企業年金の制度ミックスに関する研究
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(2) 88. (610). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 5 号(2011 年 1 月). % % % %. DB (99’) 2,170. (09’) 1,356. % %. DC 20%. %. DB 80% % %. (出所)厚生労働省,信託協会の統計資料から作成.. 図 1 企業年金の加入者の推移. 月に制度が開始された確定拠出年金(Defined. 報を開示する義務がある.退職給付会計の導入. Contribution Plan , DC プ ラ ン)は 年々増加 し. 以降,企業は確定給付型の企業年金が内包する. ているものの,確定給付型の減少を埋めるほど. 投資リスク,金利リスクを債務と費用として財. には至っていない.2009 年度の加入者数の比. 務諸表に反映することが求められたことで,リ. 率は,DB プランの 80% に対して DC プランは. スク回避の姿勢を鮮明にし,確定給付型を縮小. 20% に過ぎない.また,厚生年金被保険者に対. する年金制度の改革を行ったと考えられる.. する企業年金全体のカバレッジである企業年金. 6) 図 2 の「資 産 運 用 利 回 り の 推 移」 で は,. の 適用率 は 1995 年度 の 70% か ら 2005 年度 に. 1986 年度 か ら 1999 年度 の 14 年間 は 運用実績. は 50% まで急速に低下した状態がその後も続. が継続してプラスであったのに対して,2000. いている.この背景には,2000 年度から適用. 年度以降はプラス,マイナスの変動が著しい.. が開始された退職給付会計基準が深くかかわっ. 2000 年度から 2002 年度の 3 年間は,株式市場. ている.企業は退職給付会計によって,これま. の低迷による年金資産の目減り,積立不足の急. でオフバランスになっていた年金債務の積立不. 増が問題となり,株価の低迷に拍車をかけた.. 足を開示しなければならなくなった.勿論,年. また,2003 年度から 2006 年度は,株式市場が. 金制度に新たな債務が発生するわけではないの. 回復し運用利回りがプラスになり積立不足は解. で,会計基準の変更自体が直接経営を圧迫する. 消の方向に進んでいたが,企業は将来の財務負. ことにはならない.会計基準の目的は,投資家. 担を意識してリスク回避の手段として,従業員. に適切な情報を開示し,投資の意思決定に有用. が投資リスクを負担する確定拠出型へシフトし. な情報を与えることである.このためには,企. ている.そして,2007 年度以降はサブプライ. 業の経営者は恣意性を排除した信頼性のある情. ム問題に端を発した世界的な景気後退,株式市.
(3) 企業年金の制度ミックスに関する研究(毛海). (611). 89. ������ �����. �� �����. ��. �����. ����� ����. �����. ��. ���� ����. ����. ���� ���� ���� ����. �. ���� � �� ����. ����. ���. ����. ����. � ��. ��. ��. ��. ��. ��. ��. ��. ��. ��. ��. ��. ��. ��. ��. ��. ��. ��. ��. ��. ��. ��. ��. �� ��. ��. �����. ���. �����. ������ ������. ���. �������� ���������. ���. �����. 出所)企業年金連合会の「修正総合利回りの推移(1986 年度から 2008 年度)」から作成. グラフの 2009 年度 +14.18% は格付投資情報センター公表の数字を利用.. 図 2 資産運用利回りの推移. 場の急落, いわゆるリーマン・ショックにより,. 年から米国企業にも IFRS の適用を認める方針. 企業年金は確定給付型,確定拠出型ともに極め. である7).日本では,2007 年 8 月に東京合意が. て厳しい環境に陥っている.2009 年度は,3 年. なされ,2011 年に向けて差異をなくすための. ぶりに運用利回りはプラスになっているが,運. 共同作業 が 進 め ら れ て い る.ま た,2009 年 6. 用利回りの大幅な悪化が続いたことから,債券. 月には企業会計審議会の中間報告8)において,. 運用に軸足をシフトする動きがある一方,株価. 2010 年 3 月期から任意適用の開始,2012 年を. が底であるとみて株式の運用を増やすケースも. 目処に上場企業の連結財務諸表を対象に強制適. あり,運用手法は一段と多様化している.. 用について判断を行い,早ければ 2015 年にも 上場企業への IFRS 適用を開始すると報告され. 2―2 退職給付会計の見直しの方向性. ており,2009 年 12 月には IFRS 任意適用に関. 日本 で は,2000 年度 か ら 退職給付会計 が 適. する要件9)が決定している.. 用されているが,10 年が経過した現在,会計. 退職給付会計 に つ い て は,国際会計基準審. 基準に大きな変化が起こっている.. 議会(IASB)から IAS 第 19 号「従業員給付」. 会計基準の国際的なコンバージェンスに関し. の改定に係る予備的見解(ディスカッション・. て は,米国 で は 財務会計基準審議会(FASB). ペーパー,以下 DP)が 2008 年 3 月に公表され,. が米国会計基準(FAS)を中長期的に国際財務. 各国からコメントが出されており,検討が進め. 報告基準(IFRS)と統合していく「ノーウォー. られた.そして,2010 年 4 月には公開草案(エ. ク 合意」を 2002 年 10 月 に 公表,2007 年 に は. クスポージャー・ドラフト,以下 ED)が公表. 米国外企業に IFRS の適用を認めており,2015. されている.DP では,中長期的な視点から年.
(4) 90. (612). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 5 号(2011 年 1 月). 金制度の分類の見直し(拠出ベース約定)など. 慮した額だけ純資産が減少することになる.未. 広範囲の概念で議論されていたが,今回の ED. 認識項目の即時認識は,市場環境の変動が企業. では,IFRS のコンバージェンスの一環として. の財務情報に影響することで,株価や格付等へ. 意見が一致している項目を優先して改訂を目指. の懸念が考えられる.このため,年金制度の縮. しており, 「費用の認識と測定」の大幅な変更. 小や廃止の方向を検討する企業も少なくないで. と, 「開示要件」を拡大する内容である.見直. あろうが,年金制度は重要な報酬体系であるこ. しのポイントは,現在は年金資産の短期的な変. とから,従業員のモチベーション,労働生産性. 動も企業年金の運用と給付の長期的な性格に照. を考えた上で,事業戦略に合わせた年金制度の. らせば平準化するとの認識のもと,遅延認識が. 選択が今求められているのではないだろうか.. 認められているが,これを禁止して即時認識に 変更するものである.既に,資産負債アプロー. 2―3 企業と従業員のリスク負担の問題. チの観点から,英国(FRS17) ,米国(FAS158). 企業年金を取り巻く市場環境や会計基準が大. においては貸借対照表上での遅延認識から即時. きく変化することで,現在,企業年金のあり方. 認識に転換している.また,損益計算書への反. が,問われている.. 映においては,公正価値の変動や割引率の変動. 企業経営の観点から,企業年金制度の重要な. によって生じる数理計算上の差異をその他包括. ポイントを考えると,労働生産性の向上,人的. 利益として表示し,その測定要素は利益剰余金. 資本の有効活用などの「人事政策」,掛金の損. に振り替えられ,その後の当期純利益への振り. 金参入による「税制効果」,年金債務および年. 替えは行わない方法(リサイクルは行わない). 金資産が変動することに伴い企業財務が影響す. が議論されている.. る「財務リスク」の 3 点に整理される.一方,. 日本では IFRS 適用の動きを踏まえて,2010. 従業員の観点からは,「報酬体系」としてイン. 年 3 月 に「退職給付 に 関 す る 会計基準(案) 」. センティブをどのようにつけるのか,賃金の後. 及 び「退職給付 に 関 す る 会計基準 の 適用指針. 払いである年金が企業の倒産などにより減額や. (案) 」 (以下,公開草案)が 公表 さ れ て い る.. 支給されなくならないための「受給権保護」の. 具体的には,①未認識数理計算上の差異及び未. 2 点に整理される.今日の企業年金制度は,企. 認識過去勤務費用の処理方法の見直し(貸借対. 業と従業員との間での労使の合意,相互の信頼. 照表では即時認識を行い,損益計算書および包. 関係を保ちながら,制度に内包される様々なリ. 括利益計算書では費用処理しない部分を包括利. スクを分担することで,長期的な視点で企業の. 益に計上し毎期リサイクルする) ,②退職給付. 価値を高めているものと考えられる.. 債務及び勤務費用の計算方法の見直し(期間帰. 法制面 で は,わ が 国 で は 退職給付 を 包括的. 属方法,割引率,予測昇給率 の 見直 し) ,③開. に 捉 え る 統一 さ れ た 法律 は な く,制度毎 に. 示の拡充(年金資産の分類毎の比率,期待運用. 別々の法律に基づいていることもあり,米国の. 収益率の設定方法)等が盛り込まれており,①,. ERISA の よ う な 厳格 な 規定 は 持って い な い.. ③は 2012 年 3 月期,②は 2013 年 3 月期からの. このため,わが国の確定給付企業年金では労使. 適用が計画されている.. の合意により,給付利率の引き下げやキャッ. IFRS の ED とわが国の公開草案では,未認. シュバランス・プラン等への制度移行など,柔. 識項目の即時認識などは共通しているものの,. 軟な対応を可能にしているものといえる.. リサイクルの取扱いなどでは相違も見られる.. 企業と従業員とが負担しあう年金制度のリス. 即時認識の適用は,積立不足の多い企業にとっ. ク10)として,投資リスク,長寿リスク,イン. ては,不足分が負債の増加となり,税効果を考. フレリスクがある.投資リスクは,資産運用の.
