Title
沖縄県地域生活定着支援センターの活動
Author(s)
小西, 吉呂
Citation
沖縄大学法経学部紀要 = Okinawa University JOURNAL
OF LAW & ECONOMICS(23): 39-49
Issue Date
2015-03-31
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/18233
はじめに 高齢や障害があり、なおかつ罪を犯した者の社会での居場所づくり、社会参加が困難を極める のは想像に難くない。事実、こうした者の多くが社会から受け入れを拒否され、その結果繰り返 し罪を犯して、矯正施設(刑務所、少年刑務所、少年院等)と社会の間を何度も行き来している。 この憂慮すべき現状を少しでも好転させるべく、地域生活定着支援センター(以下「支援セン ター」と略称する)が全国で活動を始めた。すなわち、支援センターは、高齢、あるいは知的障 害や精神障害等のために、福祉の支援を必要とする矯正施設退所者について、退所後直ちに福祉 サービス等につなげるべく設置された支援機関である。 その背景には、冒頭で触れた高齢者や障害者の再犯問題があるが、これらの者の状況に直接 光が当てられたのは、2000年代初め頃から、矯正施設内に高齢者や知的障害者等が多数収容され ている実情や、彼らが退所後十分な支援もなく放置され再犯に至るケースが多い実情がクローズ アップされるようになったことが契機である(1)。 その後2009年から全国の都道府県に整備が進められてきた支援センターであるが、2011年度末 には、全都道府県に設置を完了した。さらに、厚生労働省は2012年度から矯正施設退所後のフォ ローアップ、相談支援にまで業務を拡大・拡充し、入所中から退所後まで一貫した相談支援を行 う「地域生活定着促進事業」を実施しているところである。 沖縄県でも、2010年から支援センター(以下「沖縄県の支援センター」又は「沖縄支援センター」 と称する)の運営が始まった。ただ、運営開始からまだ日が浅いため、支援センター自身がどう いう役割を担っているか、成果はどうか等について、社会的にはもちろんのこと、専門家の間で も十分に認知されていないきらいがある。 今回幸いにして、沖縄県の支援センターを訪れ、貴重な資料の提供を受けるとともに、担当者 からセンターの活動について話を伺うことができた(2)。本誌をお借りして、その概要を報告さ せていただく(3)。 【調査報告】 専 門 分 野:刑法・刑事政策 司法福祉 キーワード:高齢犯罪者 知的障害者 再犯予防 更生保護
The Okinawa Community Living Support Center's Practices
小 西 吉 呂*
Yoshiro KONISHI
沖縄県地域生活定着支援センターの活動
1 設置形態・組織、連携等 沖縄県の場合、社会福祉協議会が県からの委託を受けて、那覇市首里石嶺町の県総合福祉セン ター内で沖縄支援センターを運営している。相談支援員4人、事務員2人の合計6人が職員とし て配置されている。このような社協による設置形態は必ずしも多くはなく、全国で8か所にとど まる。支援センターの多くは福祉事業所(福祉施設)やNPO法人が運営しており、他には社会 福祉士会が受託している例もある。 沖縄支援センターは、司法機関、医療機関、行政機関等の他機関・他職種の関係者との連携を 密に取りながら運営されている。具体的には、こうした機関からの有識者を集めた月1回の検討 委員会、保護観察所、刑務所、更生保護施設(「がじゅまる沖縄」)、県の担当部局を交えた年4 回の定例連絡会(合同支援会議)が開催されている。こうした会議の中で、支援方法の検討や個 別の事例研究等が行われるのである。 2 支援センターの対象者 「はじめに」でも触れたところであるが、沖縄県に限らず全国の支援センターが支援の対象と しているのは、保護観察所が行う環境調整の中で、おおむね65歳以上の高齢又は身体障害、知的 障害若しくは精神障害により、釈放後に健全に生活態度を保持し、自立した生活を営む上で、居 住予定地の確保等福祉サービスを受けることが必要と認められる矯正施設退所予定者である。 