I
イントロダクション
かつてDrucker
(
)は、企業の目的とは顧 客の創造にあるとした。顧客を創造するには、顧 客が満足する財あるいはサービスを企業が提供し なければならない。つまり、事業活動においては、 顧客満足(customer satisfaction
)の追求が必要 不可欠というわけである。顧客満足を実現するた めに、企業は組織活動を通じて、財・サービスを 研究開発し、それらを顧客に提供する。確かに、 顧客からの支持が得られない限り、企業活動の原 資である収益を確保することが不可能であり、顧 客満足は事業活動の生命線と言っても過言では ない。ただし、顧客満足を追求するあまり、事業活 動の主体である社員の存在を蔑ろにするわけには いかない。決して蔑ろにしているわけではないにし ても、Barnard
(
)が指摘するところの貢献意 欲およびそこから派生する実際の成果がもたらさ れないと意味がない1)。 社員の貢献意欲に影響をもたらす要因としてマ ネジメントにおいて中心的に議論されてきた概念 が、職務満足(job satisfaction
)である。職務満足 とは、仕事 の 評 価 から 生じる肯定的 な 感 情 (Locke,
)とされる。たしかに、職務満足のよ しあしによって、社員の貢献が左右することは間違 いない。しかし、仕事そのものからもたらされる満 足以外にも、昨今の社員の貢献に対して影響を与 えうる要因の幅は広がっている。たとえば、所属し ている組織文化であるとか、職場の人間関係、さ らには、ワークライフバランスといった要因に至る まで、社員の満足に影響を与える要因は仕事その ものからより広範なものになっている。そこで注目社員満足
と
顧客満足
を
結
びつけ
るマネジメント
四国管財株式会社の事例研究
論文 小野善生 Yosio Ono 滋賀大学経済学部 / 准教授2)以後、四国管財と表記する。
される概念 が、社員満足 あるいは従業員満足 (
employee satisfaction
)という概念である。社員満足とは、岩出(
2014
)によると、生活満足 (life satisfaction
)、職務満足(job satisfaction
)、職 場満足(
workplace satisfaction
)、企業 満足 (corporate satisfaction
)という4
つの要素からな るとされている。生活満足とは、雇用の安定や収 入の安定、ワークライフバランスという仕事生活と 私生活とのバランスが取れることによってもたらさ れる満足である。職務満足は、すでに述べたよう に仕事そのものから得られる満足であり、仕事の プロセス、成果に対する公正な評価を処遇によっ てもたらされるものである。職場満足とは、快適な 職場環境あるいは組織内の円滑なコミュニケー ションおよびチームワークのある人間関係によって もたらされる。企業満足とは、組織に対する信頼 感やコミットメントによってもたらされるものである。 社員満足については、学術的なアプローチより も実務的なアプローチの方が先行しているのが現 状である(吉田, 2007:
瀬戸川, 2008:
志田, 2009;
2013
)。そこでは、モデルの提示、制度設計、測定 尺度の開発といった実践的な側面で研究が蓄積 されている。しかしながら、社員満足という概念が 発展するためには、実務的な側面ばかりではなく、 学術的な観点から社員満足という概念がいかな る論理で組織のパフォーマンスに正の影響を及ぼ しているのかを明らかにする必要がある。 本研究においては、社員満足の実践を標榜し、 なおかつ高業績をあげている企業を調査対象とし て、なぜ、社員満足を追求することによって収益を もたらすことができるのかという問題意識のもと、 その論理を明らかにする。この研究課題について、 本研究では社員満足を追求する経営で持続的に 発展しているビルメンテナンス業の四国管財株式 会社2)へのフィールドワークを通じて、社員満足を もたらすマネジメントがいかに社員の満足および 組織のパフォーマンスにもたらすのかを明らかに する。II
調査概要
2-1 対象企業 本研究の対象事例である四国管財は、1962
年6
月に高知市においてビルメンテナンス業務およ び建物に関わる人的サービスを提供する企業とし て創業された。現社長の中澤清一氏は、創業者の 子息であり1985
年に同社に入社、1997
年に代表 取締役に就任して現在に至っている。 会社名 四国管財株式会社 設 立 1962年6月27日 代表者 中澤 清一 資本金 1,000万円 所在地 高知県高知市南はりまや町 2丁目4番15号 従業員数 600名 業務メニュー ビルメンテナンス (クリーンキーパー・定期清掃業 務・警備業務・設備業務) 役員 お客様係&代表取締役 社長中澤 清一 お客様係&代表取締役 専務和田 治 お客様係&常務取締役 森下 幸雄 表1 四国管財株式会社の概要 出典:四国管財株式会社ホームページ(http://www.shikok ukanzai.co.jp)より(一部著者改訂)表2 四国管財の売上高の推移 H27.3 H26.3 H25.3 H24.3 H23.3 売上 1,345,337,440 1,275,274,235 1,296,412,488 1,224,559,115 1,117,767,879 出典:四国管財内部資料 1962年 創業 1987年 病棟クラーク業務開始 1988年 全国初自社託児所『わんぱくハウス』開園・院内感染防止システムハウスキーピング開始 1993年 社内報「つもろう」創刊 1997年 中澤清一氏代表取締役就任 1999年 報連相システム『ボイスメール』スタート 2000年「お客様係」設立・病棟アテンダント業務スタート・ISO14001認証取得・四国管財ベーシック 完成 2004年 病院施設設備管理業務スタート・病院売店業務スタート 2005年 病院総合受付業務スタート 2006年 