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管理的経営決定の考察 -- 松下電器の事例研究 --

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(1)管理的経営決定の考察 —松下電器の事例研究_ ―N. W. チェンバレンの所論をふまえて _. 大 1). 企業資産の真の意義. 2). 管理的決定の特徴. 3). 能率基準の検討. 4). 企業行動の可測性. 1). 森. 弘. 企業資産の真の意義. これまで, 戦略的経営決定や, それとの関連において企業の経営理念, 規 範について考察しているが注I)' ここでそれと対比して考察さるぺき管理的 経営決定についてみようとおもう。 内容については, これまでのように, N.. w.. チェンバレンの所論を忠実にふまえながら,. しかも松下電器の事例を補. 完として参照しながら記述していきたい。 まず管理的経営決定そのものを考察するに先立って, 諸々の経営決定の前. 提となるべき 事柄について確認しておこう。 それは戦略的経営決定をはじ め,管理的経営決定は. なんのためになぜおこなわれるのかの設問にあた る部分ともいいえよう。 これについてまず, チェンバレンのいうところをき こう一企業はその資産の展開 (development) によってその諸目的を追求 注— 1). 拙稿「戦略的経営決定の考察」商経学叢第63号。 拙稿「経営理念—―ー目的と個性ー の考察」商経学叢62号。. -87. (675)-.

(2) する。しかしながら,企業活動の手段である資産は貸借対照表に記載されて いるものではない,あるいは主としてそれから成るものではない。現金· 有 価証券・受取勘定• 財産·. 工場・設備·特許・商標・暖簾,これらは企業が 操作しなければならない真の資産·{real assets)の抜粋あるいは一部分の表 示にすぎない— という。 貸借対照表は, 真の資産の価値の大雑把な一 つの尺度であり,利益率を出 すため,利潤をそれに結びつけることができる貨幣的尺度を提供するのが精 一杯である,ともいう。そして貨幣的尺度と真の資産はまったく別個のもの であり,真の資産は,製品ラインや生産組織.マ ー ケティング組織,財務組 織などから構成されるというのである。たしかに,企業が社会的に評価され る値打ち,あるいは付加価値は,貸価対照表的価値プラスaのものといえ, 貸借対照表上の財務的なものが資金を中心にした企業にとってハ ー ドウェア とするなら,人材によって創造されえたソフトウェアの部分ともいえ,両者 の総計こそが企業の資産の全部といえるであるう。そのうち企業のソフトウ ェア的な付加価値部分をもふくめて真の資産とよぶのである。 こうした企業の真の資産の事例について,松下電器の場合をとって理解し てみよう。松下電器の製品ラインについては周知のょうに,家庭電化製品を 中核として,いわゆる水平的多角化を展開している。それらの製品群を大き く分けると,洗濯機,·炊飯器などの電化機器と.ラジオ,テレビなどの無線 機器,それに発電機.変圧器などの産業機器に三大別される。そのそれぞれ の製品群がもつ製品種類および機種など数え上げると膨大なものになる。さ らに,たとえばテレビだけをとってみても,プラウン管をはじめとした各種 の部品も,傍系の松下電子工業や松下部品工業で独立の企業として集団化さ れている。いわゆる垂直的多角化の一翼といえよう。そのほか家庭電化の関 連から厨房機器や配線器具,さらに建材や家具,家屋にまで製品の市場領域 を拡充している。これも企業集団として,松下住設機器や松下電工などが設 立されており,生活産業としての水平的多角化の拡大といえよう。このほか. -88. (676)-.

(3) 生活用具としての自転車や, 生活文化に関連するのか, レコ ー ドなどまで市 場領域を拡張している。 ここまでくると, 水平的というより, むしろいわば 集成的多角化の展開といえようか。 また製品はただ物的な範疇だけでなく, 製品の月賦, 分割支払などのクレ ジット. ・. サ ー ビスも組織化し, メ. ー. カ ー としての製品の生産にとどまらず,. 第三次産業的なサ ー ビスを生産する組織を内蔵しつつあるといえる。 ただ製 品ラインの拡大化, 多様化というだけでなく, 第二次産業的な枠組をふまえ ながらも, それをこえる第三次産業的な領域を包摂する内容となっている。 さらに「ナショナル」のプランドがもつ, 製品を中核にしながら企業がえ ている, プラスaも製品ラインによる真の資産の部分といえよう。 チェンバ レンのいう,「特許, 商標, 版権, 独特の包装やスタイ)レ, 企業の提供品に ついての 世間の 知識や態度一これらもまた 製品ラインの あらゆる面であ —. る。」注. 2) まさに「ナショナル」がもつイメ ー. ジ, それは製品のデザインや商. 標をはじめとしたNマ ー クなどによる意匠スタイル等々で, 同じラジオやテ レビといい, 洗濯機, 冷蔵庫といいながら, 他社の製品と一 味相異した人々 の受取り方, すなわち「世間の知識や態度」である。 これも, ただ貸借対照 表上に商標や版権, あるいは特許として, 名目的金額で記載されている資産 以外, また以上の, 企業の真の資産の主要なものの一つといえよう。 このことは, 生産組織についても同様のことがいえる。 たしかに貸借対照 表上に記載されている生産設備は, 有形資産としての土地, 建物, 設備など だけである。 だが「これらはせいぜい経営管理層が最大限に利用する責任を —. 負う, 生きた組織の骨組にすぎない」注. 3). ものである。 チェンパレンは, 仕. 事の組織化そのものをはじめとして, 人材供給の問題から, 職務訓練やコミ ュニケ ー ション. ・. システムの問題についてまでも, 組織がもつ資産の真価の. 注— 2) N. W. チェンバレン著, 大森他訳,「企業と環境」(昭和49年, ダイヤモンド 社刊) 18頁参照。. 注—3) N. W. チェンバレン, 前掲訳書,19頁。. -89 , :(677)-.

