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教育社会心理学に関する研究の動向と実践研究の課題

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Academic year: 2021

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(1)The Annual Report of Educational 太幡:わが国の教育心理学の研究動向と展望―社会 Psychology in Japan 2020, Vol. 59, 43-56. 社 会. 教育社会心理学に関する研究の動向と実践研究の課題 太 幡 直 也 (愛知学院大学). Trends in Educational and Social Psychology and Issues in Applied Field Research on Educational and Social Psychology NAOYA TABATA (AICHI GAKUIN UNIVERSITY). The purpose of this review is to provide an over view of recent research trends in educational and social psychology, as well as to develop the perspective that educational and social psychology should make social contributions. In the first half of the paper, poster presentations on educational and social psychology presented at the 61st Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology, and papers in educational and social psychology published in The Japanese Journal of Educational Psychology from July 2018 to June 2019, are reviewed. In the latter half of the paper, studies on applied field research in educational and social psychology published in The Japanese Journal of Educational Psychology from July 2016 to June 2019 are reviewed. Based on the findings of these reviews, future issues in conducting applied field research in educational and social psychology are discussed in terms of multifaceted analysis and measurement, the accumulation of knowledge, and publication biases. Key Words: educational and social psychology, applied field research, multifaceted analysis and measurement, accumulation of research knowledge, publication bias 本稿の目的は,教育社会心理学に関する研究の近年の動向を概観することと,教育社会心理学が社会的 貢献を果たしていくための視座を示すことであった。前半では,日本教育心理学会第 61 回総会における 教育社会心理学に関する研究,2018 年 7 月から 2019 年 6 月までの 1 年間に刊行された『教育心理学研究』 に掲載された教育社会心理学に関する論文を取り上げ,概観した。後半では,2016 年 7 月から 2019 年 6 月までの 3 年間に『教育心理学研究』に実践研究として掲載された論文の特徴を整理した。そして,今後 の課題を,多面的な分析や測定による検証,知見の積み重ね,出版バイアスへの対処の点から論じた。 キーワード:教育社会心理学,実践研究,多面的な分析や測定,研究知見の積み重ね,出版バイアス 本稿は,大きく 2 つのセクションで構成される1。前. はじめに. 半では,教育心理学領域の教育社会心理学に関する研. 本稿の目的は,教育心理学領域の教育社会心理学に. 究の近年の動向を,研究発表,論文を整理することで. 関する研究の近年の動向を概観することと,教育社会. 概観する。研究発表については,2019 年に開催された. 心理学が社会的貢献を果たしていくための視座を示す. 日本教育心理学会第 61 回総会 (以下,総会は「第 61 回総. ことである。本稿では,教育社会心理学に関する研究. 会」のように, 「第○回総会」と表記する)の発表論文集に収. を,弓削 (2013) の定義に基づいて,「教育に関する問. 録された教育社会心理学に関する研究発表を取り上げ. 題を,対人関係や集団過程及び社会制度にみられる心. 1. 理と関連づけて説明している研究」とする。 ―  ― 43. 本稿の構成は,村井(2017),山中(2018)を踏襲したもの である。.

(2) 教 育 心 理 学 年 報 第 59 集. る。論文については,2018 年 7 月から 2019 年 6 月ま. を独立した研究発表とみなした。. での 1 年間に刊行された『教育心理学研究』に掲載さ. 分類は,本稿の著者が,以下の手続きで行った2。ま. れた教育社会心理学に関する論文を取り上げる。後半. ず,小川(2016)の基準をすべて満たす研究を教育社会. では,教育社会心理学が社会的貢献を果たしていくた. 心理学に関する研究と判断し,それらの研究を,山中. めの視座を示すために, 『教育心理学研究』に「実践研. (2018)の枠組みを用いて分類した。具体的には,上位. 究」として掲載された教育社会心理学に関する論文の. カテゴリーの「課題の所在」を参照しながら,最下位. 特徴を整理し,今後の課題を考察する。. カテゴリーの「カテゴリー2」のいずれかに分類した。. 本稿では,それぞれの研究が教育心理学研究である. 研究内容が「カテゴリー2」の複数のカテゴリーに関わ. か否かを判断するにあたり,小川(2016)の基準を用い. ると判断した場合,タイトル,キーワード,内容を参. た。小川(2016)は,教育社会心理学に関する研究の基. 照し,何に主眼が置かれている研究であるかに着目し. 準として,弓削(2013)の定義を踏まえ,以下の 4 点を. て,1 つのカテゴリーに分類した3 4。. すべて満たすことを挙げた。すなわち,(a)教育に関 (b)教 連づけられた(関連づけられる)研究であること, 育対象としての幼児・児童・生徒・大学生,あるいは 教育に携わる者を研究対象としていること,(c)社会 的文脈(相互作用,対人関係,集団・組織過程,社会制度)で あること, (d)主たる関心が治療や援助ではないこと, の 4 点である。小川(2016)の基準は,近年の『教育心 理学年報』における教育社会心理学の判断基準として 用いられている(石田, 2019; 村井, 2017; 山中, 2018)。 また,教育社会心理学に関する研究を分類するにあ たり,山中 (2018) の枠組みを用いた。山中 (2018) は, 『教育心理学年報』の社会領域における研究を分類する ために用いられてきた枠組みを,枠組みの階層化・構 造化とカテゴリーのタームの適切化を目指して構成し 直した。山中 (2018) の枠組みは,それぞれの研究を 「課題の所在」の点で,「児童・生徒・学生等にある課 題」 , 「教員・学校等にある課題」,「文化・社会等にあ る課題」の 3 つの課題に分類し,さらに,それぞれの 課題ごとに, 「研究対象の水準」と,具体的内容を示し た下位カテゴリーに分類するものである。山中(2018) の枠組みは,その後の『教育心理学年報』における研 究の分類にも用いられており(石田, 2019),近年の動向 を比較するために有用であると考えられる。. 第 61 回総会における研究発表の動向 本稿の前半では,教育心理学領域の教育社会心理学 に関する研究の近年の動向を概観する。最初に,第 61 回総会の発表論文集に収録された教育社会心理学に関 する研究発表を整理する。第 61 回総会では,計 521 件 の研究発表がエントリーされ,うち 7 件が取り消しと なった。発表が成立した 514 件について, 「社会」部門 にエントリーされた研究発表のみならず,すべての研 究発表を分析対象とした。なお,一連発表については, 目的が異なる研究発表が見受けられたため,それぞれ. 分類に揺らぎがみられる可能性を考慮し,1 回目の分類から 約 2 週間後に再度分類した。514 件の研究発表について, 「カテ ゴリー2」への分類の一致率は 91.2%であった。分類が一致し ない研究発表は,キーワードや研究内容を再確認し,最終的に カテゴリーを決定した。 3 村井(2017),山中(2018),石田(2019)など,これまでの 『教育心理学年報』の著者が述べているように,それぞれの研 究が教育社会心理学に関する研究であるか否か,どのカテゴ リーに分類すべきかに迷ったケースもたびたびみられた。した がって,分類結果には本稿の著者の主観が反映されている可能 性を排除できないことを考慮されたい。 4 『教育心理学年報』の著者による判断基準の揺らぎを減らすこ とは,教育社会心理学に関する研究の動向を概観するにあたり, 年度間の比較の精度を高めるために重要であると考えられる。 『教育心理学年報』の読者のみならず,本稿以降の『教育心理学 年報』の著者が,研究発表,論文を整理することで概観する際に 有益であると考え,村井(2017) ,山中(2018)など,分類に 迷ったケースをどのように対処したのかを記載している論文に倣 い,本稿の著者が迷った主なケースを記載する。まず,社会心理 学的研究であるか否かに迷った主なケースとして,以下の 2 点を 挙げる。(a)「社会」部門にエントリーされていた研究発表には, 社会心理学的研究ではあるものの,教育に関連づけられる程度が 薄い研究発表がみられた。しかし,村井(2017)の記述に基づき, 教育心理学会で発表されている以上,教育にまったく関わらない わけではないと判断し,教育社会心理学に関する研究発表とみな した。 (b)教室で展開されるアクティブ・ラーニングの要素を含 んだ研究発表は,山中(2018)の記述に基づき,他者との相互作 用が含まれていると判断し,教育社会心理学に関する研究である とみなした。続いて,どのカテゴリーに分類すべきかに迷った主 なケースとして,以下の 3 点を挙げる。 (c)授業実践に関する取 り組みは,データを収集する対象が児童・生徒・学生からデータ を収集している研究発表は「カテゴリー2」の「授業(一般) 」か 「授業(対話的学び) 」に,教員からデータを収集している研究発 表は「カテゴリー2」の「授業実践」に分類した。ただし,山中 (2018)の記述に基づき,児童・生徒・学生からデータを収集し ていても,教員の問題が検討されていると判断できる研究発表は 「カテゴリー2」の「授業実践」に分類した。 (d)授業実践に関す る取り組みのうち,例えば「社会的スキル」のような, 「カテゴ リー2」にカテゴリーが存在する内容に関する研究発表は,その カテゴリーに分類した。 (e)親子を対象としている研究発表のう ち,親子関係・家族関係のあり方に関する研究発表以外は, 「対 人感情」など,他の適するカテゴリーに分類した。 2. ―  ― 44.