キャリアカウンセラー設置・院内託児所運営業務スタート・高知労働基準局 均等推進企業局長 賞優良受賞 個人現場自動出勤管理システム開発・導入 2007年 クレーム自動集積&配信システム開発・発売 2008年 院内サポートポーターシステムスタート・日本環境管理学会優秀賞受賞・雇用開発協会高知県知 事賞受賞 サービス産業生産性協議会ハイサービス300選受賞 2009年 オペ室滅菌洗浄サポート業務スタート・鳩対策事業スタート 2010年 高齢者専用賃貸住宅にてメイドサービススタート 2011年 経済産業省民間企業派遣研修企業に指定 2012年 高知市より受託の市営住宅指定管理者業務スタート・ISO27001認証取得・高校新卒者向け「夢 実現コース」開設 2013年 サービス産業生産性協議会「おもてなし企業選50」に選出・中途採用者向け夢コース開設 心の相談室を社外カウンセラーに移管・24時間健康なんでも相談室開設・賃貸マンション管理業 務スタート 県外同業23社と災害時相互支援なかよし協定締結 2014年 高知県立県民文化ホール指定管理者スタート (公財)日本生産性本部中小・サービス事業者向け次世代経営人材育成事業「大人の武者修行」 修行先企業に認定 2015年 四国地域イノベーション創出協議会『第四回四国でいちばん大切にしたい会社大賞』受賞 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「生涯現役いきいき企業100選」に選出 人事評価制度 キャリアパスプランスタート 表3 四国管財の沿革 出典:四国管財株式会社ホームページ(http://www.shikokukanzai.co.jp)より(一部著者改訂)
株式会社シェアードバリュー・コーポレーション、理念経営 実践企業の研究25四国管財(http://www.keieijinji.com/ research/gc/25shikoku.html)、改革改善探訪記レポート No.19 (http://souisha.com/pdf/shikokukanzai.pdf)、坂 本光司・価値研(2012)『. 21世紀をつくる人を幸せにする会 社』ディスカヴァー・トゥエンティワン,213-228頁。 3)関連資料および書籍としては以下の6点である。経済産業 省「おもてなし経営企業選」(http://omotenashi-keiei.go.jp/ kigyousen/pdf/42.pdf)、経済産業省四国経済産業局「気 が利くね四国のサービス企業」(http://www.shikoku.meti. go.jp/soshiki/skh_b1/shougyou/1_sesaku/090331c/ index.html)、四国・地域ビジネスネットワーク( http://sb-shikoku.seesaa.net/article/192955395.html)、 四国管財が、社員満足を目指す企業として本格 的に活動する端緒は、中澤清一現社長が後継者 として四国管財に入社して間もない
3
年目から4
年 目にかけて、10
年来勤務している社員が自分の子 供に四国管財という勤め先のことを言えないとい う事実を聞いてショックを受けたことにある。この 背景には、ビルメンテナンスという清掃業が社会 的に低く見られている職業であり、それに従事して いる当人が負い目を感じているということがある。 このような負のイメージを一掃するために中澤社 長は、業界に対する負のイメージを根本的に覆す のは無理だとしても、四国管財という企業に対する イメージを向上させ、社会的に評価を受ける企業 にするという不退転の決意をしたのである。社会 的評価を受けるために中澤社長は、社員満足を充 足させるマネジメントを実践するようになる。 2-2 調査方法 本研究における調査方法としては、四国管財へ のフィールドワークに基づいている。四国管財の フィールドワークについては、インタビュー調査な らびに研修の参加観察からなる。それに加えて、 四国管財に関連するアーカイバルデータの分析を 行った。インタビュー調査は、中澤社長、本社管 理職4
名、現場責任者1
名と現場チームリーダー1
名、本社スタッフ3
名、夢実現コース社員2
名の計12
名を対象に各1
時間のインタビュー調査を実施 した(現場責任者および現場チームリーダーのイ ンタビューのみグループインタビューを実施)。イ ンタビュー調査については、半構造化インタビュー を実施し、インタビューデータは文書データ化し、 コーディングを行った。コーディングによって文書 データを時系列的に整理し、事例の全体像を明ら かにした。その後、社員満足に類型化されるカテ ゴリーを比較検討し、考察を行った。 参加観察としてキャップ会(現場リーダーの研 修)、新入社員研修、本社スタッフの全体会という3
つの研修およびミーティングの現場に対して参加 観察を実施した。アーカイバルデータとしては、内 部資料8
点の提供を受け、関連資料および書籍6
点の合計17
点を分析対象とした3)。アーカイバル データもインタビューデータ同様のプロセスで分 析を行った。 最後にインタビューおよびアーカイバルデータ の分析結果を統合して、最終的な結論を導き出し た。III
四国管財とはいかなる企業か
3-1 四国管財の創業と中澤社長の決意 四国管財は、1962
年に地元新聞社が出資する ビルメンテナンス会社としてスタートした。その後、 浄化槽会社を経営していた中澤社長の父が買い 取り、1973
年に現体制となった。ところが、中澤社 長が中学2
年の時に父が早逝、母が社長となり、 実質的に経営幹部が経営する体制となった。ちな みに、中澤社長は、1985
年に大学を卒業して四国 管財に入社した。中澤社長は入社よりはるか以前 の高校時代からバイトとして現場業務に携わって いた。それが、中澤社長の社員満足を追求する原 点となる。 全国の同業者の二代目で珍しい現場からやって るんですね。現場のしんどさとか、上司の不甲斐なさとか、えー、というのが全部体験できているので すね。それぐらい体験できているのは、少ないぐら い。現場の声が分かっている自分の強みが、
