松江市立病院医学雑誌 第 24 巻 第 1 号:11−17,2020
自発覚醒トライアルの実践における
看護師の意識変化
小池 康平,山本 恭代
要 旨 【目的】集中治療室(ICU)の人工呼吸ケアでは鎮静薬を使用するが,過鎮静による人工呼吸器装 着期間の長期化,リハビリテーションの遅れなどの弊害も認められる.毎日の自発覚醒トライアル (Spontaneous Awakening Trial:SAT)が対策として推奨されているが,当院では十分に定着してい ない.本研究の目的は,SAT に対する看護師の意識を高める介入を行い,その効果と課題を明らか にすることである.【方法】2018 年 9 月∼ 2019 年 5 月に研究同意を得られた ICU 看護師 12 名を対 象に,アクションリサーチ法を用いて以下の項目を検討した.介入は勉強会の実施と多職種カンファ レンスの導入と,4 カ月間の SAT 実践である.介入前後に SAT に関する 13 項目の独自調査表を用 いてアンケート調査を実施し,5 段階のリッカート尺度を用いて点数換算し,評価した.各調査項 目の前後の点数に対して Wilcoxon の順位和検定を行い比較した.【結果】調査得点が高い項目ほど SAT の阻害要因を示し,介入前に最も点数が高かった「開始時期がわからない」は,介入後に点数 が大幅に減少した.しかし,「事故のリスクが増えそう」「疼痛に対し,鎮静薬を使用している」は, 点数が増加した.「実践したことがない」「対象患者に毎日 SAT を行っていない」「実践方法がわか らない」「開始時期がわからない」「SAT を行うことに不安がある」の項目に有意差が認められた(p < 0.05).【結論】勉強会による看護師の知識の習得と,多職種カンファレンスにおいて SAT の妥 当性を検討することは,SAT に対する看護師の意識を向上させることが示唆された.しかし,安全 保持との両立や疼痛評価に関する知識不足などの課題も明らかになった. Keywords:自発覚醒トライアル(SAT),看護師の意識,ICU は じ め に 集中治療室(ICU)では人工呼吸器や重症患者の管 理において,鎮静薬を使用することが多い.鎮静薬は ミダゾラムやデクスメデトミジン,プロポフォールな ど様々な種類があるが,当院 ICU ではブプレノルフィ ン・ミダゾラム・生食を混合した薬剤が最も多く使用 されている.ミダゾラムは鎮静効果が強いが,過鎮静 となりやすく,人工呼吸器装着期間の長期化やそれに 伴う人工呼吸器関連肺炎,リハビリテーションの遅れ, 免疫能障害による二次感染,せん妄,集中治療後症候 群(Post Intensive Care Syndrome:PICS)などの様々 なリスクを増加させる可能性がある. 人工呼吸器装着中の鎮静のためのガイドラインに は,鎮静の目的は患者の不安感を和らげ,快適さを確 保することであり,眠らせることではない,まず,鎮 静薬を用いないで解決できる問題がないか検討するこ と,とある1).このことから,鎮静薬は安易に第一選 択として使用するのではなく,鎮静が必要となる原因 をアセスメントして,まず鎮静薬以外の対応方法を検 討しなければならない.しかし,当院 ICU では医師・ 看護師ともに鎮静薬の使用を第一選択にする傾向があ り,「患者が不穏だったので,鎮静薬を急速静注した」 「不穏になったら困るから終日鎮静薬で寝かせておき たい」という言葉を耳にすることもあった.過鎮静に 伴う合併症の発症は少なくなく,鎮静に関するガイド ラインが十分に実施されていない状況を改善する必要 があると考えられた. 松江市立病院 看護局(ICU) 原 著1 日 1 回鎮静薬を中止または減量して自発的に覚醒 が得られるかを実践・評価する自発覚醒トライアル (Spontaneous Awakening Trial:SAT)により過鎮静の リスクを予防・軽減するために,Richmond Agita-tion-Sedation Scale(RASS):-2(-1)∼ 0 の浅い鎮静深 度で管理することが重要であり,日本版・集中治療室 における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管 理のための臨床ガイドライン(以下 J-PAD ガイドラ イン)にも,人工呼吸器管理中の成人患者では,毎日 鎮静を中断する,あるいは浅い鎮静深度を目標とする, プロトコルのいずれかをルーチンに用いることが推奨 されている2). SAT を確実に実践することができれば看護の質を高 めることに繋がり,患者の QOL を維持・向上させる ことが可能となる.