〈研究ノート〉燃料電池の利用可能性についての研究ノート
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(2) の 3 つの分野における燃料電池の利用可能性について. らアポロ計画に採用されている。また、それと前後し. 報告し、燃料電池が、定置用の発電機としては発電場. て 1965 年には GE がナフィオン膜を使用した高分子. 所と発電主体の両面での分散化を促し、自動車等の内. 型燃料電池を開発し、ジェミニ計画に採用されている。. 燃エンジンの代替エネルギー源としては製品アーキテ. 現在注目されている固体高分子型の燃料電池の実用化. クチャのモジュール化を促進し、モバイル機器用とし. は、これが最初であった。. ては出力密度の向上によって反対に製品アーキテクチ. その後、宇宙開発の分野では、固体高分子型は耐久. ャのインテグラル化を促進するというインパクトを与. 性や燃料となる水素に制約が多いなどの問題があるこ. えうることを指摘したい。. とから、アルカリ型燃料電池が主流となった。ユナイ テッド・テクノロジー社のアルカリ型燃料電池は現在. 2.燃料電池開発の歴史. のスペースシャトル計画でも改良を重ねられて利用さ れている。後に GE は、固体高分子型の商用化の見通 しが立たないとして、1984 年に固体高分子型燃料電. 燃料電池開発の歴史は、原理の発見、宇宙開発にお. 池の技術の権利を他社に売却している。. ける実用化、民生用への展開、個人向け製品用途の拡 大の四つのフェーズに区切ることができる。. 第三フェーズ:民生用への展開 第一フェーズ:原理の発見. 宇宙開発での実用化成功を受けて、民生用燃料電池. 燃料電池は、1801 年、イギリスのデーヴィによっ. の開発も始まった。宇宙利用の際には純水素が利用さ. て初めてその原理が発見された。この時デーヴィが発. れていたが、燃料に不純物を含まない純水素を利用す. 表したのは、固体の炭素を燃料とする燃料電池であっ. ることはコストがかかり民生用としてはふさわしくな. た。しかし、デーヴィの燃料電池は原理的には証明さ. かった。そのため、民生用として開発が進んだのは、. れているものの製作が難しく、現在にいたるまで実際. 宇宙開発に用いられたアルカリ型燃料電池ではなく、. に作られていない。. 燃料に多少の不純物を許容するリン酸型燃料電池であ った。. 現在の燃料電池開発につながる水素と酸素の化学反 応により電流を得る燃料電池としては、イギリスのグ. リン酸型を中心とした民生用の燃料電池開発は、米. ローブが 1839 年に実験に成功している。グローブは. 国が中心になっておこなわれた。初期の大規模な開発. 白金の電極を入れた管を電解質である希硫酸に浸し、. プログラムとしては、1967 年にガス会社主体で行わ. 水素と酸素を反応させて電気を発生させた。1889 年. れた小型の燃料電池に関する TARGET 計画や、電力. にイギリスのモンドとランジャーが粗製水素 (炭酸ガ. 会社が主体となり大型燃料電池の開発に取り組んだ. ス) と酸素の代わりに空気を使った燃料電池の実験に. FCG-1 などがあり、定置用の発電用途が想定されてい. 成功し、1899 年にはドイツのネルンストが安定化ジ. た。この時、宇宙利用の燃料電池を開発していたユナ. ルコニアの酸化物イオン導電性を確認するなどその後. イテッド・テクノロジー社も参加している。 また、日本においても、ほぼ同じ時期に、電力事業. も原理的な発見が続いた。 燃料電池の実用化を目指した研究が始まったのは. やオフィスビルなどで使われる比較的大容量の燃料電. 1932 年で、この年、ベーコンが燃料電池の実用化の. 池を中心に開発が始まった。1981 年からは、オイル. 研究を始めた。1952 年には、アルカリ型燃料電池の. ショック後の石油代替エネルギーの開発を目的とした. 原型となる電解質に水酸化カリウムを使った燃料電池. 国家プロジェクトムーンライト計画の一環としても開. の開発し、特許を取得した。その後、5kW (キロワッ. 発が推進された。開発が開始された初期には、アルカ. ト) の電力を発生させることのできる燃料電池の試験. リ型とリン酸型が中心であったが、その後、制約の多. にも成功している。. いアルカリ型の開発は打ち切られることになった。 1990 年代に入ると、リン酸型に代わって、大容量の. 第二フェーズ:宇宙開発における実用化. 発電に向いている溶融炭酸塩型と固体酸化物型の開発 が推進されるようになった。. 燃料電池が初めて実用化されたのは宇宙開発におい てであった。1958 年にアメリカのユナイテッド・エア. 第四フェーズ:個人向け製品用途の拡大. クラフト社 (後のユナイテッド・テクノロジー社) が ベーコンの燃料電池の特許権を獲得し、アルカリ型燃. 1990 年代に入ってからは、事業用だけでなく、自. 料電池として実用化に成功した。ユナイテッド・テク. 動車やモバイル機器、家庭用電源など個人向け製品用. ノロジー社のアルカリ型燃料電池は、軽量でコンパク. の開発が活発に進められ、燃料電池の新たな可能性が. トなうえ発電効率が高いことが注目され、1968 年か. 注目されている。そのきっかけは、カナダのバラード. 研究ノート. 57.
