姑との関係の質が既婚女性の精神的健康に及ぼす影
響
著者
有倉 巳幸
雑誌名
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編
巻
52
ページ
225-236
別言語のタイトル
The effects of quality of relationship with a
mother-in-law on women's mental health
225
姑との関係の質が既婚女性の精神的健康に及ぼす影響
有 倉 巳 幸
(2000年10月13日 受理)
The e統cts of quality of relationship with a mother-in-law on women- s mental health
YuKURA Miyu虹 精神的健康に及ぼす対人関係の影響については,心理学研究の主要テーマであったため,これま で膨大な数の研究が行われてきた。臨床心理学や社会心理学といった分野では,稿神的健康を維 持・増進する対人関係に着目し,そのメカニズムの解明を行ってきた。その中でも,ソーシャル・ サポートに着目した研究は,ストレスを受けている人々に他者からのサポートがどのように作用し, 箱神的健康を高めるのかについてさまざまな貢献をしてきた。これまでの研究の結果,ソーシャ ル・サポートは,ストレスを緩和する効果があること,ストレッサーの認知,ストレスの対処の二
段階で効果をもつことなどが明らかになった(cf., Cohen & Wills, 1985)。前者の知見は,スト
レスがない,あるいは低いとサポートの効果はみられないが,ストレスが高いとその効果が見られ るというものである。このストレス緩衝効果と呼ばれるサポートの効果は,経験的にも明らかであ るが,これまでの研究ではこの結果を支持するものとそうでないものとがみられる。支持しない研 究では,尺度の問題点が指摘されており,単に妥当性・信頼性がないという問題点から,サポート が機能的側面ではなく構造的側面を測定しているために結果を支持しないものまで多岐にわたって いる。構造的側面を測定している研究では,個人のもつ社会的なネットワーク,つまり,どれくら いサポートを与えてくれそうな人がいるかを測定しているため,ストレスの有無に関わらず直接, 精神的健康を増進する効果がみられるのだとCohenらは指摘している。 一方,後者の知見では, Lazums 皮 Folhan (1984)のストレスの認知モデルで指摘された知 見をふまえ,サポートが認知段階と対処段階で効果をもつと指摘している。具体的に説明すると, まず,ストレッサーにさらされた後,私たちはその影響を認知する。その際,同じストレッサーで ら,サポートの多い人と少ない人ではその知覚される程度が異なる。つまり,サボ「トの多い人は 少ない人に比べて,ストレッサーをストレッサーと知覚しないため,ストレスによって稿神的健康 を悪化させることが少ないということである。次に,対処段階での効果であるが,私たちはストレ スを知覚すると,それに対処しようと動機づけられる。サポートが多い人は少ない人に比べて,対 処のレパートリーが多いため,ストレスによって精神的健康を悪化させることが少ないのである。 このように,先行研究の多くは,ソーシャル・サポートが箱神的健康にポジティブな効果をもつ
226 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学績 第52巻(2001) だろうということで行われてきたのであるが,研究が進むうちに実は効果が認められないものや効 果に疑問符がつくものがあるという結論に至るものが多々見られるようになった。もっとも,それ らのいくつかは,上述したような研究の妥当性や信頼性の低さによるものであるが,そうでないと いうものも見られている。一つは,ストレッサ」とサポートのマッチングによるものである(C.g., 嶋, 1992;局, 1993)。たとえば お金に困っている人は,お金を提供されるというサポートがそ のストレスを低めるのであって,励ましや慰めというサポートはストレッサーの原因を解消するも のではないので,ストレスを緩衝する効果をもたない。もう一つは,サポートの効果をどの段階で 評価するのかという問題である(浦, 1997)。たとえば 子どもが問題を解決できずに困っている とき,親が手をさしのべてその間題が解決したとする。この場合,その時点では親のサポートが子 どものストレスを緩和していると言えよう。