さらに,一般病棟での看護負担の 軽減や在院日数減少による経済効果など,SAT の定着 化は多方面に良い結果をもたらすと考えた.しかし, SAT の実施率は 10 %程度3)であり,全国的にも導入・ 定着化に苦慮している施設が多数あると考えられる. また,その理由を明らかにした研究報告はない.本研 究の目的は,SAT の実践を阻害している要因として, 看護師の SAT に対する意識に何らかの原因があるの ではないかという仮説に基づき,その原因を具体的に 抽出して介入を行い,看護師の SAT に対する意識が どのように変化したのかを明らかにすることである. 対 象 と 方 法 1.対象 2018 年 9 月∼ 2019 年 5 月に研究同意を得られた ICU 看護師 12 名 2.方法 アクションリサーチ法 1)第一段階:調査 (1) 文献を元に SAT について 13 項目の独自調査表 を作成し,アンケート調査を行った.アンケー トは 5 段階のリッカート尺度とし,「そう思わ ない」1 点,「あまりそう思わない」2 点,「そう 思う」3 点,「まあそう思う」4 点,「そう思う」 5 点として点数換算した. (2) アンケート調査の結果をもとに SAT に対する 看護師の意識を明らかにした. 2)第二段階:介入・実践 SAT の実践における阻害要因への介入として,勉 強会の実施と多職種カンファレンスの導入を行っ た.介入後,4 カ月間 SAT を実践した. 3)第三段階:評価 第一段階と同様のアンケート調査を行った.介入 前後の点数は,Wilcoxon の順位和検定を行い,有 意水準は 0.05 %とした. 3.倫理的配慮 この研究は松江市立病院倫理委員会の承認を得て実 施した(倫理 No. 平 30B-0010). 結 果 1.調査結果・分析 「自発覚醒トライアル(SAT)についてのアンケー ト調査」を ICU 看護師 12 名に行い,集計・点数化を行っ た(図 1).回収率は 100 %であった. 結果は,点数が高い項目ほど SAT 実践の阻害要因 になると判断できる.最も点数が高かったのは「SAT の開始時期がわからない」の 49 点であった.また, 最も点数が低かったのは「SAT の必要性がわからない」 の 19 点であった.自由記載には,「覚醒することによ り,患者の苦痛が増えてしまうのではないかという不 安がある(痛みや人工呼吸器装着に伴う苦痛)」「明確 な開始日の目安がないので,いつ始めてよいか分から ない」「事故が起こりそうで不安がある」「事故のリス クが怖い」「知識・経験不足で自信がない」「スタッフ の経験の差により SAT へ関心が向けられるか,覚醒 して苦痛を言われた時の対応ができるか,他の患者を みながらできるか,と差があるように感じる」「スタッ フ全員が同じように鎮静・疼痛コントロール・SAT に ついて学んでいく必要があり,経験の少ないスタッフ へは気にかけて指導・アドバイスをしていく必要があ ると思う」の意見があった. 各項目の点数を見ると,「SAT の必要性がわからな い」が 19 点と最も低い点数である.反対に,「SAT の 開始時期がわからない」が 49 点と最も高い点数で, 「SAT を行う(鎮静を中断する)ことに不安がある」 が 42 点,「SAT を行うと患者の苦痛が強くなりそう」 が 41 点と続いた.また,自由記載では SAT の実践に 対する不安についての意見が多かった.このことから, 当院の ICU 看護師は SAT の必要性を理解していなが ら,知識不足や経験不足による不安感により対象者全 員に毎日 SAT を実践できていないことが明らかと なった.