さらには、矯正施設入所中にセンターが相談に応じた高齢者や障害者等で、退所後に福祉サー ビスの利用を希望している者や、福祉サービスが必要と認められる者、そしてセンターが福祉的 支援を必要とすると認めた者も、対象者となる。今回の聞取りでは、件数の多さもあり、矯正施 設入所中であった対象者の話題が多く出された。 3 沖縄県の支援センター対象者の区分 説明をしてくださった相談支援員によれば、沖縄支援センターの業務の中でも、コーディネー ト業務が一番重要であるとのことであった。コーディネート業務とは、保護観察所からの依頼に 基づき、対象者の福祉サービスのニーズの確認等を行い、受け入れ施設等のあっせんや福祉サー ビスの申請支援等を行うものである(後述「7 主な支援とその流れ ⑴ コーディネート業務 の概要」をも参照)。 コーディネート業務が重要な理由として、対象者本人の意向(本人がどういう生活を希望して いるのか)と支援センターの意向(どういう支援ができるのか)とが一致していなければ、矯正 施設出所後、対象者が支援を拒否したり、行方不明になったりと、その後の支援に混乱が生じる からである。そこで以下では、このコーディネート業務から紹介することとする。 まず、沖縄県の支援センターにおけるコーディネート業務の件数であるが、支援センター開設 時から2015年1月5日までで85件に上っている。この数字は対象者の人数と同じであり、その区 分(図1)を見てみると、85人中、知的障害者26人、精神障害者25人、高齢者18人が多くを占め ている。これに続いて、高齢・精神障害重複6人、身体障害4人と続く。矯正施設でいかに多く の障害者や高齢者が収容されているかをうかがい知ることができる数字である。 なお、知的障害者と高齢者については、矯正施設にも多く収容されていることが知られるよう 沖縄県地域生活定着支援センターの活動
1 設置形態・組織、連携等 沖縄県の場合、社会福祉協議会が県からの委託を受けて、那覇市首里石嶺町の県総合福祉セン ター内で沖縄支援センターを運営している。相談支援員4人、事務員2人の合計6人が職員とし て配置されている。このような社協による設置形態は必ずしも多くはなく、全国で8か所にとど まる。支援センターの多くは福祉事業所(福祉施設)やNPO法人が運営しており、他には社会 福祉士会が受託している例もある。 沖縄支援センターは、司法機関、医療機関、行政機関等の他機関・他職種の関係者との連携を 密に取りながら運営されている。具体的には、こうした機関からの有識者を集めた月1回の検討 委員会、保護観察所、刑務所、更生保護施設(「がじゅまる沖縄」)、県の担当部局を交えた年4 回の定例連絡会(合同支援会議)が開催されている。こうした会議の中で、支援方法の検討や個 別の事例研究等が行われるのである。 2 支援センターの対象者 「はじめに」でも触れたところであるが、沖縄県に限らず全国の支援センターが支援の対象と しているのは、保護観察所が行う環境調整の中で、おおむね65歳以上の高齢又は身体障害、知的 障害若しくは精神障害により、釈放後に健全に生活態度を保持し、自立した生活を営む上で、居 住予定地の確保等福祉サービスを受けることが必要と認められる矯正施設退所予定者である。 さらには、矯正施設入所中にセンターが相談に応じた高齢者や障害者等で、退所後に福祉サー ビスの利用を希望している者や、福祉サービスが必要と認められる者、そしてセンターが福祉的 支援を必要とすると認めた者も、対象者となる。今回の聞取りでは、件数の多さもあり、矯正施 設入所中であった対象者の話題が多く出された。 3 沖縄県の支援センター対象者の区分 説明をしてくださった相談支援員によれば、沖縄支援センターの業務の中でも、コーディネー ト業務が一番重要であるとのことであった。