中国の高度経.済成 長
1日本の高度成長 との比較分析
鈴
木
恒
一
「China's
High Economic
Growth
A Comparative
Analysis
of High Economic
Growth
in China
and Japan
Koichi Suzuki
Recent economic growth in the People Republic of China (PRC) has attracted
consider-able attention throughout the world. The other hand, Japan's economy had achieved high
growth during 15 years from mid-1950's. This paper intends to explore the similarities
and differences between the present growth of the PRC and the high economic growth of
postwar Japan.
The annual rates of growth of two countries are equally about 10% on the average
during 15 years. It is a matter of course that a long-term high growth brings about the
ris-ing of livris-ing standard and the expansion of employment. In these points, the PRC and Japan
showed the same results. However, we should pay attention to the differences of two
coun-tries. The one of the differences is employment problem. Although Japan achieved full
em-ployment by high economic growth, the PRC in nowadays has excessive labour forces,
almost of which are included in the rural popuration. The second refers to GNP per capita
in US dollar basis. In spite of high growth, the value of the PRC has been only nearly
dou-ble in 15 years, comparing with 7.5 times of Japan. This is because the PRC's currency has
been devalued to US dollar by a large margin. In actual fact the living standard in the PRC has been substantially improved.
In the periods of high economic growth two countries were influenced by the different exogenous factors of the international economy. Japan had to keep the fixed exchange rate of Yen and had been strictly limited upon the introduction of overseas capital . At present,
international economy is under flexible exchange rate and free capital movement regime .
Although these international conditions are favorable for economic growth , the PRC has
necessary for taking care of excess dependence upon cheap exchange rate and overseas
capital inflow.
In my opinion, China has a large potenitality for high economic growth afterwards in spit of her many difficult problems to be solved.
は じめ に 中国 経 済 は1978年 の経 済 改 革 ・対 外 開放 政 策 へ の 転 換 以 降 目覚 ま しい発 展 を遂 げ,世 界 の注 目 を集 め て い る 。 中 国 経 済 は,こ の 高 度 成 長 に よ っ て ど の よ う に変 わ っ た か 。 こ の高 度 成 長 は い つ まで 続 くの か。 そ して21世 紀 の 中 国 経 済 は ど う な る の か。 中 国 は12億 の 人 口 を持 つ 国 だ け に,今 後 の経 済 動 向 は,周 辺 の ア ジ ア 諸 国 に対 して は もち ろ ん の こ と,世 界 全 体 に も大 きな 影 響 力 を持 っ て い る。 中 国 の 高 度 成 長 の ス タ ー トを1980年 代 に入 っ て か ち と して も,そ の 期 間 は 既 に17年 を経 過 して い る 。 そ れ は,1950年 代 半 ば に始 まっ た 日本 の 高 度 成 長 の 期 間 を凌 ぐ も の で あ る。 ま た との 問 に お け る 成 長 の ス ピー ドにお い て も,中 国 は 日本 をや や 上 回 る実 績 をあ げ て い る 。15年 間 に 及 ぶ 高 度 成 長 に よ って,日 中 そ れ ぞ れ の経 済 は どの よ う な変 化 したか 。 日本 経 済 は そ の 後 低 成 長 に 入 っ たが,中 国経 済 の 場 合 は ど う な る の だ ろ うか 。 も ち ろ ん 中 国 の 高 度 成 長 と 日本 の 高 度 成 長 は ,そ の ス タ ー ト時 点 の 状 況,そ れ を取 り巻 く国 際 環 境 な ど著 し く異 な る面 も多 い か ら,こ れ を単 純 に 比 較 す る こ とは で き な い が,そ れ に もか か わ らず,中 日両 国 が ほ ぼ 同 じ期 間,ほ ぼ同 じよ うなス ピー ドの成 長 を 維 持 した とい うの は,な かなか興 味あ る事 実であ る。 本 稿 は,中 国 の 晦 度 成 長 につ い て主 と して マ ク ロ的 な視 点 か らの 分 析 を試 み た もの で あ るが, そ の 際 以 上 の よ うな 共 通 項 に着 目 して,日 中 両 国 の 高 度 成 長 を比 較 しな が ら,中 国経 済 の 変 化 、 問題 点 につ い て,何 らか の示 唆 を得 よ う と した もの で あ る 。 1.高 度 成 長 と そ の 成 果 1)所 得 水 準 の 上 昇,生 活 水 準 の 向 上 ま ず 日 中 両 国 の 高 度 成 長 に つ い て,中 国 に つ い て は1980∼95年 ,日 本 に つ い て は1955∼70年 に お け る 経 済 規 模 の 拡 大 を 比 較 し て み よ う 。1995年 の 中 国 の 国 内 総 生 産(GDP)は,実 質 ベ ー ス で1980年 と 比 較 す る と,4.24倍 に な っ て い る 。 こ れ に 対 し1970年 度 の 日 本 の 国 民 総 生 産 (GNP)を,同 じ く 実 質 ベ ー ス で1955年 度 と 比 較 す る と3.98倍 で,中 国 の 実 質GDPの 拡 大 は 日 本 を や や 上 回 っ て い る が,両 者 に そ れ ほ ど 大 き な 差 は な い(表1)。 つ ま り15年 間 に お け る 両
国 の経 済 成 長 は,年 平 均 で 約10%の,ほ ぼ 同 じ よ うな ス ピ ー ドで あ っ た と い うこ とが で きる 。 こ の よ う な高 度 成 長 の 結 果,1人 当 りの所 得 が 上 昇 し,生 活 水 準 が 向 上 した の は 当 然 で あ る。 日本 につ い て い え ば,高 度 成 長 期 に 入 る と間 も な く家 庭 電 化 製 品 が 急 速 に普 及 し,さ ら に60年 代 後 半 に は乗 用 車 が 国 民 生 活 の 中 に浸 透 して い った1)(表2-1)。 最 近 の 中 国 で も同 じ よ う な現 象 が 生 じて い る。 す な わ ち 現 在,都 市 部 で は テ レ ビ ・冷 蔵 庫 ・洗 濯 機 が広 く普 及 して お り,農 村 (表1)15年 間 の 経 済 規 模 の 拡 大 中 国 日 本* 実 質GDP (指数) 実 質GDP (指数) 1人 当 りGDP (米 ドル) 指数 1人 当 りGDP (米 ドル) 指数 1980 85 90 95 100.O l66.2 242.7 423.9 302 292 342 584 100.0 96.7 113.2 193.4 1955 60 65 70 100.O l51.6 234.9 397.7 269 494 953 2,006 100.O l83.6 354.3 745.7 *年 度 計 数(な お 以 下,暦 年 と 年 度 の 区 別 は 省 略 す る) (資料)経 済 企 画 庁 調 査 局 『経 済 要 覧 ・平 成9年 版 』 〃 『ア ジ ア経 済1997』 日本 銀 行 国 際 局 『外 国 経 済 統 計 年 報,1996年 版 』 (表2-1)耐 久 消 費 材 の 普 及 状 況(日 本) (単位 ・%) 1957/9 1960/2 1965/2 1970/2 カ ラ ー テ レ ビ 26.3 電 気 掃 除 機 7.7 32.2 68.3 電 気 洗 濯 機 20.2 40.6 68.5 91.4 電 気 冷 蔵 庫 2.8 10.1 51.4 89.1 ミ シ ン 61.9 69.5 77.4 84.5 乗 用 車 9.2 22.1 (資料)経 済企 画 庁調査 局 『家 計消 費 の動向一 消 費動 向調査 年報』 (表2-2)耐 久 消 費 材 の 普 及 状 況(中 国) (単位 ・%) 都 市 農 村 1985 1995 1985 1995 白 黒 テ レ ビ カラ ーテ レビ 電 気 洗 濯 機 電 気 冷 蔵 庫 自 転 車 ミ シ ン 66.9 17.2 48.3 6.6 152.3 70.8 28.0 89.8 89.0 66.2 194.3 63.7 10.9 0.8 1.9 0.1 80.6 43.2 80.7 16.2 16.8 5.2 148.8 65.7 (資料)日 本 貿 易 振 興 会 『中 国 デ ー タ ・フ ァ イ ル第10版 』
