Title
付加価値外部報告の役割とその開示の様式
Author(s)
奥山, 正剛
Citation
沖縄短大論叢 = OKINAWA TANDAI RONSO, 1(1): 55-73
Issue Date
1985-03-31
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/10608
付加価値外部報告の役割とその開示の様式
奥 山 正 剛
1. はじめに2
.
二つの付加価値外部報告 ::1.付加価値と社会的貢献度 4. 付加価値と利害調整 5. 結 び1
.はじめに 近時,ヨーロッパ諸国において,付加価値外部報告の制度化への動きに は著しいものがある。特に,イギリスにおいては. 1975年,会計基準委員 (1) 会によって「コーポレート・レポート」と題された討議資料が発表され, 付加価値外部報告に制度的基礎を与えたものとされている。 しかし,乙の付加価値外部報告会計は,まだまだ多くの問題をかかえて いる現状である。 本稿では,その問題点の一つで・あると乙ろの,付加価値を現行の企業会 計と如伺なる係わりの下でディスクローズするかという点を扱いたい。つ まり,付加価値報告を従来の損益計算書とどのような係わりの下で把握し, 位置づけるかということである。 この点について,イギリスにおいて二つの見解の対立がみられる。両見 解とも. iコーポレート・レポートJIL端を発するものであるが,一つは, レンシャル・アラン・ニコルソンによって主張されたものである炉これは, 従来の損益計算書の中に付加価値情報を組み入れることによって,付加価 EO RJ値・損益結合計算書(a comp08ite added va1ue and profit and 1088 account)を提示し,従来の損益計算書に取って替わるべきものとして位 置づける見解である。 (3) これに対し,モーリィによって説かれた見解がある。乙れは,従来の損 益計算書とは別に,乙れから独立した形で付加価値計算書(va1ue added statement)を提唱し,財務諸表の体系の中に新たに組み込む形で付加価 (4) 値外部報告を行なおうとするものである。 本稿では,乙の両説を比較検討し,付加価値外部報告の役割及びその開 示の様式について考えてみたい。
2
.
ニつの付加価値外部報告 企業会計というものをどのように把握するか,つまり,その定義・本質 ・役割というものをめぐっては諸種の見解が存在し,必ずしも統ーされた 見解は見られなし1。しかしながら,基本的には,ペイントにおいて述べら れたように,企業活動・経営活動というものを対象とし,乙れを測定し, 整理し,さらにその結果を利害関係者に伝達する基本的機能を持つもので あると考える乙とにさしたる異論はないと思われる。 換言すれば,それは,経営活動を対象とし,乙れを会計特有の記号・数 字等を用いて,種々の情報利用者に伝達し,知らしめていく乙とに関する 知識の体系と考える乙とができる。 付加価値を現在の企業会計と如伺なる係わりの下で外部報告するかとい う乙とは,すなわち,乙の企業会計というシステムを通じて把握される付 加価値が,経営活動の如何なる情報を提供し得るかという事に密接に係わ ってくると考える。 それは,また,付加価値が創造された富であると同時に,他面,種々の 関係者への分配の原資であるが,乙のどちらの側面を重要視するかという 乙とにも係わってくると思われる。 - 56一まず,レンシャル等においては,外部に報告すべき情報は,できる限り 多くの情報利用者にとって意義あるものでなければならず,それは,基本 的な経営活動の実態,つまり,当期の経営成果 (current operating performance )を示す情報であるべきだと考えられている。 乙の点,従来の損益計算書は株主の立場から考えられているものであり, 不十分だとする。何故なら,そ乙では営業からのフローだけでなく,企業 に影響するすべての事象・環境からのフローも取り入れられるため,算出 される利益は企業の純財産の変化を示すものだからである。(5) 乙の点を克服すべく,付加価値報告の必要性を説く。つまり,付加価値 は当該企業の生産過程において創造された富であるから,生産活動に係わ り,経営成果に係わるものである。したがって,個々の企業の生産的努力 の測度であるというザ 乙うした考えをうけて,レンシャ/レ等は,
i