1
つあ りました(中澤社長)。 現場業務について熟知していた中澤社長であ るが、1997
年の社長就任当初その後の経営スタ イルを決定づける出来事が起こった。それは、ビル メンテナンス業を営む者にとっては、あまりに ショッキングな出来事であった。 県外の同業者にしゃべってもらった時にその方 がインタビューしたんですね、10
年以上勤めてい る方に、「ご家族に何て言ってますか」と。ほんだら、 全員が「秘密にしている」と言ったんですね。その 掃除会社へ来て10
年以上働いているリーダークラ スのベテランが、自分の会社名を言えてないんで す。ということは、頑張りますよね。「何」って。僕は この会社に入りたくて入ったのに、10
年以上働い ている真面目な優秀な社員さんは、自分たちの仕 事を子供たちに言えてない。だから、そこで自分の 役割が明確に見えるんですね。で、ここで働いてい ること、胸張って言えたり、協力会社の人がこっそ りでも陰口でも「あの会社ええよ」と言われるよう な会社経営をしようとそこで僕決めました(中澤社 長)。 勤続10
年のベテランで現場のリーダーも任され ている人材が、自分の家族に仕事の内容を伝えて いないという事実は、中澤社長にとってショッキン グな出来事であった。このベテラン社員の1
件もイ ンパクトがあったが、清掃業という職業に対する 社員のネガティブな意識を象徴するような屈辱的 な出来事は続く。 たとえば、病院の給食部門の人で某警備会社の 人と結婚したんですね。我々がお祝いに行ったら ですね、当日は社名を言ってもらえないんですね。 「A
病院にご勤務の、A
病院の給食を担当されて いる彼です」とか、A
病院の栄養士さんが、挨拶す るんですよ。うちの職員なんですけどね。クラーク なんかも、ほとんど、「A
病院にご勤務の誰やらさ ん」、A
病院さんに勤めていると鼻高々ですもんね。 そんなんをライブで見る度に「今に見とけよ」とい うので、いろんなことやりだしましたね(中澤社長)。 中澤社長は、社会的な負のイメージを払しょく するために、四国管財の企業イメージを向上させ る取り組みを始める。企業イメージを向上させる にあたっては、ベンチマークという形で、様々なケー スを取り入れながら試行錯誤する時間が過ぎて 行った。 あのう、まあ、社長がその、まあいっぺんワーキ ングという形で、その頃は会社見学と言ってました けど、一緒に同行させていただいたりとか、ようし ましたね。土佐弁でいうパクりあいですけど。いろ いろ、してましたね。えー、まあちょっとその当時は、 ルール的に行ったら必ず何かを実践することは やってましたけど(本社管理職B
氏)。 中澤社長の側近でもある本社管理職の語りに もあるように、何かいい取り組みがあれば、まずは 取り入れて実践してみる。それも中澤社長の不退転の決意で進めていくという当時の様子がうかが える。 3-2 価値観の確立 この試行錯誤の段階から、現代の経営スタイ ルが築きあげられるようになってきたのは、古参社 員がリタイヤして現行の体制が形成されたことが その基礎にある。その組織変革の中心にある意 識変化のポイントは、顧客満足一辺倒から社員満 足を軸とした経営方針である。 言うたら、お客さん第一主義からまあ
CS
(顧客 満足)からES
(社員満足)に変わるような考え方が 出来 だした時から、お客様に向いていたのを ちょっとこう会社に向き出したのがターニングポイ ントじゃないですかね。言葉が出てきたことによっ て(本社管理職B
氏)。 中澤社長は、社員満足を軸とした経営スタイル を確立するためには、組織と個人の関係を活性化 させる取り組みを同時並行で遂行していくべきで あると考えていたが、同時並行で進めていくにして もその基軸となるものが必要不可欠になると考え た。そこで、考案されたものが、経営理念および四 国管財ベーシックである。 これやったらこれではなしに、全部同時で、同時 でやっていかなきゃ無理なんですね。だから、価値 観の共有は、文章化したほうがええと気が付いてく るわけですよね。(中略)うちの会社の大切にして いるものを入れていこうということで、うちの経営 幹部といっしょにつくりましたね。で、文書がないよ りあった方が、「うちの会社、これを大切にしてる よ」ということを社員さんに伝えやすいですよね(中 澤社長)。 四国管財ベーシックとは、四国管財の経営理念 である『私達は、自分達の夢の実現の手段として 四国管財においてお客様に「笑顔と挨拶と報連相 (報告・連絡・相談)と環境を意識した丁寧な仕事 の実践」により自分を含め全ての人々に感動を提 供致します』を実践する具体的な行動指針として 取りまとめられたものである。 四国管財の経営理念ならびにベーシックの内 容は、社員満足が顧客満足の前提になるとの明確 な主義が伺える。また、ベーシックに関しては、個 人の生き方のレベルの話から、具体的な業務活動 における指針に至るまで、誰でもが分かる平易な 言葉で述べられている。四国管財という組織に参 加するありとあらゆるレベルのメンバーからの共 感と理解を促すように文字言語化されているので ある。 3-3 クレーム対応からの信頼構築 価値観の確立と共有を実現したとしても、真の 社員満足が得られるためには組織と個人との間に 不動の信頼関係が構築されなければならない。ビ ルメンテナンス業において組織と個人の信頼関 係が問われる最も重要な場面は、顧客からのク レームである。物品の破損にはじまり顧客とのトラ ブルといったように、サービス業ゆえに顧客の目に 直接触れる業務内容なので組織がいかに現場の 社員をフォローできるかどうかが鍵となる。 絶対、社員さん、絶対責めませんから。クレーム 起こして、落ち込む立場が、元気づけられたり、会表4 四国管財ベーシック 出典: 四国管財株式会社心を磨くドリームカード(内部資料) 1.