ABSTRACT
Certain foods are known to have flavor characteristics such as continuity and mouthfulness which cannot be explained by the five basic tastes alone. It has been demonstrated that these sensations are evoked by the addition of kokumi substances, flavor modifiers with no taste of their own, which are considered to be one of “Koku” -imparting factors. Recent studies have demonstrated that kokumi substances such as glutathione are perceived via the calcium-sensing receptor (CaSR). Screening with CaSR assay and sensory evaluations have shown thatγ-glutamyl-valyl-glycine (γ-Glu-Val-Gly) is a potent kokumi peptide. In the present study, the sensory effects of γ-Glu-Val-Gly on chicken soup, reduced-fat peanuts butter, and reduced-fat custard cream were investigated by descriptive analysis. Chicken soup containing γ-Glu-Val-Gly had significantly stronger thickness, mouthfulness, and continuity than those of the control. In addition, γ-Glu-Val-Gly significantly increased the oiliness, thick flavor, and aftertaste of reduced-fat peanut butter, significantly increased the thickness of taste of reduced-fat custard cream. As a kokumi substance,γ-Glu-Val-Gly has no taste of it own, it can therefore be used to improve the flavor of both savory and sweet foods including reduced-fat foods.
キーワード:「コク味」、γ-Glu-Val-Gly、減脂肪食品、ピーナッツバター、カスタードクリ ーム
Key words: kokumi, γ-Glu-Val-Gly, reduced-fat foods, peanut butter, custard cream
<総説>
「コク味」(kokumi )物質の受容機構と官能特性:
低脂肪食品への有用性を中心に
黒田素央
Perceptive mechanism and sensory characteristics of kokumi
substances:
Effect on the sensory characteristics of low-fat foods
Motonaka Kuroda
所属機関: 味の素株式会社 食品研究所 住 所: 〒 210-8681 神奈川県川崎市川崎区鈴木町 1-1 電話:044-223-4166 Fax:044-246-6196 1.はじめに 我々が食品を食べて、その食品を「お いしい」と感じる時、食品の風味(味およ び香り)や食感、食べる場の雰囲気、食 習慣、その時の健康状態など多様の要素 が影響している。その中でも重要と考えら れる食品の味において、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5基本味は食品の呈 味を決定する大きい要素である1),2)。し かし、食品の味を表現する際に、上記の 5基本味のみでは表わすことが困難な時 があることが経験的に知られている。「辛 味」「渋味」などもその範疇に入るが、本 稿のテーマである「こく・コク」、「こく味、 コク味」もそのような要素として食品業界 等で用いられている表現である3),4)。なお、 上記の「こく・コク」については一般には 区別なく、ひらがな・カタカナ表記が用い られているが、本稿では以降、カタカナ表 記を用いることとする。また、これらの用 語についての定義については論議中であ るため、「 」付き表記あるいはイタリッ ク表記で示す。 