(5) 企業年金の制度ミックスに関する研究(毛海). (613). 91. 結果から生じる資産価額の変動リスクであり,. 2―4 DB プランから DC プランへの移行. 市場全体のパフォーマンス以上の収益を上げら. わが国の退職給付制度は,内部留保型の退職. れるのか,運用責任を負うリスクである.一般. 一時金 と 事前積立型 の 企業年金 が 存在 し て お. に,個人は資産運用の専門家と比較し,情報格. り,企業年金制度の多くは,退職一時金制度の. 差,能力格差があることからリスク許容度は. 一部または全部を移行する形で導入されたもの. 小さいと考えられる.長寿リスクは,加入者が. である.退職給付制度は,賃金の後払いとして. 長生きすることで,給付の全体額が増加するリ. の性格を有しており,従業員に対する退職後の. スクであり,受給者個人からみれば一時金で受. 生活のための給付を保障するものである.また,. け取った資金を年金化できずに老後の生活費が. 企業にとっては,優れた人材を採用し,従業員. 不足するリスクである.また,インフレリスク. のモチベーションを高め,生産性の向上を通し. は物価の上昇によって給付の実質価値が減価す. て「人的資本」を有効活用することであり,企. るリスクである.わが国では,企業年金の原資. 業価値の向上と密接な関係がある.従業員のモ. の殆どが退職一時金であることから,年金の支. チベーションを高めるためは,賃金体系のイン. 給期間は 10 年から 20 年の有期年金が多いもの. センティブの付与,雇用の安定等が重要な要素. の,終身年金を提供する企業も少なくはない.. であり,退職給付の制度の在り方は,企業価値. また,厚生年金基金は終身給付が義務付けられ. を高めるためには不可欠な要素である.特に,. ていることから,長寿リスクへの対応は課題の. 製造業では企業固有の特殊技能を育成し,生産. ひとつである.一方,わが国の企業年金ではイ. 性を向上させる上で,DB プランが重要な役割. ンフレヘッジは義務付けられておらず,インフ. を果たしている12).. レリスクの認識は低いものの,従業員と企業が. 一方,2000 年以降,市場環境 が 大 き く 変化. 制度選択する上ではリスクの所在を共通の認識. したことで,DB プランのリスクとリターンは,. にする必要がある.. 著しく不確実性が高くなっており,長期に渡っ. これらのリスクをはじめとする様々なリスク. て維持することが困難な制度に変わってしまっ. 要素11)を従業員(加入者)と企業(事業主)とが,. た.また,国際会計基準での退職給付会計の見. どういった割合で負担しあうかであるが,リス. 直しの議論は,DB プランを導入している企業. ク 負担割合 は 企業 の リ ス ク 許容度(財務力) ,. にとっては,財務リスクのボラティリティを高. 事業戦略の方向性から,持続的な人事政策とし. める危険性を内在しており,企業はこれらの財. て決まってくる.その結果が,制度選択として. 務リスクを回避する方法を探究している.ひと. 反映されると考えられる.例えば,長期雇用,. つは,DC プランの導入,もう一つはハイブリッ. 社内訓練が従業員の生産性を高め,財務力のあ. ド型の導入である.. る企業は,企業がそれぞれのリスク負担を多く. 企業と従業員がリスクを分担する仕組みとし. するであろうし,反対に雇用の流動化が進んで. て,ハイブリッド型の制度が生まれてきた.日. いる企業,あるいは財務力が弱い企業は,従業. 本 で は,2002 年 の 確定給付企業年金制度 の 導. 員により多くのリスク負担を求めるであろう.. 入時に,キャッシュバランス・プラン(CB プ. 企業は自らのリスク許容度が変化し,このまま. 13) ラン) が認められ,導入が進んでいる.CB. では適切なリスク負担を負えないと判断した場. プランは,退職給付債務の金利変動による影響. 合,制度変更を行い,リスク負担のバランスを. を軽減する仕組み14)であり,運用リスクが企. 調整しようとする可能性がある.また,既存の. 業に残るものの,企業のリスク負担を軽減する. 制度では適切に運営できない場合,新しい制度. 一方で,従業員への給付が変動することで,従. の導入を望むであろう.. 業員のリスク負担は増加することになる.確定.
(6) 92. (614). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 5 号(2011 年 1 月). 表 1 制度ミックス企業の推移 DB プラン DB 種類 DB 承認(新規) 規約型 基金型 合計 DB 採用の累計 規約型 基金型 厚年基金 適格年金・一時金ほか 合計. 2001/3 0 0 0 0 0 213 518 731. 2002/3 0 0 0 0 0 213 518 731. 2003/3 3 5 8 3 5 207 516 731. 2004/3 23 58 81 26 63 119 523 731. 2005/3 37 107 144 63 170 38 460 731. 2006/3 29 23 52 92 193 20 426 731. 2007/3 20 1 21 112 194 17 408 731. 2008/3 41 7 48 153 201 12 365 731. 2009/3 49 1 50 202 202 11 316 731. DC プラン DC 承認(新規) DC 採用の累計. 2001/3 0 0. 2002/3 3 3. 2003/3 23 26. 2004/3 36 62. 2005/3 35 97. 2006/3 36 131. 2007/3 25 158. 2008/3 23 181. 2009/3 16 197. 制度ミックス企業の割合. 2001/3 0%. 2002/3 0%. 2003/3 4%. 2004/3 8%. 2005/3 13%. 2006/3 18%. 2007/3 22%. 2008/3 25%. 2009/3 27%. (出所)DB プランは各社の有価証券報告書,DC プランは厚生労働省の公表する確定拠出年金企業型年金承認規約企業一覧から 作成. 〔調査対象〕 ・東証 1 部上場企業で 3 月期決算,金融を除く業種かつ 2000 年度から 2008 年度まで連続したデータが取得できる企業. ・DB 承認は確定給付企業年金の採用企業数であり,DC 承認は確定拠出年金の採用企業数である.. 拠出型の DC プランは,従業員自らが運用する. 企業価値との比較において,従業員と企業との. 自己責任の制度であり,企業のリスク負担は大. 間のリスク負担を模索・検討している状況にあ. 幅に抑制される.. るといえる.しかし,これまで制度ミックスの. しかし,DB プランの課題を解決するはずの. 実態やその要因について分析が行われていない. DC プランにおいては,加入者である個人が投. のが現状である.. 資リスクを負担する制度であるため,個人が自 らのリスク管理に時間と労力を割き,適切な年. 2―5 本研究の問題意識. 金制度管理を遂行できるかが課題になってい. 本稿の目的は,企業年金の「制度ミックス」. る.. の実態を明らかにし,企業の制度選択の要因に. 現在,わが国の企業年金制度の流れは,DB. ついて分析することにある.また,制度ミック. プランから DC プランへ移行しているものの,. スを定量的に把握するために,年金制度に対す. 二者択一ではなく,それぞれの制度のメリッ. る企業のリスク負担の程度を数値化した「制度. ト,デメリットを評価した上で,制度を併用し. 指数」の概念を新たに導入する.. た「制度 ミック ス」の 形態 を とって い る 企業. 各企業の年金制度規約の内容等は様々である. が多い.東証 1 部上場企業で 3 月期決算,金融. ことから,年金制度間を比較する尺度がないの. を除く業種かつ 2000 年度から 2008 年度まで連. が現状であり,企業の制度移行の実態を把握で. 続したデータが取得できる企業 731 社について. きず,また企業間の制度の比較は困難である.. 制度状況を調査した.表 1 の「制度ミックス企. 今後は,会計基準の変更やリスク管理の高まり. 業の推移」に示すとおり,2009 年 3 月期で 197. によって,企業は年金制度のリスク負担を敏感. 社が DB プランに加えて DC プランを提供する. に受け止めて,従来以上に制度移行を制度ミッ. 制度ミックスの企業であり,全体の 27% に上っ. クスの形で進めると考えられる.. ている.つまり,自社のリスク許容度と将来の. この 10 年間で運用環境は大きく変わり,運.
