著作物再販 制度 の見 直 しの評価 (その 2)
――著作物再販制度の趣 旨の理解 に限定 して一一 I は じあめに 著 作物再 販制度 の見 直 しに関 しては, 看 過 す るこ との で きない本質 に関 わ る 問題 が 多数 存在 す る。 その うち, 見 直 しのプ ロセ スに係 る問題 点 につ いては, 1 )すでに検討を加えた。本稿では,残 された問題″
点のうち,著 作物再販制度の趣
旨が見直しを推進する立場においてどのように理解されてきたかを明らかにす
2 ) る とともに,そ の理解 が十分 であ ったか否かの検討 をす る。 検 討 対 象 として取 り上 げ るの は,「政 府規制 等 と競争政策 に関す る研 究会 再 販 問題検 討小委員会 」 が1995年 7月 に公表 した 「再 販適 用 除外 が認め られ る著作物の取扱いについて (中間報告)」(以下,「中間報告」という。
)の ,著 作物
再販制度の趣旨についての理解である。というのは,そ れが,以 後,見 直しを
D推進する立場の基調となったと判断されるからである。
以下,「中間報告」の理解を,① 著作物再販制度の立法趣旨,② 再販制度自体
に対する考え方,③ 著作物再販制度の位置付けの変化,に 分けて紹介するとと
もに,そ れぞれについて批判的検討を行 う。
1)拙 稿 「著作物再販制度 の見直 しの評価 (その 1)一 一見直 しのプ ロセスに限定 して一一」 彦根論叢307号35頁 (1997年)参 照。 2)な お,見 直 しのスタンスについては,別 稿 に譲 る。 3)判 断の根拠 は,次 の″点に求め られ る。第一 に,「 中間報告」の理解 には,本 稿 で検討す る ように種々の問題があるが,公 取委 は,そ れについては何 らの言及 もしていない。公取委 の この態度は,「中間報告」の理解 を黙認 したことを意味す る (理解 を共通に しているとま ではいえないが)。第二に,実 際に も,「 中間報告」の理解 を前提 として,著 作物再販制度 の廃止論が展開 され るに至 っている。例 えば,鶴 田俊正 『規制緩和』191頁以下 (1997年) 参照。 作 耕 田 内20 彦 根論叢 第 308号 結論 を先取 りすれば,「 中間報告」の叙述 には,論 証不 足の点,歴 史の歪 出 と 思 われ る点が 多々 あ り,著 作物再 販制度 の趣 旨につ いての理解 は十分 とはいえ ない。 む しろ,恣 意的 であ る とさえいえ る。 H 著 作物再販制度の立法趣 旨 まず,「中間報告」の理解 について叙述 し,そ の後,批 判的検討に及ぶ。 1.「 中間報告」の理解 「中間報告」は,著 作物再販制度の立法趣旨について,次 のように叙述する (1(2)ア , 2(3)ア )。 「一般に,著 作物に係 る再販制度の趣 旨は,次 のように説明されている。た だ し,後 記 2(1)〔補注一-2G)の 誤記か)の ように,立 法当時において制度の 趣 旨が明確 にされていた ものではない。 (ア)高 度 に非代替的な商品であって戦前か ら定4面販売が慣行 として行 われ て きた書籍 ・雑誌 などの著作物について,そ の定価販売が独 占禁止法上問題が ない旨を明確 にす ること。 (イ)一 国の文化の普及 な ど文化水準の維持 を図ってい く上 で不可欠な多種 類の書籍等が同一の価格 で全国的に広範に普及 され る体制 を維持す ること。 なお,当 時,ア メ リカにおいては消費財について再販行為が認め られていた こ と,西 ドイツ (当時)に おいては連邦議会 に提 出されていた競争制限禁止法 政府案 に商標 品のほか出版物の再販適用除外が定め られていたことが我が国の 昭和28年改正 に影響 を与えた とされている。」 「昭和28年の改正の際に,著 作物に係 る再販行為 を独 占禁止法の適用除外 と す るこ とにつ いて,前 記の ような立法趣 旨 〔補注一一定価販売の慣行 の存在, 文化水準の維持〕が具体的に明 らかにされていたわけではない。昭和28年改正 法案の審議においては,著 作物 に係 る再販制度 を認め る趣 旨としては,当 時行 われていた書籍等の定価販売制度が独 占禁止法上問題 ないことを確認す る趣 旨 で適用除外規定 を設けた と説明 されているに とどまっている。」 2.「 中間報告」の理解の批判的検討
著作物再販制度の見直しの評価 (その2) 21 著作物再販制度 の立法趣 旨につ いての 「中間報告」 の理解 の批判的検 討 に先 立 ち,立 法趣 旨をめ ぐる一般 的 な理解 につ いて触 れ てお くこ とが有益 であ る。 (1)立 法趣 旨 をめ ぐる一般 的 な理解 著 作 物再 販制度 の立法趣 旨は,一 般 4 )
に次のように理解されている。
立法時に明らかであったのは,次 の点である。①一定の限度内であれば,再
販制度を許容 してもよいとする認識が一般にあった。②西 ドイツの競争制限禁
止法政府案 には,出 版物 の再販適用 除外規定 が設け られ てお り,そ の影響 を受 け た。 5 ) したがって,立 法趣旨として一般に挙げられる次の″点は,後 付けされた。① 出版物については戦前から定価販売制度が行われてお り,か つ消費者にもなじ み深いもの となってお り,そ の商慣行が追認された(商慣行追認説)。②出版業 界は,総 体 として競争的性格の強い市場構造を有 してお り (多数の出版業者, 高い比重の中小・零細企業,活 発な新規参入),再 販制度の弊害は少ない (弊害 希薄説)。③著作物は,文 化の普及 ・文化水準の維持 を図る上で不可欠であ り, その存在 を確保するためには,発 行の自由の名実的保障,多 種類の著作物が全 国にわたって広範に普及される体制の維持 (取次の機能の円滑化 と多数の書店 6 ) の確保)が 必要 であるが,再 販制度はこの要請に最 も適合的である (文化的配 慮説)。 