2009 年度 卒 業 論 文
ステイニングによる遮光を考慮した
ステンドグラスの影のシミュレートに関する研究
指導教員:三上 浩司 講師メディア学部 ゲームサイエンスプロジェクト
学籍番号
M0106344
中島 聡美
2009 年度 卒 業 論 文 概 要 論文題目
ステイニングによる遮光を考慮した
ステンドグラスの影のシミュレートに関する研究
メディア学部 氏 指導 学籍番号 : M0106344 名 中島 聡美 教員 三上 浩司 講師 キーワード ステンドグラス、ステイニング、3DCG、グリザイユ、影 本研究はステンドグラスを通して出来る影をシミュレートし、コンピュータグラフィッ クス(以下 CG)の表現の幅を広げることを目的としている。ステンドグラスは西暦 500 年頃から存在が確認されているガラス工芸の 1 種である。その歴史の長さから様々な形状 や製造技法があり、ステンドグラスは多種多様で、影もそれぞれ異なる。 CG によるステンドグラスの研究は、色や影を再現した様々な手法が既にあり、特に教 会のステンドグラスは多くの研究対象となっている。しかし、ガラスが内包している金属 の分布密度に関する研究や、ガラスや色ガラスが光を吸収する現象に関する研究はあって も、教会のステンドグラスの特徴とも言えるステイニング部分の影を考慮した研究はな い。ステンドグラスはステイニングしても見た目にはその明るさは変化しないが、室内に 取り入れる光量を調節する働きを持つため、影はステイニングしていないものに比べて暗 く出る。このステンドグラス本体の明るさは変わらずに、影の明るさのみが変化する現象 はステイニングを施したステンドグラスならではの特徴である。これらの現象は既存研究 では再現しておらず、よりリアルなステンドグラスの影を表現するにはステイニングを考 慮する必要がある。 本研究ではステンドグラス本体の見え方は変化せず、教会のステンドグラスの影の最も 特徴的なステイニングの表現に焦点を絞り、教会のステンドグラスの影をよりリアルに表 現することを目的とした手法を提案した。本手法ではステイニングによる影の明暗度合い を調査し、光が光源からステンドグラスに当たるまでをレイトレイーシング法によって、 光が不均一な凹凸面に当たった際に起こる光の分散を分散レイトレーシング法によって シミュレートした。また、ステイニングを施したステンドグラスの表現については、ステ イニングによる遮光度合い反映する 3 枚のテクスチャをフィルタとして通すことで表現し た。本手法で表現したステイニングを施したステンドグラスの影と、レイトレーシング 法やフォトンマッピング法と言った既存手法で生成したステンドグラスの影との比較検証 や、アンケートによる比較検証を行った結果、本手法の有効性を確認した。目 次
第 1 章 はじめに 1 1.1 研究背景と目的 . . . . 1 1.2 本論文の構成 . . . . 5 第 2 章 教会のステンドグラスの特徴 7 2.1 色ガラスの特徴と作り方 . . . . 7 2.2 グリザイユによるステイニング . . . . 8 2.2.1 線画き . . . . 9 2.2.2 塗り . . . 10 2.2.3 調子付け . . . 11 2.2.4 剥がし . . . 12 第 3 章 ステイニングによる遮光を考慮したステンドグラスの影の生成手法 14 3.1 レイトレーシング法による描画 . . . 16 3.2 ガラスによる屈折 . . . 17 3.3 ステイニング表現 . . . 18 3.3.1 色とハイライトの計算 . . . 19 3.3.2 遮光度合いの計算 . . . 20 3.4 分散の表現 . . . . 21 第 4 章 結果と考察 24 4.1 ステンドグラスの影の生成結果 . . . 24 4.1.1 既存手法との比較検証 . . . 26 4.1.2 調子付け表現の検証 . . . 28 4.1.3 塗り表現の検証 . . . 29 4.1.4 ハイライト表現の検証 . . . 30 4.1.5 アンケートによる検証 . . . 31 4.2 考察 . . . 31 第 5 章 まとめ 33 謝辞 35図 目 次
1.1 窓ステンドグラス . . . . 1 1.2 ステンドグラスランプ . . . . 2 1.3 ステンドグラスのオルゴール . . . . 2 1.4 聖イグナチオ教会のステンドグラス . . . . 3 1.5 細かなステイニングを施したステンドグラス . . . . 4 2.1 宙吹き技法の様子 . . . . 7 2.2 ステイニングを施したステンドグラス . . . . 9 2.3 図 2.2 の影 . . . . 9 2.4 グリザイユで線画きを施す様子 . . . 10 2.5 線画きを施したステンドグラス . . . 10 2.6 エマイユを施したガラス . . . 11 2.7 調子付けの画像 . . . 12 2.8 剥がしで模様を描いたステンドグラスの画像 . . . 13 3.1 ステンドグラスと光の入射、反射、拡散、透過、および吸収の様子 15 3.2 レイトレーシングの仕組み . . . 16 3.3 点光源を複数配置した本研究での光源 . . . . 17 3.4 屈折の様子 . . . . 18 3.5 色フィルタ . . . . 20 3.6 ハイライトフィルタ . . . . 20 3.7 遮光フィルタ . . . 21 3.8 確率モデルにより光が分散する図 . . . 22 3.9 確率分布 . . . 23 4.1 聖イグナチオ教会のステンドグラス . . . 25 4.2 図 4.1 の影 . . . 25 4.3 図 4.1 を模写したテクスチャ . . . 25 4.4 図 4.3 を使い本手法で生成した影画像 . . . 25 4.5 ステンドグラスモデルと本手法で生成した影の画像 . . . 