(3) 発を相次いで発表した。. (バラード・パワー・システムズ) 社が 1987 年にデュポ ン社やダウ・ケミカル社のパーフルオロスルホン酸膜. 3. 燃料電池の種類と特性. というフッ素系のイオン交換樹脂を用いて、体積あた りの出力量(出力密度)が飛躍的に大きく、低コストの. 3-1. 固体高分子型の燃料電池を開発したことであった。. 燃料電池の原理. GE 社が宇宙利用のために開発した固体高分子型の燃 料電池は構成材料にコストがかかり民生利用されなか. 燃料電池は、燃料電池本体へ燃料である水素を供給. ったが、バラード社の成功により固体高分子型燃料電. し、酸素を含む空気と反応させることにより電気を発. 池の民生用としての利用の展望が大きく開けたのであ. 生させる。燃料電池による発電の基本的な原理は、水. る。. の電気分解の逆の反応を利用したものである。水の電. 時を同じくして、地球規模で環境問題への関心が高. 気分解は、水に電気を流すと、水が分解されて水素と. まっていた。1997 年の地球温暖化防止京都会議にお. 酸素が発生するという反応である。化学式であらわす. いて、1990 年比で二酸化炭素排出量を日本は 6%、米. と、. 国は 6%、EU は 8 %削減するという合意がなされ、. H2O. +. 電流 → H2. + 1/2O2. 各国は二酸化炭素削減に向けた対策が必要となったの. となる。燃料電池の場合、この水の電気分解を逆にし. である。その後、米国は京都議定書の離脱を表明した. て酸素と水素を結合させることにより、電流と熱を発. が、その米国においても、1996 年にカルフォルニア. 生させる。化学式であらわすと、. 州が、自動車メーカーに対して、2003 年から 2008 年. H2. にカルフォルニアで販売する自動車の 10% 以上を無. となる。. + 1/2O2. → H2O. + 電流 + 熱. 公 害 車 に す る と い う カ ル フ ォ ル ニ ア ZEV (Zero. 燃料電池の基本構造は、電子を通さずイオンのみを. Emission Vehicles) 規制を定めている。こうした世界. 通す電解質とそれをはさむ水素極と酸素極の 2 つの異. 的な環境に対する規制強化も燃料電池を普及させるた. なる電極からなる。燃料となる水素が燃料電池に供給. めの開発を後押ししている。. されると、水素はイオンのみを通す電解質の性質によ. バラード社による固体高分子型燃料電池の開発が進. り電子と水素イオンに分離され、水素イオンのみが電. 展したことにより、自動車産業では、1997 年から. 解質を通過する。電子は水素極から導線をたどり電気. 1998 年にかけて、主要メーカーが一斉に 2004 年から. を発生させて再び酸素極で水素イオンと酸素を含む空. 2005 年の燃料電池車の実用化を発表した。家庭用発. 気と反応し水になる。この電解質と電極の組み合わせ. 電機の燃料電池の開発も、自動車業界における燃料電. が燃料電池の最小の単位であるセル(図1)であり、こ. 池開発が牽引役となり進みつつある。また、固体高分. れがいくつも積層して燃料電池の本体であるスタック(2). 子型は他の種類の燃料電池に比べ小型化が可能なこと. を構成している。. から、モバイル機器用の燃料電池の開発も始まり、 2001 年には、NEC、ソニー、日立製作所などの日本 の大手電機メーカーがモバイル機器向けの燃料電池開 図 1 :燃料電池の基本構造(セル). H2(水素). 電子の流れ. 水素極. 2H+ 2e− 電解質. 2H+. (固体高分子型では電極の皮膜). 酸素極. 2H+ + 1/2O2 + 2e−. H2O (水). O2(酸素). 58. 燃料電池の利用可能性についての研究ノート(竹田・増井).
(4) 表1:燃料電池の分類と特性の比較. 3-2. 燃料電池の種類と特性. 作動温度が 200 ℃前後と中程度であるリン酸型の燃 料電池は、宇宙開発から民生用へと実用化の用途が拡. 燃料電池の種類は電解質に使われる物質の違いにより. 大する際に開発が進み、現時点でもっとも普及してい. 分類される。現在、主流となっている燃料電池の種類. るタイプの燃料電池である。国内では既に 190 台を越. は溶融炭酸塩型(MCFC)、固体酸化物型(SOFC)、リン. える納入実績があり、耐久性、信頼性については実用. 酸型(PAFC)、固体高分子型(PEFC)の四つである。こ. のレベルに達している。電力と熱を同時に供給する需. れらの種類の燃料電池は作動温度の違い等から利用さ. 要の多い工場やホテル、病院などで利用されている。. れる分野が異なってくる。各種類の大まかな特性の違. 固体高分子型燃料電池は、現在もっとも注目されて. いと適用分野を表 1 に示した。. いる種類の燃料電池で、作動温度が約 80 ℃と最も低. 燃料電池の用途を決める最も重要な特性は、電解質. いため、起動が早く、取り扱いが容易である。また、. の種類によって異なる作動温度である。作動温度が高. 固体高分子型が注目されているもう一つの理由は、単. いほど、作動温度に達するまでの昇温に時間がかかる. 位体積あたりの電気出力量(出力密度)の高さである。. ため起動は遅くなる。作動温度の高い燃料電池は、定. 電極を高分子膜の溶液で被覆して触媒としているた. 置用の発電機には利用できるが、すばやく起動する必. め、電極の反応面積を大きくすることが可能となり、. 要がある輸送機械やモバイル用には向いていない。そ. 高い出力密度が得られるのである。固体高分子型燃料. の一方で、作動温度が高いほど排熱も高温になるため、. 電池の作動温度の低さと高い出力密度という特性が、. 排熱を利用して再び発電に利用することが可能にな. 家庭用自家発電や、輸送機械、モバイル機器用など、. る。作動温度の低い燃料電池は、排熱を暖房や給湯な. 民生用の燃料電池の用途を拡大することとなった。ま. どに利用すること(コジェネレーション)は可能である. た、電解質が固体であるため振動に強いこと、大量生. が、発電用として再利用することはできない。. 産が容易なことも、利用用途が拡大している要因とな. 溶融炭酸塩型と固体酸化物型は作動温度がそれぞれ. っている。コスト面で見ても、作動温度が低いため、. 600~700 ℃、約 1000 ℃で、作動温度の高いグループ. 他の種類の燃料電池に比べて特殊な素材を使用するこ. に属する。燃料電池から発生した高温の排熱を使って. とが少なく、優位性がある。. 再び発電をおこなう複合発電が可能であり、大規模な. リン酸型と固体高分子型燃料電池のコスト上のボト. 電力事業などの用途が考えられている。また、固体酸. ルネックは、電極触媒として貴金属である高価な白金. 化物型は電解質が固体であるため形状が自由に変えら. を利用しなければならないことである。自動車用の固. れることも大きな特徴といえる。. 体高分子型燃料電池を例にとると、図 2 に示したとお. 研究ノート. 59.