夢を具体的に持つ 自分が明確な夢を持ち、かつ諦める事無く、具体的に目的を決めることで夢は必ず 実現するものです。 2.常に笑顔 一番簡単なようで一番難しい事、笑顔の実践。笑顔は自分を含め周りの方々を幸せ にしてくれます。 3.挨拶の実践 勇気を出して、自分から自発的に挨拶を行い継続する事でコミュニケーションの第 一歩となり、必ず周りが変わります。 4.報告・連絡・相談 実践する事により、情報(楽しい事や悲しい事)に共感する事が出来、価値観の共有 化の手段となり、社会が一つになれば組織的な解決を図れます。 5.環境を意識 当社はISO14001を取得し、環境に貢献する仕事に携わっております。職場や家庭 において、身の回りの環境を意識し、地球のために考え行動しましょう。 6.丁寧な仕事 ラッキーコールを様々な形で減らしてきましたが、落下破損事故が後を絶ちません。 過去の例を分析すると片手の仕事に問題があることが分かりました。「いくら慣れて いても必ず両手を添えて」丁寧な作業を行いましょう。 7.整理整頓 物の整理整頓だけではなく、考え方も整理整頓をすることにより、安全かつ事故の ない働きやすい職場環境を築きましょう。 8.自己責任 物事を自分の事として受け止め、「やってくれない」をどうすればやってもらえるか、解 決できるかの観点で考え行動しましょう。 9.前向きな取組み 新たな一歩、更なる一歩を踏み出すのはしんどい事であり、出来ないと諦めがちです が、やろうと思えば手段は100万通りあります。やらない理由を考えるのではなく前向 きに考え取り組みましょう。 10.気遣い その発言や行動が周りの人にどの様に影響するか考えましょう。自分がしてもらって 嬉しい事をしてあげられるようになると、自然と気遣いの出来る人となります。すると、 何だか楽しくなります。 11.接する人に均等に 年齢・性別・肩書きによって言葉遣いや態度を変えること無く、当初の謙虚な気持 ちや対応を忘れず均等に接していきましょう。 12.一流の自分 お客様に最高のサービスを提供する為には、自分自身が最高のサービスはどういう ものか体得しなければ分からない。一流とは高級品という意味ではなく、どんな状況 でも決めた事を守れる人が一流です。今日から皆さんも一流を目指しませんか。 13.自分のために仕事する 同時多発テロで旅客機に搭乗され、犠牲になられた方は自分の命があとわずかなこ とを確認した時、愛する人に最後のメッセージを残しました。自分にとって一番大切 な人(事)を再認識し、そのために仕事に取り組みましょう。 14.約束は守る 約束を守ることは信頼の証です。約束の時間、約束の期日と些細な約束も守り信頼 を失わないようにしましょう。当社がお客様より高い信頼を頂いているのは、お客様 の様々な情報を見たり聞いたり出来る立場にありながら、在職中・退職後も守秘義 務の約束が守られているからです。 15.感謝の気持ち 周りの人が居る事が当たり前の生活と思って過ごしていますが自分の接する人(物) への「ありがとう」の感謝の気持ちを忘れないようにしましょう。
社のお客さんとの距離も近まるけど、クレーム起こ した社員さんとの距離が我々近づくんです。だから、 きれいごとみたいなあのドリーム・カードですね、 実際電話のやり取りなんかも、実際我々社員さん のせいにせずに、「どうやって謝ろう」とか、隠ぺい も考えずに、それをやる様を他のスタッフも見てま すから、僕たちは本物というものを全部社員さん が知っているんです(中澤社長)。 四国管財では、クレームのことを「ラッキーコー ル」と呼ぶ。クレームは業務改善のための有力情 報であるという逆転の発想から生成した四国管財 のオリジナルな用語である。「ラッキーコール」は、 業務改善の有力情報だけではなく、クレームを起 こした社員のフォロー次第で社員の組織に対する 信頼度が高まる。この点に関して四国管財は、「お 客様係」という部署が対応する。「お客様係」は、 現地に行ってクレーム対応する「営業さん」と呼ば れる部隊と「スマイル・サポーター」と呼ばれる本 社に常駐している電話対応のスタッフからなる。ち なみに、「営業さん」と呼ばれる部隊は、中澤社長 をはじめ
3
名の経営幹部からなる。つまり、クレー ム対応は、中澤社長が陣頭指揮を執って行ってい るということである。 3-4 夢を実現するための手段としての会社 価値観の共有そして信頼関係の構築に努めて も、社員の離職をゼロにすることはできない。まし てや、社会的にネガティブな印象がどうしてもつき まとうビルメンテナンス業においてはなおさらご 多分に漏れず四国管財の経営を悩ましてきた要因 でもある。 最初は、留めまくってました。自分のためだけに、 「この人、辞められたらやばいな」と、口八丁で留め まくってました。10
年ぐらい。もう、嘘ついて辞める んですね。「母が病気で」とか、で、留めれませんよ ね。そうすると、お客さんの現場で復活してるんで すね。病院のお掃除してて、引き抜かれて病院の 方が採用してるんですね。嘘ついて。我々にも嘘つ いて。で、病院の職員になってるんですよ。その人、 我々見て逃げまくるんですね。 それを逆転で、お客さんに「うちの社員すごいで すよ」って。「働きっぷり、見てください」、「引き抜い てください」、「あちこちで引き抜かれてます、その方 がうちの社員幸せですから」と言うて10
何年前か ら「引き抜きどうぞ」とやってます。みんな、頑張り ますよね。引き抜かれたら「おめでとう」って。病院 側についてくれたら、嬉しいやないですか。お掃除 のことを理解できている、うちの社員さん(中澤社 長)。 当初、社員の離職で悩んでいた中澤社長は、逆 転の発想で優秀な社員を引き抜かれるロスを考え るのではなく、引き抜かれても構わない、巣立って いく社員を歓迎するという社長自身が意識変革し たのである。中澤社長は、会社が社員を雇用する という従来の発想から、会社は社員の夢を実現す る手段の場という大胆な組織観の転換をしたので ある。これは、すでに述べた経営理念および四国 管財ベーシックにも反映されており、それを象徴す る制度が、「夢実現コース」である。「夢実現コース」 では、将来的に何か成し遂げたい人が、その夢を 実現するまでの間の生計を立てる手段として四国 管財を活用してもらおうという制度である。3-5 社員に対する万全のケア 四国管財では、社員満足を追求するにあたって 社員に対して様々なケアを行っている。代表的な ものとして、