264.6 ステンドグラスモデルとステイニングを考慮しないレイトレーシン グ法で生成した影の画像 . . . 27 4.7 ステンドグラスモデルとステイニングを考慮しないフォトンマッピ ング法で生成した影の画像 . . . 27 4.8 実際のステンドグラスの影の調子付け部分の拡大画像 . . . 28 4.9 本手法を用いた調子付け部分の影画像 . . . . 28 4.10 レイトレーシング法で生成した調子付け部分の影画像 . . . . 28 4.11 フォトンマッピング法で生成した調子付け部分の影画像 . . . . 28 4.12 実際のステンドグラスの影の塗り部分の拡大画像 . . . . 29 4.13 本手法を用いた塗り部分の影画像 . . . . 29 4.14 レイトレーシング法で生成した塗り部分の影画像 . . . . 29 4.15 フォトンマッピング法で生成した塗り部分の影画像 . . . . 29 4.16 実際のステンドグラスの影の剥がし部分の拡大画像 . . . . 30 4.17 本手法を用いた剥がし部分の影画像 . . . . 30 4.18 レイトレーシング法で生成した剥がし部分の影画像 . . . . 30 4.19 フォトンマッピング法で生成した剥がし部分の影画像 . . . . 30
第
1
章
はじめに
1.1
研究背景と目的
本研究ではステンドグラスを通して出来る影をシミュレートし、コンピュータ グラフィックス(以下 CG)の表現の幅を広げることを目的としている。 ステンドグラスは教会や寺院、大聖堂などでよく見るガラス工芸の 1 種である [1][2][3]。ステンドグラスは西暦 500 年頃には存在が確認されており、その美しさ から今日まで続く芸術になっている。またその歴史の長さからステンドグラスに は様々な形状や製造技法がある。近年では公共施設や一般家庭の小窓にステンド グラスを備えつけることが増えているが、他にもランプやオルゴール等、窓ガラ ス以外の用途もステンドグラスにはある。以下図 1.1、図 1.2、図 1.3 はそれぞれ窓 ステンドグラス、ステンドグラスランプ、ステンドグラスで出来たオルゴールの 画像である。 図 1.1: 窓ステンドグラス図 1.2: ステンドグラスランプ 図 1.3: ステンドグラスのオルゴール 窓やランプ等、ステンドグラスにはそれぞれ別の用途があり、また色ガラスの 材質や着色方法もそれぞれ異なる。ガラスには強度を高める材質や、美しさに秀 でた色合いを出す着色方法があり、用途により使用するガラスは変わってくる。こ のためステンドグラスは多種多様である。故にステンドグラスを通して出来る影 も多種多様である。 CG によるステンドグラスの研究は、色や影を再現した様々な手法が既にいくつ かある。光学的性質に基づいたステンドグラスのモデル化を目的とした Jiwon[4] の研究では、フォトンマッピング法 [5] を用いて光源からの光がステンドグラスの 内包する金属にどれくらい接触し発色するかをシミュレートしている。Jiwon の 研究では正確な光学的性質を持つステンドグラスモデルの確立を目的としており、 ステンドグラスの影には着目していないが、ステンドグラスを通した光の現象を 追った研究であるため同時に影の生成にも成功している。 Jiwon の研究ではステンドグラスを形成するガラスの厚みや光の屈折、またガ ラスが持つ光の吸収現象は考慮していない。これに対し Jung ら [6][7] の研究では、 光の屈折や体積吸収を考慮している。体積吸収とはガラスが光を吸収し、透過光 を減衰するガラスの特性等の光学現象のことを言う。この研究は体積吸収を考慮 することにより、より本物に近いリアルなステンドグラスのイルミネーションモ デルを生成することを目的とし、ガラスの厚みによる透過光の減衰と、特定の波 長が減衰する現象をシミュレートしている。Jung らはこの研究で最終的に影を作 る光の強さと色がどの程度になるのかをシミュレートし、ステンドグラスの色ガ ラスが持つ光学的な性質を CG で表現している。
しかし教会のステンドグラスをシミュレートするには、まだ考慮すべき特徴が ある。本来ステンドグラスとは、ステインしたガラスということが語源である通 り、焼付け色ガラスを意味する。ステインとは汚す、着色する、傷つけるなどの意 味である [8][9]。このような技法をステイニングというが、教会のステンドグラス はこのステイニングを施しているものがほとんどである。また教会や大聖堂のス テンドグラスは、装飾物としての役割だけではなく制作した当時の信者の教育と いう目的も持っている。図 1.4 はステイニングを施した聖イグナチオ教会のステン ドグラスである。 図 1.4: 聖イグナチオ教会のステンドグラス 実際のステンドグラスは、焼成するとガラス化する専用の顔料を用いて、ガラ スの表面にキリストや聖人たちの目鼻や表情、細かな髪の毛を描き表現している のが見てとれる [10]。図 1.5 は細かなステイニングを施したステンドグラスの写真 である。
図 1.5: 細かなステイニングを施したステンドグラス 教会のステンドグラスはほぼ例外なくステイニングを施してあるため、その表 現のためにはステイニングを考慮する必要がある。ステンドグラスはステイニン グをしていても見た目にはその明るさは変化しない。しかし、ステイニングには 室内に取り入れる光量を調節する働きがあり、このため影はステイニングをして いないものに比べて暗く出る。ステンドグラス本体の明るさは変わらずに、影の 明るさのみが変化する現象はステイニングを施したステンドグラスならではの性 質である。これらの現象は既存研究では再現していない。Jiwon や Jung らの研究 では主に色ガラスの光学的な性質に焦点をあて、CG のステンドグラスやステンド グラスの影を表現していたが、教会のステンドグラスには欠かせないステイニン グ部分の持つ特殊な着色度合いがなす影や、ステイニングによって影の明るさが 減衰する現象等は考慮しておらず、ステイニングが影に及ぼす特徴を表現してい ない。よりリアルな教会のステンドグラスの影を表現するには、このステイニン グを考慮する必要がある。 このことから、本研究ではステンドグラス本体の見え方は変化せず、教会のス テンドグラスの影の最も特徴的な部分の表現に焦点を絞り、教会のステンドグラ スの影をよりリアルに表現し、CG によるステンドグラスの表現力の向上を目的と して、ステイニングによる遮光を考慮したステンドグラスの影のシミュレートを