(3) 太幡:わが国の教育心理学の研究動向と展望―社会. Table 1 過去 3 年間の日本教育心理学会総会における教育社会心理学に関する研究の発表テーマと件数 2017 年(第 59 回総会) 課題の 所在. 研究対象 の水準. カテゴリー1. カテゴリー2. カテゴ リー2 件数. 対人行動. 4 6 2. 12. 情動・社会性 能力・コンピテ 認知・思考 ンシー レジリエンス. 8 8 1. 17. %. 2018 年(第 60 回総会). 研究対象の 水準 件数. %. カテゴ リー2 件数. カテゴ リー1 件数. 4.0. 4 8 5. 17. 5.6. 6 2 6. 14. %. 研究対象 の水準 件数. %. 2019 年(第 61 回総会) カテゴ リー2. カテゴ リー1. 件数. 件数. %. 5.9. 1 13 6. 20. 7.9. 4.9. 8 0 6. 14. 5.6. 原因帰属・認知の歪み等. 7. 7. 2.3. 0. 0. 0.0. 3. 3. 1.2. 態度・信念. 5. 5. 1.7. 1. 1. 0.3. 2. 2. 0.8. 14. 4.6. 15 0. 15. 5.2. 8 0. 8. 3.2. 19. 6.3. 40. 13.9. 7. 2.8. 74. 24.5. 87. 30.3. 学習活動. 動機づけ・学習方略 学業ストレス. 12 2. キャリア活動. 進路・キャリア 教員養成・教育実習(保育 士養成・保育実習). 10. 友人との関係. 友人に対する認知,感情, 行動. 13. 13. 4.3. 8. 8. 2.8. 9. 9. 3.6. 教員との関係. 教員に対する認知,感情, 行動. 12. 12. 4.0. 4. 4. 1.4. 10. 10. 4.0. 社会的スキル ソーシャルサポート 対人葛藤・対人ストレス 対人的相互作用 対人感情 攻撃行動 援助行動・援助要請 授業. 授業(一般) 授業(対話的な学び). 集団適応 学級適応・学校適応 集団行動 生徒指導上の問 いじめ 題行動 不登校 集団事象 個人の心 個人内過程 理過程. 教員・学 対人行動 教育実践活動 (対人過程) 校等にあ る課題 教育実践活動 集団行動 (集団過程). 集団規範・役割構造・空間 行動・部活動 教員等の専門性と育成 教 員 等 の 態 度・信 念・ビ リーフ 教員等のストレス 子ども理解 教員等の指導・支援行動 保護者対応 学級経営・クラス運営 学校組織 授業実践 学校行事 連携・協働. 防災教育 僻地教育 社会教育 現代的教育諸課 性教育 題 障害理解 定時制高校 大学教育 文化・社 会にある 課題. 件数. 自己実現・自己形成 自己・パーソナ 自尊感情・自己肯定感 リティ パーソナリティ. 個人の心 社会的認知 理過程 社会的態度. 児童・生 徒・学生 等にある 課題. カテゴ リー1. 9. 18 3 2 8 4 6. 41. 3 26. 29. 16 24. 13.6. 10 3 7 11 5 8. 44. 9.6. 0 24. 24. 66. 10. 10. 3.3. 12 3. 15. 5.0. 5. 5. 1.7. 59. 3 1. 6 2 2 1 8. 19.5. 15.3. 9 2 1 7 3 9. 31. 12.3. 8.4. 1 15. 16. 6.3. 56. 16. 16. 5.6. 13 6. 19. 6.6. 4. 4. 1.4. 9 9. 3.0. 5 10 19 2. 21.9. 3. 19. 10.3. 5 15 2. 6.3. 5 3 2 0 8. 63. 19.5. 22.0. 15. 15. 6.0. 12 2. 14. 5.6. 6. 6. 2.4. 11. 4.4. 3 19. 6.6. 7 31. 4 3. 4 4. 7.7. 3 23 3. 29. 11.5. 6.3. 4 3 6 5 6. 24. 9.5. 5. 1.7. 3 0 3 2 5 0 1. 14. 5.6. 4 1. 5. 2.0. 22. 18. 3 1 1 1 3 1 3. 13. 4.3. 1 0 3 0 1 0 0. 11 1. 12. 4.0. 2 1. 3. 1.0. 4. 1.3. 2. 2. 0.7. 1. 1. 0.4. 5.0. 7 3 2 0 0 0. 4.2. 8 1 2 2 0 0. 13. 5.2. 身近な人間関係. 親子関係・家族関係 恋愛関係. 文化. 国際文化比較・異文化交流. 4. インターネット ジェンダー 社会問題・社会 ボランティア・アルバイト 病理 防犯 貧困 中期キャリア危機. 5 4 3 1 1 1. 15. 教育社会心理学発表件数(%) 302(47.1%) 総発表件数 641 注) 2017 年については山中(2018) ,2018 年については石田(2019)から転記した。. ―  ― 45. 12. 287(49.5%) 580. 252(49.0%) 514. 研究対象 の水準 件数. %. 54. 21.4. 50. 19.8. 51. 20.2.

(4) 教 育 心 理 学 年 報 第 59 集. 以上の手続きによって,第 61 回総会の 514 件の研究. 会はともに 26 件 (大久保, 2015) と,年によって変動が. 発表を分類した結果,教育社会心理学に関する研究で. 大きいカテゴリーである。したがって,第 61 回総会の. あると判断された研究発表は 252 件であり,全発表の. 動向が一過性のものに過ぎない可能性も考えられる。. うちの 49.0%を占めた。この割合は,第 59 回総会,. 一方,その他のカテゴリーについては,多少の変動. 第 60 回総会とほぼ同等であった。. はあるものの,第 61 回総会は,第 59 回総会,第 60 回. 次に,252 件の研究発表について,山中(2018)の枠. 総会の分類結果と大きく異なる傾向はみられなかった。. 組みにしたがって分類,集計した結果を Table 1 に示. したがって,大まかにみると,少なくともここ 3 年間. す。なお,併せて,山中(2018)の枠組みで分類された,. は,総会における研究発表の動向は類似していると解. 第 59 回総会,第 60 回総会の結果も示す。第 61 回総会. 釈できる。. におけるそれぞれの研究発表をみると,「課題の所在」. 最後に,第 61 回総会の研究発表について,研究内容. に関しては, 「児童・生徒・学生等にある課題」に関す. や研究手法を俯瞰した結果を述べる。研究内容につい. る発表件数が 155 件で最も多く,全体の 61.5%を占め. ては,比較的新しい構成概念に着目した研究がいくつ. た。次いで, 「教員・学校等にある課題」に関する発表. かみられたものの,多くの研究発表では,これまでの. 「文化・社会にある課題」に関 件数が 64 件 (25.4%),. 総会での研究発表でも着目されてきた構成概念が扱わ. する発表件数が 33 件(13.1%)であった。第 61 回総会. れていた。教育という枠組みの中では,研究対象とな. では, 「児童・生徒・学生等にある課題」に関する発表. る構成概念は,ある程度限定されるためだと想定され. 件数の割合が最も多いことは,第 59 回総会,第 60 回. る。研究手法については,これまでの総会での研究発. 総会と同様であった。しかし,その割合は,第 59 回総. 表と同様に,研究の目的や着目する構成概念に応じて,. 会,第 60 回総会よりもやや少なかった。. 質問紙法,実験法,面接法,観察法などの方法が採用. 課題の所在ごとに最下位カテゴリーの「カテゴリー. されていた。このうち,質問紙法が用いられた研究で. 2」の発表件数をみると,「児童・生徒・学生等にある. は,行動や心理現象が生起する過程を検討するため,. 課題」で多かったカテゴリーとして,「個人の心理過. 構造方程式モデリング (structural equation modeling: 以下. 程」の「自尊感情・自己肯定感」(13 件),「対人行動」. SEM) によって複数の構成概念間の関連を分析する研. 「友人に の「教員に対する認知,感情,行動」(10 件),. 究が多くを占めていた。近年の総会での研究発表では,. 対する認知,感情,行動」(9 件),「社会的スキル」(9. 分析において SEM が用いられている研究が,教育社. 件), 「援助行動・援助要請」(9 件), 「集団行動」の「授. 会心理学に関する研究に限らず,教育心理学に関する. 業 (対話的な学び)」(15 件),「学級適応・学校適応」(15. 研究全般に広くみられるようになってきた。SEM が広. 件), 「いじめ」(12 件)が挙げられる。次に, 「教員・学. く使われるようになった背景として,統計ソフトで. 校等にある課題」で多かったカテゴリーとして, 「対人. SEM による分析を行うことが容易になったことや,. 「集団行 行動」の「教員等の指導・支援行動」(23 件),. SEM を平易に紹介する書籍が増えたことが挙げられる。. 「連携・協働」(6 件)が挙げ 動」の「授業実践」(6 件),. SEM による分析を用いた研究が増大している近年の動. られる。最後に, 「文化・社会にある課題」で多かった. 向を受け,SEM の安易な利用に警鐘を鳴らす動きもみ. カテゴリーとして,「現代的教育諸課題」の「障害理. られる。例えば,第 61 回総会では, 「SEM は心理学に. 解」(5 件),「社会問題・社会病理」の「インターネッ. 何をもたらしたか?」という研究委員会企画のシンポ. ト」(8 件)が挙げられる。. ジウムが開催され,SEM の適切な利用方法について議. 第 61 回総会における研究発表を整理した結果を概観. 論されている。. すると,「カテゴリー2」に関して第 59 回総会,第 60 回総会と比べた特徴的な違いとしては, 「進路・キャリ ア」 , 「教員養成・教育実習(保育士養成・保育実習)」のカ. 『教育心理学研究』における教育社会心理学に 関する論文の概観. テゴリーに分類された研究発表が少なかったことが挙. 続いて,2018 年 7 月から 2019 年 6 月までの 1 年間. げられる。ただし,山中(2018)の枠組み以前に用いら. に刊行された『教育心理学研究』に掲載された教育社. れていた枠組みによる研究発表の分類結果を参照する. 会心理学に関する論文を紹介する。対象期間には, 『教. と,上記のカテゴリーに対応すると考えられる「進. 育心理学研究』第 66 巻第 3 号から第 67 巻第 2 号が刊. 路・キャリア」,「教職志望・教育実習」のカテゴリー. 行され,20 編の論文が掲載された。この 20 編につい. は,第 55 回総会は 8 件と 5 件(及川, 2014),第 56 回総. て,小川 (2016) の基準,山中 (2018) の枠組みに基づ. ―  ― 46.