コーディネート業務とは、保護観察所からの依頼に 基づき、対象者の福祉サービスのニーズの確認等を行い、受け入れ施設等のあっせんや福祉サー ビスの申請支援等を行うものである(後述「7 主な支援とその流れ ⑴ コーディネート業務 の概要」をも参照)。 コーディネート業務が重要な理由として、対象者本人の意向(本人がどういう生活を希望して いるのか)と支援センターの意向(どういう支援ができるのか)とが一致していなければ、矯正 施設出所後、対象者が支援を拒否したり、行方不明になったりと、その後の支援に混乱が生じる からである。そこで以下では、このコーディネート業務から紹介することとする。 まず、沖縄県の支援センターにおけるコーディネート業務の件数であるが、支援センター開設 時から2015年1月5日までで85件に上っている。この数字は対象者の人数と同じであり、その区 分(図1)を見てみると、85人中、知的障害者26人、精神障害者25人、高齢者18人が多くを占め ている。これに続いて、高齢・精神障害重複6人、身体障害4人と続く。矯正施設でいかに多く の障害者や高齢者が収容されているかをうかがい知ることができる数字である。 なお、知的障害者と高齢者については、矯正施設にも多く収容されていることが知られるよう
になっているが、精神障害者も多いことは意外であった。触法精神障害者は不起訴や無罪となり、 医療観察法や精神保健福祉法に基づく医療的措置のルートに乗っているであろうと想像していた が、実際には、軽度の精神障害者やアルコール・薬物依存者も矯正施設に収容されているため、 このように多めの数字となっているようである。とりわけ沖縄では、アルコール依存の例が目に つくということであった。 他方で、高齢者については、要介護ではない健康で自立できる高齢者も多いとのことであった。 矯正施設に高齢者が多くなっているということは元気な高齢者が多いということと裏表の関係に あり、また、矯正施設での生活は時間刻みの規則正しさがあり、食事や睡眠等も足りており、施 設内で健康チェックも行われることから、高齢者でも元気に退所できる状態なのであろうと推測 する。また、知的障害者については、支援の依頼をしても受け皿となるグループホームやケアホー ムを見つけづらいということであった。その背景としては、施設自身が少ないというハード面の 問題に加えて、矯正施設退所者の受入れに慎重な社会の風潮もあると考えられる。このため、障 害者が社会で孤立する大きな要因になっているのではないかと思われた。 なお、就労に関して、知的障害者と精神障害者については、福祉の事業所に繋げて福祉的就労 を目指すとのことであった。加えて、一般就労に従事する場合もあるとのことであった。他方で、 高齢の場合には、シルバー人材センターを活用するということであった。 4 沖縄県の支援センター対象者の年齢層 年齢(図2)については、50歳代が16人、60歳代が15人、70歳代と30歳代がそれぞれ13人、40 歳代が12人で、中高年に集中している。平均年齢は51.4歳で、最高齢は80歳、最年少は15歳との ことである。10歳代は5人である。このような少年のケースでは、保護観察付の刑執行猶予の例が 多く、保護観察官と連携しながらの支援となる場合が多いとのことであった。また、少年については、 26 25 4 18 0 6 0 2 0 2 2 0 5 10 15 20 25 30 ⅋ ⅛ ఈ ୈ ૰ ₤ ఘ എ ₤ ఘ ! എ ₤ ୈ ૰ ࣞ Ⴂ ₤ ఘ ࣞ Ⴂ ₤ ୈ ૰ ࣞ Ⴂ ₤ എ ࣞ Ⴂ ఘ ୈ ૰ എ 図1 対象者の区分(人数) 沖縄大学法経学部紀要 第23号