(5) 図 2 自動車用固体高分子型燃料電池のコストシェア. 出典:燃料電池開発情報センター『燃料電池 PEFC』(1999 年)を参考に著者作成. 4 -1. り、電極触媒のコスト比率 43% と最も高くなってい. 定置用燃料電池. る。現在、この電極触媒で使用されている白金の使用 (1). 量を減らす研究が進められており、その最新の研究成. 現状. 果の一つとして、低い電圧で効率よく電子を出す新炭 素素材カーボンナノチューブ等を使う方法が考案され. 定置用の燃料電池の用途としては、広域電力供給用. ている。NEC は、カーボンナノチューブの一種であ. の大規模発電、中規模なものとして学校・工場・オフィ. るカーボンナノホーンを使うことで、同量の白金を使. ス・病院などの事業用自家発電、小規模なものとして. 用した場合に比べ出力を 20% 向上させることに成功. 家庭用自家発電などが挙げられる。定置用には、前述. している。. の全種類の燃料電池が使われているが、規模により使 われる燃料電池の種類がある程度特定される。. 4. 燃料電池の利用分野. 大規模発電用 現在、電力会社による広域の電力供給に使われてい. 燃料電池の利用分野は、1)発電機として据え置いて. る火力発電、水力発電、および原子力発電はそれぞれ. 電力を供給する(定置用)、2)自動車や列車のように自. エネルギーをタービンで運動エネルギーに変換し、発. ら移動する製品の動力源になる(輸送機械用)、3)携. 電機を作動させ電気を発生させている。一方、燃料電. 帯電話、PDA、ノート・パソコン、デジタルカメラ、. 池発電は、化学反応の際発生する化学エネルギーを直. ビデオカメラなど人が持ち歩く情報機器等の製品の電. 接電気エネルギーへと変換できるため、他の発電方式. 力供給源になる(モバイル用)、の三分野に分けて考え. と比較した場合、発電効率が高いことが特徴である。. ることができる。2002 年秋現在、唯一実用化に至っ. また、現在 5 %ほどある送電時のエネルギー損失が極. ているのが定置用で、輸送機械用では燃料電池車が実. めて小さくなることも特徴である(燃料電池実用化戦. 用車 1 号の発表直前、モバイル用はまだ試作品の段階. 略研究会 2001)。 しかし、現在のところ、コストは既存の発電方法に. である。. 比べてまだ高い水準にあるようである(表 2)。. 野村総合研究所によると、モバイル用も 2003 年に は実用化のフェーズに入り、普及は自動車用よりも早. 大規模発電用利用が進められている燃料電池は、作. く進む。2006 年にはモバイル機器の 1 %が燃料電池. 動温度が高い溶融炭酸塩型と固体酸化物型の 2 種類が. 対応になり、2010 年には 10 %に達するが、燃料電池. 主流である。溶融炭酸塩型の場合、アメリカではすで. 車が量産化されるのは 2010 年という予測である。(日. に 2000kW の実験を経て、5000 kW 級のプラントの実. 経エレクトロニクス 2001 年 10 月 22 日号)。. 用化が進められている。日本では、1999 年に中部電 力の川越発電所に 1000kW 級パイロットプラントが建. また、矢野経済研究所の 2002 年 8 月の推計では、. 設されるなどの運転試験の実績がある。. 2010 年度における固体高分子型燃料電池の国内市場 規模は 4011 億円(家庭用発電機 66 %、モバイル用 11 %、自動車用 18 %)、出荷台数は 432 万台(家庭用. 中規模発電用 (学校・工場・オフィス・病院・ホテルなど. 発電機 20 %、モバイル用 76 %、自動車用 3 %)とな. での利用) 現在、定置用燃料電池の中で最も実用化が進んでい. る見込みである(日経エレクトロニクス 2002 年 9 月 9. るのが中規模発電用で、リン酸型が中心である。排熱. 日号)。. が有効利用でき、コスト効率が高いため、ホテルや病 院など熱の再利用(コジェネレーション)の需要が高い. 60. 燃料電池の利用可能性についての研究ノート(竹田・増井).