コーポレート・レポート」 及びモーリィの見解は企業の創造した富の受益者グループ (groups of beneficiary)への分配に注目するものであり,生産面を分配面の副次的な (7) ものとして考える見解であると批判する。 つまり,レンシャル等は,付加価値概念は18世紀の経済学者によって企 業の純成果の測定手段として初めて用いられたものであり,乙の考えを踏 襲すべきだという。 すなわち,i
富は土地・労働・資本という三生産要素から創造されるのだ (8) 昏 という考え方の中に付加価値の本来の意味がある。」のだから,この富の 創造の事実を示す乙とに付加価値報告の意味があると考えられるのである。 乙の創造された富が知伺なる形で社会的グループ,受益者に分配された かを示すことは社会的分配報告目的の下での報告であり,財務報告目的の 下での付加価値報告にとって,本質的・固有なものでないとし,乙うした 報告に批判的態度をとる。 乙のように,レンシャル等は,付加価値報告によって経営成果を明らか にしようとするのであり,付加価値のもつ富の創造・生産という側面を重 視する。-57-それでは,乙れが如何なる様式で開示されるべきだというのか。 それは,株主の観点からの利益K焦点を当てている従来の財務報告の目 的の下で,その枠組みの中で付加価値外部報告を行なおうとする。つまり, 従来の損益計算書を組換える乙とによって,表 lのような形の付加価値・ 損益結合計算書を提唱する。それは,従来の損益計算書から得られた情報 を尊重しつつ,さらに新たな経営成果についての情報を追加する乙とを意 味する。 表 l
Group Added Value and Profit and Loss Account csOOO Turnover Materials and services Net added value Employment cost of sales Non-production costs less income Note 1 Note 2 101 70 31 20 1 Operating profit 10 Share of profits/losses of associated companies _2_ Profit before tax and extraordinary 12 Tax __ 4_ Profit after tax
,
before extraordinary items 8 Minority interests 2 Extraordinary items ーよ Profit after tax and extraordinary items 5 Dividends 2 Retained profit for year _ー主 Note 1. Materials and services include depreciationC
s
7,
000 Note 2. Non-production costs and incom comprisetRegional development grant 3
-58-Temporary employment subsidy Foreign exchange losses Bad debts Net cost 2
北 一 引
一
その理由は,まず,現在の損益計算書は営業外損益項目も期間外損益項 目も含んでいるため,企業の財務結果の完全な姿を呈しており,乙れを保 つ乙とが望ましい乙と。法的には配当可能利益の算定が要求されているこ と。証兼業界においては,企業評価に一株当たりの利益を指標として用い ている乙と等から,利益を外部報告から排斥すべきでないと考えられてい る(9) また,損益計算書の組換えであれば,他の計算書との結節・調和が得ら れ,信頼性を得る乙とができる乙とも理由と考えられる。r
コーポレート ・レポート」あるいはモーリィの説く計算書では他の計算書との調和が得 られないため,財務データの般壊につながるという。そのため,乙うした 計算書の公表は企業の自由裁量に委ねることが良いと述べる?) こうした幾つかの理由を見出す乙とができるが,最も大きな理由として は,現在のイギリスの損益計算書において,売上高と営業利益との聞の情 報が開示されていないという点にあると思われる。(表2
の左) このギャップを埋めるためには,付加価値情報(表2
の中)もしくは売 上原価情報(表2
の右)が取り入れられる必要がある。そうする乙とによ って,利益に対する信頼性を獲保する乙とができるというり 乙のように,彼らにあっては,現行の会計実務との結ひ'つきの下で付加 価値外部報告を主張するのであり,制度化への顕著な努力を見る乙とがで きる。 一方,モーリィにおいて,付加価値外部報告の意義は,レンシャル等に よって指摘されるように,付加価値分配状況の開示を重視する乙との中に ある。 つまり,モーリィは,社会的変化に伴う企業の目的・役割の変化の中に n ヨ EU表2