しかし,こうしたサポートを受けることによって,千 どもはストレッサーに直面した場合にいつも親のサポートなしでは問題を解決できないとなれば それは子どもの問題解決能力を高めるという点ではマイナスに作用すると言える。つまり,サポー トの効果を短期的にみるのか,長期的にみるのかによって,全く評価が異なると言えよう。 ところで上述したように,ソーシャル・サポートは対人関係の一側面とみることができ,それは 主としてポジティブなものと考えられよう。しかし,この対人関係は同時に,ソーシャル・サポー トを必要とするストレスを引き起こすものでもあると言える。ストレス研究においても,対人関係 はストレッサーの一つに分類されている(C.g.,嶋, 1992)。つまり,対人関係は,精神的健康に とって,肯定的な効果をもつものでもあり,否定的な効果をもつものでもある。近年の研究では, これらの効果をどのように吟味するかに焦点が当てられていると言えよう。 この点に関して,ソーシャル・サポートが対人関係の肯定的側面としてこれまで一貫して研究さ れてきたのに対して,否定的側面は,どこに焦点を当てていけばよいのかについて一貫した見方が 存在してこなかった。そこで,橋本(1998)は,対人関係の否定的側面を概観し,三種類を指摘し た。一つは,サポートの否定的影響であり,上述したようなストレッサーとマッチングしないサ ポートの影響や長期的に見た場合の悪影響があげられる。二つめは,対人関係の中で実際に生じた 否定的な出来事である。これは,相手との葛藤や不和,または,自分にとって大切な人が病気に なったり亡くなったりした場合があげられる。最後に,否定的な関係性の認知である。これは,葛 藤や不和が生じている訳ではないが,ストレスを引き起こすような付き合いのあり方を指す。言い 換えれば 気を遣う関係がこれに該当するであろう。私たちの周りにある関係では,学校や仕事上 の関係では上司と部下,教師と生徒,ナースと患者などが,家庭での関係では,親子や夫婦,嫁姑 があげられる。これらの関係は,サポートにみられる肯定的な側面がある一方で,気を遭うなどし てストレスが高まるといった否定的な側面も併せもっている。 なお,この両側面に着目した研究では,複数の対人関係をひとまとめにして評価するのか,それ とも,個々の対人関係に焦点を当てて評価するのかについて議論されてきた。 Pierceらは,対人 関係全体におけるサポートの評価と個別の対人関係におけるサポートの評価とは,互いに関連して
有倉:姑との関係の質が既婚女性の精神的健康に及ぼす影響 227
いるが,経験的には別の構成概念であると主張し,全体的な対人関係におけるサポートの評価を統 制してもなお,個別の友人や母親からのサポートの種皮が孤独感やサポート満足度を予測すること を明らかにした(Pierce, Sarason, I.G., 皮 Sarason, B.R.,1991; Pierce, Sarason, B.R., 皮 sarason, I.G.,1992)。この結果は,対人関係全体での評価がポジティブであっても,友人や親
などの個別の対人関係がうまく機能していないならIj:I-,その個別の関係によって孤独感が高まって しまうことを意味している。
加えて, Pierceらの研究(Pierce, et a1.,1991)では,個別の関係の肯定的側面と否定的側面の
両側面を測定するQRI (Quality of Relationships Inventory)を用いて,これら両側面を比較 検討している。この研究では,統計的な検討はないものの,友人や母親との関係の肯定的側面の影 響の強さは,否定的側面の影響の強さを上回っていた。しかし,他の研究では,否定的側面が肯定 的側面の影響を上回る結果が得られているものもある(e.g., Pagel, Erdly, & Becker,1987;
Rook,1984)。この点に関しては,これまでの心理学的知見を踏まえると後者の方がもっともらし いと考えられる。それは,これらが非対称的な性質をもつからである。一般に,私たちの周りには, 否定的な出来事よりも肯定的な出来事の方が多く存在するということがあげられる。そのため,杏 定的な出来事がインパクトをもつのだと考えられる。 Taylor (1991)は,肯定的出来事と否定的 出来事それぞれの影響を比較した研究のレビューを行い,生理的レベル,情緒的レベル,認知的レ ベル,社会的レベルのいずれにおいても,否定的出来事のインパクトが強いことを明らかにした。 対人相互作用場面にこの知見を当てはめて考えると,対人関係の否定的な側面が肯定的な側面の影 響を凌駕することは容易に予測できるであろう。 以上の点を踏まえ,個別の対人関係の質が精神的健康にいかなるインパクトをもつのかについて 検討していくのだが,その際,本研究では,対人関係の一つとして,嫁姑をとりあげる。この関係 は,家族社会学においては,既婚女性の精神的健康に及ぼす影響の強さが指摘されているにも関わ らず,心理学ではほとんど研究されてこなかった関係である。これまでに行われてきた研究として は,まず, Larsen (1997)の研究があげられる。彼女は,白人の既婚女性に縦断的調査を行い, 母親,姑それぞれとの関係の質について比較検討を行い,母親から提供された道具的サポートは, 姑のそれより多いものの,そのサポートは姑に対してほど求められていなかったことを明らかにし