(4) 対象になるという。 たしかに松下電器におけるアセンプリ・ラインの形態だ けでなく運営という組織化のノウハウそのものも,プラント・エンジニアリ ングとして海外進出の評価の対象になりえている。人材供給や職務訓練にし ても,全国的に大学卒業者の定期採用をはじめ;優秀な人材をリクル ー トし えるというのも資産として評価されるべきものであろうし,そうした人材を より有効に管理者,経営者ないし専門者に育成するという教育訓練のシステ ムや環境風土も,真の企業の資産と認めうるべきものであろう。松下電器に 独自な,経営理念や方針も,そういった意味での資産価値の原点をなしえて いるといえ, それに派生する朝礼,夕会の行事や,製造技術研修所をはじめ とした諸種の教育訓練の制度も,その施設としての価値以上に,付加価値を もっているといえる。松下イズムの定着した社風というか,組織風土そのも のが,企業体質としての資産価値をもっているといえよう。 また生産領域に関連さしていえば,生産管理にかんする諸々のシステムや ノウハウ,たとえば生産計画をはじめとした工程計画, 日程計画,それに作 業割当や進度管理の価値も見出されなければならない。さらには作業規則や 作業手順,作業標準などもその範囲にふくめられるべきであるし,チェンバ レンによれば「集団のモラ ー ル」や「速度感覚」までが,原価や品質,生産 性に関連するものとして評価さるべきとしている。 そうなると,賃金制度を はじめ就業規則なども対象となり,労使関係も重要な資産価値を構成すると いえる。したがってさらに,「生産組織の要件のカタログは拡大することが できよう」と,`チェンバレンはいうが,大切fょことは,生産上の資産という のは,たんに帳簿上の工場や機械を管理さるべき主要な資産であるとするの でなく,それは真の資産である生産組織の一成分にすぎないということであ る。そうかといって,チェンパレンが「神秘的主張」という�人々がわれ われの真の 資産である一ー この表現に とらわれては 真相を見誤ることにな る。 チェンバレンの所論を確認しておきたい。「生産組織は人々そのもので. -90. ,(678)-.

(5) — はなく, 機能的に統合された人と技術である」 注 3)とd したがって; 「その価. 値の尺度は, 人数あるいは給料総額から見たその規模ではなく, 財やサ ー ビ スから見たその生産能力である。これは企業が投資し, もしそうしたいと思 えば, 多数のばらばらの設備や工場よりはむしろ, 機能している一つのシス — テムとして売却できるものであるo」注 ,). このことは, マ ー ケティ ング組織についても, いいえることである。「販 ー ' 売経路のネットワ ー ク」 がそれであり,「生産組織とマ ケティ ング組織と. の連結環」である在庫管理システムもそうであろう。 これは松下電器の事例 において際立っていえることであり, 全国に網羅しているナショナル店会と といわれる ネットワ ー クによって, 今日の 家電王国は支えられているとも いえ, この資産価値は評価しきれぬほどのものといえよう。また全国を商圏 の地域プロックに細分し, 直系の販売会社によるテリトリー・システムの構 築は, ただ在庫管理のパイプとしての機能以上に, 販売促進をはじめ地域市 場密着の営業戦略に, 在来の問屋制度以上の価値を付加しており, 生産・販 売の拠点である松下電器の各事業部と連結して流通'.blの元會太資産どなってい るといえる。このほか, 松下電器の本社機構に組み込まれている, 営業のス クッフ的な統合機能をはたす営業本部や, 宣伝事業部の, まさ iこ「機能的に 統合された人と技術」の価値は, 真の資産の大きな部分となっているといえ よう。 これは財務組織についてもいいえることである。財務的な関係のネットワ ークは. 債権. 債務にかんする個人, 法人の投資機関から, 株主 関係だけで なく材料供給業者などの信用上の関係のネットワ ー クまでふくまれる。これ は.チェ ンバレ ンがいう,「資産管理の重要な問題は.. 過去の関係から生じ. た負債の構造ではなく, 現在および将来の資金調達のよりどころである持続 的関係の性質である。」 ''. 注ー3) N. W. チェンバレン, 前掲訳書, 20頁 注ー4) N. W. チェンバレン, 前掲訳書,20頁。. 一. -9}: • .(679)'.

(6) そういう意味では, 松下電器の今日が, 自己資本比率が高いとか, 無借金 体制で自己金融機能が強いということもたしかに財務組織における資産価 値ではあるが, むしろ過去の結果としてよりも,’現在および将来の成果とし て期待される持続的関係が多々見出される。 企業的な財務関係のネット ワ ー クについてみるに, 事業部制の運営の基軸の 一つとされる独立採算制にかん して, いわゆる内部資本金制を設定して財務組織を統括するシステムにして いることや, 早くから従業員持株制をとり, 従業員の福祉やロイヤリティを はじめとした安定株主化をすすめ, 外注協力工場にも早々に完全月末現金支 払制をとりいれるなども, 身近なその一例であろう。 このように企業がもつ資産は, ただ貸借対照表上の資産の意味にかぎられ ず, 真の資産として, より広義に理解されなければならない。 こうした意味 での資産を展開して, 企業がもつ目的を追求する, そこに経営決定の意味が 見出されるのである。. 2). 管運的決定の特徴. 経営決定は. 企業がもつ真の資産の展開にかんする機能であると, 理解す る。 だが企業における管理的な経営決定を, どのように位置づけ, いかに理 解するのか. この問題について考察していかなければならない。 ただこの問 題については; すでに別の機会注 5) に, 戦略的決定にかんして考察している ので. その関連をふまえながら理解をすすめていこう。 すでにみた戦略的決定も, 経営決定の一環として, 企業の真の資産の展開 に関連することは繰返すまでもないことである。 ただ戦略的決定が. チェン バレンのいうとおり,「企業活動の構想あるいは方向を変えることをめざす 主要な革新」である, いわば「企業資産の再展開」をいうのにたいして, 管 理的決定(administrative decisions)は,「現に存在するような企業の真の 注—5) 拙稿.「戦略的経営決定の考察」商経学叢63号。. -92· (680)噌.