Information Content of Profit Statement Compared with Added Value and Cost of Sales
PROFIT & LOSS ADDED V ALUE STATEMENT INFORMATION Sales 100 Sales 100
COST of SALES INFOMATION Sales 100
Both added value and cost of sales information are significantly more 'complete' than the bare profit. The unexplained blank space in the profit and loss figure is the measure of the information gap. Added value and cost of sales information fi11 the gap. The EEC Fourth Company Law Directive will bring one, or a choice of both, of the latter presentations to British company law. 付加価値外部報告の本質的意味を見出そうとする乙とから,分配状況の開 示が重視されることになるのである。
例えば,ボールデインクーによって組織革命と称されたように,株主勢力
の弱体化,乙れに対しての労働組合,政府等の拾頭化という社会的事実の 前t<:
,
モーリィはへンドリクセンの提示した「企業利益の受益者は誰か」 という問いかけを重要なものと考える?) 伝統的には,企業は株主の観点から意義づけられており,その結果,受 益者は株主に限定される。そうした観点から,株主のための私的利益追求 としての企業の目的・役割が考えられ,損益計算書は彼らに帰属する利益 を報告するものとして考えられてきた。 しかし,そうした社会的変化の下で,モーリィは,企業を株主・債権者 ・従業員そして政府から成る共同体的ティーム (co-operativeteam)附 と考え,したがって,企業利益は彼らの共同体的努力によって創造された 成果として把握されるべきだと考えられている。 企業の目的は,株主だけに帰属する私的利益追求にあるのではなく,受 益者たる共同体メンパー全員のための利益・付加価値の追求にあるのであ り,その事実を示すために付加価値分配状況の開示がなされなければなら ないと考えられていると解する乙とができる。 さらに,企業を共同体的ティームとみなす乙との結果,潜在的に競合す るグループ聞の利害調整をなした数値の報告をする役割が財務会計に課せ られてくるという1
4
)
そ乙で,付加価値分配状況を報告することによって, ティーム構成員の異なった請求を如伺に調整したか,つまり,各グループ の受取るべき付加価値の分配を如何に調整したかの事実を報告できるとい う1
5
)
ここに,第二の理由をl見出すことができる。 このように,モーリィにおいては,付加価値外部報告の目的は,従来の 損益計算書によっては示し得なかった所の,種々の関係者に対する付加価 値分配状況の報告にある(仏)と考えられており,その根本的理由が社会構造 の変化に見出されるのである。そして,乙うした報告によって,例えば経 営の分析に際して,有用な指標を得る乙とができ,情報利用者に役だ‘つ乙 とになると考えられている。 では,モーリィによって,乙の分配状況が損益計算書との係わりにおい て,如伺なる形で報告されるのか。 -61-前述したように,彼においては,損益計算書の背後に株主の立場からの 企業観が存し,付加価値報告の背後に株主を含む種々の利害関係者グルー プの立場からの企業観が存すると考えられている。つまり,損益計算書は 株主という狭いグループの獲得した利益を報告し,付加価値報告者は労働 者,資本提供者等の全ティームメンパーの獲得した利益を報告するのであ り,両者は目的を異にしている。レンシャ/レ等の提唱するような結合計算 書は,それを生み出した親よりももっと劣る混合物,雑種という結果にな るとし,両者の結合には反対する
1
7
)
損益計算書から独立した付加価値計算 書を提唱するのである。(表3) 表3 The conventional profit statemeπt of a company for 1977 was:.
f
:
.