(6) 表 2 :発電コスト比較 *. 発電コスト(/kWh). 石油火力. 水力. 原子力. リン酸型燃料電池. 10.0円. 13.6円. 5.9円. 22円. * 従来型発電のコスト(左欄)は、2002 年 2 月の経済産業省資源エネルギー庁の公表したデータ、燃 料電池の発電コスト(右欄)は、同省の「総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会報告」(2001)に 基づいて算出(耐久年数 10 年と仮定)した。両欄は、データの出元が異なり、算出方法も異なると 考えられるため、正確な比較ではないことに留意されたい。. 転に耐える必要がある。新エネルギー・産業技術総合. 場所で利用されている。. 開発機構 (NEDO) によると、2000 年度までの研究成. 日本はリン酸型燃料電池の開発に積極的に取り組ん でおり、2000 年までに導入されたリン酸型燃料電池. 果で確認された燃料電池の耐久時間は 5000 時間で、. は国内約 200 台で、海外の約 180 台を上回っている。. まだ十分な水準には程遠い。. 出力は 200kW のものが主流であり、燃料は天然ガス. また、家庭用と自動車用の固体高分子型燃料電池は. が多いが、LP ガス、メタンガス、化学工場で副生的. 期待される機能として大きな違いがあるわけではない. に発生した水素が利用できるなど目的に応じた選択が. ので、燃料電池車の開発を行っているトヨタやホンダ、. 可能である点でも完成度が高い。. GM も、家庭用の固体高分子型燃料電池に取り組むな ど、業界を超えたデファクト・スタンダード獲得のた. 小規模発電用 (家庭用電源としての利用). めの開発競争が行われている。自動車産業で固体高分 子型燃料電池の開発が進めば、量産効果による低コス. 家庭用電源など小規模発電用の燃料電池としては、. ト化も期待できる。. 固体高分子型の開発が進められており、発電効率は、 2001 年 10 月に大阪ガスが世界最高の 37.5% を達成し. (2). ている。さらに、排熱も含めた総合効率 (3) は 70 %か. 発電システムの分散化. ら 80 %になり、既存の火力発電と比較するとほぼ 2 燃料電池の登場で、需要地で必要とされるだけの量. 倍である。 固体高分子型の作動温度は約 80 度と低い。この温. の電力を発電する分散型発電システムが注目されてい. 度の排熱では、ホテルや病院などで冷暖房や給湯に再. る。従来は、火力や原子力では発電効率を向上させる. 利用することは難しいが、家庭用ならば台所、風呂へ. ために、水力では地理的な制約のために、大規模で集. の供給、床暖房などの用途で充分に利用可能な温度で. 中的な発電が行われ、発電施設は、環境問題や安全性、. ある。また、起動時などの取り扱いが容易なことも家. 自然条件のために都市部などの大需要地から離れて建. 庭用として適している。燃料としては、インフラスト. 設されるのが通常であった。. ラクチャの整った都市ガスを改質して水素ガスを得る. 発電システムの分散化の流れは、制度面の変化にも. ことができる。都市ガスの改質器は、東京ガス、大阪. 後押しされている。卸分野における参入規制は、1995. ガス、東邦ガスが開発を行っているが、ガスから水素. 年に電気事業法が改正され、原則撤廃された。小売分. を生成する割合は 90% にも達している。. 野では、1999 年に、受電電圧 2 万 V 以上、契約電力. 燃料電池実用化戦略研究会報告(2001)は、家庭用燃料. 2000 k W 以上の大口需要者を対象とした電力小売事. 電池の普及を考えた場合、システム全体として 30 万. 業新規参入の自由化が導入され、2002 年 4 月には、. から 50 万円程度になることが必要であり、そのため. 経済産業省の総合資源エネルギー調査会が初めて電力. には高分子膜の低コスト化と性能の向上、触媒として. 小売分野での全面自由化の方向性を打ち出した。 電力自由化と燃料電池の技術革新は、どこで発電す. 利用される高価な白金の使用量の低減を可能にする電 極の開発がさらに必要であるとしている。. るのか(場所)、誰が発電するのか(主体)、という 2 つ. もうひとつの課題は、耐久性である。家庭用燃料電池. の次元の分散化を促す。第一の発電場所の分散化は、. の耐久年数目標を 10 年とした場合、約 4 万時間の運. 発電所が遠隔地における集中発電から需要地に接近し. 研究ノート. 61.