(5) 太幡:わが国の教育心理学の研究動向と展望―社会. いて,本稿の著者が,第 61 回総会の分類と同様の手続. 象に質問紙調査を実施し,学級機能の認知を 3 クラス. きで分類した。. ターに分類している。そして,学級機能の認知によっ. その結果,教育社会心理学に関する論文であると判. て,内的作業モデルが登校拒否感情に及ぼす影響が異. 断された論文は 11 編であり,全体の 55.0%を占めた。. なっていたことを示している。加えて,学級機能の認. それぞれの論文をみると,「課題の所在」に関しては,. 知にかかわらず,愛着スタイルの回避性が高いほど登. 「児童・生徒・学生等にある課題」が 7 編,「教員・学. 校回避感情が高かったことを報告し,学級機能を高め. 校等にある課題」が 2 編,「文化・社会等にある課題」. ても,回避性の高い生徒の登校回避感情を低減させる. が 2 編であった。最下位カテゴリーの「カテゴリー2」. ことは困難である可能性があると結論づけている。大. でみると,「児童・生徒・学生等にある課題」は,「学. 沢・橋本・嶋田(2018)は,小中学生を対象として,笑. 級適応・学校適応」が 2 編,「動機づけ・学習方略」,. 顔刺激に対する注意バイアスを修正する訓練によって,. 「社会的スキル」, 「対人感情」,「攻撃行動」,「援助行. 集団ソーシャルスキルトレーニングの有効性が異なる. 動・援助要請」がそれぞれ 1 編であった。 「教員・学校. か否かを検討している。質問紙による自己評定によっ. 等にある課題」は,2 編とも「授業実践」であった。. てソーシャルスキルを測定し,注意バイアスを修正す. 「文化・社会等にある課題」は, 「防災教育」, 「性教育」. る訓練を実施した群のみ,集団ソーシャルスキルト. がそれぞれ 1 編であった。以下,それぞれの論文の概. レーニング後に向社会的スキルが増加していたことを. 要を,掲載された順に簡単に紹介する。. 報告している。佐々木(2018)は,中学生を対象として,. 第 66 巻第 3 号に掲載された論文については,以下の. 性の多様性に関する授業によって同性愛やトランス. 通りである。池田(2018)は,青年期における母親との. ジェンダーに対する嫌悪が低下するか否かを検討して. かかわり方と母親に対する感謝の関連を検討している。 いる。質問紙による自己評定によって同性愛やトラン 中学生から大学生を対象に質問紙調査を実施し,母親. スジェンダーに対する嫌悪を測定し,性の多様性に関. に対する感謝を 4 つのクラスターに分類している。そ. する授業を実施した群のみ,嫌悪の減少がみられたこ. して,クラスター間で母親とのかかわり方を比較し,. とを示している。山中(2018)の枠組みの「カテゴリー. 母親に対する感謝の仕方によって,母親とのかかわり. , 2」でみると,中井(2018)は「援助行動・援助要請」. 方が異なっていたことを示している。神崎・サトウ. ,大沢他 﨑田・髙坂(2018)は「学級適応・学校適応」. (2018) は,ボランティアとの協働を通した不登校者の. (2018)は「社会的スキル」 ,佐々木(2018)は「性教育」. 学級復帰の支援体制づくりを検討している。不登校者. に分類される論文である。. を受け入れてきた高校においてボランティアとしての. 第 67 巻第 1 号に掲載された論文については,以下の. 参与観察を実施し,ボランティア,コーディネーター,. 通りである。水野・日高(2019)は,グループ間の学級. 教師といった,支援者の役割を分析している。そして,. 内の地位と学校適応間の関連に,学級レベルの変数(学. 不登校者の学級復帰における支援者の役割分担につい. 級風土,グループ間の地位におけるヒエラルキーの強さ) によ. て考察している。山中(2018)の枠組みの「カテゴリー. る影響がみられるか否かを検討している。中学生を対. 2」でみると,池田(2018)は「対人感情」,神崎・サト. 象に質問紙調査を実施し,グループ間の地位の差が顕. ウ(2018)は「授業実践」に分類される論文である。. 著な学級,すなわちヒエラルキーが強い学級の場合,. 第 66 巻第 4 号に掲載された論文については,以下の. 高地位グループの生徒ほど,課題や目標の存在による. 通りである。中井(2018)は,担任教師との関係に関す. 充実感が高い傾向がみられたことを示している。住. る動機づけと教師への援助要請の関連を検討している。 田・森(2019)は,小学校の算数科授業における児童の 中学生を対象に質問紙調査を実施し,担任教師と関わ. 深い概念理解を促すペア学習中の相互作用過程を検討. る動機づけによって,担任教師に対する相談行動の利. している。小学校 4, 5 年生の算数問題解決のペア学習. 益・コストの予期,担任教師に対する相談行動が異. 中の発言の種類から,児童の発話タイプを 3 クラス. なっていたことを示している。また,担任教師と関わ. ターに分類している。そして,ペア学習前後の算数課. る動機づけ,相談行動の利益・コストの予期,相談行. 題の得点を比較し,調節的発話の発言が多い協調タイ. 動の関連は,性別によって異なることを示唆する結果. プ群の児童の得点の上昇が大きかったことを示してい. を示している。﨑田・髙坂(2018)は,学級機能の認知. る。また,発話の内容分析によって発話をタイプ分け. の仕方によって,内的作業モデルが登校拒否感情に及. し,発話のタイプと発話の推移との関連を検討してい. ぼす影響が異なるか否かを検討している。中学生を対. る。豊沢・元吉・竹橋・野田(2019)は,小学校 2 年生. ―  ― 47.