部 で も こ れ を 追 い 掛 け る 現 象 が み られ る(表2-2)。 も っ と も都 市 部 と 農 村 部 の 差 は か な り大 き く,こ こ に 中 国 経 済 の 一 つ の 問 題 点 が あ る が,こ の 点 に つ い て は 後 に 改 め て 検 討 す る こ と に し た い 。 し か し こ の よ う な 高 度 成 長 に 伴 う1人 当 り 所 得 水 準 の 上 昇 も,1人 当 りGNP(な い し GDP)の 国 際 比 較 と い う 観 点 か ら こ れ を み る と,両 国 の 間 に は 著 し い 相 違 が あ る 。 す な わ ち 日 本 の1955年 の1人 当 りGNPは 米 ドル 換 算 で269ド ル で あ っ た が,1970年 に は2,006ド ル に な り, こ の 間7.5倍 の 増 加 を 示 し た 。 こ れ を 海 外 諸 国 の 水 準 と 比 較 す る と,1955年 で は 当 時 の 米 国 の 約 10分 の1で あ っ た 。 こ の 日 米 格 差 を現 在 の 世 界 銀 行(TheWorldBank)の 基 準 に 当 て は め て み る と,当 時 の 日本 の 所 得 水 準 は 「下 位 中 所 得 国 」(lowermiddle・incomecountry)に ラ ン ク さ れ る と考 え ら れ る2)。 し か し1970年 の 水 準 は 当 時 の 米 国 の 約 半 分 で ,こ れ は 欧 州 諸 国 の 水 準 に か な り 接 近 し た 数 字 で あ り,日 本 は 「高 所 得 国 」(high-incomecountry)の 一 員 に な っ て い た 。 こ れ に 対 し 中 国 の 場 合 は,1980年 の1人 当 りGDPが302ド ル で あ っ た が,1995年 に は こ れ が な お584ド ル で,こ の 間 の 増 加 は2倍 弱 に 止 ま り,世 界 銀 行 の 基 準 で は な お 「低 所 得 国 」(low-income country)に ラ ン ク さ れ て い る(表1)。15年 間 同 じ よ う な 高 度 成 長 を 維 持 し た に も か か わ ら ず, ど う し て こ の よ う な 大 き な 差 が 生 じ た の か と い え ば,そ れ は い う ま で も な く,そ の 期 間 に 日 本 の 「円 」 が1ド ル=360円 の 固 定 レ ー トを 維 持 し た の に 対 し ,中 国 の 厂元 」 の 対 米 ドル 相 場 が 大 幅 に 切 下 げ ら れ た(1ド ル=1.50元 →8.35元)か ら で あ る 。 も ち ろ ん 「元 」 の 対 米 ド ル 相 場 の 動 きが そ の ま ま 元 の 国 内 購 買 力 を 示 す も の で は な い か ら,こ れ に よ っ て 中 国 の 生 活 水 準 の 実 態 を 判 断 す る の は 甚 だ 危 険 で あ り,こ れ を 購 買 力 平 価 ベ ー ス で 換 算 す れ ば,中 国 の1人 当 りGDPは 約4 .7 倍,つ ま り2,900ド ル を 越 え る こ と に な る3)。 こ う し た 購 買 力 平 価 ベ ー ス の1人 当 りGDPや そ の 生 活 実 態 か ら み れ ば,中 国 は む し ろ 「下 位 中 所 得 国 」 に ラ ン ク さ れ る べ き で あ ろ う4) 。 つ ま り 現 在 の 中 国 の 所 得 水 準 は,1950年 代 半 ば の 日 本 に 近 い と い っ て よ い の で は な か ろ う か 。 さ ら に 中 国 の 所 得 水 準 を 地 域 別 に み る とll995年 の1人 当 りGDPで 最 も高 い の は 上 海 市 で , そ の 額 は18,943元 で あ る5)。 こ れ を 上 述 の 購 買 力 平 価 ベ ー ス で 換 算 す る と,そ の 額 は10 ,664ド ル と な る 。 こ れ は 韓 国 の1人 当 り のGDP(購 買 力 平 価 ベ ー ス で11,450ド ル)に 近 い 数 字 で あ り6), 少 な く と も上 海 市 だ け で み れ ば,そ の 所 得 水 準 ・生 活 水 準 は 先 進 国 に か な り近 い と み る こ と も で き る 。 ま た 最 近 の 世 界 銀 行 の 発 表 に よ れ ば,生 活 費 が1日1ド ル 以 下(1985年 価 格 で)の 「貧 困 人 口 」 は,中 国 の 場 合,こ の20年 間 に569百 万 人 か ら269百 万 人 に 減 少 し た7)。 こ の よ う に み て く る と,中 国 の 国 民 生 活 水 準 が,高 度 成 長 に よ っ て 急 速 に 向 上 し た こ と は 明 ら か で あ る 。 な お 以 上 は,公 式 統 計 に よ る 分 析 ・推 論 で あ る が,実 は 中 国 の 個 人 所 得 に つ い て は 不 透 明 な 部 分 が か な り含 ま れ て い る と い わ れ る 。 そ れ は,賃 金 以 外 の 各 種 補 助 金 ・兼 業 収 入 ・資 産 所 得 ・現 物 支 給 の 形 に よ る も の で あ る が,な か に は 非 合 法 的 収 入 も か な り含 ま れ て い る よ う で ,そ の 実 態 は 必 ず し も明 らか で は な い8)。 した が って 中 国 人 の所 得 水 準 ・生 活 水 準 の 実 態 は ,以 上 の よう惷 公 式 統 計 で み る よ り さ ら に高 い とい う可 能 性 が あ る 。 た だ そ う した 収 入 は,そ の 性 質 上 お そ ら く 個 人 差 が 大 きい だ ろ う し,社 会 的公 正 とい う点 か ら も問 題 が 多 い 。所 得 形 成 の 透 明 性 を高 め る こ と は,中 国 が 今 後 取 り組 ま な け れ ば な ら な い ひ とつ の 課 題 で あ ろ う。 2)雇 用 の 拡 大 以 上 の よ うな 日 中両 国 の 高 度 成 長 は,雇 用 問題 に どの よ う な影 響 を与 え た か 。 日本 は戦 前 か ら 構 造 的 な失 業 問 題 を抱 え た 国 と い わ れ て お り,そ れ は 第2次 世 界 大 戦 後 にお い て も同 様 で あ っ た 。 も っ と も雇 用 統 計 に よ れ ば,1955年 の完 全 失 業 者 は105万 人,完 全 失 業 率2 .6%で,こ の 数 字 自体
は 国 際 的 に み て む しろ低 い ほ う で あ る(表3)。 しか し当 時 の 日本 に は大 量 の潜 在 失 業 者 が 存 在 して い た とい う事 実 が あ り(そ の 数 は数 百 万 人 とい わ れ て い た)9) ,実 質的 な意味で 日本 の失 業 問 題 は か な り深 刻 な 状 況 に あ っ た 。 と こ ろ が そ の後 の 高 度 成 長 に よ っ て,日 本 の 労 働 力 需 要 は 急 速 に 増 加 し,1960年 代 に入 る と 日本 経 済 は む しろ労 働 力 不 足 に悩 ま され る よ うに な っ た10)。 こ の こ とは,戦 前 ・戦 後 を通 じて み て も,日 本 経済 に とって極め て重 要 な構造 的変化 であ った とい って よか ろ う。 (表3)就 業者 と失業 者(単 位,万 人 ・%) 中 国 日 本 都 市 失業者 失業率 完 全 失業者 失業率 就業者 指数 就業者 指数 1980 85 90 95 42,361 49,873 56,740 68,910 100 118 134 163 542 239 383 520 4.9 1.8 2.5 2.9 1955 60 65 70 4,090 4,436 4,730 5,094 100 108 116 125 105 75 57 59 2.6 1.5 1.3 1.2 (資料)中 国:日 本 貿 易 振 興 会 『中 国 デ ー タ ・フ ァイ ル 第10版 』 日本:経 済 企 画 庁 調 査 局 『経 済 要 覧 ・平 成9年 版 』 他 方 中 国 の 雇 用 問 題 は,こ の 間 ど の よ う に 変 化 し た か 。 高 度 成 長 が 続 い た 結 果 ,中 国 の 就 業 人 []は,1980年 の424百 万 人 か ら95年 に は689百 万 人 と大 幅 に 増 加 し た 。70年 代 末 に5%台 で あ っ た 失 業 率 も80年 代 半 ば に は2%を 割 る 水 準 に ま で 低 下 し た 。 そ の 後 失 業 率 は や や 上 昇 し た が ,最 近 ま で2%台 で 維 移 し て き た(表3)(た だ し1996年 は3%)11)。 当 然 の こ と で は あ る が,中 国 の 高 度 成 長 は 雇 用 問 題 の 改 善 に 大 き く寄 与 し た 。 そ して 就 業 者 の 増 加 テ ン ポ は,白 本 よ り か な り早 い 。 し か し こ の こ と は ,中 国 が1960年 代 以 降 の 日 本 と 同 じ よ う に,失 業 問 題 か ら 解 放 さ れ た と い う こ と を 意 味 す る も の で は な い 。 中 国 で は,農 村 部 が 人 口 の8割 を 抱 え,そ こ に は か な り の 余 剰 労 働 力 が 存 在 し て お り(労 働 部 発 表 で1.3億 人)12),そ の ほ か 国 有 企 業 を 中 心 に ,企 業 内 部 に は 約30百 万 人 の 余 剰 人 員 が あ る と い わ れ て い る13)。 中 国 に と っ て,雇 用 問 題 は 依 然 と し て 大 き な テ ー マ で あ り,政 府 も い ろ い ろ と対 策 を 講 じ て は い る も の の,簡 単 に 解 決 で き る よ う な 状 況 で は な い14)。 3)産 業 構 造 の 高 度 化 経 済 成 長 が 産 業 構 造 の 高 度 化 を 伴 う こ と は よ く知 ら れ て い る(ペ テ ィ の 法 則)15)。 こ の 点 は , 日 中 両 国 の 産 業 別 就 業 人 口 で み た 産 業 構 造 の 変 化 に も,明 確 に 認 め ら れ る 。 しか し産 業 構 造 高 度 化 の ス ピ ー ド と レベ ル に つ い て み れ ば,両 国 の 問 に は か な りの 差 が 認 め ら れ る(表4)。 ま ず 高 度 成 長 ス タ ー ト時 点 の 第1次 産 業 の 比 重 に つ い て み る と,1955年 に 日 本 で は41 .0%で あ っ た が,1980年 の 中 国 で は 実 に68.7%と い う 高 さ で あ っ た 。 当 時 の 日本 の 高 さ も ,こ れ は 現 在 の 発 展 途 上 国 な み で あ る 。 し か し 高 度 成 長 の 過 程 で,こ の 比 率 は 急 速 に 低 下 し,1970年 に は19 .3% と実 に 半 分 以 下 に な っ て し ま っ た(こ の 比 率 は そ の 後 も 低 卞 を 続 け1995年 で6 .0%と な っ た)。 中 国 の 場 合 も そ の 比 率 は 低 下 し て い る が,日 本 の 低 下 幅 よ り は か な り小 さ く,1995年 で な お52 .9% の 高 さ で あ る(こ れ は1955年 の 日 本 よ り か な り 高 い)。 同 じ よ う に ,こ の 間 に お け る 第2次 産 業 と 第3次 産 業 の 比 率 の 上 昇 幅 に つ い て み る と,前 者 は 日 本 で は11.4%ポ イ ン ト,中 国 で は4.6% ポ イ ン ト上 昇 し,後 者 は 日 本 で は11.2%ポ イ ン ト,中 国 で は11.1%ポ イ ン ト上 昇 し て い る 。 こ こ