(7) —. 資産に基づく, 進行中の日常活動から成る」 注 すなわち, 現存する製品ラインや, 生産. ・. 6) ものである。. マ ー ケティング•財務などの組. 織をふまえて,「限界的な調整」 がおこなわれている, この日常的な業務活 動をいうのである。もっともこのことは,チェンバレンもいうように, 「資 産構造が絶対的に固定して いるとか, 所得の流れが安定して いるという意味 ではまったくない」のである。いわば相対的な固定性であり, 比較的な安定 性のなかでの限界的な活動性といえよう。 また,チェンバレンは 「管理的決定」 の多義性もいう。「ここで管理的決 定と呼ばれるものは, 他の場所では常規的(routine), 戦術的(tactical), 家政的(housekeeping)決定と称せられて いるものを含んでいる」と。家政 的決定とは, どんな意味なのか,チェンパレンの定義を, 戦術的, 常規的そ れぞれの決定について, そのまま引用して理解しておこう。 まず家政的決定 一一つまりそれらは空調, よりよい照明, 駐車設備, カフ ェテリア. ・. サ ー ビスの備えのように, モラ ー ル, 安全, 健康の維持を主に扱. う活動に関するものであり, 企業の業務活動の中心的というよりは補助的な 事柄である一ー という。 それにたいして 一ー 戦術的決定は企業の短期的な競争上の地位を保持する ために, その諸活動の不断の修正が必要であることを強調する。製品デザイ ン, 広告キャンペ ー ン, 販売努力, 職場の苦情のような成分のひんぱんな調 整を必要とする, 変化しつつある競争的環境が重視される一―ー という。 そして 一一 現在進行中の諸活動の限界的な調整であることを強調したいと 思うならば, 代わりに, われわれがここでそうするだろうように, おそらく それらを常規的決定と呼ぶであろう一ー と, チェンバレンはいう。 もっとも「常規的」という用語は, その決定の重要性を軽視した意味では なく, 戦略的決定との 特徴および機能を 区別するためであると注釈してい る。すなわち常規的決定は,「主要な革新, 危険負担, 方向変更活動がやり 注—6). N. W. チェンバレン, 前掲訳書23頁。. -93 (68t)'ー.

(8) 遂げられて 後にやってくる」ものであり, 戦略的決定と その活動が,[企業 の進行中の業務活動の能率的で不可欠の部分に変えられるよう注意し, でき るだけ長期間にわたってそのまま保持するという, 極めて重要な機能をもっ ている」注 7), と解説している。 たしかに「それらは革新, 実験, 即興的思い つきを, 標準的な業務手続き―― 日 常 0) 仕事一ーに変えることをめざす」と 理解しえよう。 ここで重要なことは, 経営決定における戦略的な範疇と 常規的な範疇の決 定の類型の相違であり''双方の境界の厳密な差異の問縣ではなく, ズ. ペ ンロ ー. (�dith Penrose) の「企業成長の理論」の基礎も, ここに見出 されると,. チェンバレンは指摘している。 そしてまた 戦略的決定と 常規的決定の区別 は, 決定レベルいかんの問題ではなく, むしろ時間の長短に直接的な関係を もつ問題といえようという。 これまでのチェンバレンの所論を忠実にふまえながら, 管理的決定の特徴 を, 戦略的決定との対比において理解してきたが, これを現実に実際の問題 に対応さして理解するとどうなるであろうか。 松下電器の事例にかんして理 解してみよう。 松下電器における経営決定の類型を, 戦略的決定と常規的ないし戦術的決 定に二区分して, その実際の事例をもとめる場を, 決定レベルの組織的な階 層でなく, 決定の時間的な長短を直接の尺度に設定してみよう。 経営決定の テ ー マは, すでに考察したように, 製品ラインをはじめ, 生産・ マ ー ケティ ングそして財務組織などの領域である。 松下電器において, 製品ラインはもとより, 生産・マ ー ケティング• 財務 などの長期経営計画は. だれが, どこで, どのように決定しているのであろ う。 今日の松下電器の長期経営計画は. メカニズムとして本社の首脳. なか んずく社長の最終決定によるものであることはいうまでもないことである。 だがその原型をさぐって みると, 松下的経営決定のシステムが実態として 浮 注—7). N. W. チェンバレン, 前掲訳書,24頁。. -94! (682)-.