(6) 教 育 心 理 学 年 報 第 59 集. を対象として,危険予測と対処行動を学ぶ防災教育の. 対象期間に『教育心理学研究』に掲載された教育社. 有効性が認められるか否かを検討している。豊沢他. 会心理学に関する論文を整理した結果を概観すると,. (2017) で作成された教材を使用して対象となる児童に. 全体としては,教育社会心理学に関する研究であると. 防災教育を実施している。そして,質問紙による自己. 判断された論文の割合が 55.0%と高いことが挙げられ. 評定や自由記述の内容分析によって危険予測と対処行. る。この割合は,大久保 (2015) で示された,2005 年. 動に対する理解度を測定し,防災教育の有効性が認め. 以降の『教育心理学研究』に掲載された論文のうちの. られたことを報告している。また,児童が危険だけで. 教育社会心理学に関する論文の割合と比べて高かった。. はなく行動の仕方を具体的に学ぶようにすることや,. したがって,大久保 (2015) が指摘する,『教育心理学. 保護者と連携した取り組みを展開することの重要性を. 研究』における教育社会心理学に関する論文が減少し. 論じている。山中 (2018) の枠組みの「カテゴリー2」. ているという傾向は,対象期間には当てはまらないと. でみると,水野・日高 (2019) は「学級適応・学校適. いえる。そこで,大久保(2015)の指摘以降の動向を確. 応」 ,住田・森 (2019) は「授業実践」,豊沢他 (2017). 認するため, 『教育心理学研究』に掲載された論文のう. は「防災教育」に分類される論文である。. ちの教育社会心理学に関する論文を網羅的に概観して. 第 67 巻第 2 号に掲載された論文については,以下の. いる村井(2017),山中(2018)において,教育社会心理. 通りである。金綱・濱口(2019)は,中学生を対象とし. 学に関する論文であると判断され,研究内容の概要が. て,攻撃行動に対する善悪判断に与える要因を,善悪. 紹介されている論文の割合を算出した。その結果,村. 判断の判断理由を含めて検討している。質問紙調査を. 井 (2017) の報告した『教育心理学研究』第 63 巻第 3. 実施し,攻撃の動機や攻撃の種類によって,善悪判断. 号から第 64 巻第 2 号では 22.5% (40 編中 9 編) であり,. が異なっていたことを示している。そして,いじめ抑 止に向けた指導や学級運営について議論を展開してい. 大 久 保 (2015) の 指 摘 と 整 合 し て い た。一 方,山 中 (2018) の報告した第. 64 巻第 3 号から第 65 巻第 2 号は. る。伊藤・垣花(2019)は,他者に向けた説明をする状. 51.1%(47 編中 24 編)であり,対象期間の割合に近かっ. 況によって,説明者自身の理解促進に与える影響に違. た。 『教育心理学研究』に掲載された論文のうちの教育. いがみられるか否かを検討している。大学生を対象に,. 社会心理学に関する論文の割合に期間ごとに差がみら. 統計学の「カイ二乗検定」を学習材料として,説明者. れた理由として,まず,それぞれの論文を教育心理学. の学生が聞き手の学生に説明する状況を設定した。そ. 研究であるか否かを判断した者の判断基準の違いが反. して, 「聞き手が内容を知らない状況で教えるために説. 映された可能性が考えられる。日本教育心理学総会に. 明する群」に割り当てられた学生の方が, 「聞き手も内. おける研究発表のうち,教育社会心理学に関する研究. 容を知っており,自分自身の理解確認のために説明す. であると判断された研究発表の割合は,第 54 回総会で. る群」に割り当てられた学生に比べ,事後テストの得. は 27.4% (弓削, 2013),第 60 回総会では 49.5% (石田,. 点が高かったこと,意味付与的説明が多かったことを. 2019) であり,総会によって. 報告している。山中(2018)の枠組みの「カテゴリー2」. また,別の理由として,研究のトレンドの変遷による. 20%以上の違いがある。. でみると,金綱・濱口(2019)は「攻撃行動」,伊藤・. 影響がみられた可能性,大久保(2015)の指摘を受けて. 垣花(2019)は「動機づけ・学習方略」に分類される論. 『教育心理学研究』に教育社会心理学に関する論文が多. 文である。. く投稿,掲載されたことが反映された可能性も考えら. なお,村井(2017)は,心理学研究一般に供するとい. れる。以上のことから, 『教育心理学研究』に掲載され. う理由で,尺度作成を主眼とする論文についても紹介. る教育社会心理学に関する論文の割合が今後どのよう. していることから,尺度作成を表題に含めた論文 1 編. に変化していくか,長期的にみていく必要があると考. も紹介する。山岡・湯川(2019)は,マインドワンダリ. えられる。. ング(現在行っている課題や外界の環境から注意がそれて,自己. 次に,教育社会心理学に関する論文であると判断さ. 生成的な思考を行う現象) 傾向の個人差を測定する尺度を. れた 11 編の論文で採用されている方法をみると,主な. 作成するため,大学生を対象に質問紙調査を実施して. 変数が質問紙,調査用紙によって測定されている論文. いる。そして,意図的マインドワンダリング,非意図. が 8 編みられ,72.7%を占めた。ここ数年の動向でも,. 的マインドワンダリングの 2 つの下位尺度で構成され. 『教育心理学研究』における教育社会心理学に関する論. る尺度を作成し,尺度の信頼性と妥当性を検証してい. 文には主な変数が質問紙,調査用紙によって測定され. る。. ている論文が多いことが指摘されており (石田, 2019; 村 ―  ― 48.

(7) 太幡:わが国の教育心理学の研究動向と展望―社会 井, 2017),対象期間も同様の傾向がみられたといえる。. するにあたり,最近の動向を明らかにするため,総会. また,対象期間の特徴としては, 「文化・社会等にある. における研究発表の動向の概観と同様に,対象期間を. 課題」に着目した「実践研究」の論文が複数みられた. 過去 3 年間とする。すなわち,2016 年 7 月から 2019. ことが挙げられる。該当する論文は,心理学の知見や. 年 6 月までの 3 年間に刊行された『教育心理学研究』. 方法論を,ジェンダー(佐々木, 2018),防災教育(豊沢他,. 第 64 巻第 3 号から第 67 巻第 2 号を対象期間とする。. 2019)といった,教育に関する問題解決に応用すること. 第 64 巻第 3 号から第 66 巻第 2 号までの論文は,山中 (2018) ,石田 (2019) で教育社会心理学に関する研究と. を試みた実践例として位置づけられる。. して紹介された論文を取り上げる。第 66 巻第 3 号から. 『教育心理学研究』に「実践研究」として掲載 された教育社会心理学に関する論文の特徴. 第 66 巻第 2 号までの論文は,本稿の著者が先に紹介し た論文を取り上げる。. 本稿の後半では,教育社会心理学が社会的貢献を果. 対象期間に『教育心理学研究』に「実践研究」とし. たしていくための視座を示すために,『教育心理学研. て掲載された 22 編の論文のうち,教育社会心理学に関. 究』に「実践研究」として掲載された教育社会心理学. する研究であると判断された論文は 13 編であり,全体. に関する論文の特徴を整理し,今後の課題を考察する。 の 59.1%を占めた。それぞれの論文について,「ター 『教育心理学研究』の「実践研究」のカテゴリーは,. ゲットとなる心理的事象」 , 「対象者」 , 「研究数」 , 「ト. 1999 年に創設され,心理学的視点からの教育実践とし. レーニング的介入の実施(実施している場合は実施方法と実. て実施された研究を扱う論文を掲載することをねらい. 施期間も)」 ,「質的分析の実施」,「量的分析の実施」,. としている。実践とは,辞書的な意味としては「理論. 「関連する後続研究5」の 7 つの観点に着目し,本稿の. や理念を行動に移すこと」であり,心理学においては. 著者が,それぞれの論文の特徴を整理した。結果を. 心理学的な知見を社会的な問題解決に応用する取り組. Table 2 に示す。以下,それぞれの観点ごとに特徴を概. みを実際に行うことである。 『教育心理学研究』に「実. 観する。. 践研究」として掲載された論文は,教育に関する問題. ターゲットとなる心理的事象. 解決のための取り組みを扱う論文であると位置づけら. 児童・生徒・学生等に関する心理的事象を扱った論. れる。国内の心理学系の学会誌においては, 『教育心理. 文は 9 編,教員・学校等に関する心理的事象を扱った. 学研究』の「実践研究」と類似したカテゴリーは,日. 論文は 4 編であった。日本教育心理学総会における近. 本応用心理学会が刊行する『応用心理学研究』の「実. 年の研究発表において,山中(2018)の枠組みの「課題. 践報告」など,数少ない。. の所在」に関して, 「児童・生徒・学生等にある課題」. 本稿において, 『教育心理学研究』に「実践研究」と. に関する発表が「教員・学校等にある課題」よりも多. して掲載された教育社会心理学に関する論文に着目し. いことと対応していると考えられる。. た背景として,近年,心理学の知見を社会的に還元す. 対象者. ることが重視されるようになっていることが挙げられ. 児童・生徒・学生等を対象者とした論文は 9 編,教. る。例えば,心理学評論刊行会が刊行する『心理学評. 員を対象者とした論文は 4 編であった。児童・生徒・. 論』では, 「社会のための心理学」という特集が組まれ,. 学生等を対象者とした論文では,小学校低学年から,. さまざまな領域における社会貢献のあり方について議. 大学生,大学校の学生と,対象者はさまざまである。. 論されている(坂本, 2017)。この特集の中で,教育心理. ターゲットとなる心理的事象や,リサーチクエスチョ. 学の社会貢献についても,実践性の視点から議論され 『教育心理学研究』に「実践研究」 ている(鹿毛, 2017)。. 5. として掲載された論文は,特に実践性の高い論文であ ると位置づけられる。したがって,教育社会心理学の 「実践研究」の近年の特徴を整理した上で実践研究の課 題を議論することで,教育社会心理学に関する知見を, よりよいかたちで教育に関する問題解決に応用するた めの視座を示すことができると考えられる。 本稿では, 『教育心理学研究』に「実践研究」として 掲載された教育社会心理学に関する論文の特徴を整理 ―  ― 49. 「関連する後続研究」を探すにあたり,本稿の著者が,以下 の 2 つの方法で,論文,研究発表を検索した。そして,タイト ル,キーワード,本文の内容,引用文献から,関連する後続研 究とみなせるか否かを判断した。 (a)電子ジャーナル公開シス テムの J-STAGE(https://www.jstage.jst.go.jp/browse/-char/ja), 学術論文情報データベースの CiNii(https://ci.nii.ac.jp/)で,著 者名,論文名を検索した。 (b)2019 年度に開催された,教育社 会心理学に関する研究発表が行われている可能性のある学会の, 発表論文集を参照した。すなわち,第 61 回総会に加え,日本 心理学会第 83 回大会と日本社会心理学会第 60 回大会の発表論 文集に収録された研究発表を参照した。.