た。また, Marotz & Cowan (1988)は,嫁姑の葛藤に対する対処方略について検討している。
その結果,嫁は問題を無視することで,一方,姑はコミュニケーションを行うことで,それぞれそ の葛藤に対処することを明らかにした。これらの研究は,嫁姑を対象としているが.カテゴリー間 での比較を行っているに過ぎず,本研究で検討するような対人関係における認知と精神的健康の関 係に薫目したものではない。 ところで,この嫁姑関係に焦点を当ててみると,特有の性質をもっていることがわかる。まず, この関係は,夫と姑の関係が親子関係であること,当人と夫が夫婦関係であるということから生じ る関係であるという点があげられる。また,私たちがある集団に属するときに,意図しない関係が
228 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第52巻(2001) 生じるという点では,上司と部下の関係や教師と生徒の関係と同じであるが,夫という少なくとも 本人が望んだあるいは意図した関係に付随して生じた関係という点では,それ以外の人間関係とは 異なる性質である。言い換えれば はじめから姑との関係を望んで夫と婚姻関係を結んだというこ とはまずないであろう。こうしたことからも, 、他の人間関係を検討した研究からは決して敷術でき ない知見を、もたらすことは十分に考えられる。 既婚女性の稿神的健康に対して,姑との関係の質がどのように影響しているのか,それは,望ん だあるいは意図した関係である夫との関係とどのように関わっているのか。本研究では,共分散構 造分析を用いて,顕在変数についての構造方程式モデルを構築していく。そのモデルをつうじて, 具体的には, ①姑との関係の質は,既婚女性の精神的健康に直接的な影響を及ぼすのか,あるいは, 夫との関係を媒介した上で,間接的な影響を及ぼすのか, ②姑との関係の質の肯定的側面と否定的 側面は,どちらが精神的健康に強い影響をもつのかについて検討していく。 また,本研究では,関係の質に影響をもつ要因についても探索的に検討していこうと考えている。 具体的には,両者の訪問頻度をその要因として取り上げる。両者の訪問頻度については,姑と別居 している既婚女性に限られるが,関係性の疎密に影響を及ぼす行動指標であると言える。既婚女性 自らの主体的な訪問が頻繁に行われるならば それは肯定的側面には正の相関が,否定的側面には 負の相関が予想される。対人魅力研究の知見を単純に踏まえれば 物理的距離の近さは好意の高さ と関連しているので,主体的に接近を求める訪問行動に関してはこうした予測が成り立つわけであ る。一方,姑の訪問はどうであろうか。本研究では十分な予測を立ててはいないが,この訪問行動 に対する認知も,少なからず関係性に影響を及ぼすと考えられる。 【方 法】 調査回答者の構成 有効回答者数は既婚女性185名で,年齢は, 20代7名(3.9%), 30代89名(49.4%), 40代63名 (35.0%), 50代以上21名(ll.7%),不明5名(2.7%)であった。 姑の年齢のレンジが51-92歳(M -68.9, Me -68.0, SD-8.2)であり,既婚女性と姑の年 齢差のレンジは15-45歳(M-29.3, Me-29,0, SD-6.9)であった。夫の年齢のレンジは25 -67歳(M-42.4, Me-41.0, SD-8.4)であった。 子どもの人数は,なし24名(12.4%),一人29名(15.0%),二人92名(47.7%)三人43名 (22.3%)四人5名(2.6%)であった。子どものうち,長子の年齢のレンジは, 0-39歳(M-13.2, Me-ll.0, SD-8.0)であり,末子の年齢のレンジは, 0-SO歳(M-10.3, Me-8.0,
SD -7.6)であった。一人っ子の場合が含まれるので,長子と末子のデータは重複している。
就業状況は,自営業19名(10.3%),給与所得者(パートタイムも含む) 28名(15.1%),専業主