修)「 中間報告」の理解 の批判的検討 立 法当時,著 作物再販制度の趣 旨 が具体的に明 らかにされなか ったことは,事 実 として一般 に了解 されてお り, の 異論 はない。 しか し,こ の事実 を有力な論拠 として,著 作物再販制度には固有 4)本 稿 の整理 は,辻 吉彦 『改訂新版 再 販売価格維持制度』2127頁 (1995年)に 依拠 し た。 5)批 判的検討 については,さ しあた り,辻 吉彦 「出版物再販制度 (法定再販)の 再検討一 ―制定理由の側面か ら一一」公正取引360号4, 5-7頁 (1980年),鈴 木満 「音楽用 CD等 の再販適用除外の取扱 いについて」公正取引500号13,1415頁 (1992年)参 照。 6)な お,文 化的配慮説は多様 であ り,次 の ような見解 もある。① 同一の著作物について同 一 の価格 を保障す る再販制度は,全 国あまね く,文 化の均等な享受 を可能 とす る。②再販 制度 は,著 作物 の文化 的価値 の低 落 を防止す る上 で必要 であ る。辻 ・前掲 (注4)27頁 参 照 。 7)こ の″くは,中 間報告 に対 して急進的な批判 を行 う伊従寛 『出版再販一一書籍 ・雑誌 ・新 /22 彦 根論議 第 308号
の趣旨が乏しいとの結論を導出することには疑間が残る。その結論を導出する
前に,な お,次 の″
点が検討されていなければならない。①隠れた立法趣旨が存
在するのではないか。②西 ドイツの競争制限禁止法政府案に関しては出版物再
販制度の趣旨をめ ぐりどのような議論が行われていたのか,ま たわが国におけ
る著作物再販制度の導入に際してそれがどのように参照されたのか。③制度の
趣 旨が後付 け され た として,そ れ は どの時期 であ ったのか。この点,「中間報告」 に は,十 分 な検 討 が行 われ た形跡 はない。 (a)隠 れ た立法趣 旨の存在 立 法趣 旨が明示 されて いない として も,制 度 を受容 す るだけの実質 的 な理 由が存在 す るのが通常 であ る。実質 に 目を向け る こ とな く形式 に固執 す るの は,制 度理解 としては問題 が あ る。この″点,「中間報 告 」 は,書 籍 等 の定価販売制度 が 当時行 われて いた経緯 に まで立 ち入 り,実 質 的理 由が 隠 され てい るか否か を探査 す るこ とには 目を向け よ うとしていない。 (b)西 ドイツの競争制限禁止法政府案の影響 「 中間報告」は,出 版物の 再販適用 除外が西 ドイツの競争制 限禁止法政府案 に定め られていたこ とが, 1953年の独禁法改正に影響 を与えたことを認めているのであるか ら,進 んで次の二″
点を解明する必要があった。①競争制限禁止法政府案における出版物再販
制度の趣旨をめ ぐる議論。②当該の議論がわが国における著作物再販制度の導
入に及ぼした影響。しかし,「中間報告」からは, どのような検討がなされたの
か,分 からない。以下,問 題状況を明瞭にしておこう。
ア 出 版物再販制度の趣 旨をめ ぐる西 ドイツの議論 競 争制限禁止法政府 案理 由書 は,出 版物再販制度の趣 旨に関 して次の ように叙述 していた。「〔商標 品の場合 と〕同様の理由によ り,出 版物について もまた10条――現行法15条(個 別的再販売価格維持契約)― ― の禁止に関す る例外が認め られ る。 これにより ドイツにおいては,こ こ数十年来,ま た多少の例外はあるとして もほ とん どの ヽ聞の将来は ?』 (1996年)も 認めている (41頁参照)。 8)引 用 は,高 橋岩和 「書籍 の再販売価格維持制度 と競争政策一― ドイツ とフランスにおけ る流通実態 を中心 として一一」公正取引554号41,47頁 (注3)(1996年 )に ほぼ依拠 して い る。著作物再販制度の見直しの評価 (その2) 23 文化 国家 にお いて採 用 されて きた書籍 取 引におけ る定価制度 が許容 され るので あ る。 これ は,書 籍 取 引におけ る販売 と清算過程 の全組織 な らびに書籍販売業 者 の良 く育 成 され た地位 の保 持 と密接 に結 びつ くもの で あ って, しか もこれ に よって著 作者,出 版業者 お よび書籍 販売業者 の利益 は何 ら侵 害 され る ところで は ない。」 これ は,文 化 的配慮 説一― わが 国におけ る著作物再販制度 の立法趣 旨 として 9 ) 一般に挙げられるもの十 と ほぼ 致 す るとされる。 ここでは,こ の事実 を確 認す るだけでよい。 イ わ が国におけ る著作物再販制度の導入に及ぼ した影響 「 中間報告」 は,「西 ドイツ (当時)に おいては連邦議会 に提 出されていた競争制限禁止法政 府案に商標 品のほか出版物 の再販適用除外が定め られていたことが我が国の昭 和28年改正 に影響 を与 えた とされてい る」 旨叙述す るのみで,影 響の諸相 につ いては何 らの言及 もしていない。 しか し,わ が国が著作物再販制度 を導入す る に当た り西 ドイツの議論 を参考 に した主体がだれであるかは,極 めて重要 な意 味 を持つ。 この点については,次 の叙述が見受け られ る。「公正取引委員会 では,事 務局 長が西 ドイツに出張 して調査 し,関 係資料 をもち帰 りました。 この競争制限禁 止法案 を参考 に して,1953年 に独 占禁止法改正案が作成 され,同 年春 に議会 に 提 出され,同 年夏に改正案 は一部修正の うえ成立 したのです。」「日本での1953 年改正による再販制の適用除外は,〔中略〕西 ドイツ法 をモデルに しておこなわ れています。」 この叙述に従 えば,出 版物再販制度 をめ ぐる西 ドイツの議論は,公 取委が参 考 に した とい うこ とがで き,そ こでは,趣 旨をめ ぐる議論 も参考 に した と推察 され る。 このことは,著 作物再販制度導入後の運用 も,そ の趣 旨に即 して行 わ れたこ とを窺 わせ る。 この推察 を否定す るのであれば (趣旨をめ ぐる議論は参 考 にされなか った等),そ れな りの論拠 を示 さなければならない。 この点,「中 9)高 橋 ・前掲 10)伊 従 ・前掲 (注8)42頁 参照。 (注7)37,39頁 。 また,辻 ・前掲 (注5)4-5頁 参照。