1
つは産業カウンセラーによるカウンセ リングの場を設けている。社員の仕事にまつわる 悩みをカウンセリングによって緩和するというもの である。 さらには、社員の子どもに関する相談の場として 「たんぽぽ教育センター」を本社のワンフロアーに 開設して社員のワークライフバランスに対するケ アの場も設けているのである。ちなみに、「たんぽ ぽ教育センター」では、社員だけではなく地域の 人々の教育に関する相談も実施しており、地域に 対する貢献も果たしているのである。 このように四国管財では、社員満足の追求は仕 事だけに限らず、社員のワークライフバランスに 渡っても対応しているのである。さらには、その延 長線上で地域貢献も果たしている。IV
社員満足の実態
4-1 四国管財ベーシック 社員との価値観の一体化を促すために作成さ れた四国管財の社員満足を促すマネジメントの 根幹となる四国管財ベーシックに対して、実際に 社員はどのような認識をいだいているのであろう か。ここでは、社員が四国管財ベーシックに対して どのような認識を抱いているのかについて考察 する。 四国管財ベーシックがどのような点で社員満足 に影響を及ぼしているのかというと、共感である。 価値観に共感することによって、自らの仕事の意 義について納得でき、それゆえに仕事に対するや りがいが増してくるということである。 最初は、本当に、あのう、いろんなことを、起きて もいないこととか、いろんなことを考えるタイプだっ たんです。ですけど、やっぱり、物事って考え方次 第だなというのを感じて、悪いところも前向きに捉 えると、「前向きになるのだな」というのをすごく実 感して、「あっ、物事って、考え方次第だな」って実 感しています(現場リーダーM
氏)。 もう1
点が、日常行動の指針である。この指針に ついては、業務活動における指針となるばかりか、 業務の範疇を超えた日常生活における行動の在 り方にも応用できるということで、ベーシックに基 づく行動の実践を好意的に捉えているのである。 「感謝の気持ち」とか言われたら、きれいごと言 うたら何ぼでも言えるのですけど。なかなか、感謝 するって忘れがちなので、それをいかに持っておく か。それが、どうお客さんに対して伝わっているか わからんがですけど。とりあえず、社内から、いっ しょに働いている人らに感謝の気持ちを伝えてい くというのを自分は持つようにしちゅうがですけど (本社スタッフT
氏)。 四国管財ベーシックが社員満足に強い影響を 与えているのは、内容もさることながら、その浸透 にあたっての研修が有効に機能している。新人研 修や現場リーダークラス対象のキャップ研修をは じめ、様々な研修を通じて四国管財ベーシックに 触れる機会を与えている。とりわけ、研修において は、四国管財ベーシックの各パートを唱和するだけではなく、指名された人がそれにまつわる実体 験に基づくストーリーを語ることを義務付けてい るという暗記するだけではなく、実体験と結びつけ て腑に落ちるレベルにまで落とし込むという徹底 的な浸透策が大きな役割を果たしているのである。 4-2 ラッキーコールに対する認識 一般にクレームと呼ばれているトラブルや苦情 あるいは予期せざる問題をラッキーコールと肯定 的な表現に置き換え、「解決すべき問題」としてで はなく、「高品質サービスに直結する経営情報」と 逆転の発想で捉えるのが四国管財のマネジメン トの特徴であるが、社員にとってもラッキーコール という考え方は、クレームに真摯に対応することに よって、顧客との良好な人間関係が構築できるとい う点で積極的に捉えられている。 クレームと言えば顧客からのものを一般に想像 するであろう。ご多分に漏れず、四国管財において も同様であったが、ラッキーコールという言葉に象 徴されるようにクレームを好意的に捉えるように 意識を変化してからは、顧客からのクレームという よりも、現場社員から後に顧客からのクレームとし て生じる可能性のある事案を予めラッキーコール として本社に情報伝達するという習慣が確立され たのである。 最初は、「なんでやねん」と思いました。「何が、 ラッキーなん?」って。「こっちは、大変やのに」と思 いながら。やっぱり、そのう、何回か自分が現場の 人としゃべるようになってきてから、そういう説明を、 まあ、社長から聞いた話を説明するんですけど。 「確かに、ラッキーだよね」と。やっぱり、言うてく れる人がおるというのは、すごくありがたいので。 そのお客さんは、「そのまま、すっと行くのはいか ん」というて。言うてくれる感じをつくるのは、僕ら で。「現場の方と人間関係つくっちょかないかんと 言えんよね」というのは(本社管理職
C
氏)。 ラッキーコールの習慣が定着することによって、 現場社員は現場でのトラブルを報告したら必ず会 社が誠実に対応してくれるという信頼を抱くように なる。一方、本社スタッフの側は、現場における経 営情報を逐次把握できるだけではなく、現場社員 との人間関係、とりわけ、頼りにされるという感覚 が自らの仕事へのやりがい、内発的なモチベー ションに繋がっている。 一所懸命やる人ほど、クレーム起こすんですね。 便所の目皿運んだら「おっ」として落として割るん ですね。でも、これ目皿を運ぶ人しか割る権利は ない。仕事しいは、モノ壊すんです。ですから、叱ら れないわけですね。「大丈夫?けがない」、「大丈夫 だった?」と言われたら、クレーム起こしても叱ら れない、それとお客さんとの距離が近づくというの は、みんな分かってるもんで、あのう、ガンガン上 がってくるんですね(中澤社長)。 大体の人が1