行った。光が光源からステンドグラスに当たるまでを 3.1 節で述べるレイトレイー シング法によって再現した。また光が分散し、影がぼんやりとした半影になる表 現は、3.4 節で述べる分散レイトレーシング法によって行った。これら既存の手法 に加え、本研究ではステイニングを施したステンドグラス部分の影を計算するに あたり、実際のステンドグラスの影を調査し、実際のものと同じの色の度合いや 光の透過度合いの情報を持った 3 枚のテクスチャから再現する手法を提案した。 一般的な CG のステンドグラスの色表現は、主にテクスチャを用いて表現する。 本研究でもステンドグラスそのものの表現については 3DCG モデルにテクスチャ を貼り付ける形で行った。一般的には影においても、このテクスチャに応じた色 等で表現する。本手法ではステンドグラスの影の色をテクスチャから色を所得す るだけでなく、実際のステンドグラスの制作工程に則った情報をテクスチャに持た せてステイニングによるステンドグラスの影を生成した。このテクスチャは、ス テイニングによる各工程に則った実際のステンドグラスの色の反映度合いや遮光 度合いを反映したものであり、このテクスチャが透過光を減衰するフィルタの役 割を持っている。本手法では光がステンドグラスを通過する際、このフィルタを 通すことによって、ステイニングによる遮光を考慮したステンドグラスの影を表 現した。 本手法で表現したステイニングを施したステンドグラスの影と、レイトレーシ ング法やフォトンマッピング法と言った既存手法で生成したステンドグラスの影 とを比較検証し、またアンケートによる比較検証を行った結果、本手法の有効性 を確認した。
1.2
本論文の構成
本論文の構成は以下の通りである。 第 1 章では研究背景と既存研究についてまとめ、本研究の意義を定義する。第 2 章では本研究で扱う教会のステンドグラスの特徴について述べる。色ガラスの特 徴と作り方、また教会のステンドグラスを扱うのに重要な要素であるステイニングについて提示し、本研究で扱う教会のステンドグラスの特徴をまとめる。第 3 章 では第 2 章で述べた特徴を加えたステンドグラスのモデルを用意し、ステイニン グを考慮したステンドグラスの影の生成手法を順に提案する。第 4 章にて第 3 章 で述べた手法を実装し、その生成結果と本物のステイニングを施したステンドグ ラスの影を比較したアンケートを取り、検証と考察を行う。そこで得られた問題、 展望を第 5 章に結論としてまとめる。
第
2
章
教会のステンドグラスの特徴
本章では本研究で扱う教会のステンドグラスの特徴について述べる。教会のス テンドグラス制作の詳細や、教会のステンドグラスを通して出る影にどのような 影響が出るのかを説明する。2.1
色ガラスの特徴と作り方
教会のステンドグラスは主に 11∼15 世紀に作られたものが多い。当時のステン ドグラス用の色ガラスは型を一切使わず、宙吹き技法という人の手と息のみで作 り上げる技法でガラスや色ガラスを生成した [11][12][13][14]。宙吹き技法とは、釜 で溶けたガラスをパイプに巻き取り、釜から出して固まるまでの数分の間にパイ プから人の息を吹き入れて溶けたガラスを膨らまし、思い描いた完成物になるま でその作業を繰り返しながら成形する技法である。図 2.1 は宙吹き技法によってガ ラスのグラスを生成する様子の画像である。 図 2.1: 宙吹き技法の様子溶けたガラスを素早く思い通りに成形しなければならない宙吹き技法は、制作 者の手と息によりガラスに入る気泡や波のような模様等、その都度違う物が出来 上がる。このため宙吹き技法で制作したガラスは、形が一様ではない。教会のス テンドグラスの多くがこの技法で制作しているため、同様に 1 枚のステンドグラ スであっても表面の凹凸や気泡の含有量は、各ガラスによって異なる。 またこの宙吹き技法は、溶けてパイプに巻き付いたガラスを風船のように膨ら まして鋳造するため、球体もしくは円柱体になる。このようにステンドグラスを 組み上げるために作るガラスのことをガラスピースと言う。この技術でステンド グラス用のガラスピースを作る際は、球体もしくは円柱体に形成されたガラスを 切り開き、再び熱することで平らなガラスピースにしていく。 この時ガラスは、窯の中の平らな場所で再度焼き上げることにより片面が平ら に近い状態になる。このため、ステンドグラスのガラスは片面が不均一な凹凸状 で、もう片面は平らなガラスとなる。教会のステンドグラスのような窓ステンド グラスに用いるガラスピースの場合は、室内から見た内側に凹凸面がくるように 設計し光を分散することで室内の光量を調節する。
2.2
グリザイユによるステイニング