婦134名(72.4%),その他4名(2.2%)であった。
有倉:姑との関係の質が既婚女性の精神的健康に及ぼす影響 229 ∼9年8名(33.3%), 10-19年6名(25%), 20-29年9名(37.5%), 30年以上1名(4.2%)で あった。 質問紙の構成 1)フェイスシート 被調査者の職業,年齢,夫・姑の年齢,結婚年数,子どもの数,長子と末子の年齢,姑との居 住形態,同居の場合は同居年数を,別居の場合は回答者宅への姑の訪問(1 :まったくこない一 4:よくくる)と,姑のところ-訪問頻度(1 :まったくいかない∼4:よくいく)を尋ねた。 2)姑との関係の質 本調査では, Pierceら(1991)の作成したQRIを翻訳,修正したものを使用した。 QRIは, 特定の関係の中で知覚されたソーシャルサポート,葛藤,関係の深さの三つの次元を測定する下 位尺度から構成されていた。この尺度は,本邦で翻訳され使用された研究(浦, 1997)では,因 子分析の結果,二因子構造を為していた。一つは,サポートと関係の深さからなる因子で,関係 の肯定性因子と命名された。もう一つは,葛藤からなる因子であり,肯定性に対応させて,関係 の否定性因子と命名された。ただし,本研究では調査を行う際には,もともとのQRIの因子構 造に依拠して尺度を構成した。まず,翻訳したときに意味が正しく伝わりにくいものを除外した。 次に,回答の負担を軽減するために, Pierceらの研究においてそれぞれの尺度の因子負荷量の高 かったものから,サポート4項目,葛藤5項目,関係の深さ5項目を採用した。 4件法(1 : まったくちがうー4 :そのとおり)を採用し,それぞれの質問にあった回答様式に変えて行った。 この姑との関係の質尺度では,高得点ほど,姑との関係においてサポートや葛藤を多く知覚し, また,関係が深いと知覚していることを意味している。 3)精神的健康 本調査では,精神的健康を測定するために,身体的症状,不安と不眠,社会的活動障害,うつ
状態の四つの下位尺度から成るGHQ (General Healty Questionnaire; Goldberg,1972)の 短縮版(全12項目)を採用した。 5件法(1 :まったくあてはまらない∼5 :非常にあてはま る)を採用し,それぞれの質問にあった回答様式に変えて行った。 4)夫との親密さ 調査対象者と夫との親密さを測るもので,中村(1995)が作成したものを採用した。 6項目か らなり, 2件法で回答するように求めた。 5)姑との葛藤場面の対処に関する質問 本研究では,統計的分析を行っていないが,姑との関係が悪化した場合に,どのような行動を 採用したり,期待したりするのかについても付随的に尋ねた。 手 続 き 本調査は,姑が健在している既婚女性を対象とし,鹿児島県国分市,姶良町と長野県諏訪市で実 施し,国分市や姶良町では,市民講座や体育館利用者の帰宅時あるいは休憩時に質問紙を配布し,
230 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学績 第52巻(2001) その場で回答してもらって回収したり,職員に提出されたものを後日回収したりするという方法を 採用した。一方,長野県諏訪市は,調査者(卒業研究を行う女子大学生)の母親に依頼し,その母 親の友人や知人に回答してもらい,後日とりまとめて,郵送してもらった。実施期間は1998年11-12月であった。 【結 果】 尺度の信頼性の検討 まず,本研究で用いる変数の基礎統計量をTわlelに示した。次に,姑との関係の質尺度につい て,探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行ったところ,浦(1997)と同様に, 2因子 に分かれたので(X2-87.6, p-.027),それぞれ姑との関係の肯定性因子(a -.90),否定性因 千(α -.84)と命名した(分散説明率53.48%)。 GHQ,夫との親密さはそれぞれ1因子構造を なしており,内的整合性はそれぞれa -.85,.82であった。 TabIel 各変数の基礎統計霊
姑との関係の肯定性
関係の否定性
夫との親密さ姑の訪問
嫁の訪問
精神的健康