(9) 彫りにされて ぐ る ようで あ る 。 長期 経営計画が,. 松下電器に 組織的に 取上げられたのは, 昭 和31年であ. り, 日本経済の再建が軌 道 に のり, 家電業界も電化 プ - ム を契機に成長の路 線にのり, 将来の展望を必要とす る ようにな っ た経営環境においてで あ る 。 昭 和31年 1 月 , 定例の経営方針発表会で, 当時, 社長の松下幸之助は, 本格 的な活動期にはい った とし て 「 松下電器五 カ 年計画」を発表したのである 。 この五 カ 年計画は. 30 年現在の年商 220億 円 の生産販売を, 毎年30% ずつ 増加, 昭 和 35 年, 年商 800億 円 , 従業員数は毎年1096 ずつ増加, 1 1 , 000 人を. 18 , 000 人に, 資本金は30億 円 か ら 100億 円 にす る 構想で あ る 。 当時, 長期経 営計画を企業が発表す る こ とは珍しいこ と であ る が, 松下幸之助は, 社会の 要望を数字に表現したものであ る と して, 企業の責任を 自 覚し, 計画の達成 を訴えて い る 。 また 五 カ 年計画の一 環 と して同時に, 技術, 生産, 販売, 人 事の各分野に つ い て も 方針と 目 標を計 画発表してい る 。 しかも, この五 カ 年 計画は,. 4 年間で達成し, 飛躍的な企業の成長をはたしてい る のであ る 。. も とより松下電器のそれ以前 に , 実質的な意味における 長期経営計画がな かったとい うわけではなく, い わんや戟略的決定がなかったとい うことでも ない。 企業として組織的に長期経営計画,. つ まり戦略的決定を公式化した時. 期に つ いていうのであ る。 あ る 意味では, 昭和 15年に開始され, そ れ以後毎 年恒例 に開催され る よ う になった 年頭の経営方針発表会も, その役割を分担 してきた と もい え る 。 た だ組織的に より公式化された 時点を 解明す る こと で, 鮮明に経営決定のシ ス テ ム が表現されえ る ようにおもう。 松下電器の, そ の 当 時の 戦略的決定と,. その結晶ともい え る 五 カ 年計画. は, すで1と 考察もしたこ と があ る ように注 8 ) ' 松下幸之助の決断を核にした ものであり, 組織的公式化ははか ら れても, かなり個人的なものであったと もい えよう。た だその内 容は殷略的 な経営決定 ( Decision Making) と い う より, す ぐ れて戦略的ではあ る が方針決定 (Policy-Making) とい えそうで 注— 8 ). 批稿 「戦略的経営決定の考察」 商経学叢63号。 -95 . ( 683 ,) -.

(10) ある。 したがって企業の真の資産を再展開するための, いわば革新の方 向や 指針を判然とする も のであ っ て も , かならずし も 革新の枠組や内容を明確に する も のではなかったとい え よ う 。 むしろそこに 松下電器の経営決定の シ ス テムの特徴が う かがえるのである。 経営組織は, いわゆる事業部制を支柱に して, 経営方針にしたがい, 経営理念をふ ま えて, 戦略的な革新の枠組や内 容は, 各事業部をはじめ本社の各部門 に おいて具体化され, 再度, 社長をは じめとする首脳 陣 に よって承認とい う 手続と形成 に よ って決定される シ ス テ ムである。 い う ならト ッ プ. ・. ダ ウ ンとポト ム. ・. ア ッ プの フ ィ. ード. ・ バック ・. メ カニズムに よ る シ ス テムとい う か, 日 本的な稟議とい う よ り 合意, ま さに コ ン セ ンサス. ・. マ ネ ジ メ ン ト , 松下幸之助 に いわすなら 「衆知に よ る経営」. とい う ことになろ う 。 たしか に , チェ ンバレ ン も い う よ う に , 戦略的決定と常規的ないし戦術的 決定の相違は 質的な 機能であ り , 経営組織の 階 層 的レベルの関係とい う よ り , 決定内容の時間的 ク ー ムの関係に , よ り 直接的であ り , 松下電器の事例 からすれば, 事業部制に おける各事業部は組織階 層としては本社首脳の下位 に あ り ながら, 戦略的決定の枠組や内容を具体化する役割を も ち , あわせて 常規的, 戦術的決定を も 遂行しているのが実態である。 経営組織の階層的 機 能として, 本社における最高経営層が戦略的決定を, よ り 下位部門としての 各事業部 門は常規的, 戦術的決定とい う 議論は, むしろ形式論であ り , 論理 的な整序癖 にそ ぐ わないが, 実践論は, 各事業部で, 戦略的決定 も 常規的, 戦術 的決定と も に 遂行するとい う ことである。 ま さ に 「企業成長の理論」 の 基礎は, この実際をいかに体系的 に理論化するかに あ り , 戦略的決定を常規 的, 戦術 的決定と重層 的 に あわせ委譲する経営決定の シ ス テム, あるいは分 権管理の メ カニズムの組織化こそが, 松下的事業部制の特徴といえ, ま た日 本的経営管理の 特徴の 一 つといえるのか も しれない。 松下的 に 表現するな ら, 「自立的経営体制」 であ り ・ 「自主責任経営制」 であるといえ よ う 。. -96. ( 684 ) -.

(11) 3). 能率基準 の検討. 企業の真の資産の再展開のための革新.これが戦略的決定の特性とするな ら,常規的,戦術的決定の特性はなにであろ う か。すでにチェンバレンの理 解にふれては いるが,また管理的決定と表現しなおして,その内 容を吟味し ているので理解しておこう。 「管理的諸決定は一一 進行中の企業活動において で きるだけ高度の 能率を 達成するという一ー一 つの主要な 目 的をもっている。 」 注 9). ' .. く. たしかに常規的, 戦術的ともいえる 管理的決定は, 能率 基準によ って い '. る。 実際に, 企業の現在の 業務活動は,「その行動に関する一般 的処方箋あ るいは規則」 にしたがって お り , それは「規範的」なものであれ,「記述的」 なものであれ, 「かかわ り 合いをもつ すべての人々の 行動様式を規定する」 一そのような管理的決定に し たがったものであるといえる。 これは一ー企 業の最大化行動の標準的な諸理論に見出される限界分析が,企業の短期的行 動様式の合理的な近似値となるのは間近である一�と, チ ェ ンバレ ン が J.. s.. ア ーリー (James S. Earley) とともに強調する ところで ある。 これを冗長 で はあるが解説すれば,現在の企業行動. ないし短期の企業行動を最大化す るのは. 限界分析によって合理的な近似値がえられるというこ と で あり,ま さに能率の某準による決定,すなわち管理的決定 と い えよ う 。. `. ただここでいう能率は,チェンバレンもいう.つぎのような も のでなけれ ばならない。 「真の 資産の 利用にあたって求められる能率は,つねに,企業 の構成要素のどんな競合的 目 的とも別の. 一つの全体と考えられる企業―― システムとしての企業一ーに関するものでなければならない。」 注10) つま り 能 率の基準は,競合的な諸 目 的を,シス テムとしての企業の全体について調整 注 9 ) N. W. チェンバレン,前掲訳書,,26頁。 注—10). N. W. チェンバレン,前掲訳書, 26頁。 -97 • ( 685 )-.