人で仕事しよって、こう掃除中もの 動かして壊してしまったことがあっても、1
人しかお らんかったら、隠してしまおうと思ったら隠せるよ うなときもあるがです。そこで、あのう、やっぱり、 報告っていうのが大事になると思うんで。会社の信 用につながるので。そこで、報告が来るっていうの が、うちのすごいところじゃいかと思います(本社ス タッフW
氏)。したがって、ラッキーコールという習慣により、 本社と現場の信頼関係が確立され、現場と本社 の社員の頼り、頼られる関係が築かれ双方の社員 の内発的なモチベーションを喚起させる効果がも たらされたのである。 4-3 「夢」に基づく関わり合い 四国管財ベーシックにおいて組織と個人の価 値観の一体化を図っているが、一体化を図ると 言っても組織と個人の全面的な統合を促している わけではない。基本的には、仕事に携わるにあたっ て則るべき価値観であり、組織と個人の関係は経 営理念にもあるように夢を実現するための手段と して組織を活用するという間接的な統合に基づい ている4)。 変わったと思います。前まで、「あれやったらいか ん、これいかん」ばっかりで。やっぱり、夢描いて、 実現に向かって、経営理念ができたぐらいのころ ですかね。やっぱり、お客さんに向かって仕事する んじゃなしに、自分のために仕事することが経営 理念に出てきたときに、大分変わったと思いますね。 (中略)結局、何のためにということになる、最終、 自分のためになると思うのですけど。それがやっぱ りね、顧客第一主義ももちろん大事なことではある のですけど、お客さんがあるき自分も仕事できるの はもちろんですけど、最終的には自分の夢、目的の ためにというのが、堂々と言ってきたあたりから、た ぶん、社員さんてストンと落ちたんじゃないですか ね(本社管理職
C
氏)。 価値観の一体化を通じて社員をコントロールす るのではなく、個々の目的を実現する手段として会 社と関わりあうという方針に切り替わることによっ て、社員にとっては日々の活動が自分のためになる と認識できるようになった。そのために、合わすべ き価値観、守るべきルールが存在するという理解 ができるようになりモチベーションとなっているの である。社員にとっては、実際に現場で働く社員、 クレームの処理に当たるスタッフにしても、単純な 作業あるいはストレスのかかる仕事であるので、そ こから直接的なやりがいを導き出すことは容易で はない。むしろ、個人の目的を実現するために、組 織と関わる。そして、組織はそれをバックアップす るという信頼関係によって仕事に対するモチベー ションが向上するのである。 四国管財における間接的統合の象徴的な「夢 実現コース」の受講生は、自らの四国管財という組 織との関わり合いについて以下のように語って いる。 私、辞めること前提で入ってるので。そこは、変わ らないので。それがいつになるか分からないです けど。もう、だって、その最初にも言ったように入る きっかけになったのは、応援して、送り出してくれる 会社がいい。ここまで明確に言ってくれたので、そ こ信じるしかないですよね(テクノスタッフ夢実現 コースH
氏)。 何て言うんですかね、正直、すごい感謝はしてい るんですけど。自分は、イラストレーターになりた い夢がちゃんとあるので、そのときはちゃんときっ ぱりといくつもりですね(テクノスタッフ夢実現コー スT
氏)。6) Maslow()の欲求階層説によると欲求は、生理的、 安全、社会的、承認、自己実現という5つの階層から成り立っ ている。自己実現は永久に求め続ける成長動機であるのに対 して、それ以外の欲求は欠乏し満たすことができる欠乏動機 とされる。 5) Deci()によると内発的動機づけは、個人が有能感と 自己統制感を認識することによって喚起されるとしている。 この発言からは、極めてドライな印象を受ける のであるが、四国管財では「夢塾」と呼ばれる夢 実現コースに所属する社員たちの間で、自分たち の将来の夢について語り合う場を設けている。 「夢実現コース」をやっていて、なんか、あのう、 分かったことというか、「焦る必要はない」と。「順 を追って、夢を叶えていけばいい」というのを学ん で。だから、そのう、たとえば、いろいろまだ若いの で、やりたいこともあると思うし。仕事をしていく中 で、お金も入ってくるし自分のやりたいことを。そこ で、「もともと掲げておった夢が変わっていくことも 全然いい」って聞いて(テクノスタッフ夢実現コー ス
H
氏)。1
ヶ月ごとの「夢塾」があるということは、その度 のカリキュラムがあって、その度に「自分は去年こ ういう見方をしていたけど、今はこういう見方がで きる」と。新しい自分が発見できると。(中略)去年 の夢であったら、ただ単に「イラストレーターにな りたいというだけだったんですよ」。けど、今年は、 イラストレーターになって、自分の絵が世界で認め られるような絵描きになりたいと結構ひろがった 感じです(テクノスタッフ夢実現コースT
氏)。 「夢塾」という取り組みは、四国管財という組織 が夢を叶えるための生業の場を提供するというだ けではなく、夢を実現することに対して真剣にサ ポートする姿勢が伺える。それに対して所属する 社員もその意義を理解している。組織と個人の信 頼関係があるがゆえに、仕事に携わるときは、きち んと割り切って仕事に従事するという姿勢が確立 している。組織が個人を道具のように使うのでは なく、また、過度に一体化を求めるわけでもない。 辞めることを前提としつつも、所属している間はき ちんと割り切って組織の価値観にしたがって仕事 に従事するという組織と個人の関係が夢実現コー スでは顕著に表れているのである。 夢については、何も夢実現コースだけに限った 話ではない。四国管財では、社内誌『つもろう』に 入社した社員すべてに自らの夢を誌上で発表して もらうようにしている。各社員が社内誌に自らの夢 を発表することによって、改めて自分の夢について 考え、自らの意識で目標を設定し、それを組織内 に公表するということが制度化されているのである。 そうすることによって、組織と個人の間接的統合を 組織として奨励していることが認知される。結果と して、個人の夢を実現するために組織を活用して もらうという認識のもと、そのためのルールとして 組織の価値観を遵守してもらうという関係性が確 立されるのである。V
