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適応障害患者における胃十二指腸運動機構異常

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Academic year: 2021

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消心身医 Vol. 23 No. 1 2016

原 著

(第83回「消化器心身医学研究会学術集会」一般演題13より)

適応障害患者における胃十二指腸運動機構異常

Gastrointestinal Motility Disorders in the Patients with Adjustment Disorders

楠 裕明

1)

,神崎 智子

1)

,山下 直人

1)

,本多 啓介

1)

柏原 直樹

1)

,石井 学

2)

,塩谷 昭子

2)

,塚本 真知

3)

眞部 紀明

3)

,畠 二郎

3)

,春間 賢

4)

,鎌田 智有

5) 要 旨 適応障害患者(AD)はストレスとの関連性が明確であり,腹部症状を訴える AD は腹 部症状とストレスとの関連性を研究する対象として注目されている。今回われわれは,腹部症状 を訴えるAD の胃十二指腸運動機能と腹部症状を,体外式超音波(US)と症状質問票を用いて評 価した。【対象と方法】腹部症状を訴えて当科を受診したAD 7 例(男性 1 例、女性 6 例;16~41 歳,中央値23 歳)を対象とし,US を用いた機能検査で近位胃拡張率(AR),胃排出率(GE), 前庭部運動能(MI),十二指腸胃逆流(RI)の 4 つの項目を評価し、GSRS、HADS の質問票を実 施した。【結果】7 例全員が何らかの機能異常を有し,内訳は AR が 3 例,GE が 5 例,MI が 2 例, RI は 6 例であった。腹部症状は,それぞれの機能異常に合致するものであったが,HADS の異常 は見られなかった。【結語】上腹部症状を有するAD は運動機能異常を有し,それによる腹部症状 が受診の契機となっている。

Key words:adjustment disorders, gastrointestinal motility disorders, stress 適応障害患者,胃十二指腸運動機能,ストレス はじめに 機能性ディスペプシア(FD)はストレスによって引き 起こされた「病的ストレス応答」の1 つであり,心身症の 1 つであるという考えが浸透してきた。つまり,自律神経 機能異常によって引き起こされた動悸や胃痛,膨満感など の症状は,ストレスによって引き起こされた生理反応であ るということになる1) 一方,病気に結びつく病的ストレス反応としては,適 応不全やネガティブフィードバック不全,反応不全などが あ り , そ の う ち の 適 応不 全 は 適 応障 害 (Adjustment disorders; AD)と同義となる2)AD には①ストレスとの 関連性が明白である。②症状の原因となる生理反応は,ス トレスが存在するときのみ一過性に出現する。③ストレス の原因が比較的はっきりしていることが多い。などの特徴 があり,ストレスの除去が比較的容易であることから,ス トレスと生理反応との関連性を検証するモデルとして最 適であると思われる。また,機能性ディスペプシア患者に おける上腹部症状とストレスとの関連性を証明するため にも有用であると考えられ,われわれは上腹部症状を有す るAD 患者に注目した。 一方,われわれは以前から体外式超音波(US)を用い た胃十二指腸運動機能検査(機能検査)を自律神経機能検 査の1 つとして実施してきたが,近位胃拡張率(AR),胃 排出率(GE),前庭部運動能(MI),十二指腸胃逆流(RI)の

1)Hiroaki Kusunoki, Tomoko Kanzaki, Naohito Yamashita, Keisuke Honda 川崎医科大学 総合臨床医学

2)Manabu Ishii, Akiko Shiotani 同 胃腸内科

3)Machi Tsukamoto, Noriaki Manabe, Jiro Hata 同 検査診断学

4)Ken Harum 川崎医科大学附属川崎病院 総合内科 2 5)Tomoari Kamada 川崎医科大学 健康管理学

(2)

11 消心身医 Vol. 23 No. 1 2016 4 つの項目を用いて運動機能を評価してきた3)~5) 目的と方法 今回われわれは,ストレスと消化管運動機能,上腹部 症状との関連性について検証するため,腹部症状を訴えて 当科を受診したAD 患者 7 例(男性 1 例、女性 6 例;16 ~41 歳、中央値 23 歳)を対象として,超音波を用いた胃 十二指腸運動機能検査と自己記入式質問表による問診を 実施した。両者は初診日、もしくは初診から3 日以内に実 施した。いずれの患者も機能検査に影響を与える薬剤は使 用していなかった。機能検査は既報3)~5)の如く行い,問診 票は腹部症状の評価が可能な Gastrointestinal Symptom Rating Scale (GSRS)や,うつや不安の評価が可能な Hospital Anxiety Depression Scale (HADS)などを用いた。