(8) 教 育 心 理 学 年 報 第 59 集. Table 2 対象期間における教育社会心理学に関する実践研究の特徴 竹下・奥秋・中村・ 山口(2016). 鹿毛・藤本・大島 (2016). 庭山・松見(2016). ターゲットとなる 心理的事象. ものづくり型課題実 当事者型授業研究を 教師の授業中の言語 習におけるチーム 通じた教師の専門性 賞賛 ワーク. 対象者. 職業能力開発大学校 の学生. 研究数 トレーニング的介 入の実施 実施方法. 新原(2017) ワークショップ型授 業における教授行為. 小学校教師. 1. 3. 1. 音楽アウトリーチが 実施された小学校の 学級a 1. ×. ×. ×. ×. ○. ○ ×. 授業内での取り組み 半期の授業の 14(15) 回 × ○. ○ ×. ○ ○. × ○. 小林・渡辺(2017). 太幡(2017a). 池田・池田(2018) 神崎・サトウ(2018). ターゲットとなる 心理的事象. レジリエンス. チームワーク能力. 校長の意識. 学級復帰の支援体制. 対象者. 中学校 1―3 年生. 大学生. 小学校校長. 全日制単位制高校b. 研究数 トレーニング的介 入の実施. 実施方法 実施期間 質的分析の実施 量的分析の実施 関連する後続研究. 2. 大沢・橋本・嶋田 (2018) 社会的スキルc 小 学 校 5―6 年 生, 中学校 1―3 年生 1. 1. 1. 1. ○. ○. ×. ×. ○. ○ ×. 授業内での独自プロ グラムの実施 1回 × ○. 授業内での独自プロ グラムの実施 2 か月で 6 回 × ○. 佐々木(2018). 対象者 研究数 トレーニング的介 入の実施. 大 学 生,短 期 大 学 生,専門学校生. 1. 授業内での独自プロ 実施方法 グラムの実施 実施期間 半期の授業の 15 回 質的分析の実施 × 量的分析の実施 ○ 太幡(2017b) ,太幡 (2019) ,太幡(2020) , 小林・渡辺・五十嵐 関連する後続研究 太 幡・小 川・松 本 (2019) (2017)太幡・小川・ 松本(2019). ターゲットとなる 心理的事象. 認識的信念. 小学校教師. 実施期間 質的分析の実施 量的分析の実施 関連する後続研究. 野村・丸野(2017). 住田・森(2019). ○ ×. 豊沢・元吉・竹橋・ 野田(2019). 同性愛やトランス 算数科授業における ジェンダーに対する 危険予測と対処行動 深い概念理解 嫌悪 中学校 1―3 年生 小学校 4, 5 年生 小学校 2 年生 1 1 2 ○. ○. ○. 授業内での独自プロ 授業内での取り組み グラムの実施 2 か月で 2 回 1回 × ○ ○ ○. 授業内での独自プロ グラムの実施 2回 × ○. 小学校の 2 学級をフィールドとした,フィールド研究であった。 全日制単位制高校 1 校をフィールドとした,フィールド研究であった。 c 論文では「ソーシャルスキル」と記載されていた。本稿内で表現を統一するため,「社会的スキル」とした。 a. b. ンに応じて選択されていると想定される。. 島(2016)は,研究 1 で研究テーマである当事者型授業. 研究数. 研究の実態把握,研究 2 と 3 で当事者型授業研究の有. 研究数が複数の論文は 3 編のみであった。これらの. 効性を検証している。野村・丸野(2017)は,研究 1 で. 3 編は,論文の構成が異なっている。鹿毛・藤本・大. 介入授業が認識的信念の変容に及ぼす影響を検討し,. ―  ― 50.

(9) 太幡:わが国の教育心理学の研究動向と展望―社会. 考察において考えられた残された課題を解決するため, 研究 2. を実施している。豊沢他(2019)は,研究. 1 とは. している。住田・森 (2019) は,1 つの研究において, 質的分析と量的分析の両方を行っている。. 異なるサンプルで研究 2 を実施し,防災教育の有効性. 量的分析の実施. を再検証している。. 量的分析を行っている論文は 9 編あり,そのうち 7. トレーニング的介入の実施. 編は,トレーニング的介入が実施されている論文で. トレーニング的介入を実施している論文が 7 編,実. あった。そこで,トレーニング的介入を実施した教育. 施していない論文は 6 編であった。トレーニング的介. 社会心理学に関する実践研究の量的データ分析の特徴. 入を実施している論文では,授業内で,独自プログラ. についてより詳細に整理した。結果を Table 3 に示す。. ムに基づいた取り組みを実施した者が多くみられる。. 以下,それぞれの観点ごとに特徴を概観する。. 実施期間は,1 回,数回から,大学の半期の授業に相. 効果検証については,すべての論文で効果検証を実. 当する 15 回とさまざまである。トレーニング的介入の. 施した旨の記述があった。そのうちの 6 編は,トレー. 実施期間は,プログラムや取り組みの内容次第で決定. ニング的介入の直後に効果検証を実施している。ト. されていると考えられる。一方,トレーニング的介入. レーニング的介入の直後に効果検証を実施していない. を実施していない論文の多くは,フィールド研究や,. 太幡 (2017a) は,チームワーク能力を向上させるト. 相互作用の内容分析を行った論文である。. レーニングの効果検証をトレーニング直後に実施した. 質的分析の実施. 研究 (太幡, 2016a) の後続研究として,時間経過後にト. 質的分析を行っている論文は 6 編であり,そのうち. レーニングの効果検証を実施した研究である。した. 5 編では,トレーニング的介入は実施されていなかっ. がって,教育社会心理学に関する実践研究としてト. た。これらの論文では,それぞれ異なった分析手法が. レーニング的介入を実施しているほとんどの研究では,. 採用されている。主な分析手法は,竹下・奥秋・中. トレーニング的介入の直後に効果検証を実施している. 村・山 口 (2016) で は 修 正 版 グ ラ ウ ン デ ッ ド・セ オ. と推察される。. リー・アプローチ(木下, 2007),鹿毛他(2016)では談話. 一方,トレーニング的介入の効果検証を時間経過後. 分析とカテゴリー分類,新原(2017)では相互行為分析,. に実施した論文は,3 編のみであった。したがって,. 池田・池田 (2018) では複線経路等至性モデル (安田・. 教育社会心理学に関する実践研究としてトレーニング. サトウ, 2012) ,神崎・サトウ (2018) では. KJ 法 (川喜田,. 的介入を実施している研究では,介入直後の効果検証. 1986),住田・森(2019)ではカテゴリー分類と内容分析. は実施されていても,時間経過後の効果検証も実施し. である。. ている研究は多くないと推察される。なお,時間経過. なお,鹿毛他(2016),住田・森(2019)は,質的分析. 後の実施時期は,1 か月から 9 か月と幅がある。トレー. と量的分析の両方を行っている論文である。鹿毛他. ニング的介入の効果検証を時間経過後に実施する場合,. (2016) は,質的分析をメインとした研究 (研究 1, 3) と. 量的分析をメインとした研究(研究 2)をそれぞれ実施. 実施間隔は研究フィールドや対象次第であると考えら れる。. Table 3 対象期間におけるトレーニング的介入を実施した教育社会心理学に関する実践研究の量的データ分 析の特徴. 効果検証の実施 効果検証の実施時点 直後 時間経過後 効果検証の指標 自己評定 自由記述 他者評定 外的指標(行動,テスト). 野村・丸野 (2017). 小林・渡辺 (2017). 太幡 (2017a). ○. ○. ○. ○ ○ (約 2 か月後). ○. ○ ○ ○ ×. ○ × × ×. ×. 大沢・橋本・ 佐々木 住田・森 嶋田(2018) (2018) (2019) ○. × ○ ○ ○ (約 9 か月後) (約 1 か月後) ○ × × ×. ―  ― 51. ○ × × ×. 豊沢・元吉・ 竹橋・野田 (2019). ○. ○. ○. ○. ○. ○. ×. ×. ×. ○ × × ×. × × × ○. ○ ○ ○ ×.