24 彦 根論叢 第 308号 間報告」 は何 らの言及 もして いない。 (C)制 度 の趣 旨の後付 けの時期 制 度 の趣 旨が後付 け され た として,そ れ が どの時期 であ るか は,重 要 な意味 を持つ。立法直後 であれば,実 質 的 な立法 趣 旨を窺 わせ るこ とに もな る し,ま た,立 法 直後 か らその趣 旨に即 して法運用 が行 われ た こ とを推察 させ るこ とに もな る。 この点,1954年 3月 刊行 の公正取引委員会事務局 (編)『改正独 占禁止法解説』 は,次 のように叙述 していた (293頁)。著作発行物の再販売価格維持 につ き, 特掲 して独禁法の適用除外 とす る特71Jを設けたのは,「普通の商品 とその性質 を 異に し,再 販売価格の維持 を必要 とす る程度 も又 この制度に対す る適応性の程 度 も高い為 であろ う」。 また,1954年 2月 刊行 の辻吉彦 『再販売価格維持契約の手引』は,次 のよう に叙述 していた (68頁)。「著作物に対 して,特 に例外 を設け,他 の一般商品に 比 して一種の恩典 を与 えているのは,著 作物が伝統的に定価維持制度 を実施 し てお り,い わば再販売価格維持制度が消費者に とつて最 も馴1染の深い ものにな つていること,こ の業界におけ る競争は昔か ら不断に活発 な ものであ り, しか も著作物の本質は文化財 であつて,且 つ,そ の種類が極めて多いことなどが考 慮 された結果であろ う。」 しか し,「中間報告」は,後 付けの具体的様相 には 目を向けていない。 この点 で も,「中間報告」の論証は十分 ではない。 IH 再 販制度 自体 に対 する考 え方 再販制度 自体 に対す る 「中間報告」の理解 について検討す るに際 しては,再 販行為一般 に対す る 「中間報告」の理解 について も併せ検討 してお くことが有 益 である。以下,後 者の検討か ら始め る。 1.再 販行為f般 に対す る 「中間報告」の理解 (1)「 中間報告」の理解 「 中間報告」は,次 のように叙述す る (2G)イ 前段)。「昭和28年改正以前に も再販行為 を違法 とす る審決が出されているが, 11)な お,著 者は,当 時,再 販契約 の実務 を担当 していた企業課の係長であった。
著作物再販制度の見直 しの評価 (その 2) 25 昭 和 28年 の 時 ″点で は,独 占禁 止 法 の解 釈 ・運 用 上 ,再 販 行 為 一 般 が独 占禁 止 法 に 『原則 として』違反す る行為 であることは必ず しも確立 していなか った。 こ の点で,再 販行為 が競争 を阻害す るおそれがあることについての認識は,こ の 時点では十分 な ものではなか った もの と考 えられ る。」 修)「 中間報告」の理解 の批判的検討 「 中間報告」の理解に関 しては, ①理解 の内容が妥 当であるか,② 検証 ・批判 を可能 とす る論拠 ・典拠が示 され ているか,が 問題 になる。 なお,「中間報告」の理解 は,今 村説 を参照 したふ し がある。 そこで,今 村説か ら 「中間報告」の理解 を導 き出す ことができるか否 か も,併 せ検討す る。 (a)理 解の妥当性 「 中間報告」の理解 については,疑 間がある。 この点, 公正取引委員会事務局 (編)『独 占禁止政策三十年史』 (1977年)は ,次 の よう に叙述す る (93頁)。「再販売価格維持行為 は,第 4条 の共同行為 に該当 し,い わゆ る縦のカルテル として解釈 されていたが,東 京高裁判決によ りこの解釈が 否定 されてか らは,不 公正 な競争方法 として規制 されていた。」 また,『改正独 占禁止法解説』 (前出I12.修XC))は,「独禁法 との関係」とい う 見出 しの下 に,次 の ように叙述す る (279-80頁)。 「再販売価格維持 は,生 産者等が販売によつてその製品が 自分 の支配 を離れ た後 も,相 手の販売業者に,そ の定めた価格以下で販売 してはならない とい う 拘束 を加 えるものであるか ら,従 来独禁法の諸規定,特 に取引の相手方 と顧客 との取引 を不 当に拘束す る条件 をつけて物 資等 を供給 してはな らない とい う (旧第 2条 第 6項 第 6号 )不 公正 な競争方法の禁止規定 (第19条)に 違反す る おそれがあるもの と解 されて きた。再販売価格 に も関係 ある審決例 としては例 え↓ゴ 『北海道バ ター (株)ほ か 8名 に対す る件』 (昭25判28)又 は 『(株)中 山 太陽堂外 6名 に対す る件』 (昭25判58)等 がある。 〔中略〕 いずれ も不 当な取引 12)そ の他,「中間報告」の立場 に比較的近 い見解 として,中 村富士郎 『再販売価格維持制度 の理論 と実際』123-32頁 (1972年)参 照。 13)併 せ て,辻 吉彦 『再販売価格維持契約 の手引』12-15頁 (1954年)参 照。 14)な お,当 時,19条 が適用 された事件 がなか ったのは,個 別 メー カーによる再販行為が未 発達 であったこ とに よる。長谷川古 F再販売価格維持制度 〔改訂版〕』142,15052頁 (1979ノ