以前の研究で、山口は「コク」に関連 する言葉を調査し、濃厚感(濃厚な味わ い、味が濃い、こってりしている、厚み)、 深み(味わい深い、深い味わい、成分が とけあっている、素材が集まって醸し出 されている、単純でない)、広がり(口の 中に広がる)、持続性(口中に残る味の深 み、口中に残る香りと味、飲み込んだ時 に分かるおいしさ、すぐに消えてしまわな い)、力強さ(味がしっかりしている、特 徴がはっきりしている、メリハリがある、 食べ物独特の味がする)、まろやかさ(ま ろやか)、うま味(うま味がある、うま味 に近い)、動物性の味(肉がたっぷり、バ ター、油が入っている)、快さ(心地よい、 快い)に整理した4)。また、最近の研究で 西村らは、「コク」について“味覚、嗅覚、 触覚の 3 つの感覚に関して、より多くの刺 激がバランスよく与えられ、厚み・複雑さ (complexity)、 持 続 性(continuity)、 口 の中での広がり(fullness)を感じた時に 認識できる現象”と定義し、「コク」付与 物質には、味に関わる「コク」付与物質、 香りに関わる「コク」付与物質、食感に関 わる「コク」付与物質が存在すると述べ ている5)。 一 方、「コク」を 付 与 する物 質 の 単 離・構造解析を試みた研究もなされて いる。Ueda らは、そのもの自体は呈味 を有さず、基本味溶液や食品に添加し た際に、基本味増強や「厚み」、「持続 性」、「広がり」を付与する物質を「コク 味」物質と定義し、ニンニクや玉ネギ抽 出液から、「コク味」(kokumi)物質とし て Alliin、S-Methylcysteine-sulfoxide、 S-Propenylcysteine sulfoxide、グ ルタチ オン(GSH:γ-Glu-Cys-Gly)などを特定 している6),7)。さらに、ドイツミュンヘ ン工科大学の Hofmann の研究グループ は、グルタチオンを添加したチキンスープ を識別できるように訓練したパネリストの 官能評価により、インゲンマメから「コク 味」(kokumi)物質:γ-Glu-Leu、γ-Glu-Val、γ-Glu-Cys-β-Ala を、また、熟成ゴ ーダチーズよりγ-Glu-Glu、γ-Glu-Gly、 γ-Glu-Met、γ-Glu-Leu、γ-Glu-Val、 γ-Glu-His を「コク味」物質として単離・同 定している8)9)。このように「コク味」物 質について数グループから報告されてい たが、「コク味」の理解を促進しうる味覚 受容体との関係については不明であった。 一方、弊社におけるアミノ酸受容機構に 関する研究の過程で、カルシウム感知受 容体(Calcium Sensing Receptor:CaSR)
が L- アミノ酸のみならず、いくつかのペ プチドを受容することを見出した10)。その 中に GSH も含まれていたことから CaSR が「コク味」物質を受容するという作業 仮説を立て、官能特性に関する検証を進 めてきた。その結果、各種 CaSR 活性化 物質(CaSR アゴニスト)に GSH と同様 の官能特性が認められた。さらに、GSH と比較して高い CaSR 活性を示すγ-Glu-Val-Gly に強い「コク味」物質としての効 果が認められた。本稿では、「コク味」物 質の受容機構を明確にする目的で実施し た、CaSR アゴニストの官能特性評価につ いて、詳細を紹介する。 2.CaSR 活性と官能評価結果との関 係10) 官能評価については、ヘルシンキ宣言 の趣旨に沿って、味の素社内のヒトを対 象とする試験審議委員会の承認後、訓練 されたパネリストによって実施した。また、 評価に供するサンプルについては物質添 加溶液の pH が添加前の± 0.2 になるよう に NaOH を用いて調整した。 2-1.GSH またはγ-Glu-Val-Gly 添加時 の経時的な呈味強度の変化 最初にうま味・塩味溶液に GSH または γ-Glu-Val-Gly を添加した際の経時的な 呈味強度変化について検討を行った。パ ネリストは評価液を口に含んだ後の経時 変化に関して、純水を 0 点、0.07%グル タミン酸ナトリウム(MSG)+0.07%イノ シン酸ナトリウム(IMP)+ 0.7% NaCl 溶 液 の もっとも 強く感 じ た 呈 味 の 強 度 を 100 点 とし て、40 秒 間 測 定 し た。 0.02% MSG+0.02% IMP+0.07% NaCl 溶液 と、その溶液に 0.08% GSH または 0.01% 60 50 40 30 20 10 0 0 10 20 30 40 a c b 60 50 40 30 20 10 0 20 10
Time (sec)
Taste Intensity
0 30 40 Figure1:Timecourseprofilesoftasteintensityofumami/saltysolutionwithGSHor γ-Glu-Val-Gly.a,controlsolution(0.02 %MSG,0.02 %IMP,and0.07 %NaCl);b,the controlsolutionplus0.08%GSH;c,thecontrolsolutionplus0.01%γ-Glu-Val-Gly.Data areshownasaverages(n=20)withS.E.Thesolutionsusedforbweresignificantly strongerthanthatusedforaat5s(p<0.01)and20s(p<0.05).γ-Glu-Val-Gly を加えた溶液との比較を行 った結果、GSH またはγ-Glu-Val-Gly の添 加により、どの時間においても呈味の増強 が確認された(図1)。