片親あるいは両親が不在であるとか、いてもアルコール依存等の病理を抱えているとかの理由によ り家族の関係性が壊れている場合が多いため、相談支援業務において苦労するとのことであった。 5 支援対象者の矯正施設入所回数 支援対象者の矯正施設入所回数(図3)では、85人中1回が27人で最も多いが、それら以外は 2回以上であり、再犯・累犯の多さをうかがわせる。とくに5~ 10回が19人と多く、彼らは矯 正施設と社会を行ったり来たりしていると考えられる。それら以外では、2回11人、3回9人と 続く。このように、再犯・累犯の予防が大きな課題となる中、支援センターの役割に大きな期待 が寄せられるところである。 5 4 13 12 16 15 13 1 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 21య! 31య! 41య! 51య! 61య! 71య! 81య! 91య! :1య 図2 対象者の年齢層(人数) 図3 対象者の矯正施設入所回数 27 11 9 5 19 4 3 0 5 10 15 20 25 30 27ٝ ո ષ 22․ 26ٝ ․ 21ٝ ٝ ٝ ٝ ٝ
6 支援対象者の罪種別構成 支援対象者の罪種別構成(図4)では、85人中、窃盗犯が一番多く50人、ついで知能犯が12人、 凶悪犯と粗暴犯がそれぞれ7人で続く。窃盗犯が多い点で、経済的困窮を背景に軽微な万引き等 を繰り返す対象者の姿が想像される。加えて、担当者の説明によれば、沖縄の場合、飲酒して抑 制が効かなくなった状態での窃盗が目立って多いとの印象があるとのことであった。また、2番 目に多い知能犯も、その内容は無銭飲食や(タクシー等の)無賃乗車であり、やはり経済的困窮 が引き金となっていることをうかがわせる。 7 主な支援とその流れ 全国どこの支援センターでも、おおむねコーディネート業務、フォローアップ業務、相談支援 業務の3つがある。以下、順次見ていく。 ⑴ コーディネート業務の概要 前述の「3 沖縄県の支援センター対象者の区分」でも触れたコーディネート業務であるが、 この業務は、対象者が矯正施設に入所中に本人からの希望等に基づき始められるものである。 沖縄支援センターの対象となるかどうかの確認は、保護観察官が矯正施設に出向き、本人と面 談して行う。その後、保護観察所から支援センターの方に依頼がなされると、支援センターから の職員が矯正施設に出向き、退所後の生活についての希望等を詳しく聞取るのである。 近年では、刑務所入所者の高齢化や障害を持った入所者への関心が徐々に高まる中で、沖縄刑 務所を含めて刑務所に社会福祉士等の資格を持った職員が、刑務官等とは別に配置されるように なっており、支援センター職員は彼らと連携を取りつつ、入所中に、介護保険サービスの被保険 図4 対象者の罪種別構成(人数) 50 12 7 7 3 6 0 10 20 30 40 50 60 ୮ൔๆ! ෝๆ! މ՛ๆ! லཕๆ! ๆऻๆ! ̷͈ఈ Ȫޑଷ̵̞ͩ̾൝ȫ 沖縄大学法経学部紀要 第23号
者証や療育手帳取得の申請等を行うことにより、退所後スムーズにサービスが受けられるように 業務を進めている。 ただし、退所してすぐに福祉施設への入所ができない場合も多く、その場合には、一時的に更 生保護施設に身を寄せつつ、引き続き福祉施設やアパート等の定住先を探すことになる。そして、 本人の退所に伴い、フォローアップ業務(後述)に移行する。 なお、本人の希望に基づき、県外の矯正施設に入所している県内出身者の県内帰住先を、県外 の支援センターや保護観察所からの依頼・連携で探すということも行われる。この場合でも、県 外の矯正施設に支援センター職員を派遣して同様に面談等も行う。沖縄県の支援センター職員に よれば、年に3~4人程度は県外からの依頼とのことである。 ⑵ コーディネート業務の件数 沖縄県の支援センターにおけるコーディネート業務の依頼件数(図5)であるが、すでに触れ たように沖縄支援センター開設時から2015年1月5日までで85人(85件:以下同じ)に上ってい る。これらは、帰住先の有無により、家族を含めて退所後の帰住先がなかったり、家族がいても 引き取りを拒否されたりする対象者に対する特別調整と、実家等の帰住先がある対象者に対する 一般調整とが区別される。特別調整は70人、一般調整は15人である。特別調整が相当数に上るが、 これらを放置した場合、退所後にホームレス等に至る危険もあり、支援の必要性はとくに高いと 言えよう。 85人中、(矯正施設内での)支援継続中が6人、支援終了が22人(死亡2人、支援拒否15人、 精神保健福祉法に基づく措置入院4人、その他1人)、フォローアップ業務への移行が57人となっ ており、フォローアップ業務への移行割合が増える傾向にあるのは、支援センターの役割や意義 図5 コーディネート業務依頼件数(人数) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 2010 2011 2012 2013 2014 ࣣࠗ අ༆ା ๊֚ା ࣣࠗ
