早期英語教育論 : なぜ児童は英語の絵本を文法、
語彙知識なしで楽しめるのか
著者
濱本 秀樹
雑誌名
Shoin literary review
巻
41
ページ
37-71
発行年
2008-03-10
早期英語教育論
一 なぜ 児 童 は英 語 の絵 本 を文 法
、 語 彙 知 識 な しで
楽 しめ る の か一
濱 本
秀
樹
1.早
期英 語教 育 の特 殊性
小 学 生 を対 象 と した 早 期 英 語 教 育 の環 境 は、 中 学校 、 高 等 学 校 な どの英 語 指 導 環 境 とは そ の 性格 が 大 き く異 な る。文 法 の学 習 を 目標 にお い た 方式 、 す な わ ち 、 明示 的 に文 法 規 則 を教 え 、 そ の習 熟 の た め 反復 練 習 させ る とい うパ ター ンを児 童 は受 け付 け な い。 適切 な刺 激 を与 え、 学 習 者 自身 に規 則 を発 見 させ る よ う な発 見 型 の 指 導 に な ら ざ る を得 ない 。 私 た ち(濱 本 と言 語 習得 論 専 攻 ゼ ミ学 生)は2006年 よ り神 戸 市 との提 携 に よ り、 灘 区児 童 館 で 約25名 の 小 学2-3年 生 に英 語 を指 導 して きた(同 一 の小 学 校 の 児 童 で 、 「国 際 理 解 教 育 」 の 一環 と して 学 期 に 数 回 のALrに よ る英 語 指 導 が あ る)。 児 童 のL2の 学 習 動 機 、 心 理 な ど を十 分 に考 慮 した シ ラバ ス を設 計 し、 日本 語 を ま っ た く介 さずL2の み に よ る指 導 方 式 を採 用 し、 成 果 を挙 げて きたが 、 現 実 に授 業 を展 開 す る中 で 、 学 習 者 で あ る児 童 が どの よ うな心 理 的 、 認 知 的 働 きに よ り英 語 を習 得 して い る の か、 す な わ ち学 習 者 の 内 面 で 知 識 の構 築 が どの よ う な仕 組 み で 進 んで い るの か とい う基 本 的 な疑 問 に突 きあ た っ た。 日本 語 を介 さず 、 簡 単 な英 語 で動 作 を説 明 す る こ とで 児 童 は基 本 動 詞 の 意 味 を習得 で きる。 また、 前 置 詞 に つ い て も空 間的 な位 置 関係 を繰 り返 し 英 語 で説 明 す る こ とで 理 解 す る。 また 、絵 本 の 読 み 聞 か せ は児 童 に一一番 人 気 の あ る学 習項 目(2005,2006年 の ア ンケ ー ト調 査 、 い ず れ も___..位「絵 本 」、 二 位 「歌 」、 三 位 「ゲ ー ム」、 四位 「TPR」 と な って い る)で あ るが 、 語 彙 、 一37一文 法 と もに 充 分 な 知 識 を 持 た な い 児 童 が 、 い っ た い ど の よ う に話 の 展 開 を 理 解 し、さ ら に 語 彙 を 習 得 し て い くの か に つ い て は 充 分 な 説 明 が で き な い 。 英 語 指 導 に 見 られ る 多 くの 言 語 活 動 が 、 理 論 的 説 明 が な い ま ま、 そ の 有 効 性 に 関 す る 議 論 の み が 一 人 歩 き し て い る 現 状 で あ り、 何 らか の 説 明 原 理 を 提 示 す る 必 要 性 を 強 く感 じた 。(1) 本 論 文 は 、 上 記 の 問 題 に 一 定 の 説 明 を 与 え よ う とす る 試 み で あ る 。 認 知 科 学 、 発 達 心 理 学 な ど の 分 野(Tomasello(1999,2005),Bloom(2000))で 提 唱 さ れ て い る 「使 用 に 基 づ く言 語 理 論 」(usage-based linguistics)、 「共
同 注 意 理 論 」(joint attention theory)な ど を含 む 「心 の 理 論 」(Theory of Mind)
の 議 論 や 、Croft(2007)の 「経 験 の 言 語 化 」(verbalization of experience) の 理 論 、 さ ら に 最 近 のSLA理 論 、 社 会 文 化 理 論 な ど を 視 野 に 入 れ つ つ も、 さ ら に そ れ ら の 理 論 の 不 十 分 な 部 分 を 、 人 間 に 付 与 さ れ た 「仮 説 形 成 推 論 能 力 」(abductive inference)を 想 定 す る こ と で 、 児 童 の 持 つ 外 国 語 習 得 能 力 全 般 、 さ ら に 絵 本 の 理 解 プ ロ セ ス を 説 明 し よ う とす る も の で あ る 。 構 成 は以 下 の 通 りで あ る 。2章 で 、 ま ず 早 期 英 語 教 育 の 現 場 で の 授 業 展 開 例 と して 、 動 詞 、 前 置 詞 の 概 念 発 見 学 習 の 様 子 、 絵 本 を 使 っ た 学 習 の 様 子 を 素 描 し、 授 業 の 大 ま か な 形 態 を説 明 す る 、3章 で は 早 期 言 語 学 習 の 説 明 に援 用 で き る い くつ か の 理 論 を 概 観 す る と も に 、そ の 限 界 に も言 及 す る 。 4章 で は ・3章 で 説 明 し た 既 存 の 理 論 の 限 界 を乗 り越 え る 試 み と して 仮 説 形 成 推 論 を 導 入 す る 。 ま た 、 学 習 と推 論 の パ タ ー ン に つ い て の 議 論 を展 開 す る 。 以 上 の2-4章 が 一 応 の 理 論 的 基 盤 と な る 。5章 で は 絵 本 の 読 み 聞 か せ を テ ー マ に と りあ げ 、 ど の よ う に児 童 が 英 語 の 絵 本 を 文 法 、 語 彙 知 識 な しで 楽 し む こ と が で き る の か を 説 明 す る 。 最 後 に 、6章 で ま と め と今 後 の 展 望 を 述 べ る 。
2.授
業 の展 開例:
基 本動 詞 と前 置 詞 の 概 念 発 見 学 習 と絵 本 の読 み 聞か せ
前章 で述べ た 「
早期英語教 育の特 殊性」 を確認 す るため、早期英語教育
の教 室展 開例 を見 てみ た い。早 期 英 語 教 育 の場 で 直 ち に理 解 され る こ と は、 そ の 学 習環 境 が 母 国語 習 得 の 環 境 とか な り似 通 っ て い る と い う こ と で ある 。まず 、教 室 内 で は す べ てL2で あ る 英 語 が 使 わ れ る た め 、児 童 た ち はcare-taker(養 育 者)と し て の 教 員 との コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を求 め る よ う に な り、 そ れ がL2学 習 の 動 機 づ け に な る。 ま た 、 学 習 活 動 の 多 様 性 も 母 国 語 環 境 と の 近 似 性 を 示 す 。 体 を 動 か す こ と とL2を 結 び つ け る こ と で 、 知 覚 一 運 動 系 に か か わ る 言 語 能 力 を 養 成 す るTotal Physical Response(TPR)、 英 語 で の 指 示 に よ る 工 作 、 ゲ ー ム 活 動 、 絵 本 の 読 み 聞 か せ 、 講 師 の 動 作 と発 話 か ら単 語 や フ レー ズ の 意 味 を類 推 させ る 訓 練 な ど の 多 種 の 活 動 は そ の ま ま 家 庭 で のL1習 得 環 境 で の 多 様 な 言 語 刺 激 に 通 じ る も の が あ る。 こ こ で は こ の よ う な早 期L2教 育 のL1習 得 と の 類 似 性 に 着 目す る 。(2) 児 童 に よ る英 語 の 語 の概 念 、 規 則 発 見 の 様 子 を 基 本 動 詞 、 前 置 詞 、 絵 本 を 使 っ た 指 導 の 順 で 素 描 す る。 語 は 項 目 ご と(item-based learning)に 学 習 して い くよ う に な っ て い る。 2.1基 本 動 詞
基 本 動 作 を 示 す"sit down,""stand up,""come to the front,""make a circle," "look at me"な ど の フ レ ー ズ は 特 に 項 目 と し て 取 り 上 げ て 教 え る 必 要 が な
い 。 学 習 者 が 何 度 も そ の 語 句 を 聞 き 、 動 作 を 行 う う ち に 自 然 に 言 語 形 式 と そ の 意 味 と の 連 合 が 形 成 さ れ る 。 た と え ば"Ok everybody sit down, please, sit down. Thank you."と い い な が ら 講 師 も 座 っ て 見 せ た り ・`℃k, this time, Tomomi come over here please"と い い な が ら 児 童 を 教 室 の 前 の 方 に 来 る よ う に 手 招 き す る と い う よ う な 動 作 を 見 せ る こ と で 容 易 に 習 得 に 導 け る 。 さ ら に 、"close your eyes,"``nod your head,""touch your stomach,"``wiggle your toes,""brush your teeth"な ど の よ う な 一 見 複 雑 そ う な 動 作 動 詞 も 、 チ ャ ン
トや リ ズ ム を 伴 う 身 体 運 動 で あ るTPRを 利 用 し 、 数 多 く 聞 か せ 、 動 作 と 連 合 す る こ と で 比 較 的 容 易 に 習 得 で き る 。 こ れ ら の 動 作 動 詞(動 詞 句)の 意 味 的 特 徴 と し て 、 そ の 意 味 で あ る 動 作 が 、 他 の 動 詞 の 表 す 動 作 と の 違 い が 大 き く 、 容 易 に 弁 別 さ れ る と い う 点 で あ る 。 つ ま り 、 意 味 的 弁 別 性(speci-ficity)が 高 い と い う 点 で あ る 。 抽 象 的 動 作 動 詞MOVEを 設 定 す れ ば ・ こ れ ら は 概 ね 次 の 意 味 構 造 に あ て は ま る 。 一39一
(1)MOVE(specific thing)IN(specific way)FOR(specifc purpose) 動 作 対 象 様 態 目 的
た と え ば 、"touch your stomach"の"touch something"はMOVE(hand)
FOR(making contact with something)と な り、 MOVEの 動 作 の 対 象 と そ
の 目 的 で 特 異 性 を 持 つ ・ ま た 、"brush your teeth"はMOVE(bmsh)FOR
(cleaning teeth)と な り、 こ れ もMOVEの 対 象 と そ の 目 的 で 特 殊 性 が 際
立 つ 。"wiggle your toes"で はMOVE(body parts)IN(quick up--and-down
way)と な り・MOVEの 様 態 で 特 殊 性 を 持 つ 。 学 習 者 は こ のspeci丘cityに
誘 導 さ れ て こ れ ら の 語 彙 を 習 得 す る 。 た だ し こ のspecificityを 体 感 す る た め に は 体 を 動 か さ な くて は な ら な い 。 早 期 英 語 教 育 の 長 所 は学 習 者 が 低 年 齢 で あ る た め 、 動 作 を 自 ら行 う こ と を 厭 わ な い こ と で あ る。 思 春 期 を迎 え た 中 学 生 が"Wiggle youz toes."の 指 示 に あ わ せ 自分 の 足 の 指 を も ぞ も ぞ と動 か そ う とす る で あ ろ う か 。 こ の よ う な 自 己 の 動 作 に 関 連 す る 動 詞 は 低 年 齢 時 に 学 習 す れ ば 無 理 な く習 得 で き る もの で あ る 。 し た が っ て 、 学 習 の 対 象 と して 敢 え て 取 り上 げ ね ば な ら な い 動 詞 は 、 こ の よ う な 弁 別 性 の 高 い 動 作 動 詞 で は な く、 「学 習 者 か らみ て 意 味 的 弁 別 性 が 際 立 た な い もの 、 す な わ ち 、 他 の 動 詞 の 表 す 意 味 と類 似 性 が あ り、 学 習 者 の 認 知 環 境 を 整 え 意 識 的 に 教 え な け れ ば な ら な い もの 」 と規 定 さ れ る 。 こ
の よ う な 基 本 動 詞 と し てmove, have, take , put, keepな ど を あ げ る こ と が で き る 。(3>下 に 例 と し てtakeの 語 義(Collins COBUILD 2006)を あ げ て
お く。
(2)a.If you take something, you reach out for it and hold it.