また、口に含んだ 後 5 秒の増強時にうま味と塩味のまとま りが充分に感じられ、“厚み”(thickness) が感知されていると考えられた。また、20 秒後も充分な増強があることから、「コク 味」物質の特徴とされてきた“持続性” (continuity)を有することが認められた。 2-2.各種 CaSR アゴニストの官能特性 既 知の各 種 CaSR アゴニストに関す る官能評価を、以下の要領にて実施し た。 乳 酸 カ ル シ ウ ム(Ca-Lactate)、白 子の塩基性タンパク質であるプロタミン (Protamine)、ポリリジン(Poly-Lysine)、 ヒスチジン(L-Histidine)、機能性副甲状 腺機能亢進症に対する医薬品のシナカル セット(Cinacalcet)を、CaSR の異なる 領域に結合するアゴニストとして選択し た。これらの物質について、図2に示した 濃度にて、0.1% MSG + 0.5% NaCl 溶液に 添加して、“厚み”(口に含んで 5 秒後の 呈味強度)を測定した。図2に示すように、 各 CaSR アゴニストを添加した際に、「コ ク味」物質である GSH を添加した時と同 様に、無添加溶液と比較して有意に“厚み” 評点が高くなることが確認された。この結 果から、「コク味」物質が CaSR によって 受容される可能性が示された。 2-3.GSH、 γ-Glu-Val-Gly の官能特性 に対する CaSR アンタゴニスト (阻害剤)の影響 次に CaSR の選択的なアンタゴニスト (阻害剤)NPS-2143 の影響を評価した。 なお、NPS-2143 は、CaSR を発現させた Ca -Lactate 0.35% Control (W ater) Protamine 0.02% Cinacalcet 0.0015% Glutathione 0.08% Poly-Lysine 0.08% L-His 0.2% 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0
Taste Enhancement Intensity
Figure2:SensoryactivityaskokumisubstanceofknownCaSRagonists.Dataare shownasaveragescores(n=20)witherrorbars(S.E.).Asterisksindicatesignificant differences(Student'sttest)fromthecontrol:***,p<0.001.
培養細胞を用いた系において、GSH および γ -Glu-Val-Gly による CaSR 活性化を阻害す ることが確認されている10)。アンタゴニス トの影響に関する官能評価は以下の要領 で実施した。0.0002% NPS-2143 の非存在 または存在下において、GSH(0.08%)ま たはγ-Glu-Val-Gly(0.01%)を 0.1% MSG + 0.5% NaCl 溶液に添加して、“厚み”(口 に含んで 5 秒後の呈味強度)を測定し た。官能評価の結果を図3に示す。図に 示したように、NPS-2143 の添加によって、 GSH およびγ-Glu-Val-Gly 添加時の“厚 み”評点が有意に低下した。この結果は、 CaSR が「コク味」物質受容に関与してい ることを強く示唆するものであった。 2-4.CaSR 活性と官能特性の強度との 関係 我々は CaSR の「コク味」物質受容の 可能性を検証するために、GSH(γ-Glu-Cys-Gly)に関連する各種γ -Glu- ペプチドを 合成し、CaSR 活性を有するものがあるこ とを確認してきた8)。CaSR の「コク味」物 質受容の可能性を検証することを目的とし て、γ-Glu- ペプチドの CaSR 活性強度と 官能特性強度との関係について検討を行 った。CaSR 活性については、ヒト CaSR 発現遺伝子を導入した HEK-293 細胞を 用いて、シグナル伝達物質の量を指標に 測定した。各γ-Glu- ペプチドの活性値と しては最大反応 Emax の 50%の反応強度 を示す濃度(EC50)を用いた10)。官能特 性強度の定量に関しては、定法により主 観的等価濃度(PSE; Point of Subjective Equivalent)を求めた。具体的には、0.5% γ-Glu-Ala、0.15 % γ-Glu-Val、0.15 % γ-Glu-Cys、0.05%γ -Glu-Abu-Gly、0.01% γ-Glu-Val-Gly を添加したうま味溶液 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0
Taste Enhancement Intensity
(
Human Sensory Analysis Score
) γECG(GSH) 0.08% NPS-2143 0.0002% (4.5µM) + − − + γEVG 0.01% Figure3:EffectofCaSRinhibitorNPS-2143onCaSRactivitymeasuredusingCaSR-expressingHEK-293cellsandsensoryeffectofGSHandγ -Glu-Val-Gly.*,p<0.05.***, p<0.001.