(7) 企業年金の制度ミックスに関する研究(毛海). 用実績は非常にボラティリティが高いものと. (615). 93. 3 先行研究のレビュー. なっており,運用リスクを企業が取るのか,従 業員が自己責任で運用をするのか,といった視. 3―1 制度選択の研究. 点で DB プランと DC プランは区別することが. 英国では,2001 年からより時価会計に近い. できる.また,金利変動に対して,退職給付債. 会計基準 FRS17 が適用され,遅延認識から即. 務の増減を通して企業が財務的な影響を受ける. 時認識に変更したことを受けて,DB プランの. 程度は,CB プランは DB プランよりも小さい. 終了,凍結が進み,DC プランへの移行や保険. といえる.更に,終身年金か有期年金かによっ. 会社へのバイ・アウトが起こった.米国では. て,平均余命の延びに伴う長寿リスクに対して. 2000 年以降,これまで DB プランを提供して. 企業の抱えるリスクは異なってくる.. きた大企業を中心に DB プランの終了,凍結が. このように,年金制度の仕組みを構成する要. 進んでおり,既に企業年金の制度資産の規模は. 素毎に,企業が負担するリスクの程度を評価す. DC プランが DB プランを上回る水準になって. ることで,制度自体が持つリスクの水準を測る. いる.これには,株式市場の低迷,法制面の強. ことが可能になる.これまで,法的な側面や定. 化そして会計基準の変更が影響していると考え. 性的な尺度として,DB プラン,DC プランの. ら れ る.米国 で は,2000 年以降 の 株式市場 の. 特性が示されていたが,定量的な尺度での研究. 低迷により,積立不足が拡大して企業の掛金負. は行われていない.このため,企業年金の制度. 担が増加した.また,2006 年には年金保護法15). のリスク度合いを示す指標として「制度指数」. が適用され,DB プランについては最低積立水. を構築することで,企業の制度移行の方向性の. 準 が 90% か ら 100% に 引 き 上 げ ら れ,積立不. 示唆,企業間の制度比較を可能にすることが目. 足の償却期間は最長 30 年から 7 年に短縮が行. 的である.. われた.更に,2006 年に FAS158 が適用され,. ハイブリッド型についても,日本では CB プ. これまでオフバランスとしていた未認識債務を. ランが唯一の制度であるが,海外ではペンショ. 貸借対照表上にオンバランス表示することが求. ン・エ ク イ ティ・プ ラ ン,ターゲット・ベ ネ. められた.. フィット・プラン,フロア・オフセット・プラ. 企業年金の制度選択に関する先行研究として. ンなど様々な制度が開発されている.企業が. は,Kiosse et al.(2009)は,英国 で の 年金会. 従業員に提供する年金制度のパッケージとして. 計の変更が年金制度にどのような影響を与えて. は, わが国の制度ミックスは, まさにハイブリッ. いるかについて調査している.DB プランの凍. ド型といってよいであろう.そして,制度指数. 結,終了,移行は,財務報告も関係しているが,. は, ひとつひとつの制度を評価するのに加えて,. 主に掛金を制限したいという企業の希望によっ. 企業が提供する制度全体を評価する指標と位置. て起こされており,DB プランを提供するコス. 付けることができるであろう.. トの増加は,企業の資金拠出のボラティリィと. 本稿のアプローチは,第一に,年金制度をそ. 結びついて,DB スキームを衰退させている,. の仕組みからリスク分析し,制度指数として定. としている.. 量化する.これにより,複数の年金制度を適用. ま た,McFarland et al.(2009)は,2003 年~. している企業の年金リスクの大きさを計測でき. 2007 年に DB プランを凍結・閉鎖した米国の 82. るようになり,企業間の年金制度を比較するこ. の企業を対象に,企業価値が上昇したかを調査. とが可能になる.第二に,制度指数と財務情報. し,コアビジネスが変化する企業はプランを変. との関係を分析し,企業の制度選択の要因を明. 更する可能性が高く,DB プランを凍結・閉鎖. らかにする.. した企業は,DB プランを維持している企業よ.
(8) 94. (616). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 5 号(2011 年 1 月). りも,業績は低い.しかし,DB プランの凍結・. 3―2 リスク負担の研究. 閉鎖は企業価値に殆ど影響を与えていない,と. Hans Blommestein et al.(2009)は,オラン. 結論づけている.その理由としては,DC プラ. ダの年金制度について,企業が年金制度のリス. ン(401k プラン)に移行するので,DB プラン. クを事業主から加入者に移転する場合に,どれ. の凍結・閉鎖はコストの削減になっておらず,. だけの金額をその補償として支払うべきかを測. 財務の肯定的な面よりも,従業員のモラルや生. 定している.シミュレーションでは,既に発生. 産性などで否定的な面のほうが強いことなどを. している年金債務の 12% に当たる一括支払い. 挙げている.. と給与の 4% に当たる拠出率の引き上げが必要. 日本での先行研究としては,臼杵(2005)は,. だとしている.. DC プランの導入は積立比率の高い企業ほど導. また,Roy Hoevenaars et al.(2009)は,年金. 入を進めるという,財務リスク仮説の想定と. 制度の仕組みが内包する拠出の不確実性と給付. 逆の結論を導いている.積立比率が高く,移. の不確実性のトレードオフの関係を,プラン加. 行時に発生するコストが少ない企業が先行し. 入者から見た 2 つの基準から,どのような年金. て DC プランを導入していると考えられる.吉. 制度が規制環境,経済環境等に応じて魅力的で. 田(2007)は電気機械産業と商業を取り上げ,. あるか分析している.リスク分担の特性を評価. DB 採用企業 と DC 採用企業,キャッシュバ ラ. す る 基準 は,積立比率(資産/負債比率)と 代. ンス・プラン(CB プラン)採用企業に分類し,. 替率(給付/給与比率)として,インフレリス. DC 採用企業 の 積立不足 は 少 な く,CB 採用企. クと投資リスクに焦点を置いて確率的シミュ. 業の利益率が低いことを実証している.また,. レーションを行い,DB プランと DC プランの. 原田(2008)は企業年金二法に基づく DB 実施. 中間であるハイブリッド型年金が効率的かつ持. 企業と DC 実施企業の 2 分類に加えて,これら. 続可能なリスク分担の形態であると結論付けて. の 2 つの制度を採用している DB・DC 併用型. いる.. をカテゴリーとして,財務の比較をしている.. これらの先行研究では,一定の条件のもと,. DB・DC 併用型は DB 型と類似しており,DC. DB プランの価格付け等をシミュレーションし. 型とは異なると結論付けている.既に DB を導. ているものの,企業のリスク負担の水準と年金. 入している企業が,財務的要請から年金制度の. 制度との関係を十分に示してはいない.. 一部を DC へ移行していることが考えられる. 先行研究にみるように,企業の財務状況と年. 3―3 アセットミックスの研究. 金制度の選択との間には,一定の関係があるも. アセットミックス(政策アセットミックス). のの,企業が年金制度を選択する要因は明らか. は,中長期的な資産運用の基本方針として,各. になっていない.継続的に年金プランの提供を. 資産の期待リターン,標準偏差および資産間の. 続けることを前提に考えれば,一定時点の財務. 相関係数に基づいて導出した効率的フロンティ. 情報として捉えるのではなく,継続的なものと. アと,投資家のリスク許容度によって決定され. して利益の水準を評価し,そこから経営者は労. ている.Ibbotson et al.(2000) は, アセットミッ. 働の対価としての年金プランをどのように構築. クスはファンド・リターンのパフォーマンスの. していくのか,その内面に踏み込んでいく必要. 時系列変動性 の 90% を 決定 し,ファン ド 間 の. がある.また,DB プランと DC プランを企業. 平均リターンの違いの 40% を決定していると. がどのような割合でミックスして,独自のプラ. 分析しており,資産運用においてアセットミッ. ンを構築しているのかについて調査する必要が. クスの策定が極めて重要であることを示してい. ある.. る..