b.If you take something when you go somewhere, you carr it or have lt Wlth. yOU. こ れ ら の 動 詞 は 、speci丘cityが 低 く、 そ の 分 、 抽 象 度 が 高 い 。 こ の た め 抽 象 的 動 詞MOVE+specificityで は 意 味 を 構 成 で き ず 、 そ れ 自身 が 基 本 的 な た め 、 他 の 動 詞 の 助 け を か りて 説 明 的 に 意 味 表 示 す る し か な い 。 speci丘cityが 低 い 分 だ け 柔 軟 で 、 他 の 語 句 と 結 合 し多 彩 な 意 味 を 持 ち う る 。 上 の(2a)は 「トル 」 と い う 語 義 のtakeで 、 説 明 的 に 記 述 す れ ば こ
の 辞 書 定 義 の よ うに 「対 象 物 を取 ろ う と手 を伸 ば し、 そ れ を保 持 す る」 とな る。(2b)は 「モ ッテ イ ク」 とい う語 義 で、 「対 象 物 を移 動 す る 自身 と と もに運 ぶ 」 とい う説 明 的定 義 が与 え られ て い る。 こ の よ うな基 本 動 詞 は母 語 話 者 の 会 話 で 出現 頻 度 が 高 く、有 用 度 も高 いが 外 国語 学 習 者 に は学 習 上 の負 荷 が 大 きい。 この よ うな基 本動 詞 の 学 習 プ ロ セ ス の一 例 と してtakeの 場 合 を次 に示 す 。 (3} class excerpt 目標:takeの2つ の 意 義 を 習 得 させ る
take+X:Xを 取 り 出 す 、 take+X+to Y:XをYに 持 っ て い く 素 材 設 定:空 き缶 に4個 の 色 つ き の マ グ ネ ッ ト(赤 、 黄 、 緑 、 青) を 入 れ て お く。
教 室 の 隅 に 丸 い 空 き缶 、 四 角 の 空 き缶 を 置 く。
講 師1:0k, class, now we are going to show you something very interesting. Watch carefully and see what we will do, OK?
See, I have 4 magnets in this box. What color are they? 児 童:Yellow, red, green and blue.
講 師1:0k, how many magnets are there? 児 童:Four.
講 師1:Good. Now watch very carefully, Ok?
Ayu(講 師2),come over here please. And TAKE the red magnet・ 講 師2:0k.(と い っ て 赤 い マ グ ネ ッ ト を 取 り 出 し 、 児 童 た ち に 見 せ る)
ゆ 他 の 色 の マ グ ネ ッ ト の 「取 り 出 し 」 に つ い て も 同 様 に 例 を 示 す 。 講 師1:0k. Now please put all the magnets back into the box.
Class, watch again very carefully. Ayu, take the red one. 講 師2:Here it is。(赤 い マ グ ネ ッ ト を 取 り 出 し 児 童 に 見 せ る)
講 師1:0k, take the red magnet to the square box over there in the corner. 講 師2:0k(と い っ て 赤 い マ グ ネ ッ トを 教 室 隅 の 四 角 の 箱 に も っ て い く) ゆ 他 の 色 の マ グ ネ ッ ト に つ い て も 「取 り 出 し 」 「も っ て い く 」 に つ い て も 例 を 示 す 。
以 上 の 活 動 の 後 、 講 師 の 指 示 に よ り、3グ ル ー プ に 児 童 を わ け 、 児 童 一
人 ひ と り に(i)箱 か ら の マ グ ネ ッ トの 取 り出 し、(ii)そ れ を教 室 隅 の
指 定 の 箱 ま で 持 っ て い く、 と い う2種 類 の 指 示 を 英 語 で 与 え た 。 こ れ を
「聞 く一 反 応 活 動 」(listen and respond activity:LRA)と 名 づ け た 。
(4)基 本 動 詞LRA成 績(小 学2年 生 全 員 英 語 学 習歴 な し)
Item concept 初回実施日 対象児童数 LRA結 果 2回 目実施 対象児童数 LRA結 果
put XをYに 置 く 6月2日 16 13/16 6月9日 14 10/14 fake Xを と る 7月7日 18 18/18 7月14日 is 16/16 take XをYに 持 っ て い く 7月7日 18 15/18 7月14日 16 12/16 上 の 結 果 で 見 る と お り、 基 本 動 詞putとtake(語 義1、 語 義2)は 学 習 成 果 が 良 好 で あ る 。 2.2前 置 詞 前 置 詞on, under, in, overに つ い て も基 本 動 詞 と 同 様 の 、 モ デ ル 提 示 、 そ の 後LRAに よ る確 認 と い う作 業 を 実 施 した 。 こ れ は 講 師 が`The magnet is
ON, ON the desk"と 発 話 後 、 実 際 の 動 作 を行 う 。 こ れ を2回 繰 り返 し、 前
置 詞 をunder, overに 変 え て 行 う(inの 場 合 は"The magnet is IN, IN the
box")。 そ の 後 、 児 童 一 人 ひ と りの 前 に ミニ チ ュ ア の 机 、 箱 、 マ グ ネ ッ ト
を置 き、講 師 が 英 語 で 指 示 し な が ら動 作 を行 い 、児 童 も一 緒 に 動 作 を す る 。 こ れ を2回 繰 り返 す 。 次 に 講 師 が 前 置 詞 を ラ ン ダ ム に 選 択 し英 語 で 指 示 を
出 す ・ 児 童 のLRAを 確 認 、 記 録 と い う作 業 で あ る 。 以 下 に 結 果 を あ げ る 。
(5)前 置 詞LRA成 績
item on in under over concept Xの 上 に(密 着) Xの 中 に Xの 下 に Xの 上 方 に
初 回7月14日
正 解/児 童 数(16) 14/16 16/16 13/16 6/16
2回 目7月21日
正 解/児 童 数(14) 12/14 14/14 11/14 8/14
Overの 成 績 が 悪 い が 、 onと の 区 別 が つ き に く い た め と 思 わ れ る 。"The magnet is over, over the desk"と い う 指 示 で も ミ ニ チ ュ ア の 机 の 上 に マ グ
ネ ッ トを 置 く児 童 が 多 数 い た 。 近 接 す る概 念 の 習 得 に は 時 間 が か か る よ
う で あ る。 ま た 、DVDの 記 録 を 繰 り返 し確 認 す る う ち 興 味 深 い こ と を
発 見 し た 。 講 師 の 指 示:"The magnet is over the desk"に 対 し、 一 人 の 児
童 が"over the desk, over the desk"と い い な が ら 手 に 持 っ た マ グ ネ ッ ト
を机 の 上 方 に位 置 付 け て 見 せ る シ ー ンが 出 て き た 。 これ に よ り両 隣 の 児 童 もoverとonと の 区 別 が 了 解 さ れ た 様 子 で あ っ た 。 こ の よ う に 、 集 団 指 導 の 場 合 、学 習 成 果 の 自然 な 相 互 移 転 が 行 わ れ る こ とが 多 数 観 察 さ れ る 。 つ ま り、 あ る 項 目 に つ い て 理 解 し た 児 童 が 、 そ れ を無 意 識 的 に つ ぶ や く こ とで 、 結 果 的 に 理 解 で きて い な い 児 童 に そ の 成 果 を伝 達 す る と い う現 象 で あ る。 こ の よ う にDVD中 に は 、 学 習 中 の 児 童 の つ ぶ や き が 多 数 録 音 さ れ て い る 。 こ れ は 学 習 途 中 の 項 目 の 自 己 確 認 、 あ る い は 内 的 言 語 と し て 取 り入 れ る 過 程 と して も興 味 深 い 。 一・例 を あ げ る 。 (6)a./asneil_asneil/(小3女 子 。梅 雨 時 の 単 語 とし て カ タツ ム リを 教 えた 時) b.1p血s6eb。:1.。.p£s6ebQ:11(小3女 子 。講 師 の ボ ー一ル 渡 し ゲ ー ム の 説 明 時 に) 以上 の よ う な授 業 展 開例 に よ り、教 育 者 が 児 童 に文 法(語 法)を 明 示 的 に教 えず 、 学 習 者 で あ る児 童 の 自発 的 な規 則 発 見 に よ り、 文 法 が 学 習 され る とい う事 実 が確 認 され た 。 早 期 英 語 教 育 で の学 習 者 の語 義 や 文 法 規 則 の 学 習 方 略 はL2言 語 の 語 義 や 規 則 を外 か ら与 え られ る こ と で 達 成 され るの で は な く、 仮 説 形 成 的 に 自己発 見 して い く とい う見 方 が 可 能 で あ る。 この立 場 に立 つ と認 知 的経 験 主義 を補 強 で き、 意 味 を教 え られ ず と も語 義 が 理解 され る こ と、 さ らに単 語 も文 法 も知 らな い状 況 で絵 本 の ス トー リー が 理 解 で き楽 しめ る こ と も説 明 で きる。 2.3読 み 聞 かせ の 実 施 状 況 次 に絵 本 の読 み 聞 か せ の 議 論 に移 ろ う。 児 童 館 で の 実践 で は毎 回約7分 間程 度 絵 本 の読 み 聞 か せ を実 施 した。 語 、構 文 、 話 の あ らま しな ど を 日本 語 で ま った く説 明 せ ず 、絵 と児 童 の想 像 力 にの み 頼 っ た方 式 で あ る。 も っ
と もbrick, straw, gingerbreadな ど とい う、 日常 生 活 で 見 る機 会 が 少 な く、 想 像 の範 囲 を超 え る もの は極 力 実 物 を 話 の 前 に提 示 し た。 使 用 した 話 は
The Three Little PigsとThe Gingerbread Man,そ れ か ら 、 Brown Bear , Brown
Bear What do you see?の3冊 で あ る 。 こ れ ら を 繰 り 返 し 読 み 聞 か せ た 。 絵
本 の 特 徴 は 、(i)絵 に よ り 語 の 意 味 が 推 論 で き る 、(ii)話 の 展 開 が 予 測 可 能 、(iii)表 現 に 繰 り 返 し が 多 い 、 こ と が あ げ ら れ る 。 以 下 に 繰 り 返 し の 部 分 の 例 を あ げ て お く 。 (7)絵 本 名 a.Brown Bear 繰 り返 し フ レー ズ
Brown Bear, Brown Bear, What do you see? Isee a red bird looking at me.