(10) 教 育 心 理 学 年 報 第 59 集. 効果検証の指標については,6 編では,尺度への回. なお,対象期間における教育社会心理学に関する実. 答など,対象者の自己評定を用いていた。自己評定は. 践研究が,別の研究の後続研究である可能性もあるた. ターゲットとなる心理的事象を捉えるのに簡便である. め,それぞれの論文の内容や引用文献を参照して,論. ため,トレーニング的介入の効果検証において用いら. 文の著者の先行研究の有無を確認した。その結果,先. れやすいと考えられる。なお,自己評定を用いていな. 述 し た 太 幡 (2017a) 以 外 に,野 村・丸 野 (2017),池. い住田・森(2019)は,ペア学習前後の算数課題の得点. 田・池田(2018),豊沢他(2019)の 3 編について,別の. といった,外的指標によって効果検証を実施している。. 研究の後続研究であると判断された。具体的な先行研. 一方,効果検証の指標として,自己評定に加え,自. 究として,野村・丸野(2017)については,認識的信念. 由記述,他者評定も用いている論文は 2 編のみであっ. の個人差を測定する研究(野村・丸野, 2014),池田・池田. た。野村・丸野(2017)は,対象となる大学生の授業内. (2018) については,学校のエンパワーメント評価ツー. の質問行動を記録し,第一著者の分類,評定によって, ルを開発した研究 (池田・池田, 2015),豊沢他 (2019) に 質問内容の質を測定している。また,質問と回答を取. ついては,小学生向け防災教材の開発に関する研究(豊. り入れた授業に対して感じる楽しさ,不安について,. 沢他, 2017) などが,それぞれ挙げられる。また,太幡. その理由を自由に記述するように求め,記述内容を分. (2017a)を太幡(2016a)の後続研究とみなすならば,太. 類している。豊沢他(2019)は,危険予測と対処行動を. 幡 (2016a) の後続研究として,トレーニング終了後の. 学ぶ防災教育の効果検証にあたり,対象となる児童に,. 参加者の感想からトレーニングの有効性を検討してい. 防災教育の理解の程度に自己評定をするように求めて. る研究(太幡, 2016b)も挙げられる。. いるのに加え,危険予測や対処行動に関して自由に記. 以上をまとめると,対象期間における教育社会心理. 述するように求め,著者が作成した評価基準で分類し. 学に関する実践研究の論文について,関連する後続研. ている。また,実際に地震が発生した際の対象となる. 究,あるいは先行研究が確認できない論文も多くみら. 児童の様子について,保護者コメントを収集し,記述. れた。 「研究数」の結果と併せると,実施した研究で得. 内容を分類している。. られた知見を,別サンプルや別の指標を用いて再検証. 関連する後続研究. しているケースは少ないと解釈できる。. 関連する後続研究が確認できる論文は 2 編のみで あった。太幡 (2017a) については,後続研究は 2 種類 に分類できる。一つは,太幡(2016a, 2017a)のトレーニ. 教育社会心理学に関する「実践研究」における 今後の課題. ングの有効性に着目する後続研究である。チームワー. 続いて, 『教育心理学研究』に「実践研究」として掲. ク能力を向上させるトレーニングの有効性を太幡. 載された教育社会心理学に関する論文の特徴を整理し. (2017a)とは異なるサンプルを対象として検討している. た結果を踏まえ,今後の課題を考察する。本稿では,. 研究(太幡, 2017b),太幡(2016a)の調査対象者を対象と. まず,整理した結果から考えられる課題として,多面. し,トレーニング終了から 20 か月後にチームワーク能. 的な分析や測定による検証,知見の積み重ねについて. 力を測定してトレーニングの有効性が認められるか否. 論じる。加えて,知見の積み重ねを妨げる可能性のあ. かを推察している研究(太幡, 2019)が該当する。もう一. る要因として,出版バイアスへの対処について論じる。. つは,太幡(2016a, 2017a)のトレーニングによるチーム. 多面的な分析や測定による検証. ワークの変化と関連する要因に着目する後続研究であ. 今後の課題として,ターゲットとなる心理的事象に. る。チームワーク能力の変化と,楽しさ,必要性と. ついて,多面的な分析や測定によって検証していくこ. いったトレーニングへの評価 (太幡・小川・松本, 2017),. とが挙げられる。対象期間に『教育心理学研究』に. トレーニングの受講動機(太幡, 2020)との関連を検討し. 「実践研究」として掲載された 13 編の論文では,質的. ている研究,太幡 (2016a) のトレーニングの参加者を. 分析と量的分析をともに行っている論文が 2 編のみで. 対象に,社会的スキル・トレーニングを実施する上で. あった。このうち,鹿毛他(2016)は,談話分析,質問. 留意すべき点を検討している研究 (太幡・小川・松本,. 紙法,インタビュー法によるデータを組み合わせて結. 2019)が該当する。小林・渡辺(2017)については,小. 果を統合的に考察しており,マルチメソッドアプロー. 学生から高校生を対象とし,レジリエンスと不登校傾. チに基づく実践研究であるという方法論的な意義を主. 向の関連に着目している研究(小林・渡辺・五十嵐, 2019). 張している。心理学においては,どの方法論にも欠点. が,後続研究として位置づけられる。. が存在するため,鹿毛他(2016)のように複数の方法論 ―  ― 52.

(11) 太幡:わが国の教育心理学の研究動向と展望―社会. を組み合わせて多面的に検証することは,ターゲット. するのでなく,複数の研究で得られた結果の頑健性を. とする心理的事象をより深く捉えることや,結果の妥. 示していくことが望ましいと考えられる。加えて,実. 当性を担保することにおいて有効であると考えられる。 施した実践研究に関連する後続研究として,実施した 複数の方法論を組み合わせる研究法の具体例としては, 研究と関連する別のリサーチクエスチョンによる研究 質的アプローチと量的アプローチを統合する混合研究. を実施することは,実施した実践研究の幅を広げる契. 法が挙げられる (e.g., Creswell & Plano Clark, 2007 大谷訳. 機となると考えられる。実践研究を実施する研究者に. 2010)。混合研究法は,教育的研究においても有効であ. は,さまざまな観点から研究を実施し,知見を積み重. ると考えられており(Johnson & Onwuegbuzie, 2004),教育. ねて公表していくという姿勢が求められるといえよう。. 社会心理学に関する実践研究においても活用できると. 出版バイアスへの対処. 考えられる。. 今後の課題として,出版バイアス(publication bias)に. また,トレーニング的介入の効果検証について量的. 対処していくことも挙げられる。出版バイアスとは,. 分析を中心に検討する場合,多面的な指標を用いた検. 否定的な結果が得られた研究は,肯定的な結果が得ら. 証を行うことが,トレーニング的介入の有効性を多面. れた研究に比べて公表されにくいというバイアスであ. 的に示すためには望ましいと考えられる。対象期間に. る。出版バイアスは,先に述べた,知見の積み重ねを. おいては,量的分析のみを行っている 7 編のうち,効. 妨げる可能性がある。教育社会心理学に関する実践研. 果検証を多面的に行っている論文は 2 編のみであった。. 究で考えると,特にトレーニング的介入の効果検証を. また,6 編は,対象者の尺度への回答など,自己評定. 実施している研究では,介入の有効性が認められたか. を用いていた。自己評定はターゲットとなる心理的事. 否かを検証するにあたり,統計的仮説検定のロジック. 象を捉えるのに簡便である一方,対象者の内省に依存. に基づいた量的分析が多く行われていることから,特. している点,対象者がトレーニング的介入を受けたこ. に出版バイアスを考慮する必要があると考えられる。. とを意識していると回答にバイアスがかかる可能性を. 出版バイアスによって,公表される研究の結果に偏. 排除できない点などの問題点が指摘できる。したがっ. りが生じている可能性があると指摘されている。出版. て,トレーニング的介入の有効性をより客観性の高い. バイアスは,研究者による研究の結果の選択的公表に. 指標で測定するため,自己評定だけではなく,自由記. よって生じると考えられている。例えば,アメリカに. 述,他者評定,行動指標など,別の指標も用いて検証. おいて助成金プログラムに採択された社会科学に関す. することが望ましいと考えられる。実施したトレーニ. る研究を調査した結果,仮説が支持されなかった 60%. ング的介入の有効性を多面的に示すことができれば,. 以上の研究が,論文として公表されていないことが報. 実施した実践研究の価値を高めることにつながるとい. 告されている(Franco, Malhotra, & Simonovits, 2014)。また,. えよう。. 論文の査読者には有意な結果のみ掲載価値があるとい. 知見の積み重ね. うバイアスがあるため(e.g., Nosek & Lakens, 2014),仮説. 今後の課題として,実施した実践研究に関連する後. を支持する方向で統計的に有意な結果が示されている. 続研究を実施し,知見を積み重ねていくことも挙げら. 論文が掲載されやすい(e.g., Fanelli, 2010)ことも,出版. れる。対象期間における教育社会心理学に関する実践. バイアスが生じる原因の一つと考えられている。. 研究の論文のうち,本稿の時点で後続研究が確認でき. 出版バイアスの観点からすると,トレーニング的介. る論文は 2 編のみであった。また,複数の研究を実施. 入の効果検証に関する実践研究において,あるサンプ. し,知見の再現性や結果の妥当性を検証している論文. ルで介入の有効性が認められたのにもかかわらず,別. は 3 編のみであった。実施した実践研究に関連する後. サンプルで再検証したところ介入の有効性が認められ. 続研究として,特に,実施した研究で得られた知見を,. なかった場合,介入の有効性が認められなかった結果. 別サンプルや別の指標を用いて再検証することは,結. は公表されにくくなっている可能性が考えられる。公. 果の妥当性を担保することにつながる。実践研究は教. 表されなかった結果は日の目を見ることなく,いわゆ. 育実践であるという性質上,ターゲットとなる心理的. る「お蔵入り」になる可能性が指摘されている(池田・. 事象や対象によっては,新たな研究を実施することが. 平石, 2016; Rosenthal, 1979)。また,公表されている実践研. 難しい場合もあるだろう。しかし,実施した研究で得. 究の結果も,何度かトレーニング的介入を繰り返し,. られた知見を教育に関する問題解決のための取り組み. 介入の有効性が認められた結果のみが報告されている. に応用するためには,一度の研究を実施して終わりに. 可能性も考えられる。もしそうであれば,有効性の低. ―  ― 53.