なぜ社員満足がもたらされるのか
5-1 承認欲求の喚起 モチベーションには、給料や賞与のように外部 から提供される報酬に基づき喚起される外発的 モチベーションと取り組む仕事からもたらされる 達成感や充実感によって「やりがい」という形でも たらされる内発的モチベーションによってもたらさ れる5)。 職務特性上、顧客の反応のような取り組んだ仕 事の内容に対して、直接的な反応、フィードバック がもたらされる。よい反応、あるいはフィードバッ クによって、個人の存在が認めて欲しい欲求であ る承認欲求が満たされる6)。承認欲求の充足という外発的な報酬が満たされることにより、取り組 む仕事に対してやりがいが芽生え、内発的な報酬 が満たされる。 一番嬉しいのは、対応しているお客様からの「あ りがとう」とか、何か「いつもきれいだよ」とか、そう いう声が一番なんですけど。あのう、どういうたら ええのかな、直接も嬉しいですけど、間接も嬉しい です。間接的に聞こえてくる。今、あのう、表彰みた いな感じで、ああいうのって逆にすごい嬉しいです ね(現場リーダー
U
氏)。 この「承認欲求の充足→やりがいの喚起」とい うサイクルは、顧客からだけではなく、組織内の上 司、同僚によってももたらされる。つまり、社長や本 社スタッフによっても現場社員は、このサイクルが 充足される。とりわけ、組織内における「承認欲求 の充足→やりがいの喚起」というサイクルが成り 立つ基盤には、組織と個人の信頼関係が必要不 可欠である。四国管財の事例においては、ラッキー コールによる現場での失敗を社員の個人に責任 を帰属させるのではなく、組織に帰属させるという 方針で一貫している。方針が一貫しているだけで は、必ずしも組織と個人の間に信頼関係は確立さ れないのであるが、有言実行を徹底していること で信頼関係が確立されている。建前で言っている のではなく、行動で実証する「実証主義にもとづく マネジメント」の実践によって信頼関係が構築で きているのである。 とにかく、そうですね、何かしてあげたいと思って ますよね。誰に対しても何か自分ができるんじゃな いかと。その時に自分がどんなに時間に追われて 忙しいのに、ちゃんと空けて会ったりとか、電話で 話したりとか、そういうことをしているので、つい忙 しかったら、そんなんね。それを後回しにしないで やっているというのは、すごいと思います(スマイ ル・サポーターY
氏)。 結構、仲良くなって来たら、いろんな相談しはる がですよ。「こんなこと、仕事と全然関係ないがや けどね」とかという話をされても、「全然、構わんよ」 という話を私はいつでもしてるので。まあ、社長が そういう考え方を持っているので、「別に、雑談をし てくれ」と。「キーパーさんと雑談は、全然構わん」 て。「仲を深めてもらって、構わん」ということなので (スマイル・サポーターM
氏)。 また、モチベーションに関しては、夢を実現する ために会社を活用するという間接的統合にもとづ く関係も影響を及ぼしている。夢を実現することが 内発的なモチベーションとなり、そのために組織 がサポートする姿勢を示すことも外発的モチベー ションとなる。すなわち、給与、承認欲求、夢のサ ポートという3
つのタイプの外発的なモチベーショ ン、および、それらが実現することによってもたらさ れるやりがいによる内発的なモチベーションの喚 起というように多層的な形でモチベーションが喚 起される仕組みになっている。 5-2 本社スタッフのフォロワーシップ 社員満足を促すマネジメントを実現するにあ たってのマネジメントの仕組みを実際に運営して いくにあたっては、本社のスタッフのフォロワーシッ プ抜きには語れない。フォロワーシップとは、組織7) Kelley()によると、フォロワーシップは、独自の批判 的思考と積極的貢献という2つの要因から成るとしている。 目的の達成のために部下であるフォロワーが積極 的にリーダーをサポートする行動を意味する7)。 仕事して、自分が任されたことをやっていく中で、 自然と変わってきたというか。まあ、最初は、自分 の技術を磨いたりとか。自分が納得する仕上がり が、目的だったのですけど。まあ、それでも喜んでも らえないお客さんが出てきて、「そのお客さんを喜 ばすために、どうしたらいいの」とか。「この従業員 さんを助けるために、どうやったら喜んでもらえる の」ということが、だんだん変わってきて、最終的に はだんだんひろがってきて、従業員さんを守るため に、会社を繁栄させるために、自分にできることは ないのかとだんだん変わってきました(本社管理 職
D
氏)。 時間とともに社長の考えをちゃんと理解してもら うことが、まず大事やと思うので、そこを分かっても らったら、何を社長がしたいのか分かったら、対 応はぶれんと思うので。あとは、その子と社長の信 頼関係をつくるのが大事かなと。今、何かその子 が社長と関わりを持った時に、足りないところが あったりした時は、言って「こういうようにする」とか、 持っていく時に「こう、持っていったら」とか、「こう 言ってみたら」とか(スマイル・サポーターY
氏)。 四国管財の事例においては、ラッキーコールの 現場対応に関しては営業チームのスタッフ、ラッ キーコールの対応および情報共有に関しては本社 お客様係のスタッフによるフォロワーシップが機能 している。また、フォロワーシップの原動力となるの は、現場社員へのサポートを通じて、信頼関係が 構築され、さらには、現場社員から頼りにされるこ とによって仕事に対するやりがい、すなわち、内発 的モチベーションが喚起されることにある。VI