note. n=185,変数ごとに欠損値を除いて算出 相関分析 本研究では,上述したように,顕在変数についての構造方種式モデルをだてて,既婚女性の精神 的健康に及ぼす姑との関係の質の影響について検討することを目的とした。そこで,その前提とし て,分析に使用する変数の相関分析を行った。その結果, Table2に示したような結果が得られた。 まず,先行研究と同様に,関係の肯定性と否定性の間には負の相関がみられていた。次に,姑との 関係の肯定性は精神的健康と有意な相関がみられなかったのに対して,否定性との間には,負の相 関がみられた。さらに,精神的健康と夫との親密さとの間に正の相関が,まだ,訪問頻度について 値 大 最 値 小 最 羞 偏 塗 標 値 均 辛 ・ -4 7 0 4 ▲ 4 3 6 7 4 1 6 6 2 2 4 3 2 3 1 7 2 9 ▲ 八 丁 8 6 5 2 5 7 5 0 0 1 0 0 0 2 0 0 0 0 3 2 - 0 人 一 〇 〇 〇 8 1 1 0 2 1 1 9 0 0 0 0 0 8 0 0 0 0 0 3 4 5 4 - 4 5 0 , 4 T 一 2 9 8 8有倉:姑との関係の質が既婚女性の絹神的健康に及ぼす影響 は,その多きがそれぞれ,肯定性と相関していた。 Table2 各変数問の相関分析 231 精神的健康 肯定性 否定性 親密さ 姑の訪問 姑との関係の肯定性 .084 関係の否定性 -. 231年* -.497*** 夫との親密さ .318**奪 .252*** -.079 姑の訪問 -.032 .218** . 139 . 159* 嫁の訪問 一.043 .351*暮春 -.032 . 153 .365年**
note. * p<.05, ** p<.Ol, *** p<.Ooユ
構造方程式モデルによる分析 本研究の目的である姑との関係の質が精神的健康にいかなる影響を及ぼしているのかについて検 討するために,顕在変数についての構造方種式モデルによる分析を行った。分析では,訪問頻度を モデルに組み入れたので,データは,姑と別居している女性に限ったものである。複数のモデルを 検討し,最も適合性が高いモデルを選択したところ(GF1-.995, AGF1-.973, X2-2.47, p GFI-0.995. AGFI-0.973. X 2-2.468(p>.60) n.S. -。-p<.03 -p<・01 Figure顕在変数による構造方程式モデル(標準化解)
232 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第52巻(2001) >.60),姑との関係の肯定性は直接,精神的健康に影響を及ぼさず,夫との親密さを高め,間接的 に精神的健康を高めていた。一方,姑との関係の否定性は,直接,精神的健康に負の影響を及ぼし ていた(Figure)。訪問頻度は,予測どおり,既婚女性本人の訪問頻度の多きが肯定性を高めてい たが,否定性については有意なパスが認められなかった。一方,姑の訪問頻度はその多きが否定性 を高めていたが,肯定性については有意なパスが認められなかった。 【考 察】 本研究は,個別の対人関係の一つとして,嫁姑関係に着目し,既婚女性にとって,姑との関係の 質が精神的健康に及ぼす影響について検討することを目的とした。その際,二つの目的をたてて, 顕在変数についての構造方程式モデルによる分析を行った。一つは,姑との関係の質がどのように 既婚女性の精神的健康に及ぼすのかについてであり,もう一つは,姑との関係の肯定性と否定性は, どちらが精神的健康に強い影響をもつのかについてであった。 その結果,最も適合性の高いモデルを採用したところ,姑との関係の肯定性は直接,既婚女性の 精神的健康に影響を及ぼさず,夫との親密さを媒介として精神的健康を高めていた。言い換えれば 姑からのサポートを得ている,あるいは,今後,関係が親密になるだろうという期待は,そのまま, 既婚女性の精神的健康を予測していない。こうしたサポートの知覚や親密さへの期待が高まるほど, 夫との親密さが高まり,夫との親密さが高まるほど,精神的健康は増進するということである。一 方,姑との関係の否定性は,直接,既婚女性の精神的健康に影響を及ぼしており,夫との親密さに は影響を及ぼしていなかった。つまり,いさかいや姑との関係によって引き起こされるストレスは, それによって夫との関係を悪化させることなく,直接,既婚女性の精神的健康に悪影響をもつとい えよう。また,二つめの目的である姑との関係の肯定性と否定性の影響の強さの相対的な比較であ るが,相関係数を見る限り,否定性の方が精神的健康に強い影響をもっているということが言える。 しかし,一つめの目的の結果からもわかるように,肯定性の影響が否定性の影響を下回るのではな く,影響の及ぼし方が異なっているだけであると考えることができよう。 肯定性と否定性とで影響の及ぼし方が異なるという点については,以下の点を踏まえておく必要 がある。 まず,両側面の非対称性である。