(9) 企業年金の制度ミックスに関する研究(毛海). (617). 95. そして,市場環境が変化し,期待リターン,. きる.一方,退職一時金は外部積立を行って積. 標準偏差,相関係数などの前提条件が変化する. 立金を市場運用する仕組みではないため,リス. こと,また資産運用の実現リターン等によって. ク負担としては高くないものとして位置付ける. 投資家のリスク許容度が変化することから,こ. ことができる.. れらの要因が意思決定プロセスにフィードバッ. このように,年金制度の種類毎に,リスク要. クされ,アセットミックスの見直しが行われて. 素のひとつひとつについて,企業のリスク負担. いる.. の度合いを評点すること,年金制度間の相対的. 本稿は直接アセットミックスを研究の対象と. な大小関係の比較を定量的に行うことが可能に. するものではないが,このようなアセットミッ. なる.本稿では,リスク要因として投資リスク. クスの見直しのプロセスと同様に,年金制度も. のほかに,金利リスク,インフレリスク,長寿. 企業の財務状況やリスク許容度の変化によって. リスク,年金・一時金の選択,掛金の変動リス. 中長期的な視点で制度選択が行われ,制度ミッ. ク,ガバナンス体制,給付減額,運営コスト,. クスが進展していると考えられる.. 転職者の対応の全 10 項目の要素を洗い出した.. 4 制度指数の構築. それぞれについて,企業のリスク負担の程度 を 5 段階(評点は 1 ~ 5)で評価を行い,全項. 4―1 考え方. 目の評点の合計を制度指数としている.また,. 企業年金の制度は,その仕組みから DB プラ. 年金制度 は DB プ ラ ン,厚生年金基金,CB プ. 16). ン ,厚生年金基金,CB プラン,適格退職年金,. ラ ン,適格退職年金,DC プ ラ ン,退職一時金. DC プランおよび退職一時金に整理されるが,. の 6 つの制度に分類している.(表 2 「スコア. 企業にとってどの程度のリスク負担を持つ制度. リング・シート(制度指数の構成要素と評点)」. であるのか,定量的に比較することが可能であ. を参照.). れば,リスク許容度を考慮して制度変更をする. 企業固有の制度ではなく,制度間の比較を行. ことが考えられる.. うために,制度指数の評価については,年金制. 本稿では,年金給付の確実性を担保するため. 度を熟知した研究者および実務家の有識者 6 名. に,企業が年金制度に対して負担するリスク量. によって実施している.具体的には,6 名に制. の程度を表す指標として「制度指数」を構築す. 度指数の考え方を説明した後,表 2 のスコアリ. る.制度指数を構成するリスク要因のひとつと. ング・シートに従って,各構成要素について制. して,投資リスクがある.投資リスクは,資産. 度毎に評点をしてもらった.そして,これらの. 運用から生じる資産価格の変動リスクであり,. 合計の平均値を制度指数として用いるものとす. 企業は期初に見込んだ運用実績を上げられなけ. る.. れば,期待運用収益と運用実績との差を未認識 債務として認識する必要がある.このことか. 4―2 制度指数の内容. ら,投資リスクはリスク要因を考える上で,重. 表 2 のスコアリング・シートで得られた点数. 要な要素といえる.DB プランでの投資リスク. から,制度指数を設定する.確定給付企業年金. は企業の負担が高く,DC プランでは従業員の. を狭義の DB プランとして位置付け,他の制度. 自己責任であることから企業の負担はないとい. を 確定給付企業年金 と の 相対的 な 指数 と す る. える.また,CB プランは債務の変動が DB プ. と,制度間の比較,距離感がわかりやすくなる.. ランと異なっており一般的には変動が小さいこ. 今回,確定給付企業年金のスコアリング合計は,. とから,投資リスクにも影響し,DB プランよ. 36.4 点であることから,これを基準(制度指数. りもリスク負担は小さくなると考えることがで. =100)として,各制度の制度指数を設定する..
(10) 長寿リスク. 年金・一時金の選択 年金,一時金の何れで給付を受け取るか. 掛金の変動リスク. ガバナンス体制. 給付減額. 運営コスト. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10 転職者の対応. インフレリスク. 3. 企業が 100% 負う. 2.0. 3.3. 3.1. 将来インフレがあった場合,老後保障の観点から給 インフレに対応してい インフレに対応して 付水準の低下が懸念される・・・インフレのほか,る(インフレスライド いない ポイント制の単価変更等を含む がある). 平均余命 の 延 び に 伴 う 給付負担 の 増加.終身年金 長寿リスクに対応して 長寿リスクに対応し か有期年金か. いる(終身年金である)ていない 年金での受給割合が高 年金での受給割合が い 低い. 2.5. 従業員の転職が企業にコスト増なる ( 新入社員等の 企業が負担するコスト 企業が負担するコス 再教育等 ) が高い トが安い. 100.0. 4.0. 制度管理のコスト,DC であれば投資教育(新規・ 企業が負担するコスト 企業が負担するコス 継続)にかかるコストを含む が高い トが安い. 制度指数 (DB プラン =100 とした場合の各制度指数). 4.2. 給付の確実性が低い. 給付が確実に行われる程度減額が懸念される場合 給付の確実性が高い は,リスクがあると推定. 36.4. 3.8. 年金委員会等 に よ り,年金制度 の 有効 な 監督 が で ガバナンスの仕組みが ガバナンスの仕組み きている 強い が弱い. スコアリング合計. 4.7. 企業は負わない(0%). 企業が 100% 負う. 4.5. 4.3. 債務の影響が小さい. 企業の掛金の変動リスクが高い. 企業年金の制度. 110.8. 40.3. 2.5. 4.3. 4.0. 4.5. 4.7. 4.7. 4.7. 2.0. 4.5. 4.5. 86.7. 31.6. 2.3. 3.7. 4.0. 3.8. 3.5. 2.8. 3.3. 2.2. 3.0. 3.0. 83.8. 30.5. 2.5. 3.3. 3.0. 2.7. 4.5. 1.7. 2.5. 1.7. 4.3. 4.3. 55.8. 20.3. 1.8. 2.7. 4.8. 1.8. 1.3. 1.8. 1.7. 1.7. 1.5. 1.2. 38.4. 14.0. 1.5. 1.5. 1.2. 2.0. 1.2. 1.0. 1.0. 1.5. 1.8. 1.3. DB プラン DC プラン 厚生年金基金 CB プラン 適格退職年金 退職一時金 (確定給付) (確定拠出). 企業は負わない(0%). 低 (1 点). (618). 金利変動に対して債務の増減が影響を受けやすい, 債務の影響が大きい または影響が抑制できる. 金利リスク. 2. 資産運用によって生じる資産価格の変動リスク. 内 容. 投資リスク. 構成要素. 1. No. 高 (5 点). 表 2 スコアリング・シート(制度指数の構成要素と評点). 指数は,企業側から見た企業が負担するリスク量の程度. 96. 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 5 号(2011 年 1 月).
