語指導が 必要な外国人児童生徒数は、28,575人で、前回(平成19年度)から12.5% 増加していることが分かる。. 筆者は、この調査から学校に日本語指導を必要とする子どもがいるの は、もはや特別なことではなくなってきていると考える。しかし、それ らJSL児童生徒(1.5で説明)への日本語、母語、教科等の学習支援の 方法は十分に研究されてはいない。勉強がわからないために「荒れ」や 不登校等も発生している。JSL児童生徒への学習支援の方法を研究する ことは学校の急務である。また本研究は、理解が遅れがちな日本人の児 童生徒にとっても有用であると考える。 1.2研究の・目的. 本研究の目的は、JSL児童が小学校の国語の物語教材の内容理解を効 果的に進めるためのイラスト付きリライト教材の作成方法の開発及びそ の教材を用いる授業の効果を明らかにすることである。ここで言うリラ イト教材とは、光元・岡本(2006)が言う「入国して間がない時期から、. 教科の学習に入りやすくするために、教科書本文を子どもの日本語カに 対応させて書き換えた教材」(p.3)である。留意点は、「表現はやさしく、 内容は相当学年レベルで」(p.4)である。. 1.3研究の方法. 研究の方法は、実際にイラスト付きリライト教材を作成すること、ま た筆者以外の指導者にイラスト付きリライト教材の作成を依頼し比較す ることである。次にその作成した教材を用いて、小学校の国際教室、普 通学級、及ぴボランティア日本語教室で授業を行ない、その方法の効果 を明らかにするものである。.
(5) 1.4イラスト付きリライト教材作成に関わる問題点 筆者は、これまでにこのイラスト付きリライト教材の作成と授業実施 に関して各地の指導者と非公式に議論する機会が何回もあった。その中 からこの研究に関しての問題点が見えてきた。 まず、第一の問題は、「リライト教材は、JSL児童が日本語で書かれた 物語を読解する際に内容理解をすすめると思うが、自分で作るのはかな りの労力がかかる。他の人が作ったリライト教材をみたことがあるが、 それはその人が担当している児童の持っているカを前提にして作ってあ るので、自分の担当している児童に使えない部分も多い。」というもので あった。これは、リライトの制作方法が一般的になっていなくて、各指 導者の個性により制作が行われているためである。筆者は、本研究を通 してリライト教材の作成指針となるものを提案することをめざす。. 第二の問題は、「イラストや写真もあると指導者も説明がし易くJSL 児童も内容が理解し易く便利だ。だが、自分で描くのはとても無理であ る。写真もぴったり合うものはなかなか見つけられない。またどんなイ ラストをどこに入れるのか、考えがまとまらない。」というものであった。. 実際に指導者の二人である後藤(2007)では、「リライト教材を作成し、そ の内容を読み取る段階で適度な量の挿絵や動作化を加えること(後略)」 (p.150)としているだけである。リライト文とイラストとの関係を述べて. いる指導者は少ない。筆者は、積極的にイラストを活用しようという立 場から、イラストの作成基準について提案する。 第三の問題は、「リライト教材は大概短いのでJSL児童は喜、Sミ。しか. し、それを用いての授業をどう構成するのか、ワークシートをどうする のかは、難しい。」ということであった。筆者は、授業の構成、発問、ワ ークシートについても提案する。 第四の問題は、「リライト教材の学習では、粗筋をつかんだだけで、 その物語の主題を理解していないのではないか、という批判がある。」と いうことである。筆者は、これについても第三の授業の構成で提案する。 第五の問題は、「JSL児童に国語の授業として新出漢字を習得させたい が、リライト教材では難しい。」というものである。これについては、第 ■のリライト教材作成の中で提案する。.
(6) 1.5JSL児童生徒とは 本稿で使用しているJSL児童生徒とは、第二言語としての日本語教育 を必要としている児童生徒を指す。これらの児童生徒は、かつては、ニ ューカマーの児童生徒と呼ばれたこともあった。現在では、英語の JapaneseasaSecondLa㎎uageを元に、JSL児童生徒と呼ばれることが増 えてきている。次に、川上郁夫・石井理恵子・池上座希子1齋藤ひろみ・ 野山広(2009)『移動する子どもたちのことばの教育を創造する、ES L. 教育とJSL教育の共振』より引用する。 公立学校に在籍する日本語指導が必要な児童生徒(JSL児童)の増加. に対して、文部科学省は2002年から「JSLカリキュラムの開発」 事業を実施、2003年に小学校編、2007年に中学校編の最終報告書が まとめられた。(p.161). とあり、ずで1こ浸透してきている用語であると言える。. JSL児童の具体的な例としては、いわゆる「出稼ぎ」と呼ばれる就労 目的の南米からの日系人の子弟、中国残留孤児・婦人の3世14世、ア ジア諸国等からの難民の子弟とその呼び寄せ家族、日本人と結婚した者 の連れ子、日本駐在の外国人商社マン等の子弟、及び長期の海外生活を 経験してきた日本人の帰国児童生徒等である。その状況は複雑で多様で ある。国籍は日本以外の者が大部分であるが、日本国籍を取得した者も いる。初来日で初めて日本語を学ぶ児童生徒もいれば、日本生まれだが 家庭内使用言語が日本語以外という児童生徒もいる。日本国内の移動及 び母国と日本との移動を繰り返している例も多数見られる。 彼(女)らの多くは、普通学級に在籍し時々母語話者による支援を受け ている。国際教室(1.7で説明)で学ぶことができる児童は、少数である。. 学校内に設けられたボランティアの日本語教室や民間のボランティア日 本語教室で学んでいる児童もいる。JSL児童生徒の中には、郭(2009)が 指摘している‘時的ダブルリミテッド(注1)と呼ばれる母語も日本語も 伸び悩む者も見られる。高校進学率も日本人生徒と比較して、低いと思 える。. 1.6筆者の経験とJSL児童生徒 筆者は小学校で15年間学級担任をし、その間JSL児童と関わってき 3.
(7) た。その後、1995年より二つの小学校で「国際教室」の担当をし、現在 15年目である。民間の日本語指導者養成講座の420時間コースを修了し、. 日本語教授法について学んだ。また前記の文部科学省の「JSLカリキ ュラム小学校編」の本会議及び社会科部の開発委員として活動した経験 もある。. 筆者の国際教室では、学年、母語、日本語力の異なるJSL児童がそれ ぞれ個別に入門用の日本語学習から各自のカに応じた教科学習をしてい る。1時間に同時に学習している児童は、3人から6人ぐらいである。 兵庫県教育委員会から派遣の「子ども多文化共生サポーター」や大学生 ボランティア等も受け入れて、できるだけ児童の個別指導ができるよう にしている。筆者は、これまでの14年半で約40カ国、300人ほどのJSL 児童生徒の学習支援をしてきた。. また1996年より、兵庫日本語ボランティアネットワークの会員とし て兵庫県内に住む外国人1こ対する日本語支援活動1こ携わってきた。特に. 2002年からは、自宅の近隣地域でのJSL児童生徒への日本語支援を目的 とするボランティア教室の活動に参加している。この教室は、週に一回 土曜日の午前10時から12時に活動している。このボランティア教室に 来ているJSL児童生徒は、地元の小中学校に通っている。そこには国際 教室がないので特別な日本語指導を受けてはいない。そのため、学力や 行動に関しては以下のような特徴があると筆者は感じる。 1.国際教室で学んでいないJSL児童生徒は基礎的な日本語の知識や運 用カに欠けるが、一方では在籍学級の授業内容の断片的な知識を身 につけている。. 2.在籍学級の同級生と同じ宿題をして提出することを望む。内容の理 解は出来ていなくても、形式的に宿題をこなそうとする。 3.高い日本語カを必要とする国語や社会の教科は苦手であり、算数・ 数学を好む者が多い。 つまり、国際教室で学んでいないJSL児童生徒は、学、Sミ意欲はあるが 適切な指導や教材が欠けていると思う。国際教室で学んでいないこのよ うなJSL児童生徒にこそ.、適切な教材が必要である。イラスト付きリラ イト教材は、その一つであるということを本稿において明らかにする。.