(表4)産 業別 就業 人 口構成 (単位 ・%) 中 国 日 本 第1次 産業 第2次 産 業 第3次 産業 第1次 産業 第2次 産 業 第3次 産 業 1980 85 90 95 68.7 62.4 60.0 52.9 18.3 20.9 21.4 22=9 13.O l6.7 18.6 24.1 1955 60 65 70 41.0 32.6 24.6 19.3 22.5 29.2 32.0 33.9 35.5 38.2 43.3 46.7 (資料)中 国:日 本 銀 行 国 際 局 『外 国 経 済 統 計 年 報1996年 版 』 日本:経 済 企 画 庁 調 査 局 『経 済 要 覧 平 成9年 版 』 〈参 考 〉 主 要 先 進 国 の 第2次 産 業 の比 重(1994年) 日 本34.1%米 国24.1% ドイ ツ37.5%フ ラ ン ス26、5% カ ナ ダ22.1(1993年) (資料)日 本 銀 行 国 際 局 『日本 経 済 を 中 心 とす る 国 際 比 較 統 計1996年 版 』 で注 目 され る の は,中 国 の第3次 産 業 の 比 率 の 上 昇 が 第2次 産 業 の そ れ よ りか な り高 い こ とで あ る。 これ は 中 国 の市 場 経 済 化 や社 会 生 活 の 変 化 を反 映 した 動 き とみ る こ とが で き・よ う。 他 方 この 間 に お け る 日本 の 第2次 産 業 の比 率 上 昇 は 中 国 と比 較 して か な り大 き く,高 度 成 長 期 に お け る 日 本 経 済 の 構 造 変 化 の激 し さ と と もに,日 本 の経 済 成 長 が 製 造 業 の発 展 を主 軸 に して 実 現 した こ と を示 して い る。 た だ 第2次 産 業 の比 重 につ い て1970年 の 日本 と1995年 の 中国 を比 較 す れ ば,そ こ に は か な り大 き な差 が あ るが,現 在 の 中 国 の第2次 産 業 の 比 重 は先 進 諸 国 に比 較 して そ れ ほ ど大 き い差 が あ る わ け で は な い(表4〈 参 考 〉)。 もち ろ ん 第2次 産 業 と い っ て も,ど の よ う な産 業 が 主 力 に な っ て い る か とい う問 題 は残 る が,例 え ば テ レ ビ生 産 台 数 が 世 界 の トップ(1992年),粗 鋼 生 産 量 が 日 米 と肩 を並 べ て い る(1993年)こ と か ら も分 か る よ う に16),今 日の 中 国 が 既 に か な りの 「工 業 国」 の 地 位 に あ る こ とは 間違 い なか ろ う。 中 国 の 産 業 構 造 の 特 徴 は,む しろ 第1次 産 業 の 比 重 の 大 き さ と第3次 産 業 の比 重 の小 さ さ に あ る と い っ て よ い 。 こ う した産 業 構 造 の 特 徴 が これ か らの 中 国 経 済 の発 展 に どの よ うな 影 響 が 与 え る か,注 目す べ き問 題 の ひ とつ で は なか ろ うか 。 と くに 中 国 にお け る 農 業 の 比 重 の大 き さ は極 め て 印 象 的 で あ り,そ れ だ け に 中 国 の 農 業 ・農 村 が こ れ か ら ど う な る の か,そ こで どの よ う な政 策 が 展 開 され る の か は,中 国 経 済 全 体 の 立 場 か ら も注 目 し な け れ ば な らな い ポ イ ン トで あ ろ う。 皿.高 度 成 長 の 歪 み 1)所 得 格 差 高 度 成 長 の過 程 で所 得 分 配 に どの よ う な変 化 が 生 じ たか とい う問 題 につ い て は,日 中 両 国 で 全 く逆 の結 果 が 生 じて い る。 まず 日本 の 所 得 格 差 につ い て い え ば,戦 前 か ら都 市 と農 村 との 地 域 格 差,大 企 業 と 中小 企 業 と の 賃 金 格 差 の 存 在 が 大 き な問 題 で あ っ た。 戦 前 にお け る農 村 の貧 し さは 大 きな社 会 問 題 で あ った が,戦 後 は 農 地 改 革,農 産 物 価 格 の上 昇,農 業 保 護 政 策 等 に よ っ て 農 民 の 所 得 水 準 は著 し く向 上 した 。 さ ら に1950年 代 半 ば 以 降 の重 化 学 工 業 化 に よ っ て,農 村 の余 剰 労 働 力 が 太 平 洋 ベ ル ト地 帯
とい わ れ た 工 業 地 域 に吸 引 さ れ た こ と も ま た,農 村 の1人 当 り所 得 を上 昇 させ る 要 因 とな っ た 。 さ らに1960年 代 に入 っ て,前 述 の よ う に労 働 需 給 が 次 第 に タ イ トに な っ た た め,中 小 企 業 も労 働 力 確 保 の観 点 か ら賃 金 水 準 を引 き上 げ る こ と を余 儀 な くされ た 結 果,大 企 業 と中小 企 業 の 賃 金 格 差 も縮 小 した17)。 こ う して 日本 で は,高 度 成 長 の過 程 で所 得 格 差 を 縮 め る こ とが で き た18)。 そ れ で は 中 国 の所 得 格 差 の 状 況 は ど うか 。 まず 農 村 部 と都 市 部 との格 差 につ い て全 体 的 にみ る と,改 革 ・開 放 路 線 へ の 転 換 以 降 も そ の 格 差 の 縮 小 傾 向 が 続 い た(表5)。 こ れ は1980年 代 前 半 の 農 家 生 産 請 負 責 任 制19)の 導 入,農 産 物 買 上 価 格 の 引 上 げ に よ る 農 民 所 得 の 上 昇 に よ る と こ ろ が 大 きい 。 しか しそ の 後1980年 代 半 ば 以 降,都 市 ・農 村 間 の 格 差 は再 び拡 大 す る よ う に な っ た (表5)。1995年,中 国 政 府 が 発 表 した 『中 国 農 業 発 展 報 告 』(農 業 白書)に よれ ば,1994年 の 格 差(1:2.6)に つ い て,こ れ は 「改 革 が 始 ま っ て 以 来,最 大 」 で あ る と述 べ る と と も に,こ の 格 差 は 実 質 的 に は も っ と大 き い と して,そ の 理 由 を次 の よ う に説 明 して い る 。 「も し,都 市 部 の 住 民 が 受 け て い る各 種 の財 政 補 助 を所 得 に計 上 し,ま た 農 民 所 得 の 中 か ら彼 らが負 担 して い る 不 法 な 各 種 の公 課 や 生 産 費 用 を差 し引 け ば 格 差 は さ らに 広 が る こ と に な る20)。」 さ ら に こ う した 格 差 に つ い て の 判 断 と して,こ の 「報 告 」 は 「経 済 が 高 度 成 長 を遂 げ る 過 程 で は都 市 部 と農 村 部 の (表5)中 国の 所得 格差(1人 当 り平 均)(単 位 ・元) 農 村世帯 ・都 市 世帯 の格 差 農 村 ・純 収 入(A) 都 市 ・生 活 収 入(B) (B)/(A) 1980 85 90 95 191 398 630 1,578 439 685 1,387 3,897 2.30 1.72 2.20 2.47 地域 格差(最 低 ・最 高) 最 低(a) 最高(b) (b)/(a) GDPベ ー ス 格 差 1985 90 95 貴州 省 〃 〃 420 810 1,853 上海市 〃 〃 3,855 5,910 18,943 9.18 7.30 10.22 農村部内格差 1985 90 95 甘粛省 〃 〃 255 399 880 上海市 〃 〃 806 1,665 4,246 3.16 4.17 4.83 都市部内格差 1985 90 95 山 西 省560 甘 粛 省641 艨 古自治区2,587 上 海 市1,086 広 東 省2,327 〃6 ,850 1.94 3.63 2.65 (資料)国 家 統計 局 『中 国統計 年 鑑』 株式 会社 綜研 ・中 国国家 統計局 『中国富 力』
所 得 水 準 が 完 全 に均 衡 す る こ とは 有 り得 ず,相 互 に一 定 の 自然 的 な 格 差 が 存 在 し得 る。 しか し, 今 日の 所 得 格 差 はす で に合 理 的 な範 囲 を 超 え て 拡 大 して お り深 刻 な結 果 を招 い て い る21)。」 と述 べ て い る。 も う ひ とつ,中 国 に と っ て深 刻 な経 済 格 差 問題 に地 域 格 差 の存 在 が あ る。 地 域 別 の 経 済 格 差 を ユ人 当 りGDPベ ー ス で み る と,最 高 の 上 海市 と最 低 の 貴 州 省 の 間 に は,10:1(1995年)の 格 差 が あ る(表5)。 日本 に お い て も地 域 格 差 の是 正 は,こ れ まで しば し ば 問題 に な っ て きた 。 し か し1960年 の1人 当 り県 民 所 得 に つ い て み る と,最 高 の 東 京 都 と最 低 の 鹿 児 島県 の 格 差 は10:3 で あ り,し か も そ の後 の 高 度 成 長 過 程 の 中 で,そ の 格 差 は む しろ 縮 小 した22)。 中 国 と 日本 で は, 国土 面 積 の 広 さ,そ の 中 の 地 勢 的 条 件 の 差 な ど を は じめ と して,所 得 形 成 の背 景 に異 な っ た事 情 が あ る か ら,こ れ を同列 に論 じる こ と はで きな い と して も,今 日の 中 国 の 地 域 格 差 は,ひ とつ の 国民 経 済 内 部 の格 差 と して は,か な り大 きな 問 題 を含 ん で い る とい っ て よか ろ う。 こ の ほ か 中国 に お け る 所 得 格 差 は,都 市 部 内 にお い て も農 村 部 内 にお い て も また 拡 大 の傾 向 に あ る(表5)。 こ の よ う に み て く る と,中 国 の 経 済 的 格 差 の現 状 は極 め て 深 刻 で あ る こ とが 分 か る。 そ の 背 景 の ひ とつ に は歴 史 的 ・地 勢 的 事 情 が あ り,そ れ は ま た 今 日の 中 国 の経 済 社 会 が抱 え る多 くの 複 雑 な矛 盾 の反 映 で もあ る とい え よ うが,同 時 に 中 国 が1970年 代 末 か らい わ ゆ る 「先 富 .論」 を掲 げ,沿 岸 部 の発 展 を優 先 させ た 政 策 の結 果 で もあ る。 