(11) 企業年金の制度ミックスに関する研究(毛海). (619). 97. 表 3 制度指数の構成要素 企業年金の制度 No.. 構成要素. DB プラン 厚生年金基金 (確定給付). 投資リスク. 2. 金利リスク. ◎. 12.4. 3. インフレリスク. ●. 5.5. ●. 5.5. 4. 長寿リスク. 9.2. ◎. 12.8. 9.2. 5. 年金・一時金の選択. 8.5. ◎. 12.8. 7.6. 6. 掛金の変動リスク. 12.8. ◎. 12.8. 9.6. 7. ガバナンス体制. 10.5. 12.4. ◎. 10.5. 7.3. 8. 給付減額. 11.4. 11.0. ◎. 11.0. 9. 運営コスト. 11.0. 11.9. 10. 転職者の対応. ◎. ●. 6.9 100.0. 12.4. 適格退職年金. 1. 合計(制度指数). 11.9. CB プラン. 12.4. ●. 6.9 110.8. ●. ●. DC プラン (確定拠出) ●. 退職一時金. 8.2. ◎. 11.9. 3.2. 3.7. 8.2. ◎. 11.9. 4.1. 5.9. ●. 4.6. 4.6. 6.9. 4.6. ●. 2.7. ●. 4.6. 5.0. ●. 2.7. ◎. 12.4. ◎. 5.0 4.1. ●. 3.7. 8.2. ◎. 13.3. 3.2. 10.1. 9.2. ◎. 7.3. 4.1. 6.4. 6.9. 5.0. 4.1. 86.7. 83.8. 55.8. 38.4. 5.0. 3.2 ◎. 5.5. (記号の説明) ◎ 10 項目の内,上位 2 位までの項目.ただし,同順位がある場合は,上位 3 位までの項目. ● 10 項目の内,下位 2 位までの項目.ただし,同順位がある場合は,下位 3 位までの項目.. 結果については,同じく表 2 に記載している.. 金基金とは異なり,長寿リスク,年金・一時金. これによると,厚生年金基金は 110.8,CB プ. の選択は上位にはならず,金利リスクが上位に. ラン は 86.7,適格退職年金 は 83.8,DC プラン. なっている.CB プランはガバナンス体制,給. は 55.8,退職一時金 は 38.4 と い う 結果 で あ る.. 付減額が上位になっており,確定給付とは異な. 企業のリスク負担を軽減する観点では,DB プ. り金利リスクは上位にはなっていない.金利リ. ラン か ら DC プランへの移行が進むといえる. スクに対する債務変動が抑えられる仕組みであ. が,DC プランの制度指数は DB プランの 55.8%. ることが指数にも反映されている.DC プラン. であり,半分程度のリスク軽減にしかなってい. は,給付減額,運営コストが上位を占めており,. ないことがわかる.企業は,投資リスクや金利. 運用リスクと掛金の変動リスクは下位になって. リスクから解放されるなど財務リスクを軽減で. いる.加入者による運用実績が想定利回りに達. きるものの,企業が掛金の拠出を行い,制度管. しない場合,目標とした年金給付額を得ること. 理の維持にコストがかかることなどが要因であ. が出来ない点を反映している.このことは,企. る.. 業がリスク負担する義務が直接生じるわけでは. 次に,各制度の制度指数がどのように評価さ. ないものの,企業はこのリスクを認識して DC. れているかを分析する.. プランを導入・運営することが求められるとい. 表 3「制度指数 の 構成要素」は 10 項目 の 要. える.次に,インフレリスクは DB プランを初. 素のスコアリングの内訳を示したものであり,. めとして 4 つの制度で下位であり,日本の年金. 制度指数の内訳の数値が上位 2 位(または上位. 制度がインフレリスクに対応した仕組みには. 3 位)と下位 2 位(または下位 3 位)の要素に. なっていない状態を表している.. それぞれ記号を付与している. 厚生年金基金は,. このようにして求められる制度指数は,企業. 長寿 リ ス ク,年金・一時金 の 選択,掛金 の 変. は年金制度全体を評価する指標として,各制度. 動リスクが上位を占めている.一方,DB プラ. の制度指数に制度割合を乗じて算出することが. ンは一般には有期年金が多いことから,厚生年. できる..
(12) 98. 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 5 号(2011 年 1 月). (620). 企業年金の制度指数 = Σ制度 i の制度指数 . するために企業が負担するリスク量であること. ×制度 i の割合(i = 1 ~ n). から,財務力のある企業は制度指数の高い年金. ⑴ . プランを提供していると考えられる.退職給付 仮 に,A 社 が 制度 ミック ス の 企業 で あ り,. 会計導入後は,年金制度を提供しつづけること. DB プランを 70%,DC プランを 30% の割合で. は財務リスクのボラティリティを高めており,. ミックスしている場合は,A 社の制度指数は,. 短期的な視点から財務リスクの軽減を目的とし. 次の値で表現することができる.. て,DB プランから DC プランへ移行した企業 も多かったといえる.具体的には,財務力が比. A 社の制度指数 = 100.0(DB プラン) ×0.7. 較的弱く,未認識債務が大きい企業は,将来の. + 55.8(DC プラン) ×0.3. リスクとして株主資本が毀損するのを避けて,. = 86.7. DB プランの縮小を行ったと考えられる.. また,B 社が CB プランを 80%,DC プラン. 仮説 1 株主資本が強固である企業は,DB プ ランを維持する財務力があると考えら. を 20% の割合でミックスしている場合は,. れることから,株主資本比率が高い企 業の制度指数は大きい.. B 社の制度指数 = 86.7(CB プラン) × 0.8 + 55.8(DC プラン) ×0.2 = 80.5. 年金制度が企業財務に影響を与えるのであれ ば,企業は事業の収益性や持続性の観点から,. となる.A 社と B 社を比較した場合,A 社の ほうが広義の DB プラン. 17). 従業員への報酬体系である年金制度を移行・選. としては小さな割. 択する意思決定が働くと考えられる.退職給付. 合であり,DC プランの割合が大きく,DB か. 会計により,財務リスクのボラティリティが高. ら DC への移行が進んでいるとも考えられる. まっているのであれば,企業収益そのものが平. が,CB プランは DC 的な要素を含んでおり,. 準化している企業とボラティリティの高い企業. これらを制度指数として評価することで,制. とでは,年金制度の許容度が異なるはずであ. 度指数としては,A 社のほうが B 社よりも大. り,制度選択が違ったものになるであろう.企. きく,DB プランを維持する程度(リスク負担. 業利益については,定量的に観測できる平準化. 力)が高いといえる.一方,B 社は CB プラン. の程度のほか,利益の水準を示すものとして予. によって企業のリスク負担を軽減することで,. 測可能性,持続性,収益と費用の対応状況,株. 制度に対する耐久力が高まり,制度割合として. 価関連性の計 5 つの指標を用いて,企業の利益. は A 社よりも高い DB プラン割合を提供して. 指標と選択している制度指数との関連性を分析. いるといえる.このように,制度指数によって,. する.. 企業が制度ミックスの実施状態を定量的に評価 でき,企業間の相対的な比較が可能になる. 5 仮説の構築. 仮説 2 利益 の 平準化※ の 程度 が 高 い 企業 は, 年金制度のリスク負担能力が高く,制 度指数が大きい年金制度を提供してい. 企業年金の制度指数を利用して,企業の財務. る.(※他の利益水準の指標について. 情報との関連性を分析し,制度選択の要因を探. も,検証する.). 求する. 制度指数は,年金制度の給付の確実性を担保. 年金制度が従業員への報酬体系として効果が.
(13) 企業年金の制度ミックスに関する研究(毛海). あるものであれば,給付の確実性が高い年金制 度を提供している企業,つまり,制度指数の大 きい企業は,労働生産性が高いと考えられる. 仮説 3 制度指数の大きな年金制度を提供する 企業 は,労働生産性18)(従業員 1 人当 りの付加価値額)が高い. 市場環境 の 変化 や 退職給付会計 の 見直 し な ど,年金制度を取り巻く環境は厳しさを増して おり,制度改革は更に進展することが考えられ る.仮説 1 が正しければ,株主資本,利益等の 財務情報は,将来,企業が選択する制度指数と,. (621). 99. [横浜国大アンケート 2009] ・調査目的 企業年金の実態調査 全 47 問 ①退職給付制度 ②確定給付年金 ③確定拠出年金 ④退職給付会計 ・調査対象 年金基金および企業の年金担当 者への郵送によるアンケート調 査 ・件数 発送 1,945 件 回答 342 件 (回収率 17.6%) ・実施期間 2009 年 5 月 18 日~ 6 月 12 日. より強い関連性が見出せると考えられる.. 本調査の①退職給付制度のアンケートでは,. 仮説 4 制度指数の変更(増加または減少)は,. 月末),現在(2009 年 3 月末)および将来(今. 株主資本,利益等の財務情報と関連性 があると考えられ,株主資本比率が高 い企業は,制度指数の大きな年金制度 を維持し続ける. 6 リサーチ・デザイン 6―1 対象データ 横浜国大山口研究室 で は,2009 年 5 月~ 6 月に企業の年金制度の実情を正確に把握するた め に,退職給付 の 制度内容 や 運営実態等 の 調 査「企業年金実態調査アンケート」を企業年金 連絡協議会の協力を得て,同協議会の会員およ び東証 1 部上場企業に対して実施した.日本で は,年金制度の内容に関する統計データは加入 者数や資産規模など限られたものしかないこと から,本調査で企業毎の制度内容および制度割 合といった実態を明らかにするものである. 調査概要は次のとおりである. (以下, 「横浜 国大アンケート 2009」として取り扱う. ). 企業年金 の 制度変更 の 有無,過去(2005 年 3 後 5 年程度)の退職給付制度に占める各プラン の制度割合19)について個票での回答を 276 社 から得ている. 本稿の制度指数の分析は,横浜国大アンケー ト 2009 で 回答 の あった 企業 の 内,東証 1 部 上場企業,3 月決算 で あ り,2001 年 3 月期 か ら 2009 年 3 月期 ま で の 9 期連続 し た 財務諸 表 が 取得可能 で あ り,金融 を 除 く 業種 の 130 社 を 対象 と す る.財務諸表 データ,退職給付 データおよび注記情報等の財務データは,日経 NEEDS,東洋経済財務 カ ル テ,有価証券報告 書のデータを使用した.また,株価データは株 式分割等 の 調整後株価 を Yahoo ファイ ナ ン ス から取得して使用した. 各企業の制度指数は,一定時点のアンケート 結果である制度割合を基にして算出しているの に対して,財務情報は毎年の決算等の開示情報 である.年金制度を選択するには,人事政策の 見直し,制度設計や労使協議に相当な時間が必 要になること,また財務状況や市場環境の影響 も少なくないことから,制度選択と財務情報と の間にはタイムラグがあると推測できる.この ため,財務情報の変動が即座に制度選択を生じ させるとは限らず,一定時点の制度指数と複数.