(8) 1.7国際教室とは. 全国の小中学校には、JSL児童生徒のための国際教室を設置している ところがある。その数はJSL児童生徒の数に比較して十分にあるとは言 い難い。国際教室で学んでいるのは、JSL児童生徒の一部である。 国際教室とは、普通学級ではない。その学校に在籍するJSL児童が在 籍の学級を離れて集まってくる特別の小規模の学級である。筆者の担当 している国際教室では、日本社会への適応学習、日本語学習、教科学習 を行っている。在籍学級からその時間だけ離れて、国際教室で学習する ことを「取り出し」と呼んでいる。また国際教室の担当者が児童の在籍 学級に入り、児童の傍について指導するのを「入り込み」または「付き 添い」と呼んでいる。ほとんどのJSL児童は初来日で、日本語カは全く ないと言ってよい。当初は体育、音楽、図工、家庭等は在籍学級の授業 にいっしょに参加している。これらの教科は日本語のカが足りなくても 参加可能だからであると考えられている。しかし、国語や社会の時間は 高い日本語のカが必要なので、国際教室での取り出し授業をしている。 算数、理科、生活、総合的な学習等は児童の実態に合わせて、取り出し、. 入り込み、在籍学級での学習を適宜調整している。国際教室の特徴とし て、以下のことがある。. 1. 学年、母語、日本語カの異なるJSL児童が同時に学習している。 2. 通常は、一人の指導者が数人のJSL児童を同時に指導している。 3. 児童一人の学習時間は週に10時間程から始め徐々に減らしていく。 2009年9月現在の筆者の勤務校の国際教室の在籍児童の内、保護者が 外国人であるのは、フィリピン、中国、オーストラリア、アメリカ、韓 国の16人である。保護者が国際結婚で児童が多重国籍なのは、アメリカ、 フィリピン、ドイツ、ベルギー、オーストリア、韓国の11人である。ま た両親共に日本人であるが、海外に長期間滞在し日本語以外の外国語で 学習してきたため、日本語指導が必要な児童は5人である。 筆者の国際教室では、日本語学習と教科学習の流れを、以下のように 計画している。.
(9) ①児童用の日本語入門用テキストを用いての日本語指導: 『日本語学級1』、『日本語学級2』 『ひろこさんのたのしいにほんご1』 ↓. 並列的に行なう. ②初級用テキストを用いての 日本語指導 『学校生活日本語. ワークブック』. ↓. ②国語の教材を用いての 指導 「国語1年生」 ↓. 『ひろこさんの. 順に「在籍学年の. たのしいにほんご2』. 国語」まで. 児童用の日本語入門用テキストの内容は、『日本語学級1』では、「い い1ため」から「えんぴつかして」等の話し言葉による単語から2語文 までである。『日本語学級2』では、4語文、肯定文、否定文、過去形ま でである。『ひろこさんのたのしいにほんご1』では、「あいさつ」から 肯定文、否定文、過去形、その組み合わせの4語文や簡単な物語までで ある。書き言葉は、少し出てくる。また、その文法項目は巻末の資料に 提示するが、その内容は大人の入門用のテキストよりも格段に少ないも のである。動詞では、基本の語の「ます形」(注2)、「て形」(注3)、「辞. 書形」(注4)、「可能形」(注5)までが出てくる。最終のまとめとして提. 示されている49課の読み物の題名は、「うさぎとかめ」である。この入 門用テキストのために独自に編集された簡略なものであり、文の数は23 である。. 筆者の国際教室では、JSL児童は児童用の入門用テキストで簡単な日 本語を学、Sミと、すぐに初級用の日本語テキストの学習と1年生の国語の 教科書の学習、.及びその他の教科の学習を同時に進めていくようにして いる。日本語が十分にできるようになってから教科の内容に入るのでは ない。それは、教科学習の空白を作らないためである。.
(10) 1.8JSL児童にとっての物語教材 筆者の経験から、JSL児童にとって、最も理解困難な教科は国語であ ると思われる。そのうち、説明文教材は内容が論理的なので比較的理解 しやすい傾向があると思える。しかし、物語教材の読解は大変困難であ ると思える。. 例えば、小学校国語1年生の教科書に出てくる「おむすびころりん」 では、本文の書き出しが以下のようになっている。. やまの はたけを たがやして おなかが すいた おじいさん。 そろそろ おむすび たべようか。 つづみを ひろげた その とたん おむすび ひとつ ころがって ころころ ころりん がけだした。 (『小学校国語1年生教科書、光村図書、平成19年度版』より 引用した。原文の文字は、教科書体で縦書きである。). JSL児童が物語教材の読解に困難を感じる第1の原因は、彼らが学習 した入門用の日本語テキストでは扱っていない表現が国語の物語教材に は数多く出てくることであると考えられる。 例えば、1行目の「たがやして」、4行目の「つつみ」、「その とたん」 の「とたん」は、語彙として難しい。さらに、6行目の「ころころごろ りん」は、日本語のオノマトペなので、理解できないと思える。 なお、ここにあるイラストはおじいさんが座って包みからおむすびを. 取り出して落としたところである。筆者の経験では、入門用テキストを 終了したばかりのJSL児童の多くは、ここで「たがやして」を「耕す」 ではなく、「座ること」と意味を取り違えていた。イラストとの関連の問 題もここに出てきていた。. 7.
