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このことを以下に、棒グラフで表した。学級児童35人中、上段は原文で 一読後、下段はイラスト付きリライト教材での学習後である。

正答5点 正答4点 正答3点

不十分2点一劇     ■

不十分1点調調調

    一

未回答O点

        0     5     10     15   (人)

 結果として、原文 読後よりもイラスト付きリライト教材での学習の 後に正答数が伸びている。特に原文一読後では未回答が4人いたが、イ ラスト付きリライト教材での学習後は未回答者はなくなり、正答を出し       44

ている。

 この結果について、同様の問題を二回しているのだから二回目は正答 率が高くなるのは学習効果という観点から当然のことであるということ は、筆者も承知している。それでも、一回目の後に正答を示したのでは ないので記憶していた正答を想起して書いたのではない。各児童が考え た結果、正答が多くなり、イラスト付きリライト教材での学習の効果が あったと思われる。またワークシートが一回目は文章のみであったが、

二回目はイラストを見て文中の括弧を埋める形式であったことが、児童 には考えるうえで大きなヒントになったのではないかと筆者は推察する。

②「松井さんの気持ちを想像しよう」の結果は省略するが、同様にイラ スト付きリライト教材での学習後に正答が増えた。

 この学習後に、この学級の児童にイラスト付きリライト教材での授業 の感想をアンケートした結果を以下に示す。

アンケート 国際教室での学習の方法を体験して

(1) 今日は教科書よりも絵をたくさん使って学習しました。それにつ   いて、あなたが思ったこと一つだけにOをつけてください。

  1絵が多くて大変分かりやすかった。        33   2少し、分かりやすかった。       2   3教科書で学習するのと同じだった。         0   4少し、分かりにくかった。       0   5とても、分かりにくかった。       0

(2) 今日は教科書よりも短くした文を使って学習しました。それにつ   いて、あなたが思ったこと一つだけにOをつけてください・

  1文が短くて大変分かりやすかった。         28   2少し、分かりやすかった。      7   3教科書で学習するのと同じだった。         0   4少し、分かりにくかった。       0   5とても、分かりにくかった。       0

45

(3) 今日は、絵と短い文を使うワークシートで学習しました。それに   ついて、あなたが思ったこと一つだけにOをつけてください。

1ワークシートで学習すると、大変分かりやすかった。

2少し、分かりやすかった。

3教科書で学習するのと同じだった。

4少し、分かりにくかった。

5とても、分かりにくかった。

26

7 1 1 0

 このアンケート結果から、JSL児童の在籍する一般学級の児童たち1こ とってもイラスト付きリライト学習は楽しく興味が持てる授業であった と言える。特にゆっくり理解する児童には、正答率が高まるという効果 に寄与した可能性があると言える。

3.6 実践記録(4)

4年生教材「白いぼうし」を題材として、国際教室での個別授業と在籍 学級でのイラスト付きリライト教材を用いての一斉授業

 この学年に在籍する同国、同学年の二人のJSL児童も、同時期にこの r白いぼうし」の学習に取り組んだので、ここに記す。なお前半は、国 際教室での個別学習で教科書本文を用いた。これは、本文に出てくる語 彙の意味をどの程度知っているかの予備調査である。この物語に出てく る語彙の意味の確認と知らない場合は説明をした。これだけで45分を費 やし、本文の内容には、ほとんど入ってはいない。それで、後半の在籍 学級で他の児童と共にイラスト付きリライト教材を用いた一斉授業にお

ける理解に大きな影響はないと思える。

(1)場所・形態・日時:国際教室での個別取り出し授業   2008年(平成20年)6月9日(月)

   3時間目(10145−11:30)JSL児童E    4時間目(11140−12125)JSL児童1=

(2)場所・形態・日時:在籍学級での一斉授業   2008年(平成20年)6月10日(火)

      46

3時間目(10:45−11:30)JSL児童E 4時間目 (11:40−12:25)JSL児童F

(3) 題材:白いぼうし(4年生の6月教材)

(4) 学習のねらい

  ①児童は教科書本文を読み、意味の分からない言葉を見つけ、全体    の粗筋を知ろうとする。

  ②児童はリライト文を「聞く」、「読む」という活動を通して、物語    の粗筋を知る。

  ③児童は指導者の質問に答えることで物語のおもしろさにふれる。

(5) 参加児童の状況

 JSL児童E:4年生男子、3年8ヶ月前(幼稚園の年長組の3月)に フィリピンより来日。英語を母語としている。英語は話すことができる が、書くことはあまりできない。小学校入学より本校で学んでおり、日 本の生活に、は慣れている。むしろフィリピンでの生活をあまり覚えてい ないようである。日本語を話すことは上手だが、理解カは十分ではない。

所謂一時的なダブルリミテッドの現象が見られる児童である。1年生で は、放課後に週に3時間の指導をした。2年生では、在籍学級の国語の 時間に取り出し指導、3年生と4年生では社会で取り出し指導をしてい