f
:
Sales ...・H ・..…...・H ・..………...・H ・..…...・H ・..……...・H ・..… 370 less materials used ・H ・H ・...・H ・H ・H ・..…...・H ・..………… 150 wages……...・H ・..…………・・・………・・・…...・H ・..……… 100 services purchased・H ・H ・H ・H ・...・H ・..…...・H ・.. 30 interest paid………...・H ・..………・・・・・・……・・・……… 10 depreciation...一……H ・H ・...…...・H ・-…・・・・……ー…・」立
310 Profitbefore tax …・ん…………・・ ……...・H・H ・H ・..…・...・H ・-… 60 Corporation tax………・・・・・・…・・・……… 30 30 lessDivident payable …………...…・・・・…・・・……・・・……・・・…・・・ 12 Retained profitfor the year…H ・H・-…...・H・...・H ・....・H ・-£4
2
A Value Added Statement for 1977 derived from the above would be:
£ Sales …...・H ・...・H ・H ・H ・..…...・H ・..…...・H ・H ・H ・...・H ・...・H ・..… 370
lessbought-in materials and services ……...・H ・..…...・H ・.. 180
( Gross) Value Added available for sharing or ~ 190 γetentzon Ap
ρ
lied as follows: ~ ~ To employees …...・H ・-………-・・…・・・・・・…・一…・・・…ー・ 100 To providers of capital: interest・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…一... ... 10 dividends ...…-・・・・・・・・・・・…...・・・・一 12 22 To Government ………・・・ー・………一一一……...…一…・……-一…...30 To maiηtain and expand assets:depreciation'..・・・・・・…・・・・・・・・・・・・・ー・・・・・・・・・・・・・・・・一一... 20
retained profit ...一一... ... 18 38 ( Gross) Value Added
………・・・・・・……
~ 190 (As will be seen in Chapter 6,
para. 6.18,
there are strong arguments for varying the above Value Added Statement by reporting depreciation as a deduction from Value Added and thereby reporting Net Value Added.)すなわち,その結合計算書は,まず付加価値計算書と比べた場合,受益 者にこの成果を分配するという企業の役割を不明瞭にしてしまう。付加価 値計算書であれば,乙の事実をその報告書の下段によって簡潔に示すこと ができるという。 さらに,損益計算書と比べた場合,株主にとっての役立ちが薄れるとい う。つまり,株主にとっては,彼らに帰属する利益の最大化に関心がある。 そのため,賃金,給料と前給付価値は共に株主の利益を減少させるもので ある点で同質であるため,この両者を区別する結合計算書は意味がないと 同 いうのである。 このように,レンシャル等においても,モーリィにおいても,共に損益 計算書に比し,より多くの情報を提供し得るものとして,付加価値報告を 意義づける点で共通する。 しかし,レンシャ/レ等においては,従来の損益計算書の枠内において付 -63一
加価値報告を行なおうとする。それは,利益に対する信頼を獲ち得ベく, 従来の損益計算書の改善という意図の下で展開された見解と解する乙とが できる。換言すれば,損益計算書が報告目的としている配当可能利益ある いは留保利益の源泉を明示するために,つまり,経営活動の成果を報告す る目的の下での付加価値外部報告であると解する乙とができる。 乙れに対し,モーリィにおいては,現代経済社会における企業の役割, 乙れを受けての企業会計の役割の下で,現在の損益計算書の持つ,配当可 能利益を通じての株主報告目的の不適格性・限界を克服すベく,財務諸表 の体系の中1[,新たに付加価値分配報告を組み込み,そのような形で位置 づけようとするものである。(19)
3
.