(12) しえるものでなければならない と いう。 したが っ て 「能率の論理は, 企業を一つの機械の よ うな シ ス テ ム と して記 述 ( 規定) するために, 技術的, 数学的言語を使用するこ と を勧める」注1 1) と もいう。りそれは原価管理の技術にお い ても適用される と ころで あるが, 生 産管理 に おける時間 • 動作研究の利用などにも, 典型的な事例 と して見出さ れる と ころである。 •と く に最近の システムの能率にかんする技術的 ア プロ ー チ と して, リ ニ ア. ・. プログラミ ング, オペレ ー シ ョンズ. ・. リサ ー チ, ダ イ ナ. ミ ッ ク ・ ・ プログラミ ン グ, PERT(Program evaluation and review techni­ ques) , シ ミ ュ レ ー シ ョ ン, それにデ ー ク ヘの コ ン ビ ュ ー タの利用など, そ の事例で あ ろ う。 そうか と い っ て技術的, 数学的 ア プロ ー チによ っ て, 能率の標準が明確に 設定できるようにな っ たから と いえ, いろいろな経験則がま っ た く 役立たな い と いうわけではない。 チェンバレンも 事例をあげて説明する, 「価格決定 のためのマ ー ク ア ッ プ政策, 財務的構成のための比率分析, 研究資金配分の ための利瀾の何パ ー セント と いう基礎, 賃金設定のための職務評価手続きは すぺて. 先例 と 一貫性によ っ て承認される規則を通して, システムの諸目的 — を主張する と いう機能をもつ」注 12) と 。 これは年次業務予算の比率が. 実践. のなかでの経験, あるいは交渉による妥協で あ っ ても, やはり能率の一 手段 である と 強 調している。 こうした常規的. 戦術的な管理的決定の基礎 と なる能率の論理は, 生産の 領域にも適用される と して, チ ェ ンバレ.ンは A. アプル ッ チ (Adam Abruz­ zi) 教授の考察を引 用して 解説している。 それは基本的な 概念 と して, 「生 産物J と 「工程」 を確認し, 「生産物の特性が 工程の設計に影響し, 工程が 生産物に制限を課する」 と いう関係を 考察する。 「この相互関係は分析的な 面 と 総合的な面を併せも っ ている。 分析は生産計画 ―― 青写真一ーに導 く 。 注—11) N. W. チ ェ ン バ レ ン , 前掲訳書, . 27頁 注—12) N. W. チ ェ ン バ レ ン, 前掲訳書. 29--:-3()頁。 -98 .. . ( 686 } -.

(13) 総合は有機的関係, 換言すれば生産粗維を要求」注13) す る とい う 。 こ の 概念 的枠組を展開して, アプル ッ チ はつぎのよ う に結語す る 。 「すなわち その枠 組は一貫性, 有効性, 方向 に 関して現実の業務活動の 実践を評価す ろ ための 一貫した 参照の論理と じ て役 立つ の で あ る 」 と。 そして チェンバ レ ンは, こ の 展開をふまえて 一ー こ のよ う な「一貫した参照の論理」は ,、 企業の資源が 大な り 小 な り 特定の形に 凍結され る 期間におけ る 業務活動の決定や指示を定 式化す る のに不可欠であ る 。 そ れは能率的な 遂行と満足 な 利潤表示への推進 力を注入 す る ーーとい う 。 '. こ こ で チェンバレンは, • こ の 「能率の論理」 をさらに 展開して, 「能率ヘ の支持」とい う こ とを強調す る 。 す な わち, 「企業組織の性質を一定とすれ ば, 能率標準の設定は, それに従 う と 期待され る 人 々 の 側 にそれ自体を補強 す る動機を発 展 さ せ る 傾向があ る 」注14) とす る 。 こ れは企業組緞の ビラ ミ ッ ドを昇 りつづけて行く野心 の 人 々 が, 上位の権限によって設定されてい る 標 準を固守し, あ る いは超越しよ う と競争す る ためであ り , またその ほ か の 人 々は自 己の地位を危険にさらす こ とを恐れて, 能率の 規則を固守す る ためで も あ る とい う 。. こ の こ とほ 予算管理 な どに 典型的に 制度化されて い る こ と. を, チェンバレ ン も 指摘 し てい る 。 「 と くに 年次事業予算 Iご 要約され る よ う な能率の 諸標準の 一 つの重要な特徴は, それらが標準との 不一致 に 注意を払 って, 遂行を継続的 に 再検 討 す る こ とを可能 に す る こ とであ る 」 注15).とo も っと も こ う した こ とは, すぺての企業が, 非常に 能率的で あ る とか. ひ としく能率的であ る とかを保障す る わ け ではない こ とは当 然で あ る 。 チェ ‘ン バレン も , 「能率標準は企業全般 の , . その進行中 の 活動 に 関 す る 特徴で あ る が, こ の こ とはすべて の企業, : 競争相手の企業でさえ も が ひとしく·能率的で —. あ る こ とを要しない」注 注—13) 注ー14) 注—15) 注ー16). N. W. N. W. N. W. N. W.. 16). とい う 。 その理 由 に ついて一ー たとえば原価条件. チェ ンパレン, チェ ン バレ ‘ム チ ェ ンバレン, チェ ンバレン,. 前掲訳 書 30頁。 前掲訳書 33頁。 前掲訳 聾 34頁。 前掲訳 書,. :35頁ti. '. -9g:-'.i l ( 687)-. . •. •: . �.