(0.05% MSG + 0.05% IMP + 0.5% NaCl) について、パネリスト(n=34:訓練され た 17 名のパネリストが 2 回繰り返し評価) が 8 段階の GSH 添加うま味溶液(0.02、 0.03、0.044、0.07、0.10、0.15、0.23、 0.34%の GSH)から同等と感じる GSH 濃 度を選択し、結果についてプロビット分 析を行い、PSE を求めた。各γ-Glu- ペプ チド溶液に対応する GSH の PSE はそれ ぞれ、0.074%、0.092%、0.094%、0.085%、 0.128%と算出された。この結果から各 γ-Glu- ペプチドの GSH に対する相対的官 能特性強度を算出して、CaSR 活性強度と の相関解析を行った。結果を図4に示す。 図に示したように CaSR 活性強度と官能特 性強度は有意に正相関することが示され た(相関係数 r=0.812,p<0.05)。この結果も、 CaSR が「コク味」物質の受容に関与して いることを強く示唆するものであった。 3.「 コク 味 」(kokumi)ペ プ チド、 γ-Glu-Val-Gly の官能特性 3-1.基本味溶液に対するγ -Glu-Val-Gly の添加効果 前述の各種γ-Glu- ペプチドの官能評価 において、最も官能特性強度の高かった γ-Glu-Val-Gly(GSH の 12.8 倍)の官能特 性について検討を行った。初めに基本味 であるうま味、甘味、塩味溶液に対する添 加効果について、GSH との比較を行った。 うま味溶液(0.5% MSG 溶液)、甘味溶液 (3.3%ショ糖溶液)、塩味溶液(0.9% NaCl 溶液)に 0.1% GSH または 0.01%γ-Glu-Val-Gly を添加して、“厚み”(口に含んで 5 秒後の呈味強度)を測定した。なお、官 能評価は訓練された 20 名のパネリストに よって実施した。官能評価の結果を図5に 示す。図に示したように、0.1% GSH また 0.1 1 10 10 1 0.1
Taste Enhancement Intensity
CaSR Agonist Activity
Figure4:TherelationshipbetweenCaSRactivity(A,EC50)andkokumitasteintensity offive γ-glutamylpeptidesisplottedonlogarithmicscalesincomparisonwithGSH. APearsoncorrelationcoefficientwasusedtocalculatetherelationshipbetweenCaSR activityandkokumitasteintensity.Asignificantpositivecorrelationwasfound(r2= 0.660,p=0.0496).a,γ-Glu-Ala;b,γ-Glu-Val;c,γ-Glu-Val;d,γ-Glu-Abu-Gly;e, γ-Glu-Val-Gly.Abu,α -aminobutyricacid
は 0.01%γ-Glu-Val-Gly の添加により、う ま味、甘味、塩味に関して、ほぼ同程度 の評点上昇が確認された。この結果から、 うま味、甘味、塩味の増強機能において、 γ-Glu-Val-Gly は GSH の 10 分の 1 の濃度 でほぼ同等の官能特性強度を示すことが 明らかになった。 3-2.食 品 系 に お け る「 コ ク 味 」 (kokumi)物質の官能特性 3-2-1 市販チキンスープにおける GSH およびγ-Glu-Val-Gly の添加効 果10) GSH とγ-Glu-Val-Gly の食品に対する 効果について、市販チキンスープを用い て比較評価を実施した。なお、官能評価 は訓練された 20 名のパネリストによって 実施した。市販チキンスープ(味の素㈱ 製の市販「チキンコンソメ」を2%濃度 になるように熱水に溶解させたもの)に 0.02% GSH または 0.002%γ-Glu-Val-Gly を 添加した際の“厚み”(口に含んで 5 秒後 の呈味強度、thickness)、“持続性”(口に 含んで 20 秒後の呈味強度、continuity)、 “広がり”(舌以外の口腔にて感じる強度、 mouthfulness)の項目に関する評点の変 化を図6に示す。なお、無添加のチキン スープを対照(0 点)として、-2(対照と 比べて非常に弱い)~+2(対照と比べて非 常に強い)の 5 点スケール法にて比較評 価を実施した。図に示したように、0.002% γ-Glu-Val-Gly 添加により、0.02% GSH 添 加と同様に、“厚み”、“持続性”、“広がり” の評点が有意に上昇することが示された。 これらの結果から、食品における“厚み”、 “持続性”、“広がり”増強機能において、 γ-Glu-Val-Gly は GSH の 10 分の 1 の濃度 でほぼ同等の官能特性強度を示すことが 確認された。 3-2-2.減脂肪ピーナッツバターにおけ るγ-Glu-Val-Gly の添加効果11) 前 項において、「コク味 」ペプ チド γ-Glu-Val-Gly のチキンコンソメへの添加 Taste Intensity
Sweet Salty Umami
Control(water) 0.1% γECG(GSH) 0.01% γEVG 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0 −0.2 Figure5:EffectofGSHandγ-Glu-Val-Glyonbasictaste.Thetasteintensitywasratedon a5-pointscale(rangingfrom− 2(apparentlysuppressed)to+2(apparentlystrong)) intasteenhancement∼ 5saftertasting.Dataareshownasaverages(n=20)with errorbars(S.E.).*,p<0.05;**,p<0.01;***,p<0.001.