付加価値と社会的貢献度 付加価値によって伺を報告するか,それと係わって如何なる形態で舛部 報告を行なうか。前述したような二つの見解の対立が見られる。乙うした 問題について,どのように考えるべきであろうか。 経営活動を一定のまとまりある計算結果に写像するシステムとして企業 会計を把える場合,企業の経営活動を如伺に位置づけるか,つまり,経営 活動を取り巻く経済構造を如伺に把握し,そして,そ乙から導き出されて くる企業目的をどのように理解するかといった,いわば,企業観との係わ りの下で,企業会計の作り出す計算結果,会計情報の内容,性格が規定さ れる乙とになると考える。 したがって,モーリィによって述べられたように,まず,社会的変化K 伴う企業観の変遷との係わりKおいて付加価値外部報告の意義が考えられ ねばならないと思う。 モーリィにおいて明らかにされたように,損益計算書の背後には,企業 を株主の私的利益追求のための私的所有物とみなす企業観がある。 乙の企業観の下では,企業会計は所有主の利害を中心軸として,その理 論構成がなされる。すなわち,会計上の記録・報告は所有主の観点からな -64一され,また所有主に属する利益の測定及ひeその変化の分析が目的とされる?) いわゆる所有主理論としての企業会計である。 乙うした企業観あるいは企業会計は,多数の小規模企業によって産業が 構成されたと乙ろの,いわゆる古典的な資本主義経済に妥当するものと考 える乙とができる。つまり,かつて,アダムスミスKよって「見えない手
J
帥 の作用と指摘されたように,乙乙においては,個々の企業の社会全体に及 ぼす影響力は微々たるものであり,各企業が利己心のおもむくままに行動 する乙とによって,いわゆる市場価格機構を通じて経済全体の資源の有効 配分が自動的に調整され,社会の繁栄に一致する均衡的競争状態にあると 考えられているのである。すなわち,各企業が自らの私的利益追求の行動 を取る乙とが合理化されているのである。 乙れに対し,現代経済においては,市場はもはや古典的な完全競争状態 にはなしその寡占化が支配的傾向となっている。乙乙ではもはや古典的 な競争の論理,市場価格機構は非現実的なものであり,私的な利潤追求の 企業行動は時には外部不経済をもたらし,資源配分の不効率をもたらすP
こ乙に至っては,企業はもはや所有主の私的利益追求手段としての存在 として考えられるのでなく, ドラッカーの述べるように,社会経済の重要 な一員として,社会と共に存続発展する自覚が必要となる?)つまり,社会 性という乙とを経営理念の中に取り込んでし1かねばならないと言える。換 言すれば,企業自身の存続,繁栄を目ざし,さらに,成果の分配に際して は投資家だけでなく従業員,取引先,顧客などの利害関係者の期待に応え るとともに,地域社会,国家等の安定,調和,発展のために寄与するのみ ならず,さらに積極的な社会福祉政策の推進を計るべく行動し,社会へ貢 似) 献する乙とによって,その存在意義が認められるという乙とができる。 前述したように,企業の目的を株主,所有主の利益の獲得にあるとみる 場合,従来の損益計算書は有用な情報と考えられた。 これに対し,企業の存在を社会に貢献すべきもの,社会経済の一環とし て意義づける場合,その貢献度に関する情報開示が企業会計に課せられて くる。乙れら貢献度をすべて会計数値で捕促する乙とについては,まだ多 F ﹁ u 戸 bくの問題が残されているものの,企業は,まず,産業社会の主要な経済的 用具であり,それは,生産,分配という基本的な機能を持っているという 事実がある。つまり,個々の企業は,国民経済の前の段階から財・給付を うけ入れ,そして生産,加工を行ない,より価値ある生産物を製造し,国 民経済の次の段階へと引き渡す乙とによって経済活動を行なう。そして, その反面,貨幣の流れが,乙れら財の流れと逆に起乙り,国民所得の分配 カf行なわれる乙とになる。 企業は,乙うした意味において社会経済に存立しており,乙うした社会 的な生産,分配を行なっている経済構成体と考えられているのである伊す なわち,企業は基本的には,生産,分配の両面に貢献すベく,社会的存在 意義が認められていると考えられる。 企業を乙のように把える場合,生産面,分配面における貢献度を明らか にする乙とが,会計報告に要請されるのではないか。乙の点は日本会計研 究学会,付加価値会計特別委員会の報告の中で述べられていると乙ろであ る同 乙乙に付加価値外部報告の役割が認識されねばならないと考える。伺故 なら,付加価値は,レンシャル等によって述べられたように,経営成果で あり,その報告によって経営的努力を明らかにする乙とができ,さらに, それは同時に,モーリィの述べるように,企業の種々の関係者への分配の 原資となり得るものだからである。 つまり,付加価値報告によって乙そ,富の創造,分配の事実,生産,分 配への貢献度を示す乙とができ戸また,乙の事実を示す乙とに現在の外部 報告会計の担う役割があると考えるからである。
4
.