これは,上述したように,私たちの周りには,否定的な出来事 よりも肯定的な出来事の方が多く存在するため,否定的な出来事は目立ち,インパクトをもつのだ と考えられる。また,否定的な出来事は,その活性化を低めようとするメカニズムが働くため,そ の悪影響は持続しないが(Taylor, 1991:潤, 1997を参照),肯定的な出来事は,そうしたメカニ ズムは働かないと考えられるので,私たちの中で持続的かつ普遍的に影響をもつだろうと言える。 これらの知見は,一般に,私たちが自らを肯定的に見ていたいということに動機づけられているか らだと言える。従って,ある一時点での認知を測定すると,否定的な出来事は精神的健康に影響を 及ぼすが,活性化を低めようとするメカニズムが働くため,一定期間経過した後に測定すると,そ
有倉:姑との関係の質が既婚女性の精神的健康に及ぼす影響 233 の悪影響はなくなっていると考えられる。 次に,肯定性と否定性が同一次元ではなく,独立した次元であるということである。これは,育 定的な性質が多いほど否定的な性質が少ないとは必ずしも言えないということである。主観的幸福 感の研究において, Argyle (1987)は,不幸は必ずしも幸福の対極ではないと指摘しているが, 私たちの感情の生起や周りにある出来事の知覚においでも同様のことは言えよう。例えば Dienerらは一連の研究(Diener 皮 Emmons,1984; Diener, Larsen, Levine, 皮 Emmons,1985) で,長期間にわたって測定した場合のポジティブな感情とネガティブな感情の独立性に着目した。 その結果,ポジティブな感情とネガティブな感情の強度は正の相関が見られ,この強度を統制する ど,これら両感情の頻度の平均には低い相関しかみられなくなることを明らかにした。つまり,強 い幸福感を経験する人は,強い抑うつ感を経験することも多く,長期間にわたって測定した場合は, これら両感情の生起頻度は独立しているのだということである。本研究において,肯定性と否定性 との間には有意な負の相関がみられたが,これは,一回限りの調査によって測定されたため,ある 一時点での認知を測定しているからだと言えよう。 これらの点を踏まえた上で,肯定性と否定性の影響を及ぼし方が異なるという結果を考えてみる ど,まず,姑との関係の肯定性が夫との親密さを媒介して精神的健康を高めていたのは,夫との親 密さも肯定的な側面を測定していたこと,つまり,類似した側面を測定していたため,相関が高 かったのだと考えられる。加えて,上述したように,肯定的な側面は,他の関係にも持続的にかつ 普遍的に影響をもつことも考えられよう。また,夫との親密さが精神的健康と相関が高かっだのは, 姑との関係よりも,既婚女性の精神的健康に影響をもつ重要な関係であったからであろうと思われ る。 Pierceら(1991)は,大学生を対象に,個別的な関係として,父親,母親,親しい友人を一 人挙げて,その関係の質が孤独感に及ぼす影響を検討していたが,親しい友人との関係は,ソー シャルサポート,葛藤ともに孤独感に影響をもっていたのに対して,父親との関係は,いずれの側 面も孤独感に影響を及ぼしていなかった。青年期にとっては,親しい友人の方が父親より重要な関 係であるというのは多くの研究の指摘するところである。 ただし,本研究では,夫との関係の質を測ることを目的としていなかったため,夫との関係の否 定性が測定されていなかったことが問題点として残る。本研究の考察が妥当性をもつには,夫どの 関係においても,姑と同様の測定を行った上で,肯定性において同様の結果がみられ,否定性にお いては,姑と同様に直接,精神的健康に影響を及ぼしていることが明らかにされなければならない。 一方,姑との否定性が直接,精神的健康に影響を及ぼしていたのは,まず,否定性が肯定性より も精神的健康にインパクトをもっていたことがあげられる。また,上述したように,ある一時点の 認知を測定していたため,精神的健康に影響を及ぼしていたと言える。浦(1997)は,新入生を対 象に,家族と友人の関係の質が精神的健康に及ぼす影響について検討するために,入学直後と三ケ 月後に調査を行った。その結果,入学直後に測定された関係の肯定性は,同時点に測定された精神 的健康を予測しなかったけれども,三ケ月後の精神的健康を予測した。逆に,関係の否定性は,同