により、粘度などの物性値や油脂含量に 変化を与えることなく、“Mouth-coating” (口腔のコーティング感)が増強されるこ とが示された。この官能特性は油脂含有 食品の重要な特性として知られていること から、減脂肪食品に対する有用性を調査 することとした。初めに減脂肪ピーナッツ バターに対する効果を示す。官能評価は Descriptive analysis(記述的分析法)に より実施した。本評価は、中国上海市に 在住する訓練された 19 名のパネリストに より実施した。評価に先立って、通常脂 肪含量(脂肪分 50%)のピーナッツバタ ーと減脂肪(脂肪分 30%)のピーナッツ バターを調製し、あらかじめ用意した 20 特性用語を用いて官能評価を行った。比 較評価において有意差の見られた官能特 性をピーナッツバターにおける油脂機能 を示す官能特性と考え、これらの特性用 語を用いて減脂肪ピーナッツバターに対 するγ-Glu-Val-Gly(40 ppm)の添 加効 果を調べた。なお、評価に用いた官能特 性用語と定義を表1に示した。官能評価 結果を図7に示す。図に示したように、γ -Glu-Val-Gly を減脂肪ピーナッツバター に 40 ppm の濃度にて添加することによ り、“Thickness of taste”(味のあつみ)、 “Aftertaste”(後味の強さ)“Oiliness”(油 脂様のコーティング感)が有意に増強さ れることが示された。 3-2-3.減脂肪カスタードクリームにおけ るγ-Glu-Val-Gly の添加効果12) 前項に続き、減脂肪カスタードクリーム に対する添加効果を検討した。前項と同 様に、中国上海市に在住する訓練された 19 名のパネリストにより官能評価を行っ た。評価に先立って、通常脂肪含量(脂 肪分 12.0%)と減脂肪(脂肪分 3.6%)の カスタードクリームを調製し、あらかじめ 用意した 20 特性用語を用いて官能評価を 行った。比較評価において有意差の見ら れた官能特性をカスタードクリームにお ける油脂機能を示す官能特性と考え、こ Mouthfulness Thickness Continuity
Sensory Score
1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0 Glutathione γGlu-Val-Gly Figure6:SensoryeffectofGSHand γ-Glu-Val-Glyonacommercialchickensoup.The closedbarrevealstheeffectof200ppm(651μM)GSH.Theopenbarrevealstheeffectof 20ppm(66μM)γ-Glu-Val-Gly.Theintensitywasratedona5-pointscale.− 2,apparently weakerthanthecontrol,+2,apparentlystrongerthanthecontrol.*:p<0.05れらの特性用語を用いて減脂肪カスター ドクリームに 対 するγ-Glu-Val-Gly(40 ppm)の添加効果を調べた。なお、評価 に用いた官能特性用語と定義を表2に示 した。官能評価結果を図8に示す。図に 示したように、γ-Glu-Val-Gly を減脂肪カ スタードクリームに 40 ppm の濃度にて添 加することにより、“Thickness of taste” (味のあつみ)が有意に増強されることが 示された。また、有意な差は認められな かったが、“Continuity of taste”(味の持 続性)と“Aftertaste”(後味の強さ)を 増強する傾向( p<0.1)が認められた。こ れらの結果から 減脂肪食品に対してγ-Glu-Val-Gly を添 加することにより、それぞれの食品におけ る油脂の機能を増強することが示された。 4.まとめ CaSR による「コク味」物質受容の可 能性を検証するために、CaSR 活性と官 能評価結果との関係について検討を行っ た。試験を行った全ての CaSR アゴニス トが「コク味」物質としての特性を有した こと、GSH やγ-Glu-Val-Gly の官能特性 強度が CaSR アンタゴニストの添加によっ て有意に低下すること、さらにはγ-Glu-ペプチドにおいて CaSR アゴニスト活性と 官能特性の強度が有意に正相関したこと から、CaSR が「コク味」物質受容に関与 していると考えられた。また、γ-Glu- ペ プチドの中で最も高い官能特性強度を示 したγ-Glu-Val-Gly について、基本味溶 液ならびに食品(市販チキンスープ)へ の添加効果を調べた。その結果、γ-Glu-Val-Gly は GSH の 10 分の 1 の添加濃度で GSH とほぼ同様に甘味、塩味、うま味を 増強し、チキンコンソメスープ系において “持続性”、“広がり”、“厚み”を増強した。 また、減脂肪ピーナツバターにγ-Glu-Val-Gly を 40 ppm の濃度系においてにて添加 することにより、“Continuity”(持続性)、 -0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2