教会のステンドグラスの制作に用いた当時の色ガラスは、非常に透明度の高い 石英ガラスで出来ている。このためガラスピースを鉛桟でつなげただけで作るス テンドグラスでは、様々な色ガラスから透過してくる光が干渉し合い、ステンド グラス自体がハレーションで見えにくくなるという問題があった。ステイニング には、この透過する光を抑制する役割がある。ステイニングを施した部分は光を 遮断する膜のような役割をし、ステイニングを施していないステンドグラスより も光量を落とす。このため、ステイニングを施していないステンドグラスの影は 光や色の強い影が現れ、ステイニングを施した影はステイニング部分の光や色が 弱くなり、より暗い影が現れるという違いが起こる。このステイニングは、今日 でも窓用ステンドグラスを作る際に、室内に入る光量を調節するためにステンドグラス制作者が行う重要な技術である。図 2.2 はステイニングを施したステンドグ ラスの画像である。図 2.3 は図 2.2 の影の画像である。 図 2.2: ステイニングを施したステンドグ ラス 図 2.3: 図 2.2 の影 教会のステンドグラスに施すステイニング用の顔料は、グリザイユと呼ばれる。 グリザイユとは本来、黒や茶、褐色など単色の調子だけで、浮彫のような立体感を みせる絵画技法のことを指す。絵画等で彩色前に影や縁の色を、単色の濃淡のみ で描き、その後その上から彩色していく画法である。ステンドグラス制作におけ るグリザイユとは、焼き上げることでガラス化する顔料のことを指すと共に、そ の顔料を用いてグリザイユ技法でステイニングを施すことも表す。以下、本論文 ではステンドグラスの製作工程に則り、ガラス化する顔料のことをグリザイユと 呼び、ステイニングについて述べる。
2.2.1
線画き
主に教会のステンドグラスを制作していた当時は、技術的に細かなガラスピー スを多く使った細かな表現が困難であった。このため人の表情や髪、輪郭線や服の皴等の細かな表現はグリザイユを使用して描いている。図 2.4 はグリザイユで線 画きを施している画像である。 図 2.4: グリザイユで線画きを施す様子 線画きではグリザイユを最も多く使用する。このため、線画きの多い部分の影 は暗くなる。図 2.5 はグリザイユで線画きを終えたステンドグラスの画像である。 図 2.5: 線画きを施したステンドグラス
2.2.2
塗り
ステンドグラスのステイニングは、主にステイニングを施すガラスの色を基調 として行う。しかし、透明なガラスにステイニングする場合や、表現が細か過ぎてガラスピースを用意出来ない場合には、発色を起こす顔料を使用して色を付け る。これをステイニングでは塗りと言う。ステイニングの塗りの場合はエマイユ という顔料を使用する。エマイユで塗りを施したガラスピースは、影の色もエマ イユの色になる。しかしこの塗りにより透過光は遮断され、エマイユを塗った部 分の影は、エマイユの色を反映した暗い影となる。図 2.6 はエマイユによって塗り を施したガラスの画像である。 図 2.6: エマイユを施したガラス
2.2.3
調子付け
線画きや塗りのみでステイニングしたステンドグラスも存在するが、人や動物 の絵の部分はさらに調子付けという工程が加わることが多い。調子付けとは黒や 灰色のような無彩色のグリザイユを用いて、濃淡や明暗の部分を描くことである。 絵になった際に影になる部分や丸みを持つ部分を、先に描くのがこの調子付けで ある。図 2.7 は調子付けを施したステンドグラスの画像である。調子づけによる梨 の丸みや葉の影に陰影が出ている。この調子付けした部分の影は調子の濃淡具合 に従って影の明るさも変化する。図 2.7: 調子付けの画像 また、この調子付けには古びという作業もある。古びとは、古いステンドグラス の修復や、古びた印象を持ったステンドグラスを制作する際、あえてガラスピー スが汚れたような表現方法をすることを言う。古びの表現は調子付けと同じく、無 彩色のグリザイユで行う。
2.2.4
剥がし
細かな線画きや濃淡、陰影と言ったステイニングはグリザイユなどの顔料で行 うが、明るさを表現するハイライトは剥がしによって行う。ステイニングでは、ガ ラス化した顔料部分を専用のペンや筆で削るように剥がし、ガラス本来の色を出 すことでステンドグラスのハイライトを表現する。この剥がし部分のステンドグ ラスを通した影は塗りや調子付け部分とは異なり、明るくなる。図 2.8 は剥がしを 施して模様を描いたステンドグラスの画像である。第
3
章
ステイニングによる遮光を考慮したス
テンドグラスの影の生成手法
本研究はステイニングを考慮した教会のステンドグラスの影の生成を目的とし ている。ステンドグラス制作者はステイニングによってステンドグラスの透過光 を抑制し、室内の調光を行っている。これをシミュレートすることで生成する影 の色や光の強さに現れる変化を表現する。本章ではステイニングを考慮したステ ンドグラスの影の生成手法について詳しく述べる。 ステンドグラスを見る際、グリザイユやエマイユと言ったステイニングを施し た部分と、ステイニングを施していない色ガラスのみの部分の明るさはほとんど 変わらないが、ステイニングを施した部分の影は暗く見える現象が起こる。この 現象は、ガラスに当たり入射した光が反射、拡散、透過、吸収の 4 つの成分に分 かれることにより起こる。図 3.1 はステイニングを施したステンドグラスに光が入 射した後、反射、拡散、透過、および吸収する様子を示した画像である。図 3.1: ステンドグラスと光の入射、反射、拡散、透過、および吸収の様子 光はステンドグラスに入射して、反射、拡散、透過、吸収を起こし、このうち透 過光が影をなす大半の成分となる。ステイニングを施したステンドグラスの場合、 ステイニングにより更に透過光が減衰し、生成する影の色や光の強さが変化する。 このため教会等のステイニングを施したステンドグラスの影をシミュレートする 場合は、光の入射位置に応じた透過光の減衰計算を行う必要がある。本研究でス テイニングによる遮光を考慮したステンドグラスの影画像の生成手法は、以下の 手順で行う。 1. 太陽を模した形に複数配置した点光源からレイを照射 2. ステンドグラスのガラス性質に基づきレイを屈折 3. ステイニング部分の判定およびステイニング部分の色取得 4. 剥がしによる色ガラスの光の透過率の取得 5. グリザイユの調子付けによる光の透過率の反映 6. 凹凸なガラスによる光の分散現象のシミュレーション 以下の節で個々の内容について説明する。
3.1
レイトレーシング法による描画