234 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学績 第52巻(2001) 時点に測定された精神的健康を予測したが,三ケ月後の糖袖的健康を予測しなかった。本調査は一 回限りの調査であったため,姑の否定性が精神的健康を予測していたという結果は,浦の結果と一 致する。 さて,本研究では,関係性に影響をもつ要因として,既婚女性本人と姑の訪問頻度を取り上げ-, この行動指標がどのような影響をもつのかについて探索的に検討することを目的とした。そして, 既婚女性自らの訪問は,対人魅力の知見を踏まえると,肯定性と正の相関が見られ,否定性とは負 の相関が見られると予測した。その結果,単純相関では,姑との関係の肯定性は,既婚女性自らの 訪問,姑の訪問ともに正の相関がみられたが,否定性とは,いずれも無相関であった。しかし,顕 在変数についての構造方程式モデルによる分析では,両者の訪問頻度問の相関が統制されているた め,異なるパスが見られた。既婚女性自らの訪問は,姑との関係の肯定性への正のパスが認められ たが,否定性とは有意なパスが認められなかった。一方,姑の訪問は,否定性-の正のパスが認め られたが,肯定性とは有意なパスが認められなかった。物理的距離の近さは好意の高さと関連して いるというのは,これまでの対人魅力の知見から明らかであることから,訪問頻度が多いほど,育 定性が高まるのはもっともな結果であると言える。これに対して,姑の訪問頻度が否定性を高めて いるというのは興味深い結果であると言える。この指標は,あくまでも既婚女性本人の認知による ものであるが,その頻度が多いほど,その関係の中で,いさかいやストレスを高める引き金になっ ているのかもしれない。ただし,なぜ,こうしたパスが認められるのかは,本研究の結果からだけ では不明である。本調査のサンプルに限られた結果なのか,普遍性をもつものなのかは,今後の研 究を得たねばならない。 本研究の問題点と今後の課題 本研究は,これまでほとんど検討されなかった嫁姑関係に着日し,姑との関係の質が既婚女性の 精神的健康に及ぼす影響について検討した。その結果,姑との関係の肯定性は,夫との親密さを媒 介として精神的健康を高め,否定性は直接,箱神的健康を低めていた。関係の質が精神的健康に及 ぼす影響の非対称性は,先行研究の知見と一致するところであり,嫁姑の関係でも見られたことが, 本研究で明らかになった重要な知見である。ただし,本研究にはいくつか問題点がある。一つは, 上述したように,夫との関係については,その親密さという点だけ測定していたということである。 本研究では,嫁姑関係に着目したため,夫との関係はあくまでも媒介的な要因としか考えていな かった。しかし,問題のところで指摘したように,嫁姑関係は,夫婦関係と親子関係に付随して生 じたものである。そうした特徴を踏まえてこの関係を考慮するのであれば 夫の関係の質も姑と同 様に測定すべきであったのかもしれない。また,夫の親密さは, Pierceら(1991)が作成した QRIの下位尺度の一つである関係の深さに相当するものである。その点では,姑と同様の尺度を 用いた場合に,同様の結果が得られるかどうかも今後の研究で検討し,結果の普遍性を確認しなけ ればならないだろう。 二つめは,関係の質が精神的健康にもつ影響について,その持続性を検討することである。本研
有倉:姑との関係の質が既婚女性の精神的健康に及ぼす影響 235 禿では,一回限りの調査であったため,肯定性と否定性の影響の非対称性は明らかになったものの, 時間的なレベルでの非対称性は明らかになっていない。大学の新入生における適応過程において, 親や友人の関係の質は,その肯定性は長期的に,否定性は短期的にそれぞれ精神的健康に影響を及 ぼすことが明らかになっている(浦, 1997)。今後の研究では,結婚後の女性の適応過程に姑との 関係の質がどのように影響を及ぼすのかについても着日してみる必要があろう。 三つめに,本研究は,嫁の側からの検討であったが,嫁姑関係について検討するならば 姑の側 からの検討も必要であろう。姑の側からみても,本人が望んであるいは意図して生じた関係ではな いので,その関係の質が姑の精神的健康にいかなる影響を及ぼすのかを検討することも興味深い。 最後に,本研究は,嫁姑関係であるという点だけに着日したため,年齢差やそれに付随する価値 観の違いには注目しなかった。また-,姑が高齢であるならば 介護を行っている場合も十分考えら れる。今後の研究では,そうした状況も踏まえた上で,嫁姑関係の質が精神的健康に及ぼす影響に ついて検討していく必要があろう。 【引用文献】
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追 記
本研究は,大田芳子(平成10年度鹿児島女子大学(現志撃館大学)卒業)の卒業研究のデータを用い,筆者