Red bird, Red Bird, What do you see? Isee a yellow duck looking at me.
b.Gingerbread Man Run, run, run. As fast as you can.
You can't catch me.1'm the Gingerbread Man.
一 回 目の 絵 本 の 読 み 聞 か せ の 授 業 後 、 児 童 の 話 の 内 容 理 解 度 、 興 味 の 程 度 を確 認 シ ー トで 記 録 した 。 児 童 を2グ ル ー プ に 分 け 、 一.つの グ ル ー プ の 児 童 一・人 一 人 の 理 解 を確 認 シ ー トに 記 入 して も ら っ た 。 記 入 項 目は(i)話 の 流 れ の 理 解 を き く(「 こ の お 話 の 内 容 を 書 い て くだ さ い 。 ま た 絵 で か い て も い い で す よ」)、(ii)面 白 か っ た 点(「 こ の お 話 の ど こ が お も し ろ か っ た で す か 」)の2点 。 こ の 調 査 結 果 で は 全 員 が 話 の 内 容 を ほ ぼ 理 解 し て い た 。 児 童 の 理 解 は 言 語 情 報 に よ る ボ トム ア ッ プ 型 で は な く、 ス トー リ ー の 面 白 さ に 誘 発 さ れ た 想 像 力 に よ る トッ プ ダ ウ ン型 の 理 解 で あ る 。 面 白 さ に つ い て の 判 定 で はGingerbread Manが 好 評 だ っ た 。 主 人 公 が 最 後 に ワ ニ に 食 べ られ る シ ー ンが 児 童 の 気 に 入 っ た よ うで あ る 。 児 童 は 話 の 展 開 に 引 き 込 ま れ て し ま う よ うで 、 英 語 は そ の 後 つ い て く る 様 子 で あ る 。Gingerbread Manの 繰 り返 し 出 て く る フ レー ズ(上 記)は2回 目時 に 半 数 の 児 童 が 合 唱 で き る よ う に な っ た 。
3.関
連 す る理 論 の概 観 とそ の不 十 分 な点
前 章 で は、 早 期 英 語 教 育 の 実践 例 を見 て きた。 そ こで は 、 学 習者 で あ る 児 童 が どの よ うに して新 知 識 で あ る英語 の 語 彙 、 文 法(語 法)を 習 得 して い くの か が ブ ラ ック ボ ックス と して残 され て い る こ とを確 認 した。 早 期 英 語 教 育 の 多 くの 実 践 で は 「子 供 の 学 習 能力 」 は前 提 視 され て い て、 そ の 学 習 能力 そ の もの の 考 察 は決 して多 くは ない の が 現 状 で あ る 。 この章 で は早 期 英 語 教 育 を理解 す る た め に必 要 とな る諸 理 論 を概 観 す る と と も に、 そ の 限界 も指摘 した い。 こ こで概 説 す る理論 群 は以 下 の よ うな もの で あ り、 こ の順 で見 て い くこ とにす る。(i)
(ii)
(iii)
認 知 言 語 、 認 知 心 理 学 的 見 解(3.1) 最 近 のSLA理 論(3.2) 社 会 文 化 理 論(3.3) 3.1認 知 言 語 学 、 認 知 心 理 学 的 見 解 さ て、 認 知 言 語 、 認 知心 理 学 的 見 解 の ほ とん どが母 語 習 得 の場 合 につ い て の言 及 で あ り、 第 二 言語 で の 習 得 の プ ロ セ ス に 直接 言 及 した もの で は な い 。 しか し、 早 期 英 語 教 育 の 環境 で は、 学 習 者 は指 導 者 との コ ミュニ ケ ー シ ョンを求 め、とにか く分 か りた い とい う気 持 ち に学 習 の動 機 を置 くた め 、 養 育 者(caretaker)と して の役 割 を指 導 者 は 担 う こ とに な る。.また授 業 展 開 も、 母 語 を介 さず 指 導 者 と学 習 者 の共 同 的活 動 や教 材 提 示 を通 じ、 言 語 表 現 の意 味 、 機 能 を推 論 的 に吸 収 して い くこ と、教 材 提 示 や 活 動 の展 開 も 「教 え、 そ れ を学 習 す る」 とい う教 室 型 で は な く、 自然 習 得 を促 す よ うに 設 計 され る こ とな どを考 慮 す る と、 早 期 英 語 教 育 環境 はか な り母 語 習 得 環 境 と類 似 性 を持 つ と考 えて よい と思 わ れ る。 もち ろん 、 両 者 に は学 習 の 開 始 時 期 の違 い に よ る発 達 の 違 い、 学 習 時 間 、 学 習 総 量 な どの諸 要 因 に お い て大 きな違 い が あ る。 しか し、 そ れ らの 制 限 を念 頭 にお い て も類 似 性 を無 視 で きない と思 わ れ る。 まず 、 以上 の よ う な制 限 を念 頭 に置 い た 上 で 認 知 言語 学 、 認 知 心 理 学 的 な捉 え方 を簡単 に解 説 す る。 まず 、 下 記 の ま とめ を ご らん頂 きた い 。 一45一(8)認 知 言 語 学 、 心 理 学 的 の 言 語 習 得 の 捉 え 方
(i)子 供 た ち の 言 語 習 得 は 孤 立 した 連 合 形 成 や 闇 雲 な 帰 納 方 式 に 求 め る
こ と は で き な い 。 も っ と 強 力 な 認 知 的 学 習 メ カ ニ ズ ム が 備 わ っ て い
る。 こ れ は 「心 の 理 論 」(Theory of Mind)と 包 括 的 に 呼 ば れ る 。
こ れ に は 意 図 読 み 取 り能 力(intention‐rea Ong)、 パ タ ー ン抽 出 能 力 (pattern--finding skill)が 含 ま れ る 。 (ii)成 人 の 言 語 能 力 は 生 成 文 法 で 考 え ら れ て き た も の よ り も っ と 子 供 に接 近 可 能 な も の で あ り、 そ れ は 「使 用 に 基 づ く言 語 観 」(usage- based linguistics)と も言 うべ き も の で あ る 。(Tomasello 2003) (9)経 験 の 言 語 化(Verbalization of experience) 経 験 は 言 語 化 さ れ て い な い 未 分 化 の 一 体 的 な も の で あ り 、 こ れ が 「場 面
分 け 」(subchunking),「 命 題 化 」(propositionalizing),「 カ テ ゴ リ ー 化
」(cate-gorization)と い う3つ の 段 階 を へ て 言 語 化(命 題 化)さ れ る 。 (Chafe 1977, Croft 2007) (8i)に つ い て の 議 論 か ら始 め よ う。 子 供 は9ヶ 月 を過 ぎる こ ろ に、 子 供 と養 育者 とい う2項 的 関係 か ら進 み 、 共 通 の 注 意 の枠 組 の 中 に第3の 対 象 を捉 え る こ とが で きる よ うに な る。子 供 は他 者 と相 互 に 関心 の あ る対 象 、 事 態 に対 して 、注 意 を共 有 で き る能 力 を身 につ け る。 この 共 同注 意 を基 盤 に して 言 語 記 号(symbol)を 学 習 して い く。 言 語 コ ミュ ニ ケ...ショ ンで は 記 号 の使 用 を前提 とす る。 記 号 とは 第3の 事 物 を示 す 道 具 で あ るが 自分 と 他 者 との 意 図 理 解 を必 要 とす る。 「そ の 本1」 とい う言 葉 を 聞 い た と き、 相 手 の 意 図 、 す な わ ち 「私 が本 に注 意 を向 け る とい う私 の注 意状 態 の 変 化 の要 請」 とい う意 図 を理解 しな け れ ば な らない 。 同時 に、 自分 が 言 葉 を使 用 す る場 合 、相 手 に こ ち らの意 図 を理解 して も ら う必 要 が あ る。 この よ う な相 互 の 意 図 の理 解 を可 能 にす る能力 を 「意 図読 み取 り」とい う(Tomasello 2003)。 この 「意 図 読 み取 り」 能 力 が 備 わ る こ とが 言 語 記 号 習 得 の基 盤 と な る。 言 語 習 得 に必 要 な も う一 つ の認 知 能力 は 「パ ター ン抽 出能 力 」 で あ る。