本手法では光の動きのシミュレートをレイトレーシング法 [15] で行う。図 3.2 は レイトレーシング法の仕組みを表した図である。 図 3.2: レイトレーシングの仕組み レイトレーシング法とは、視点から光源までの光を追跡する手法である。スク リーンの全ての画素に光を飛ばし、光が物体に当たった際、そこで物体の材質や 色、光の反射等を計算し、より写実的な描画を行う手法である。 この手法を参考にし、本手法ではステンドグラスの影が出来る部分をスクリー ンとし、光源から光の動きを追い、ステンドグラスに当たることで拡散、透過、吸 収と言った現象を経た結果のステンドグラスの影を生成する。この際、本手法で は光源である太陽を模した形に複数配置した点光源で行う。図 3.3 は点光源を複数 配置した図である。図 3.3: 点光源を複数配置した本研究での光源 窓ステンドグラスの光源は、地上から遠く離れたところに存在する太陽である。 太陽を光源とする場合、CG では平行光源や面光源と言った無限遠として捉える [16]。本研究では点光源 [17] を円形に配置し疑似的な面光源として実験を行う。
3.2
ガラスによる屈折
光はステンドグラス等の物質に入射する際、屈折する。屈折とは光が物質を通 過する際に、光が進路の向きを変える現象のことを言う。空気中を通る光がステ ンドグラスに入射する際、またステンドグラスから空気中に光が出る際にこの現 象は起こる。以下ではステンドグラスに当たった屈折光を求める。 光が屈折率の異なる物質に入射するとき、入射する光の角度と出て行く角度の 間にスネルの法則 [18] が成り立つ。 V を光の単位入射ベクトル、N をガラス面の 法線ベクトル、n1を空気の絶対屈折率、n2をガラスの絶対屈折率とする時、光の 単位屈折ベクトル R は式 (3.1) によって求まる。絶対屈折率とは、真空を 1.0 とし たときの物質固有の屈折率のことを指す。通常、空気中は真空と同様に扱うため、 空気中の屈折率を n1=1.0 とし、ステイニングを施したステンドグラスに使われ る石英ガラスの屈折率は n2= 1.45 とする [18]。図 3.4 は屈折現象の様子である。R = n1 n2 (V− (V · N) N) − N √ 1− ( n1 n2 )2( 1− (V · N)2) (3.1) 図 3.4: 屈折の様子
3.3
ステイニング表現
一般的な CG のステンドグラスの色表現は、主にテクスチャを用いて表現する。 影の色においても、テクスチャに応じた色で影を表現するのが一般的である。 本手法ではステンドグラスの影の色をテクスチャから色を所得するだけでなく、 実際のステンドグラスの制作工程に則った情報をテクスチャに持たせてステイニ ングによるステンドグラスの影を生成する。ステイニングを施すと、その部分は 調子付けや塗りによって光を遮断する。本手法ではこのステイニングによる各工 程から、実際のステンドグラスの遮光度合いを反映したテクスチャを用意し、そ のテクスチャに透過光を減衰させるフィルタの役割を持たせて、ステイニングに よる遮光を考慮したステンドグラスの影を表現した。 次に、本手法のステイニングの表現手法を述べる。まずステンドグラスを格子 状に分割する。次に、レイが格子状に分割された画素のどこに交差したかを判定 する。その際ステイニング部分にレイが交差したら、ステイニングの表現のため に用意した 3 枚のテクスチャから、交差した画素に線画き、調子付け、塗り、剥がしのステイニングが施しているかを計算し、最終的に影をなす色と透過光の輝度 を求める。本手法において用いる光の遮光度合いを反映したテクスチャのことを、 以降フィルタと呼ぶ。今回用意したフィルタは以下の 3 枚のフィルタである。 1. 色フィルタ 2. ハイライトフィルタ 3. 遮光フィルタ この 3 枚のフィルタからステイニングにより出来る影を表現する。各フィルタ の色とハイライトの計算は 3.3.1 項で、遮光度合いの計算については 3.3.2 項で詳 しく説明する。
3.3.1
色とハイライトの計算
ステイニングを施したステンドグラスを通過してきた透過光による影の色 P は、 色フィルタで表現する。この色フィルタは、ステイニングによる塗りを行わなかっ た画素を黒で塗り、黒い画素とレイが交差した場合は影にステイニングの色を反 映せず、ステイニングにおける塗りが行われている画素にレイが交差した場合は その画素の色を反映するためのフィルタである。この場合の黒は RGB 値をそれぞ れ 0 とする。 またハイライトフィルタは、ステイニングの剥がし部分の表現をするフィルタ である。黒い部分は剥がしによるハイライトを行ったガラス本来の色を反映させ る部分であり、画素内のハイライトの度合い h をハイライトフィルタの明度から 0∼ 1 の数値で取得し、以下の式 (3.2) から色を求める。なお、C は最終的に影と して出る色、G はガラス本来の色とする。 C = hP + (1− h) G (3.2)図 3.5 は今回検証用に用意したステイニング部分の色フィルタである。また、図 3.6 は今回検証用に用意したステイニング部分のハイライトフィルタである。これ らのフィルタを使って塗りと剥がしを表現する。 図 3.5: 色フィルタ 図 3.6: ハイライトフィルタ
3.3.2
遮光度合いの計算