26 彦 根論叢 第 308号 制 限及 び対価 の協 定 として独 禁 法 第 3条 及 び第 4条 違 反 とされ た。 もつ とも適 用 条文 の是 非 につ いては学 界等か らも異論 が あ り,又 朝 日新 聞社 等新 聞発行 本 社 と新 聞販売店 との縦 の契約 関係 に基 いて行 われ た新 聞販売店 の地域協定 を, 独 禁 法 第 4条 に違 反す る共 同行為 とした審決 (昭24判20)に 対 しては東京高裁 判決 (昭26-行ナー第10号,第 11号)は ,新 聞発行本社 とその販売店の間の よう に 『取引の段階 を異にす る事業者間の当事者の一方にだけ拘束を加えるような 行為』は,第 4条 にい う共同行為 にあてはまらない とされた為,今 日では,一 般 に前述の不公正 な競争方法 (新法 では不公正 な取引方法)と 解す るのが多数 説 となつているが,しヽずれ を採 るに して も,右 の ような再販売価格維持 は,旧 独禁法の下では違反 と解釈 されていることは変 わ りはなかつた。 今次の改正 によ り第 4条 は削除 され,不 公正 な競争方法は不公正 な取引方法 と改め られ,そ の内容 も多少変更 されたが,や は り再販売価格維持は,一 般に 不公正 な取引方法に該 当す ると解 されている。 もちろん再販売価格維持の方法 は多様 であ り,不 公正 な取引方法 とならない もの もあるであろうが,再 販売価 格維持契約 を結び,そ れに違反す るものに対 し,違 約金 を科 し,又 は取引の停 止 を行 うこと,あ るいは契約 に応 じない者に取引を拒絶す ることなどは,第 2 条第 7項 第 4号 の 『相手方の事業活動 を不 当に拘束す る条件 をもつて取引す る こ と。』に該 当 し,不 公正取引方法の一般的指定 を行つた公正取引委員会告示第 11号の 8又 は 2に 該 当す ると解 され る。 それ故改正法は,新 たに本条 〔第24条 の 2〕 を設け,正 当な再販売価格維持 には独 占禁止法 を適用 しない旨を明 らか に した。」 これ らの叙述 に照 らせ ば, 1 5 ) 「中間報告」の理解 は適切 とはいえない。 ヽ年)参 照。 15)こ の点 は,す でに伊従 ・前掲 (注 7)が 指摘す るところである (7677頁 )。併せ て,赤 木晩 「共 同行為 と再販売価格 の維持」公正取 引 9号 1, 3頁 (1950年),長 谷川古 「再販売 価格維持適法化 の意義」公正取引42号23,25頁 (1953年),江 上勲「出版物の再販売価格維 持 に関す る独禁法違反事件 につ いて一一 商標品の一般的性質 と独禁法 との関係一一」公正 取 引102号 6, 6頁 (1959年),利 部脩二 ・糸 田省吾 「再販維持契約 の法律上 の諸問題(2)一 一適用除外規定一一 その(1)」公正取引206号14,15頁 (1967年),谷 回克彦 「再販価格問題 と独 占禁止法」通商産業研究149号150,15卜 54,166頁 (1968年)等 参照。
著作物再販制度の見直しの評価 (その2) 27 (b)検 証 ・批判 を可能 とす る論拠 ・典 拠 の提示 「 中間報告」 の引用箇所 には,論 拠 ・典 拠 が示 され ていない。 1953年改正 以前 に再 販行為 を違法 とす る 審決 が な され て い た こ とか らす れ ば,1953年 の時点 では,独 禁法 の解釈 ・運用 上,再 販行為 一般 が原則 として独禁 法 に違 反す る行為 であ るこ とは確 立 してい た と認識す る方が筋が通 る。 その点 につ いて異 なった認識 をす るのであれば, その論拠 を積極的に展開す るか,典 拠 を示 さなければならない。 そ うでなけれ ば説得力に欠け るし,検 証 ・批判 も困難 ・不可能になる。 (C)今 村説に依拠す ることの是非 ま ず,今 村説 を紹介す る。その後,今 村説か ら 「中間報告」の見解 を導 き出す ことができるか否か を検証す る。 ア 今 村説の紹介 1966年 に公表 された今村成和 「再販売価格維持 と独 占 禁止法制」 (経済法 9号 )は ,次 の ように叙述 していた (4頁 )。「再販売価格維 持 は,横 のカルテル と並ぶ縦の価格拘束であるが,従 来のわが国においては, 殆ん ど問題 とされ ることがなかった。 それは,そ の社会的影響が余 り重視 され なかったこ とに もよるが,ま た一つには,独 占禁止政策の観点か ら見た場合に も,許 容度が高い と考 えられたことによるものであろう。 すなわち,再 販売価格維持 は,第 一に,必 ず しも当然に,独 占禁止法に違反 す る行為 ではない と考 えられ, また,第 二に,場 合 によっては,積 極的に許容 す るこ とが適 当な場合 もある, と考 えられたのであって, と くに,昭 和28年の 改正では,第 二の観点か ら,24条 の 2に 適用除外規定が設け られ るに至 ったの である。」 イ 「 中間報告」の見解 を導出す ることがで きるか否かの検証 今 村論文 は,次 の二つの点で読み方に注意 を要す る。第一は,執 筆の動機 ・問題意識が 次の ように叙述 されているとい うことである (2頁 )。「本稿 は,今 〔昭和41年〕 秋の経済法学会 におけ るシンポジウムの討議資料 として準備 された ものである。 但 し,再 販売価格維持行為 に適用 され る独 占禁止法の禁止規定及び適用除外規 定の解釈,適 用については,別 に,丹 宗,正 田両教授の報告が予定 されてお り, 16)な お,本 論文 は,今 村成和 『私 的独 占禁 止法の研究 (三)』(1969年)に 収録 されている (222頁以下)。