(14) は相 当異なるが, その相違は技術, 労働力の質, 組織構造, 生産高, 貨率, 材料費の相違のような原因に帰するこ と ができる。 現在の活動が基礎を置く 真の資産には大きな相違がある。 企業はまた達成するこ と ができる能率の水 準について異なる期待をもって活動するかも し れない し , 内部交渉に関 し て 異なる哲学あるいは能力 をもつかも し れない一ー と いうのである。 「にもかかわらず, 企業の業績がもっ と 能率的な企業が実行 している線 と あまりに も かけ離れないように し むける強い圧力がある。 企業内部および企 業間の比較は一 つの推進力である。 グレシャ ムの法則を裏返 して, 優れた実 践は劣った実践を駆遂する傾 向がある。」注17) こう, チ `ェ ンバレンは, 能率に ついて強調するのである。 た し かに能率の問題は, 理論 と か議論 と し てよりは, む し ろ実践や現実に より直結 し て理解 し やすい領域である。 松下電器の事例にかん し て, 現実の 実践の 問題 と し て 理解を 確保 し てみたい。 すでにみたように, 戦略的決定 は, 組織レベルによって規定されるものではないが, 機能的にみてす ぐれて 本社レベルに集約化され, 事業部レベルでは" 戦略的決定も機能的に委譲さ れながらも, やはり中核的な機能は, より常規的, 戦術的, そ し て管理的決 定である と いいえる。 したがって松下電器における管理的決定の中枢は, 各 事業部である。 すなわち能率の基盤は各事業部に存在するわけである。 もっ と も企業 と し ての全体のシステム と し て, 能率の基準. と いうより基本 と い うものは, 松下電器と し て全体的な一貫性がもたされている。 まさに 「一貫 した参照の論理」 であり, 「概念的枠組」 である。 それは基本的な職能方針 なり指針 と よんでいる成文化, 冊子化されたものであり, 生産, 販売をはじ め, 技術, 賤買, 経理. 人事など職能活動全般にわたってのガ イ ドライ ンで あり, 技術的, 数学的 ア プロ ー チ と いうより, 精神的, 経験的ア プロ ー チ と いえ, た しかに 「 一貫性, 有効性, 方 向に関 して現実の業務活動の実践を評 価するため」のものである。 これらは各事業部での実践活動のなかから経験 注—17) N. W. チェンバ レン, 前掲訳書, a5頁。 ー100 { 688')-.

(15) 的に累積 さ れたものや, 経営首脳の創業以来の精神的な思索から抽 出 さ れた ものを. と く に 本社の 各職能部門スタ ッ フ , た と えば 営業本部をは じ め技. 術, 資材, 経理. 人事な どの各部門で集 大成 さ れ, 随時, 改善, 補遣 さ れ, 今日に いたっているものである。 これらはまた, 各事業部での日常的な業務 活動の指針, 「一般的処方箋あるいは規則」 と して活用 さ れ, 松下的 な行動 様式を規定する機能をはたし, ま さ に「企業の短期的行動様式の合理的な近 似値」 と なる成果をあげている と いえよう。 しかし能率の基準が, これだけに と どまるものでないこ と は, 松下電器に おいても現実である。 精神的, 経験的ア プロ ー チ , いずれか と いえばより規 範的な 基準でなく, 技術的, 数学的 ア プロ ー チ と いえ. より記述的 な 基準 で. 機械的システム と もいえる 内 容のものがある。 現場と いわれる各事業部 の生産工場における生産管理上の諸々の基準な どその好例である。 いわゆる 「生産物」 と しての各製品 に 必要 と さ れる製造時間を, 動作 時間 研究したエ 数基準, それをふまえての「生産組織」 と しての工程設計. そして工程計画 と 日程計画. さ ら に 原価標準の設定 と 原価管理の実施な ど, 企業の日常活動 のなかに 能率の基準が機械的システム と して組み込まれて, 管理的決定の連 続 と しての企業行動が実践 さ れている。 このこ と は製造活動に 直結した購買 活動をは じ め, 販売活動や 研究開発. 経理, 人事な どの諸活動にも, 技術 的, 数学的 と いわれるには程度の差異はあるが. より機械的システム と して 能率基準が組み込まれ, 管理的決定が一貫性をもつ と と もに 有効性があがる よう組織化 さ れている と いえよう。 また各事業部の諸々の職能的な業務活動を, 事業部 自体 と しても企業全体 と しても, ま さ に「一つの全体 と 考えられる企業」 と して, 能率的に組織化 するためには, 事業計画予算がある。 これについては 戦略的 決定 と の関連 で, すでに考察もした と ころであるが. ここに 必要なか ぎりにおいてみてお こう。 松下電器において. 戦略的決定は, 基本的な 経営理念 に も と ずいて, いうなら戦略的な方針の決定 と して, 経営首脳が決断する。 それはこれまで. -101 ( 689 ) -.