が対象者等の関係者に認識されつつあることを示すものであろう。 なお、支援終了理由として支援拒否が目立つが、これは支援センターが対象者に勧めた支援と 本人が希望する支援との間に開きがあり、本人が拒否したため終了となったものである。この両 者のミスマッチは、その後の再犯にも繋がる場合があり、本人の意向をいかに汲み取れるかが相 談支援員の大きな関心事項となっている。ミスマッチの具体例としては、対象者がアパートでの 一人暮らしを希望した場合に、相談支援員が最初から一人暮らしは厳しいと判断してグループ ホームでの生活を勧め、実際にグループホームでの生活を始めたものの馴染めないというような 場合である。加えて、多くの対象者が人とのコミュニケーションを苦手としている点も、問題を 複雑にしている。具体的には、対象者を支援する方法は多様に準備されていても、周囲に相談す ることをせず、支援に繋がらない例が多いとのことであった。この点は、とりわけ知的障害者に ついて少なからず指摘されてきたことであり、首肯できるものがある。 ⑶ フォローアップ業務の概要 フォローアップ業務は、前述のコーディネート業務による斡旋により、矯正施設退所後、福祉 施設等を利用している者や対象者を受入れた施設等に対して必要な助言、状況の確認等を行うも のであり、この業務により、対象者が福祉施設や更生保護施設と円滑に繋がり定着することが期 待される。なお、このフォローアップ業務は各都道府県の支援センターで一律のものではなく、 それぞれのセンターが工夫して行っている。 ⑷ 対象者の受入れ先:矯正施設からの退所直後 フォローアップ業務を行う対象者の具体的な受け入れ先であるが、矯正施設からの退所直後と、 最終的な(フォローアップ終了時点の)とに分けて見てみたい。 まず、矯正施設からの退所直後(図6)では、更生保護施設が20人で一番多い。しかし、更生 保護施設は、原則半年の期限付き受け入れ施設であり、定住することはできない。その期間内に 定住先を探さなければならないという問題を抱えることになる。 そのつぎに多いのは、アパート・実家で13人である。とくに実家が多いが、これはアパートを 借りるにしても、保証人を見つけることが困難で断念せざるをえない場合が多いからである。そ こで、沖縄支援センターでは、那覇市その他の自治体が実施している居住サポート事業等を活用 しながら、保証人なしのアパートを探している。また、仮にアパート住まいとなった場合には、 まず生活保護を申請・受給して、仕事を探す等自立に向けて備えることになる。しかし、少なか らず耳にする話ではあるが、長いホームレス生活でアパート暮らしに馴染めず、家出して行方知 れずになる例もあるとのことであった。 3番目に多いのは、自立準備ホームで8人である。自立準備ホームとは、法務省が「緊急的住 居確保・自立支援対策」として行っている施策で、緊急的一時的に住居を提供し、自立を促す施 設のことである。更生保護法は緊急更生保護を定めており(85条)、その一態様として行われる。 ただ、この自立準備ホームも、半年という期間内で、しかも現状ではそれより早期に定住先を確 保するメドが立っている場合に受け入れが許可される例が多く、この点で更生保護施設と同様で あるとのことであった。加えて、その設置形態も様々で、住居の提供だけの場合もあれば、グルー 沖縄大学法経学部紀要 第23号