Peanut
Flavor
Thickness
of taste
Aftertaste
Continuity
Oiliness
Cont Glu-Val-Gly**
*
#*
Figure7:Effectofγ-Glu-Val-Glyonreduced-fatpeanutbutter.Abluelineindicatesthe meanscoresofthecontrolreduced-fatpeanutbutter.Aredlineindicatesthemeanscores ofthereduced-fatpeanutbutterwithadded40ppmofγ-Glu-Val-Gly. *:p<0.05,**:p<0.01“Oiliness”(油脂様コーティング感)が有 意に増強されることが示された。さらに、 減脂肪カスタードクリームにγ-Glu-Val-Gly を 40 ppm の濃度系においてにて添加 することにより、“Continuity”(持続性)、 “Aftertaste”(後味の強さ)が有意に増強 されることが示された。以上の結果から、 γ-Glu-Val-Gly は GSH と同様に「コク味」 物質であり、かつ、GSH と比較して“、 高活性の「コク味」物質であることが示さ れた。また、上記の評価項目を増強するこ とから、種々の食品、特に減脂肪食品に γ-Glu-Val-Gly を添加することにより、品 質の向上につながる可能性が示唆された。 5.おわりに 「コク味」物質の研究成果の論文が初め て発表されてから、すでに約 30 年が経過 した。本稿で紹介した知見の製品への応 用は、すでに国内外で進みつつある。し かしながら、受容体や作用機作の研究が 可能になったのは 2000 年以降である。ま た、味覚の研究では基本味の研究が先行 しているが、基本味は“おいしさ”の骨 格をなすものであり、さらに「コク味」物 質など味覚修飾や各種刺激物質について の理解が進んでこそ、現実に望まれる“お いしさ”に向けた技術が発展するのでは ないか、と考える。 本稿では、近年、進歩が著しい受容体 関連の研究の中で、筆者が関わった CaSR が「コク味」物質に関与することを示す 研究について紹介した。本稿で述べたよ うに、味修飾作用などに関して、精緻な エビデンスが得られる状況が整いつつあ る。多様な味風味を理解する感覚と科学 的蓄積を持つ日本の研究者が、うま味研 究に加えて、基本味の機能を向上させる 「コク味」など味修飾について探求し、そ の知見を普及させることによって、世界の 味覚研究や人々の食生活の質の向上に貢 献できるのではないか、と考える。 本研究において、利益相反はない。
Aftertaste
Cream Flavor
Continuity of taste
Mildness
Thickness of taste
Vanilla Flavor
Figure8:Effectof γ-Glu-Val-Glyonreduced-fatcustardcream.Aredlineindicatesthe meanscoresofthereduced-fatcustardcreamwithadded40ppmof γ-Glu-Val-Gly. #:p<0.1,*:p<0.05参考文献 1.栗原堅三.味覚・嗅覚,化学同人, pp28-31, 1990. 2.栗原堅三.うま味って何だろう,岩波 ジュニア新書.pp2-7, 2012. 3.山中正彦、岡安祥夫,「おいしさ」を 表すことばの分類・解析.第 9 回官 能検査シンポジウム論文集,日科技 連,pp15-19, 1979. 4.山口静子.味と匂誌,4: 515-518, 1997. 5.西 村 敏 英、江 草 愛.味と匂誌,19: 167-176, 2012.
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