(11) 第2の原因としては、一文が複雑で長いことである。1行目と2行目 の「やまの はたけを たがやして おなかが すいた おじいさん。」. の部分は、修飾部分が長すぎて、意味が分からないと思える。3行目と 4行目のrそろそろ おむすび たべようか。つづみを ひろげた そ の とたん」は、主語が不明瞭であるために、意味をとることが難しい と思える。. 第3の原因は、文の分量が多いことである。この「おむすびころりん」 の文の数は30である。これまでの入門用テキストの分量に比べて.、増加. している。JSL児童にとっては文字の壁に見えるため、物語の最後まで 読み終える意欲を失うことがよく見られる。 第4の原因は、イラストが少ないために、物語の設定場所や登場人物 のイメージが作れないことである。そのために、粗筋を理解することが できないこともよく見られる。. 第5の原因として、物語の読解で本文に書き表されていないことを読 み取るカが必要とされることである。JSL児童は本文の表面的な意味を 読み取るごとに苦労しているので、所謂「行間を読む」ごとや「言外の 意味」や「作者の意図」を読み取ること1ま、彼(女)らにとって大変に難 しいことである。. 第6の原因として、物語には背景にそれぞれの民族や言語圏の固有の 文化があるが、JSL児童にはその文化の知識がないために、物語の内容 が理解できないということである。例えば、rちいちゃんのかげおくり」 (『小学校国語3年上』、光村図書、平成19年度版)や「一つの花」(同上、. 4年下)等は、第二次世界大戦の時代の空襲や出征の知識が必要である。. このように、国語の物語教材は日本語の入門期を終えたばかりのJSL 児童にとっては、かなり高度で難解な日本語の教材なのである。それ故、. JSL児童は国語の物語教材に困難を覚え敬遠しがちである。 なお、筆者の制作したこの「おむすびころりん」の「レベル1初級用、 粗筋版、イラスト付きリライト文」は巻末の資料に載せてある。.
(12) 2 イラスト付きリライト教材について 2.1 先行研究について. 2.1.1外国語学習者の読解行動について 竹内(2000)『認知的アプローチによる外国語教育』では、外国語学習 者の読解行動について論じているので、引用する。 「Johnson(1981)は、(中略)読み手の背景知識の量が多いテキスト. と少ないテキストを用意した。また難易度が高めのテキストとそれ を書き改めて読みやすくしたテキストを用意した。その結果、読み 手の背景知識の量が少ないテキストを読む際には、語彙や構文のや さしいテキストの方で、理解度が高くなることが示された。」として いる。(p.119). JSL児童にとって、国語の教科書の物語教材は背景知識の量が少ない 難易度が高めのテキストである。それ故、教科書を書き改めて読みやす くすることは、理解度を高めることにつながると言える。さらに同書か ら引用する.。. 「Taglieber,Johnson,andYarbrough(1988)も、ブラジルで英語を 学習する大学生を対象とし、読解における内容の理解を指標に、「語 彙」、「質問」、「映像」(静止画)の差を検証している。これによると. 三種類の活動すべてがスキーマ活性化の手段として有効であったが、 「映像」と「質問」が「語彙」とくらべるとより効果的であったと いう。. Herron,Hanley,andCole(1995)は、rあらすじ」とrあらすじ」十 「映像」(静止画)の効果を比較した。(中略)この研究によると、後. 者の「あらすじ」十「映像」の方がスキーマ活性化の手段としては より有効であり、また被験者の多くも後者の条件を好む傾向にあっ. たという。」(p.81). 筆者は、これまでのJSL児童への指導経験で、イラストやリライト文 の使用、児童への質問が読解力をイ中ばしていくことを認識していたので この形式の授業を行っていたが、前記の先行研究からもその有効性を主 張できる。なお、スキーマという語については、3.7で説明している。 9.
(13) 2.1.2光元の先行研究1こついて. 光元(1998)では、以下のようにリライトについて述べている。. 「日本語カが低く在籍学級の授業に参加できない児童に対しては、 児童の理解可能な表現にリライトした文を使い、文章はやさしいが、 内容は相当学年レベルになるよう工夫して、在籍学級の授業に参加 できなくても、取り出し授業で学年相当の教育ができるよう配慮す る。」(p.87). 光元は、実際にワークシートの中に本文をリライトした文を入れている。. ここでは、まだリライトのレベルについては言及していない。また光元 (2002)では、以下のように述べている。. 「当該国語教科書の語句説明をしても、日本語文型等の習得が不十 分で教科書内容を理解できない場合は、リライト教材を作成する。 ここでいうリライト教材というのは、子どもの日本語レベルに合わ せて、教科書本文を書き直した教材をいう。」(p.136) またリライトの手順について3項目を提案しているので、以下に引用 する。. 1.リライト教材1こは、指導したい日本語指導項目を含めて作成する。. 例えば、「て形」を指導したいときは、リライトの際に、「て形」の 文型を多く含むようにリライトする。ただし、1度に多くの文型を. 教えようとしないことが大切である。一教材につき1∼2項目程度 の日本語指導に留めるべきである。教材内容の理解を優先して、ゆ っくり繰り返しながら、内容理解が進むにつれて日本語文型等のも つ機能が、理解できるようになるのを待つぼうが効果的である。 2.リライト教材作成にあたって、その単元の必須の語彙を厳選して 含める。母語使用が可能なら、抽象的語彙等は母語で理解させるほ うが正確に理解される。 3.リライト教材は、教科書教材での扱い(子どもの発達段階に合わ せた扱い)に配慮して作成する。在籍学級の担任と連携を密にして、 在籍学級での指導にリンクできるような扱いを工夫する。(p136). この手順に筆者は賛同する。ただ第1項目の「指導したい日本語指導 項目を含めて作成する。」については、賛成ではあるが、実際には十分に 考慮できるかどうかという疑問がある。現状では小中学校には日本語教 10.
(14) 授法を十分に学んだ教員は少ないと思える。その担当教員がリライト教 材を作成する際には、教科書本文の文型をそのまま簡略化すると思える。 その際に日本語指導項目を分類し含めることが容易に可能であるとは思 いがたい。作成に当たっては、同時並行に学習している児童向けの日本 語学習教材を分析したり、日本語教育の関係者と連携したりすることが 望ましいと思う。. また光元は、同時にリライトの方法を5通りを提案している。しかし、 後の論文で追加や変更をしているため、ここでは論評しなし、。. 光元は続けて共同でリライト教材の作成についての論文を発表して いる。いずれもリライト教材の作成についておおいに参考となった。し かし、筆者としては、以下の文献が最新であり、具体的な例が多く、市 販されていて一般に入手もし易いので、これを論評する。 光元・岡本(2006)は、『外国人児童生徒を教えるためのリライト教 材』(、s、くろう出版)で、作成の意義、方法について具体的に示し、リラ. イト文を以下の6種類に分類している。 1.口頭リライト ・教一科書本文の内容を口頭でしか伝えられない子どもを対象とし たリライト教材 ・身振りなどを加えたやさしい表現で話す。 ・絵、紙芝居、ビデオなどの教具を併用して。教科書の内容を分 かりやすく示す。 2.筆約リライト ・教科書本文の要約を子どもの日本語力に合わせてリライトした 教材。. ・要約だけではもの足りない場合は、補足内容(場面説明、状況 説明など)を加味する。 ・子どもの日本語力が低く、長文の教材の指導が無理な場合など に使用できる。. 3.あらすじリライト ・教科書本文(物語文など)のあらすじをリライトした教材. 日本の歴史、文化、地理などの理解が滞在期間等によって異な るので、語彙の書き換えには、子どもに合わせた工夫が必要と 11.