人 間 は言 語 記 号 を構 造 化 して使 う。構 造 と して理 解 す る に はパ ター ンを見 出 さな け れ ば な らない 。多 くの研 究 が 子 供 は類 似 性 を もつ対 象 、 事 態 の知 覚 的 、 概 念 的 カテ ゴ リー を形 成 で き る能 力 を持 つ こ とを示 して い る。 簡 単 に言 う と、似 た もの を集 め て 一 く く りに で きる とい う こ とで あ る・ また ・ 行 動 を知 覚 し記 憶 す る 中で 、 繰 り返 し現 れ るパ ター ンを取 り出 しス キ ー マ 化 す る こ と もで きる。(Tomasello 1999,2003)。 我 々 は早 期 英 語 教 育 の学 習 者 で あ る小 学 生 に も 「意 図 読 み 取 り能力 」「パ ター ン抽 出力 」 が と もに 十分 備 わ っ てい る と考 え る。 この よ う な認 知 能 力 は生 後9ヶ 月 頃発 現 し、衰 え る こ とな く機 能 す るか らで あ る。 (8ii)に つ い て の 議 論 に移 ろ う。 認 知 心 理 学 派 で は 言 語 を記 号 中心 に捉 え 、文 法 を派 生 的 にみ る。 言 語 の構 造 、 つ ま り文 法 は使 用 の な か で形 成 さ れ 、蓄 積 され て きた もの で、 個 人 レベ ル で 遺伝 的 に伝 え られ る とい うの で は な く、 社 会 文 化 的 に伝 承 され る もの とす る。 この立 場 を 「使 用 に基 づ く 言 語 観 」 とい う。 つ ま り、(i)と の 関係 で言 え ば、 基 本 的 な認 知 能 力 で あ る 「意 図読 み取 り能力 」 や 「パ ター ン抽 出 能力 」 自体 は種 に 固有 の もの と して遺 伝 的 に伝 え られ る。 これ に よ り言 語 習得 はあ る言 語 の使 用 環 境 にお い て個 人 レベ ル で 進 行 す る。 初 期 に は項 目ベ ー スで 、 そ して や が てパ ター ンの 抽 出 に よ り構 造 が 与 え られ る。 上 記 の(9)は 経 験 とい う言 語 化 以 前 の 存 在(=thought)が い か に言 語 化 さ れ る の か の理 論 で あ る(Croft 2007)。 これ は経 験 の 母語 へ の転 換 を議 論 して い る。 しか し、 転 換 前 の段 階 まで は普 遍 的 な人 間の 経 験 とそ の言 語 化 まで の プ ロセ ス を示 し外 国語 の学 習場 面 に も適 用 可 能 と考 え られ る。まず 、 未 分化 の ま まの 経 験 が 場 面 の ま と ま りご とに 分 化 され 、個 体(unit)や 出 来 事(event)が 取 り出 さ れ る。 そ れ に 命 題 化 作 用 が 働 き、 場 面 に形 式 化 が な され る。 命 題 は、 項 と関 係 を要 素 と して持 って い る。 母 語 で は、 カテ ゴ リー化 の段 階 で 、 この 命 題 の要 素 で あ る項 と関 係 に適 切 な語 が あ て はめ られ 、 経験 が 言 語 化 され る。 外 国語 の 学 習 で は、 経 験 の場 面 ご との分 化 、 命 題化 は 同 じ よ うに 進 む。 この 次 の段 階 、 す な わ ち カテ ゴ リー 化 で ・ 学 習 中 の語 や 、 構 造 との 対応 が な され る の で あ る。 また 、認 知言 語 学 の 基 本 的 捉 え 方 で も う一 つ 重 要 な こ とが あ る。 この学 派 で は、 「言 語 を音 形(言 語 形 式)と 意 味 との 複 合 体 」 と考 え て お り、 こ 47
の 言 語 形 式 に は単 な る語 だ けで は な く、 複 数 の語 が 結 合 的 に一 つ の 意 味 を 表 す 慣 用 表 現 な ど も含 ま れ て い る。 た と え ば 、"How are you?"な ど は一 つ ,のま と ま りと して知 覚 され 、 ま とま りが 決 まっ た意 味 を持 つ 。 慣用 表 現 を さ らに拡 張 的 に定 義 し、 チ ャ ンク とい う単 位 を構 成 す る立 場 もあ る。 こ れ はMiller(1956)に 述 べ られ た記 憶 単 位 概 念 を応 用 し、 collocationを記 憶 の 単 位 と して再 構 成 した もの で あ る。 また、 構 文 そ の もの も言 語 形 式 と して 捉 え た 場 合 、 固 有 の 意 味 を もつ こ とが 議 論 され て い る(Goldberg 1995)。 こ の立 場 で は、文 法 と レキ シ コ ンを統 合 的 な もの と捉 え る。つ ま り、構 文 、 慣 用 表 現 、 語 句 、語 は すべ て 言 語 形 式 と意 味 とが結 合 した もの で あ る点 で 共 通 で あ る、 とす るの で あ る。 以 上 の議 論 に は多 くの言 語 事 実 が 積 み 上 げ られて お り、 この論 文 で も基 本 的 に、 言 語 を言 語 形式 と意 味 の結 合 とす る 見 方 を採 用 す る こ と にす る。 さて、 以 上 の 議 論 を総 括 し以 降 の課 題 を 明確 に して お こ う。Tomasello やBloom, Chafe, Croftら 認 知 心 理 学 系 の研 究 者 は基 本 的 な 認 知 能 力 と使 用 に基 づ く言 語 形 成 に よ り言語 が 習 得 され る とす るが、 彼 らが 前 提 とす る い ず れ の能 力 も人 問 に基 本 的 に備 わ っ て い る もの と予 想 され る。 また、 幾 分 議 論 の 飛 躍 が あ り、 さ らな るデ ー タが 必 要 とな るの は もち ろ ん であ るが 、 これ らの母 語 の習 得 に 関す る認 知 心 理 学 的 見 解 は 、外 国語 の 習 得 につ い て も適 用 で きる と思 わ れ る。 上 記(8)の 関係 で 言 え ば、「意 図読 み取 り能 力 」、 「パ ター ン抽 出 能 力 」 が母 語 習 得 に 限 らず 、 人 間 の 基 本 的 コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン能 力 の 一 部 で あ り、 これ が 使 え な い とす れ ば、 他 者 と第3の 事 物 を含 む会 話 が 成 り立 た な い こ と にな る。 ま た、(9)の 「経験 の言 語 化 能 力 」も、 我 々が 映 画 の 内容 を他 者 に説 明 す る場合 な どに実 感 す る こ とが あ る。 映 画 の 内 容 を コ トバ で説 明 しよ う に も、 最初 、 経 験 全 体 は ぼ う っ と した もの で あ る。 場 面 に分 割 し、 登 場 人物 を確 認 す る と と もに、 登 場 人物 問の 関係 を 思 い 出 す うち に、 や が て コ トバ で 的確 に説 明 で きる よ うに な る。 この よ う な認知 的 基礎 能 力 を所 与 の もの と して も、 子 供 は大 人 の言 語 記 号 の使 用 か らそ の 意 味 を どの よ うに発 見 して い くの か とい う 「発 見 の プ ロセ ス」 が 説 明 され て い ない 。 こ れ が母 語 で も外 国語 で も同 じで あ る。 した が っ て、 明 らか に すべ き こ との 一 つ は、 こ こで概 説 した基 本 的 な認 知 能 力 を前 提 に し な が ら も、 さ らに 「発 見 の プ ロ セ ス」 を解 明 す る こ とで あ る。 これ につ い
て は4章 で み る こ とにす る。 そ の前 に最 近 のSLA理 論 の動 き とそ れ に 関 連 す る社 会 文化 理 論 を概 観 す る こ と に しよ う。
3.2 最 近 のSLA理 論 の 変 遷
1980年 代 か ら現 在 ま で 、 主 流 と な っ て い る コ ミ ュ ニ カ テ ィ ブ な 言 語 教 育
(communicative language teaching)の 背 景 に は イ ン プ ッ ト仮 説 か ら始 ま り、
イ ン タ ラ ク シ ョ ン仮 説 、 ア ウ トプ ッ ト仮 説 に 発 展 して い く仮 説 群 の 存 在 を 指 摘 し な け れ ば な らな い 。 以 下 に 簡 単 に そ の 流 れ を見 て み よ う 。 3.2.1イ ンプ ッ ト仮 説 イ ン プ ッ ト仮 説 と は、 「人 間 は言 語 を一 方 向 的 に習 得 す る の で あ り、 そ れ は メ ッセ ー ジ を理解 す る、 あ る い は理 解 可 能 な イ ンプ ッ トを受 け と る こ と に よ る」(Krashen 1985)と い う主 張 に容 易 に 見 て とれ る よ う に、 イ ン プ ッ トの役 割 を重 視 す る もの で あ った 。 そ こで は 「話 す こ とは習 得 の結 果 で て くる もの で あ り、 習得 の原 因 とな る もの で は な い」 と され 、 文 法 につ い て は、 「も しイ ンプ ッ トが 理解 され 、 しか も十 分 な 量 が あ れ ば、 必 要 な 文 法 は 自動 的 に与 え られ る」 と説 明 され た。 も しこの仮 説 が 正 当 な もの で あ れ ば、 学 習 者 は 目標 言語 を聞 き、 読 む だ け で 言語 能 力 を獲 得 で きる こ と に な る。 話 す こ と、 あ るい は書 くこ とな どの ア ウ トプ ッ トは必 要 と され な い 。教 師 が 学 習 者 に適 切 な 聞 き取 り とリー デ ィ ングの 練 習 を施 す だ け で 学 習 者 の脳 内 に文 法 能 力 が 形 成 され るの で あ るか ら、 文 法 指 導 は ま った く不 要 とい う こ とに な る。 3.2.2 イ ン タ ラ ク シ ョ ン 仮 説 Long(1983a,1983b)は 上 記 で 概 略 を 示 し た イ ン プ ッ ト仮 説 を会 話 に お け る調 整 と い う 観 点 で 拡 張 し た 。 さ ら に彼 は そ の 提 案 を イ ン タ ラ ク シ ョ ン 仮 説 と して 発 展 させ た 。 イ ン タ ラ ク シ ョ ン仮 説(interaction hypothesis:IH) は 次 の よ う に 定 義 さ れ て い る 。 「言 語 習 得 に お け る 環 境 の 貢 献 に つ い て は 選 択 的 注 意(selective attention)と 学 習 者 のL2の 処 理 能 力 に 関 連 し 、 そ れ
ら の 要 因 は 意 味 に つ い て の 交 渉(negotiation for meaning)に お い て 最 も効