(14) 100 (622). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 5 号(2011 年 1 月). 表 4 制度割合のアンケート結果 過去 (2005 年 3 月末). 現在 (2009 年 3 月末). 将来 (今後 5 年程度). 将来-現在 予想される制度移行. 厚生年金基金. 24.5. 8.4. 5.5. - 3.0. 確定給付(基金型). 27.8. 43.8. 44.2. + 0.4. 確定給付(規約型). 4.5. 8.8. 11.2. + 2.4. 適格退職年金. 12.8. 5.6. 0.9. - 4.7. 確定拠出年金. 4.0. 9.1. 15.5. + 6.4. 退職一時金. 25.8. 23.7. 21.0. - 2.7. その他. 0.6. 0.6. 0.9. + 0.2. 新しい制度. -. -. 0.9. + 0.9. 100. 100. 100. -. 採用している制度. 合計. ・回答数 339 の内,過去,現在,将来の制度割合の全てを回答されている 276 社について,制度割合の平均を表している.. 年の財務情報との関連性を分析することで実態. る.企業数の最も多い電気機器の内容をみると,. 把握が可能であると考えた.具体的には,2009. 業種平均 の 制度指数 は 77.2 で 9 番目 と なって. 年 3 月末 の 制度指数 に つ い て は,過去 4 年間. い る が,個社別 で は 最大 110.8(厚生年金基金. (2005 年 3 月期~ 2008 年 3 月期)の 財務情報. 100%),最小 56.9(CB プ ラ ン 30%,退職一時. との関連性を分析するものとする.. 金 70%)と幅がある.. 6―2 アンケート結果. 6―3 実証モデル. 表 4 に 「制度割合のアンケート結果」を示す.. ⑴ 制度指数と財務情報の関係. 過去と現在とを比較すると,アンケート結果全. 企業の財務状況によって年金制度の選択が考. 体としては,厚生年金基金から確定給付(基金. えられることから,財務の安全性,収益性,規. 型)への移行,適格年金から確定給付(規約型). 模,成長性の財務情報および年金制度の財務イ. および確定拠出への移行が読み取れる.現在の. ンパクトに係る年金情報と制度指数との関連性. 確定拠出(DC プラン)の占める割合は,9.1%. を次式で推定する.. に過ぎない 次に,図 3 に「採用している制度の数」を示. Plan index. す.厚生年金の代行返上以降,複数の制度を取. +β3 log(Asset) i,t-x +β4 Growth i,t-x. り入れる制度ミックスが定着していることが読. . み取れる.また,今後も制度ミックスの方向性. +β7 Cap_Unrecogi,t-x+εi,t-x. は強まることが予想される. . . 制度指数 に つ い て は,サ ン プ ル データ 130. 非説明変数 Plan index. 社 の 平均値 で,過去 79.8,現在 74.9 が 得 ら れ. おける制度指数であり,制度割合と各制度指数. る.また,130 社のうち 119 社は将来の制度割. か ら 算出 さ れ る 数値 で あ る.ま た,説明変数. 合の結果が得られており,制度指数は 72.8 と. Cap. なって い る.表 5 は「業種別 の 制度指数(現. 利益率,log(Asset)i,t-x は総資産を対数化した. 在,2009 年 3 月末) 」であり,業種別の平均値. 値,Growth. を求め,制度指数の大きい業種の順に並べてい. は従業員増減率,Funding. i,t. =α+β1 Capi,t-x +β2 Roa. +β5 Laborer. i,t-x. i,t-x. i,t. +β6 Funding. i,t-x. ⑵. は 企業 i の 時点 t に. は株主資本比率,Roa i,t-x. i,t-x. i,t-x. は総資産経常. は 売上高増減率,Laborer i,t-x. i,t-x. は年金資産の積.
(15) 企業年金の制度ミックスに関する研究(毛海). (623) 101. 㪈㪍㪇. 㪈㪉㪇. ណ↪䈚䈩䈇䉎ᐲ䈱ᢙ䋨ᐔဋ୯䋩. 㪏㪇. ㆊ. . ᧪. 䋱䋮䋹䋱. 䋱䋮䋹䋶. 䋲䋮䋰䋸. 㪋㪇. 㪇. 䋱⒳㘃. 䋲⒳㘃. ㆊ. 䋳⒳㘃. . 䋴⒳㘃. ᧪. ・回答数 339 の内,過去,現在,将来の制度割合の全てを回答されている 276 社について,採用 している制度数を表している.. 図 3 採用している制度の数. 表 5 業種別の制度指数(現在,2009 年 3 月末) No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12. 業種. 企業数 2 6 3 5 7 11 1 3 27 3 3 4. 小売業 食料品 倉庫・運輸・空運 卸売業 情報・通信業 化学 サービス業 医薬品 電気機器 繊維製品 金属製品 その他製品. 立比率,Cap_Unrecog. i,t-x. 制度指数 94.4 85.1 83.6 81.9 80.1 77.6 77.4 77.2 77.2 76.8 76.4 76.1. は未認識債務をバラ. ンスシートに即時認識した場合の株主資本の増. No. 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24. 業種 不動産業 建設業 精密機器 非鉄金属 ゴム製品 輸送用機器 機械 電気・ガス業 鉄鋼 水産・農林業 ガラス・土石製品 陸運業 全体平均. 企業数 1 8 4 4 2 15 10 2 5 1 1 2 130. 制度指数 75.3 73.1 72.5 70.8 69.1 68.4 68.1 68.1 67.7 62.6 62.6 61.2 74.9. 価関連性の 5 つの指標を用いて,制度指数と企 業の利益指標の関連性を分析する.. 減率である.株主資本に未認識債務を即時認識 した場合の税効果(税率 40%)を考慮した上で,. Plan index i,t =α+β1 Earning 1 i,t-x+β2 Earning 2 i,t-x. 修正株主資本とし,即時認識が株主資本に与え. . る影響を評価することができる.なお,εi,t-x. . +β5 Earning 5 i,t-x+β6 Log (Asset)i,t-x. は誤差項である.. . +β7 Fundingi,t-x+β8 Cap_Unrecog i,t-x. ⑵ 制度指数と利益指標の関係. . +εi,t-x . +β3 Earning 3 i,t-x+β4 Earning 4 i,t-x. ⑶ . 定量的に観測できる利益の平準化の程度,予 測可能性,持続性,収益と費用の対応状況,株. 利益指標20)については,それぞれ次の定義.