(7) た立地に移動する、工場など大口需要者の敷地内に発. 功し、さらに 1993 年に同社が固体高分子型燃料電池. 電施設が設置されるようになる(オンサイト発電)、住. を搭載した燃料電池バスの試作車の開発に成功したこ. 宅や店舗といった建設物そのものが発電施設を兼ねる. とから自動車用としての用途の道が開けた。同年、バ. ようになる、設備・機器の一部分に発電システムが組. ラード社はドイツのダイムラー社(現ダイムラー・クラ. み込まれる、といったさまざまなレベルでのシフトが. イスラー社)と本格的に提携を結び、自動車メーカー. 考えられる。従来、エネルギーのインフラストラクチ. による燃料電池の開発競争が激化することになる。 欧米メーカーは、燃料電池車の 2003 年から 2004 年. ャ整備のコストが高いために設置、建設できなかった 場所に、通信基地局、自動販売機などの設備や、店舗、. の実用化予定を発表している。燃料電池をめぐる開発. 事業所、娯楽施設、小規模工場、住宅などを配置する. 競争では、バラード社と手を組むダイムラー・クライ. ことが可能になり、都市計画や立地計画の考え方に影. スラーが、水素タンク方式の燃料電池車 NECARI を 1994 年に他社に先駆けて製作した。GM は、1997 年. 響を与えるようになるかもしれない 第二は、発電の初期投資額が小さくなり、参入規制. 前後に燃料電池の開発を本格化し、トヨタとの共同開. が緩和されることにより、電力供給に新規の参入者が. 発にも着手している。2002 年 1 月に開かれた北米国. 促されると同時に、企業や家庭が電力会社から電力の. 際自動車ショーで、GM は、燃料電池のコンセプト・. 供給を受けるのではなく、自ら発電する動きが広がる. カーを「自動車の歴史において 20 世紀は内燃機関の. ことによって、電力供給の主体が変化することである。. 時代だったが、21 世紀は燃料電池の時代になる。そ. 事業者や家庭の自家発電の手段としては、従来からデ. の中でこの新型燃料電池車は単なる『1 章』ではなく、. ィーゼル発電機やガスタービン発電機、マイクロガス. まるごと『1 巻』を担うことになる」と紹介した。. タービン発電機があったが、分散発電の市場が未発達. (日経エレクトロニクス 2002 年 1 月 28 日号) 日本の自動車メーカーでは、トヨタとホンダが. であったためにコストダウンが進まず、普及が進んで いない。固体高分子型燃料電池は定置用だけでなく、. 2003 年に予定していた発売を一年前倒しの 2002 年末. 巨大な市場規模をもつ自動車産業で利用されうること. におこなうことを発表した。日産も、発売を 2 年前倒. を考えると、大量生産によるコストダウンの見込みは. しして、2003 年に発売することを発表している。し. 高い。発電システムにも、パーソナル・コンピュータ. かし、自動車では新規技術の開発には安全性の審査な. とインターネットにより小規模事業所や家庭を巻き込. どのために長い期間を要することから、本格的に量産. んだ自律分散型ネットワークが実現したのと似た現象. 化されるのは 2010 年∼ 2030 年と言われ、それまでは. が起こりつつある。. ハイブリッド車が中心になるだろうと見られている。. 4-2. は、燃料電池車の普及目標を、2010 年に累積 5 万台. 経済産業省の燃料電池実用化戦略研究会報告(2001) 輸送機械用燃料電池. (普及率約 0.07%)、2020 年に 500 万台 (同約 6.9%)と (1). している。そのためには、改質器その他の周辺機器を. 現状. 含む燃料電池システムのコストを、既存のエンジンと 自動車. 同程度のレベルまで下げることが求められている。燃 料電池実用化戦略研究会報告では現状のエンジンのコ. 自動車産業で燃料電池車の開発が急ピッチで進んで いるのは、排気ガス規制等の環境問題や天然資源の枯. ストとの比較で換算された燃料電池のコスト条件は、. 渇問題への対応だけではなく、バラード社の固体高分. 出力 1kW あたり 5,000 円(25 万円/台)程度である。. 子型燃料電池の実用化以降、燃料電池の動力源として. 燃料電池車の普及にあたってもう一つの重要な課題. の優秀性が認知されてきたことがある。自動車にこれ. は、燃料供給のインフラストラクチャ整備の問題であ. まで搭載されてきたガソリンによる内燃エンジンのエ. る。現在、固体高分子型燃料電池車の燃料としては、. ネルギー効率(4)を燃料電池と比較すると、内燃エンジ. 水素そのものを搭載する方式、メタノール搭載して改. ンが 15~20 %であるのに対し、燃料電池の場合は. 質する方式、ガソリンを搭載して改質する方式の三種. 30% 以上と高い水準にある。また、低騒音、低振動で. 類があるが、燃料電池車の燃料として何が選択される. あることも内燃エンジンと異なる点である。. かは、技術的な可能性とともに燃料供給インフラスト. 現在、自動車に搭載される燃料電池として最も実用. ラクチャの状況にも依存する。ガソリンを搭載する方. 化が進んでいるのは、固体高分子型である。固体高分. 式は、全国で約 5 万 5000 箇所の既存のガソリンスタ. 子型は小型で高出力なため自動車用の燃料電池として. ンドを燃料供給インフラストラクチャとして利用でき. 適している。固体高分子型燃料電池はカナダのバラー. る点で有利であるといえるが、改質技術が相対的に困. ド社が高分子膜の性能の向上と大幅なコスト低減に成. 難であることや、改質時に二酸化炭素が他の燃料に比. 62. 燃料電池の利用可能性についての研究ノート(竹田・増井).