付加価値と利害調整
モーリィによって述べられたように,近時,労働組合,消費者団体,政 府機関,経営者団体等の集団組織はめざましい勢いで拡大しつつあり,そ-66-の結果,必然的 ~L ,社会における,また,企業における利害の対立をより 大規模な激しいものに展開していく傾向は,企業を取り巻く社会的変化の 一つである。それ故,乙れら利害者集団の相対する利害の調整が企業に課 せられ,ひいては,企業会計の重要な役割となっている。 乙の利害調整は,財務諸表を通じて企業の経営活動の実情を伝達するこ との中で,その考慮がなされてくることになるが,乙の場合,伝統的には, この経営活動の実態が端的には収益から費用を控除した後の利益,つまり 期間損益計算を通じて表現されており,乙の利益というものは,また,相 対立する利害を調整する媒体として考えられている。 つまり,現在の期間損益計算の下では,直接的には,絶えず浮動する株 主群聞の相対立する利害を調整する要請に応えるものであるが,同時に, それは,その下で債権者利益の保護を達成するものでもあると考えられて いる乙とである。そ乙では,現在・将来期の株主聞の,また,株主と債権 者との聞の利害調整が問題とされている。 具体的には,実現基準,発生基準を適用することによって,浮動株主群 聞の費用負担,収益参加の正しい関係を保持することによって彼らの対立 する利害を調整し,さらに,このような形での,株主に正当に帰属すべき 期間利益の算定は,同時に一切の財産評価替を否定し,評価替による未実 現利益の計上を排斥し,純財産の保全を可能ならしめる乙とによって債権 同 者の利益を保護する結果になると考えられている。 しかし,現在の企業は,株主,債権者だけでなく,従業員,政府当局, 地域住民等,種々の利害関係者と複雑な取引関係を通じて密接に係わって いる。 例えば,レビーによれば,株主と企業とは,資本の提供と配当金の支払, あるいは,ある程度のコントロールの付与という取引を通じて関係し,債 権者と企業とは資本の提供と利息の支払という取引を通じて,従業員と会 社とは労働力の提供と給与の支払という取引を通じて関係する等と述べら れるりつまり,現代の企業は,株主,従業員,債権者,取引先,消費者, 国家等によって構成された一組織体とみなす乙とができる。 - 67一
乙のように,企業を種々の利害関係者によって構成されるものと考え, また,その乙とから必然的に企業に要請される利害調整という役割を考え た場合,企業の行なう意思決定は特定の利害関係者の価値判断の立場から なされるのではなく,企業に係わるすべての利害関係者の聞に存在する利 害対立を調整するという観点からなされねばならないと思われる。伺故な らば,これらの利害は相互に異なる利害,要請にたちながらも,利害関係 者は企業の存続,発展のために協力的に機能せざる得ない関係にあり,乙 の協力関係を成立してし1かねば,企業の長期的,安定的な維持,成長が不 和司 可能となるからである。 スーヤーネンは,乙うした企業を種々の利害関係者の意思決定の中心点 だという。したがって,経営者は,株主を代表するのではなし種々の利 害関係者を代表するものであり,彼らの仲介者という機能を持つものと考 例 られている。 とすれば,果たして,伝統的な利益概念をもってして,これら多種多様 化した利害を調整し切れるのであろうか。むしろ,それよりも,企業の経 営的努力によって創造され,なおかっ,種々の利害関係者への分配の原資 となり得る経済価値を企業利益として把え,乙の創造,分配の事実の捕促, 確定のために企業会計が機能すべきではないだろうか。 もちろん,乙のような経済価値は,付加価値によって把えられるもので (32) ある。 例えば,スーヤーネンにおいても「付加価値概念は所有主あるいは企業 実体理論で定義されるような会計利益を首位におくものではなく,企業が 行なったすべての分配と一緒tL,その企業の総付加価値の一構成要素とし て,会計利益を表示するものである。乙うした扱いは,結果的 IL,すべて の利害関係者に対し企業が等しく責任を負っている乙とを強調する乙とに (話) なる。」と述べられ,付加価値分配状況の開示によって,すべての利害関 係者を同等の地位に置いている事実を示す乙とができ,従来の損益計算書 では示し得なかった,利害調整という観点から好ましいと考えられている。 また, へンドリクセンにおいても「広くいえば,企業は,所有主とそ -68一
の他の投資家だけでなく,従業員や賃借財産の持主を含む大集団の債権者 あるいは利害者集団をもっていると考える乙とができる。乙れは付加価値 的アプローチである。……付加価値的アプローチの利点は,それが,株主 だけではなく,すべての関係者にたいする責任をもっている大会社の制度 的背景を描写しているという乙とである。……大企業における所有と支配 との分離によって,経営の責任は根本的に,組織へのさまざまな参加者の 要求を調停するという責任である。付加価値概念は,乙の関係を,最近承 (ぁ) 認されている利益概念よりもいっそう的確に記述している。」と述べられ, 利害調整という側面からの付加価値報告の妥当性を説かれる。 こうしたことから,モーリィによって説かれた付加価値分配状況の報告 は,現在の企業会計の重要な役割の一つで、あると考える。
5
.