(15) なる。. 4.全文リライト 一・教科書全文を子どもの日本語カに合わせてリライトした教材 ・授業時間が十分取れる場合に適している。 ・授業後、教科書本文をよく読ませ、リライト教材と教科書本文 との対応をさせると、より効果的である。 5.ポイント教材. ・リライト教材の中に、ポイントとして、教科書本文中の重要段 落や会話文等を、リライトせずにそのまま挿入した教材。 ・全文を教科書本文で読ませたいが、時間もなく、少し荷が重い という場合に適している。 6.注釈リライト付教材. ・教科書本文はリライトしないで、理解の困難な語彙や表現につ いてのみ噛みくだいたリライト注釈を付けた教材。 ・少しの助けがあれば、在籍学級での授業参加が可能な日本語力 め子どもに適している。 ・教科書本文を音読譜にして読ませると、さらに効果的である。 (pp.18∼19). また光元は、作成時の留意点の中で以下のように、レベルO、レベ ル1、レベル2の分類もしている。 文体 レベルO、レベル1では、敬体(です1ます) で作成する。レベル2では、教科書の教材と同 じ文体で作成する。 単文・複文. レベル1では、単文を中心に作成する。(複文 は二支に分けて接続詞を補う). 使用語彙. レベル1では、動作化・視覚化できる語彙を 多く扱う。レベル2では、言葉で説明できる語 藁も使う。. 漢字の扱 い方. レベルOでは、漢字を使用しない。レベル1 では、2年生までの配当漢字を使う。レベル2 で一は、教科書本文に準じ、必要に応じてルビを 12.
(16) ふる。. レベル1では、なるべく他の語に置き換える。. 複合動詞. (例)はいでる⇒でる 受身・使役 表現. レベル1では、他の表現に変える。(例)こん は、兵十にうたれました。⊃兵十は、ごんをう ちました。. (pp.19∼20). これまで説明文のリライトについての文献は存在したが、物語教材の リライトについて言及しているのは光元が日本では最初であろう。その 意味で、特筆すべき文献である。しかし、筆者は、これまでの経験から リライト文の作成については、以下の疑問を持った。 (1)この6種類のリライト文の分類は、その違いが明確ではないのでは ないだろうか。2の要約リライトと3のあらすじリライトの達し、も分か りにくいと思える。また、6種類のリライト教材に3種類のレベルがあ るのは、実際に指導者がリライト教材を制作する際には、たくさんあり すぎて混乱するのではないだろうか。 そこで筆者は、前記の光元の案を参考にし、独自に2種類の教材を制 作していくことにした。第1は、全文をそのままリライトした教材で「レ ベル2中級用粗筋版」である。原文にある複文を単文に書き直すので、 全体の文の数は増えていくと思える。第2は、第1を大胆に短縮した「レ ベル1初級用粗筋版」である。 (2)音読譜が内容理解をすすめるということは賛同できる。以下は、光. 元1岡本(2006)より引用 「音読譜とは、日本語の文章を音声化するとき、どう読むかを、視 覚的に表そうとしたものです。(中略)高低を明確にするために、 縦書きにし、行の頭を左下がりにしました。」(p.4) 音読譜の例(4年生教材、「ごんぎっね」、実際は縦書き) これは、 はなし. むかしの お話です。. 13.
(17) むら. やま. なか. 村から はなれた山の中に す 住んでいました。 きつねが な. まえ. 名前は、「こん」です。 ごんは、. ひとりぽっちの 小ぎつねです。 ごんは、. 義の箪に. あなを ほって す 住んでいました。 (P.98). 筆者は、この音読譜については十分に理解できていないので論評はし ない。ただJSL児童に配慮しすぎなのではないかという疑問を持つ。実 際の指導現場では、この音読譜は音読に比重がかかりすぎであり、紙面 をたくさん使う欠点があると思える。またある程度、日本語の文章に慣 れてきたJSL児童ならば、音読譜に頼らずに、内容理解をしていく必要 があると思える。そこで、筆者は、音読譜では表現しないで、一文ごと に行換えすることにした。 (3)光元は、イラストについて以下のように、述べている。 教科書の挿絵は、著作権の関係で載せておりません。子どもに「リ. ライト・音読譜」を使用する際は、教科書の挿絵を指し示しながら 指導してください。教科書とともに使うことで、教科学習をしてい るとの実感が子どもに感じられ、いっそう学習効果が得られると思 います。(p.10). 筆者は、光元はイラストについては、やや消極的であると思う。イラ ストが少ない教材では、JSL児童の興味関心を引き付けることは困難で あると考える。JSL児童が内容理解を進めるためには、筆者はあらゆる 方法を利用するべきであると思う。そこで、積極的にイラストを自作し、 使用していく;とにした。. (4)実際の授業でリライト文を、どのように使用するかという具体的授. 業の展開については、光元はあまり言及していないと思える。筆者は、 授業でどのようにリライト文やイラストを提示していくのかは、指導者 14.
(18) としての工夫のしどころと考えるので、その方法について工夫していく ことにした。. (5)ワークシートや問題集の作成と使用については、光元は論文や研修. 会では提案しているが、この文献ではあまり言及していないと思える。 筆者はワークシートも問題集も授業の重要な一環と考えるので、それら も工夫していくことにした。 2.1.3後藤の先行研究について. 後藤(2007)は、愛知教育大学の『国語リライト教材の開発』の中の卒. 業論文『外国人児童に対する国語指導の研究 日本語適応クラスにおけ る、リライト教材を使用した集団授業を通して」で、リライト教材の制 作と授業実施を通して、集団授業の中でのJSL児童の成長を報告してい る。また「リライト教一 コを作成する際、教科春本文の日本語を易しい表 現にすることによって、リライト文とその内容が異なってしまうのは問 題である。」(p.153)としている。筆者毛リライト文を制作する者として、. 「本文とリライト文の内容が異なるかも知れない。」ということには、お おいに注意し自戒すべきと考える。 2,1.4海外の研究について. 筆者が海外の文献を調査したところ、英語ではリライト(reWrite)と. いう言葉は使われてはいないようである。Simplificationという言葉で、 簡略化に関する研究がいくつか見いだせた。そのうちの二点を示す。 Urano(2000)では、 r簡略化(simplification)」とr精織化 (elaboration)」が学習者の語学能力を伸ばすかには賛否両論ある、とい. うことを踏まえて実際はどうであるかを調べるために実験を行っている。 結果としては、 「語彙の簡略化と精織化のどちらもが第二言語の文の理 解を促進した。」、「精織化された単語項目はその習得を引き出したが、. 逆に、簡略化された単語項目はその習得の妨げになった」と、報告して いる。ただ、注意するべき点は、この文献では「語彙」に焦点を置いた ものだということである。すなわち、難しい単語を簡単な単語に言いか えたり、説明を付け足して分かり易くしたものを、学習者に読ませて、 学習者の文の理解が高まるか、また、文中の単語を「付随的に、即ち、. 15.