(16) 創業者であり最高経営者である松下 幸之助 によっておこなわれて き たことは いうま でもない。 ただこう した戦略的方針は. 各事業部 において製品市場戦 略をはじめ戦略的 決定によって具体化 さ れ, 事業計画となり, 経営首脳の最 終の決裁によって, より具体的 に 予 算 化 さ れる。 この事業計画予算は, シ ス テ ムと して統合化す る なかでの, た し か に 「能率の一 手段」 である。 ま た企 業組織と して, 松下電器の事業部制が, 「能率への支持」 を補強する動機と なっているのは, 「能率標準の設定」 を基軸 に した事業計画予算の存在それ 自体の 機能といえる。 企業組維の ビ ラ ミ ッ ド を昇る 野心の人々を中心に し て,「能率の規則」を死守 し,「能率の基準」 を超克 し ようとする努力と競争 のためであり, 松下電器における現実である。 と く に 事業部長の昇進をは じ めと した業績の評価 に は シ ビ アなものがあり, それはま さ に 事業部の成果の 「標準との不一致 に 注意を払 っ て」 のことであ り·1 た しか に 「企業の業績が も づ と能率的な企業が実行 している線とあ ま りにもか け離れないように しむ ける強い圧力」 に なっている。 すなわち 「企業内部および企業間の比較は一 つの推進力」 になっており, グレ ッ シ ャ ムの 逆法則と し て, 「優れた 実践は 劣った実践を駆遂する傾 向」 になるわけである。. 4). 企業行動 の可測性. 企業行動に かん して戦略的決定は, ・ 予測 可能性を本質的に 超えたものであ ることを, これま で理解 し 強 調も し て き たが, 常 規的, 戦術的といわれる管 理的決定は, 企業行動の予測 可能性 に 基ずいたものであるといえよう。 • この問題は基本的な事柄 で あるだけ に , チ ェ ンバレンの所説を忠実に, か つ詳細 に ふま えてみたい。 彼はそこで, 経済学的分析の 特性 に ま で言及 し て, 常規的決定を解説する。 すなわち— 常規的決定は現在, 過去と将来と の間の移動 し つつあ る 前線, に関するものであ り , 経済学が従来扱いがちで あ っ たのは, 条 件が比較的安定 したま ま であると仮定 さ れる期間 と い う意味. ー102; ( 690:) -.

(17) での現在である。 それが 動態モデルを通じて 変化を 考慮に入れる場合でさ ぇ, 導入される変化の結果は予測 可能なものとされ,したがって 将来は現在 の修正された外挿となり, 将来のどの状態もその前の状態に予測しうる よ う に結びつけられる。実際, 予測はしばしば経済学的分析の 目 標 と されてきた のであり, それがなければ 科学としての 資格が なかったであろ う 一ーとい. つ。 この問題を どのよ うに理解すればよ いのか,学問論として も大きなテ ー マ である。ただここでは,常規的決定の理解に関連 し て 必要なかぎりの検討を して み よ う。 まず常規的決定の問題が,経営学の領域において理解されなけ ればならないことであろう。 たしか に常規的決定は,経済的な問題ではある が, かな ら ずしも経済学的分析の対象として ではない。 そうい う 意味では経 営学的分析 の 対象としてで ある。 大別して い えば, 経済学的分析が よ りマ ク ロ的であると すれば, 経営学的分析は よ り ミ クロ 的であると 表現 も し え よ う。 経済学が経営学に先行して形成された学問であり, 隣接 し た領域の学問 であるだけに, 経営学の理論化に大きな影響を与えるのは当 然であ る 。外挿 法によ る予測も, その一 例であるが,i 学問の 方法論的な影 響は,' かなら ず し も学問の対象論的な差異までを克服するとはいえない。 そのこと は, チ ェ ン バレン 自 身 も, R. デ ュ ボス (Rene Dubas ) の見解を引用 し て, 経済学のよ うな社会科学と 自 然科学の 相違を,. 学 問の対象論的な 差異から解説して い. る。 すなわち, デ ュ ボ ス の, ー_ 自 然法則の発見をあのよ うに多 ぐ 生み出 し た ものは,生成 ( 不確実な将来) よ りむしろ存在 ( つまり現在) へ の 関 心で ある一ーというよ う に, 「法則の発見が こ の よ うに 現在の状態の重視を必要 とすることには,ほとんど問題がありえない。 規則性が識別され, あるいは 証 明されるためには,まずそれが存在しなければな らない。 しか じ , このよ うな規則性があて はまる期間は極めて 短いかもしれない」 注18) と。 チ ェンパレンは,地質学や物理学などの よ うな 自 然科学の領域では, 法則 注-18). N. W. チェンバレン,前掲訳書,37瓦.. -103' ( 691、 ) -.

(18) が通用する期間は長期で, 全体として 信頼できる予測も可能であるが, 経済 学をは じ めとした社会科学の分野では そうとはいえないといい,「重要な制 度的変化があれば, 「現在」 は他の 一時的な 現在の形成を助長して, 自 らは —. 歴 史, すなわ ち 「過去の状態」 となる」 注. 19) という。. やはり ここでも学問の. 歴 史からして伝統のある 自 然科学の方法論的な影響が, 対象論的な相違をこ え て , 社会科学である経済学の領域に波及したものといえ よ う。しかし経済 学をは じ め と した社会科学の 傾域では, 対象の特性が安定よ りむしろ変化に あり,「制度的変化」は間断なく 存在するのが常態であり, そういう意味で は過去をふまえての現在を中心にするという よ り, 将来にむけての現在, い や将来からみての現在を中心の課題とし, 関 心とするとい え よ う。 もっとも よ り ミ クロな意思経済である企業を内包するとはいえ, す ぐ れ て マクロな経済全体を対象とする経済学において は, 不十分とはいえまだ 自 然科学的な方法論の適用が,対象の安定性からして, 経営学の対象領域 よ り 有効な範囲は 広いといえる。 企業成長を た え ざる創造的破壊の 連続過程と み; 「制度的変化」 を意図する意思経済としての 企業の世界は, たとえ ミ ク ロの対象といえ, つねに「現在」 よ りも「将来」が問題とされ,「変化」 そ のものが課題になるのである。経営学の理論化は, この対象領域の特性から 問題を解決し, 課題を解明していかねばならない。 そういう理解からすれば, 経営学の理論化は, 企業行動の不可測性を中核 に構築さるべきであり, 経営決定の問題も将来への変化との関連で戦略的決 定を中心におくぺきであり, 管理的決定の課縣は経済学的援用としての外挿 法的予測可能性を ふまえ て 現在の 問題解決をはかる 補完的な役割といえ よ う。 こうした見解については, 経営理論として でなく経済理論としての理解に たって ではあるが,チェンバ レ ンも同 様である。すなわち , 「ある 期 間とし ての現在は, 区別されるぺき二つのまったく別個の用法をもっている。第一 注-19) N. W. チェ ンバレン, 前掲訳書, 37-.38頁。. -104 · 〈 69 2)-.