結 び 以上,付加価値報告の役割は,企業の基本的機能である生産,分配の両 側面における社会への貢献度を明らかにすると同時に,種々の複雑な利害 の調整の事実を開示することにあると考える。 したがって,レンシャル等の提唱したように,付加価値報告の意義を企 業の生産的努力の開示に求められた点は高く評価せねばならないものの, 付加価値の分配状況が,また,利害調整の姿が明確に示し得ない点で問題 があるのではないか。また,さらに,それの組み換えによって,付加価値 の分配状況を明示し得るような形態,伊Ijえぱ,わが国の付加価値会計特別 委員会によって有意義だと報告された形態であるが,付加価値の生産,分 配の事実を開示した後,それに続けて,経常利益の計算,純利益の計算, 未処分利益・利益処分の計算を行なう形態を提唱するにしても,付加価値 報告と従来の損益計算書とは,各々異なった目的を持ち,その両者の結合 は意味がないとするモーリィの批判にどう応えていくのか。 やはり,モーリィの提唱するよう,従来の損益計算書から独立した形を -69-保ち,そして,生産・分配の状況を明示するような補足情報の形で外部報 告される乙とが望ましいと考えるべきではないだろうか。
注)
(1) The Accounting Standards Steering Committee, The Corporate Report
,
1975.(2) M. Renshall
,
R. Allan and K. Nicholson,
Added Value in External Financial Reporting, 1979.なお、同著書について山上逮人教授により、詳しく紹介がなされている。「付 加価値と外部報告会計J会計119巻 4号、 16頁-31頁。
(3) M.F.Morley, The Value Added Statement, 1978.
なお、同著書についても山上教授により紹介がなされている。
r
コーポレー ト・レポートと付加価値計算書J会計 116巻 6号、 14頁-30頁。 (4) W. A. Paton, Essentials of Accounting, 1954, p.1. (5) Renshall, Allan and Nicholson, op. cit., p.l1. (6) ibid., p.9. (7) ibid.,
p.47. (8) ibid., p.3. (9) ibid., p.37. 日明 ibid., pp.47-49. 仙 イギリスでは損益計算書の様式について、 EC第4次指令の第23条あるいは 第25条の提案を承認している状況にあるため、近いうちにいずれかの様式にな ると思われるが、レンシャル等によれば、第23条の様式は彼らの主張する付加 価値・損益結合計算書と同じであり、それは付加価値情報の縁式だという。ま た、もし第25条の売上原価情報の様式が採用されたとしても、補足情報として 付加価値情報を要求すべきだと述べている。 ibid.,pp.40-44. 間 Morley,op. cil, pp.3-5. U3) ibid., p.3. -70ーU4) ibid.