(19) 意識せずに自然に」その単語を覚えたかということである。よって、こ の文献は、文の構造、構成、文法などはそのまま変えずに、単語のみを 取り出して見たときに、簡略化や精緻化はどちらも文の理解を助けるが、 単語学習の結果に関しては、簡略化と精微化では、簡略化のほうがより 学習者の習得を促したと論じている。(pp.60−61、筆者訳) Jarrahian(2006)では、テキストの簡略化(text simplification)の 数あるアプローチの中で、 r意味の平易化(semantic simp1ification)」. に注目し、次の2点について述べてし、る。iつは、 「意味の平易化は、. 語彙のレベルやテキストの文同士の関係を超えて可能であった。」と、 いうことである。もう一つは、「読解の領域1こおいて、テキストの平易 化は、意味の平易化を加えることにより、向上させられた。」と、いう ことである。(p−1、筆者訳). 上記の二つの論文の他にも、多くの簡略化に関する論文が公開されて おり、海外では簡略化に関する研究が進んでいると思われる。しかし、 どれも成人を対象としたものであり、年少者を対象としたものは見いだ せなかった。また語彙や文の簡略化に関するものはあるが、物語の簡略 化は見いだせなかった。ただ、”Graded readers”と言われる多読用の 英語教材は、使用する単語や全体の量、文法を制限し、英語学習者が辞 書を使わずに多読を楽しめるように工夫してあるので、この方法はリラ イト化の参考にしていきたい。 2.2 物語教材のリライト教材の必要性について 国語のカは全ての教科の基礎である。国語教材を理解困難として敬遠. していては、全般的な認知能力の発達にも影響が出る。しかし、国語教 材を原文のままで学習し理解することは、JSL児童にとっては大変困難 なことである。そこで国語教材の読解を支援するための工夫として、JSL 児童が読みやすいように、原文を短し、文に書き換えたものが近年制作さ れてきている。それがリライト文である。 筆者は、2004年に光元のリライトについての研修会に参加し、この方 法を知り自分でも実践を始めた。しかし、この時点で参考となる書籍は、 「論理的思考力を育てる段落指導用(リライト)教材集成_『国語教育』. スペシャル版日本言語技術教育学会東京神田支部、 市毛勝雄(著)、 16.
(20) 明治図書(編集)」だけで説明文を対象としたものであった。また当時発. 表されていた論文もほとんどが説明文教材のリライトであった。前述の JSL児童が困惑し必要としている物語教材のリライトに関するものは、 ほとんどなかった。そこで筆者は、必要度が高いわりにまだあまり研究 のすすんでいない物語教材のリライトに焦点を絞って研究をすることに した。. 何故説明文教材のリライトが多く、物語教材のリライトが少ないので あろうが。これは指導者にとっても、物語教材のリライトの作成は困難 なのではないだろうか。理由としては、前記の物語教材に対してJSL児 童が困難を感じる理由の第5、物語の読解は、本文に書き表されていな いことを読み取るカが必要とされ、「行間を読む」ごとや「言外の意味」 や「作者の意図」をどのよう1こリライトすればよし、のか、指導者にとっ. ても大変に難しいことであると考えられる。また第6の理由の「物語に は背景にそれぞれの民族や言語圏の固有の文化があり、その文化の知識」 をどのようにリライトしていくか、という困難さを指導者も感じていて、 制作がしにくいのではないかと推察できる。 2.3 イラスト付き教材作成の理由. JSL児童がリライト教材で学習をすすめる際に、筆者は教科書のイラ ストを指差し、これまでに知ったことを書き込ませたり、児童の想像を 書き込ませたりしたことがあった。それで児童の内容理解がずいぶんと すすんだ。児童も在籍学級の日本の児童と同じ教科書で勉強できるとい う喜びを味わうことができた。. このようにイラストは、JSL児童が粗筋を理解するのに有効なもので ある。物語の場面や心理の移り変わりを視覚的に提示することは、JSL 児童が内容理解を進める際に強力な助力となる毛のである。しかし、現 在の教科書は、文も絵も原作の絵本より転載している場合が多い。しか も絵の数は教科書の限られたスペースのため原作よりも少なくなってい るものがほとんどである。例えば、3年生の教材「ちいちゃんのかげお くり」で、原作の絵本「ちいちゃんのかげおくり」(あかね創作えほん 11、あかね書房1982)では、26枚のイラストが描かれているが、教科書 (『小学校国語3年上』、光村図書、平成19年度版)では8枚が使用され 17.
(21) ているだけである。このため、JSL児童は十分な内容理解には至ってい ないと思える。そこで筆者は原作絵本の絵を参考にし、模写してイラス トを作成し、理解を進めていくことにした。. ただ原作の絵が全て有効なわけではない。逆効果であると考えられる 場合毛ある。例えば、「お手紙」(『小学校国語2年上』光村図書、平成 19年度版)では、イラストの玄関の位置が逆転していて児童は混乱する。 筆者は、原画を模写しつつも、授業の進行の意図と同じになるように工 夫していくことにした。なお作画は専門家である図工科教員に依頼し、 筆者との合議を重ねながら修正、増補、削減してし、くことにした。 2.4 筆者の教材作成・授業の方針 (1)児童が物語の粗筋を理解できるように行動や心理の移り変わりの場. 面ごと1こ、リライト文とイラストを製作する。但し物語の主題に合 わせて大胆な省略や補足があってもよいとする。例えば省略では、 「白いぼうし」の第一段落では、お客の紳士は全く省略している。 その方が、児童が物語の展開にすぐに入り込めると判断Iしたからで ある。また補足では、ワークシートで白いぼうしの持ち主1こついて 児童に問うようにしている。ここは、日本文化を持っている児童に とっては、ごく常識だが、外国人児童にとっては非常に理解し難い ところだと判断したからである。 (2)児童が文の意味がわかり易いように、できるだけ単文にする。 (3)児童が日本語の文字の多さに読む気をなくさないようにするため、 文の数を最小限にする。 (4)リライト文の種類は「1レベル1初級用粗筋版」、「レベル2中級用粗’. 筋版」とする。 (5)国語の教科書を意識して文字は教科書体で縦書きとする。 (6)光元の音読譜が読解の助力となる利点は認めるが、ここでは音読の 力より毛読解することに重点を置くので取り上げない。 (7)イラストは、レベル1初級用の粗筋版リライト文と対応するように 描く。. (8)イラストは原画を模写するが、テーマに会わせて大胆な省略や補足. もする。そのため、原作のイラストよりも枚数が多くなる。 18.
(22) (9)イラストは、国語の文の進行方向に合わせて右から左へと進んでし、 くように描く。 (10)リライト文と連動したワークシートや問題集も開発する。. (11)授業は粗筋を理解させるのを第一の目的とする。第二の目的は、物. 語の主題を理解させることである。そのため主題にせまるボイン トとなるところを児童に質問して、内容理解を深めるものとする。 (12)授業指導案も開発し、授業を実施し作成したリライト文・イラス ト集の効果を検証する。 2.5原作絵本の分析. ここでは、原作絵本の分析を通してイラストやリライト文の制作のポ イントを述べる。題材は全て光村版教科書に採用されているものであり、 各ワークシートも開発予定である。 (1) 1年生の「おむすびころりん」. ・七五調の文はリズムがよいが、長文で分かりにくい。それで、平 易な.短い現代語に書き直す。. ・イラストが少ないので作成する 1「こばん」は「おかね」に書き換える。 ・イラストのタッチが異ならないよう一人の描き手にするのが良い。 ・ワークシートのブランクは字数の津まった四角枠よりも自由な ( )が、児童が自由な発想で書けるので良い。 (2)2年生のrお手紙」 ・原作の絵の中で、主人公の出て行く方向が右と左が混在していて 児童が混乱すると思えるものがある。左方向に出て行くように統 一した方がよい。. ・また会話部分が多く、どちらのセリフかが、わかり1こくい。セリ. フの「 」の後に、OO君が言いました。と統一する方がよい。 (3)3年生のr三年とうげ」. ・文語調の文はJSL児童には理解しにくいので平易な現代語に書き 直す。. ・キーワード「生きられぬ」を「しにます」に書き換える。. 19.