中 国 政 府 が こ う した 格 差 拡 大 を深 刻 な 問題 と認 識 して い る こ とは,前 述 の 「農 業 白書 」 の 記 述 に もあ る とお りで あ り,ま た1995年 9月 の 第14期 中全 会 で も そ の 是 正 を重 要 施 策 の ひ とつ と して い る が23),そ う した 格 差 是 正 策 が 事 態 の改 善 に有 効 に機 能 す る か ど うか,今 後 の課 題 の ひ とつ で あ る 。 2)経 済 の 過 熱 現 象' 高 度 成 長 の 「歪 み 」 と もい うべ き現 象 の な か で 両 国 に 共 通 した もの の 第1は,物 価 上 昇 と国 際 収 支(経 常 収 支 も し くは 貿 易 収 支)赤 字 で あ る 。 そ れ は い わ ゆ る経 済 の 過 熱 現 象 で あ り,日 本 で 1955∼70年 の 期 間 に3回,中 国 の1980∼95年 の 間 に も同 じ く3回 経 験:して い る。 まず この 間 にお け る物 価 の動 きか らみ て い くこ と に し よ う(図1)。 高 度 成 長 期 とい う の は, 需 要 圧 力 の 強 い 経 済 で あ り,そ れ だ け物 価 上 昇 が 生 じ易 い 状 況 に あ る とい う こ とが で き る。 日本 にお い て も高 度 成 長 期,と くに経 済過 熱 期 に は物 価 上 昇 は 大 き な 問題 とな っ た。 こ れ を消 費 者 物 価 で み る と,1955∼70年 の 間 に 単 純 平 均 で 年3.5%の 上 昇 が 続 き,と く に景 気 過 熱 期 には7%を 越 え た こ と も珍 し くな い(1963年,65年,70年)。 ま た 高 度 成 長 期 前 半(1955∼62年)の 上 昇 率 は平 均2.5%で あ っ た もの が,後 半(1963∼70年)に は5.8%と 高 ま り,高 度 成 長 批 判 の ひ とつ の 論 拠 と も な っ た 。 この よ う に高 度 成 長 期 後 半 に物 価 上 昇 が 加 速 さ れ た の は,前 述 の よ う に高 度 成 長 に よ っ て労 働 需 給 が 逼 迫 し,そ の結 果 賃 金 が 上 昇 した に もか か わ らず,そ れ に見 合 った 労 働 生 産 性 の 向 上 が で きな か っ た 中小 企 業 や サ ー ビス 産 業 の 部 門 で,賃 金 コ ス トの 上 昇 を価 格 に転 化 す る動 きが 続 い た た め で あ っ た24)。 もち ろ ん 当 時 の 政 策 当 局 は,そ う した 物 価 上 昇 を 抑 え るた め の努 力 は したが,上 述 の 物 価 上 昇 の性 格 か ら考 え て もあ る程 度 推 測 し うる よ う に,高 度 成 長 が 続 く状 況 の なか で物 価 問 題 を解 決 す る の は 難 しか っ た 。 他 方 中 国 の 小 売 物 価 も,1980∼95年 の単 純 平 均 で 年8.3%上 昇 し,と く に88∼89の 両 年 は17∼ 18%台,94年 に は20%を 越 え る異 常 な上 昇 と な っ た(図1)。 こ の よ う に 中 国 の 高 度 成 長 期 にお け る物 価 上 昇 率 は,日 本 に比 しか な り高 い 。 た だ 中 国 の 物 価 形 成 の 事 情 は 日本 とか な り異 な っ て い る の で,こ れ を単 純 に 比 較 す る こ とは で き ない 。 す な わ ち 中 国 で は,1980年 代 前半 はなお統制 価 格 の 時代 で あ り,し た が っ て この 時 期 に お け る物 価 上 昇 は,政 府 に よ る価 格 調 整 政 策 の結 果 と
み る こ とが で きる 。 しか し同 年 代 後 半 に な る と,価 格 統 制 が次 第 に緩和 さ れ,自 由価 格 の範 囲 が 広 が って い っ た 。 も っ と も価 格 自 由化 の動 き は必 ず し も直 線 的 には 進 行 しな か っ たが,90年 代 に な る と価 格 統 制 解 除 の 動 きは 活 発 化 し,現 在 で は統 制価 格 の ほ うが 部 分 的 とい う状 況 に な っ て い る25)。 た だ こ う した 状 況 の も とで は,こ れ ま で の 潜 在 化 して い た物 価 上 昇 圧 力 が 顕 在 化 す る と い う現 象 が で る の は 避 け られ ない 。 したが っ て80年 代 以 降 の 中 国 の物 価 上 昇 は ,単 に経済過 熱下 に お け るデ ィ マ ン ド ・プ ル に よ る も の だ け で は な く,そ こ に価 格 の 自由 化 移 行 に 伴 う価 格 調 整 要 因 が加 わ っ た もの とみ な け れ ば な ら な い。 た だ1993年 以 降 にお け る 中 国 の 物 価 上 昇 率 は2桁 の 大 幅 な もの で あ っ たか ら,中 国 政 府 が そ の 弊 害 を強 く意 識 し,93年 央 よ り経 済 引 締 め 政 策 を採 っ た の は当 然 で あ る 。 そ の結 果1996年 の 小 売 物 価 上 昇 率 は6.1%ま で低 下 した が,政 府 は本 年(97年)3月1日 に 開幕 した全 国 人 民 代 表 者 会 議 に お い て,引 き続 き 引 締 め 政 策 を継 続 し,物 価 上 昇 率 の 一 層 引 下 げ を 目指 す こ とを 表 明 し た26)。 こ れ に よ っ てGDP成 長 率 もあ る程 度 押 さえ ら れ る(96年 実 績9.7%→97年 目標8%)が, こ の よ う に長 期 的 に 引 締 め政 策 を維 持 して い る こ と は,中 国 政 府 の イ ン フ レ抑 制 に対 す る強 い決 意 の表 れ とみ る こ とが で きる 。 以 上 の よ う に,程 度 に・は か な りの 差 が あ る と はい え,高 度 成 長 の過 程 で イ ン フ レー シ ョンが 生 じた こ とは 日 中両 国 と も 同様 で あ っ た。 そ の 背 景 に あ る 具 体 的 事 情 は異 な っ て い る と,はいえ,高 度 成 長 過 程 に お け る 構 造 変 化 要 因 とデ ィマ ン ド ・プ ル 要 因 が か らん で い た こ と も共通 して い た 。 しか し要 因 が 何 で あ ろ う と,持 続 的 な物 価 上 昇 が 国 民 福 祉 の 向 上 を妨 げ る だ け で な く,経 済 各 部
門 に い ろ い ろ な歪 み を生 み,経 済 の長 期 的 発 展 に マ イ ナ ス に な る可 能 性 は 大 きい 。 当 時 の 日本 の 状 況 を振 り返 って み る と,こ う した イ ン フ レー シ ョ ン に どの よ う に対 処 すべ きか を め ぐ っ て,、し ば しば い わ ゆ る成 長 派 と安 定 派 の対 立 が 生 じた。 前 者 は 当 時 の 日本 で は設 備 投 資 が 増 加 して もイ ン フ レー シ ョ ン が生 じる こ とは な い と主 張 した が27),物 価 上 昇 が 進 行 す る現 実 を前 に して ,次 第 に高 度 成 長 に対 す る反 発 や 反 省 の気 運 が 高 ま っ た 。 中国 の場 合 も政 策 当 局 の 姿 勢 は従 来 ど ち ら か と い え が成 長優 先 に傾 い て い た よ う に思 わ れ る が,93年 以 降 の 激 しい イ ン フ レ ー シ ョ ン は,一 時 的 に成 長 を抑 え るの もや む を え な い とい う政 策 転 換 を余 儀 な くさせ られ る こ と に な っ た 。 経 済 過 熱 は物 価 上 昇 と と も に,国 際 収 支 の 悪 化 を もた らす の が 通 例 で あ る 。 日本 は高 度 成 長 期 に,し ば しば 国 際 収 支 の 悪 化 に悩 ま さ れ た 。 中 国 の場 合 も経 済 過 熱 期 に 国 際収 支 が 悪 化 し た の は 同 様 で あ る(表6)。 た だ 日本 の 高 度 成 長 期 と中 国 の 高 度 成 長 期 で は,為 替 制 度 や 国 際 資 本 移 動 の 面 で 事 情 が 大 き く変 わ っ て い る。 す な わ ち 日本 の 高 度 成 長 期 はIMF固 定 平 価 制 の時 代 で あ り, 日本 は そ う した体 制 の下 で 終 始1ド ル=360円 の 固定 相 場 を維 持 した 。 こ れ に対 し中 国 の高 度 成 長 は,国 際 的 な 変動 相 場 制 の 下 で 進 行 した 。 そ の 間,中 国 の為 替 制 度 も大 き く変 わ っ た が,元 の 対 米 ドル 相 場 は ほ ぼ 一 貫 して 低 下 して きた(図2)。 ま た 日本 の高 度 成 長 期 にお い て は,国 際 的 な資 本 移 動 に な お 制 約 が 多 く,し たが っ て そ の 規 模 は小 さか っ た が,中 国 の高 度 成 長 は,歴 史 的 に も国 際 資 本 移 動 が 最 も活 発 な環 境 の 下 で 実 現 した。 (表6)国 際収 支 の状 況 (単位 ・億 ドル) 中 国 日 本* 経常収支 資本収支 外 貨準備(年 末) 経常収支 資 本収支 外 貨準 備(年 末) 1980 一 一 一 1955 5.4 一 一 81 一 『 27.1 56 0.4 一 9.4 82 5,136 一5 ,429 69.9 57 一3 .8 一 5.2 83 3,796 一3 ,924 89.0 58 5.1 一 8.6 84 1,715 一826 82.2 59 3.4 一 13.2 85 一11 ,594 11,588 26.4 60 1.1 4.4 18.2 86 一7 ,239 8,197 20.7 61 一9 .8 0.1 14.9 87 137 1,381 29.2 62 一 〇 .5 2.8 18.4 88 一3 ,802 4,759 33.7 63 一7 .8 5.7 18.8 89 一4 ,317 4,202 55.5 64 一4 .8 3.4 20.2 90 11,997 一8 ,792 110.9 65 9.3 一4 .8 21.1 91 13,272 一6 ,505 217.1 66 12.5 一8 .7 20.7 92 6,401 1,810 194.4 67 一1 .9 一3 .1 20.1 93 一ll ,609 21,705 212.0 68 10.5 2.7 28.9 94 6,908 2,192 516.2 69 21.2 0.2 35.0 95 1,618 16,204 760.4 70 20.1 一8 .4 44.0 *1960年 まで は 外 国 為 替 収 支 (資料)中 国:IMF,"BalanceofPaymentsStatistics" 日本:日 本 銀 行 統 計 局 『本 邦 経 済 統 計 』 『経 済 統 計 年 報 』 こ の よ う に 高 度 成 長 と 国 際 収 支 の 関 係 に つ い て は,日 中 両 国 の 事 情 が 著 し く異 な っ て い る 。 日 本 の 場 合,経 済 過 熱 に 伴 っ て 国 際 収 支 が 赤 字 に 陥 っ た と き は,財 政 金 融 政 策 に よ っ て 総 需 要 を抑