28 彦 根論叢 第 308号 本稿 は,い わばその序論 ない し総論的部分 に相 当す ることとなる。」第二は,引 用箇所が,競 争政策の観″点よ りす る再販売価格維持の問題の所在 として叙述 さ れているとい うことである。 これ らに照 らせば,今 村論文の引用箇所が独禁法の解釈 ・運用に言及 してい るとみ ることには問題が残 る。実際の ところ,引 用箇所 には,「独 占禁止法の解 釈 ・運用上」 とい う文言は見当たらない。他方,1967年 に刊行 された今村成和 『独 占禁止法』は,次 の ように叙述す る (167頁)。「再販売価格維持行為 は,独 占禁止法 3条 ,旧 4条 又は19条に当るとされ,若 子の適用事例 〔中略〕 も存 し たのであるが,昭 和28年法律259号の改正によって,ア メリカおよび西 ドイツ法 と同型の適用除外規定 (24条の 2)が 設け られ るに至 った」。独禁法の解釈 ・運 用 につ いての客観的認識は,こ こに示 されていると見なければならない。 今村論文 ・著書は,競 争政策の観″点と独禁法の解釈 ・運用 を厳然 と区別 して いる。「中間報告」が今村論文 を参照 した とすれば,読 み方 を間違えている。今 村論文 と今村著書 を合成 した とすれば,趣 旨 ・目的 を異にす る叙述 を合成 した との誹 りを免れない。「原則 として」 とい う文言 を強調 した り,「必ず しも」 と い う文言で限定 して も,こ の状況に変わ りはない。む しろ,あ いまいさを増す だけである。 2.再 販制度 自体 に対す る 「中間報告」の理解 (1)「 中間報告」の理解 「 中間報告」は,次 の ように叙述す る (2僧)イ 中段,後 段)。 「昭和28年改正 当時の公正取引委員会 は,再 販行為 を独 占禁止法の適用除外 とい う形で政策的に許容す ることについて も,こ れは小売業者に最低利潤 を保 証す る制度 であって,そ の弊害はそれほ ど大 きくない との認識の下に,比 較的 寛容 な立場 を採 っていた。 このため,か な り幅広 い範囲の商品を再販指定の検 討の対象 とす る方針が示 されていた し,実 際に も,改 正法施行か ら昭和30年代 前半にかけては現在 よ りも多 くの商品が再販指定 されていた。 この ように多数の指定再販商品が存在す ることを前提 として再販制度 を考 え 17)今 村成和 『独 占禁止法 〔新版〕』 (1978年)の 叙述 も同様 である (204頁)。
著作物再販制度の見直しの評価 (その2) 29 ていた ため,こ れ との均衡 上,既 に定価販売 の慣行 が成立 していた書籍等 につ いて再販行為 を許容 す るこ とは,政 策的に も問題が少 ない と考 え られた もの と 思 われ る。」
修)「 中間報告」の理解の批判的検討 「 中間報告」の理解に関しては,
次のことが問題になる。①再販制度は小売業者に最低利潤を保証する制度であ
って,そ の弊害はそれほど大きくないと認識されていたか。②再販制度に対し
て比較的寛容な立場が採られていたか。③かなり幅広い範囲の商品を再販指定
の検討対象とする方針が示されていたか。④現在よりも多くの商品が再販指定
されていたとの評価は適切であるか。⑤指定再販制度との均衡上,著 作物再販
制度の許容は政策的にも問題が少ないと考えられたか。
(a)再 販 制度 につ いての公 取委 の認識 再 販制度 の存在理 由,再 販制度の 弊 害 に分 け て,検 討 を加 え る。 ア 再 販制度 の存在理 由 「 中間報告」 は,再 販制度が 「小売業者 に最低 利潤 を保証 す る制度 であ」 る と公取委 に よ り認識 され ていた旨叙述す る。以下, 立法段 階 と運用段 階 にわけ て,再 販制度 の存在理 由につ いての公取委 の認識 を 探 る。 立法過程 においては,横 田正俊公取委員長は,次 のような提案理由補足説明 ・答弁 をしていた。 「従来不 当廉売,お とり販売等の不 当な競争が主 として小売面で行 われてお り,こ れがため小売商の利益 を侵害 し,ひ いては一般消費者に も悪い影響 を及 ぼ している実情にかんがみ まして,一 定の 日用商品,書 籍等に限 り,再 販売価 格維持契約,言 いかえますれば定価拘束制度 を独禁法上適法 な もの といた した のであ ります。」 「労働者に最低賃金,農 民に最低価格,小 売業者には最低の利潤 を保証す る とい うような一つの考 え方か らいた しまして,こ の維持契約 を認めるというこ とが今度の改正の主要 な 目的でございます。」 1 8 ) 以 下の引用 は, 谷 日 ・前掲 ( 注1 5 ) 1 5 5 頁,『独 占禁止政策二十年史』145,146頁 (1968 年) に 依拠 した。30 彦 根論叢 第 308号 「結局,一 面にお きましては小売業者の保護,一 面にお きましては, メーカ ーの保護 ということになるわけでございますが,主 といたしましてねらつてお ります点は,小 売業者の保護 とい う点にあるのでございます………あるいはお とり販売 一消費者 を誤 らせ るようなお とり販売 を防 ぐとい う面が ございまして, これはメー カー といた しまして もその品物の信用 を保持す る………」 これ らの提案理 由補足説明 ・答弁 に従 えば,公 取委は,小 売業者の最低利潤 保証 に重″点を置いて再販制度 を理解 していた といえる。 しか し,そ の理解 は, 「中間報告」がいうほど単純化 されたものではない。 メーカーのブラン ド品の 信用保持,一 般消費者の保護についての言及 もあ り,そ れ らも存在理由の一端 をなす との認識が示 されている。 他方,運 用段階におけ る公取委の理解 は,解 説書か ら推察す るほかない。 こ の点,『改正独 占禁止法解説』(前出I12口修XC))は,次 のように叙述 していた(278 頁)。「再販売価格維持制度は,こ の ような 〔同一の ものであることが消費者に す ぐ判 るとい う〕商標 品の性質か ら撹乱 され易 い販売秩序 を維持す ることを目 的 として,発 達 して きた ものである。」 また,『再販売価格維持契約の手引』 (前出I12.修XC))は,生 産者,卸 ・小売 業者,消 費者に とっての再販制度の利点 を,そ れぞれ次のように叙述 していた (8-10頁参照)。① お とり廉売が激 しくなると,販 売業者の利益 は少 な くな り, 販売意欲の減退 を来す。 その結果,生 産者は,「のれん」を侵害 される。再販制 度は,生 産者が乱売に意 を用いることな く,品 質の向上等に力 を傾注す ること