(23) ・「いいつたえ」のイラストがないので作成する。 ・主人公のアイディアの意味(発想の転換)を確実に伝えるために、. 転んだら3年、6年と伸びていく紙を使用する。 (4)3年生のrちいちゃんのかげおくり」 ・絵がきれいすぎて戦争の残酷さ、主人公のちいちゃんの感じた恐 怖がかえって伝わらないのではないか。爆弾、火災の表現が弱い と思えるので、補足していく。 (5)4年生の「白いぼうし」. 一第一段落は松井さんの人柄を表すものだが、長すぎるので、簡単 に松井さんを紹介するぐらいにする。 ・前半部分の男の手の行動は文字には表れていないが、ここを想像 することが、粗筋を知る上で重要である。ワークシートに気づき を促すような質問を入れる。 (6) その他に、1年生の教材として、「おおきなかぶ」、「くじらぐも」、. 「ずうっとずっと大すきだよ」、「たぬきの糸車」、2年生の教材と して一、「ふきのとう」、「スイミー」、「スーホの白い馬」、3年生の. 教材として「きつつきの商売」、「モチモチの木」、4年生の教材と して、r三つのお願い」、r一つの花」、rごんぎつね」、5年生の教 材として、「新しい友達」、「わらぐつの中の神様」、6年生の教材 として、「大造じいさんとガン」、「カレーライス」、「やまなし」、「海. の命」等を製作中である。これらの原作絵本の分析は省略する。. 20.
(24) 3イラスト付きリライト教材を用いた授業実践 3.1イラスト付きリライト教材を用いた授業の経過 筆者は、2004年度より数種の題材のイラスト付きリライト教材を作成 し、60回ほどの授業実践を重ねてきた。ここでは、その中から実践場所 が異なり新しい発見があったもの4回分を示し、それぞれで発見したこ とを記述する。. 3.2授業の実施方法と工夫1こついて. 筆者の「レベル1初級用粗筋版」を用いた授業の実施方法は以下の順 である。. (1)指導者はイラストをアトランダムに並べて児童に示す。 (2)指導者がリライト文を①から順1こ読む。児童はそれ1こ合うイラスト を見つけ、順に黒板に貼ってし、く。(右から左へはる。順番をまち. がえていた場合は、指導者が簡単に説明して入れ替える。) (3)イラストが順番通りに貼られたら、次は児童に後ランダムにしたり ライト文を読ませる。それに合うイラストを考え、その横に文を貼 り付けさせる。このとき複数の児童ならば互いに相談させる。 (4)イラストも文も順番通りになったら、テーマにせまる質問をしてい く。この時、児童の日本語カを考慮する。 (5)児童が質問に答え大体の粗筋を理解したら、確認のためのワークシ. ートをさせる。この時、黒板にはイラストのみを残し、リライト文 や質問の答えは残さないようにする。 筆者は、JSL児童にリライト文を示すだけでは、その関心を引き付け るのは難しいと感じていた。そこで、増補したイラストも使用しようと 考えた。しかし、イラストをl11頁番通りに示すのでは、JSL児童が考える 機会が減ってしまうと思えた。それで最初に、イラストの順番をアトラ ンダムに並べて児童に示すことにした。そして指導者がリライト文を物 語の話の順番通りに読み、JSL児童はそれを聞いて、どのイラストであ るかを判断させることにした。こうすることで、JSL児童が題材への関 心を高め、粗筋や内容を考えることが増えていくようにした。 21.
(25) 3.3授業の実践記録(1). 3年生教材「三年とうげ」を周し、ての、ボランティア日本語教室での 授業. 3.3.1ボランティア日本語教室について. 今回の授業実践を行ったボランティア日本語教室は、2007年7月に筆 者とその知人の退職教師や大学生たちで神戸市灘区に設立したものであ る。毎週土曜目の午前10時から12時まで地域福祉センターで行ってい る。現在は近睡に住む中国、フィリピン、エジプト、ドミニカ等出身の JSL児童生徒が10名ほど参加している。そのほとんどは、国際教室のな い学校に通っている。学校で嘩、時折県から派遣されてくる子ども多文 化共生サポーターの指導を受けている。その時間のほとんどはサポータ ーが在籍学級に入りJSL児童の傍らについて教科内容を母語を用いて指 導するものである。その為、日本語教育を十分に受けているとは言い難 い。国語の読解に関しては、JSL児童生徒は十分に理解しないで、次の 単元へ進んでいると思われる。. ボランティア日本語教室に通ってくるJSL児童の一番の願いは、在籍 学級の他の児童と同じように、学校の宿題を提出したいということであ る。そこで筆者を含む指導者たちは、児童たちの要望を受け入れ宿題の 指導を第一にしている。それは、国語の教科書の音読、算数の計算練習、. 漢字の書き取り練習等である。そして徐々に、初級の日本語テキストや 各教科の予習、復習、国語教材の読解等を取り入れでいっている。 3.3.2授業の内容. (1)日時:2008年(平成20年)7月12日(土)10:00−11:30. (2)場所・形態1ボランティア目本語教室での個別授業 (3)題材. r三年とうげ」(3年生の教材). (4)学習のねらい: 22.
(26) ①児童は、「イラストを見る」、「リライト文を聞く、読む」、「フー. クシートに書き込む」という活動を通し一で、物語の粗筋を知る。 ②児童は指導者の質問に答えることで、物語のおもしろさに、s・れる。 (5)参加児童の状況. 児童A:フィリピンより、15ヶ月前に初来日した3年生男子である。 学校に国際教室はなく、日本語の初級テキストはほとん.ど学習した経験. がない。このボランティア日本語教室には3か月前から参加し、主に学 校の宿題をしている。両親は片言の日本語しか話せず、家庭内の使用言 語はフィリピノ語である。会話や作文では助詞がよく抜けたり間違った りすることがある。日本語の生活言語は大体身についてきてコミュニケ ーションにはあまり支障がない。物事の理解カは高いと思われる。本人 は算数の計算問題や国語の漢字の学習は好きだが、国語の読解問題は難 しいと言っている。. 筆者としては、この児童Aは日本語の物語文の読解に慣れていないの で教科書の原文よりもリライト文での学習が有効だと判断し、この「三 年とうげ」を学習しようと提案した。児童Aは、r在籍学級の国語の時間 に何回か読んだことがあるが、国語は難しいのでしたくない。」とのこと だった。しかし、筆者が教科書以上にイラストを用意していることを示 したところ、興味を持ち学習に取り掛かった。 (6)学習の経過、前半. 児童Aはまず教科書本文を読み、意味の分からない言葉を出していく ようにした。冒頭の六行を読んだだけで、rたんぽぽだけ分かる、黄色、 すみれ、ふでりんどう、れんげつつじ、かえで、がまずみ、ぬるでの葉、. すすき、は分からないから、おもしろくない。」と言った。この児童Aの ように、細部で分からないところがあると、全部がいやになるというこ. とは、JSL児童によく見られることである。筆者は、そういう事態を予 想していたので、別に用意していたそれらの色つきのイラストを示し、 それらは花の名前であることを教えた。この結果、児童Aは、「三年とう げは、きれいです。」と言い、この内容を理解したようであった。 その他に、児童Aが前半部分で「意味が分からない。」と言ったのは 23.