グリザイユで調子付けした部分は、グリザイユを施した度合いにより影の明る さが落ちる。本手法ではこれを遮光フィルタで表現する。遮光フィルタはステイ ニングの線画き、調子付けの部分の表現をするフィルタである。黒い部分はグリ ザイユによる線画き、もしくは調子付けした部分の度合いを示す。また白い部分 はグリザイユによるステイニングを行っていない部分である。このため、レイと 交差する画素のフィルタの黒が強いほど遮光が起こり、影の明るさは落ちること となる。白い部分は遮光しない部分であり、光量はそのままとなる。 このフィルタではレイの交差した画素から線画き、調子付けがどの程度行われ たかの値 Ldを遮光フィルタの明度から 0∼ 1 の数値から取得し、グリザイユによ り吸収されなかった透過光 Ltに乗算する。これによりステイニング部分の光の透 過光の強さ Lf を決定する。以下が Lf を求める式 (3.3) である。また、I は 3.1 節 の各点光源の輝度を示し、D は次節にて説明する分散光の輝度を示す。Lf = Lt· Ld· D · I (3.3) 図 3.7 は今回検証用に用意したステイニング部分の遮光フィルタである。この フィルタを使って、遮光を表現する。 図 3.7: 遮光フィルタ
3.4
分散の表現
屈折を経て透過した光は、ガラスから空気中に出るが、本研究で扱うステンド グラスはこの面が凹凸になっており、これにより光は分散する。本研究では、光 の分散現象を分散レイトレーシング法 [5] にてシミュレートする。 分散レイトレーシング法とはレイトレーシング法の 1 つで、レイを凹凸面等の 分散を起こす物体の表面からランダムに複数本照射し、凹凸面等に光が当たる際 のリアルな表現や影等のぼやけを計算する手法である。本研究では、光が凹凸な ステンドグラスに当たり様々な方向に散る現象を、この分散レイトレーシング法 を使って表し、ステンドグラスの影をよりリアルに表現する。分散レイトレーシング法はレイの数が多いほど正確にシミュレート出来るが、レ イの数に比例して計算時間も多くなる。本研究ではステンドグラスの表面から 1 つ の画素に対してそれぞれ 1000 本のレイをランダムな方向に飛ばし、光の分散をシ ミュレートする。この際の 1 本のレイの輝度は I 1000である。I は 3.1 節の各点光 源の輝度とする。 また光はガラスの凹凸の度合いにより分散する。そのためスポットライト状の 範囲内にレイを 1000 本、それぞれランダムな方向に照射して、光の分散を表現し、 その範囲はステンドグラスの凹凸の度合いにより設定する。本研究ではステンド グラスの不均一な凹凸面の度合いを、確率現象を数学的に表現した確率モデルに て設定し、分散の計算に使用する。今回は不均一な凹凸面を持つモデルを表現す るために、凹凸の存在するガラス面を表す全画素各々に 6◦ ∼ 45◦の範囲で一様に ランダムな角度を、最大角と設定する。この 6◦ ∼ 45◦は実際のステンドグラスの 影と比較し、目視によって近似した。その最大角によるスポットライト状に広が る範囲内にレイを 1000 本、それぞれ一様なランダムな方向に照射する。図 3.8 は 確率モデルにより光が分散する図である。 図 3.8: 確率モデルにより光が分散する図 なおこの分散するレイの取りうる角度の確率分布は、0◦ ∼ 6◦の区間は一定の分 布率を取り、6◦ ∼ 45◦の区間は 6◦時の分布率を最大、45◦の時の分布率を最小と した分布である。図 3.9 は分散するレイの取りうる角度の確率分布のグラフ図であ
る。このため分散したレイは、分散する範囲の中心付近に集まる傾向がある。
第
4
章
結果と考察
本章では第 3 章で述べた手法によるステンドグラスの影画像の生成結果を示す。 本研究では、MetasequoiaLE [19] で作成した色ガラスモデルと枠モデルからなる ステンドグラスモデルに、テクスチャによってステイニングを施したモデルで検 証を行った。また実装は、3 次元グラフィックスツールキットである FK Tool Kit System[20] を使用して行った。 本手法の有効性を確かめるために、東京の四ツ谷にある聖イグナチオ教会の実 際のステンドグラスの影画像と、聖イグナチオ教会のステンドグラスの模写から ステイニング用のテクスチャを用意し、本手法にて生成したステンドグラスの影 画像との比較検証を行った。また、ステイニングを考慮していない既存手法であ るレイトレーシング法のみで生成した影画像と、フォトンマッピング法のみで生 成した影画像との比較検証を行い、本研究の有効性を確かめた。なお、フォトン マッピング法を行う際、モデリングには MAYA 2010 unlimited を使用し、mental ray でレンダリングを行った。この他にも、複数人によるアンケート検証も行った。 以下の節でその結果を述べる。4.1
ステンドグラスの影の生成結果
本節では、第 3 章で述べた手法を実装した結果を示す。図 4.1 は東京の四ツ谷 にある聖イグナチオ教会のステンドグラスである。図 4.2 は図 4.1 の影の画像であ
る。また図 4.3 は図 4.1 を模写して用意したテクスチャである。図 4.3 を使い本手 法で生成した影が図 4.4 である。 図 4.1: 聖イグナチオ教会のステンドグラ ス 図 4.2: 図 4.1 の影 図 4.3: 図 4.1 を模写したテクスチャ 図 4.4: 図 4.3 を使い本手法で生成した影 画像 以下の 4.1.1 項では本手法と既存手法との比較検証の結果を示す。また 4.1.2 項、 4.1.3 項、4.14 項ではステイニングによる調子付け、塗り、剥がし表現について、 本手法で生成した結果がステイニングによる遮光を表現出来ているか拡大画像を から比較検証する。
4.1.1
既存手法との比較検証