(資料)経 済企 画 庁 調査 局 『ア ジ ア経 済1997』 制 す る の が そ の是 正 策 の基 本 で あ った 。 当 時 の 日本 にお い て,引 締 め 政 策 が 発 動 され る直 接 的契 機 は多 くの 場 合 国 際 収 支 の赤 字 で あ り,し た が っ て 高 度 成 長 に とっ て の 最 大 の 障害 は国 際 収 支 制 約 で あ っ た と い っ て よい 。 こ れ に対 し中 国 の 場 合 は,国 際 収 支 に赤 字 が 生 じて も,為 替 相 場 の 引 下 げ や海 外 で の 資 金 調 達 に よっ て そ れ を カバ ー す る こ とが で きる 。 つ ま り国 際 収 支 制 約 は,中 国 の 高 度 成 長 に とっ て 当 面 あ ま り問 題 に な ら な い と い う こ と に な る 。 しか しこ う した 国 際収 支 赤 字 へ の 対 応 策 の 違 い の プ ラ ス ・マ イ ナ ス は,一 概 には論 じられない。この点 は後 に再 び取 り上 げる こ と に した い 。 3)そ の他 い わ ゆ る 「高 度 成 長 の 歪 み」 と考 え られ る現 象 は,以 上 の ほか に もいろい ろあるが,こ こで は, 人 口 の 都 市 集 中 と環 境 問 題 につ い て,簡 単 に触 れ て お きた い 。
イ.人 口 の都 市 集 中 日本 の 高 度 成 長 は,産 業 の重 化 学 工 業 化 とい う形 で 進 行 し,い わ ゆ る太 平 洋 ベ ル ト工 業 地 帯 を 形 成 した 。 そ う した 地 域 の 労 働 力 需 要 を賄 った の は,農 村 の 余 剰 労 働 力 で あ っ た 。 こ う した 労 働 力 の 移 動 は,必 然 的 に都 市 の 人 口増 大 を招 き,と くに東 京 の 人 口増 大 が 著 しか っ た 。 東 京 都 区 部 の人 口 は,1955年 の700万 弱 か ら70年 に は884万 人 に増 加 し,さ らに 人 口 増 加 が 周 辺 地 区 に拡 大 し た結 果,首 都 圏 の 人 口 は70年 で23百 万 を越 え た28)。 これ は 日本 の 全 人 口 の4分 の1弱 に 当 た る と い う高 率 で あ る 。 こ う した人 口 の 一 極 集 中 は,一 方 で深 刻 な都 市 問 題 を発 生 させ る と と も に, 他 方 地 方 は 過 疎 問題 に悩 む とい う こ と に な っ た 。 こ れ に対 し長 い 問 い ろ い ろ対 策 が 講 じ られ て き たが,現 在 なお こ の 問題 は解 決 さ れ て い な い 。 中 国 の 場 合 も,前 述 の よ う に内 陸 の 農 村 に膨 大 な余 剰 労 働 力 が 存 在 し,そ こ か ら活 発 な経 済 開 発 が 行 わ れ て い る東 部 地 区 に労 働 力 が 流 出 して い るか ら,基 本 的 に は 日本 と 同 じ よ う な状 況 に あ る と い っ て よい 。 もっ と も現 在 の 中 国 で は,こ う した労 働 力 移 動 に よっ て 農 村 が 過 疎 に悩 む とい う よ りは,過 剰 人 ロ の圧 力 を軽 減 す る とい うプ ラス 効 果 の ほ うが 大 きい で あ ろ う。 しか し他 方 中 国 の 都 市 は 既 に大 きい 人 ロ を抱 え て い る とこ ろ が 少 な くな い 。1994年 の 人 口 で,上 海 ・北 京 が す で に10百 万 を越 え て お り,と くに重 慶 は 近 郊 の 農村 部 が 大 きい と は い え15百 万 を数 え る。 こ の よ う な状 況 を考 え る と,農 村 部 か ら の都 市 部 へ の 人 口 移 動 の結 果 につ い て 楽 観 す る こ とは で きな い 。 この 点 は 中 国 政 府 の 認 識 も同様 の よ うで あ り,農 村 部 の過 剰 人 口 対 策 と して ① 農 村 企 業 の 発 展, ② 農 村 部 の小 都 市 建 設 をあ げ て い る29)。 これ は 方 向 と して 適 切 な もの で は あ るが,こ う した 政 策 が 実 効 を上 げ るの は,日 本 の 経 験:からみ る とそ れ ほ ど易 しい こ と で は な い 。 しか し大 き な人 口 を抱 え る 中 国 に と っ て は,人 口 を適 切 に 配 置 す る とい う こ とは,極 め て:重要 な課 題 で あ り,そ の た め に は ま ず,農 村 部 と都 市 部 との 所 得 格 差 が 過 大 に な らな い よ う に配 慮 す る こ とが 是 非 必 要 で あ ろ う。 ロ.環 境 問題 日本 は高 度 成 長 の 過 程 で 深 刻 な公 害 問題 を経 験 した 。 そ れ は,企 業 の生 産 第 一 主 義 の結 果 で あ り,ま た 高 度 成 長 の 負 の 遺 産 で もあ っ た 。 そ う した事 態 を招 い た 反 省 か ら,政 府 は1967年,公 害 対 策 基 本 法 を制 定 し,1971年 に は環 境 庁 を 発 足 させ た 。 こ う して 次 第 に,国 民 の 環 境 問 題 に対 す る意 識 が 高 ま り,政 府 や 産 業 界 も環 境 汚 染 対 策 に取 り組 ん だ し,汚 染 防 止 技 術 も進 ん だ。 しか し 環 境 問題 は,日 本 に と って なお 未 解 決 か つ 大 きい 問 題 と して残 っ て い る。 一 方 中 国 の 環 境 問題 も,大 気 汚 染 ・水 質 汚 濁,さ ら に土 地 資 源 の破 壊(砂 漠 化 ・土 壌 流 失 ・塩 害)な ど,い ず れ もか な り深 刻 で あ る。 た とえ ば現 在,酸1生 雨 と関係 が 深 い と して 世 界 的 に 問 題 に な っ て い る二 酸 化 硫 黄 の 年 間排 出量 は18百 万 トンで,し か も80万 トン以 上 の地 域 が 東 部 沿 岸 地 域 か ら次 第 に内 陸 部 に広 が って きて い る し,土 地 の 砂 漠 化 や 土 壌 流 出 に よ る農 業 生 産 へ の 障 害 も 大 きな 問 題 とな って い る30)。 また 二 酸 化 炭 素 の 排 出 量 につ い て,エ ネ ル ギ ー消 費 量(1人 当 り) が 同 規 模 の 国 の 比 較 を して み て も,中 国 は か な り排 出 量 が 大 き い(表7)。 中 国 の環;境問 題 へ の取 組 み は 比 較 的 早 く,1973年 に 「第 一 回 全 国環:;境保 護i会議i」が 開 か れ,そ の 後 行 政 組 織 や 法 律 の整 備 も行 われ て き た が,そ の 対 策 は必 ず し も実 効 をあ げ て い る と はい え な い 。 「中 国 の 実 際 の 環 境 対 策 は 日本 に比 べ,約30年 遅 れ て い る感 が あ る31)。」 と もい わ れ て い る。 中 国 の 大 気 汚 染 の 原 因 の ひ とつ に は,火 力 発 電 の石 炭 依 存 が 高 い とい う問 題 もあ るが,や は り生 産 拡 大 を急 ぐあ ま り,環 境 問題 へ の 取 組 み が 不 充分 で あ る とい う点 に基 本 的 な問 題 が あ る と思 わ れ る 。
(表7)エ ネ ル ギ ー 消 費 量 とCO2排 出 量 の 国 際 比 較 国
名
消費量 1人 当 りエ ネ ル ギ ー (1994・kg) 1人 当 りCO2排 出 量 (1992・ メ タ リ ッ ク ト ン) Colombia 622 1.8 CostaRica 588 1.2 Ecuador 565 1.8 Egypt,ArabRep. 600 1.5 Fiji 527 0.9 Gabon 652 5.5 Georgia 614 2.5 KyrgyzRep. 616 3.4 Martinlque 649 3.7 Panama 618 1.7 Reunion 669 1.8 Tajikistan 616 0.7 Tunisia 595 1.6 Uruguay 622 1.6 中国 664 2.3 日本 3,856 8.8 (備 考)本 表 は 日 本 を 除 き,1人 当 り エ ネ ル ギ ー 消 費 量500∼600kg台 の 国 を 比 較 し た 。 (資 料)TheWorldBank,"WorldBankAtlas,1997" 皿.高 度 成 長 を 取 り巻 く 国 際 環 境 日本 の 高 度 成 長 と中 国 の 高 度 成 長 を比 較 する 場 合,両 者 を取 り巻 く国 際 環 境 に 大 き な差 が あ る こ と は既 に指 摘 した 。 以 下 こ の点 につ い て,さ ら に検 討 を進 め てみ た い 。 まず 第 一 は,高 度 成 長 期 を通 じて 日本 円 が 固 定 相 場 を維 持 した の に対 し,中 国 の 元 相 場 は大 幅 低 下 した とい う 問題 で あ る。 中 国元 の 為 替 相 場 は,1981年 以 来 二 重 レー ト制 が 採 られ て きた が, 1994年1月 以 降 そ れ が 一 本 化 さ れ た 。 そ の 際,そ れ ま で割 高 に設 定 され て い た公 定 レー トを廃 止 して 市 場 レー トに一 本 化 され,同 時 に 元 相 場 は 約34%の 大 幅 な 切 下 げ に な っ た。 こ う して 元 の 対 米 ドル 相 場 は1980∼95年 間 に実 に5分 の1以 下 に な っ て い る 。 これ は 同 じ期 間 に お け る他 の ア ジ ア 諸 国 通 貨 と比 べ て も,最 も大 きな低 下 幅 で あ る 。 と くに 日本 との 関 係 に つ い て み る と,こ の 間, 日本 円 の 対 米 ドル 相 場 が 大 幅 に上 昇 した の で(1ド ル=226.7円 →94.1円),元 の 対 円相 場 は10分 の1以 下 に 低 下 した(前 掲 図2)。 こ う した元 相 場 の 低 下 に よ っ て 中 国 の輸 出 競 争 力 が 強 化 され た こ とは 当 然 で あ り,1990年 代 に入 っ て 中 国 の貿 易 収 支 は大 幅 に改 善 さ れ た 。 そ の状 況 を ,中 国 の主 要輸 出 国 で あ る香 港 ・日本 ・米 国 の 国 ・地 域 別 にみ る と(こ れ ら3国 ・地 域 向 け輸 出 だ け で 全 体 の3分 の2を 占 め る),60年 代 の対 日本 ・対 米 国 輸 出伸 び率 が 極 め て大 き く,ま た貿易収 支 の改 善 に は 対 米 国 ・対 香 港 の 黒 字 が 貢 献 して い る こ とが 分 か る(対 日本 収 支 は輸 出 増 加 と平 行 し て輸 入 も増 加 して い る た め赤 字 が 続 い て い る)(表8)。 さ らに 注 目す べ き こ と は,中 国 の 商 品別 輸 出 構 造 が 第1次 産 品 ・労働 集 約 型 製 品 か ら,急 速 に 資 本 ・技 術 集 約 型 製 品 に移 行 して い る こ とで あ る(表9)。 