2.介入・実践 まずは知識不足に対して勉強会を計画した.過鎮静 の弊害や種類別の効果など鎮静に関する基礎知識の再 確認,SAT の開始時期に明確な基準はなく,患者を複 合的に捉えて考えなければならないこと,痛みに対し て鎮静薬を使用している人が多いため,鎮静薬と鎮痛 薬の違いを明確にすること,適切な方法で SAT を行 うことで,患者への身体的・精神的な悪影響はないこ と,不穏の原因をアセスメントし,まずは鎮静薬以外 の対応を検討すること,薬剤投与よりもまずは環境調 整やコミュニケーションなどの非薬理学的介入が大切 であることとその具体例,せん妄と PICS を予防する ためには鎮静管理の知識が必須であることなどを主な 内容とした.また,ICU 経験年数や知識量などの個人 差も考慮し,個別に勉強会を行ってそれぞれの疑問や 質問に対応した. 次に,新たな試みとして多職種カンファレンスを導 入した.毎朝,医師・理学療法士・看護師で SAT 実 践の有無や鎮静深度,使用する鎮静薬の選択,SAT 実 践時の事故防止,SAT 実践時間確保のための業務調整, 早期リハビリテーション実施の有無などを検討した. 多人数・多職種の意見を聞くことで知識・経験の差を 補い,担当看護師の不安感を取り除いて SAT の実践 を促進することを主なねらいとした. 2019 年 1 月までに勉強会を終了した.同月から毎 日多職種カンファレンスを行い,SAT を実践した. 3.評価 2019 年 5 月に「自発覚醒トライアル(SAT)につい てのアンケート調査」を介入前と同じ ICU 看護師 12 名に行い,集計・点数化を行った(図 1).回収率は 100 %であった. 介入前のアンケートで最も点数が高かった「SAT の 開始時期がわからない」については,点数が 49 点か ら 31 点へ大幅に減少した.その他の項目も全体的に 点数は減少したが,「SAT を行い患者が覚醒すること で,事故のリスクが増えそう」は 40 点から 43 点,「患 者が痛みを感じているとき,鎮静薬を使用している」 は37点から40点と点数が増加した.自由記載には,「カ ンファレンスをもっと充実させたいと思う」「前回の アンケートの時よりも SAT についての知識は深まっ たように感じる,必要性も感じるようになった」「勉 強会や普段の助言など,とても勉強になった」の意見 があった. 各調査項目の介入前後の点数に対し,Wilcoxon の 順位和検定を行った(表 1).「SAT を実践したことが ない」「SAT 対象患者に対して,毎日 SAT を行ってい 図 1 自発覚醒トライアル(SAT)アンケート結果 1. SATを実践したことがない 2. SAT対象患者に対して、毎日SATを行っていない 3. SATの実践方法がわからない 4. SATの開始時期がわからない 5. SATの必要性がわからない 6. SATを行う(鎮静を中断する)ことに不安がある 7. SATを行うと患者の苦痛が強くなりそう 8. SATを行うとバイタルサインや状態に悪影響を 与えそう 9. SATを行い患者が覚醒することで、事故のリスク が増えそう 10.業務が忙しく、SATを行うことができない 11.患者の状態・状況に関わらず、鎮静薬は投与して おいたほうが患者のためになる 12.患者が痛みを感じているとき、鎮静薬を使用して いる 13.患者が不穏・興奮状態となっている場合、まずは 薬剤(鎮痛剤・鎮静剤)の使用を検討する 33 40 23 34 43 28 36 34 14 31 24 30 18 36 37 24 37 40 34 41 42 19 49 32 38 28 0 10 20 30 40 50点 介入前 介入後 高い 低い 意識
ない」「SAT の実践方法がわからない」「SAT の開始 時期がわからない」「SAT を行う(鎮静を中断する) ことに不安がある」の項目で有意差が認められた. 考 察 勉強会と多職種カンファレンスを行ったことで,項 目 1「SAT を実践したことがない」,項目 2「SAT 対象 患者に対して,毎日 SAT を行っていない」,項目 3「SAT の実践方法がわからない」,項目 4「SAT の開始時期が わからない」,項目 6「SAT を行う(鎮静を中断する) ことに不安がある」の項目に有意差が認められた. 川島はカンファレンスの目的は,①個人の体験を チームが共有し,チーム全体の技術水準を高めること, ②個々の患者への看護計画の妥当性の検討,③チーム メンバーの意思統一をはかり,チーム全体の技術水準 を高めること,④共同学習による新知識の習得,⑤患 者の見方を育てること,⑥他職種との連絡調整である と述べている.