図 4.5 は本手法で生成したステンドグラスとその影画像である。図 4.6 はステイ ニングを考慮せずレイトレーシング法で生成したステンドグラスとその影画像で ある。図 4.7 はステイニングを考慮せずフォトンマッピング法で生成したステンド グラスとその影画像である。このフォトンマッピング法の影は本手法にて生成さ れる影に近い明るさになるように生成した。図 4.5 と図 4.6、図 4.7 はそれぞれ同 じステンドグラスモデル、ステイニング用のテクスチャ使っている。 図 4.5 と図 4.6、図 4.7 を比較すると影に違いがある。ステンドグラスモデル自 体の明るさはどれも同じであるが、現れる影の明るさには差がある。ステイニン グによる遮光を考慮した本手法の影は、既存手法であるレイトレイーシング法や フォトンマッピング法で生成した影より全体的に暗い印象となっている。フォトン マッピング法にて生成した影は、本手法の影に近い明るさで生成しているが、影 が明るくなる部分と暗くなる部分の差は明確になっていない。本手法ではこの影 の明暗が明確になっている。これは実際のステイニングを施したステンドグラス とその影の出来方と同じ現象を本手法が考慮し、表現出来たことを意味する。 図 4.5: ステンドグラスモデルと本手法で生成した影の画像図 4.6: ステンドグラスモデルとステイニングを考慮しないレイトレーシング法で 生成した影の画像
図 4.7: ステンドグラスモデルとステイニングを考慮しないフォトンマッピング法 で生成した影の画像
4.1.2
調子付け表現の検証
図 4.8 は実際のステンドグラスの影のグリザイユを多く施した部分の拡大画像で ある。図 4.9 は本手法を用いたステイニングの調子付け部分の影画像である。また、 図 4.10 はレイトレーシング法で生成した調子付け部分の影画像、図 4.11 はフォト ンマッピング法で生成した調子付け部分の影画像である。各画像中の赤い円で囲っ た部分が調子付け表現の部分である。 実際のステンドグラスでは、調子付けを茶色のグリザイユで行っている。レイ トレーシング法やフォトンマッピング法等の既存手法の場合、図 4.10 のようにス テイニングの基となっているテクスチャの色を影として反映してしまうため影は 茶色となる。本手法で生成した影画像は、実際の影と同じくステイニングに応じ て光量が落ち、調子付け部分の影は暗くなっている。 図 4.8: 実際のステンドグラスの影の調子 付け部分の拡大画像 図 4.9: 本手法を用いた調子付け部分の影 画像 図 4.10: レイトレーシング法で生成した 調子付け部分の影画像 図 4.11: フォトンマッピング法で生成した 調子付け部分の影画像4.1.3
塗り表現の検証
図 4.12 は実際のステンドグラスの影の塗りを多く施した部分の拡大画像である。 図 4.13 は本手法を用いたステイニングの塗り部分の影画像である。また、図 4.14 はレイトレーシング法で生成した塗り部分の影画像、図 4.15 はフォトンマッピン グ法で生成した塗り部分の影画像である。各画像中の赤い円で囲った部分が塗り 表現の部分である。 実際のステンドグラスでは、ステイニングで顔を表現している部分に肌色の塗 りと茶色の調子付けを施している。レイトレーシング法のみで生成した図 4.14 は 顔部分に塗った色のみを強く出してしまい、ハレーションを起こしたような結果 が出る。これに対し、フォトンマッピング法や本手法で生成した影画像は、実際 の影と同じくステイニングに応じて光量が落ち、顔部分の影が暗いものとなって いる。 図 4.12: 実際のステンドグラスの影の塗 り部分の拡大画像 図 4.13: 本手法を用いた塗り部分の影画像 図 4.14: レイトレーシング法で生成した 塗り部分の影画像 図 4.15: フォトンマッピング法で生成した 塗り部分の影画像4.1.4
ハイライト表現の検証
図 4.16 は実際のステンドグラスの影の剥がしを多く施した部分の拡大画像であ る。図 4.17 は本手法を用いたステイニングの剥がし部分の影画像である。また、図 4.18 はレイトレーシング法で生成した剥がし部分の影画像、また、図 4.19 はフォ トンマッピング法で生成した剥がし部分の影画像である。各画像中の赤い円で囲っ た部分が剥がし表現の部分である。 実際のステンドグラスでは、ハイライト部分に剥がしを施している。本手法で 生成した影画像は、既存手法の影画像に比べると実際の影と同じように光量が周 囲の影より増し、影が明るくなっていることがわかる。 図 4.16: 実際のステンドグラスの影の剥 がし部分の拡大画像 図 4.17: 本手法を用いた剥がし部分の影 画像 図 4.18: レイトレーシング法で生成した 剥がし部分の影画像 図 4.19: フォトンマッピング法で生成した 剥がし部分の影画像4.1.5
アンケートによる検証
本手法の有効性を検証するために、複数人によるアンケートを行った。まずス テイニングの簡単な知識と、本物のステイニングの施したステンドグラスの影の 画像を提示し、ステイニングを施したステンドグラスの影がどのようなものにな るのか、簡単に知識としてアンケート内に提示する。その後、既存手法による影 画像と、本手法による影画像を見比べどちらが本物のステイニングを施したステ ンドグラスの影に近い表現が出来ているかを設問とした。 以上のようなアンケートの結果、13 人中 10 人が本手法を選択し、有効性がある という結論が得られた。本手法を選んだ理由で最も多かった回答は「影の明るい 部分と暗い部分が本物に近いから」というものであった。これにより本手法では、 ステイニングによる遮光度合いが本物に近く表現出来てよりリアルな影であると 言える。 反対に本手法を選ばなかった場合の理由として多かったのが「はっきりとした 影が映っているから」という意見が多かった。ステイニングによって調光する現 象はアンケート内に知識として提示したが、そもそもステイニングを施したステ ンドグラスの影が暗くなることが一般的ではないことが関係していると推測した。 これは、既存手法によるはっきりした影のほうを選んだ人の多くが、アンケート内 で提示しているはずの本物の影画像を本物の影と認識していなかったようで、「本 物の影と比較したかった」と述べていることからも裏付けられる推測である。4.2
考察
本研究は 3 章の手法を用いて、線描き、調子付け、塗り、剥がしと言ったステイ ニングによる光量を制御するシミュレートを行った。本研究では実際のステンド グラスの影と、生成した影の画像を比較したことで、遮光や透過の度合いに微調 整を加え実際の影に近づけることに成功した。本手法では教会のステンドグラス によく見られるステイニング部分の影に視覚的な差を出し、より本物に近い教会のステンドグラスの影の表現を可能とした。