(8) べ多く排出されるといった課題も多い (燃料電池実用. 一酸化炭素許容濃度を改質ガス中の一酸化炭素が. 化戦略研究会報告 2001)。直接水素を供給する場合は、. 500ppm 程度であること、第二に、1 スタックあたり. ガソリンなどと比較して整備にコストと時間が必要と. の出力が 100kW 以上であること、第三に、動揺・傾斜. なるであろう。燃料電池普及を目指した新エネルギ. 時にも燃料電池の内部に生成水が滞留しないこと、第. ー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトで. 四に、耐久性が 5 年 (40000 時間) あることである。. は、2002 年末までに全国で 8 箇所の水素ステーショ. 現在では開発が進み、一酸化炭素許容濃度の問題が解. ンの建設が予定されている。政府主導のインフラスト. 決されつつある。まだ耐久性やコストに問題を残して. ラクチャ整備の動きが急ピッチで進んでいることも、. いるが、実用化の可能性は高い。. 日本の自動車メーカーが相次いで燃料電池車の発売の 前倒しをおこなった背景の 1 つになっていると言われ. 輸送機械用燃料電池のその他の例としては、米国の. ている(日経エレクトロニクス 2002 年 8 月 26 日号)。. サイエンティフィック社がイタリアの自転車メーカー のアプリらとの共同開発で、燃料電池を搭載したペダ. 列車. ルをこがなくても時速 30 キロで走行する自転車「ハイ. 列車への燃料電池導入に関しては他の分野に比べ研. ドロサイクル」を開発した例がある。同社はその他に. 究が遅れており、国内で進められている研究は、JR. も燃料電池を搭載した車椅子や掃除機などの実用化を. 東日本が車両動力システム開発の一環として燃料電池. 進めている。. の可能性を挙げているにとどまるが、列車での燃料電 (2) 内燃エンジンからの転換に伴う製品アーキテク. 池の利用可能性は、他の分野に比べても高いと考えら. チャの変化. れる。現在、列車はレールと高架線から電流を取り入 れ走行するが、その電力供給は発電所から電力を独自 に交流から直流に変換して送電している。燃料電池か. これまで、列車を除くほとんどの輸送機械の動力源. ら発生する電気は直流であるから、変換することなく. は、ガソリン等を燃料とする内燃エンジンであった。. 直接電力を利用できるため、発電効率を高めることが. 内燃エンジンは、ガソリンを爆発させたエネルギーを. できる。また、燃料電池を列車の電力源にする方法と. 直接運動エネルギーにするのに対し、燃料電池は化学. しては、各駅に燃料電池を設置して架線に送電する方. 的に発生させた電気エネルギーをモーターで運動エネ. 法と、列車自体に搭載する方法が考えられるが、各駅. ルギーに変換する。この動力源のメカニズムの違いは、. に燃料電池を設置した場合には、燃料電池の排熱は駅. 製品アーキテクチャに影響を与える可能性がある。. の空調などに再利用できる。発電の規模は駅の規模に. 内燃エンジンを中心とするシステムは、基本的に動. 応じて調整することが可能であるし、既存のシステム. 力が機械系のシステムによって発生し、伝えられてい. に比べ送電ロスも低減できる。列車自体に燃料電池を. くので、エンジンとトランスミッション、サスペンシ. 搭載する場合は、送電を利用せずに燃料電池のみの動. ョン、シャーシといったすべての構成要素を相互に調. 力で駆動できれば、送電ロスはさらに解消される。排. 整して乗り心地や安定性といった機能を達成する必要. 熱は車両内の空調に利用することが可能である。自動. があった。一方、燃料電池システムでは、電力によっ. 車と比較した場合には、スペース的な制約も少なく、. て動力を伝え、制御することができるので、内燃エン. また出力量が足りなければ送電とのハイブリットも可. ジンシステムに比べ、燃料電池システムでは、駆動部. 能であるため導入しやすいと考えられる。. とその他の構成要素の間の相互依存性が低くなる。ま た、燃料電池の低騒音、低振動という特性は、これま. 船舶. での内燃エンジンが生み出していた振動や騒音などの. 船舶での燃料電池の利用可能性については、日本造. 制約を緩和するため、部品間の相互依存性を一層低め. 船研究会が詳細な研究を行っている。船舶用燃料電池. る効果がある。したがって、燃料電池が内燃エンジン. の種類としては、作動温度が低く、負荷の変動に強く、. に代替することで、これまでより部品間の相互の調整. 出力密度が高く、振動・動揺に強いという条件から固. を必要としないモジュール化が進む可能性がある。ま. 体高分子型が想定され、燃料は貯蔵が容易で小型化の. た、燃料電池の位置は内燃エンジンほど制約を受けず、. 可能性が高いメタノールが考えられている。1996 年. モーターをタイヤごとに取り付けるなど、車体内に分. の研究結果では、効率面では目標値をクリアし、負荷. 散させることも可能である。本格的な燃料電池車は、. 変動性能、容積・重量、安全性の項目で従来船と同等. これまでにない革新的なデザインになるかもしれな. の水準を達成できるとしている。また、燃料電池本体. い。. に対する課題として次の項目を挙げている。第一に、. 研究ノート. 63.