(27) 以下の言葉である。. 、s、もと、なだらか、さきみだれ、ため息、ながめ、言いったえ、転 、sミでない、転んだならば、三年きりしか、生きられぬ、長生きした. けりゃ、長生きしたくも、おそるおそる、反物(たんもの)、さしか かりました、ひと息入れながら、うっとりして、しばらくして、こ うしちゃおれぬ、日がくれる、あわてて、足を急がせました、お日 さまが西にかたむき、夕やけ空、つまづき、真っ青、がたがた、s、る. え、しがみつき、おいおいなく、じゅみょう、つきっきり、かん病 次に、繰り返しの一節のr三年とうげで転ぶでないぞ。三年とうげで 転んだならば、三年きりしか生きられぬ。長生きしたけりゃ、転、sミでないぞ。. 三年とうげで転んだならば、長生きしたくも生きられぬ。」の意味を問うと、. 「よく分からない。」ということであった。児童Aは来日して15ヶ月た つが、文語調の言葉は、はっきりとは意味が理解できていないことが分 かった。そのため、この物語の最も大切な主人公の頓智が理解できてい なかったことが分かった。 (7)筆者の用意したリライト文 (1). (レベル1初級用粗筋版). むかしです。三年とうげがありました。 春や秋は、とてもきれいでした。. (2〕. 言いったえがありました。 「三年とうげで、ころんではだめです。三年で、しにます。」. (3). おじいさんが、三年とうげで休んでいました。. (4). おじいさんが、ころびました。. (5). おじいさんは、びょうきになりました。. (6). トルトリがいいました。. 「三年とうげで、もう一どころびなさい。 何回もころんだら、長生きします。」 (7). おじいさんは、おきました。. (8). おじいさんは、三年とうげで何回もころびました。. (9). おじいさんは、元気になりました。長生きしました。 24.
(28) 各リライト文の番号のそれぞれに対応するイラストも用意した。 ここで、このリライト文の制作意図を説明する。(2)の部分の教科書 の原文は、. 三年とうげには、昔から、こんな言いったえがありました口 「三年とうげで 転、sミでないぞ。. 三年とうげで 転んだならば、. 三年きりしか 生きられぬ。 長生きしたけりゃ、 転ぶでないぞ。 三年とうげで 転んだならば、 長生きしたくも 生きられぬ。」 である。ここを筆者は、前記のように、 いいったえがありました。 r三年とうげで、ころんではだめです。三年で、しにます」 と、リライトした。この意図は、まず「言いったえ」は、キーワードと してリライト文でも使うことである。次に、r転ぶでないぞ。」という文 は、文語調の否定文である為にJSL児童には意味が取りにくいと判断し て、「ころんではだめです。」としたことである。同様に、「三年きりしか 生きられぬ。」も、「三年で、しにます。」とリライトした。特に、「生き. られぬ。」の部分はJSL児童には正しい意味が取れないと判断し、「生き る。」の反対の言葉を用いて「しにます。」とした。後半の四行分は同じ. 意味であると判断し、長くなりすぎないようにリライト文には入れない こととした。. さらに、(6)の部分だけではJSL児童は理解しにくいであろうと予想 し、詳しく説明する為の補足のリライト文とイラストも以下のように用 意した。. (10)一回、ころんだら、三年OOます。 二回、ころんだら、六年OOます。 何回毛ころんだら、長OOします。 これらを次に示す。実際に授業で使用したのは、イラストを横に右か ら左へ配置し、文字は教科書体の縦書きである。 25.
(29) 紅. リライト文r三年とうげ」. 紅. &. (レベル1初級用あらすじ版).. く1)むかしです。三年とうげがあリました。. 春や秋は、とてもきれいでした。. ㊥べ勢. (2)言いったえがありました。. 「三年とうげで、ころんでばだあですg三年で、しにます。」 砦. (3)おじいさんが、三年とうげで休んでいました。. (4)おじいさんが、ころぴました。. 而 i・ 一. I. (5〕おじいさノ (5〕おじいさんば、ぴょうきになりました。. i 一…. i. r. 出一ノ‘. ’. 田. 蟻域. 11一≡1. 剿ソ. @1嚢緩 ・鞄. Ψ綴翫’’一テ. 卜’レトリがいいました。 (6)トルトリえ. r三年とうげで、もう一どころぴなさい。」 「三年と 何回もころんだら、長生きします。 何回も. (7)おじいさんは、おきました。. (8)おじいさんば、三年とうげで何一回もころぴました。. .佃)おじいさんは、元気になりました。長生きしました。. 26.
(30) 業 (10)一回、ころんだら、三年OOます。 二回、ころんだら、六年OOます。 何日もころんだら・長OOします。 (8) 学習の経過、後半. 次に、児童Aは3.2授業の実施方法で示したように、イラストとリラ イト文を順番に黒板に並べた。ここではほとんど間違わなかった。続い て、筆者は内容に関する質問をしていった。児童Aは、物語のポイント となる(6)の「何回もころんだら、長生きします。」については、まだ 意味がはっきりとは分からず、肺に落ちない様子であった。そこで、筆 者は、(7)(8)(9)のイラストを示し、「おじいさんは、しにましたか。」. と尋ねてみた。児童Aは、「ちがう。げんき。」と答えた。筆者は、補足 のリライト文(10)とイラスト(10)を示した。このイラスト(10)は、一方. が、おじいさんが坂道を転げ落ちるイラストである。また他方は、元気 なおじいさんのイラストである。その間は紙の帯で結んであり、伸びて いくように作ったものである。これを、筆者は、補足のリライト文(10) と同じように 「■回、ころんだら、三年生きます。二回、ころんだら、 六年生きます。」と言いながら、徐々に伸ばした。これで、児童Aは、O ○に、生きますが入ることを確信した。その後に与えた筆者の制作した ワークシートもほとんど正しく答えることができた。またイラストを見 ながら、口頭で話を再現することができ、全体の粗筋を理解したようで あった。. 後日、児童Aの在籍学級の担任教師から連絡があった。児童Aは在籍 学級の国語の授業で今回と同じところを学習し、国語の授業で初めて自 ら挙手して発表したと報告をくれた。そこは、筆者が用意した花の名前 のところであり、児童Aは自信をもって発表したとのことであった。ま た次の国語の学習時間に、主人公の頓智の部分の質問をしたところ、児 27.