(12) 教 育 心 理 学 年 報 第 59 集. いトレーニング的介入が,有効性の高い介入として公. おわりに. 表されていることになる。以上に挙げた事柄が生じる 可能性があることに鑑みると,出版バイアスは,教育. 本稿の目的は,教育心理学領域の教育社会心理学に. 社会心理学に関する実践研究で得られた知見を教育に. 関する研究の近年の動向を概観することと,教育社会. 関する問題解決に応用していく上での支障になると危. 心理学が社会的貢献を果たしていくための視座を示す. 惧される。. ことであった。本稿の前半では,教育心理学領域の教. 実践研究における出版バイアスに対処するために,. 育社会心理学に関する研究の近年の動向を,研究発表,. 特にトレーニング的介入を実施した実践研究において. 論文を取り上げ,概観した。後半では,近年の『教育. は,トレーニング的介入の有効性が認められた研究の. 心理学研究』に「実践研究」として掲載された教育社. 結果だけではなく,有効性が認められなかった研究の. 会心理学に関する論文の特徴を整理した。そして,今. 結果も公表すべきであると考えられる。したがって,. 後の課題を,多面的な分析や測定による検証,知見の. 実践研究を実施した研究者が,トレーニング的介入の. 積み重ね,出版バイアスへの対処の点から論じた。. 有効性が認められたか否かにかかわらず,結果を積極. 教育社会心理学に関する研究は,教育に関する問題. 的に公表するという意識を持つことが求められる。同. を社会心理学的視点から考察,解決することに着目し. じトレーニング的介入を実施し,トレーニング的介入. ている。本稿で概観した実践研究をはじめ,教育社会. の有効性が認められた場合と認められなかった場合が. 心理学に関する研究で得られた多くの知見が,教育現. あるとすれば,トレーニング的介入の有効性を規定す. 場や社会に活用されることを強く願う。. る調整要因が存在すると解釈される。この調整要因に. 引用文献. 着目すると,トレーニング的介入の有効性をより高め る契機や,ターゲットとなる心理的事象に関する研究. Creswell, J. W., & Plano Clark, V. L.(2007) . Designing. に理論的貢献をもたらす契機となると期待される。. and conducting mixed methods research. Thousand. また,トレーニング的介入の有効性が認められた研. Oaks, CA: Sage.(クレスウェル, J. W.・プラノ ク. 究の結果のみならず,有効性が認められなかった研究. ラーク, V. L. 大谷順子(訳) (2010). 人間科学のた. の結果についても,実践研究を実施した研究者が公表. めの混合研究法―質的・量的アプローチをつなぐ研 究デザイン 北大路書房). することを促す仕組みを設けることも,日本教育心理 学会として検討する必要があるだろう。例えば,ト. Fanelli, D.(2010) . "Positive" results increase down the. レーニング的介入に関する実践研究のリポジトリのよ. hierarchy of the sciences. PLoS ONE, 5, e10068.. うな仕組みを作り,実践研究を実施した研究者が結果. doi:10.1371/journal.pone.0010068. を登録できるようにすることが考えられる。また,日. Franco, A., Malhotra, N., & Simonovits, G.(2014) . Pub-. 本パーソナリティ心理学会が刊行する『パーソナリ. lication bias in the social sciences: Unlocking the. ティ研究』で取り入れられている,事前登録追試研究. file drawer. Science, 345, 1502-1505. doi:10.1126/. (cf., 加藤, 2018) と類似した制度を, 『教育心理学研究』. science.1255484. において活用することも考えられる。上記のような仕. . 心理学における再現可能 池田功毅・平石 界(2016). 組みにより,実践研究に関心のある研究者が他の研究. 性危機―問題の構造と解決策 心理学評論, 59, 3-14.. から(ときには反面教師的に)学ぶ機会や,研究者同士の. doi:10.24602/sjpr.59.1_3 . Getting To Outcomes を適 池田琴恵・池田 満(2015). 議論を活性化する契機となると期待される。. 用した学校評価ツールの開発 日本評価研究, 15,. まとめると,出版バイアスが生じないように対処す. 3-16.. ることは,実践研究の知見を教育に関する問題解決に 応用するという社会的貢献を果たすことに資すると考. . エンパワーメント評価型 池田琴恵・池田 満(2018). えられる。 「実践研究を実施した結果がどのようなもの. 学校評価の導入における校長の意識の変容過程 教. であれ,得られた結果を公表する」という研究者の意. 育心理学研究, 66, 162-180. doi:10.5926/jjep.66.162. 識を醸成することに加え,今後,日本教育心理学会と. . 母親とのかかわり方からみた青年期 池田幸恭(2018). して出版バイアスへの対応策を検討する必要があるだ. における母親に対する感謝の心理状態の特徴 教育 心理学研究, 66, 225-240. doi:10.5926/jjep.66.225. ろう。. . 教育社会心理学に関する研究の動向 石田靖彦(2019) ―  ― 54.