プホームのように世話人等の職員を配置している場合もある。 上記以外には、措置入院による精神科病院4人、グループホーム・ケアホーム3人等となって いる。 以上のフォローアップの結果から、たとえば特別養護老人ホーム等への入居を希望しても空き がないため厳しいとか、有料老人ホームに入居したくても料金負担ができない等のため無理であ るとかいった実情が見えてくる。 ⑸ 対象者の受入れ先(人数):フォローアップ終了時(現在) つぎに、フォローアップ終了時(現在)での受け入れ先(図7)であるが、矯正施設退所時に 最多であった更生保護施設は当然にゼロである。多いのは、アパート・実家が13人、グループホー ム・ケアホームが9人等となっている。有料老人ホームも2人いるが、特別養護老人ホームはや はりゼロである。他方で、対象者からの申入れや再犯等による終了が23人と最多であり(後 述「⑹ フォローアップの終了要件」参照)、フォローアップ後、対象者に適した生活の模索が 引き続き行われている。 図6 対象者の受入れ先(人数):矯正施設からの退所直後 20 8 13 4 1 3 4 0 0 0 1 0 0 2 0 0 5 10 15 20 25 ⅋ ⅛ ఈ ೩ ڣ ฑ ਫ਼ අ ༆ ူ ࢌ Ⴧ ૽ ↱ ‡ ↶ ခ ၳ Ⴧ ૽ ↱ ‡ ↶ ࠚ Ⴧ ૽ ↱ ‡ ↶ ူ ࢌ Ⴧ ૽ ↱ ‡ ↶ ‡ ↩ ← ັ ℻ ࣞ Ⴂ ৪ ࢜ ℿ ਯ ݣ ࢌ ঔ ୭ ພ ֭ ℆ ℇ ₊ ↈ ⅽ ↱ ‡ ↶ ু ၛ ߱ Ⴏ ঔ ୭ વ ٺ ৪ ׳ ঔ ୭ ⅽ ↧ ‡ ↞ ₊ ز ু ၛ ↱ ‡ ↶ ࢵ ༗ ࢌ ঔ ୭
⑹ フォローアップの終了要件 この終了の要件・判断基準であるが、これは各都道府県の支援センター全体で統一されたもの はなく、各センターで独自の要件を設けているとのことであった。 沖縄県の場合、まず、フォローアップ期間が原則6か月となっており(再度6か月間の延長可)、 この期間が経過すれば終了となるが、この期間経過の際にモニタリングを実施し、延長するかど うかを決めるとのことで、そういう事例は少なくないとのことであった。また、前記図7の「終 了」23人というのは、期間経過による終了以外の数字である。具体的には、対象者からの申し入 れがあった場合、対象者が死亡した場合、対象者の所在が6か月以上不明になった場合、対象者 が再犯した場合、対象者との接触により職員に危害が及ぶと予想される場合等の7項目で終了と なる。内訳としては、対象者からの申し入れと再犯によるフォローアップ終了がそれぞれ6人と 多く、県外センターへの引き継ぎ2人、地域生活への移行2人、行方不明2人等である。とりわ け再犯では矯正施設への再入所は避けられず、それによる終了が多い点は対象者が置かれた厳し い現実をうかがわせる。反対に、「地域生活への移行」とは、福祉施設等へ入所した対象者につ いて、その後大きな問題もなく生活を続けていると沖縄支援センターが判断したケースのことで、 最良のケースと評価できよう。その数が今後さらに増えることを願わずにはおれない。 図7 対象者の受入れ先(人数):フォローアップ終了時(現在) 0 0 13 0 0 9 2 0 1 0 1 2 0 1 1 23 0 5 10 15 20 25 ਞ ၭ ⅋ ⅛ ఈ ೩ ڣ ฑ ਫ਼ අ ༆ ူ ࢌ Ⴧ ૽ ↱ ‡ ↶ ခ ၳ Ⴧ ૽ ↱ ‡ ↶ ࠚ Ⴧ ૽ ↱ ‡ ↶ ူ ࢌ Ⴧ ૽ ↱ ‡ ↶ ‡ ↩ ← ັ ℻ ࣞ Ⴂ ৪ ࢜ ℿ ਯ ݣ ࢌ ঔ ୭ ພ ֭ ℆ ℇ ₊ ↈ ⅽ ↱ ‡ ↶ ু ၛ ߱ Ⴏ ঔ ୭ વ ٺ ৪ ׳ ঔ ୭ ⅽ ↧ ‡ ↞ ₊ ز ু ၛ ↱ ‡ ↶ ࢵ ༗ ࢌ ঔ ୭ 沖縄大学法経学部紀要 第23号