(16) 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 5 号(2011 年 1 月). 102 (624). とし,過去 4 年間のデータより算出する.. ⑹で推計されるβ1,i を Matching として定義す. ①平準化の程度(Earning 1). る.. 利益の平準化は,キャッシュフローの変動に 対して利益がどの程度安定しているかを示す指. Revenues i,t/Asset i,t =α0,j. 標であり,式⑷で推計される.Ei,t は当期純利. +β1,iExpenses i,t-1/Asset i,t-1+εi,t. ⑹ . 益から特別利益の金額を控除し,特別損失の金 額 を 加 え た 税引後経常利益 と し,発行済株式. ⑤株価関連性(Earning 5). 総数 の 期中平均 で基準化した数値である.税. 株式リターンをどれほど利益指標および利益. 引後経常利益(Ei,t)と 営業 キャッシュフ ロー. 変化で説明できるかを示す指標である.式⑺に. (CFOi,t)との標準偏差の比を指標として定義. よって 示 さ れ る.Return. i,t. は,当期 の 期初 か. する.この値が小さいほど,平準化の程度は高. ら期末の 3 ヶ月後までの計 15 ヶ月間の株式リ. いといえる.. ターン,Ei,t は 税引後経常利益,ΔEi,t は 税引 後経常利益の前期からの変化額,MVi,t-1 は前. Smoothness i,t =σ (Ei,t) /σ (CFOi,t) . ⑷ . 期末の株式時価総額を示している.利益にかか る推計係数であるβ1,i を株価関連性の指標とす. ②予測可能性(Earning 2). る.この指標が大きいほど株価関連性は高いと. 利益の予測可能性とは,過去の利益指標が現. いえる.. 在の利益指標をどれほど説明(予測)できるか を示す指標である.式⑸に基づいて推計される. Returni,t =α0,j+β1,iEi,t/MVi,t-1. 自由度調整済 み 決定係数 adj. R2 を 指標 と し て. +β2,iΔEi,t /MVi,t-1+εi,t. ⑺ . 2. 定義する.adj. R の値が大きく 1 に近いほど, ⑶ 労働生産性と制度指数の関係. 予測可能性が高いといえる.. 企業価値を示す被説明変数の指標として,労 Ei,t=α0,j+β1,iEi,t-1+εi,t. ⑸ . 働生産性(1 人当り付加価値額)を定義し,説 明変数 を 制度指数 Plan index. i,t. と し て,報酬. ③持続性(Earning 3). 体系としての年金制度の有効性について推定す. 利益の持続性とは,過去の利益指標が現在の. る.なお,労働生産性 Productivity. 利益指標にどの程度結びついているかを示す指. で基準化する.また,労働生産性は利益指標の. 標である.上記の式⑸に基づいて推計される. 影響を受けることから,説明変数として総資産. β1,i を指標として定義する.β1,i の値が大きく. 経常利益率 Roai,t-x を加えた上で,制度指数の. 1 に近いほど持続性が高く,ゼロに近いほど持. 影響を分析する.. i,t. は総資産. 続性は低いといえる. Productivity i,t =α+β1 Plan index i,t +β2 Roai,t-x ④収益と費用の対応状況(Earning 4). +β3 log (Asset)i,t-x+εi,t ⑻ . 収益と費用の対応の程度を示す指標であり, 対応の程度が高いほど利益の変動性が小さく,. ⑷ 制度指数の変化と財務情報の関係. 利益の質は高いといえる.Revenues. i,t は売上. 前述した制度指数と財務情報との関係を示す. 高,Expensesi,t-1 は 売上高 か ら 税引後経常利益. 式⑵を用いて,現在(2009 年 3 月末)と将来(今. を控除した額であり,各変数は期首と期末の. 後 5 年程度)との分析結果の比較を行う.将来. 総資産 の 平均値 Asset で 基準化 し て い る.式. の制度割合は,アンケート回答に基づくもので.
(17) 企業年金の制度ミックスに関する研究(毛海). (625) 103. あるが,実際に存在する値ではなく,回答企業. 大きい企業は,制度指数を引き下げる方向で,. の制度選択の方向性を示しているものである.. DB プランから DC プランへ移行することが考. 7 分析結果. えられる.. 7―1 基本統計量. 7―3 制度指数と利益指標の関係. 財務情報の基本統計量と相関係数を表 6 と表. 制度指数と利益指標との関係を OLS で回帰. 7 に示す.. 分析した結果を表 11 に示す.. また,利益指標の基本統計量と相関係数を表. 表 11 の Case 5,Case 6 を 見 る と,Earning. 8 と表 9 に示す.. 1(平準化)は係数がプラスで有意な結果が得 られており,利益の平準化の程度が高い企業(利. 7―2 制度指数と財務情報の関係. 益指標の値が小さい企業)は,制度指数が小さ. 制度指数と財務情報,年金情報との関係を最. いといえる.これは,仮説 2 とは異なる結果で. 小二乗法推定(OLS)で回帰分析した結果を表. ある.キャッシュフローの変化に対して利益が. 10 に示す. . 安定的な企業のリスク負担能力は高いと考えた. 表 10 の Case 1,では,株主資本比率 Cap は. が,安定性を持続するために,リスク負担を避. 係数がプラスで 1% 有意であり,制度指数を高. ける行動をとっていることが考えられる.. くする効果があることがわかる.財務力があり. 次 に,Earning 2(予 測 可 能 性)は Case 5,. 株主資本比率の高い企業は,年金給付の負担能. Case 7 で,また Earning4(収益と費用の対応. 力が高いことから,制度指数の高いプランを提. 状況)は Case 5,Case 9 に見るとおり,それ. 供することができるという仮説 1 と整合的な結. ぞれ係数がマイナスで有意な結果となってい. 果 が 得 ら れ た.従業員増減率 Laborer も 係数. る.翌期の収益に対する予測可能性が高い企業. がプラスで 10% 有意であり,給付の確実性の. は,市場環境などによって未認識債務項目が変. 高いプランを提供する企業に人材が集まってく. 動することを避けて,制度指数を引き下げる行. る面があると考えられる.. 動をとっているといえる.収益と費用の対応に. 一 方,売 上 高 増 減 率(成 長 率)Growth は,. ついても,予測が難しい財務リスクの変動を抑. Case 1,Case 3,Case 4 の い ず れ も 係数 が マ. 制する動きといえる.. イナスで,5% 有意または 1% 有意である.更. こ れ に 対 し て,Earning 5(株価関連性)は. に,総資産経常利益率 Roa は Case 2 で 係数 が. Case 5,Case 10 で係数がプラスで有意である.. マイナスで 1% 有意である.成長率,利益率の. 株価関連性の高い開示情報が適正に評価される. 高い企業は, それらを維持・向上させるために,. 企業は,年金制度に対する取り組み,開示が進. ボラティリティの高い年金制度からより負担の. んでおり,リスク負担の高い制度を提供できる. 少ない制度へシフトしていることが考えられ. と考えられる.Eaning 3(持続性)については,. る.このように,財務情報のストックとフロー. Case 5,Case 8 のいずれも有意な結果は得ら. とでは,制度指数に与える影響が対照的である. れなかった.. ことがわかった.. このように,制度指数と利益指標との間につ. 次 に,年 金 情 報 で あ る 積 立 比 率 Funding. いても,財務指標と同様に,利益水準を示す指. は 高 い ほ ど,即時認識時 の 株主資本増減率. 標の性質によって対照的な結果が得られた.. Cap_Unrecog が小さいほど,制度指数は高く, 給付の確実性の観点からあるべき状態と整合的 な結果が得られている.そして,未認識債務が.
