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Title
神経圧迫後における感覚神経終末数の変化
Author(s)
田﨑, 雅和; 栁澤, 伸彰
Journal
歯科学報, 111(1): 19-21
URL
http://hdl.handle.net/10130/2297
Right
―――― カラーアトラス ――――
神経圧迫後における感覚神経終末数の変化
やなぎ さわ のぶ あき
た ざき まさ かず
田
雅 和
1)
,
澤 伸 彰
2)
1)
東京歯科大学生理学講座
2)
昭和大学歯学部口腔解剖学講座
カ ラ ー ア ト ラ ス の 解 説
抜歯あるいはインプラント体埋入時,神経線維束
を圧迫したために生じる知覚障害がある。臨床的に
神経線維の損傷は三つに分類されている。最も軽症
な neuropraxia(一過性伝導障害)は術後しばらく感
覚の異常を生じるが,数日ないし数週間で回復し,
回復後も健常側と全く感覚の質が同じ状態であるも
のをいう。中等度の障害である axonotmesis(軸索
断裂)は神経軸索が崩壊するものの,神経線維束の
断裂は認めないものをいう。より重篤な障害として
neurotmesis(神経断裂)があり,神経線維束の断裂
をきたす症例である。ここでは axonotmesis(軸索
断裂)を想定した動物実験の一例を示すことにした。
図1はオトガイ孔から出るオトガイ神経を示して
いる(矢印)。オトガイ神経の一部は下唇粘膜の感覚
に関与しており感覚神経の末梢部に感覚神経終末が
存在する。観察の対象とした下唇粘膜は歯肉−口唇
粘膜移行部(白い実線)から口唇有毛部にいたる部位
で,白い破線は口唇の正中を示している。口唇粘膜
に分布する感覚神経終末は三タイプ存在し,自由神
経終末の他,有被膜性小体(図2)と樹枝状終末(図
3)が分布する。有被膜性小体は触覚の知覚を,樹
枝状終末は圧覚の知覚に関与していることから,両
終末の再生数を観察した。
神経線維束を圧迫したことを想定して,オトガ
イ孔の部位で糸を用いオトガイ神経束を一度縛り,
再び解くことにより神経線維の圧迫を行った。図1
で右側オトガイ神経を圧迫したことで,右側下唇粘
膜(白い破線の左側)に分布する感覚神経終末の変性
が生じ,1週齢以後になると再生が生じる。動物はマ
ウスを用い,染色はメチレンブルー生体染色を行っ
た。標本は口唇粘膜全体を伸展標本とし,光学顕微
鏡で観察した。この標本から下唇粘膜に分布する両
感覚神経終末の分布状態が明らかにできる。図4は
神経圧迫後1週齢の1固体における口唇粘膜に分布
する有被膜性小体(青丸)と樹枝状終末(赤丸)の分布
状態を示したものである。同様に図5は神経圧迫後
4週齢の1固体の分布図である。圧迫側(黒い破線
の左側)における感覚神経終末は1週齢(図4)です
でに再生を始めており,その出現数は4週齢(図5)
にかけて増加していた。
圧迫側における感覚神経終末の再生数を健常側の
出現数との割合を経日的に示したのが図6である。
有被膜性小体は1週齢で4.7%,2週齢で34.2%,
3週齢で63.1%,4週齢では76.9%であり,順調に
その再生数は増加する傾向を示した。一方,樹枝状
終末は1週齢で12.7%,2週齢で21.6%,3週齢で
38.8%,4週齢では45.0%であり,再生数は増加す
る傾向であったが有被膜性小体より回復の程度は遅
いものであった。
axonotmesis(軸索断裂)により感覚神経終末は一
度変性するものの,比較的早い時期に再生してくる
ものと思われる。しかし,感覚神経終末が再生して
くる割合は健常側より少なく,感覚神経終末の種類
によりその割合が異なる傾向を示していた。樹枝状
終末は有被膜性小体より回復する終末数が遅いこと
から,触覚より圧覚の知覚が健常側と比較し悪いも
のと考えられる。神経線維を切断した報告と比較す
ると有被膜性小体および樹枝状終末の再生数は多い
ことから,neurotmesis(神経断裂)より触・圧覚の
質の違いは軽度であると考えられる。また再生して
きた感覚神経終末(有被膜性小体)の形態は健常側の
ものと比較し,極めて複雑な形態をしたものが多く,
このことは他の報告1−3)
とも一致するものであった。
再生してきた感覚神経終末が正常なものと同様の応
答性を示すものと考えられるが,閾値の相違は存在
するものと考えられる。
神経損傷を起こし知覚の障害が生じた場合,適切
な処置により感覚神経終末の再生は促される。感覚
神経終末の再生により知覚の回復は生じるが,感覚
の質の違いは残る可能性が高い。これは感覚神経終
末の再生数は健常側より少なく,有被膜性小体の形
態は複雑に,樹枝状終末は単純になるためと考えら
れる。
文 献
1)德田兼章:オトガイ神経切断後の下唇粘膜部における感
覚神経線維および神経終末の再生,歯科学報 83,867∼
890,1983.
2)正木日立:オトガイ神経切断一次縫合および二次縫合後
における下唇粘膜部の感覚神経終末の再生に関する実験的
研究,歯科学報 87,1∼27,1987.
3)南保秀行:神経修復術後の感覚神経終末の超微細構造の
変化に関する実験的研究,日口外誌 37,595∼613,1991.
神経圧迫後における感覚神経終末数の変化
田
雅 和
1)
,
澤 伸 彰
2)
1)
東京歯科大学生理学講座
2)
昭和大学歯学部口腔解剖学講座
図1 オトガイ神経と下唇粘膜
オトガイ孔から出るオトガイ神経(矢印)
図2 有被膜性小体
横線;50μm 染色;メチレンブルー生体染色
図3 樹枝状終末
横線;50μm 染色;メチレンブルー生体染色 図4 神経圧迫後7日目(1週齢)の感覚神経終末の分布図破線;正中線 正中線の左側;圧迫側 正中線の右
側;健常側 青丸;有被膜性小体 赤丸;樹枝状終末
図5 神経圧迫後28日目(4週齢)の感覚神経終末の分布図
破線;正中線 正中線の左側;圧迫側 正中線の右
側;健常側 青丸;有被膜性小体 赤丸;樹枝状終末
図6 感覚神経終末の再生数の経日的変化
横軸;神経線維圧迫後の週齢 縦軸;健常側と比較し
た時の再生してきた終末数の割合(%) 青線;有被膜性
小体,赤線;樹枝状終末