(31) 童Aはそれにも適切に答えることができたとのことであった。 担任教師は、日本語理解がま」だ十分でない児童Aが主人公の頓智の部 分をよく理解していることが分かり驚いたとのことであった。また、こ のワークシートは在籍学級の理解の遅い児童の学習に効果的であると思 えるので、ぜひ提供してほしいとの申し入れがあり、筆者は快く承諾し た。この後、児童Aは在籍学級での国語学習に積極的に取り組むように なってきたとのことであった。. 児童Aは国語の学習に苦手意識を持っていたが、レベル1初級用粗筋 版イラスト付きリライト文で学習した結果、国語学習に興味を示すよう 1こなった。ボランティア1ヨ本語教室で、児童Aは、今までは音読の宿題 はいやがっていたが、この授業の後からは、指導者たちに音読するから 聞いて欲しいとせがむよう1こなった。また次の国語の教材もイラストを 付けて欲しいと積極的になった。. また、ボランティア日本語教室で、児童Aがイラスト付きリライト教 材で学習しているところを見ていた他のJSL児童たちが興味を持ち、自 分もしたいと申し出るよ引こなった。さらに筆者以外の指導者もイラス ト付きリライト教材の作成を試みるようになってきた。これにより、こ れまで学校の宿題を第一にしてきた活動から、国語の読解の学習も積極 的に取り入れる機運が盛り上がってきた。 (9)考察. 在籍学級での国語の物語教材の学習は一般的に精読型が多い。担任教 師は、「今日は、第O段落を詳しく勉強します。」と言って、細部の表現 を取り上げて質問していくのが定番である。しかし、JSL児童は、文章 中に区切りが入れられ段落番号が書かれていても、その内容をイメージ 化することは難しい。その点、今回はワークシートで各段落の内容を単 文とイラストで表現し粗筋を示しておいた。それで、在籍学級の授業で JSL児童Aは今粗筋のどのあたりの学習をしているのかが分かり安心で あったと思える。また細部の質問にも予習がしてあったので応答できた と、筆者は推測する。. JSL児童には、国語の物語教材の中でも、現代でない古い時代のもの は語彙や表現が難しいことは予想通りであった。特1こ文語調の表現は、 28.
(32) 初級のJSL児童には理解困難であることが分かった。 リライト文のうち、(2)の「言いったえ」は筆者が当初こだわったと ころであったが、JSL児童は読みづらそうであった。ここは、「むかしか ら、こんな話がありました。」と、平易な文で表現してもいいと思える。 また(6)のリライト文でおじいさんが即座にトルトリの提案を受け入 れたような印象を与えたと思える。そこで、ここは、(6)の「三年とうげ で、も’う一どころびなさい。」の後に「おじいさんは、びっくりしました。. おこりました。」を入れ、その次の「何回もころんだら、長生きします。」. の後に「おじいさんは、考えました。うなずきました。」を入れた方がよ いと思える。. 参観していた元教師の指導者から、授業の冒頭でリライト文を聞いて イラストを選、sミのは、読解ではないのではないかとの指摘があった。こ. れは厳密には聞き取りであるが、児童の関心を引き付ける意味で重要な ので続けたい。聞き取りが困難な児童には、リライト文をあらかじめ順 に貼っておき、それに合うイラストを選んでいく方法もよいと思われる。 (10) 制作したリライト文とイラストについて. 筆者は、今回のリライト文制作で、「三年きりしか生きられぬ。」とい う教科書原文を、文語調で否定形は意味が取りにくいと考え、「三年で、 しにます。」とリライトした。これは、対象児童をレベル1初級としたか らである。これ以上のカをもつ児童には、「三年しか生きられない。」と. 原文に近いリライトにするつもりである。それは、リライトする際に原 文から離れていくと際限がなくなり、原文と異なる内容になる危険性が あるからである。またJSL児童がリライト文で学習した後、原文を見た 時に強い違和感を持つかもしれないからである。ただ、その際にはJSL 児童が学習していない表現は先に練習しておく必要があると思える。今 回は、「∼しか∼ない。」の表現である。. なお、この授業実践の時、一人のエジプト人児童が見学していた。こ の児童は、6年生で来8して間がなく、日本語は全く解さなかった。筆 者は、試みに身振り手振りで、この各イラストが何を表しているのかを アラビア語で書くように頼んだ。この児童は日本語を全く理解しないの で、日本語からの情報はないが、イラストからの情報を得ることができ. 29.
(33) るであろうと予想した。その後、児童の書いたアラビア語を児童の父親 に日本語に翻訳してもらった。その結果は以下の通りである。 (1) 人が丘にのぼっています。. (2) 人々が、「もし男の人が転んだら死んでしまう。」と 話しています。 (3). 男の人が、景色をながめています。. (4). 男の人が、つまづいています。. 男の人は、ふとんに横になっています。 男の人は、友達と食事をしています。 (7) 男の人は、元気になりました。 (8) 男の人は、すべっています。おもしろがっています。 (9) 男の人は、友達とおまつりをしています。 (10)元気が伸びていくようだが、よく分がらない。 このエジプト人児童はイラスト(1)の「峠」を「丘」ととらえていた。 実は、児童Aも授業の最後に「三年とうげは山ですか。」と質問していた。 筆者とし七は、「峠」は当然理解しているものと思っていたので驚いた。 (5). (6). 「峠」の概念は難しく、きちんと説明するべきであったと反省している。. このエジプト人児童は、その他のことでは大筋は理解しでし、たので、や はりイラストの力は大きいと思える。 ただ(6)のイラストで、絵本の原画にもあった小さなテーブルを描い. ていたのだが、これは食事をしているところととられてしまい、病気で あるということが薄れてしまった。テーブルは不必要な情報として削除 した方がよいと思える。 3.4授業の実践記録(2). 4年生教材「白いぼうし」を用いての国際教室での複数取り出し授業 (1) 目時:2004年(平成16年〕12月1日(水)3時間目(10145−11130). (2)場所・形態1国際教室での取り出し授業 (3) 題材. 白いぼうし(4年生の教材). 30.
(34) (4) 学習のねらい=. ①児童は「聞く」、「読む」.という活動を通して物語の粗筋を知る。 ②児童は指導者の質問に答えることで、物語のおもしろさに、S、れる。 (5) 参加児童の状況. 児童B lブラジル人、男子、6年生、初来日後6ヶ月目、読書が好き ’で、ハリーポッターのポルトガル語版を愛読していた。理解カは 高いと思う。. 日本語学習歴:『日本語学級1・2』と『学校生活ワークブック』 『ひろこさんのたのしいにほんご1』を終了した。1『ひろこさん のたのしいにほんご2」は省略し、教科学習を始めた。. 児童C1フィリピン人、男子、6年生、初来日後7ヶ月目、読書はあ まり好きではなかった。理解カは普通だと思う。 日本語学習歴:(児童Bと同じ). 児童D:ペルー人、男子、6年生、初来日後2年1か月目、読書はあ まり好きではない。理解カは低い方だと思う。 日本言各学習歴:(児童Bと同じ) (6)児童の様子. この時まで、児童たちは大体初期の日本語学習を終えていた。教 科学習では、算数や理科はすぐに在籍学級で必要とするので積極的に 学習に取り組んでいた。しかし、国語の学習は、低学年の教材は内容 が幼稚であると敬遠し、高学年の教材は「文字の壁」として嫌ってい た。だが、イラストを示すと興味を持ち、リライト文の短さを喜んで、. 初めて国語学習に取り組んだ。 (7)筆者が制作したイラスト付きリライト教材:. 白いぼうしのリライト文の前半(レベル1初級用粗筋版). 実際のイラストは横に右から左へ配置し、文字は教科書体の縦書 きである。. 31.
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