(9) 4-3. モバイル用燃料電池. サや二次電池との併用によってこの問題は解決されつ つある(日経エレクトロニクス 2001 年 10 月 22 日号)。. (1). 現状. モバイル用の燃料電池の開発は、リチウムイオン・ バッテリーの代替品として始まったため、2001 年に. 携帯電話や PDA、ノートパソコン、デジタルカメ. 相次いで実用化計画を発表した企業は、ソニーや. ラ、デジタルビデオカメラなど、人間が持ち運んで使. NEC、日立製作所など自社グループ内でリチウムイオ. う機器の電源としての燃料電池は、小型でも高出力の. ン・バッテリーなどの二次電池を開発している企業で. 発電が可能な固体高分子型の開発が進んだことにより. あった。これらのメーカーは早くても 2005 年を実用. 実用化の可能性が高まった。モバイル用の固体高分子. 化目標としていたが、2002 年 3 月、二次電池を事業. 型の主な燃料供給の方式は、水素ガスを水素吸蔵合金. として持っていないカシオが 2004 年という最も早い. に収める「純水素方式」、メタノールを改質し水素を取. 段階での実用化を発表し、20 時間駆動が可能な燃料. り出す「メタノール改質方式」、水素ではなくメタノー. 電池搭載のノート・パソコンの試作品を公開して、業. ルを直接電池に投入する「ダイレクト・メタノール方. 界を驚かせた。カシオの開発した燃料電池は、現在主. 式」の三つがある。現在主流の燃料供給方式はダイレ. 流であるダイレクト・メタノール方式ではなく、メタ. クト・メタノール方式である。. ノール改質方式で、体積はリチウムイオン・バッテリ. モバイル用の電源として現在最も普及しているの. ーと同じであるが、重さはおよそ半分、駆動時間はリ. は、交流電源から充電する二次電池のリチウムイオ. チウム・イオンバッテリーが 5 時間に対し、カシオの. ン・バッテリーであるが、リチウムイオン・バッテリ. 燃料電池は 20 時間と 4 倍である(表 3)。他にも、ドイ. ーの性能向上は鈍ってきており、近い将来、大きさを. ツの Fraunhofer Institute 社等が燃料電池駆動のノー. 維持したまま従来より高出力を出すことは難しくな. ト・パソコン、米国の Motorola 社、Samsung. る。一方、燃料電池の出力密度は、理論的にはリチウ. Advanced Institute 社等が燃料電池内蔵の携帯電話の. ムイオン・バッテリーの 10 倍以上である。燃料電池は、. 試作品を発表し、東芝が自社製の PDA にダイレクト・. モバイル用としては急激に消費電力を上昇させること. メタノール方式の燃料電池を接続して、駆動させるこ. が難しいという弱点があったが、電気二重層コンデン. とに成功した。(日経エレクトロニクス 2002 年 6 月 3 日号). 表 3 :燃料電池とリチウムイオン・バッテリーの性能比較. . 燃料電池の体積(ml). 重さ(g). 駆動時間(時間). リチウムイオン・バッテリー. 105. 168. 5. ダイレクト・メタノール方式. 502. 600. 20. メタノール改質方式(カシオ). 105. 92. 20. 日本経済新聞 (2002 年 3 月 12 日付) をもとに著者作成. (2) 出力密度がモバイル機器のアーキテクチャに与. まで通信機能が主体であったが、最近ではデータ処理. える影響. など通信以外の機能が多様に拡張している。また、通 信機能自体も、通話や、電子メール以外に静止画や動. 既存のモバイル製品に搭載されているリチウムイオ. 画のデータ通信が発達したことで消費エネルギーもさ. ン・バッテリーに燃料電池が代替すれば、同容量で. らに増加している。例えば、2001 年 10 月に発売され. 3~7 倍、同重量で 6~7 倍の電気を発生させることがで. た NTT ドコモの第三世代携帯電話「FOMA」は、従来. きる。この出力密度の大きさが、モバイル製品の進化. よりも大幅に高機能・多機能化が進んだが、その結果、. の方向を変えていく可能性がある。. 待ち受け時の消費電力が従来の約 8 倍にもなってい. これまでモバイル製品はバッテリーの制約を大きく. る。このような携帯端末の高機能・多機能化による消. 受け、省エネのためにパフォーマンスを制限せざるを. 費電力の増加に対応するために既存のバッテリー性能. 得なかった。最近では特に急速にモバイル製品の機能. の向上が必要となっているが、既存のバッテリー性能. が多様化し、それに伴う消費電力の増加がバッテリー. を飛躍的に向上することは困難である。燃料電池が注. の制約を高めている。例えば、携帯電話の機能はこれ. 目される理由はそこにある。第三世代携帯電話の事例. 64. 燃料電池の利用可能性についての研究ノート(竹田・増井).
(10) で明らかなようにモバイル機器の技術的なボトルネッ. ーザー企業や個人が燃料電池は各分野で実用に足るも. クは消費電力である。燃料電池の高出力密度という特. のになると認識し始めたからであると考えられる。エ. 性は、このボトルネックを大幅に解消すると考えられ. ネルギーの分散化は、事業向けの発電などではリン酸. る。. 型燃料電池ですでに実用化されていたが、家庭用発電. 消費電力というボトルネックが解決されれば、モバ. や自動車、モバイル機器等の個人向け製品の電源への. イル機器に搭載する機能はさらに多様化・高度化させ. 拡大といった本格的な「エネルギー源の分散化」が社. ることが可能になる。この機能の多様化・高度化は、. 会的な認知を獲得できたのは、1990 年代後半になっ. モバイル機器の製品アーキテクチャに大きな影響を与. てからである。. えることが予想される。モバイル機器は限られた空間. 規模の大きい発電に使われていたそれまでの燃料電. 的な制約の中でさまざまな機能を詰め込む必要がある. 池は、発電主体や発電場所の分布を大きく変えないた. ため、構成要素間でさまざまな干渉が生じ、構成要素. め、既存の発電方式の代替でしかなく、従来型の発電. 間で複雑な調整が必要となる。この構成要素間の相互. 方式の効率が改善されれば、技術開発のインセンティ. 依存性は空間的制約が変わらなければ、機能が多様. ブは下がってしまう。技術的な困難度が高い燃料電池. 化・高度化するほど複雑性を増す。燃料電池が消費電. に取り組むよりも、既存の発電方式を改善する意思決. 