,
p.17. 0司 ibid.,p.3. 同 会計基準委員会によって公表された「コーポレート・レポート」において「付 加価値は当該企業自身及びその従業員の努力によって創造された富である。乙 の計算書は富の創造への貢献に対し、付加価値が如何に分配されたかを示すべ きである。Jと述べられ、分配状況の開示が重視される。 AccountingStandards Steering Committee,
op. cit.,
p.49. 乙の会計基準委員会のレポート K対し、ウッドは「それは企業努力の成果が 従業員、資本提供者、政府そして再投資の聞に、如何に分配されたかを示す付 加価値計算書の公表を勧告している。 Jと述べ、乙のレポートが分配状況開示 を重視している乙とを示唆している。 E.G.Wood,Added Value, 1978, p.73.さらに、 「コーポレート・レポート」の2年後、通産省より発表された「会 社報告書の将来」と題した討議資料においても「付加価値が識別されると、そ れが従業員へは給与として、資本提供者へは株式の配当あるいは借入金への利 息という形で、また政府へは税の形で如何に分配されたかを示し、そして企業 に残高が如伺に留保されたかを示す乙とに関心が向砂られる Jと、やはり分配 状況の報告を要求している。 Secretaryof State for Trade by Command of Her Majesty, The Future of Company Reports, 1977, p.8.
モーリィの見解は乙うした一連の報告を踏襲するものと言える。 間 Morley,op. cit., p.108. U8) ibid., p.108. 同 山上教授はモーリィ等の見解を「分配状況表示型」、レンシャル等の見解を 「利益内容説明型」と類型化され、それぞれの特徴、問題点を指摘されている。 「付加価値報告会計の本来的役割J会計 121巻 4号、 68頁。
側 W.J.Vatter
,
The Fund Theory of Accounting and lts lmplication for Financial Reports, 1974, pp.2-3. 聞大内兵衛、松川七郎訳『アダムスミス・諸国民の富』 岩波書庖、昭和44年 679頁。 問 中西寅雄、鍋島達編著『経済の新動向と企業経営』日本生産性本部、昭和48 唱-勾 ,
年、 3頁ー 22頁。
(23) P.F.Drucker, The Practice of Management, 1969, p.37.
(24i 例えば、アメリカの経済開発委員会(CED)は、①経済の成長と効率化、@ 教育、③雇用及び訓練、④市民権及び機会の均等、⑤都市再開発、⑤公害対策 ⑦自然保護及びレクリェーション、@文化・芸術、⑨医療保護、⑪政府機関の 10の分野において貢献すべき乙とを勧告している。経済同友会編訳『企業の社 会的責任』鹿島出版社、昭和50年、 52頁-59頁。 (25) 青木備、小川測、山上達人編『企業付加価値会計』有斐閣双書、昭和56年、 5頁。 側 「企業がその存立する社会経済のために生み出した経済価値を測定し、同時 にそれの利害関係者への分配状態を明らかにする会計が要求されるに歪った。j 日本会計研究学会、付加価値会計特別委員会「第l回報告J(昭和49年 9月)。 聞 特別委員会においても「付加価値会計の目的は、企業の社会経済的貢献度の 測定にあると考える。」と報告されている。向上「第l回報告J。 岡 山下勝治著『貸借対照表論』中央経済社、昭和50年、 3頁-23頁。
側 W.L.Raby, The Two Faces of Accounting, Accounting Review, Vol. 34, 1959, p.454.
ω) 中西寅雄、鍋島逮編著『経営の理念と特質』日本生産性本部、昭和54年、 56 頁-60頁。
削 W.W.Suojanen, Accounting Theory and the Large Corporation, Accounting Review, luly, 1954, pp.392-394. 間 わが国において、制度的企業体の立場から付加価値会計を提唱される阪本安 一教授においても「企業会計はその成立の初期においては、企業主の私的用具 として実施された。しかし今日の経済社会は企業会計なくしては成也し得ない 程K、企業会計は重要な社会的機能を果たすようになっている。それ故に、会 計処理を行なう場合に、会計担当者が下す判断は資本所有主の立場だけを反映 するものではなく、従業員・取引先・顧客・地域住民K至るまでの各種の利害 関係者の立場を総合し、それらの利害の調整をはかるという見地から、会計的 判断は下されるものとなっている。 -72一
付加価値会計における会計主体は、乙のような企業の利害関係者の組織する 企業体である。」と、付加価値報告のもつ利害調整機能を示唆されている。 i付 加価値会計の本質と付加価値の意義J青木街、後藤幸男、山上逮人編『付加価 値会計』中央経済社、昭和52年、 10頁一11頁。 帥 Suojanen