⑺ 相談支援業務 相談支援業務とは、矯正施設を退所した者の福祉サービス等の利用について、本人やその関係 者(家族や矯正施設等)からの相談に応じて、助言その他の必要な支援を行うものであるが、現 在のところ大きな課題は見られない。 おわりに 今日の刑事政策は福祉を抜きにしては語れなくなっている。その中にあって、支援センターは 様々な視点から包括的な福祉的支援を実施しており、刑事政策や更生保護施策として、極めて重 要な位置付けを与えられつつある。 冒頭で触れた通り、沖縄県の支援センターは2010年の春からスタートしたが、事務的準備・整 備等に時間を要し、実際の支援はその年の秋以降となった経緯がある。このように幸先は必ずし も良好でなかったものの、適切な受託機関が見つかり、今日までほぼ順調な歩みを進めてきたよ うに見受けられる。 ただ、今後の課題もいろいろあろう。たとえば、「刑法等の一部を改正する法律(2013年6月 19日公布、法律第49号)」の施行に伴い実施されることになる刑の一部執行猶予者を対象者とし て取り込むかどうかがある。これまでの支援センターは矯正施設退所者を中心にして出口に注目 してきたが、執行猶予者という入口に立つ者にどう対応するかが問われることになろう。また、 沖縄県の支援センターに関しては、県内で多いアルコール依存の対象者や薬物依存対象者につい て、県内で受け入れ先を見つけるのは非常に困難な状況にあり、県内施設の設置や県外施設への ルートづくり等が課題となるであろう。 こうした課題はあるものの、県支援センターが果たす役割は、今後も益々大きくなることが予 想されるのであり、引き続きその活動に注目したい。 関係資料等 沖縄県地域生活定着支援センターホームページhttp://www.okishakyo.or.jp/teichaku/ 法務省法務総合研究所『知的障害を有する犯罪者の実態と処遇』法務省法務総合研究所研究部報 告52号(2013)。 田島良昭(研究代表)『触法・被疑者となった高齢・障害者への支援の研究(平成21~23年度)』 厚生労働科学研究(障害者対策総合研究事業)報告書(2013)。 野村宏之「北海道における地域生活定着支援センターの運営状況と諸課題について」月刊福祉 96巻7号(2013) 23-27頁。 関口清美「刑事司法の対象となった高齢者・障害者の支援について~地域生活定着支援センター の活動をとおして~」早稲田大学社会安全政策研究所紀要6号(2013)93-104頁。 関根徹「地域生活定着支援事業について~富山県での地域生活定着支援センターの設置にあたっ ての課題~」高岡法学 30号(2012)153-200頁。 小野田正晴「地域の視点から見た三重県地域生活定着支援センターの支援」司法福祉学研究 12 号(2012)136-148頁。 中川英男「滋賀県地域生活定着支援センターの取り組み 」ノーマライゼーション 31巻4号(2011)
26-29頁。 山下康「神奈川県地域生活定着支援センターの現状と課題~職能団体としての特徴を生かして~」 31巻4号(2011)22-25頁。 内田充範「要支援高齢者等の再犯防止のためのソーシャルワーク実践~山口県地域生活定着支援 センターの取り組みから~」山口県立大学学術情報 4号(2011) 11-21頁。 内田扶喜子・谷村慎介・原田和明・水藤昌彦『罪を犯した知的障がいのある人の弁護と支援-司 法と福祉の協働実践』現代人文社(2011)。 田島良昭(研究代表)『罪を犯した障がい者の地域生活支援に関する研究(平成18~20年度)』厚 生労働科学研究(精神保健福祉総合研究事業)報告書(2009)。 ――――――――― * 沖縄大学法経学部教授 1 2006年度から2008年度にかけて田島良昭氏(当時、社会福祉法人南高愛隣会理事長)を研究 代表に厚生労働科学研究が実施され『罪を犯した障がい者の地域生活支援に関する研究』と して公表されたことが大きかったと言えよう。 2 池宮城昭太相談支援員(社会福祉士)が丁寧に説明してくださった。また、本報告書の内容 について職員全体からご校閲をいただいた。ご多忙の中で対応してくださった皆様に深く謝 意を表する。さらに、聞取りに同行していただいた沖縄大学地域研究所特別研究員の外間淳 也氏にも、お礼申し上げる。 3 訪問日は2015年1月6日である。本文等での記載内容はその時点でのものであることをお断 りしておく。 沖縄大学法経学部紀要 第23号