また,めざましい医学の進歩に伴い, ナースもすばやく新知識や技術の習得をしなければな らないが,とても個人的な努力では追いつかず,安全 の保持のうえからも統一した手技とそれを裏づける原 理の理解が必須で,カンファレンスはこうした共同学 習の場となるとも述べている4).また,「勉強会や普 段の助言などが,とても勉強になった」と介入後の自 由記載がみられた.これらのことからも,勉強会,日々 の助言,多職種カンファレンスは新しい知識の習得の 場となったと言える.さらに,「カンファレンスをもっ と充実させたいと思う」という介入後の自由記載もみ られたように,多職種カンファレンスにおいてチーム 全体で SAT 実施の妥当性を検討することは,実践に 対する不安感を軽減し,意思統一を図ったうえで実践 することは安全の保障となり,全員が実践に取り組む ことでチーム全体の技術水準を高めることに繋がった と言える. 項目 5「SAT の必要性がわからない」については介 入前後とも点数が最も低く,当院の ICU 看護師は SAT の必要性を認識していることが分かった.これは, 本研究を開始する以前に SAT についての勉強会と業 務への導入を行っており,すでに関心が高かったため だと考えられる.また,介入後の自由記載からも,さ らに必要性に対する認識が高まったことが伺える. 項目 7「SAT を行うと患者の苦痛が強くなりそう」, 項目 8「SAT を行うとバイタルサインや状態に悪影響 を与えそう」については,点数はわずかしか減少しな 表 1 「自発覚醒トライアル(SAT)アンケート調査」介入前後比較 介入前 介入後 1 SATを実践したことがない 2.00 1.00 0.03* 2 SAT対象者に対して、毎日SATを行っていない 3.00 2.00 0.02* 3 SATの実践方法がわからない 2.50 2.00 0.02* 4 SATの開始時期がわからない 4.00 2.50 0.00* 5 SATの必要性がわからない 1.50 1.00 0.10 6 SATを行う(鎮静を中断する)ことに不安がある 4.00 3.00 0.02* 7 SATを行うと患者の苦痛が強くなりそう 4.00 3.00 0.10 8 SATを行うとバイタルサインや状態に悪影響を与えそう 3.00 2.00 0.08 9 SATを行い患者が覚醒することで、事故のリスクが増えそう 3.00 4.00 0.45 10 業務が忙しく、SATを行うことができない 3.00 3.00 0.33 11 患者の状態・状況に関わらず、鎮静薬は投与しておいた ほうが患者のためになる 12 患者が痛みを感じているとき、鎮静薬を使用している 3.00 3.00 0.79 13 患者が不穏・興奮状態となっている場合、 まずは薬剤(鎮痛薬・鎮静薬)の使用を検討する * : p<0.05 中央値 p値 p<0.05 2.00 2.00 0.80 3.00 2.50 0.32 表1 「自発覚醒トライアル(SAT)アンケート調査」介入前後比較
かった.J-PAD ガイドラインでは,浅い鎮静深度を維 持することにより患者のストレス反応を増加させるか もしれないが,心筋虚血の頻度が増加することはない. 禁忌でなければ深い鎮静深度よりも浅い鎮静深度で管 理することを推奨されている2).また,Kress らは計 画外抜管を含めた SAT 中の有害事象は増えないと示 している5).SAT を正しく実践しても患者の苦痛の増 強やバイタルサインに悪影響を与える状態となるなら ば,SAT は不適合=まだ鎮静薬の投与が必要,という 評価となり,決して SAT 失敗ではない.むしろ,正 しいアセスメントをせず SAT を実践しないほうが患 者にとって不利益であることへの理解を深めてもらう 必要がある.しかしながら,介入前の自由記載で最も 多かった不安への意見が,介入後に全くみられなかっ たことは良い徴候と言える.現時点では不安感の払拭 は十分にできていないため,SAT の開始基準や実施中 の観察項目を明記したチェックシートなど,客観的な 指標を用いることも必要と考える.また,本研究の実 践は 4 カ月と短期間であったことから,SAT の効果で ある早期抜管・早期離床・せん妄予防などを実感する ことができず,ケアの達成感より不安感が大きかった 可能性がある.