(13) 太幡:わが国の教育心理学の研究動向と展望―社会. と展望 教育心理学年報, 58, 47-62. doi:10.5926/arepj.. 村井潤一郎(2017). 教育心理学領域における社会心理. 58.47. 学的研究の概観と研究法・統計法に関する考察 教. 伊藤貴昭・垣花真一郎(2019). 説明状況の違いが説明. 育心理学年報, 56, 63-78. doi:10.5926/arepj.56.63. 者自身の理解促進効果に与える影響―相手に教授す. . 教師との関係の形成・維持に対する 中井大介(2018). る状況と自分の理解を確認する状況の比較 教育心. 動機づけと教師への援助要請の関連 教育心理学研. 理学研究, 67, 132-141. doi:10.5926/jjep.67.132. 究, 66, 263-275. doi:10.5926/jjep.66.263. Johnson, R. B., & Onwuegbuzie, A. J.(2004). Mixed. 庭山和貴・松見淳子(2016). 自己記録手続きを用いた. methods research: A research paradigm whose time. 教師の言語賞賛の増加が児童の授業参加行動に及ぼ. has come. Educational Researcher, 33 (7), 14-26.. す効果―担任教師によるクラスワイドな“褒めるこ と”の効果 教育心理学研究, 64, 598-609. doi:10.. doi:10.3102/0013189X033007014 鹿毛雅治(2017). 教育心理学再考―その「実践性」を め ぐ っ て 心 理 学 評 論, 60, 391-403. doi:10.24602/. 5926/jjep.64.598 野村亮太・丸野俊一(2014). 授業を協同的活動の場と して捉えるための認識的信念―仮説的世界観措定仮説. sjpr.60.4_391 鹿毛雅治・藤本和久・大島 崇(2016).「当事者型授業. の検証 教育心理学研究, 62, 257-272. doi:10.5926/. 研究」の実践と評価 教育心理学研究, 64, 583-597.. jjep.62.257 野村亮太・丸野俊一(2017). 質問と回答を取り入れた. doi:10.5926/jjep.64.583 金綱祐香・濱口佳和(2019). 攻撃行動に対する中学生. 授業による認識的信念の変容 教育心理学研究, 65,. の善悪判断と判断に影響を与える要因の検討 教育 心理学研究, 67, 87-102. doi:10.5926/jjep.67.87. 145-159. doi:10.5926/jjep.65.145 Nosek, B. A., & Lakens, D.(2014) . Registered reports:. 神崎真実・サトウタツヤ(2018). ボランティアと協働. A method to increase the credibility of published. した学級復帰の支援体制づくり―全日制単位制高校. results. Social Psychology, 45, 137-141. doi:10.1027/. におけるフィールドワーク 教育心理学研究, 66,. 1864-9335/a000192 . 教育社会心理学研究の動向と課題― 小川一美(2016). 241-258. doi:10.5926/jjep.66.241 加藤 司(2018).『パーソナリティ研究』の新たな挑戦. 2014 年 7 月から 2015 年 6 月 教育心理学年報, 55, 57-67. doi:10.5926/arepj.55.57. ―追試研究と事前登録研究の掲載について パーソ ナリティ研究, 27, 99-124. doi:10.2132/personality.27.. . 教育・社会心理学の研究動向と展望 及川昌典(2014). 2.11. 教育心理学年報, 53, 50-56. doi:10.5926/arepj.53.50. . KJ 法―渾沌をして語らしめる 中 川喜田二郎(1986). . 教育社会心理学に関する研究の動 大久保智生(2015). 央公論社. 向と展望 教育心理学年報, 54, 45-56. doi:10.5926/. . ライヴ講義 M-GTA 実践的質的研究 木下康仁(2007) 法―修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ. arepj.54.45 大沢知隼・橋本 塁・嶋田洋徳(2018). 注意バイアス 修正訓練を取り入れた集団ソーシャルスキルトレー. のすべて 弘文堂 小林朋子・渡辺弥生(2017). ソーシャルスキル・ト. ニングが児童生徒のソーシャルスキルの維持と般化. レーニングが中学生のレジリエンスに与える影響に. に及ぼす影響―報酬への感受性の高低による効果の. ついて 教育心理学研究, 65, 295-304. doi:10.5926/. 違いの比較 教育心理学研究, 66, 300-312. doi:10.. jjep.65.295. 5926/jjep.66.300. 小林朋子・渡辺弥生・五十嵐哲也(2019). 小学生から. Rosenthal, R.(1979) . The file drawer problem and tol-. 高校生までの不登校傾向とレジリエンスとの関連 . erance for null results. Psychological Bulletin, 86, 638-641. doi:10.1037/0033-2909.86.3.638. 日 本 教 育 心 理 学 会 第 61 回 総 会 発 表 論 文 集, 191.. 坂本真士(2017). 特集「社会のための心理学」にあ. doi:10.20587/pamjaep.61.0_191. たって 心理学評論, 60, 235-236. doi:10.24602/sjpr.. 水野君平・日高茂暢(2019).「スクールカースト」に. 60.4_235. おけるグループ間の地位と学校適応感の関連の学級 間差―2 種類の学級風土とグループ間の地位におけ. 﨑田亜紀穂・髙坂康雅(2018). 中学 1 年生における内. るヒエラルキーの調整効果に着目した検討 教育心. 的作業モデルが登校回避感情に及ぼす影響と学級機. 理学研究, 67, 1-11. doi:10.5926/jjep.67.1. 能との関連 教育心理学研究, 66, 276-286. doi:10. ―  ― 55.

(14) 教 育 心 理 学 年 報 第 59 集. 5926/jjep.66.276. と受講動機の関連 総合政策研究(愛知学院大学総. 佐々木掌子(2018). 中学校における「性の多様性」授 業の教育効果 教育心理学研究, 66, 313-326. doi:10.. 合政策学会紀要), 22 (2), 15-27. 太幡直也・小川一美・松本明日香(2017). 社会的ス. 5926/jjep.66.313. キル・トレーニングによるスキルの変化とトレーニ. 新原将義(2017). ワークショップ型授業における教. ングへの評価の関連 日本グループ・ダイナミック. 授・学習活動の対話的展開過程 教育心理学研究, 65, 120-131. doi:10.5926/jjep.65.120. ス学会第 64 回大会発表論文集, 99-100. . 参加者か 太幡直也・小川一美・松本明日香(2019). 住田裕子・森 敏昭(2019). 算数の協同的問題解決場. らみた社会的スキル・トレーニングにおいて留意す. 面において児童の深い概念理解を促す効果的な相互. べき事柄 対人社会心理学研究, 19, 22-29. doi:10.. 作用プロセスの検討 教育心理学研究, 67, 40-53.. 18910/71970 竹下 浩・奥秋清次・中村瑞穂・山口裕幸(2016). も. doi:10.5926/jjep.67.40. のづくり型 PBL におけるチームワーク形成過程 教. . 大学生のチームワーク能力を向上さ 太幡直也(2016a) せるトレーニングの有効性―チームワーク能力の構. 育心理学研究, 64, 423-436. doi:10.5926/jjep.64.423. 成要素に着目して 教育心理学研究, 64, 118-130.. 豊沢純子・元吉忠寛・竹橋洋毅・野田理世(2019). 危 険予測と対処行動を学ぶ防災教育の効果―小学校低. doi:10.5926/jjep.64.118. 学年に対する実践から 教育心理学研究, 67, 54-67.. 太幡直也(2016b). 大学生のチームワーク能力を向上 させるトレーニングの有効性―トレーニング終了後 の感想に着目して 総合政策研究(愛知学院大学総. doi:10.5926/jjep.67.54 豊沢純子・元吉忠寛・竹橋洋毅・野田理世・宮本真希 子・土本純平…藤田大輔(2017). 小学生向け防災教. , 18(2), 19-25. 合政策学会紀要). 育デジタル教材の開発―主体的な行動力の育成を目. . 大学生のチームワーク能力を向上さ 太幡直也(2017a). 的として 社会安全学研究, 7, 49-59.. せるトレーニングの有効性―時間経過後のチーム ワーク能力に着目して 教育心理学研究, 65, 305-. . 学校教育の社会心理学的論点とその 山中一英(2018) 展開可能性― 「対話的な学び」と「教師教育」に焦点. 314. doi:10.5926/jjep.65.305. をあてた考察の試み 教育心理学年報, 57, 61-78.. . 大学生のチームワーク能力を向上 太幡直也(2017b) させるトレーニングの有効性―大学 2 年生を対象と した検証 総合政策研究(愛知学院大学総合政策学. doi:10.5926/arepj.57.61 山岡明奈・湯川進太郎(2019). 日本語版意図的/非意 図的マインドワンダリング傾向尺度の作成と信頼. , 19 会紀要) (2), 1-11.. 性・妥当性の検討 教育心理学研究, 67, 118-131.. . 大学卒業時のチームワーク能力― 太幡直也(2019) チームワーク能力を向上させるトレーニングへの在 学時の参加経験の有無による比較 パーソナリティ. doi:10.5926/jjep.67.118 安田裕子・サトウタツヤ(編) (2012). TEM でわかる 人生の経路―質的研究の新展開 誠信書房. 研究, 27, 246-248. doi:10.2132/personality.27.3.2 太幡直也(2020). 大学生のチームワーク能力を向上さ. . 教育社会心理学研究の動向と課題 弓削洋子(2013). せるトレーニングにおけるチームワーク能力の変化. ―  ― 56. 教育心理学年報, 52, 46-56. doi:10.5926/arepj.52.46.

(15)

Table 1 過去 3 年間の日本教育心理学会総会における教育社会心理学に関する研究の発表テーマと件数 課題の 所在 研究対象の水準 カテゴリー1 カテゴリー2 2017 年(第 59 回総会) 2018 年(第 60 回総会) 2019 年(第 61 回総会)カテゴリー2カテゴリー1研究対象の水準カテゴリー2カテゴリー1研究対象の水準カテゴリー2カテゴリー1 研究対象の水準 件数 件数 % 件数 % 件数 件数 % 件数 % 件数 件数 % 件数 % 児童・生 徒・学生 等にある 課題 個人の心理過程
Table 2 対象期間における教育社会心理学に関する実践研究の特徴 竹下・奥秋・中村・ 山口(2016) 鹿毛・藤本・大島(2016) 庭山・松見(2016) 新原(2017) 野村・丸野(2017) ターゲットとなる 心理的事象 ものづくり型課題実習 に お け る チ ー ム ワーク 当事者型授業研究を通じた教師の専門性 教師の授業中の言語賞賛 ワークショップ型授 業における教授行為 認識的信念 対象者 職業能力開発大学校 の学生 小学校教師 小学校教師 音楽アウトリーチが実施された小学校の 学級 a

参照

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