また、生成した結果とステイニングを考慮しなかった画像とを比較し、どちら がよりリアルに見えるかという簡単なアンケートを行ったところ、13 人中 10 人の 有効であるという回答を得られたことにより、本手法を用いたステンドグラスの 影の画像生成に関して有効性を確認が出来たと言える。
第
5
章
まとめ
本研究では教会のステンドグラスに焦点を絞り、ステイニングによる遮光を考 慮したステンドグラスの影のシミュレートに関する研究を行った。本研究ではス テンドグラスの影の色表現でテクスチャの色を反映するだけでなく、実際のステ ンドグラスの制作工程に則った情報をテクスチャに持たせて、ステイニングによ るステンドグラスの影を生成する手法を提案した。 本手法は一般的に CG でステイニングを施したステンドグラスを制作するのと 同じように、ステイニング部分をテクスチャで表現しつつ、先行研究では再現出 来ないステイニングによる線画き、調子付け、塗り、剥がしと言った透過光の遮断 現象を考慮している。本手法を用いることにより、ステイニング部分と色ガラス 部分との影に明るさの差を明確に表現し、ステイニングを施したステンドグラス の影がよりリアルに表現が可能となった。 今後の展望として、影の色情報の取得をテクスチャでからではなく波長から行 う手法があげられる。本手法ではステンドグラスの影の色をテクスチャから取得 している。しかし、本来のステンドグラスは光がガラスに当たり、ガラスの内包す る金属粒子に特定の波長が吸収され発色する。このため、影を作る透過光は金属 によって波長が変化したものであることになる。この現象を考慮することで、よ りリアルなステンドグラスの影を表現出来るだろう。 また、本手法はリアルタイム性に欠けている。写実的な表現が可能であるレイトレーシング法と分散レイトレーシング法は、計算に多くの時間を必要とする。こ のため並列化処理等を加える必要がある。影の生成時間を短縮させ、リアルタイ ムに CG によるステンドグラスの影が生成出来るようになれば、ゲームや映画等 のよりリアルな景観作りに貢献出来るだろう。
謝辞
本研究を締めくくるにあたり、研究の指針、手法、論文執筆に至るまでご指導 を頂きました本校メディア学部の渡辺大地講師、三上浩司講師に深く厚く御礼申 し上げます。 また論文に写真を掲載するにあたり快く承諾してくださいました、有限会社グ ラディスの皆様、スタジオガラス TANI の皆様、聖イグナチオ教会の皆様に厚く 御礼申し上げます。 そして手法の実現、実装に幾度となく相談に乗って下さった竹内亮太先輩、本 校大学院の先輩方、研究室のメンバーに心から感謝申し上げます。ありがとうご ざいました。参考文献
[1] ピーピーエス通信社, 世界のステンドグラス, ピエブックス出版,2009. [2] ステンドグラス∼ガラスが描く世界, http://www.stained9lass.com/
[3] 志田政人, ”ステンドグラスの絵解き‐フランス教会に見る光の聖書”, 日貿出 版社, 2009.
[4] Jiwon Shin, ”Modeling Stained Glass”,Swarthmore College,Department of Engineering,2005.
[5] Henrik Wann Jensen, 苗村 健 (訳), ”フォトンマッピング -実写に迫るコン ピュータグラフィックス-”, 2002.
[6] Jung-A Kim, Shihua Ming, Dongho Kim, ”A Realistic Illumination Model for Stained Glass Rendering”, 2007.
[7] Shihua Ming, Jung-A Kim, Kyung-kyu Kang, Xianji Li, Sung-yul Yim, Dongho Kim ”Realistic Illumination Model and Caustics Generation Method for Real-time Stained Glass Rendering”, 2008.
[8] 作花済夫, ”トコトンやさしいガラスの本”, 日刊工業新聞社, 2004. [9] 井上暁子, ”産地別 すぐわかるガラスの見分け方”, 東京美術, 2003.
[10] 志田政人, 草間幸子, ”様々な絵付け技法 伝統に学ぶステンドグラス ”, 日 貿出版社, 2007 [11] 作花済夫, ”ガラスハンドブック” , 朝倉書店, 1991. [12] D.G.HOLLOWAY, 大井喜久夫 (訳), ”ガラスの物理”, 共立出版, 1977. [13] 成瀬省, ”ガラス工学”, 共立出版, 1979. [14] 泉谷徹郎, ”光学ガラス”, 共立出版, 1987. [15] 千葉 則茂, 村岡 一信, ”C による CG レイトレーシング”, サイエンス社, 1997. [16] 西田友是, ”影を考慮した面光源による照度の計算とその表示法”, 照明学会誌 第 68 巻第 2 号, 1984. [17] 西田友是, ”コンピュータによる画像生成”, 大学教育出版による電子出版, 1995 改定, http://nis-lab.is.s.u-tokyo.ac.jp/nis/CG/cgtxt/index2.htm [18] 山口重雄, ”屈折率”, 共立出版, 1984.
[19] Osamu Mizuno, ”MetasequoiaLE R2.4”, http://www.metaseq.net/.
[20] 渡辺大地, ”Fine Kernel Tool Kit System”, http://fktoolkit.sourcefprge.jp/ .