を可能とする。②乱売が業界全体に蔓延すると,正 当な利益は確保できず,経
営は不健全になる。再販制度は,販 売業者の適正な利潤を確保 し,販 売秩序を
保つことを可能とする。③乱売の程度が激しくなり,そ れが広範囲に広がると,
商品の品質が次第に低下し,販 売業者は取扱いの意欲を減退する。やがて,当
該の商品は,消 費者の購買意欲 とは無関係 に,次 第に市場か ら姿 を消す。再販 制度 は,適 正利潤 と品質の保証によ り販売秩序 を維持 し,こ の秩序が乱れて, 商品が市場か ら姿 を消 した り,品 質が低下 した りす ることのないようにす る。 これ らの解説書の叙述に従 えば,公 取委は,再 販制度が,お とり廉売等か ら著作物再販制度の見直しの評価 (その2) 31 小 売業者 を保護 す る とともに, メ ー カー のブ ラン ド品の信用 を保持 し, また一 般消 費者 を保 護 す る と認識 していた こ とが推察 され る。 そこで,次 のことが, ここでの結論 となる。再販制度が 「小売業者に最低利 潤 を保証す る制度であ」 ると公取委が認識 していた とい うのは,再 販制度の存 在理 由 として公取委が認識 していたこ との一部 を取 り上 げているに過 ぎない。 しか も,こ の短絡的な理解が著作物再販制度の趣 旨を検討す る前提 とされ るに 至 っては,当 該の理解 の問題性はさらに増幅 され る。 イ 再 販制度の弊害 「 中間報告」は,再 販制度の 「弊害はそれほ ど大 き くない」 と公取委によ り認識 されていた旨叙述す る。 しか し,こ の点,『改正独 占禁止法解説』 (前出I12.修XC))は,次 のように叙 述す る (283-84頁)。「本条 〔24条の 2)は ,い うまで もな く個々の生産者によ る縦の関係の再販売価格維持 を認めた もので,そ の商品に 自由な競争が行 われ てい ることを要件 としている。 そ してその濫用防止に万全 を期す為,商 品の指 定 と契約 の届 出制 を採つ た。」 また,『再販売価格維持契約の手引』 (前出I12.修XC))は,次 のように叙述す る(1卜14頁)。「弊害の起 り易 い制度 につ いて,こ れ を無条件 で認め るわけにい かないことは当然であつて,〔中略〕昭和28年 9月 の独 占禁止法改正によつて, 一定の条件の もとで同法の適用 を除外することになつたのである。すなわち, 一定の条件 とは,こ の制度の実施に伴 う弊害をなるべ く予防 し, もし弊害が生 じた場合 には,そ れ を除 くことがで きるような条件である。」 そ して,一 定の条件 として,具 体的に次の ものを挙げる(14頁)。①契約の対 象 となる商 品 を, 日用必需品であ り自由な競争が行 われていると公取委が認め て指定 した商品に限ったこと。②契約の仕方 を直接取引関係のある者に限定 し, しか も非契約者拘束制度 を認めなか ったこと。③契約の内容が,再 販売価格維 持 の 目的 を達成す るために必要 な範囲 を超 えていない ものにつ いてだけ,適 用 除外 を認めたこ と。④一般消費者の利益が不 当に害 され ることとなる場合 と, 販売業者が生産者の意に反 して契約 をす る場合 には,適 用除外 を認めないこと。 ⑤契約 について届 出制度 を設けたこと。
32 彦 根論叢 第 308号 1 9 ) これ らの叙述に照 らせば,再 販制度の弊害はそれほ ど大 きくない と公取委が 認識 していた との 「中間報告」の理解 には,問 題がある。 (b)再 販制度に対す る公取委の立場 「 中間報告」は,公 取委が再販制度 に対 して 「比較的寛容 な立場 を採 っていた」 旨叙述す る。 しか し,再 販制度の 存在理 由,再 販制度の弊害についての公取委の認識か らすれば,「中間報告」の 理解 には,問 題がある。 また,再 販指定の方針,再 販指定の実際 をみて も(後述(C),(d)),この評価に 変 わ りはない。実際に も,次 の ように叙述 されている。「公正取引委員会が,こ れ までに商品の指定 を行 なった実情についてみ ると,当 該商品について,そ の 要件 をみた しているか らといって,こ れ を積極的に認めた ものではな く,業 界 の要望 に もとづ き,そ れが指定要件 に合致 しているものについて指定 をしてい る。 これは,再 販制度は本来,競 争制限的行為 であるので,要 件に合致す るか らとして積極的に認め ることには問題があ り,再 販制度の趣 旨に照 らして,こ れ を実施す る積極的な理 由がある場合 にのみ認め るのが妥当であるとす る考 え 方に よるもの と思 われ る。」 (C)再 販指定の方針 「 中間報告」は,「かな り幅広い範囲の商品を再販指 定の検討の対象 とす る方針が示 されていた」旨叙述す る。 しか し,『独 占禁止政 策二十年史』 (1968年)は ,こ の点について次のように叙述す る (223頁)。「独 占禁止法第24条の 2第 1項 に規定す る商品の指定は,同 条第 2項 に規定す る要 件 を充足す る限 り,公 正取引委員会の 自由裁量に委ね られているが,昭 和28年 9月 の再販売価格維持契約制度の発足当初か ら,再 販売価格維持契約の実施 を 望む業界か らの指定要望書 をもとに公正取引委員会 で調査 し,指 定す る方針 で 進め られて きた。」 実際の ところ,『再販売価格維持契約の手引』 (前出I12.修XC))は,次 のよう 19)併 せ て,史 談会 「独 占禁止政策20年の回顧」 F独占禁止政策二十年史』389頁 (1968年) 参照。 20)も っ とも,公 取委 による初期 の運用は必ず しも厳格 ではなか った との見解 も見受け られ る。谷 口 ・前掲 (注15)158頁 参照。 21)二 瓶寿郎 「再販契約 の実施状況につ いて」公正取引245号 5, 5頁 (1971年)。