果 的 に 統 合 さ れ う る 。(中 略)交 渉 中 に 得 ら れ た 否 定 的 フ ィ ー ドバ ッ ク
(negative feedback)は 、 L1-L2の コ ン トラ ス トを学 習 す る た め に 必 須 で あ る 」(Long l996:414)。 会 話 の 中 で 相 手 の 発 話 の 意 味 を解 釈 し、 そ れ に 意 味 の あ る 応 答 を す る こ と を 「意 味 に つ い て の 交 渉 」 とい う の で あ る 。 会 話 参 加 者 が 意 味 を伝 え よ う とす る 中 で 、 相 手 の 「分 か ら な い 」 と い う反 応 が 自分 のL2学 習 に 役 立 つ 。 相 互 交 流 がL2の 習 得 に 必 要 で あ り、 イ ン プ ッ トの み で は不 十 分 で あ る と い う こ とで あ る 。 こ こ で 否 定 的 フ ィ..._ドバ ッ ク か ら は 自分 の 使 用 した 言 語 形 式 に つ い て 注 意 が 喚 起 さ れ る こ と に 注 意 し な け れ ば な ら な い 。 つ ま り、 文 法 に 関 心 が 向 け ら れ る の で あ る 。 こ の 文 法 の 扱 い に お い て 、 イ ン タ ラ ク シ ョ ン仮 説 はKrashen(1985)の イ ン プ ッ ト仮 説 と は 大 き く異 な る 。Long and Robinson(1998:15)で 展 開 さ れ て い る よ う に 、 彼 ら は 文 法 項 目が 難 易 度 な ど に よ り配 置 さ れ て い て 、 そ れ を 秩 序 正 し く学 習 し て い く従 来 型 の 文 法 授 業 をfocus on formsと い い 、 相 互 交 流 の 中 で 生 み 出 さ れ た 文 法 形 式 へ の 注 意 をfocus on formと 呼 ん で 区 別 し て い る 。focus on formは 文 法 形 式 と 意 味 との か か わ りに 注 意 を 向 け る 。 こ れ が L2に 情 報 伝 達 の 正 確 さ と 円 滑 さ を 付 与 す る と い う の で あ る 。 こ の 理 論 で は 文 法 学 習 は 意 味 理 解 と結 合 し た 上 で は あ る が 、focus on formと し て 重 視 さ れ て い る の で あ る 。 3.2.3 ア ウ トプ ッ ト仮 説 Merrill Swainは カ ナ ダ の イ マ ー ジ ョ ン プ ロ グ ラ ム に 関 与 す る う ち に 、 イ マ ー ジ ョ ン プ ロ グ ラ ム で 学 習 した 学 生 は イ ン プ ッ ト分 野 で は 著 しい 発 展 を 示 す が 発 話 や 作 文 の 正 確 さ は か な り見 劣 りが す る 事 実 を発 見 した 。 そ こ か ら彼 女 は ア ウ トプ ッ トの 必 要 性 を 重 視 し始 め た(Swain 1985 ,1993,1995)。 彼 女 に よ れ ば 言 語 を 産 出 す る作 業 は 自分 の 言 語 能 力 と課 題 との ギ ャ ッ プ を 認 識 させ る と い う。 つ ま り、 ア ウ トプ ッ トは 学 習 者 が 本 当 に 言 い た い こ と と、 今 のL2能 力 か ら言 え る こ との 差 を 認 識 さ せ 、 そ こ か ら 言 語 形 式 へ の 注 意 が 生 ま れ 、 よ り高 い 文 法 の 習 得 に つ な が る と い う 。Swain(1995:128) で ・ ア ウ トプ ッ ト9)機 能 と して 次 の3つ を挙 げ て い る 。 (10)ア ウ ト プ ッ ト の 機 能
ing) 的 そ斐害1 (ii)仮 説 一 検 証 機 能 (iii)メ タ言 語 的 機 能 第1の 機 能 で あ る 「気 づ きの働 き」 は 「意 識 活 性 化 」 と も呼 ばれ る こ と が あ り、 言 い た い の に 言 え な か っ た こ とがL2文 法 の 中 に 自分 の 不 足 して い る言 語 形 式 を求 め よ うとす る動 機 とな る とい う こ とで あ る。 第2の 機 能 は仮 説一 検 証 機 能 で あ る。 こ れ は、L2学 習 が 進 む た め に は 、 学 習 者 は 言 語 形 式 につ い て の仮 説 を持 ち、 そ れ を常 に会 話 を通 じて 検 証 して い くこ と (つ ま り何 が 可 能 で 、 何 が 不 可 能 か を確 認 す る こ と)で 、 仮 説 が 文 法 と し て 内在 化 して い く とい う もの で あ る。 第3の メ タ言語 的 機 能 とい うの は 、 ア ウ トプ ッ トを通 じ、 学 習 者 は言 語 形 式 そ の もの を反 省 し、 これが 内在 化 した 文法 に修 正 を加 え る機 会 に な る とい う もの で あ る。 こ こで も適 切 な文 法 教 育 の 必 要性 が 示 唆 され て い るの で あ る。 3.2.4 意 識 の 活 性 化 と適 切 な 文 法 教 育 以 上 、 イ ン プ ッ ト仮 説 、 イ ン タ ラ ク シ ョ ン仮 説 、 ア ウ トプ ッ ト仮 説 と最 近 のSLA理 論 の 流 れ を 見 て き た 。 こ れ ら はJohnson(2004)に よ れ ば 「情 報 処 理 モ デ ル 系 」(information processing models)と して 包 括 的 に捉 え ら れ る と い う。 初 期 の 、 イ ン プ ッ ト仮 説 で は 文 法 教 育 は全 く不 必 要 な も の と理 解 さ れ て い た 。 しか し、 教 育 現 場 か ら の フ ィ ー ドバ ッ ク 等 に 触 発 さ れ 理 論 が 進 展 す る に つ れ 、 次 第 に 文 法 教 育 のL2習 得 に お け る 重 要 性 が 認 識 さ れ て き て い る こ と が 見 て と れ る 。 ま た 、 文 法 形 式 に つ い て の 「意 識 活 性 化 」 に つ い て は情 報 処 理 モ デ ル 系 の 研 究 者 の 他 に も多 くの 研 究 者 が 言 及 して い
る。 例 え ば 、Rutherford and Sharwood Smith(1985)で は 「教 育 文 法 仮 説 」
(pedagogical grammar hypothesis)と し て 次 の よ う な 指 摘 が あ げ ら れ て い る 。
{11}PGH
学 習 者 の注 意 を伝 達 内容 で は な く、構 造 上 の 規則 性 に向 け る指 導 法 は 、 あ る条 件 の下 で は習 得 の程 度 を著 し く高 め る。 そ れ は言 語 形 式 に対 す る注 意 が最 小 に抑 え られ た い わ ゆ る 自然 状 況 で の 言 語 習 得 の 程 度 を しの ぐ もの
で あ る(Rutherford and Sharwood Smith 1985:276)。 上記 の仮 説 で は 「あ る条 件 の下 で は」 が どの よ うな条 件 か が説 明 され て い な い。 文 法教 育 の必 要性 は次 第 に認 識 され て きて い る もの の 、 どの よ う に文 法 教 育 を組 み 込 むか が 大 きな 課 題 と して残 さ れ て い る。Long(1996) が 指 摘 す る よ う に、 「適 切 な文 法 教 育 」 と してfocus on formsつ ま り 「文 法 一訳 読 式 の文 法 授 業 」 を こ こで は指 して い ない の は明 らか で あ る 。 も う一・度確 認 して お きた い 。 イ ンプ ッ トだ け で は 言 語 習 得 に は不 十 分 で あ る こ とは、 ほ ぼ一 致 した 見解 に な りつ つ あ る 。 そ こで 相 互 交 流 を取 り入 れ た イ ン タラ ク シ ョ ン仮 説 、 ア ウ トプ ッ ト仮 説 な どが提 案 され て きた。 ま た 、 文 法 教 育 もイ ンプ ッ トだ け で 学 習 者 に 内在 化 す る こ とを期 待 す る よ り も文 法 形 式 に意 識 を活 性 化 す るほ うが効 果 的 で あ る こ と も指摘 され て きて い る。 つ ま り、 学 習 環 境 に お い て は指 導 者 の 音 声 刺 激 を学 習者 が 「聞 きっ ぱ な し」 的 に吸 収 す る形 で は な く、 コ ミュニ カ テ ィブ な要 素 を組 み入 れ 、 さ らに学 習 者 に文 法 形 式 に も注 意 を向 け させ る こ とが 有 用 とす る方 向性 が 生 まれ て きて い る とい う こ とで あ る。 しか し、 この 「文 法 形 式 に意識 を向 け る」とい う点 で は慎 重 な態 度 が 要 求 され る。 日本 語 で 文 法用 語 を多 用 し、 ル ー ル の提 示 とそ の 習熟 とい う従 来 形 式 へ の復 帰 を意 味 して い るわ け で は 決 して な い。 特 に 、早 期 英 語教 育 で は 日本 語 を介 して の 文 法 指 導 は一 切 行 わ ない 。 しか しそ れ で も2章 の 実 践 例 で 紹 介 した よ う に、 児 童 は文 法 形 式 を意 味 と結 びつ け て学 習 して い く。 指 導 プ ラ ンで学 習者 に言 語 形 式 へ の注 意 を誘 導 す る シ ナ リオ は充 分 盛 り込 まれ て い る場 合 で も、 そ れ を文 法 授 業 とい う形 で提 示 す る の で は な く、 学 習 者 の 言 語 形 式 へ の注 意 を高 め る と同 時 に 、 そ の 意 味 や使 用 条 件 を学 習 者 自 らに推 論 させ 、 言 語 形 式 と意 味 との 自然 な複 合 を 図 る こ とが 必 要 に思 わ れ る。Longの い う 「意 味 に つ い て の 交 渉 」、Swainの 「文 法形 式へ の 意 識 活性 化 と仮 説 設定 とそ の 検 証 」 も コ ミ ュ ニ カ テ ィブ な環 境 で 相 手 の発 話 を理 解 し、 自分 の 意 思 を伝 え た い とい う 会 話 欲 求 に支 え られ た心 理 的 適 応 機 制 で あ る こ と に注 意 が 必 要 であ る。 つ ま り、 文 法 項 目を如 何 に適 切 に配 置 す るか よ りも、 そ れ に必 要性 を感 じ、 言語 形 式 と意 味 を対 応 させ る こ とに注 意 を喚 起 す る学 習 環 境 の 設 計 が 重 要 とな る と思 わ れ る。