る。

 この「白いぼうし」の教材は在籍学級の国語の予習として行った。最 初の一文から順に、単語の意味を正しく知っているかどうか確かめなが

ら、全文を通読していった二原文で単語の意味が分からなかったり間違 っていたりした毛のは、第1段落だけでは、

rほりばた」、rしんし」、rワイシャツ」、r信号」、rブレーキ」、rそで」、

rたくしあげ」、r夏みかんてのは」、rにおう」、rもぎたて」、「いなか」、

rおふくろ」、「速達」、rいっせい」、「大通り」、「うら通り」

の16個であった。

JSL児童F14年生女子、フィリピンより、2年2ヵ月前(2年生の5 月中旬)に来日、2年生と3年生は、在籍学級の国語と社会の時間に取        47

り出し指導をした。大変理解カに優れた児童で、4年生からは、国語は 在籍学級で学習し、社会のみ取り出し指導をしている。この「白いぼう

し」の教材は在籍学級の国語の予習として行った。最初の一文から順に 単語の意味を正しく知っているかどうか確かめながら、全文を通読して いった。単語の意味が分からなかったり間違っていたりしたものは、第

1段落だけでは、

 「ほりばた」、「しんし」、「信号」、「ブレーキ」、「たくしあげ」、「もぎ たて」、「いなか」、「おふくろ」、「速達」、「いっせい」、「大通り」、「う

ら通り」

の12個であり、前出の児童Eよりは語彙カがやや豊富であると思える。

また音読も児童Eよりは格段に優れている。

(6) 在籍学級での一斉授業後のJSL児童EとJSL児童Fの回答 JSL児童Eの回答:

 質問①、②、③は正答であった。質問④の答えは、「たけのくんがち ょうをこヒにおし、た。」となっていた。これは、正答とした。質問⑤の答 えは、「たけのくんがちょうをとって、おかあさんにいっていっ一た。(児 童の原文のまま)」これも正答とした。設問⑥の答えは、「たけのたけお のちょうちょがなくなったからがっかりする。」(児童の原文のまま)で あった。これも正答とした。質問⑦の答えは、「ちょうちょうがにげて、

たけのたけおががっかりするから、なつみかんをあげたからうれしくな るから。」であった。これも正答とした。

 JSL児童Eは両方の言語が伸び悩むという一時的ダブルリミテッドの 傾向があり、3年半という日本滞在年数に比べて語彙も少ないと筆者は 感じていた。しかし、結果はその表現は稚拙だが、ほぼ正答していた。

この児童は男子で、小学校一年生の頃より日本の生活に親しみ、出好き でもあり、だけお君がちょうをつがまえたことは想像できたようである。

虫取りに関する日本文化のスキーマが形成されつつあると思える。

JSL児童Fの回答;

 質問①、②、③は正答であった。質問④、⑤ともに無回答であった。

質問⑥の答えは、「せっかくのえものがいなくなっていたら、この子はど んなにがっかりするだろう。」(児童の原文のまま)これは、教科書の本       48

文を引き写しただけであり、誤答とした。質問⑦も無回答であった。

 この児童は大変優秀で、日本滞在2年で在籍学年の漢字をほぼ習得し ている。しかし、日本滞在歴がJSL児童Eより一年半短く、まだフィリ

ピンの習慣が強く残っているようである。女子でもあるので、虫を捕ま えることは全く想像できなかったようである。虫取りに関する日本文化 のスキーマがまだ十分には形成されていなかったようである。しかし、

リライト文で学習した後の2回目のワークシートでは、1回目にまちが えていた質問の④、⑥、⑦ともに正解に至り、進歩が見られた。イラス

ト付きリライト教材での学習の効果があったと思える。

(7)考察

 一般的に、同国人で同年齢のJSL児童がいた場合、先に来日した方が 後に来日した方より、日本語カも教科学習のカも上回っていると思われ がちである。しかし、筆者はこれまでの経験から、それが決して一般的 ではないと認識している。特に、小学校入学以前の幼少期に来日した児 童が日常会話はよくできるが教科学習で伸び悩むことがあること。逆に 小学校中学年以降に来日した児童が急速に日本語力や教科学習の力をつ けていくことをよく見てきた。これは、母語できちんと学習経験を積ん でいて母語で抽象的概念の獲得を経験していると、言語がかわっても応 用がきくという現象のようである。今回の児童EとFにも、その現象が 見られ、後から来日した児童Fが、先に来た児童Eより毛学習面では格 段に優れている。筆者は、この「白いぼうし」の読解においても、児童

Fが優れているだろうと予想していた。しかし、結果は逆であった。今 回は児童Fには苦手な「虫取り」というスキーマが重要であった。筆者 は今後指導者として、その題材において必要とされるスキーマを予想し、

準備し、JSL児童に事前に与えるように方針を立てていくことにした。

3.7スキーマについて

 ここで「スキーマ」という用語が出てきたので、それについて説明を 加えておく。

竹内(2000)『認知的アプローチによる外国語教育』によると、「概念の 構造体をスキーマ(schema)とよぶ。」(p.116)また「人間はスキーマを       49

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