著作物再販制度の見直しの評価 (その2) 33 に叙述す る (24,30頁)。「公正取引委員会 による商品の指定は,原 則 として, 指定 を要望す る業界な り事業者な りの意思表示があつて,は じめてその可否 を 検討す る建前になつている。 〔中略〕これ までの商品指定では,業 界か ら要望書 及び説明資料が提 出され,そ れ を中心 として指定の可否が検討 されて きた し, 今後の指定 で も,同 様 に行 われ るであろう。」「商品の指定 は,提 出された要望 書 を基礎 に して,指 定の基準に照 らして,1真重 な調査 と判断がなされ る。」 「中間報告」の叙述が具体的に何 を意味す るかは必ず しも判然 としないが, 次のこ とを意味す るとすれば,明 らかに実際の運用 とは異なる。すなわち,公 取委が,先 見的に,か な り幅広い範囲の商品を再販指定の検討対象 とす るとか, 特定の商品 を検討対象 とす るとか を方針 として決定 した上 で,再 販指定に臨ん だ とい うことである。 (d)再 販指定の実際 再 販指定は,制 度発足の当初か ら,再 販契約の実施 を望 む業界か らの指定要望書 をもとに公取委 で調査 し,指 定す る方針 で進め ら れた。指定要望書は,1953年 には化粧 品,染 毛料,家 庭用石けん,歯 みが き, 電球,洋 酒, しょう油,医 薬品について,54年 にはキャラメル,牛 乳,乳 製品, 合造米につ いて,59年 にはフルファッション式婦人靴下について,そ れぞれ提 出された。 実際の指定は,1953年 か ら59年にかけて行 われたに過 ぎず, しか も9商 品に とどめ られた。すなわち,53年 に化粧 品,染 毛料,歯 みが き,家 庭用石けんが, 54年に雑酒,キ ャラメル,医 薬品が,55年 に写真機が,59年 に既製エ リ付 ワイ シャツが,指 定 された。 なお,歯 みが き,洋 酒,医 薬品に関 しては,指 定要望書では商品全般につい ての指定が要望 されていたが,一 般消費者によ り日常的に使用 され るものであ るこ と, 自由な競争が行 われていることの要件に合致す るか否かが4真重に調査 された結果,要 望書に比 して狭 く指定 された。 指定 された後は,化 粧 品業界 を除いて,再 販契約 を実施す る業界は少なか っ 22)以 下の叙述 は,『独 占禁止政策二十年史』223-25頁(1968年)に 依拠 した。 また,公 正取 引委員会事務局 (編)『独 占禁止政策三十年 史』157頁 (1977年)参 照。
3 4 彦 根論叢 第 308号 た。 1953年か ら60・61年前後 までの時期 には,化 粧 品につ いて再販 契約 を実施 す る事 業 者が23∼24社あったほか は,指 定 商 品につ いて契約 を実施 す る事業者 は,各 商 品につ いて 1∼ 3社 が存在 す るに過 ぎなか った。契約 の実施 が進展 し
なかったのは,次 の理由による。①流通経路が複雑であり,契 約を実施しても
有名無実化するおそれがあった。②再販契約に関する理解が不足しており,販
売政策についての検討も十分ではなかった。
この事 実 に照 らせ ば,「実 際 に も,改 正法施行 か ら昭和30年代 前半 にかけては 現在 よ りも多 くの商 品が再販指定 されていた」 との 「中間報告」 の叙述 は,次 の ように評価す ることがで きる。すなわち,文 字面 をみ る限 り問題はないよう に思われ るが,再 販指定の実際,再 販契約の実施の状況 まで も視野に入れ ると, 再販制度の実際が含意す る多 くのことを無視 している。その限 りで,短 絡的 と いえる。 (C)指 定再販制度 と著作物再販制度の均衡 「 中間報告」は,「多数の指定 再販商品が存在す ることを前提 として再販制度 を考 えていたため,こ れ との均 衡上,既 に定価販売の慣行が成立 していた書籍等について再販行為 を許容す る こ とは,政 策的に も問題が少 ない と考 えられた」 旨叙述す る。 この点,横 田正俊公取委員長は,立 法過程 において,次 のような答弁 をして いた。「本の定価 とい うものについて,… ……一種の出版社の希望的な価格であ ると見 まして,こ れはあえて独禁法違反 として議論 してお らぬのであ ります。 しか し,こ の点はやは り法律上 そ うい う問題は独禁法上あえて間 う必要はない のであるとい うことをはっきり出す とい う趣 旨で,… ……いわば比較的軽い意 味で適用除外規定 を入れた次第でございます。」 そこで,著 作物再販の許容が,政 策的に も問題が少 ない と考 えられたのは事 実 といえる。 しか し,「多数の指定再販商品が存在す ることを前提 として」,再 23)長 谷川 。前掲 (注14)174-76頁,伊 従寛 『主要 国の再販制度 とその規制』39192頁 (1974 年)を も参照。 24)引 用 は,矢 部丈太郎ほか (監修)『流通問題 と独 占禁止法 (1996年版〕』119頁 (1996年) に よる。著作物再販制度の見直 しの評価 (その 2) 販制度が考 え られていたか は疑 間であ る。 この点 は,す でに検証 した。 その限 りで,「 中間報告」 の理解 には問題 が あ る。 IV 著 作物再販制度 の位 置付 けの変化 1.