最 近 の 著 作 でSwain(2000)は 、「ア ウ トプ ッ ト」 と い う用 語 はSLAを 「容 器 」 「コ ン ピ ュ ー タ ー 」 「情 報 処 理 装 置 」 に な ぞ ら え て 見 て い る た め 、 談 話 の 持 つ 社 会 的 交 流 とい う性 質 を 見 逃 し て い る と指 摘 した 。 そ こ か ら 「協 同 的 対 話 」(collaborative dialogue)と 呼 ぶ こ と を 提 案 し て い る 。 こ れ は 次 節 で 述 べ る 社 会 文 化 理 論 か らの 主 張 で あ る 。 我 々 は 次 に 「適 切 な 文 法 教 育 を 含 む 第2言 語 習 得 環 境 の あ り方 」 に 対 す る 一 つ の 提 案 と して こ の 社 会 文 化 理 論 を見 る こ と に す る 。 3.3. 社 会 文 化 理 論 の 概 要 こ の 説 で は 簡 単 に 社 会 文 化 理 論 を解 説 す る 。 ま ず 歴 史 的 背 景 か ら始 め よ う 。 社 会 文 化 理 論 は ロ シ ァ の 思 想 家 、 心 理 学 者 で あ るLev Vygotskyに よ っ て 提 唱 さ れ た も の で あ る。 彼 は1896年 に 生 ま れ1934年 に 亡 くな る ま で の 問 に 重 要 な 著 作 を残 して い る 。 彼 の 死 後 、 そ の 著 作 は ロ シ ア本 国 で20年 以 上 も発 行 を 禁 止 さ れ て き た 。 そ う い う事 情 も あ り、 彼 の 思 想 が 世 界 に 広 が る の に 時 間 が か か っ て い る。 彼 の 主 著Thought and Languageが ア メ リ カ で 出 版 さ れ た の は1962年 に な っ て か ら で あ っ た 。 こ の 発 刊 を 機 に 、 彼 の 人 間 の 高 度 精 神 機 能 に 関 す る 理 論 は ま ず 心 理 学 者 の 間 で 注 目 を 浴 び る よ う に な り、1990年 に な っ てSLA関 係 の研 究 者 に も影 響 を与 え る よ う に な っ た 。 こ の 分 野 で はLantolf, Swain, Donato, Ohtaな どが 続 々 と著 作 を 著 し、 「新 ヴ ィ ゴ ツ キ 派 」 を 形 成 しつ つ あ る 。 3.3.1基 本 的 な 概 念 構 成 こ こ で はVygotskyの 広 大 な 理 論 の 全 容 を 示 す こ と は で き な い の で ・SLA に 関 す る 部 分 、 特 に 文 法 教 育 へ の 適 用 に 関 わ る 理 論 範 囲 に 限 定 し て 解 説 す る(Vygotsky理 論 全 般 に つ い て の 詳 細 は 多 く の 概 説 書 が 出 さ れ て い る の で そ れ を 参 考 に し て い た だ き た い)。 彼 の 理 論 は 次 の よ う に 要 約 さ れ る
(Johnson 2004:105-119, Lantolf 2000:2--18, Mitchell and Myles 2004:194‐ 199)o
(12)社 会文化理論 のd本 概念
(i)知 的 プ ロ セ ス の 発 達 論 的 視 点(developmental analysis of mental processes)
人 間の知 的能力 の発達 を弁証法的 史観、発達論 的史観か ら解説す る。
(ii)媒 介 的 精 神(mediated mind)
人 間 は世 界 と直 接 関 わ って い る わ け で は な い。 道 具 や 活動 を通 じて 世界 と関 わ っ て い る。 精 神 も象 徴 的 道 具 、 つ ま り記 号 を使 って 、 他 者 や 自分 自身 と関 わ っ て い る の で あ る。 こ の点 で 精 神 も道 具 に よ って 媒 介 され て い る。 この 象 徴 的 道具 に は、 数 字 、 音 楽 、 芸 術 な ど も含 まれ' る が 中心 に な るの は言 語 で あ る。 言 語 は思 考 の 道 具 で あ り、 精 神 活 動 の媒 介 で あ る。 また 学 習 も媒 介 プ ロセ ス で あ って 、 他 者 か らの、 媒 介 的 道 具 を使 っ て の知 識 の 習 得 であ る。 これ は媒 介 プ ロ セ ス で あ る以 上 社 会 的性 質 を常 に持 つ 。
(iii)知 的 能 力 の 社 会 由 来 性(social origin of human mental processes)
人 間 の 知 的 能 力 は 媒 介 プ ロ セ ス を経 て い る の で 社 会 的 、 文 化 的 で あ
る。 まず 個 人 か らみ て 他 人 と の 関 わ りで 知 的 知 識 が 伝 達 さ れ 、 そ れ が
次 第 に 自分 の 内 側 に 取 り込 ま れ 内 的 能 力 化 し て い く。
(iv) 知 的 能 力 発 達 に お け る 言 語 の 媒 介(mediated role of language in the development of mental functions)
言 語 は 単 に コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 媒 介 を す る だ け で は な い 。 人 間 の 知 的 能 力 を 組 織 し 、 構 成 す る 手 段 と も な る 。 言 語 の こ の も う 一 つ の 機 能 は 、 対 人 関 係 的 段 階(interpersonal plane)と 内 的 段 階(intrapersonal
plane)と の 媒 介 を す る の で あ る 。 自 己 が 自 己 に む け る 内 的 言
語(pri-vate speech, egocentric speech)は 、 対 人 関 係 に 使 用 さ れ る 言 語(inter-personal speech)が 自 分 の 中 に い る 自 分 に 向 け ら れ た 言 語(intrapersonal
speech)へ と 向 か う 始 ま り を 示 す 。 こ の 自 分 に 向 け ら れ た 内 的 発 話 は
知 識 を 確 認 し 整 理 す る 。 や が て こ の 過 程 を 修 了 す る と 、 知 識 は 内 的 言
語(inner speech)と し て 精 神 の 中 に 整 理 し 蓄 積 す る の で あ る 。
(v)活 動 理 論(activity theory)
と行 為(action)、 行 為 の 遂 行 さ れ る 条 件(operation)で あ る 。 活 動 と は 単 に何 か を す る こ と で は な く、 生 物 的 、 文 化 的 必 要 性 に 動 機 つ け ら れ た 行 為(action)を 、 あ る 条 件 の も と で 遂 行 す る こ と で あ る 。 も ち ろ ん 学 習 も活 動 で あ り、 教 室 で の 第2言 語 の 学 習 も行 為 と して は 同 じ よ う に 見 え て も、 各 個 人 の 動 機 付 け が 異 な れ ば 、 各 個 人 は 異 な る 活 動 (activity)に 参 加 し て い る こ と に な る 。 第2言 語 の 学 習 に お い て も 個 人 の 動 機 付 け 、 文 化 環 境 等 を 考 慮 す る べ き こ とが 示 唆 さ れ る 。 大 急 ぎで理 論 を概 観 した とこ ろ で、 第2言 語 習 得 との 関 わ りを よ り詳 細 に見 て い くこ とに しよ う。 3.3.2足 場 作 り(scaffolding) 新 ヴ ィ ゴ ツ キ 派 のSLA研 究 者 た ち は 「言 語 と は 思 考 の 道 具 で あ り、 知 的 精 神 活 動 に お け る 媒 介 手 段 で あ る」 と考 え て い る 。 こ の 観 点 か ら、 学 習 そ の もの も媒 介 的 な 過 程 で あ り、 社 会 的 に 媒 介 さ れ る も の で あ る とす る 。 学 習 は 問 題 解 決 や 議 論 な ど の 共 同 作 業 、 交 流 に 依 存 し、 未 熟 な 学 習 者 が 新 し い 知 識 や 技 能 を 習 得 す る 際 に は 、 熟 練 者(例 え ば 教 師)の 手 助 け に よ り、 そ の タス ク を 遂 行 して い く。 成 功 す る 学 習 方 策 に は、 共 同 的 な 人 的 関 係 を 含 む 初 期 段 階(対 人 関 係 的 段 階:interpersonal plane)の 活 動 か ら、 そ れ を 自分 の 精 神 の 内 側 に取 り組 み 自立 す る 段 階(内 的 段 階:intrapersonal plane) の 活 動 ま で カバ ー し な くて は な ら な い 。 こ の 学 習 プ ロ セ ス に 、 支 援 的 ダ イ ア ロ ー グ や 指 導 が 欠 か せ な い 。 こ れ は 他 者 か ら の 発 話 的 教 示(extemal speech)で あ る 。 こ れ ら は 、 段 階 的 に 問 題 解 決 に い た る よ う に 学 習 者 の 注 意 を 適 切 に 向 け させ 、 ス テ ッ プ を 踏 み な が ら解 決 に 導 く も の で あ る。 そ し て 知 識 が 学 習 者 の 内 に組 み 込 ま れ る 過 程 で 自分 自 身 に 向 け ら れ た 発 話(pri-vate speech)が 現 れ る 。 最 後 に 知 識 が 学 習 者 の 精 神 に お い て 整 理 さ れ 内 的 言 語(inner speech)と し て 蓄 積 さ れ る 。 こ の 他 者 支 援 に よ る 学 習 進 捗 の 状 況 を 建 設 の 比 喩 を使 っ て 「足 場 作 り」 と い う の で あ る 。 以 上 の こ と を次 に 図 示 す る 。 55