古川は,達成感の源泉には 2 つの種類 があり,第 1 は「こうありたい」という自己基準を満 たせること,第 2 は同僚,職場(チーム),組織から の期待(他者基準)に応えられることで,みんなの喜 びや笑顔,感謝の言葉を通して喜びが生まれると述べ ている.また,自己成長感とは,仕事ができるように なり自信がついてきている,知識やスキルが増して実 力がついてきているという感覚が持てることであり, 成長の実感は,課題の遂行途上における効力感や達成 感とともに,メンバーが感じる精神的な報酬の中核を なすと述べている.そして,これは,次の仕事,新た な仕事,あるいはより高いレベルの仕事に向けて自主 的に取り組む意欲が湧くという好循環が回り始める きっかけになるとも述べている6).これについては, 引き続き SAT の実践を支援して看護ケアの成果を可 視化していくこと,そして ICU 看護師全員が達成感 を得られるように関わっていくことが必要であると考 える. 項目 9「SAT を行うことで事故のリスクが増えそう」 の点数が増加した理由としては,SAT の実践機会が増 えたことで,事故に繋がりそうな場面に遭遇する機会 が多くなったためと考えられる.SAT の欠点として, 鎮静中よりも患者が不穏状態となる可能性が高いこと やそれによる計画外抜管の危険性などが挙げられる. しかし,前述のとおり Kress らは計画外抜管を含めた SAT 中の有害事象は増えない5)と示しており,村岡ら の取り組み7)でも SAT 中の計画外抜管はなく,当院 でも本研究中に SAT が原因となった病状悪化やイン シデント・アクシデントは発生しなかった.また,介 入前の自由記載では事故への不安についての意見が あったが,介入後には全くみられなかった.その事実 を ICU 看護師に再度周知するとともに,危険を感じ た場面を丁寧に振り返ること,また,多職種カンファ レンスを活用して SAT の実践と安全の保持との両立 を目指すことを ICU スタッフ全員で考えていく必要 がある. 項目 10「業務が忙しく,SAT を行うことができない」 については,点数はわずかしか減少しなかった.平成 30 年度診療報酬改定により,ICU における多職種に よる早期離床・リハビリテーションの取組に係る評価 が新設され,当院でも 2018 年 6 月より取り組みを開 始した.しかし,この取り組みを行うためにも,SAT を実践して浅い鎮静深度で管理しなければならない. また,J-PAD ガイドラインでは,人工呼吸器管理中の 成人患者では,毎日鎮静を中断する,あるいは浅い鎮 静深度を目標とするプロトコルのいずれかをルーチン に用いることを推奨されている2).このことからも, SAT は通常業務の一部であることを再度周知し,理解 してもらう必要がある. 項目 11「患者の状態・状況に関わらず,鎮静薬は投 与しておいたほうが患者のためになる」については点 数がわずかしか減少しなかった.布宮らは,十分な疼 痛対策に基づいた管理を行えば,人工呼吸中の患者で も鎮静なしで過ごすことが可能であり,不適切な鎮静 管理による多くの合併症を防ぐことができる8)と述べ ており,このことを勉強会の内容にも取り入れていた が,それだけでは十分な理解が得られなかったと考え る.今後は多職種カンファレンスや日々の業務を通し て,鎮静薬は必ずしも必要でないことを理解してもら う必要がある. 項目 12「患者が痛みを感じているとき,鎮静薬を使 用している」については,わずかに点数が増加した. J-PAD ガイドラインでは,人工呼吸中の成人患者では, 鎮痛を優先に行う鎮静法を行うことを提案されてい る2).疼痛に対しては鎮痛薬を使用することを勉強会
だけでなく日々の業務でも繰り返し伝えていたが,こ れだけでは十分な理解が得られなかったと考える.ま た,人工呼吸の有無にかかわらず,患者が痛みを自己 申告できる場合は Numerical Rating Scale(NRS)や vi-sual analogue scale(VAS)が,自己申告できない場合 は Behavioral Pain Scale(BPS),Critical-care Pain Ob-servation Tool(CPOT)が推奨されている2).当院 ICU では患者が自己申告できない場合の疼痛スケールを使 用しておらず,正しい疼痛評価ができていなかったこ とも点数増加の要因の一つであると考える.これに対 しては,勉強会を企画して導入を検討する. 