「 中間報 告 」 の理解 「中間報告」は,次 の ように叙述す る (20)ウ )。 「昭和30年代後半 に入 って消費者物価 の上昇が顕著 にな り始め るとともに, 再 販制 度 は物価 政 策 的 に厳 しい批判 に さ らされ るよ うにな って きた。 この ため, 昭和 40年代 に入 る と,物 価政策面か らも再販制度 の問題 ″くとその弊 害 の排 除が 指摘 され るな ど,再 販制 度 に関す る運用 の強化 が主張 され るよ うになった。 こ れ と同時 に,競 争政策 の面か らは,昭 和40年頃か ら, メー カーが小 売店 の安 売 りを排除 しようとして再販行為 を行 い,こ れが独 占禁止法違反事件 として しば しば取 り上げ られ るようになるとともに,指 定再販商品の見直 しが行 われ,昭 和41,46,49年 の 3回 にわたって指走 品 目の取消 しが実施 された。 こうした状 況の中で,昭 和50年 7月 10日の最高裁判所の判決 (和光堂佛 による審決取消請 求事件)に おいて,再 販行為 は独 占禁止法に原則 として違反す る行為 であ り, これ を許容す る再販制度は,競 争政策 とは別の経済政策上の観点に立つ もので あることが明示 された。その後,「流通 ・取引慣行 に関す る独 占禁止法上の指針」 (平成 3年 7月 ・公正取引委員会公表)に おいて も,再 販行為が原則違法であ るこ とが明確化 されている。 以上 の経緯 か ら,現 在 では,単 に小 売業者 に最低利潤 を保証 す る との理 由だ け で再販行為 を政策 的 に許容 す るこ とは,困 難 に なってい る。再販指定商 品に つ いて も,〔 中略〕既 にすべ ての指定 の取消 しを図 るこ とが 閣議 にお いて決定 さ 2 5 ) れている。 したが って,昭 和28年当時のように広 く再販行為 を許容す ることを前提 とし た状況の下 と,現 在の ように再販行為が原則違法 とされ,ほ かに許容 され るも のがほ とん どない状況の下 とでは,著 作物に係 る再販制度の位置付け も当然に 25)1997年 1月 ,指 定はすべ て取 り消 された (施行 は同年 4月 )。
36 彦 根論叢 第 308号 異 な っ て くる こ と とな る。」 2.「 中 間 報 告 」 の理 解 の批 判 的検 討 「中間報告」の理解に関 しては, と りわけ次のことが問題になる。①再販行 為が原則違法であることが明確化 した時期 はいつか。②1953年当時 と現在 とで は,著 作物再販制度の位置付けは当然に異なるといえるか。 (1)再 販行為 の原則違法性が明確化 した時期 「 中間報告」の理解は,二 重に問題 である。①1953年当時におけ る公取委の認識の無視。②1964年以降の 再販事件の位置づ けのあいまいさ。① についてはすでに検討 を加 えたので,こ こでは,② についてのみ検討す る。 「中間報告」の叙述か らは,最 高裁判決 (第一次育児用粉 ミルク 〔和光堂〕 事件,昭 和50。7・10,民 集29巻 6号 888頁)が 下 された1975年に至 って,再 販 行為が原則違法 であることが明確化 したような印象 を与える。 これが 「中間報 告」の意図す るところであれば,大 いに問題がある。意図す るところではない として も,当 該の印象 を生む原因は,「中間報告」の叙述の仕方にある。 「中間報告」の叙述の力″点は,1975年 に至 って再販行為の原則違反が最高裁 判決において明示 されたことを強調す ることに置かれている。それは,1953年 当時におけ る公取委の認識 を無視す ることに動機付け られた もの と推察 される が,1964年 以降の再販事件の位置付け をあいまいに した。 再販行為 は,1964年 か ら独禁法違反事件 として しば しば取 り上げ られ,排 除 措置が命 じられ るようになった。当該の最高裁判決は,そ の一連の流れの最終 到達点に過 ぎない。再販行為 は,明 らかに,1964年 の時点で も (1953年の時点 か ら一貫 して),原 則違法 であった。 像)著 作物再販制度の位置付けの変化の当然性 「 中間報告」は,1953年 当時 と現在 とでは,著 作物再販制度の位置付けは当然に異なる旨叙述す る。そ の論拠は,次 の ところに求め られ る。①1953年当時は,広 く再販行為 を許容す るこ とが前提 とされていた。②現在は,再 販行為が原則違法 とされ,ほ かに許 26)利 部1行二 ・糸 田省吾 「再販維持契約 の法律上の諸問題(1)」公正取引205号14,14頁 (1967 年)参 照。
著作物再販制度の見直しの評価 (その2) 37 容 され る もの はほ とん どない。 しか し,1953年 当時,広 く再販行為 を許容 す るこ とが前提 とされていた との 認識 には問題 が あ る。 また,再 販行為 が原則違法 とされてい るのは現在 におい て だけ ではない。 1953年当時か ら現在 まで一貫 して,原 貝J違法 とされてい る。 これ らにつ いては,す でに検 証 した。 それゆ え,著 作物再販制度 の位 置付 けが 1953年当時 と現在 とでは当然 に異 な る との 「中間報告」 の理解 には,首 肯す る こ とが で きない。 よ り問題 なのは,「中間報告」が著作物再販制度 と指定再販制度 を同一 レベル で論 じようとしていることである。 この論が成 り立つためには,次 のことが前 提 となる。すなわち,1953年 当時において も,著 作物再販制度には,指 定再販 制度 の趣 旨 とは異なる固有の趣 旨が乏 しか った とい うこ とである。しか し,「中 間報告」はその前提 を十分 に論証 し得 ていない。 この点について も,す でに検 証 した。 27)こ の点は,す でに伊従 ・前掲 (注7)が 指摘するところである (77頁)。