(13)足 場 の 構 造 Process of learning
Intrapersonal plane:Inner speech (self-regulated)
Private speech Scaffolded help
Interpersonal plane:External speech (other regulated}
3.3.3近 接 発 達 領 域(zone of proximal development)
他 者 か らの 支 援 的 発 話 は 自 己 に 向 け られ た 発 話(private speech)の 発 現 を う なが し、 最 終 的 に精 神 に お い て概 念 の ネ ッ トワー ク を構 成 す る 内 的 言 語(inner speech)と して整 理 さ れ 、学 習 は終 了 し、 あ る概 念 あ る い は技 能 が 習得 され た こ とに な る。 この プ ロセ ス は対 人 関係 段 階 か ら内的段 階へ の上 昇 過程 と見 る こ とが で きる の で あ る。 自己 に向 け られ た発 話 は子 供 で は普 通 の現 象 で あ るが 、 時 た ま新 しい課 題 に 直面 した 成 人 に も観 察 され る とい う。 次 に あ げ るの はあ る作 業 に従 事 して い る成 人 のprivate speechの 例 で あ る。
(14)private speechの 例(Lantolf 2000:15) "What`?Next
, an orange one. Wait, No, I can't...Done:'
(何 だ?次 に 、 オ レ ン ジ の か 。 待 て よ 、 で き な い な...や っ た) お 気 づ きの よ う に、既 に指 摘 した早 期 英 語 教 育 の場 で観 察 され る児 童 の 学 習 中の つ ぶ や きは 自己 に 向 け られ た こ の よ うな 内 的発 話 な の で あ る。 さて 、 学 習 の プ ロセ ス を説 明 す る ため にVygotskyは 「近 接 発 達 領 域 」 と い う概 念 を開発 した。 そ れ は学 習 者 の現 在 の発 達 レベ ル と潜 在 的発 達 の レ ベ ル と距 離 と定 義 され る。 学 習 者 は 習熟 者 か らの ガ イ ダ ンス や共 同作 業 を 通 じ問 題 を解 決 す る こ とで 現 在 の レベ ル か ら よ り高 度 な段 階 へ と移 行 す る、 そ れ が学 習 で あ る とす る。 次 に 図示 す る。
学 習 が 成功 す れ ば学 習 者 は現 在 の レベ ル か ら潜 在 的 レベ ル に上 昇 し、 そ れ が繰 り返 され る こ とに な る。 学 習 者 が あ る概 念 や技 能 の 習 得 に成 功 す る た め に は他 者 か らの 足 場 作 りや 支 援 が 必 要 で あ る。Aljaafreh and Lantolf (1994)で は、 こ の 支 援(つ ま り教 え る 側 か らす る教 授 法)が 有 効 で あ る た め に は、そ の ガ イ ダ ンス は段 階 的 か つ 随意 的 で な けれ ば な らな い と言 う。 下 に要 約 す る。 (16)段 階 的 ・随 意 的 支 援 の 定 義
(i)段 階 的 支 援(graduated assistance)
支 援 が 段 階 的 で あ る と は そ れ が 学 習 者 が 必 要 と す る 最 小 程 度 で あ る
こ と を い う 。
(ii)随 意 的 支 援(contingent assistance)
支 援 が 随 意 的 で あ る と は そ れ が 学 習 者 か ら要 請 さ れ た 時 に の み 与 え
られ る こ と を い う。
さ ら にJohnson(2004)で は 以 上 の 議 論 を 踏 ま え 、 教 え る 側 か ら み て 適
切 な 指 導 方 策 と して 次 の 条 件 を挙 げ て い る 。
(17)適 切 な 指 導 方 策(Johnson 2004:138-141を 少 し 修 正 し た も の)
(i)教 授 者 の 介 入 は 最 も 間 接 的 な も の(implicit level)か ら 始 め な け れ
ば な ら な い 。
(ii)教 授 者 は 自分 自身 も対 話 の 参加 者 と して位 置 づ け 、 学 習 者 との 協 同 的 環境 を作 りタス ク を達 成 で きる よ うにす る。 以上 で 、認 知 系 諸 理 論 、SLA理 論 、社 会 文 化 理 論 の概 要 の紹 介 を終 わ る。 3章 で の議 論 か ら次 の よ うな こ とが言 え るだ ろ う。 (18)本 章 の 要 約 (a)認 知 言 語 、 心 理 学 的 な 「意 図読 み 取 り能 力 」、 「パ タ ー ン抽 出 能 力 」 を含 む 「心 の 理 論 」、 さ らに 「情 報 の 言 語 化 理 論 」 は 第2言 語 習 得 の場 で も有 用 な理 論 体 系 で あ りえ る。 しか し、 認 知系 理 論 で は新 し い言 語 形 式 と意 味 を結 びつ け る際 に働 く 「発 見 の プ ロセ ス」 が 説 明 され て い な い。 (b)情 報 処 理 系 のSLA理 論 の展 開 の 中 で 、相 互 交流 的 学 習 方 略 の必 要 性 が 認 識 され て きた。 そ の 巾 で 言語 形 式 に意 識 を 向 け させ る 「適切 な 文法 指 導 」 の必 要 性 も提 唱 され て い るが 、 それ は学 校 文 法 的 な もの で は ない 。 言 語 形 式 の学 習 は相 互 交 流 の 中 で コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン欲 求 に 支 え られ て習 得 が 進 む と考 え られ る。 しか し、 そ こで も形 式 と 意 味 との結 びつ きが どの よ うな プ ロセ ス で 行 わ れ る の か は不 明 な ま まで あ る。 (c)社 会 文 化 理 論 は イ ンタ ラ ク シ ョン理 論 や ア ウ トプ ッ ト理 論 の発 達 心 理 学 的 な発 展 形 態 と も理解 で きる。 そ こで は 「学 習」 そ の もの の捉 え方 や 、 「足 場 作 り」、 「近 接 発 達 領 域 」、 「段 階 的 ・随 意 的 支 援 」 な どの 有 用 な概 念 が提 案 され て い る。 結 局 、 認 知 言 語 学 、 心 理 学 で い う 「心 の理 論 」を肯 定 的 に受 け入 れ、SLA 理 論 の 主 張 す る相 互 交 流 的 学 習 方 略 を意 識 し、社 会 文 化 理 論 で の 「言 語 学 習 の社 会 的、 共 同 的 性格 」 を教 授 プ ラ ン に組 み入 れ る こ とで、 早 期 英 語 教 育 を含 む英 語 教 育 の 方 向性 が 見 え て くる よ う に思 え る。 しか し、 以 上 の議 論 で 決 定 的 に抜 け て い るの は言 語 学 習 に伴 う論 理 的要 素 、 つ ま り推 論 と言 語 学 習 の 関連 性 で あ る。 人 間 は新 規 の情 報 を取 り入 れ る 際 、既 存 情 報 との 対 照 を経 て、そ の 情 報 価 値 を判 断 す る。 しか し、そ の 情 報 の新 規 性 が 高 く、
既 存 の 知 識 の み で は そ の意 義 が理 解 され な い場 合 、ど うす る の で あ ろ うか 。 幼 児 が 母 語 を学 習 す る場 合 、 また 児 童 が 母 語 を介 さず 第2外 国 語 を学 習 す る場 合 、 学 習 項 目は ま った く新 規 な もの で 、 彼 らの既 存 知 識 で は手 に負 え ない は ず で あ る。 こ の説 明 困...な 問題 を生 成 文 法 派 のUG仮 説 を援 用 し、 生得 的 な言 語 能 力 の存 在 で乗 り切 るの で な い な らば、 本 章 で み た 多 くの 理 論 は、 「子 供 の 言 語 習 得 」 に 関す る希 望 的 観 察 、 印 象 、 意 見 以 上 の もの で は な い こ とに な る。 「発 見 の プ ロセ ス」 が い る の だ。