力のボトルネックを大幅に解消することで機能の多様. 定の方が短期的には合理的である。しかし、家庭や事. 化・高度化が進めば、その結果、構成要素間の調整作. 業所にも置ける固体高分子型燃料電池発電機は、発電. 業はさらに複雑性を増し、製品アーキテクチャをより. システムを質的に転換させる潜在力を持っている。地. インテグラルに変化させると考えられる。. 理的な分散化と発電主体の分散化によって、新しい市. モバイル機器の場合、燃料電池が搭載されることに. 場、新しいビジネスモデルが生まれ、企業がこれに投. よりアーキテクチャがインテグラルな方向に進むとい. 資するインセンティブが高まったのである。. う予想は、よりモジュール化がすすむと予想される自. 発電システムの分散化に加えて、固体高分子型燃料. 動車の場合とはまったく逆の結論である。この結果の. 電池のもたらしたもう一つの分散化は、定置用発電機. 差異は、2 つの理由が考えられる。一つめは、自動車. から自動車やモバイル機器等の個人向け製品の電源へ. がもともと内燃機関という機械式の動力を利用してお. の利用拡大である。自動車の場合は、環境規制という. り、モバイル機器は電気出力を動力としていたという. 外的制約の発生が、燃料電池の技術革新の時期とタイ. 違いである。機械制御の場合は電気制御にくらべ構成. ミング的に合っていたことにより、開発が急ピッチで. 要素間の相互依存性は高い傾向にある。モバイル機器. 進み出した。モバイル機器の場合は、リチウムイオ. の場合、電気制御という点では大きな変化はないが、. ン・バッテリーの性能向上の鈍化と、モバイル機器に. 自動車の場合には機械制御から電気制御へと転換する. 求められる性能が年々高度化していることが促進要因. ことで、構成要素間の調整量の減少はモバイル機器の. となった。. それと比べて大きくなると考えられる。二つめは、燃. 自動車と同じ輸送機械でも、もともと電気制御で動. 料電池を搭載することで出力密度がどれほど変化した. く列車の場合は、環境規制に直接関わらないため、燃. かである。自動車の内燃機関の出力密度(5)はもともと. 料電池採用のメリットは大きいのに関わらず、開発、. 高いため、出力密度に関しては大きな変化はない。一. 採用が進展していない。モバイル機器の場合は、もと. 方、主にリチウムイオン・バッテリーの代替として利. もと電気制御であるが、出力密度の向上という、固体. 用されるモバイル機器では、燃料電池の採用により出. 高分子型燃料電池のもう一つの特徴に期待が集まり、. 力密度が飛躍的に向上し、一定の空間制約の中で機能. 開発競争が促進された。 このように、燃料電池が用途分野によって異なる影. の多様化・高度化がますます進み、構成要素間の相互. 響を与えうることは、理論、実務の両面で注目すべき. 依存性を高める結果になると考えられるのである。. 点である。燃料電池の技術と用途は当面激しく変化す. 5. エネルギー源の分散化のインパクト. ることが予想されるが、非常に潜在力の大きい分野で あるため、その社会的インパクトの理論付けと実証を 継続的に行なっていくべきであろう。. 燃料電池は 1960 年代には実用化されていたのに関 わらず、燃料電池の市場は、なぜ 1990 年代に固体高 分子型の燃料電池の技術革新が起こって初めて急激に. 参考文献. 広がり始めたのであろうか。その理由は、主要自動車. ・石井弘毅(2001)『燃料電池がわかる本』オーム社. メーカーが燃料電池車の開発を相次いで発表するなど. ・エネルギー総合工学研究所(2001)『固体高分子形燃 料電池』財団法人エネルギー総合工学研究所. の出来事を通じ、燃料電池の開発企業だけでなく、ユ. 研究ノート. 65.
(11) 究(B)課題番号 14730098 を受けています。. ・清水和夫・平田賢(2000)『燃料電池とは何か』日本 放送出版協会 ・資源エネルギー庁編(1999 年)『新エネルギー便覧― 平成 10 年度版―』通商産業調査会出版部 ・日本電機工業会燃料電池発電システム技術専門委員 会(2001)『平成 13 年度燃料電池の導入促進と実用 化に関する助成策要望書』日本電機工業会 ・日本船舶研究会(1996)『新形式舶用電気推進システ ムの試験研究』日本船舶研究会 ・『日経エレクトロニクス』 (2001 年 10 月 22 日号、 2002 年 1 月 28 日号、6 月 3 日号、8 月 26 日号、9 月 9 日号)日経マグロウヒル社 ・『日本経済新聞』(2002 年 3 月 12 日)日経新聞社 ・燃料電池実用化戦略研究会(2001)『燃料電池実用化 戦略研究報告』経済産業省 ・燃料電池開発情報センター(1999)『燃料電池 PEFC』 ・広瀬研吉(1992)『燃料電池のおはなし』日本規格協 会 ・広瀬隆(2001)『燃料電池が世界を変える』日本放送 出版協会 ・堀内義実(2000)「実用段階を迎えた燃料電池」『信学 技報』電子情報通信学会 ・資源エネルギー庁新エネルギー対策課『総合資源エ ネルギー調査会新エネルギー部会報告−今後の新エ ネルギー対策のあり方について−』2001 年 6 月 注記 (1)発電効率=発電システムで電気エネルギーに転換 された量/発電システムに投入した全エネルギー 量 (2)スタックとは、複数枚の単セルを積層したものを 一つの構成単位としたもので、類似語に積層電池 があるが、積層電池が容器の中に入って燃料電池 になるのに対し、スタックは容器を含めた一つの 燃料電池の意味で使われる。 (3)総合効率=コジェネレーション・システムで利用さ れる電気エネルギーと熱エネルギーに転換された 量/コジェネレーション・システムに投入した全エ ネルギー量 ただし、この場合の総合効率はコジ ェネレーション・システムを想定している。 (4)エネルギー効率=自動車で車輪を駆動する動力の エネルギーに転換された量/自動車に投入した全 エネルギー ただし、この場合のエネルギー効率 の式は自動車に限定している。 (5)自動車の場合には電気出力ではないので、この場 合にはエネルギー出力を指す。 本研究は、平成 14 年度学術振興会科学研究費 若手研. 66. 燃料電池の利用可能性についての研究ノート(竹田・増井).
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