結果

受診契機となった腹部症状およびHADS,GSRS 問診表 の結果を表1に示す。それぞれの腹部症状は,それぞれの

機能異常によって発症する症状として矛盾しないもので あった。機能検査では7 例全員に何らかの機能検査異常が 見られたが,AR は 3 例,GE は 5 例,MI は 2 例,RI は 6 例で異常が見られた(表2)。HADS の異常は 33 歳の男性 患者1 例のみで見られ,不安が 15 点,うつが 11 点であっ た。

考察

不定愁訴の原因病態の概念として,機能性身体症状群 Functional somatic syndrome (FSS)という考え方が提唱され, FD もその中の疾患の 1 つとして「自律神経系のストレス に対する反応の異常」が病態の中心であると考えられるよ うになった。一方,消化管運動異常や内臓知覚過敏がFD 症状の最終的な原因病態であるという考えも浸透してい るが,その両方がストレスと関連が深いことは一般的に良 く知られている。そんな中でAD 患者は,ストレス状態で ある時のみ症状が一過性に出現しリバーシブルであるこ となどから,大うつ病などを発症する前段階の比較的軽度 な状態と考えられる。また,ストレスによる生理反応の結 果として腹部症状を訴えることも多く,上腹部症状とスト レス,消化管運動機能異常との関連性を検討する上で,非 常に興味深い対象である。そのため,われわれは腹部症状 を訴えるAD 患者を対象に,胃十二指腸運動機能や質問票 を実施した。 対象は7 例と少数であったが,すべての患者に FD 症状 が見られた。また,7 例中 5 例が痛みを中心に訴える epigastric pain syndrome(EPS)タイプの患者であった。一 方,7 例中 6 例までが女性であったが AD に性差があると は考えられず,今後はさらに男性患者のエントリーが必要 と思われた。うつや不安の状態に関しては,対象がAD 患 者であるため,HADS の点数は高いことが予想されたが, 男性患者の1 例に両者の異常状態が疑われた。この患者は 既にうつ状態となり,リバーシブル性が消失しかかってい る可能性も考えられた。今後このような大うつ病への移行 状態と考えられる患者の検査が可能であれば,AD から大 うつ病への移行に伴う胃十二指腸運動機能の変化が観察 出来る可能性があり,非常に興味深い。 われわれの使用した 4 つの指標を用いた評価では,腹 部症状を訴えるAD 患者には,必ず 1 つ以上の運動機能異 常が存在した。それらの機能異常の内訳では,十二指腸胃 逆流の指標であるRI の増加が 7 例中 6 例に見られ,何ら かの原因により十二指腸内圧が亢進し,胃と十二指腸の圧 格差の逆転現象で生じていることが考えられた。以前の検 討で,RI の増加は胃痛症状との正の相関が認められてお り,今回の検討でも7 例中 5 例が EPS タイプの FD 症状を 有していた。われわれは,この現象にはストレスが大きく 関与していると想像しており,ストレスによる最初の消化 管への影響が十二指腸内圧の亢進であると考えている。 表1 注)胃排出能:50%以上,前庭部運動能:8.0 以上 11.0 未満, 十二指腸胃逆流:15 以下,を正常とした。 表2

(3)

12 消心身医 Vol. 23 No. 1 2016 GE の低下は 5 例に認められたが,これは RI 増加による 2 次的な影響が関与していると考えられ,MI にも大きな変 化は見られなかった。AR の異常は 3 例のみであったが, われわれはこれまでの研究で,大うつ病ではほとんどの症 例でAR の異常が認められることを掴んでおり,AD から 大うつ病に移行するにしたがって AR の異常が増加する のではないかと考えている。 結語 上腹部症状を有するAD 患者は,医療機関を受診する段 階で既にストレスによって生じた自律神経機能異常(胃十 二指腸運動機能異常)を持っており,それによって引き起 こされた腹部症状が,最終的な内科受診の契機となってい る可能性が考えられた。 文 献 1) 三輪洋人:機能性ディスペプシアの考え方。日消誌,109: 1683-1696, 2012.

2) McEwen BS: Protective and damaging effects of stress mediators. N Engl J Med, 338: 171-179, 1998.

3) Kusunoki H, Haruma K, Hata J, et al.: Efficacy of Rikkunshito, a traditional Japanese medicine (Kampo), in treating functional dyspepsia. Intern Med, 49: 2195-2202, 2010.

4) Kusunoki H, Haruma K, Hata J, et al.: Efficacy of mosapride citrate in proximal gastric accommodation and gastrointestinal motility in healthy volunteers. A double-blind placebo-controlled ultrasonographic study. J Gastroenterol, 45: 1228-1234, 2010.

5) Kusunoki H, Haruma K, Hata J, et al.: Therapeutic efficacy of acotiamide in patients with functional dyspepsia based on enhanced postprandial gastric accommodation and emptying: randomized controlled study evaluation by real-time ultrasonography. Neurogastroenterol Motil, 24: 540-e251, 2012.

参照

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