4.推
論 と言 語 学 習
推 論 に は 、 一一一般 に 、 演 繹 的 推 論(deductive inference)と 帰 納 的 推
論(in-ductive inference)が 認 め られ て い る。 哲 学 者 の パ ー ス は 、 さ ら に 、 仮 説 形 成 的 推 論(abductive inference)を 付 け加 え た 。 以 下 、 簡 単 に こ れ ら3種 の 推 論 に つ い て 説 明 す る(内 田 編(1986)『 パ ー ス 著 作 集2』)。 演 繹 の 特 性 は 「前 提 に 提 示 さ れ て い る 事 実 は 、 想 像 し得 る あ ら ゆ る 状 況 に お い て 、 そ の 結 論 の 真 理 を含 意 せ ず に は 真 と な る こ と は で き な い とい う こ と、 し た が っ て 、 そ れ は 必 然 性 の 様 相 に よ っ て 受 け 入 れ られ る と い う こ と」(2.778)に あ る 。 演 繹 は そ れ 自体 で は 事 実 の 真 理 の 決 定 に は か か わ ら ず 、実 在 の 世 界 に 対 す る情 報 は な に も提 供 しな い 。結 論 は前 提 か ら解 明 的 、 分 析 的 に 導 き出 さ れ る 。 演 繹 の 分 析 的 、 解 明 的 性 質 に 対 し て 、 帰 納 と仮 説 形 成 推 論 は 「拡 張 的 」 と呼 ば れ る。 こ の2つ の タ イ プ の 論 証 は 実 在 世 界 に 関 す る経 験 的 知 識 の 拡 張 的 機 能 を持 つ か らで あ る 。 帰 納 と は 、 「あ る こ とが 真 で あ る よ う な い くつ か の 事 例 か ら 一 般 化 を 行 い 、 そ し て そ れ ら の 事 例 が 属 して い る ク ラ ス 全 体 に つ い て も同 じ こ とが 真 で あ る と推 論 す る 場 合 」(2.624)を い う。 科 学 的 仮 説 は 帰 納 的 一 般 化 に よ っ て 機 械 的 に 導 き出 さ れ る の で は な い 。 帰 納 は観 察 さ れ た 事 実 を 検 証 す る 方 法 だ か らで あ る 。 以 上 の2つ の 推 論 を次 に ま とめ て お く。 59
(19) (a)演 繹 推 論 (Deductive Reasoning) A→B A B (b)帰 納 的 推 論(Inductive Reasoning) [A→B]1,[A→B)2, ・ ・ … [A→BJn,ゆA→B
(19a)は 「Aな らばB」 が 前 提 され て い る場 合 、 「A」が 存 在 す れ ば、 そ こか ら 「B」が 導 き出 さ れ る こ と を述 べ て い る。結 論 「B」 は 分析 的 、 解 明 的 に導 出 され る の み で 、新 事 実 や 経 験 を生 み 出す もの で は な い。(19b) の帰 納 的推 論 は、 「A」が 「B」 と同時 に経 験 され、 そ の よ うな経 験 が 蓄 積 され る と、そ の経 験 を一般 的 な こ と と して拡 張 す る プ ロセ ス を示 して い る。 これ に は理 論 上 、 すべ て の ケ ー ス を上 げ られ る もの と、 限 られ た不 完 全 な ケ ー ス を取 り扱 う場 合 が あ る。 後 者 の不 完 全 帰 納 文 の 一例 と して、 い わ ゆ る総 称 性 を もつ 文 が あ げ られ る。 た とえ ば、 あ る 「犬」 を見 た と き、 そ れ が 「忠 実 だ」 とい う経験 を し、 同様 の 経 験 が 蓄 積 され る と 「犬 は忠 実 だ」 とい う経 験 則 に な る よ うな場 合 で あ る。 第3の 推 論 で あ る仮 説 形 成 推 論 とは探 求 の 過 程 の最 初 の段 階 で起 こ る も の で あ る。 あ る意 外 な事 実 の観 察 か らそ の事 実 が なぜ 起 こ った の か を説 明 し得 る と思 わ れ る仮 説 の 提 案 を行 う こ とで あ る。 帰納 との違 い は、 帰 納 は そ の仮 説 が 正 しい 説 明 とな っ て い る か を事 実 に照 ら して実 験 的 に確 か め る 論 証 で あ る。 仮 説 形 成 推 論 の 形 式 は、(i)意 外 な事 実 レが あ る、(ii)α な らばΨで あ る、(iii)ゆ え に 、αで あ る、 とい う よ うに後 件 か ら前 件 へ の 逆 行 推 論 で あ る。 こ こでAliseda(2006)に 従 っ て 仮 説 形 成 推 論 を定 式 化 す る。(4) (20)表 示 レベ ル θ,レ →a 推 論 プ ロセ ス (i) レ (a)ABDUCTIVE NOVE正TY:θ74レ (ii) θ,α → ψ (b)coNsIsTENcY:θ 労 ∼ 妙 (iii)a θ:既 存 の知識(知 覚状況)、 砺:観 察事実、α:推 論結 果
こ こで θは既 存 の知 識(知 覚 状 況)、 レは観 察 事 実 、 αは推 論 結 果 をそ れ ぞ れ示 す もの とす る。 仮 設 形 成 推 論 は、 θ とい う既 存 の知 識(こ れ には今 眼 前 で 経験 す る状 況 も含 まれ る)と 、新 奇 な観 察 事 実 レか ら、推 論 の結 果 αを導 出 す る とい う もの で 、 表 示 の レベ ル で は θ,ψ →aと 記 述 さ れ る。 しか し、 プ ロセ ス 自体 を よ く眺 め て み る と、 θ,a→ レ と示 され る よ う に、 θとい う環 境 で 、 αで あ れ ば レ とい え る、 だ か ら観 察 事 実 ψ を説 明す る た め に は、 αだ ろ う と推 論 して い る の で あ る。 仮 説 形 成 推 論 式 で は論 理 的 必 然 性 は な く、αを導 出 す る こ と は誤 りの 可 能性 が あ る。 した が っ て、 仮 説 形 成推 論 は 「弱 い 種 類 の論 証 」(2.625)で あ り、検 証 に帰 納 推 論 が 使 わ れ る。 仮 説 αが 誤 りで あ れ ば仮 説 βを提 案 す る。 この 繰 り返 しで 事 実 の発 見 が 実 行 され る。Aliseda(2006)に よれ ば 推 論 の 帰 結aに は事 実 や 規 則 が 含 まれ る (ibid.46)。 上記 の 定 式 はパ ース の仮 説 形 成 推 論 を コ ンパ ク トに しか も的確 に捉 えて い る。 あ る新 事 実 レは既 存 の 知 識 で は説 明 が で きず(ABDUCTIVE NOV-ELrY→(7a))、 しか し既 存 の 事 実 に 違 反 す る こ と は な い(CONSISTENCY →(7b))。 これ は 新 しい 言 語 情 報 に触 れ た学 習 者 の状 況 そ の もの で あ る。 た とえ ば、基 本 動 詞 の指 導 の 場 面 を思 い 出 して み よ う。 講 師 が 英 語 の発 話 に続 い て箱 か らマ グ ネ ッ トを と りだ す 。 児 童 は講 師の 何 か を示 そ う とす る 意 図 を明 瞭 に理 解 す る。 これ は 「意 図 読 み 取 り能 力 」 が備 わ って い るか ら で あ る。 しか しなが ら、 音 形[teik]を聞 い て もそ の 意 味 は そ の 時 点 で 不 明 で あ る(NOVELTY)。 しか し、 そ れ が 既 存 の 知 識 体 系 、 そ の 場 の 観 察 事 実 か ら逸脱 して い る理 由 は な い(CONSISTENCY)と 講 師 の 意 図 か ら推 察 す る。 そ こで 学 習 者 は共 同注 意枠 組 み 内 で 説 明 を さ ぐる。 そ して 「取 り出 す 」 とい う概 念 と[teik]を結 び つ け れ ば、 状 況 は一庫 云し・理 解 可 能 に な る こ とを発 見 す る。 そ の 結 果α→ レ形 式 で表 示 され る[Xを 取 り出 す]→[take +X]と い う語 規 則 を記 憶 す る。 こ れが 仮 説 形 成 的 推 論 に よ る言 語 表 現 理 解 の仕 組 み で あ る。 一 般 に語 、 文 型 、 抽 象 的構 造 をすべ て 「言 語 コ ンス トラ ク シ ョ ン」 と呼 ぶ な らば、 言 語 コ ンス トラ ク シ ョ ン はP→Qの 形 式 で 表 示 可 能 で あ る・ こ こで→ は、 質 量含 意 、 論 理 含 意 、 確 率 な どで は な く、 単 な る概 念 と音 表 示 の 恣 意 的 結合 を示 す 。 一 般 に仮 説 形成 推 論 プ ロ セ スで 発 見 され た規 則 は帰 一61一
納 的推 論 プ ロセ ス に まわ され 、 そ こで 多 数 の例 にお い て そ の 規 則 をあ て は め て み て、 そ れが 妥 当 で あ るか ど うか が検 証 され る。Takeの 例 で い え ば、 講 師 の 多 数 のtakeの 使 用 実 例 を 聞 く過 程 で 、 また 自分 で 講 師 の 英 語 指 示 に 合 わ せ動 作 を して み る過 程 で 、[Xを 取 り出 す]→rtake+X]と い う規 則 が 検 証 され 、 初 め て記 憶 に貯 蔵 され る と考 え られ る。 以 上 の こ とをモ デ ル化 し、 「言 語 習 得 エ ンジ ン」 と も言 うべ きサ イ クル と して 図示 してみ よ う。 これ は3章 で の 認 知 理 論 を前 提 と し、 仮 説 形 成 推 論 と帰 納 推 論 を組 み 込 ん だ もの で あ る。