これ は 海外 か らの 直 接 投 資 を積 極 的(表8)中 国 ・地域 別貿易 収支 と輸 出伸 び 率 全 体 対 日本 対米国 対香港 対ASEAN 貿易収 支(年 平 均 ・百万 ドル) 1981∼85 1986∼90 1991∼95 一2 ,542 -4 ,123 4,363 一2 ,700 -2 ,936 -2 ,932 一2 ,229 -2 ,166 4,059 3,625 7,548 18,683 14 -511 -671 輸 出伸 び率(年 平均 ・%) 1982∼85 1986∼90 1991∼95 6.3 18.3 19.1 6.9 11.8 25.8 10.l l8.1 38.9 6.5 30.8 10.3 1.8 22.2 26.2 (資 料)IMF,"DirectionofTradeStatisitics" に受 け 入 れ,輸 出 型 投 資 ・先 進 技 術 型 投 資 を奨 励 して きた 成 果 で あ る。 中 国 の直 接 投 資 受 け 入 れ を 中 心 とす る外 資 導 入 は,1992年 以 降 急 増 して い る が(表lO),こ う した積 極 的 な産 業 政 策 は 前 述 の 元相 場 の低 下 とあ い ま っ て,中 国 の 貿 易 収 支 を好 転 させ る こ と に寄 与 して きた 。 (表9)中 国 ・輸 出 の 商 品 別 構 成 (単位 ・年 平 均,億 ドル ・%) 輸 出総額 化学工業 構成比 機 械 ・輸 送 用 機械 構成比 そ の 他 構成比 1980∼82 1983∼85 1986∼88 1989∼91 1992∼94 208.2 252.4 393.0 621.6 992.4 12.2 13.2 22.9 35.8 50.6 5.9 5.2 5.8 5.8 5.1 10.6 11.6 18.7 55.4 168.2 5.1 4.6 4.8 8.9 16.9 185.4 227.6 351.4 530.4 773.6 89.0 90.2 89.4 85.3 78.0 (資料)国 家統計 局 『中国統 計 年鑑 』 こ の よ う にみ て くる と,高 度 成 長 を 取 り巻 く国 際 環 境 とい う点 で,中 国 はか な り有 利 な立 場 に あ っ た とい う こ とが で き る。 そ して 中 国 は そ う した 国 際 環 境 を充 分 活 用 して,急 速 な経 済 発 展 を 実 現 して き た。 しか し こ う し た低 為 替 と外 資 導 入 に依 存 す る政 策 は,い う まで も な く 「両 刃 の 剣」 で あ る 。 為 替 相 場 の低 下 は国 内物 価 を上 昇 させ る要 因 で あ る し,ま た 対 外 的 に は 貿 易 相 手 国 との 間で 貿 易 摩 擦 を生 む危 険 性 が あ る 。 さ らに今 後 も外 資 導 入 へ の依 存 が 続 くで あ ろ う こ と を考 え る と,安 易 に為 替 相 場 の低 下 を容 認 す る こ とは,対 外 債 務 償 還 の負 担 を大 き くす る だ け で な く, 対 外 信 用 に傷 が つ く恐 れ もあ る'。現 在 の 中 国 に とっ て は,こ う し た政 策 が 必 要 か つ 有 効 で あ る こ とは認 め る と して も,そ れ が 経 済 運 営 に と っ て甘 い 刺 激 剤 とな り,中 国経 済 の 真 の 近 代 化 ・効 率 化 をか え っ て遅 らせ る結 果 に な る とい う危 険 性 に は 充 分 注 意 し な け れ ば な ら ない で あ ろ う。 既 に述 べ た よ う に,日 本 の 高 度 成 長 期 を取 り巻 く国 際 環 境 は,中 国 の場 合 とは 対 照 的 で あ っ た 。 高 度 成 長 下 の 国 際 収 支 の赤 字 に際 して も,内 需 の抑 制 で 対 処 し,為 替 相 場 の 変 更 は行 わ な か っ た 。 当時 の 日本 の 国 際 収 支 の 構 造 は,現 在 の 中 国 と同様,経 常 収 支 の 赤 字 を資 本 収 支 の 黒 字 で カバ ー す る とい うパ タ ー ンで あ っ た が,資 本 収 支 の 黒 字 に対 す る依 存 は小 さ く,そ の 間 にお け る外 貨 準
(表10)中 国 の 外 資 導 入(実 行 ベ ー ス) (単 位 ・百 万 ドル ・%) 総 額 直接投資 構 成 比 対外借款 構 成 比 1985 4,462 1,658 37.2 2,506 56.2 86 7,258 1,875 25.8 5,015 69.1 87 8,452 2,314 27.4 5,805 68.7 88 10,226 3,194 31.2 6,487 63.4 89 10,059 3,393 33.7 6,286 62.5 90 10,289 3,487 33.9 6,535 63.5 91 11,554 4,366 37.8 6,888 59.6 92 19,202 ll,008 57.3 7,911 41.2 93 38,960 27,515 70,6 11,189 28.7 94 43,213 33,767 78.1 9,267 21.4 95 48,133 37,521 78.0 10,327 21.5 (資 料)日 本 貿 易 振 興 会 『中 国 デ ー タ ・フ ァ イ ル 第10版 』 備 も低 水 準 で あ っ た 。 した が っ て 日本 の 政 策 当 局 は,国 際 収 支 の動 向 には か な り神 経 を使 わ ざ る をえ なか っ た 。 こ の た め 産 業 界 も国 際競 争 力 の 強 化 を至 上 命 題 と して 努 力 した し,財 政 ・金 融 両 面 の 輸 出優i遇制 度 で これ を政 策 的 に支 援 した 。 こ う して官 民 の 努 力 が続 け られ た結 果,高 度 成 長 期 後 半 に な る と 日本 産 業 の 国 際 競 争 力 は 次 第 に 強 化 され,他 方 米 国 の 国 際 収 支 の 赤 字 が続 い た と い う事 情 も加 わ っ て,1960年 代 後 半 に 入 る と 日本 経 済 は好 況 時 に も国 際収 支 が 赤 字 とな る こ とは な くな っ た 。 こ の こ とは,日 本 が 厳 しい 環 境 に 置 か れ て い た こ とが,か え っ て そ れ を克 服 す る た め の 努 力 を刺 激 した成 果 とみ る こ と もで き よ う32)。 (表11)ア ジア諸 国の対 外債 務指 標 (単位 ・%) デ ッ ト ・サ ー ビ ス ・ レ シ オ* 対外債務残高対輸出比率 1991 1992 1993 1994 1995 1991 1992 1993 1994 1995 ノfン グ ラ デ シ ュ 21.4 16.9 14.4 14.0 13.3 458 408 371 378 298 イ ン ド 29.3 28.9 25.9 25.6 28.2 316 336 291 254 201 イ ン ドネ シ ア 34.2 32.6 33.6 30.7 30.9 237 230 213 208 203 マ レ ー シ ア 7.6 9.2 8.6 9.3 7.8 46 43 49 45 41 パ キ ス タ ン 20.9 23.9 23.9 35.3 26.9 249 254 246 278 258 ブ イ リ ピ ン 23.0 24.4 25.6 18.9 16.4 219 187 187 163 122 タ イ 13.0 13.8 13.7 13.5 10.2 100 97 86 82 77 ベ トナ ム 8.2 12.7 13.2 7.3 5.8 885 737 656 476 396・ 中 国 ll.9 10.2 11.1 8.9 9.9 86 86 94 80 77 *デ ッ ト ・サ ー ビス ・レ シ オ=対 外 債 務 返 済 額/財 ・サ ー ビ ス 輸 出 額 (資 料)日 本 銀 行 国 際 局 『日本 経 済 を 中心 とす る 国 際 比 較 統 計1997』
中 国 の よ うな 低 為 替 と外 資 導 入 に依 存 した 経 済 成 長 の 可 否 は,経 済 の 発 展 段 階,さ ら に は そ の 依 存 の 程 度 に よ って 判 断 さ れ るべ き もの で あ り,既 に述 べ た よ う に,中 国 は こ れ ま で の と ころ そ う した 手 段 を う ま く活 用 し,大 きな 成 果 を 上 げ て きた 。 こ う した経 済 運 営 の デ メ リ ッ トにつ い て も,い ま の とこ ろ 表 面 化 す る に は至 って い な い 。 例 え ば,デ ッ ト ・サ ー ビス ・レシ オ をみ て も, そ の水 準 は他 の ア ジ ア諸 国 に比 べ て な お 低 い し,対 外 債 務 残 高 の対 輸 出 比 率 も と くに 高 い とは 言 え ない(表11)。 しか し この こ とは,今 後 も こ れ まで の 政 策 運 営 を続 け て い け ば よ い とい う こ と に は な ら な い 。前 述 の よ う に,一 方 で 低 為 替 と外 資 導 入 に依 存 す る こ との 危 険 に配 慮 す る必 要 は 常 に存 在 す る 。 こ こ まで 発 展 して きた 中 国経 済 は,い まや徐 々 に そ う した 政 策,と くに為 替 相 場 の低 下 を安 易 に容 認 す る よ う な態 度 を転 換 す べ き時 期 を迎 えつ つ あ る の で は なか ろ うか 。 幸 い 最 近 の元 相 場 は,他 の ア ジ ア諸 国 通 貨 が 急 落 して い る に もか か わ らず,安 定 を維 持 して い る(表12)。 た だ 為 替 相 場 の 安 定 を 維 持 し なが ら高 度 成 長 を続 け る こ とは,対 外 競 争 の 面 で 低 賃 金 の メ リ ッ トを失 っ て い くこ とに は ほ か な らな い 。 した が って,そ う した 状 況 の な か で 中 国が 輸 出競 争 力 を維 持 して レ}くため に は,労 働 の生 産 性 を高 め て い くこ とが必 須 の 条 件 で あ る 。 つ ま り 今 後 の 中 国 の 高 度 成 長 の 成 否 は,こ の 点 に か か っ て い る とい っ て よ い 。 そ れ は,日 本 の 高 度 成 長 が 歩 ん だ 道 で もあ っ た 。 (表12)ア ジア 諸 国通 貨 の為替 相場 対 米 ドル相場 対 前 年比騰 落 率(%) 1996年 末 1997年9月 末 1995年 末 1996年 末 1997年9月 末 中 国(元) 8.32 8.31 1.5 △0.1 0.2 日 本(円) 103.43 120.35 △3.7 △10 .7 △3 .7 韓 国(ウ オ ン) 773.99 914.45 1.9 △8.4 △7.6 台 湾(新 台湾元) 27.32 28.60 △3.8 △0.6 △3.9 香 港(香 港 ドル) 7.74 7.74 △0 .1 0.1 △0.0 シンガポール(彭聯 つ 1.41 1.53 3.2 1.0 △8.5 フ ィ リ ピ ン(フン ・ペ ソ)ィ リ ピ 26.18 34.35 △6.8 △0.5 △23 .4 タ イ(バ ー ツ) 25.18 35.85 △0 .3 △2.0 △28.3 マ レー シ ア(リ ンギ) 2.54 3.25 0.5 0.6 △22.3 イ ン ドネ シ ア(ル ピ ア) 2,293.6 3,285.00 △4 .2 △2.9 △28.1 豪 州(豪 ドル) 1,35 1.38 △4.1 6.9 △8.7 (資料)「 日本銀 行 月報」 編集 委員 会 『日本銀行 月 報』 亙.経 済 成 長 の 性 格 日 中両 国 にお い て 高 度 成 長 が 実 現 した 理 由 ・背 景 とい っ た もの を考 えて み た い 。 よ く知 られ て い る よ う に,日 本 の 高 度 成 長 は,当 時 の新 しい 産 業 技 術 導 入 を背 景 に した民 間企 業 の 旺 盛 な 設 備 投 資 に よ っ て生 ま れ た 。 当 時 の 日本 で は,革 新 的 な技 術 を導 入 した新 工 場 が 次 々