(19) に 理論的 一般 法則 化が適切 な 現在が あ る 。」注20) こ れ に か ん し て , チ ェ ン パ レ ン の い う と こ ろ を そ の ま ま 聞 こ う 一ー こ の 意味で, わ れ わ れ は あ る 程度 き っ ぱ り と , 経済理論は ほ と ん ど も っ ば ら 現在 を 扱 う と い う こ と がで き る 。 そ の 現在 と は , そ の 間企業の真の資産が実質 的 に 不変で あ る よ う な 時間 に よ っ て 定義 さ れ る , 漠然 と は し て い る が短い あ る 期 間で あ る 。 理論は われわれが過 去を理解 し た り 再構成 し た り す る の を助 け る か も し れな いが, そ れ は企業が そ の 資産を別の形態で な く ,. 一 つ の 形態 に す る. こ と を な ぜ選 ん だ の か を 教 え. は し ない 。 理論は将来の企業資産の形態 に 影響す る で あ ろ う い く つ か の 問題 を理解す る 助 け と な る か も し れ な い が, 企業が動 く で あ ろ う 方 向 に つ い て の ほ ん と う の手がか り を与 え は し な い。 そ の 理論が有意義 な答えを提供す る の. . . . . .. は , 現在の資産構造を 一 定 と し て, 現在企業が ど ん な行動をす る で あ ろ う か と い う 点についてで あ る 。 そ し て も う 一 面 の 現在の見方 に つ い て は こ う い う の で あ る 一ー企業 は つ ね に 現在 を も っ て い る が, 今 日 そ の 現在の ( 日 常 的 ) 業務活動の た め に 組み立 て る 理論が, 過去の い つ か に お け る そ の 現在の ( 日 常 的 ) 活 動 に も 同 じ よ う に あ て は ま っ た か , あ る い は 将来の あ る 時点に お け る 現在の ( 日 常的 ) 活動 に も あ て は ま る か は , 当 然の こ と だ と い う ふ う に考 え ら れ え な い の で あ り , 確証 さ れ な け れ ば な ら な い 問題 で あ る , と 。 し た が っ て 一一 われわれの研究の現段階で は , 企業の行動 を予測で き る 点 が 限 ら れて い る こ と を注意す る だ け が必要で あ る 。 われわれ は , 能率標準 の 適用 を通 じ て企業 の 目 的 を追求す る こ と を意 図 す る 管理 的 あ る い は 日 常 的 決 定 に 関 し て だ け , そ う す る こ と が で き る 。 こ の こ と は 生成の全過程の 企業の 資産が別の 形 に つ く り あ げ ら れ る だ ろ う 将来 に 注 目 す る 決定 を考慮 の 外 に 置 く 。 こ の 限界 に 注 意す る 目 的 は , 経済理論の意義 を汚 す こ と で は な い。 そ れ は 単 に , 予測 と い う 意味で理論が あ て は ま る 活動範 囲 を確認 し よ う と す る に す ぎ な い。. こ の よ う な 認識に よ っ て われわれ は 解 放 さ れて, も っ と 虹接 的. 注-20) N. W. チ ェ ンバ レ ン, 前掲訳書, 38頁。. -105 ( 693 ) -.

(20) に. その 内容を予測 す る こ と がで き ない変化志 向的な決定過程を, どのよう に理論的に扱うぺ き か と いう困難な問題に着手す る 一一 つま り 戦略的決定の 問題領域であ る 。 ここにこそ, 経営理論特有の対象があ り , 内容があ り , 方 法がなければならない と いえよう。 . このこ と を松下電器の 事例の領域で問題にしてみ る と . つぎのように概括 し えようか。 松下幸之助が企業を創業 して以来, 外部的な製品市場戦略 と 内 部的な経営組織戟略 の 二側面について, たえず革新の変化 と 安定の 対応があ つ た過程の 歴 史であ る こ と であ る 。 すなわち戦略的決定 と 管理的決定の相互 に補完的な展開の過程であ る 。 しか し 企業成長に と っ て中 心的な役割をはた し たのは, 戦略的決定 と しての製品市場戦略の必要条件 と 経営組織戦略 の十 分条件 の , まさに補完関係であ る 。 この 立役者が松下幸之助 自身の 役割であ り 資質であ っ た と いえよう。 そ の展開の過程の 詳細は. すでに検討 す る 機会. も注21) あ つ たので概括 し ておこう。. 松下幸之助は創業において配線器具 と し. ての ソ ケ ッ ド を原点にしながら も , 製品市場戦略 と して市場浸透. 市場開拓 および製品開発など拡大化戦略の 戟略的決定に と どまらず, いわゆ る 多角化 戦略 の 傾域に戟略的決定を展開 し , . 集 中的多角 化をふまえながら も , 垂直的 多角 化を も はか り ながら. ' 今 日 の 総合家電 メ. ー. カ ー と いわれ る 王国を, 水平. 的多角化の 成果 と し て構築 し き た っ てい る 。 こう し た 外部的な戦略的決定 は , つ ねに内 部的な経営組織の戦略的決定によ っ て裏打ちされて き てい る 。 いわゆ る 事業部制の採用がその好例であ る が, 事業部制その も の も , 企業成 長 の過程にお いて, 組織的な統合 と 分化の 新たな組合せ. すなわ ち 革新をは かって変化してい る 。• し か も 内 外にわた る 革新は, つ ねに戦略的決定だ けに と どまらず, いわゆ る管理的決定によ っ て, なかん ず く 事業部 レ ベルにお い て, まさに能率を も と めて改善, 改良が積み重ねられ補完されてき た過程の 歴史で も あ る 。 ” 注ー 21). 拙稿 「戦略的経営決定の考察」 商経学叢63号。. -106: :( '6 94 ) -.

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参照

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