項目 13「患者が不穏・興奮状態となっている場合, まずは薬剤(鎮痛薬・鎮静薬)の使用を検討する」に ついては,勉強会の内容に取り入れていたが点数はわ ずかしか減少しなかった.鎮静薬の使用は多くの合併 症を引き起こす可能性があり,鎮痛薬も種類によって は血圧低下や腸管麻痺などの副作用がある.まず,鎮 静薬を用いないで解決できる問題がないか検討するこ と1)とあるように,薬剤を使用する前にコミュニケー ションやマッサージなどの非薬理学的介入を検討する ことを再度周知して理解してもらう必要がある. 本研究を通して,当院 ICU 看護師は SAT の必要性 を認識しており,勉強会と多職種カンファレンスの介 入によって,項目 1「SAT を実践したことがない」,項 目 2「SAT 対象患者に対して,毎日 SAT を行っていな い」,項目 3「SAT の実践方法がわからない」,項目 4「SAT の開始時期がわからない」,項目 6「SAT を行う(鎮静 を中断する)ことに不安がある」についての意識が向 上したことが示唆された.その一方で,不安感の払拭, 安全の保持との両立,一日の業務の中に計画的に組み 込む認識の不足,病態や症状に応じた鎮痛薬の使用や 疼痛評価に関する知識不足などの課題も明らかになっ た.その課題に対し,多職種カンファレンスへの臨床 工学技士の参加と時間の拡大,早期抜管に向けた自発 呼吸トライアル(Spontaneous Breathing Trial:SBT) の導入,SAT・SBT チェックシート9)の作成・導入, 客観的疼痛スケールの導入などが有用と考えられる. 今後も引き続き,当院 ICU で患者が最良の医療を受 けることができるよう,SAT の実践における看護師の 意識向上に努めていくことが重要である. 結 語 勉強会と多職種カンファレンスの介入を行った結 果,介入前後で SAT 実践への理解や不安が改善した. 今後も多職種カンファレンスを継続し,今回明らかに なった課題に対して介入を行うことで,更なる意識向 上に期待ができる.本研究は対象人数が 12 名と少な かったこと,独自調査表を用いたこと,実践期間が 4 か月と短期間であったことから,結果の一般化には限 界がある.また,SAT は看護師全員による実践でより 効果を発揮することから,今回の研究では個人を対象 とせず ICU 看護師全体での意識変化に着目した.今 後は個人の意識変化にも着目し,より効果的な介入方 法を検討していきたい. 文 献 1)炒中信之,行岡秀和,足羽孝子,他:人工呼吸器 中の鎮静のためのガイドライン.2009,at http:// square.umin.ac.jp/jrcm/contents/guide/page03.html 2)布宮 伸,西 信一,吹田奈津子,他:日本版・ 集中治療室における成人重症患者に対する痛み・ 不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン.日 集中医誌 2014; 21: 539-579. 3)行岡秀和,尾崎孝平,鶴田良介,他:医学会規格・ 安全対策委員会,日本集中治療医学:ICU におけ る鎮痛・鎮静に関するアンケート調査.日集中医 誌 2012; 19: 99-106. 4)川島みどり,杉野元子:看護カンファレンス.医 学書院,東京,2011; 14-15.
5)Kress JP,Pohlman AS,O Connor MF,et al.:Daily interruption of sedative infusions in critically ill patients undergoing mechanical ventilation. N Engl J Med 2000; 342: 1471-1477. 6)古川久敬:看護師長・主任のためのグループマネ ジメント入門 リーダーとしての基軸づくり.日 本看護協会出版会,東京,2010; 12. 7)村岡さやか,戸部 賢,田沼小百合,他:SAT・ SBT プロトコル作成と導入.北関東医学 2016; 66: 123-127. 8)布宮 伸:人工呼吸中の鎮痛・鎮静・せん妄対策. 日臨麻会誌 2015; 35: 98-105. 9)人工呼吸器離脱に関する 3 学会合同プロトコル, at https://www.jaccn.jp/guide/pdf/proto1.pdf
10)細川康二,江木盛時,西村匡司:人工呼吸患者へ の鎮静プロトコルと鎮静中断の有用性.日集中医 誌 2012; 19: 165-175.