と建 設 さ れ,さ ら にそ う した工 場 建 設 に必 要 な資 材 を生 産 す る た め の 工 場 の新 ・増 設 が 行 わ れ た 。 こ う して 「投 資 が 投 資 を呼 ぶ33)」 と い わ れ る 現 象 が 生 ま れ,こ う し た 設 備 投 資 に主 導 され る 形 で,テ ン ポ の早 い 経 済 拡 大 が 実 現 した ので あ る。 い ま こ れ をGNPに 占め る総 固定 資 本 形 成 の 割 合 に よ っ て み る と,1950年 代 後 半 にお い て概 ね25∼26%,60年 代 に 入 る と30%を 越 え る状 況 が 続 い た(表13)。 こ れ は 国 際 的 に も極 め て 高 い 比 率 で あ り,世 界 の 人 々 を 驚 か した 。 (表13)投 資率 の 日中比 較(各 年平 均) 中 国(単 位 ・億 元 ・%) 日本(単 位 ・十 億 円 ・%)
国内総生産(A) 雛 饌 定(・) (B/A) 国民総 生産(A) 槃驗 資(・) (B/A)
1980∼84 5,487 1,306 23.8 1955∼59 !0,776 2,663 24.7 1985∼89 12,593 3,568 31.7 1960∼64 21,825 7,093 32.5 1990∼94 25,370 9,328 36.8 1965∼69 44,458 14,684 33.0 (注)総 固 定 投 資 に 占 め る 国 有(政 府)部 門 の 割 合 中 国(1985∼94)64.7% 日本(1960∼69)'24.3% (資料)中 国:国 家 統 計 局 『中 国統 計 年 鑑 』 日本:日 本 銀 行 統 計 局 『経 済 統 計 年 報 』 中 国 の 場 合 も,新 しい 産 業 技 術 の 導 入 を背 景 と した活 発 な 設 備 投 資 が 経 済 成 長 を リー ド した と い う点 で,日 本 の 高 度 成 長 と共通 の 性 格 を持 って い る。 中 国 のGDPに 占め る全 社 会 固 定 資 産 投 資 の割 合 を み る と,前 述 の 日本 の 比 率 よ りは や や 低 い とは い え,か な り近 い 高 率 で あ る(表13)。 しか し中 国 の 高 度 成 長 に は,日 本 の 場 合 とは や や 異 な っ た 側 面 もみ られ る。 そ の 第1は,設 備 投 資 の主 体 が,日 本 の 場 合 は前 述 の よ う に民 間 企 業 で あ っ た の に対 し,中 国 の 場 合 は 国 有 企 業 で あ る とい う点 で あ る 。 も っ と も これ は,日 中 の企 業 体 制 の違 い か らい って 当 然 の こ とで は あ る 。 日 本 の場 合 も、 高 度 成 長 につ い て 政 府 が 果 た し た役 割 は か な り大 きか っ たが,中 国 の場 合 は,成 長 の 牽 引力 に な っ た 設 備 投 資 に つ い て 政 府 の果 た した役 割 は 直 接 的 で あ り,か つ 極 め て 大 きか っ た とい え る。 第2に は,設 備 投 資 を賄 う資 金 供 給 の 差 で あ る 。 日本 の 場 合,民 間 の 旺盛 な 設 備 投 資 実 現 の た め の 資 金 を供 給 した の は,民 間 銀 行 で あ っ た34)。 中 国 の場 合 は 自 己 資 金 の 比 重 が 圧 倒 的 に大 きい が,こ れ は国 有 企 業 が 国 の 計 画 に 基 づ い て投 資 を実 行 した 結 果 とみ る こ とが で きる 。 ま た外 資(そ の 中 心 は直 接 投 資)に 対 す る依 存 が急 速 に高 ま っ て い る(表14)。 つ ま り 日本 の場 合 が 民 間 企 業 主 導 型 の 高 度 成 長 で あ っ た とす れ ば,中 国 の:場合 は 政 府 主 導 型 成 長 で あ り,直 接 投 資 主 導 型 成 長35)で あ る とい う こ とが で きる 。 しか し以 上 の よ う な 日 中両 国 の 高 度 成 長 の 性 格 の違 い は,そ れ ほ ど基 本 的 な もの とは い い難 い 。 日本 の場 合,戦 後 の 復 興 過 程,続 く高 度 成 長 の 過 程 で政 府 の 果 た し た役 割 は,中 国 の:場合 と形 が 違 う と して も,や は り極 め て 大 きか っ た 。 そ れ は一 面 で は,日 本 に高 度 成 長 の奇 跡 を も た ら した 大 きな 要 因 と して 評 価 さ れ た 。 しか し他 面 そ れ は,政 官 財 の 癒 着 構 造 とい わ れ,ま た 海 外 か ら は 「日本 株 式 会 社 」 と もい わ れ た。 こ う し た経 済 運 営 の あ りか た は,あ る意 味 で 両 国 に 共 通 した 側 面 を持 って い る 。 た だ 日 中両 国 の 問 に は,注 目 しな け れ ば な らな い相 違 点 もあ る。 そ れ は,日 本 の 場 合 に は,高 度 成 長 期 に先 立 つ 戦 後10年 間 に極 め て大 き な経 済 シ ス テ ム 改 革 が 実 行 さ れ て い た の に対 し,中 国
(表14)中 国 ・投 資 の 財 源 構 成 (単 位 ・年 平 均,億 元,%) 計 国家 予算 内 投 資 構成比 国 内貸付 構成比 利用外資 構成比 自 己 資 金 等 構成比 1983∼85 389.5 20.1 314.7 16.3 76.2 3.9 1,154.9 59.7 1,935.4 1986∼88 442.1 11.9 800.3 21.5 188.8 5.1 2,287.8 61.5 3,719.0 1989∼91 367.4 7.8 959.8 20.4 289.6 6.2 3,081.8 65.6 4,698.6 1992∼94 442.5 3.7 2,927.0 24.2 1,044.5 8.6 7,872.5 65.2 12,079.7 〈参 考 〉 日本 ・法 人 企 業 の 資 金 調 達 構 成(企 業 間 信 用 を 除 く) 民 間金 融 機 関 借 入 れ 外 資 1955∼5966.2%5.1% 1960∼6465.0%6.8% 1965∼6977.2%2.6% (資料)中 国:国 家 統 計 局 『中 国 統 計 年 鑑 』 日本:日 本 銀 行 調 査 統 計 局 『資 金 循 環 勘 定 応 用 表 』 の場 合 は,市 場 経 済 化 へ 移 行 す る た め の 制 度 改 革 と高 度 成 長 が 同 時 平 行 的 に進 行 して い る とい う 点 で あ る 。 す な わ ち 日本 で は,連 合 国 の 占領 政 策 の 一 環 と して,1950年 前 後 に財 閥 の 解 体,税 制 改 革,金 融 制 度 の再 編 成 な ど,極 め て 重 要 か つ 画 期 的 な シ ス テ ム改 革 が 行 わ れ た 。 そ れ らは,そ の 後 の 日本 経 済 の 運 営 に 決 定 的 な影 響 を与 え た が,同 時 に1950年 代 半 ば 以 降 に お け る高 度 成 長 の 制 度 的基 盤 を提 供 した とみ る こ とが で き る。 こ れ に対 し中 国 の シ ス テ ム 改 革 は,1970年 代 末 の 改 革 ・開放 政 策 へ の 転 換 に よ っ て始 まっ た 。 そ う した 改 革 の 主 要 な もの を上 げ る な らば,以 下 の と お りで あ る 。 1)農 村 改 革 … 改 革 ・開 放 政 策 転 換 後 ま ず 農 村 の経 済 体 制 改 革 が 行 われ た 。 人 民 公 社 体 制 の 下 で の 集 団 経 営 方 式 が 再 編 され て,新 し く 「生 産 高 請 負 制 」 や 「経 営 請 負 制 」 が 導 入 され, 人 民 公 社 自体 も1980年 春 に は ほ ぼ解 体 され た 。 2)企 業 改 革:… 改 革 ・開 放 以 前 の 中 国 の 企 業 部 門 は,国 の 所 有 ・管 理 す る 国有 企 業(1992 年 以 前 は 「国 営 企 業 」 と呼 ば れ た)が 圧 倒 的比 重 を持 っ て い たが,改 革 ・開 放 以 後,企 業 の 自主 性 を高 め る た め の改 革 が4つ の段 階 に分 け て 進 め られ た。 ま た 国 有 企 業 以 外 に も多 様 な 企 業 形 態 が 認 め られ る よ う に な っ た 。 3)財 政 改 革 … 財 政 制 度 も大 き く変 わ っ た。 これ を 国 の収 入 面 か らみ る と,改 革 ・開放 以 前 の財 政 収 入 の 基 本 は,国 有 企 業 の利 潤 上 納 に よ る もの で あ っ たが,改 革 ・開放 以 後 は税 制 度 に改 め ら れ,企 業 ・個 人 が 定 め られ た 税 種 と税 率 に した が っ て,税 金 を納 付 す る こ と に な っ た 。 4)金 融 改 革 … 改 革 ・開 放 以 前 は,各 種 金 融 業 務 は 中 国 人 民 銀 行 に 集 中 さ れ て い た が, 1977年 の 改 革 以 降 そ れ らが 分 離 され,と くに1984年 に は 同行 は 商 業 銀 行 機 能 を新 設 の 中 国 工 商 銀 行 に引 き継 ぎ,純 粋 な 中 央銀 行 とな っ た 。 ま た94年 以 降,商 業 銀 行 や 政 策 銀 行 の新 設 も 行 わ れ て い る。 以 上 の よ うな 諸 改 革 は,社 会 主 義 体 制 を市 場 経 済 体 制 に移 行 させ るた め の 当然 の 措 置 で あ る 。 しか し,そ こ に は原 理 的 な変 革 を含 む だ け に,そ の 改 革 は 相 当 ドラ ス テ ィ ック な もの に な ら ざ る