社員満足が成果に直結する理由
6-1 高品質のサービス ビルメンテナンス業においては、商品ではなく サービスを提供する職務特性ゆえに、サービスを 提供する社員がいかに高品質のサービスを提供 できるかにつきる。したがって、サービスを提供す る社員のクオリティを決定づける要素は、モチベー ションであり、とりわけ、仕事に取り組むことから 湧き出る内発的なモチベーションが不可欠である。 モチベーションの高い社員がサービスを提供する ことは、高品質のサービスを顧客に提供するという ことにつながる。 6-2 現場情報の収集 定常的業務中心であると思われがちだが、対人 的なサービス業の特性ゆえに、職務遂行に影響を 及ぼす要因の不確実性と複雑性が高いので、迅 速な現場情報の提供が高品質のサービス提供に は不可欠である。この点において、ラッキーコール の制度が果たす役割が大きい。クレームに対して 会社が一切の責任を負うことを実際に示すことに よって構築された組織と個人の信頼関係によって、 クレームがラッキーコールとして社員による現場 情報の報告という側面を有するようになった。結果 として、現場情報の収集ができ顧客の詳細なニー ズに対応できるようになったのである。 6-3 価格に訴えない差別化戦略 ビルメンテナンス業界においての一般的な競参考文献
⦿Barnard, C.I.(). The functions of the executive,
Cambridge. Harvard University Press(山本安次郎・田. 杉競・飯野春樹訳『新訳 経営者の役割』ダイヤモンド
社,1968)。
⦿Deci, E.L.(). Intrinsic motivation. New York:
Prenum Press.(安藤延男・石田梅男訳『内発的動機づけ
─実験社会心理学的アプローチ─』誠信書房,1980年)。 ⦿Drucker, P.F.(). The practice of management.
Harper Business.(上田惇生訳『現代の経営上・下』ダイヤ モンド社,2006年)。
⦿岩出博(2014)『従業員満足指向人的資源管理論』泉分堂。.
⦿Kelley, R.(). The Power of Followership, New York:
Consultants to Executives and Organizations, Ltd. (牧 野昇 監訳『指導力革命─リーダーシップからフォロワー シップへ』プレジデント社, 1993年)。 争戦略は、低価格によるものである。それゆえに、 値引き合戦の過当競争となり結果として顧客満足 を引き出すだけの品質がもたらされない。それに 対して四国管財では、価格に訴えるのをさけ、高い 品質によるサービスを提供する差別化戦略を実 現することに成功した。その背景にあるのは、社員 満足を満たされた全てのポジションの社員が四国 管財ベーシックに基づく協力関係によって高品質 のサービスを提供する体制が築きあげられたこと にある。
VII
結論
社員満足と顧客満足の関係性について、四国管 財株式会社の事例研究を通じてその関係性を明 らかにしてきた。四国管財では、四国管財ベーシッ クによる価値観の共有、ラッキーコールに基づく 組織と個人の信頼関係の確立、「夢」に基づく関わ り合いという社員満足を充足するマネジメントを 通じて、価格に訴えない高品質のサービスを実現 する差別化戦略が機能し、顧客満足がもたらされ ることによって業績をあげていると結論づけること ができるのである。 なお社員満足をもたらすマネジメントが機能す る背景にあるのは、中澤社長の四国管財を社会的 に評価が得られる企業にしたいという強い信念と その信念に共鳴した経営幹部を主体とする本社 スタッフのフォロワーシップによって成り立ってい るのである。 図1 社員満足と顧客満足の関係 業績の向上 安定顧客の獲得 顧客満足 社員満足を実現する マネジメント 質の高いサービスの提供 価格に訴えない品質による差別化戦略の実現 モチベーションの高い社員 図1 社員満足と顧客満足の関係⦿Locke, E..A.(). The nature and causes of job satisfaction. In Dunnette, M.D.(ed.), Handbook of in-dustrial and organizational Psychology, pp.-,
Chicago: Rand McNally.
⦿Maslow, A.H.(). Motivation and personality. New
York: Harper&Row. (小口忠彦訳『人間性の心理学』産 業能率短期大学出版部, 1971年)。 ⦿西川一廉(2002)『職務満足. の心理学的研究』勁草書房。 ⦿太田肇(1994)『日本企業. と個人─統合のパラダイム転換─』 白桃書房。 ⦿坂本光司・価値研(2012)『.21世紀をつくる人を幸せにする 会社』ディスカヴァー・トゥエンティワン。 ⦿瀬戸川礼子(2008)『「顧客満足」. の失敗学社員満足がCS を実現する!』同友館。 ⦿志田貴史(2009)『会社. の業績がみるみる伸びる「社員満足 (ES)」の鉄則』総合法令出版。 図2 社員満足を満たすマネジメント 社員満足を実現する マネジメント ベーシック 夢 ラッキーコール CS から ES への転換 会社の地位向上を目指す 業界の常識に疑問そして打破 中澤社長の リーダーシップ 営業・本社スタッフの フォロワーシップ ⦿志田貴史(2013)『顧客. と会社を幸せにするES[社員満足]経 営の鉄則』中央経済社。 ⦿吉田寿(2007)『社員満足. の経営─ES調査の設計・実施・ 活用法』日本経団連出版。 図2 社員満足を満たすマネジメント