(18) 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 5 号(2011 年 1 月). 104 (626). 表 6 財務情報の基本統計量 制度指数 Plan index. 株主資本比率 Cap. 総資産経常 利益率 Roa. 積立比率 Funding. 即時認識時の 株主資本増減率 Cap_Unrecog. 平均値. 74.85. 44.82. 6.34. 12.68. 7.63. 中央値. 75.33. 43.60. 5.79. 12.51. 5.91. 5.52. 66.04. 7.83. 2.63. 66.66. 最大値. 110.80. 89.48. 29.07. 17.30. 7.09. 284.90. 417.12. 151.99. 62.18. 最小値. 38.40. 6.71. -10.62. 9.91. -29.18. -56.27. 0.00. 標準偏差. 14.11. 18.59. 4.56. -46.12. 1.45. 16.64. 22.48. 26.85. 13.47. 積立比率 Funding. 即時認識時の 株主資本増減率 Cap_Unrecog. 総資産の対数化 売上高増減率 従業員増減率 Log(Asset) Growth Laborer. 表 7 財務情報の相関係数 制度指数 Plan index. 株主資本比率 Cap. 総資産経常 利益率 Roa. 総資産の対数化 売上高増減率 従業員増減率 Log(Asset) Growth Laborer. 制度指数 Plan index. 1.000. 株主資本比率 Cap. 0.173. 1.000. 総資産経常 利益率 Roa. -0.050. 0.412. 1.000. 総資産の対数化 Log(Asset). -0.052. -0.275. 0.096. 1.000. 売上高増減率 Growth. -0.090. -0.014. 0.252. 0.089. 1.000. 従業員増減率 Laborer. -0.014. 0.017. 0.144. 0.060. 0.785. 1.000. 積立比率 Funding. 0.293. 0.219. -0.029. 0.196. 0.027. 0.035. 1.000. 即時認識時の 株主資本増減率 Cap_Unrecog. 0.082. -0.279. -0.150. -0.026. 0.012. 0.033. -0.330. 1.000. 表 8 利益指標の基本統計量 制度指数 平準化の程度 予測可能性 Plan index Earning 1 Earning 2 平均値. 持続性 Earning 3. 総資産の 対数化 Log (Asset). 積立比率 Funding. 即時認識時の 株主資本増減率 Cap_Unrecog. 6.36. 12.68. 66.04. 7.83. 収益と費用 株価関連性 の対応状況 Earning 5 Earning 4. 74.85. 0.73. 0.02. 0.29. 1.06. 中央値. 75.33. 0.55. -0.10. 0.19. 1.06. 4.98. 12.51. 66.66. 7.09. 最大値. 110.80. 6.97. 1.00. 4.09. 2.90. 203.47. 17.30. 151.99. 62.18. 最小値. 38.40. 0.03. -0.50. -2.06. -0.65. -39.57. 9.91. 0.00. -46.12. 標準偏差. 14.11. 0.72. 0.49. 0.69. 0.36. 15.14. 1.45. 26.85. 13.47.
(19) 企業年金の制度ミックスに関する研究(毛海). (627) 105. 表 9 利益指標の相関係数 制度指数 平準化の程度 予測可能性 Plan index Earning 1 Earning 2 制度指数 Plan index 平準化の程度 Earning 1 予測可能性 Earning 2 持続性 Earning 3 収益と費用の 対応状況 Earning 4 株価関連性 Earning 5 総資産の 対数化 Log(Asset) 積立比率 Funding 即時認識時の 株主資本増減率 Cap_Unrecog. 持続性 Earning 3. 収益と費用 総資産の 株価関連性 積立比率 の対応状況 対数化 Earning 5 Funding Earning 4 Log(Asset). 即時認識時の 株主資本増減率 Cap_Unrecog. 1.000 0.105. 1.000. -0.099. 0.018. 1.000. -0.022. 0.036. 0.513. 1.000. -0.103. 0.041. 0.115. 0.234. 1.000. 0.023. -0.076. 0.172. 0.167. 0.048. 1.000. -0.052. 0.009. 0.196. 0.132. -0.014. 0.044. 1.000. 0.293. 0.032. 0.040. 0.078. -0.098. -0.101. 0.196. 1.000. 0.082. 0.028. -0.030. -0.055. 0.036. -0.033. -0.026. -0.330. 表 10 制度指数と財務情報 制度指数 Plan index. Case 1. Case 2. Case 3. Coeff. 65.548 69.793 74.275 定数項 t 10.637 43.547 14.228 c Prob. 0.000 *** 0.000 *** 0.000 *** Coeff. 0.102 0.177 株主資本比率 t 2.591 4.945 Cap Prob. 0.010 *** 0.000 *** Coeff. -0.136 -0.452 総資産経常 t 利益率 -0.885 -3.101 Roa Prob. 0.377 0.002 *** Coeff. -0.475 -0.952 総資産の対数化 t -1.054 -2.323 Log(Asset) Prob. 0.292 0.021 ** Coeff. -0.146 -0.163 売上高増減率 t -2.505 -2.890 Growth Prob. 0.013 ** 0.004 *** Coeff. 0.074 0.083 従業員増減率 t 1.778 1.982 Laborer Prob. 0.076 * 0.048 ** Coeff. 0.168 0.187 積立比率 t 6.940 8.139 Funding Prob. 0.000 *** 0.000 *** Coeff. -1.075 -0.971 即時認識時の t 株主資本増減率 -3.689 -3.375 Cap_Unrecog Prob. 0.000 *** 0.001 *** Observation 520 520 520 Adjusted R -squared 0.132 0.044 0.124 ***は 1%有意,**は 5%有意,*は 10 パーセント有意. Case 4 58.953 27.646 0.000 *** 0.101 3.128 0.002 ***. -0.164 -2.926 0.004 *** 0.079 1.909 0.057 * 0.165 7.236 0.000 *** -1.133 -3.916 0.000 *** 520 0.131. 1.000.
(20) 106 (628). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 5 号(2011 年 1 月). 表 11 制度指数と利益指標 制度指数 Plan index. Case 5. Case 6. Case 7. Coeff. 74.199 73.367 72.600 定数項 t 13.132 13.964 13.648 c Prob. 0.000 *** 0.000 *** 0.000 *** Coeff. 2.114 1.892 平準化の程度 t 2.626 2.340 Earning 1 Prob. 0.009 *** 0.020 ** Coeff. -3.112 -2.550 予測可能性 t -2.228 -2.099 Earning 2 Prob. 0.026 ** 0.036 ** Coeff. 0.467 持続性 t 0.469 Earning 3 Prob. 0.640 収益と費用の Coeff. -3.097 対応状況 t -1.869 Earning 4 Prob. 0.062 * Coeff. 0.088 株価関連性 t 2.235 Earning 5 Prob. 0.026 ** Coeff. -0.924 -1.048 -0.878 総資産の対数化 t -2.237 -2.562 -2.106 Log(Asset) Prob. 0.026 ** 0.011 ** 0.036 ** Coeff. 0.188 0.186 0.187 積立比率 t 8.101 8.091 8.139 Funding Prob. 0.000 *** 0.000 *** 0.000 *** 即時認識時の Coeff. -1.005 -0.977 -0.956 株主資本増減率 t -3.508 -3.389 -3.311 Cap_Unrecog Prob. 0.001 *** 0.001 *** 0.001 *** Observation 520 520 520 Adjusted R -squared 0.136 0.120 0.118 ***は 1%有意,**は 5%有意,*は 10 パーセント有意. 7―4 労働生産性と制度指数の関係 労働生産性と制度指数との関係を OLS で回 帰分析した結果を表 12 に示す. 表 12 の Case 11 で は 制度指数 Plan index は 係数がプラスで 1% 有意であり,Case 12 にお いても係数はプラスで 5% 有意である.制度指 数の大きい企業は,給付の確実性が高い年金制 度を提供しており,従業員のモチベーションを 向上させ,人的資本の活用を通して,労働生産 性を高めていることが明らかになった. もちろん,労働生産性の向上は,利益そのも のをあげることが不可欠である.7─3 節で,利 益指標と制度指数は必ずしも正の関係ではな く,利益の予測可能性が高い企業は制度指数を 下げる行動をとっていることが考えられる.ま. Case 8 74.284 14.093 0.000 ***. Case 9. Case 10. 78.024 14.075 0.000 ***. 74.397 14.191 0.000 ***. -0.617 -0.726 0.468 -3.051 -1.880 0.061. *. 0.064 1.660 0.098 * -1.010 -1.040 -1.088 -2.440 -2.538 -2.648 0.015 ** 0.012 ** 0.008 *** 0.189 0.184 0.192 8.149 7.953 8.284 0.000 *** 0.000 *** 0.000 *** -0.972 -0.987 -1.001 -3.354 -3.417 -3.459 0.001 *** 0.001 *** 0.001 *** 520 520 520 0.112 0.117 0.116. 表 12 労働生産性と制度指数 労働生産性 Case 11 Case 12 Productivity Coeff. 317.662 324.590 定数項 t 15.212 15.331 c Prob. 0.000 *** 0.000 *** Coeff. 0.388 0.361 制度指数 t 2.764 2.528 Plan index Prob. 0.006 *** 0.012 ** 総資産経常 Coeff. 1.878 利益率 t 4.308 Roa Prob. 0.000 *** Coeff. -25.065 -24.510 総資産の対数化 t -18.264 -17.641 Log (Asset) Prob. 0.000 *** 0.000 *** Observation 520 520 Adjusted R -squared 0.403 0.382 ***は 1%有意,**は 5%有意,*は 10 パーセント有意.
図
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