を え な い 。 そ うす れ ば,そ こ に あ る程 度 の 混 乱 や 摩 擦 が 生 じ る の もや む をえ ない 。 制 度 改 正 に は 大 な り小 な り利 害 関 係 の交 錯 が 伴 う 。 そ の よ う な 制 度 改 正 に伴 う複 雑 な 影響 を考 え る と,制 度 の 改 正 や 整 備 を行 って も,そ れ らが 実 際 の 運 用 面 で 旧 制 度 とあ ま り違 わ な か っ た り,期 待 され た効 果 を発 揮 しな い とい うこ とは,し ば しば 起 こ り うる 。 現 在 の 中 国 にお い て,税 収 不 足 に よ る財 政 収 支 の 著 しい 悪 化 が み られ た り,激 しい イ ン フ レー シ ョ ン時 にお け る マ ネ タ リ ・コ ン トロ ー ル の 弱 さが 指 摘 され るの は,以 上 の よ う な 改 革 の 困難 さ を考 え れ ば,そ れ は あ る程 度 や む を え な い こ とで あ る 。 しか し中 国経 済 が これ か ら も高 い 成 長 を持 続 す る た め に は,こ う した 問 題 点 を ひ とつ ひ とつ 克 服 して い か な け れ ば な ら な い こ と も ま た 明 らか で あ る。 中 央 集 権 的 計 画 経 済 シ ス テ ム を分 権 的 市 場 経 済 シス テ ム に 変 え る こ と自体,大 変 な難 事 業 で あ る 。 そ れ は 下 手 をす れ ば,国 民 経 済 を 混 乱 させ,経 済 発 展 を著 し く阻害 す る危 険 が あ る 。 この こ とは,旧 ソ連 崩 壊後 の ロ シ ア経 済 の姿 をみ て も明 らか で あ る 。 日本 経 済 も戦 時 中 の 厳 しい統 制 経 済 か ら,戦 後 次 第 に統 制 の緩 和 ・解 除 の プ ロ セ ス を歩 ん だ。 しか し中 国 の経 済 シス テ ム の 変 革 は, 経 済 統 制 の緩 和 ・解 除 とは 明 らか に 質 が 異 な る 。 この 点 で 中 国 経 済 は,日 本 経 済 と比 較 して 大 き な ハ ン デ ィ キ ャ ッ プ を持 っ て い た とい うべ き で あ る 。 しか し中 国 が そ う した 困 難 な改 革 の作 業 を 漸 進 的 に進 め なが ら,同 時 に 高 い 経 済 成 長 を維 持 して きた 。 わ れ わ れ は こ の こ と を まず 高 く評 価 しな けれ ば な ら ない 。 V.お わ り に 以 上 わ れ わ れ は,日 本 の高 度 成 長 の経 験 を下 敷:きに しなが ら,1980年 代 以 降 に お け る 中 国経 済 の高 度 成 長 の 実 情 をみ て きた 。 両 者 の絳 験 は,政 治 ・経 済 体 制 の 違 い,時 代 背 景 の 違 い な どが あ る と はい え,そ こ に多 くの類 似 点 を見 出 す こ とが で き た。 日本 経 済 は,15年 間 の高 度 成 長 の 後,1970年 代 に 入 っ て,ニ ク ソ ン ・シ ョ ッ ク(米 ドル の金 交 換 停 止)や 石 油 シ ョ ック を契 機 に,低 成 長 の 時 代 を 迎 え た。 しか し,そ れ ら は契 機 で は あ っ て も 原 因 で は な い 。 日本 の 高 度 成 長 の 終 焉 は,日 本 経 済 が 成 熟 経 済 の段 階 に入 っ た結 果 と考 え るべ き で あ ろ う36)。そ れ で は,日 本 と同 じ よ う な経 験 を経 た 中 国経 済 は今 後 ど うな る で あ ろ うか 。 こ の点 で 中 国 経 済 の 現 状 は,1970年 代 入 りの 日本 経 済 と は全 く事 情 が 異 な る。 中 国経 済 の今 後 につ い て は,い ろ い ろ な 見 方 が あ り う る し,ま た 不 確 定 要 因 も少 な くな い が,ロ ス トウ(Rostow) 流 の 経 済 発 展 につ い て の 見 方 か らす れ ば,中 国経 済 は テ イ ク ・オ フ(take-off)に 成 功 した と は い え,な お 未 成 熟 の段 階 に あ る と考 え られ37),そ の 点 か らい っ て 中 国 は 引 き続 き高 い 経 済 成 長 を維 持 して い く可 能 性 を持 っ て い る とみ る べ き で あ ろ う。 しか し,中 国 が これ か ら も高 度 成 長 を持 続 す る た め に は,今 後 克 服 しな け れ ば な ら な い課 題 が 実 に 多 い 。1997年6月 に発 表 され た経 済企 画 庁 経 済研 究 所 の研 究報 告 で は,中 国 の 成 長 に とっ て の リス ク要 因 と して,国 有 企 業,地 域 格 差,イ ンフ ラ,食 糧,エ ネ ル ギ ー,環 境 の6項 目を あ げ て い る38)。 こ れ ら は,ひ とつ ひ とつ 重 要 か つ 難 しい 問 題 で あ る。 例 え ば 国 有 企 業 改 革 の 必 要 性 は,こ れ ま で も多 くの 論 者 に よ っ て指 摘 さ れ て きた し,政 府 も ま た そ れ を よ く認 識 して い る39)。 しか し国 有 企 業 は,単 な る 「企 業 」 で は な い 。 そ れ は,そ こ で働 く従 業 員 ・家 族 で 構 成 され て い る,ひ とつ の 「コ ミ ュニ テ ィ」 で あ る 。 した が っ て 国 有 企 業 改 革 は,社 会 の 変 革 に繋 が る性 格 を 持 っ て い る。 もち ろ ん 中 国 が 市 場 経 済 化 の 道 を歩 み だ した以 上,企 業 の 合 理 化 ・生 産 性 向上 は, い わ ば至 上 命 題 で あ る。 しか し国 有 企 業 改 革 が 上 記 の よ う な性 格 を持 つ こ と を考 え る と,そ れ は 決 して生 易 しい 問題 で は な い 。
さ ら に こ れ か らの 中 国 経 済 を考 え る と,課 題 は以 上 の6項 目 に止 ま ら な い 。 こ こで は筆 者 に と っ て 気 掛 か りな 点 を二 つ だ け上 げ て お きた い 。 そ の 第 亠 は,中 国 の 総 需 要 管 理 に関 す る 問題 で あ る。 これ ま で の 中 国 経 済 は,い わ ば 「超過需 要 経 済 」 と い う状 況 にあ っ た の で は な い か 。 そ の 点 で は,戦 後10年 間(1945∼54年)の 日本 経 済 に似 て い る。 した が っ て 政 府 が リー ダ ー ・シ ップ を と り,外 資 導 入 をて こ と して生 産 を拡 大 して い け ば,そ れ が そ の ま ま高 度 成 長 に繋 が っ て い くとい う状 況 に あ っ た とみ る こ とが で き る。 しか し中 国経 済 が こ こ ま で発 展 し,市 場 経 済 化 が'これ か ら も一 層 進 展 す れ ば,次 第 に生 産 過 剰 とい う 局 面 に遭 遇 す る可 能 性 も出 て くる し,そ う なれ ば在 庫 循 環 ・設 備 投 資 循 環:とい う形 の 景 気 循 環 が お こ る こ と に な る。 そ こ で 重 要 に な る の は,政 府 ・中 央 銀 行 の マ ク ロ 的 需 要 管 理 能 力 で あ る 。 そ の 点 で,中 国 の 現 状 に は 問題 が 多 い よ う に思 わ れ る40)。 も う ひ とつ の 問 題 は,社 会 保 障 制 度 に 関す る もの で あ る 。 これ ま で 中 国 で は ,国 有 部門で働 く 従 業 員 は,生 涯 に わ た りか な り手 厚 い生 活 保 障 を受 け て きた し,ま た現 に 受 け て い る 。 しか し国 有 部 門 が 次 第 に縮 小 す る に つ れ て,社 会 保 障 制 度 を ど う構 築 す るか とい う問題 が ク ロ ー ズ ア ップ さ れ て き た。 これ は市 場 経 済 化 に伴 う 当 然 の 問 題 で あ るが,中 国 の 厳 しい財 政事 情 を考 え れ ば, 新 しい 社 会 保 障 制 度 の 構 築 は容 易 な こ とで は な い。 た だ 将 来 必 ず 高 齢 化 社 会 が 訪 れ る とい う こ と を考 え る と,こ の 問 題 は放 置 で きな い 。 日本 は戦 後 長 い 間 、 国民 皆 保 険,国 民 皆 年 金 に 向 か っ て 努 力 を 続 け,1950年 代 末,高 度 成 長 の 過 程 で 漸 くこ れ を実 現 した 。 しか しい ま,高 齢 化 社 会 に入 り,国 民 負 担 や 給 付 水 準 の 在 り方 をめ ぐっ て,新 た な課 題 をつ きつ け ら れ て い る 。 周 知 の よ う に, 現 在 中 国 で は 「ひ と り っ子 政 策 」 を続 け て い る 。 こ の 政 策 に は い ろ い ろ な問 題 点 が含 ま れ て い る が, .中国 の深刻 な人 口問題 を考 えれ ば,そ れはや む をえ ない もの といわ ざる をえな いであ ろ う 41) 。 しか し同 時 に,こ の 政 策 が 成 功 す れ ば,次 に は急 速 な 人 口 高 齢 化 の 進 行 と い う事 態 を覚 悟 しな け れ ば な ら な い。 日本 は い ま,そ の 対 応 に苦 し ん で い る。 中 国 は い ま,市 場 経 済 移 行 に伴 う . 社 会 保 障 制 度 の 再 編 成 とい う困 難 な作 業 の な か で,高 齢 化 社 会 へ の対 応 に取 り組 ま な け れ ば な ら な い の で あ る 。 、 こ の よ う に み て くる と,こ れ か ら 中 国 が 取 り組 まな け れ ば な ら な い課 題 は 実 に多 く,し か も多 岐 に わ た る。 そ こ に は,日 本 の 高 度 成 長 期 に はみ られ な か っ た 困 難 な問 題 も含 まれ て い る 。 しか しそ の こ と は,中 国 の これ か らの経 済 発 展 を否 定 す る も の で は な い 。 い ま まで そ うで あ っ た よ う に,そ して 日本 もそ うで あ っ た よ う に,こ れ か らの 中 国 経 済 は い ろい ろ な矛 盾 や 課 題 と格 闘 しな が ら,お そ ら く高 い 成 長 を続 け て い くの で は ない だ ろ うか 。 もち ろ ん,そ の た め に は前 述 の よ う な困 難 な 課 題 を ひ とつ ひ とつ 克 服 して い くこ ≒が,重 要 な要 件 で あ る。21世 紀 の 中 国 経 済 が ど う な るか は,そ う した課 題 克 服 の 成 否 にか か っ て い る。 中 国 経 済 の ス ケ ー ルが 大 き くな る に つ れ て ア ジ ア に お け る巨 大 マ ー ケ ッ トの 出現 と して,中 国 に対 す る世 界 の 関 心 が 高 ま っ て い る。 しか し (表15)1995年 のGNPの 国 際 比 較(単 位 ・百 万 ドル) 為 替 レ ー ト ・ベ ー ス 購 買 力平 価ベ ース 中 国 日 本 韓 国 米 国 744,890 4,963,587 435,137 7,100,007 3,508,432 2,779,609 513,462 7,100,007 (資 料)TheWorldBank,"WorldBankAtlas,1997"